またまた自衛隊の不祥事の表面化である。9月9日に海上自衛隊の第一術科学校(広島県江田島)の特別警備隊養成課程で1対15の徒手格闘が行われ、25歳の三等海曹が後頭部の強打により意識不明となり、同月25日に死亡したという。
「教官2人の立ち会いのもとで、午後4時ごろから防具とグローブを着けて他の隊員15人を相手に1人につき50秒ずつ、パンチやけりで格闘」(朝日新聞2008/10/14 10:13)、「レスリングマットを隊員らが囲み、男性が倒れ込むと、引き起こして続けた」(読売新聞2008/10/14 13:40)というから尋常ではない。どうみてもこれは「集団リンチ」である。すでに一部で指摘されているように相撲部屋の「かわいがり」と大差ない。「教官2人の立ち会いのもとで」というのは重要で、辞めようとする「脱落者」に対する組織的な制裁とみて間違いないだろう。 海自の特別警備隊は1999年の「不審船」事件を契機に創設された対テロ戦のための特殊部隊で、隊員は海自全部隊から公募して選抜される。発足当初よりイギリスやアメリカの特殊部隊の指導を受け、白兵戦を想定した実戦訓練を重ねており、自衛隊の中でも最も過酷な部隊の1つである。死亡した三曹は特警隊入りを目指して養成課程に入ったものの、おそらく厳しい訓練に半年ももたず、途中で辞めることを決意したのだろう。 「今年7月にも、特別警備隊の養成課程をやめる直前だった隊員が16人と徒手格闘訓練をし、歯が折れるなどのけがをしたという」(朝日、同前)から、中途脱落者に対する制裁が常態化していることが窺える。中途で辞める者はいわば「ケジメ」として他の隊員からの制裁を受けるのが、この課程の暗黙の「掟」となっているのだろう。これはもはや「ヤクザ」の論理である。ちなみに7月の事件では16対1、9月の事件では15対1、いずれも養成課程の全隊員(同課程の募集は年1回だというから中途補充はないと思われる)が参加しており、死亡した隊員も7月の事件の時は「加害者」だったと推定できる。 以前、当ブログで自衛隊員の自殺増加の件に言及した時、自衛隊が従来の「専守防衛」の組織から、日米一体化の下での海外派兵を前提とする「外征」型の軍隊に変貌しつつあることが、隊員の心身の疲弊に影響していると指摘したが、今回は対テロ特殊部隊という最精鋭の部隊のための育成機関で起きた事件であり、「テロとの戦い」のための過酷な訓練が自衛隊員の人間性を奪っている象徴的事例とさえ言えるだろう。実戦を前提とした軍隊は普通の人間をも殺人マシーンに変えてしまう。躊躇なく人間を殺せるような訓練を受けている以上、集団リンチにも疑問を持たなくなってしまう。そんな殺伐とした環境にいれば誰もが「逸脱」行動を起こしうる。 今回の問題について、自衛隊の人権問題を追っているジャーナリスト三宅勝久氏が次のように指摘している。 隊員はモノ以下の自衛隊 海自集団暴行事件に思う - 『自衛隊員が死んでいく』暫定ブログ http://blogs.yahoo.co.jp/jieijieitaitai/17787192.html 「眼窩底骨折、鼓膜裂傷、顔面裂傷・・・暴行で懲戒処分を受けた自衛隊員は、昨年1年間で80人を超える。その処分はせいぜい停職一ヶ月どまり。数日から戒告というものも多くある。特に階級が上のものが下級の隊員に対してふるった暴力は「指導」の一環だとして、軽くなる傾向がある」 自衛隊員の「逸脱」は単に組織内だけの問題ではなく、市民社会にも影響しているにもかかわらず、十分な処分が行われていないのである。この種の問題はたいてい表に出るのは氷山の一角だから、実際は全く処分されず闇に消えた事件も多数あるだろう。浜田靖一防衛大臣は「(今回の訓練は)特殊、特別なのかという気がしないでもない」(共同通信2008/10/14 10:37)などと呑気な発言をし、海自もいまだ「事故」として処理しようとしているが、そこには日米安保体制強化に伴う組織的疲弊の現実や自衛隊員の人権擁護に対する危機感はなく、ましてや自衛隊員の暴力が市民生活の脅威になっているという意識など微塵もない。 この問題をうやむやにしてはならない。自衛隊の暴力体質を白日の下に暴き、人権状況を徹底的に改善する必要がある。インド洋で「米国の、米国(の油)による、米国のための洋上給油」(水島朝穂氏)などしている場合ではない。 【関連記事】 自衛隊、こわれてる? 【関連リンク】 YouTube - 海自の特別警備隊 訓練初公開 http://jp.youtube.com/watch?v=fM3s4tRBqLc *昨年行われた特別警備隊の公開訓練の様子を伝えるテレビニュース。隊員の育成には相当過酷な訓練を要するのが読み取れる。 防衛省・自衛隊:平成18年度における懲戒処分の状況について http://www.mod.go.jp/j/news/2007/09/14e.html #
by mahounofuefuki
| 2008-10-14 18:15
アメリカ発の金融危機はもはや底が見えないほどに拡大し、単なる不況というより「世界恐慌」であるという見方さえ出ている。新自由主義がこれで終焉するという期待は別として、現実問題として恐慌となれば、またしても貧しいもの、弱いものほどダメージを受けるのは歴史が示す通りで、これまでただでさえ痛めつけられてきたのに、ますます生存権を脅かされると思うと、本当に憂鬱である。
今からあらかじめ指摘しておくと、今後「世界同時不況だから」とか「世界恐慌だから」という口実で、庶民の負担増や景気対策に名を借りた金持ち優遇策が顕在化するだろうし、労働条件の引き下げや労働者の首切りもどんどん正当化される恐れがある。「世界恐慌でみんなが苦しいのだから君も我慢しろ」という論法である。「経済危機なので挙国一致内閣に」なんてことも浮上するかもしれない(1930年代の欧州諸国や日本のように)。 「世界恐慌だから我慢しろ」論法に注意すべし。あくまでも国家には「生きさせろ」と生存権の保障を要求し、巨大企業には資本家こそ血を流せと反撃することが肝要である。 #
by mahounofuefuki
| 2008-10-11 20:20
今月5日に東京・新宿の明治公園で行われた「全国青年大集会2008」(全労連主催)については、すでに「大脇道場」さんや「村野瀬玲奈の秘書課広報室」さんらが秀逸なエントリを上げておられるので遅きに失した感はあるが、同集会では雇用待遇差別問題を考える上で重要な発言がいくつも為されているので、弊ブログでも報道と記録に関するリンクを整理する。
《報道と写真・動画》 全国青年大集会 不安定雇用の現状を若者がアピール – JanJanニュース http://www.news.janjan.jp/living/0810/0810068839/1.php 希望集め 青年4600人/人間らしい労働ルール 団結の力で/東京・明治公園 – しんぶん赤旗 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-10-06/2008100601_01_0.html 写真速報:全国青年大集会に4600人~「反貧困労働運動」にはずみ - レイバーネット http://www.labornetjp.org/news/2008/1005shasin/ YouTube – 10/5 10・5全国青年大集会2008 http://jp.youtube.com/watch?v=00yiezXbbAE YouTube – 10/5 10・5青年大集会 志位委員長があいさつ http://jp.youtube.com/watch?v=n5GW_aat8uk&feature=user 松下プラズマ偽装請負訴訟の報告中の「労働者派遣は人身売買と同等とみなされ、禁止されている労働者供給事業の例外としてのみ認められている雇用形態」という指摘、現役の日雇派遣労働者の「私達はモノではない。不当な扱いを望んでいない。まだ、大丈夫という言葉は、自分をがんばらせるために言っている。今のままでは希望がもてないという悩みは、正規、非正規、学生でも同じ」という切実な訴えなどは非常に重い。 「貧困は自己責任ではない」が、憲法や労働基準法や生活保護法を守らせる責任、社会保障を充実させ、労働の崩壊に歯止めをかける責任を我々は負っているという、自立生活サポートセンター事務局長の湯浅誠氏の発言も深く考えさせられた。共産党委員長の志位和夫氏の「どんな形であれ、『首切り自由の使い捨て労働』はなくせ。正社員にしろ」という言葉には、正社員の労働条件引き下げによる偽りの雇用待遇差別是正論が幅を利かすなかで、非常に勇気づけられた。 《集会のアピールと決議》 青年大集会アピール – まともに生活できる仕事を!人間らしく働きたい! http://blogs.yahoo.co.jp/seinen_koyou_syukai/25949409.html ◆政府と大企業は、派遣、請負など不安定な雇用を増やし続けることをやめ、安定した雇用を抜本的に増やしてください。 「全国青年大集会2008」 特別決議 – まともに生活できる仕事を!人間らしく働きたい! http://blogs.yahoo.co.jp/seinen_koyou_syukai/25949431.html ① 労働者派遣は、臨時的・一時的業務に限定するとともに、派遣元に常時雇用される常用型を基本とし、登録型は例外として厳しく制限すること。 《集会で報告された「日雇派遣」実態調査》 全国青年大集会実行委員会「日雇い派遣調査の特徴とまとめ」*PDF http://www.seinen-u.org/081003%20hiyatoi-matome%201.pdf 同前「『日雇い派遣』実態調査の集計結果」*PDF http://www.seinen-u.org/081003%20hiyatoi-matome%202.pdf 日雇労働者のナマの声。人間扱いされていない実態と、一方で諦念と自己責任の内面化が深刻であることが読み取れる。 集会自体は共産党-全労連-民青というラインの恒例の行事なので、党派性がどうのとか、「連帯の可能性」を過大評価しているといった批判もありうるだろう。ただどのような立場にあるにせよ、「人間らしい働き方」の確立を目指す上で、今回の集会はいろいろ示唆するものがあると思う。 【関連リンク】 全国青年大集会に行ってきました|労働組合ってなにするところ? http://ameblo.jp/sai-mido/entry-10147804054.html *動画では窺い知ることのできない分野別交流会のお話は貴重。 大脇道場NO.630 「たたかう、かっこいい人」希望と連帯・・・全国青年集会に4600人。 http://toyugenki2.blog107.fc2.com/blog-entry-699.html 大脇道場NO.631 「朝日」が青年大集会をスルーした訳がわかった。 http://toyugenki2.blog107.fc2.com/blog-entry-700.html 大脇道場NO.632 現代「女工哀史」・・・日雇い派遣前田さんの訴え。 http://toyugenki2.blog107.fc2.com/blog-entry-701.html 大脇道場NO.634 「貧困は自己責任ではない。では私たちに責任はないのか?」 http://toyugenki2.blog107.fc2.com/blog-entry-702.html 村野瀬玲奈の秘書課広報室|4600人が集まった全国青年大集会の重要さ http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-915.html #
by mahounofuefuki
| 2008-10-10 23:26
昨年の今頃、国会における政局の焦点は、インド洋での海上自衛隊の給油支援活動を継続するためのテロ特措法の帰趨であった。結果は、野党が多数を占める参議院が否決したため、政府・与党は衆議院で3分の2の多数による再可決を強行し、給油活動は1年延長された。その現行法は1年時限なので、活動を継続するには再び国会で法改正しなければならない。今年もまたテロ特措法改正案を巡る攻防が臨時国会で繰り広げられるはずだった。
ところがである。昨日の新聞各紙は、民主党が同法案の審議の短縮と早期の採決を容認し、会期内での衆院再可決が可能となったため、今国会での成立が確実になったと報じた。「民主党側は8日、改正案の委員会審議に10日に入り、同日中の採決にも応じる考えを自民党側に伝えた」(朝日新聞2008/10/08 15:08)、「民主党としては、麻生首相が成立への意欲を示す同改正案を早々と成立させることで衆院解散を促し、次期衆院選での争点となることを回避する狙いがある」(読売新聞2008/10/08 14:35)。 要するに民主党は早く解散して欲しいので、テロ特措法改正案には形だけの反対しか行わず、早期の成立を黙認するということである。昨年は一応抵抗の姿勢を示し、対案すら提出している問題なのに(その対案には問題があるが)、今回は政局を優先して抵抗を事実上放棄するというのは公党としてどうなのか。補正予算も大した審議もせずにあっさりと賛成したが、これでは「解散してほしくば、政府・与党案に協力しろ」と迫られ、次々と妥協を繰り返しているようである。 しかも早期解散を求める一方で「次期衆院選での争点となることを回避する狙い」とは片腹痛い。麻生政権がテロ特措法を総選挙で争点化するのならば、堂々と受けて立てばよい。アメリカ発の金融危機で対米一辺倒の外交路線の見直しが現実的課題となり、外国軍への「無料ガソリンスタンド」など行う経済的余裕が消えているという現況にあって、この問題の争点化が特段与党に有利に働くわけでもない。選挙戦略としても理解不能である。 今回の民主党の姿勢は、結局のところインド洋給油問題を軽視し、本気で抵抗する気が最初からなく、せいぜい政局の道具として反対しているにすぎないことを実証したと言えよう。麻生首相が就任直後、真っ先に給油継続を国際公約するほど、政府・自民党はアメリカへの「忠誠」の証を示すことに躍起となっているが、民主党も政権獲得が現実味を帯びてくるにつれて、自民・公明両党と同様、ますます日米安保体制の強化という支配層主流の既定路線を邁進している。「政権交代」で自民党政治が終わると信じている人々の思いとは裏腹に、民主党の顔はすでに財界とアメリカに向いているのだ。 ある意味今国会は、これまでも(たとえば労働契約法や宇宙基本法で)顕在化していた自公民談合・協力体制が完成しつつあると言える。どうせ解散になるから、と楽観している間に、次々と悪法の「駆け込み可決」が行われることが心配だ。すでに福田前首相が退陣表明した直後、大勢が新内閣発足直後の解散を予想する中で、弊ブログでは即時解散が望ましいが、実際には自公政権は「衆院3分の2」を簡単には手放さない、解散は先送りされると指摘したが、当時の私の予測が現実になっている。いかに野党が与党に「塩」を送ったところで、解散は首相の胸先三寸次第であり、民主党の行いは「エサ」に釣られた単なる一方的屈伏でしかない。 こうも躊躇なく自公政権と協調できるのは、改めて総選挙後の民主党の動向に疑念を生むことにもなろう。選挙結果がどうなろうとも、参院の現況や経済情勢も考慮すると、表向きは激しい対立を装いつつ、要所では助け合う自民・公明と民主の「あ・うん」の呼吸は長らく続きそうである。 【関連リンク】 テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法 - 法令データ提供システム http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO001.html テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法の一部を改正する法律案 - 衆議院 http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17005004.htm #
by mahounofuefuki
| 2008-10-09 21:10
サイドバーにリンクしているのにしばらく放置したままだった、消費税増税問題リンク集と労働者派遣法改正問題リンク集を更新した。一部不要になったリンクを削除し、新たにいくつか追加した。
消費税問題では、最近公表された経済産業省の研究会の中間報告と日本経団連の意見書が、いずれも法人税の引き下げと消費税の引き上げを要求していることが注目される。ここまで堂々と大企業のエゴを丸出しにされると潔ささえ感じてしまう。 経済社会の持続的発展のための企業税制改革に関する研究会「中間論点整理」の公表について - 経済産業省 http://www.meti.go.jp/press/20080916010/20080916010.html 日本経団連:税・財政社会保障制度の一体改革に関する提言~安心で活力ある経済社会の実現に向けて~ http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/068/honbun.html 労働者派遣法問題では、労働政策審議会に提出した「格差是正と派遣法改正を実現する連絡会」の意見書が重要である。 厚労省労政審に対する意見書 ガテン系連帯☆ブログ http://gatenkei2006.blog81.fc2.com/blog-entry-193.html 結局、労政審ではこの意見は受け入れられず、「日雇派遣」の表面的禁止の陰で規制緩和を盛り込んだ建議が出された。 厚生労働省:労働政策審議会建議―労働者派遣制度の改正について http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0924-3.html 衆院解散先送りが濃厚になり、さらに民主党が早期解散を優先するために与党への妥協を重ねている中で、この建議を元にした労働者派遣法改正案が今国会で成立する危険性が強まっていることに注意するべきである。 #
by mahounofuefuki
| 2008-10-09 00:04
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