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「教育委員会=関東軍」という「釣り」

 弊ブログでは大阪府知事選以降、あまり橋下徹に言及していないが、それはいくら批判しようと、批判自体が橋下のある種の「釣り」に乗せられた形になってしまい、実際「反橋下」の抵抗が強ければ強いほど橋下信者を結束させ、「敵」と闘う橋下のカリスマ性が強化されるという悪循環にはまってしまうからである。

 橋下のやり口は力量のない芸人みたいなもので、瞬発芸のようなエキセントリックな言動で衆目を集めては、大衆に潜在する「良識」や「弱さ」や「優しさ」に対するアンチ思考(過酷な環境にいる人ほど、そうした環境を変えようとする勇気のない臆病をごまかすために、「過酷でない」ものを攻撃する)を引き出し、そのエネルギーを政治力の源泉にしている。
 この方法は伊丹空港問題のように、大衆のアンチパワーが低いと失敗するが(「アンチ伊丹空港」なんて人はそんなにいない)、彼が常軌を逸するほど熱中する学校教育問題では、最近大分県の教員採用汚職がクローズアップされただけに、橋下が自らへの支持の調達に成功する危険性が高い。正直なところ、私にはこれを防ぐ手立ては思いつかない。

 橋下がテレビ番組で、全国学力調査の結果公表に反対する市町村教育委員会を「関東軍みたいになっている」と罵倒したというが(朝日新聞2008/09/15 01:53)、これとて都道府県教育委員会は市町村(教委ではない)に「指導」「助言」「援助」はできるが、市町村教委に「命令」はできない以上、天皇が司令官を任免し命令権限をもった関東軍とは全く次元が異なり、教委の独立性と関東軍の逸脱を同一視するのは法的におかしい、というツッコミは入れられる。

 しかし、橋下とて弁護士である以上、そんなことは百も承知の上で、「教委=関東軍」というレッテルを張って「釣り」行為をしているのである。これを右傾大衆が面白がって教委を「関東軍」と貶める「空気」が醸成されれば(毎日新聞を「侮日新聞」と貶めたように)、橋下の狙い通りである。「面白さ」の前には、冷静なツッコミは水を差す行為となる。

 橋下は少年期のトラウマから、とにかく学校を成績階級で分断することに執念を燃やしているだけなのだが、それにどれほどの人が気づいているか。先の知事選で、良識のある人々の声を聞かず橋下に投票した人々や選挙で投票権を行使しなかった人々が、暴君の暴政に傷めつけられるのは仕方のないことが(そんな目に遭ってもマジョリティがマゾヒストのごとく支持するのは石原慎太郎で実証ずみ)、そのとばっちりで正しい人々までも犠牲にさらされるのが忍びない。橋下当選は確かに「大阪滅亡のお知らせ」だった。

【関連リンク】
地方教育行政の組織及び運営に関する法律 - 法令データ提供システム
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S31/S31HO162.html
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by mahounofuefuki | 2008-09-15 12:07

「天下り」元副知事の正論と「天上がり」をめぐる問題

 公務員、特に要職に就いていた官僚が出身官庁と関係が深い企業や公営の法人などに再就職する「天下り」に対しては、風当たりがますます強くなっているが、そんな中で北海道の公営企業の役員に「天下り」した元北海道副知事が、民間出身の役員に比べて報酬額が低く制限されているのは不公平だとして、報酬引き上げを要求しているという。

 北海道新聞(2008/09/13 14:03)より(引用にあたり漢数字をアラビア数字に変換した)。
 道の関与団体「北海道農業開発公社」の理事長に天下りした近藤光雄元副知事(61)が、自らの年間報酬を道の再就職要綱が定める上限額の倍以上の千四百四十万円に引き上げるよう、同公社の理事会に提案していたことが13日までに分かった。関係者からは「要綱の形骸(けいがい)化を図る行為で、とても理解は得られない」との批判が出ている。
 道職員の再就職に関するルールを定めた要綱では、退職時の役職に応じて上限額を設定。副知事の場合は上限660万円となっている。ただ、上限額については「特別の事情があるときは道と協議しなければならない」との例外規定も設けている。
 関係者によると、3月末に道を退職し、7月1日付で同公社の理事長に就任した近藤氏は、同日の理事会で、他の民間団体出身の役員の報酬が1300万円を超えることから、報酬の引き上げを道と協議することを議案として提案。自らが例外規定の「特別の事情」にあたると説明したが、複数の理事から反対意見が出たため、了承されなかったという。 (後略)

 とにかく「官」を敵視し、民営化・市場化さえすれば全てうまくいくと思っている人々が読んだら、湯気が出るほど怒り心頭になるだろう。「天下り」を憎む「世間」の「空気」を読めない行為であるのは確かである。

 とは言え、冷静に考えれば「同じ仕事をしているのに、前職の違いで給与に著しい差別があるのはおかしい」という近藤氏の主張そのものは、「天下り」の是非と切り離せば「正論」である。北海道新聞(2008/09/14 06:56)によれば、近藤氏は「民間出身者と倍の報酬格差があるのはおかしい」とインタビューに答えている。官僚の「天下り」は袋たたきに遭うのに、民間からの「天上がり」は完全スルーされる世情への不満もあるだろう。

 「天下り」そのものに問題があるのは言うまでもない。「天下り」前の出身官庁と「天下り」先の法人・企業との癒着、「天下り」先の生え抜き職員・社員を差し置いて役員の席を占める不公正、複数の「天下り」先を渡り歩くことによる報酬の多重受領など、さまざまな課題を抱えていることは否定しない。

 しかし、不可解なのは「官」からの「天下り」は徹底的に攻撃されるのに、「民」から政府機関や公営の法人等に役員として入る「天上がり」はさっぱり見過ごされていることである。前述した「天下り」が抱える課題は「天上がり」にも共通するにもかかわらず、むしろ「官」=悪、「民」=善という固定観念から「民間」出身者(それもたいてい大企業経営者)が起用されるのは歓迎される。「民間出身の役員の報酬が高すぎる」といった批判はいまだかつて聞いたことがない。近藤氏の問いからは、現代日本社会における「民尊官卑」の歪みが見え隠れする。

 昨今の「天下り」をめぐる議論はますますおかしなことになっている。「天下り」が問題なら「天下り」を禁止すれば済む話である。ところが、なぜか「天下り法人」を廃止しろという論点のすり替えが行われている。これは情報操作である。問題は「天下り」であって法人ではない。これら法人は確かに「官」の既得権益ではあるが、一方で「民衆の既得権益」でもある。郵政民営化と全く同じ構図なのに、郵政民営化に抵抗した人ですら、独立行政法人や公益法人(未だに「特殊法人」がどうのとほざいている人もいるが、特殊法人は小泉政権でほとんど衣替えされた)となると、新自由主義者と一緒になって統廃合や民営化を主張する。私には全く理解できない。

 あえて極言すれば「天下り」以上に「天上がり」の方が問題である。「民間人」と言いながら企業経営者と御用学者ばかりなのが実情である。特に政府の審議会や有識者会議などに「民間議員」とか「民間委員」と称して入っている財界人は、専ら自己の企業経営に有利な政策を国に押し付ける役割を果たしている(その最右翼が経済財政諮問会議の民間議員)。現在の権力構造は政財官が相互に牽制しつつ依存しあっている状態だが、ここで官だけを弱めてもパワーバランスが崩れて与党と財界の力が強くなるだけである。社会保障の弱体化がまさにこの力学の変化によって行われたことを決して忘れてはならない。

 「天下り」を問題とする場合、退職金がどうのこうのといった嫉みに囚われて、結局は「官」の利権を我が物にしたいだけの財界に利用されるようなことは避けたいものである。

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by mahounofuefuki | 2008-09-14 17:47

知らないかもしれないので念のため。

 今日は9月11日である。世界貿易センタービルなどに対する同時多発テロからもう7年になる。あの日、私もテレビをリアルタイムで観ていたが、航空機がビルに衝突する様子はあまりにも現実ばなれしていて、いささか不謹慎ながら、安っぽい特撮映画を観ているような気分に襲われたほどだった。

 当時NHKのワシントン特派員だった手嶋龍一氏の過剰に危機感を煽るような話しぶりも忘れ難い。録画していたわけではないので確かめることはできないが、相当「勇み足」があったような記憶がある。これが「戦時」の報道なのかと私は変に納得していたくらいだ。

 ところで、弊ブログのリンク状況を調べると、なぜか「9・11陰謀論」を強く主張するブログ類にリンクされていることがままある。なかには「9・11」だけでなく、「フリーメーソン陰謀論」とか「イルミナーティ陰謀論」の場合もある。それもなぜか好意的な形でリンクされたり、引用されていることが少なくない。弊ブログはリンクフリーなので、別に陰謀論者だろうと何だろうと別に構わないのだが、私がそういった類の陰謀論を全く支持していないことを知った上でリンクしているのか、いささか心許ない。

 「9・11陰謀論」に関するエントリは1度しか上げていないし、取り立てて深く言及してはいないが、ブログでは歴史認識や「江原啓之」の件などで、私が「陰謀論」的思考を唾棄していることは容易に読み取れるはずである。私にとって「9・11陰謀論」や「フリーメーソン陰謀論」は、「南京大虐殺まぼろし説」や「真珠湾攻撃謀略説」や「ゲーム脳」と同じで、科学的・学問的な実証に耐えられない「トンデモ」の範疇に含まれる代物でしかない。弊ブログのエントリを一部しか読んでいない場合、誤解している人がいるかもしれないので、そこははっきりさせておきたい。

 「事実」が「解釈」を制約しても、「解釈」が「事実」を歪めるようなことはあってはならない、というのが持論である。もちろん口で言うほど容易いことではなく、そういう私も出来ているとは言い難いが、少なくとも「9・11は自作自演だ」と言わなければ「テロとの戦い」の不当性を主張できないような知的劣化は反面教師にしたい。
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by mahounofuefuki | 2008-09-11 18:17

「名ばかり管理職」に関する厚労省の通達は無意味

 厚生労働省が小売業や飲食業などのチェーン店における「管理監督者」の基準を各地の労働局に通達した。いわゆる「名ばかり管理職」問題への対応だという。以下、東京新聞(2008/09/09夕刊)より。
(前略) 厚労省によると、「職務内容、責任と権限」「勤務態様」「賃金等の待遇」の三点について、管理監督者であることを否定する重要な基準と補強的な基準を整理した。
 重要基準として(1)アルバイトなどの採用に責任と権限がない(2)部下の人事考課に実質的に関与しない(3)遅刻、早退を理由に減給されるなど不利益な扱いを受ける(4)時給換算でバイトなどの賃金に満たない-などを列挙。
 補強的基準として(1)労働時間の裁量がほとんどない(2)役職手当などの優遇措置が不十分-などを挙げた。該当すると「名ばかり管理職」と判断される可能性が高まる。(後略)

 管理職の実態がないにもかかわらず労基法上の「管理監督者」として扱われ、残業代が支払われない「名ばかり管理職」問題は、マクドナルドの店長が会社に残業代の支払いを求めた訴訟を機に大きな社会問題として注目されるようになったが、ようやく厚労省がこの問題に重い腰を上げたと言えよう。

 しかし、他の労働問題でもそうだが、こんな一片の通達で問題が是正されるはずもなく、特に今回の通達内容はあまりにも実情とかけ離れている。法的に焦点となっているのは、「管理職とは言えないのに残業代が支払われていない」という問題だが、実際の問題の核心は「身も心もボロボロになるほどの過労をせざるをえない状況に追い込まれている」ことであり、さらに「業績を上げるためには表向きの労働時間を改竄して隠れてでも残業しなければならない」ことにある。この通達ではそうした実態を考慮しているとは言い難い。

 「身も心もボロボロになるほどの過労をせざるをえない状況に追い込まれている」のは、極端な人件費削減の結果、少数の正社員に責任と負担が集中するようになっているからである。「業績を上げるためには表向きの労働時間を改竄して隠れてでも残業しなければならない」のは、賃金決定方式が成果主義になったからである。今回の通達では、こうした構造的問題には手をつけず、単に法律上の管理職から外れるというだけで、すでにマクドナルドがやったように、残業代を支払う代わりに本来の給与を削るような「抜け道」を予防することはできない。

 ちなみに、そもそも企業が「名ばかり管理職」というものを考えだしたのは、労働基準法が労働時間や休日などの規定を「管理監督者」には免除しているからだが、以前から疑問なのは、この問題への対応として「管理監督者」にも労基法の規定を適用するという発想はなぜ出てこないのだろうか。法思想的には使用者と労働者では全く立場が異なる以上、使用者に労基法を適用するのはおかしな話なのだろうが、経営者だろうと管理職だろうと、ある意味「労働」をしている以上、その労働時間を規制しても構わないのではないのか。労働法の素人の浅墓な発想なのかもしれないが、「名ばかり管理職」の予防策としては、ずっと効果的だと思うのだがどうだろう。

 いずれにせよ「名ばかり管理職」は、行政の通達ごときで是正できるような問題ではなく、法改正も必要であるということは強調しておきたい。

【関連記事】
マクドナルド残業代不払い訴訟で勝訴判決
マクドナルドの新報酬制度は手の込んだ賃下げ

【関連リンク】
厚生労働省:多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について―具体的な判断要素を整理した通達を発出―
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0909-2.html
労働基準法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S22/049.HTM#s4
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by mahounofuefuki | 2008-09-09 23:02

私の過去の選挙遍歴

 政界やマスメディアではすっかり早期の衆院解散の流れになっていて、実際には解散は先送りになるだろうとみている私の当ては今のところ分が悪いようである。もともと早く解散して欲しいと思っているので、私の予測など外れても一向に構わないのだが、解散権は首相にある以上、依然として一寸先は闇であり、臨時国会冒頭解散とか11月投開票とか自民党支持率急上昇といった報道を鵜呑みにするのも問題だろう。

 ところでこの機に、これまでの私の各種選挙における投票行動の遍歴を紹介したい。個人的な投票行動を他人に明かすなどもってのほかという批判もあるだろうが(その辺は匿名言論ということでご容赦を)、これまでの弊ブログの主張から読者は、私が全く戦略性も考えず、負け戦ばかり続けていると思われているかもしれないので、この際はっきりさせたいと思った次第である。選挙戦が本格化したらこういったことは書きにくくなるので、今のうちに書いておきたい。

 選挙権を得てからまだ10年ほどなので、それほど多くの選挙を経験しているわけではない。なお一応これまで国政・地方問わず全ての選挙で投票権を行使している。一度などは転居後すぐに国政選挙があって、旧住所の選挙区で投票しなければならなかったのだが、その時は新住所の選管まで出向いて、そこから旧住所の選管への郵送による不在者投票を行ったくらいである。とはいえ選挙に熱意があったわけではなく、1票でどうかなるとは今も全く思っていないし、そもそも議会制民主主義というシステムを信奉してもいないのだが、使える権利は行使しないともったいないという貧乏性が、毎回投票所まで足を運ばせる動因だったりする。

 衆院・参院の比例代表、参院選挙区、都道府県議会、市町村議会の選挙では、これまで全て日本共産党及びその公認・推薦候補に投票している。「やっぱり」という声が聞こえてきそうだが(笑)、この10年共産党との心理的距離は必ずしも一定だったわけではない。共産党支持なんて公言しようものなら進学や就職や人間関係で不利になるのは決まり切っており、完全に隠していた時期もある。実際、直接・間接ともに共産党そのものとは無関係であり、常に違和感を持ちながら支持していたのも事実である(だからいつも「期間限定」の支持と言っている)。なお勝率は市町村議会が全勝、後は五分五分というところ。

 問題は残りの衆院小選挙区、都道府県知事、市町村長であるが、これら「当選者1人」の選挙ではその時々の候補の組み合わせによって、臨機応変の行動をとってきた。誤解している人もいるかもしれないが、私はいつも共産党ばかりに投票していたわけではない。

 まず都道府県・市町村の首長選。自民・民主など各党「相乗り」対共産系の場合は問答無用で共産系候補に投票してきた。また「相乗り」対保守系無所属の場合も何度かあったが、「相乗り」が圧倒的に強くてどうにもならなかった時は、無効票を投じた。「相乗り」と保守系無所属が接戦だった時は、その保守系無所属候補の公約のある1点が高く評価できたので、あえて投票したことがある(そして当選しその公約は守られた)。自民・公明、民主・社民、共産の三つ巴の場合も何度か経験しているが、民主系が高級官僚出身で自民系候補とどっちもどっちだった時は、捨て票になるのがわかっていて共産系に投票した。民主系が個人的にも見知っていた護憲派弁護士だった時は、迷わず民主系に投票した(が敗れた)。

 そして当面の課題であろう衆院小選挙区。自民党のタカ派と民主党の旧社会党系と共産系の三つ巴だった時は、民主党による「落選戦略」(本当に当時地元の連合系労組がそう言っていた)に乗って、民主党候補に投票し、自民党のタカ派有力者を落選させるのに協力したことがある。ただし、同じ三つ巴で、それも民主党の候補は旧社会党系だったにもかかわらず、自民党候補が下馬評から弱く、しかもその民主党候補が特に支持できるような人でもなかった時は、共産系に捨て票を投じた。また、民主党の候補が「新しい歴史教科書をつくる会」と関係しているような輩だった選挙区に住んでいたこともあって、その時は無効票を投じている。ちなみに、これまで私が経験した衆院選すべてで、私の居住選挙区(複数)では民主党が全勝している(!)。

 このように、場合によっては民主党の候補に投票することもあったのである。一応は「戦略的」な選挙行動をとっているのである。その決め手はやはり候補間の「立ち位置」にある。次期総選挙で私が「民主党への政権交代」を期待せず、とりあえず共産党の議席を躍進させる必要があると唱えているのも、要はいかにして新自由主義路線を廃棄させ、貧困解消政策を引き出させるか、という問題意識から「戦略的」に導き出された結果である。今日も民主党の一部議員が国会議員削減を公約に入れるとかほざいていたみたいだが、そういう「小さな政府」路線を続ける限り、仮に民主党が政権を獲得しても「自民党より悪くなる可能性」は常在するだろう。保守政治に本当に対抗できる勢力を育成することが、主権者意識の高い有権者に求められている。
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by mahounofuefuki | 2008-09-08 23:13

「やりがい」さえあれば労働条件が劣悪でもよいのか?

 日本社会では戦後労働運動に相当な威力があり、企業経営にも余力があった時でも、労働三法が骨抜きにされ、欧米に比べて労働条件は悪かったのだが、そこへ市場原理を絶対的に信奉する新自由主義が流入したことで、ただでさえ劣悪な労働環境がますます悪化し、今や無法状態なのは周知の通りである。

 その決定的な要因は、労働者を人間ではなくモノとみなし、雇用が商取引化していることにあるが、こうした人間本来の生理に反するやり方に適応できない人々が、営利目的の企業を離れ、NPOに活路を見出す例も少なくない。新卒ルートからはじかれた「氷河期世代」が居場所を求めて働く場合もあろう。このNPOで働く人々、特に比較的若い世代の労働実態について、産経新聞の武部由香里記者が興味深い記事を書いている。

 NPO法人で働く若者 低賃金でも楽しい 給与、労働条件・・・厳しい側面も - MSN産経ニュース
 http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/080905/sty0809050742000-n1.htm
(前略) NPOで働く若者は、企業で正社員として就職している同世代よりも低収入だが、仕事内容への評価が高い-。こんな調査結果を、第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部副主任研究員の北村安樹子さんが公表した。調査は、NPOで働く20~39歳の男女313人と、企業で働く2128人に行った。
 結果は、NPO従事者の8割が活動を通じて収入を得ており、無給の人も含めた平均年収は約160万円年収300万円未満の人が3分の2以上を占めた。一方、仕事の評価は「内容がおもしろい」(91・7%)、「能力がいかせる」(86・8%)と多くの人が満足している。
 この結果は、企業で働く社員と比べ収入面では低いが、仕事に対する評価は高い。また、アルバイトなど非正規社員と比べると収入も仕事に対する評価も高い
 ただ、若者を有給で雇用できるNPOは事業規模が大きいところにほぼ限られている。北村さんは「企業ではNPOのように刺激的でおもしろい仕事にかかわれる機会が少ない。しかし、若者を雇用する力があるNPOは多くはなく、雇用しても高い給与は払えないのが現状だ」と指摘する。(後略) (注―太字強調は引用者による。)
 平均年収160万! しかも第一生命経済研HPの当該レポートを読むと、調査対象のNPOは「全国の平均的なNPOに比べて財政基盤が安定したところが多いという特性をもつことに留意する必要がある」と述べられていて、実際は下方修正する必要があることが示唆されている。一般に労働時間が企業労働者より短いこと、兼業者や無給のボランティアがいることなどを差し引いても、いくら何でも安すぎである。これは新たな「ワーキングプア」と言ってもさしつかえあるまい。

 それにもかかわらず仕事内容そのものの満足感は高い。レポートの当該部分によれば、「仕事の内容がおもしろい」「能力が生かせる」「信頼できる上司がいる」の3項目で8割以上の高率である。一方、「雇用が安定している」「福利厚生が充実している」「給料がよい」といった項目では企業の正規労働者を下回る。下回るといっても、企業労働者の満足度も決して高くはなく(「給料がよい」は3割強ほど)、かえって現在の企業の労働環境の悪さが露呈しているのだが、それでも経済的条件という点で、多くのNPOの労働者の立場が企業労働者に比べて不安定であることは確かだろう。

 「やりがい」「自己実現」「社会貢献」などと「安定収入」が両立しえないということを所与の絶対的条件とするならば、「やりがいがあれば低賃金でもいい」ということになるし、逆に「高い収入を得るには不条理な労働環境でも我慢する」ということになり、多くの人々がそう考えているのかもしれないが、果たしてそれでいいのか?という疑問が拭えない。「雇用の安定」や「福利厚生」という、本来は労働者にとって当然の条件を、「やりがい」やら「自己実現」なるもので相殺できるのか、という問題がここにはある。

 私などが不安を覚えるのは、1990年代、まさにその「やりがい」や「自己実現」という観念が、新卒→正規雇用というルート以外に自己に適した道があるのではないかという期待をもたせ、「自分探し」の流行と合わせて、結局は財界による正規雇用の非正規雇用への置き換えを促進する役割を果たしたことを想起させるからである。また「やりがい」さえあれば低賃金でも長時間労働でも、あるいは社会保障がなくても構わないという考え方が広がることも心配である。

 もう一点、NPOと言ってもピンからキリまであり、特に事実上行政の「下請け」となっていたり、非営利を称しながら実際は営利の企業と変わらない場合も少なくないことを指摘しなければならない。実際、本来は行政が直接行わなければならない業務を、財政難を理由に安く外部委託するのにNPOが利用される例が後を絶たない。たとえば私が行きつけの公立図書館は業務のほとんどをNPOに委託していて、図書館の司書の多くが自治体の直接雇用ではなく、年限契約の有期・間接雇用である。行政がNPOを使って公務員の事実上の非正規化を進め、不安定雇用の拡大に手を貸しているのである。「行政の無駄を減らせ」とか「公務員を減らせ」とか唱えている人々に是非とも知って欲しい事実である。

 また、最近「NPOワーカーズコープはNさんに謝罪せよ」というブログからTBをいただいた。以前弊ブログで「協同労働の協同組合」について書いた折に紹介したNPO「ワーカーズコープ」が運営する名古屋のNPOセンターで、不当解雇やパワハラが起きているという。この問題は「JanJan」が詳しく報じているが(関連リンク参照)、本来人間をモノのように扱う働かせ方へのアンチテーゼとしての意味合いをもっていた労協において、企業と同じような矛盾が起きているようである。これなどNPOの「行政下請け」化と「企業」化の典型例であろう。

 以前のエントリで、「協同労働の協同組合」について「雇用者と被雇用者」という関係がないというのは注目に値すると指摘したが、このことは実態としては被雇用者であっても、法的には労働者とは認められず、労基法をはじめとする労働法制が適用されない恐れがあることを意味する。「協同労働の協同組合」法制化やNPOの地位強化にあたって、働く者の権利をはっきりとさせないと、労働法制の解体を促進することすら予想されよう。

 ところで、前記産経の記事で見過ごすことができない一節がある。「アルバイトなど非正規社員と比べると収入も仕事に対する評価も高い」。つまり企業の非正規雇用は、正規雇用のみならず、NPOに比べても低収入で、なおかつ「やりがい」もないのである。「収入はそこそこあるがやりがいのない正規雇用」「低収入だがやりがいはあるNPO」「収入も低くやりがいもない非正規雇用」という階層性が見事に現れている。NPO対象の調査からも、非正規雇用の劣悪な状態が浮き彫りになっているのは、非常に重い事実である。

【関連記事】
「協同労働の協同組合」法制化の動き

【関連リンク】
北村安樹子「NPOにかかわる若者の働き方と仕事観」(『ライフデザインレポート』2008年3-4月)- 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部*PDF
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/report/rp0803.pdf
NPOワーカーズコープはNさんに謝罪せよ
http://workerswho.blog95.fc2.com/
『KY解雇』が発生?名古屋市の施設の指定管理者交代のその後 – JanJan
http://www.news.janjan.jp/area/0806/0806130507/1.php
労働法軽視「偽装経営者」の温床になるか?市民会議提案の労協法案を考える – JanJan
http://www.news.janjan.jp/living/0809/0808315930/1.php
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by mahounofuefuki | 2008-09-07 15:51

「日本版デュアルシステム」で「ネットカフェ難民」対策ができるのか

 これまで弊ブログの労働者派遣法改正問題や『労働経済白書』のエントリで述べたように、昨年末くらいから厚生労働省の労働政策は従来の規制緩和路線を修正しはじめており、最近は「貧困と格差」の是正を目指す施策の準備も伝えられている。その方向性は歓迎すべきことなのだが、問題は出てくる施策が既存の行き詰った制度を「転用」しようとするものばかりで、実効性が疑われることである。

 たとえば「ネットカフェ難民」への「自立支援」策。読売新聞(2008/08/23 14:54)によると、雇用・能力開発機構の「日本版デュアルシステム」受講を条件に、月15万円を住宅・生活費として事実上給付する制度を準備しているようだが、この施策については以下のブログ記事がその実効性の欠如を厳しく批判していている。

 150人分の予算 - 非国民通信
 http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/47ea7402610f1300a8e781626237a493
 政府は何も分かっていない - アフガン・イラク・北朝鮮と日本
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/9f9c7e5024238b7cfd33848660b1cf80

 私から付け加えるとすれば、そもそも「ネットカフェ難民」に受講させようとしている「日本版デュアルシステム」自体がもろもろの問題を抱えている。「デュアルシステム」とは元来ドイツの伝統的な職業訓練システムで、「16歳から18歳の若年者(高校段階)が職業学校の教育と企業内訓練を並行して受講し、修了試験を経て職業資格が付与される。技能の高いマイスター制度を支え、とりわけ高度の職人、熟練工を育成する」ものだが(『日本労働年鑑』第74集、2004年版による)、日本版では専門学校等での座学と企業での職業実習の併用という点は共通するものの、本来は学生向けの職業教育である制度をもって失業者や無業者や非正規労働者の就労対策に充てようとしているため、重大な齟齬が生じている。以下の論文がその問題点を明らかにしている。
(前略)
 厚生労働省は、(独)雇用・能力開発機構を通じてデュアルシステムを実施している。こちらはフリーター対策を主目的としており、おおむね35歳未満で不安定な職業に就いている者や失業している者が対象である。したがって、キャリア教育というより、就業支援か職業訓練といった方が適切である。(中略)
 (独)雇用・能力開発機構では、4カ月から6カ月の短期のデュアルシステムも実施しており、この場合に座学(講義)を担当するのは、民間の専修・専門学校である。通常は、学校での講習が終了した後、1カ月から3カ月の実地訓練が企業で行われる。(中略)
 デュアルシステムにおける訓練の場は、学校と企業である。したがって、デュアルシステムが成立するには企業の協力が欠かせない。ドイツでは企業が職業訓練を行うことは、企業がもつ社会的責任の一つであると認識されているが、日本にはそのような認識はない。(中略)
 しかし、大企業はデュアルシステムに関してまったくといってよいほど関心をもっていない。(中略)大企業は高卒者をコストをかけて採用・育成するよりは、派遣社員や請負社員を活用した方がよいと考えているためであろう。あるいは高卒が必要だとしても独力で採用できるため、デュアルシステムに興味がないのかもしれない。(中略)
 デュアルシステムに中小企業は不可欠であるとしても、中小企業にとってデュアルシステムに協力することはどのようなメリットがあるのだろうか。少なくとも金銭的にはメリットよりデメリットの方が大きい。高校で行われているデュアルシステムの場合、協力企業に対する謝礼は一切ない。職業能力開発大学校等で行っているデュアルシステムの場合は、受け入れ企業に対して訓練生1人につき月24,000円(消費税別)の範囲内で委託費が支払われるが、訓練生に相応の技術をもった人、たとえば工場長や経営者が指導するとなれば、その間彼らは自分の仕事ができない。実際、経営者自らが残業するなどによって訓練時間を捻出している企業もある。それが1カ月も2カ月も続くとなれば、企業の費用負担は無視できないほど大きくなる。訓練によって失われる収益機会は多少の委託費ではカバーされない。(中略)
 (独)雇用・能力開発機構が行っているデュアルシステムも、就職を考慮して訓練先を選択するとはいえ、受け入れた訓練生が就職する保証があるわけではない。(後略) (竹内英二「キャリア教育における中小企業の役割 ―日本版デュアルシステムを中心に―」、国民生活金融公庫『調査季報』2008年2月号より、太字強調は引用者による)
 要するに公的支援が不十分で民間への丸投げなので企業負担が大きく、大企業からはそっぽを向かれ、何よりも「訓練生が就職する保証があるわけではない」のである。しかも、訓練中でも雇用契約が結ばれるドイツとは異なり、日本ではその間は労働者という扱いではないので失業者同様、雇用保険で生活するしかない(雇用保険未加入者は無収入になる)。

 最新のデータを見つけることができなかったので、少し前のデータになるが、2004年度の訓練生の就職状況をみると、正規雇用は49.5%、派遣が15.8%、パート・アルバイトが34.7%となっている(厚労省「日本版デュアルシステムの今後の在り方についての研究会」報告書より)。「デュアルシステム」受講者の過半数が非正規雇用というのは、現在の全雇用の正規・非正規比率(約2:1)を考慮すればあまりにも多すぎる。これを「ネットカフェ難民」の就労対策に転用しても、貧困の解消につながるとはとうてい思えない数字である。

 そして周知の通り、雇用・能力開発機構は現在、独立行政法人「改革」の標的となっていて、昨日の行政減量・効率化有識者会議は同機構の廃止方針を決定した。報道によれば、厚労省は同機構の廃止に抵抗しており、今月中旬にもまとめる予定の厚労省サイドの改革素案では、同機構が行う職業訓練は「年長フリーターやワーキングプアの問題に対応するための雇用のセーフティネット」だと強調するという(朝日新聞2008/09/03 22:43)。「ネットカフェ難民」対策に「日本版デュアルシステム」を転用する真の理由はこれで明らかだろう。注目される社会問題である「ワーキングプア」対策を盾に、機構の存続を図ろうとしているのである。つまり、雇用・能力開発機構の存続こそが目的で、「ネットカフェ難民」対策はそのための手段なのである

 もちろん弊ブログは昨年来一貫して独立行政法人の民営化に反対しており、今回の件も確かに雇用・能力開発機構は多くの問題を抱えているが、民営化や地方委託では単なる行政の責任放棄でしかなく、公共職業訓練はしっかりと国の業務として行われるべきであると考えている。だからこそ厚労省には小細工ではなく、はっきりと憲法第25条に従って最低限の生活を保障するという観点から貧困対策を打ち出して欲しいのだが、実際は貧困問題を専ら就労対策でカバーする一方で、その就労対策自体が生活保護などのセーフティネットを弱める役割を果たしている。自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠氏は次のように指摘している。
 (前略)東京ではそれ(引用注―野宿者の「自立支援事業」の失敗)に対して2004年からテント対策として新事業を始めました。テントを潰すかわりにアパートに入れるという施策ですが、生活保護が保障するラインより下に、行政自身がネットをつくっている面があります。生活保護の下方修正ではないかというのが私の評価で、それはネットカフェ難民対策として打ち出した東京都のチャレンジネットも同じ性格を持っています。これがどう運用されるのかといえば、生活保護の相談に行った人が、「ネットカフェの人はこっちの施策を利用してもらうことになっている」などと言われて、そっちに流されてしまうのです。(後略) (生田武志・湯浅誠「貧困は見えるようになったか」『世界』2008年9月号より、湯浅の発言、太字強調は引用者による)
 東京都の「ネットカフェ難民」支援事業については、以前弊ブログで比較的高い評価をしてしまったことがあるが、湯浅氏の言葉で目が覚めた。東京都の事例が生活保護基準の実質的な下方修正ならば、似たような事業である今回の厚労省の支援策も、生活保護申請を却下する口実に使われる可能性が高い。

 考えてみれば「月15万円」という額は微妙である。東京都の場合、30代の単身者の生活扶助給付額がだいたい最大で月13~14万円くらいだから、一応ぎりぎり保護基準を上回ってはいるが、職業訓練受講にあたってどの程度自己負担があるのか不明だし(たとえば教材費や交通費は給付に含まれるのか否か)、生活保護受給者が受けられるさまざまな減免措置がないことを考慮すれば、実質的には生活保護基準を下回る可能性もある。これは法的にも問題である。

 シミュレートしてみよう。「ネットカフェ難民」に生活保護を受けさせないために、「日本版デュアルシステム」を利用した新事業へ回す。「非国民通信」が指摘するように150人分の予算しかないとすれば、新事業を利用できる人は限られるので選別される。選ばれなかった人は「難民」のままである。運よく選ばれると、生活保護基準ぎりぎりか、それを下回る水準の現金給付を受けながら、指定された専門学校へ通い、協力企業で職業訓練を受ける。すべて終えても安定雇用に就ける保障はなく、過半数が非正規雇用になる。「ネットカフェ難民」だった履歴があること自体不利に働くのに、具体的な就職支援はない。再び不安定雇用にしかありつけなくとも、受講終了と同時に給付は打ち切られる。その時点で、家賃を支払えるだけの収入がなければ、再び「ネットカフェ難民」へと戻る。政府は「やるだけのことはやったので、後の貧困状態は自己責任」とうそぶく。これでは貧困解消に程遠い上に、政府に貧困対策を行わない口実すら与えかねない。

 抜本的な貧困対策としては、生活保護基準以下の収入しかもたらさない状態を一切認めず、それらをすべて公的給付でフォローしなければならないが、先日弊ブログで紹介した、生活保護行政の担当者がホームレスに生活保護基準を下回る住み込みの派遣の職を斡旋していた事例のように、行政は今も生活保護の骨抜きを続けている。貧困解消にあたっては就労対策に限定するのではなく、実効性のあるセーフティネットの確立が必要不可欠である。そのためには「小さな政府」だの「ムダ・ゼロ」などやめて社会保障費の大幅増が必要であることも自明であろう。

【関連記事】
生活保護行政が「生活保護以下」の職をあっせんする矛盾

【関連リンク】
厚生労働省:日本版デュアルシステムホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/syokunou/dual/index.html
厚生労働省:「日本版デュアルシステムの今後の在り方についての研究会」報告書について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/11/h1129-3.html
独立行政法人 雇用・能力開発機構
http://www.ehdo.go.jp/
法政大学大原社会問題研究所_若年労働者の就業促進に向けての対策 [日本労働年鑑第74集057]
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/2004/rn2004-057.html
竹内英二「キャリア教育における中小企業の役割 ―日本版デュアルシステムを中心に―」、国民生活金融公庫『調査季報』2008年2月号*PDF
http://www.kokukin.go.jp/pfcj/pdf/kihou2008_02b.pdf
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by mahounofuefuki | 2008-09-04 20:33

福田内閣退陣と今後の政局に関する私見

 福田首相の突然の辞意表明は多くの人々にとって青天の霹靂だったようで、いわゆる政治ブログ界隈でもこの時期に退陣する意図や今後の政局の動向について、見事なまでに百家争鳴である。例のごとく私はアンテナが狭いので、その全貌はつかめないが、いくつか論点を整理して、当面の私論を述べておきたい。

 まず福田氏がこのタイミングで退陣を決意したことをどう見るかという点。これに関しては大方が政権運営に自信を喪失した末の無責任な「投げ出し」とみなし、当ブログもそういう見方を示したが、一方で民主党の代表選を埋没させるために、あえてこの時期に退陣表明したという穿った見方や、そもそも先の国会で参院が内閣問責決議を行っている以上、退陣は当然で「投げ出し」ではないとする見方もある。

 民主党云々の件については、私は今回の退陣劇とは関係ないとみている。それというのももともと民主党の代表選には関係者や支持者以外、誰もたいした関心を払っておらず、別に与党側が特別な「花火」を打ち上げずとも、少なくともメディアに大きく取り上げられるようなことはなかっただろうからである。小沢一郎氏の無投票再選ではなく、複数の候補による選挙が行われていても、よほど耳目を集めるような珍事(たとえば姫井由美子氏が出馬するとか)がない限り、無風だっただろう。現在の民主党はあくまで「自民党でない」ということ以外に存在意義がなく、支持者たちにも「誰それを首相に」という積極的な熱意が欠けていることも影響している。

 内閣問責決議の件は私には考え及ばず、なるほど一理あると思うが、しかし、先の問責決議は福田首相への問責というより、自公政権への問責であった以上、単に首がすげ替わる「退陣」では問責に応えたとは言えないとも思う。そもそも問責から相当時間がたっている以上、今回の政変を問責に結びつけ、退陣は当然とするのは無理があると思われる。その立場ならむしろ問責された時点で総辞職か衆院解散を行わなかったことが責められるべきであろう。

 次に衆院の解散時期について。当ブログは昨年から早期解散を主張し、前のエントリでも「即刻」解散すべしと指摘したが、一方で即時解散には否定的な見解も少なくないようである。たとえば今日の「赤旗」は臨時国会での徹底審議を経た上で、主権者の審判を仰ぐべきであると主張し、今月末の臨時国会召集前及び冒頭での解散に反対している。また民主党からは新内閣発足の「御祝儀」相場が生きたままでの早期解散に不安の声が出ていると報道されている。

 臨時国会で国政の争点を主権者に提示した上で総選挙を行うというのは確かに正論ではある。本来ならその方が憲政の常道なのだろうが、私は現実的にはあまり意味がないとも考える。仮に臨時国会の会期中に解散となれば、その時点で成立していない法案はすべて廃案となる。廃案込みで十分な審議ができるとはとうてい思えない。また臨時国会終了後の解散ならば、またしても自公政権の悪法を通してしまうことになりかねない。とにかく衆院で自民・公明両党が再議決可能な3分の2の絶対多数を握っている状態を潰さないことには、抜本的な政策転換は全く望めないと私は考えており、一日でも早く総選挙を行いたいというのが本音である。

 またメディアによる自民党総裁選報道を通して新内閣の支持率が上がり、その余勢をもって解散した場合、総選挙で自民党が有利になるのではないかという問題については、確かに今日も竹中平蔵氏が自民党への支持回復のために「総裁選をドラマティックに盛り上げよ」と入れ知恵していたが、私はそれほど心配していない。その根拠は第一に、自民党に即効的な人気のあるリーダー候補が枯渇していること、第二に、大衆の支持を調達するのに不可欠な明瞭なパフォーマンスをすぐには用意できないことである。

 第一の点については、現在総裁最有力候補と目されている麻生太郎氏にしろ、出馬が囁かれる小池百合子氏にしろ、普遍的な人気を獲得するにはいかにも弱い。麻生氏の場合、「威勢が良くて何か変革してくれそう」という大衆の要求する指導者像に「相対的に」近いから人気があることになっているにすぎず、いわば消去法の結果での支持であるとみている。小池氏の場合、そもそも自民党の中核支持層は「女性首相」を支持するほど成熟していない。もちろんかつて「ほかよりよさそうだから」という消極的理由で支持されていたにすぎない小泉純一郎氏が、「郵政解散」を機に大化けしたような前例はあるが、今回の場合次に述べる第二の点からそれも難しい。

 その第二の点については、自民党が短期間で人気を回復させるためには、自公政権に対する不満や「誰がやっても同じ」というシニシズムを「新政権への期待感」が凌駕する必要があるが、現行の政治的枠組みを前提とする限り、もはや多くの人々に期待をもたせるようなパフォーマンスの材料は存在しない。たとえば「国会議員の数を半分に」とか「公務員給与を一律2割削減」とかぶちあげれば(そんな政策は私はもちろん願い下げだが)、一挙に大衆の支持を調達できるだろうが、現在の自民党ではそれをすぐに党全体の公約にできるほどの政治力学はない。特に新総裁が選挙に向けて「挙党体制」をとろうとすればするほど、既得権益の維持に意を払う必要が生じ、思い切った「改革」はできない。小泉のような芸当はあくまで彼が「すでに首相だった」からできたことで、政権発足当初には困難であろう。

 故に自民党総裁選直後に総選挙が行われても、決して与党に有利にはならない、少なくとも現有議席を大幅に減らすのは確実である以上、私は早期解散を求める次第なのだが、逆に言えば、新内閣はおそらくすぐには衆院を解散できない。私は前のエントリで解散を極限まで引き延ばすとまで言ったが、それは言い過ぎだとしても、与党に有利な材料が出てくるまで(たとえば民主党が「メール」問題の時のようなボロを出すなど)何とかして「衆院3分の2」を手放そうとしないのではないか、というのが当ブログの見立てである。

 正直、こんな政局については、弱小ブログがどうこう言ったところでどうなるものでもなく、主権者としてはひたすら政治に対し「~してほしい」「~をよこせ」と要求するしかない以上、今回の政変についてはもう語りようがないし、語る気もない。実のところ一番心配なのは、この1カ月政局にばかり目を奪われている間に、いろいろな社会問題が見過ごされることであり、その観点からも今後の自民党総裁選やそれに関連する政局の動きはできるだけスルーしつつ、「シラケ」ムードを醸成するのが賢明だろう

【関連記事】
福田内閣退陣~再び政権「投げ出し」の暴挙
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by mahounofuefuki | 2008-09-03 21:28

福田内閣退陣~再び政権「投げ出し」の暴挙

 福田康夫首相が突如辞意を表明した。

 ちょうど約1年前、当時の安倍晋三首相が自ら召集した臨時国会の冒頭で突如退陣した時は、後から振り返れば彼の体調不良をはじめ、「伏線」があったのだが、今回の福田首相の退陣表明は特段前兆があったとは言えず、安倍の時と比べても唐突の感は拭えない。次の総選挙を自民党は福田で戦うことはないだろうということは確信していたが、こうも退陣が早いとは正直予想できなかった。

 「憲政の常道」という観点からすれば、今回の退陣は前内閣に続いてまたしても無責任な「途中放棄」である。確かにずいぶん前から政権はレームダックとなってはいたが、内閣不信任決議が成立したのでも、即時総辞職しなければならないほどの重大な事件があったわけでもない。単に政権が思うように動かないから(すでに報道されているように、退陣の「引き金」は公明党に経済政策や国会会期が左右されてしまっている現状への自信喪失だろう)という理由で、いわば「投げ出した」のである。わずか1カ月前の内閣改造はいったい何だったのか。

 本来は単に首をすげ替える退陣ではなく、即刻衆院を解散して自公政権そのものの是非について主権者の信を問うべきだが、福田内閣は最後まで解散を引き伸ばしてきた。2代続けて衆院の総選挙の洗礼を受けていない内閣が続いたことは、議会制をないがしろにした愚挙であり、もはや憲政史上の完全な汚点となっている。次の首相が誰になってもその内閣は選挙管理内閣でなければならないのだが、残念ながら次期内閣も前二者同様、解散を極限まで引き延ばすだろう。

 これまで福田内閣は、市場化・民営化路線をもっと積極的に推進して欲しい「自由」サイド、対アジア強硬外交路線を望む「保守」サイド、貧困・格差問題への処方を求める「平等」サイドの3方向から批判にさらされていたが、特に最も激しかったのは実は「保守」サイドからの攻撃だった。先月の敗戦の日の靖国神社でも極右団体が福田辞任のアジテーションを行っていた。福田失脚でこれら右翼系統は当面勢いづくだろう。国内の矛盾を対外危機の捏造と扇動で隠蔽するこうした輩の伸長が予想されるのも、不快の種である。

 言うまでもないが、首班が福田だろうと麻生だろう誰だろうとと、巨大企業の利益を何よりも最優先し、弱肉強食社会を推進する「自民党政治」に本質的な変化はない。一時的な人気取りに惑わされることなく、何が真に民衆の利益なのかを見抜く「確かな眼」をもつことが、今後ますます重要となるだろう。
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by mahounofuefuki | 2008-09-01 23:04

生活保護行政が「生活保護以下」の職を斡旋する矛盾

 これは毎日新聞のスクープと言っていいだろう。札幌市に生活保護を申請したホームレスに対し、市職員が申請を認めなかった上、北海道外の派遣会社を紹介し、ホームレスが派遣先では極めて劣悪な条件で搾取されていたことが明らかになった。
 毎日新聞(2008/09/01 02:30)より(太字強調は引用者による、以下同じ)。
 札幌市内の一部の生活保護担当職員が、無届けの職業紹介を禁じた職業安定法に違反して、生活保護を希望するホームレスに人材派遣業者での就労をあっせんしていたことが分かった。紹介を受け派遣契約を結んだところ、劣悪条件の勤務を強いられてトラブルになったケースもあり、07年初めごろまでにはあっせんをやめたとされる。市は事実を認め「現在は指導を徹底し再発防止に努めている」と説明している。
 支援団体「北海道の労働と福祉を考える会」などによると、生活保護申請の相談をするため06年ごろに北区や中央区役所を訪れたところ、職員から「認められない」と言われた。職員は東京都新宿区と愛知県刈谷市の派遣業者2社の連絡先などを手渡し「本州で勤務することになるが、この会社なら住所がなくても働ける」と説明。職員が自ら連絡したケースもあった。
 2社の派遣先は東海地方の機械部品工場など。派遣業者が用意した寮に入居して勤務したところ、事前の説明と異なり給料から毎月計十数万円の寮費や光熱費、食費、旅費などが引かれ手元にほとんど残らなかった
 出勤も不定期で、仕事がないと寮費だけがかさみ、赤字になることもあった。「役所がこんな会社を紹介していいのか」と市に抗議した人もおり、相談を受けた考える会などが「職安法違反にあたる」として再三中止を申し入れていた。(後略)
 記事中にあるように、職業安定法は職業斡旋事業について有料・無料にかかわらず厚生労大臣の許可を要件としており、これは行政機関も例外ではない。生活保護行政を担当する公務員がこんなことも知らないはずはなく、生活保護申請者を「窓口」で追い返す「水際作戦」(=生活保護行政の職務放棄)の延長上にある悪質な違法行為とみて間違いないだろう。

 自治体としては受給額削減がノルマ化する中で、どんな手を使ってでも申請者を追い返したい。厚労省も「働けるものにはまず就労指導」という方針を指示している。もともとは「生活保護を受けさせてください」→「働けるだろ」→「働くところがありません」→「それなら紹介してやる」という流れがあったと思われる。一方、企業の側も安く使える労働者が欲しい。ホームレスならどんな扱いをしても構わない、むしろ働く機会を与えてやっているという思い上がりを背景に、派遣会社の方から生活保護行政担当者にホームレスを紹介するようアプローチがあったのだろう。生活保護行政と企業の利害は見事に一致する。

 ただ水際で追い返すよりは、職を紹介するだけましだろうという見方もあるだろうが、法令違反を別としても、それはあくまでも「生活保護以上」の収入が保障された職を紹介しない限り成立しない。本来、生活保護基準は日本社会で生きる上で「最低限」のラインであって、それを下回る場合には無条件で給付を行うのが正道である。生活保護行政が「生活保護以下」の職を紹介するのは矛盾以外のなにものでもない。問題の所在は「ホームレスが働かないで生活保護を受ける」ことではなく、「生活保護基準以下の職にしか就けない」ことにある。貧困対策にあたらねばならない行政が自ら貧困拡大に加担する構図には呆れるほかない。

 ついに行政までが「手配師」まがいのことをするような実態に戦慄を覚える。今回の事例は行政と企業が結託した「奴隷取引」同然である。行政担当者と企業との間に金銭が介在している可能性もあるのではないか? おそらく札幌市以外でも類似の事例があるはずだ。全国的な調査が必要である。

【関連記事】
生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策
生活保護基準引き下げは小泉が与えた「宿題」
あるホームレスの死
生活保護と生存権
社会保障切り捨て路線の是非と生存権裁判

【関連リンク】
職業安定法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S22/141.HTM
生活保護法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S25/144.HTM
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by mahounofuefuki | 2008-09-01 11:23