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東京新聞「ハケンの反撃」を読んで

 マスメディアが社会問題を報じる際、たいてい「こんなひどいことが起きている」「表向きはそうだけど実際はこうだ」という実態の暴露と告発に終始しがちで、もちろんそれは十分に意義があるのだが、取り上げる問題があまりにも深刻だと、個々人の力ではどうにもできないという無力感や絶望感を深める役割を担ってしまうことも少なくない。
 それを打破するためには、問題を実際に解決した実例や解決する希望が見出せる道筋を提示するしかないが、その点で東京新聞が2月10、11、14、17日(日付は電子版による)の4回にわたって連載した「ハケンの反撃」は、その名の通り派遣労働者の「反撃」の「勝利」の実例を紹介し、希望を与える好企画だった。
 ハケンの反撃<1> 広がる連帯の輪 武器はユニオン(東京新聞2008/02/10)
 ハケンの反撃<2> 『手口をあばく』 もう だまされない(東京新聞2008/02/11)
 ハケンの反撃<3> “サイバー連帯”進化(東京新聞2008/02/14)
 ハケンの反撃<4> 勤務記録で対抗(東京新聞2008/02/17)
 昨年来「貧困」「格差」「ワーキングプア」の実態は広く報道され、問題の存在自体は社会の共通認識になった以上、これから必要なのはどうすれば問題解決の糸口をつかめるか模索することであり、マスメディアにはこうした報道をどんどん続けてほしい。

 「ハケンの反撃」が伝える「希望」は労働運動の「新しいカタチ」である。旧来の正社員中心で労使協調型の企業内労働組合ではこぼれおちてしまう非正規労働者による連帯の動きが始まっている。

 昨年、人材派遣大手フルキャストの個人加盟労組フルキャストユニオンが不当な給与ピンハネ分の全額返還を勝ち取ったことで、他の派遣会社でも返還を求める団体交渉や労基への申し立てが広がっている。グッドウィルやエムクルーの動きについては以前当ブログでも紹介した。日雇い派遣に限らず、個人加盟型のユニオンは急速に増えており、全国ユニオンによれば現在約3300団体あるという。
 記事が紹介したマイワークのユニオンの委員長は50代の元自営業者で、「派遣=若者」という世間一般のイメージとは異なり、派遣労働者には「構造改革」で失業した元正社員や倒産・廃業した元自営業者も少なくないことを示すと同時に、社会経験を積んだ「人生のベテラン」の役割が労働運動においても必要であることを示唆している。

 こうした動きに「格差社会」の「共同正犯」(by佐高信氏)である連合も重い腰を上げて、昨秋「非正規労働センター」を立ち上げ、今春闘では非正規労働の待遇改善、特にパート労働者の賃上げを要求している。「正社員中心の壁を越えていこうという連合の自己改革宣言」が単なる掛け声倒れにならないようにしてほしい。

 「ハケンの反撃」はインターネットを通した「サイバー連帯」の可能性も伝えている。とにかく現代は「団結」や「連帯」を敬遠する意識が強く(そういう私も個別の問題に絞らない連帯を嫌う傾向がある)、それ以上に表立って労組になど加入して会社側から攻撃を受けることを何よりも恐れており、労働運動の敷居は高い。ここではサイバーユニオンの草分け「ジャパンユニオン」が紹介されているが、「匿名性や双方向性というサイバーの特徴で、労組加入の垣根が低くなっている」というのは注目すべきだろう。
 また私も最近アンテナに加えた労組専門動画投稿サイト「ユニオンチューブ」は、実際の団交の様子や労働関係のイベントの映像を全世界から見ることができる。特に団交は労組の最大の見せ場であるにもかかわらず、マスメディアが報道することはまずないので、その記録は貴重だ。それぞれの職場で孤立している労働者に労組へ加入するメリットを伝えていくことが必要だろう。

 「希望は、連帯。」というにはまだまだ前途多難であるが、この10年余りで労働基本権は極限まで失墜し、資本主義初期の工場法制定前の奴隷労働同然になっている現状を変革するエネルギーは、これら新しい労働運動からしか生まれないだろう。

【関連記事】
「生きのびるための労働法」手帳
エム・クルーの偽装請負・賃金ピンハネ問題と「成金」イデオロギー
労働者派遣法改正問題の行方
グッドウィル事業停止
マクドナルド残業代不払い訴訟で勝訴判決
「非正社員が正社員になりたかったら、正社員の解雇自由化に賛成しろ」という悪魔の囁き
厚生労働省「日雇い派遣指針」をめぐって~労働者派遣法改正問題

【関連リンク】(「ハケンの反撃」に登場した団体など)
My work Union 【マイワーク ユニオン】
フルキャストユニオン HP
フェアワーク つながるネット
全国ユニオン
ガテン系連帯-派遣・請負者の為のNPO-
GU-NET -労働組合 東京ユニオン
インターネット労働組合ジャパンユニオン
労働相談センター・スタッフ日記
NPO法人労働相談センター
首都圏青年ユニオン
UnionTube
NPO POSSE
NPO法人・職場の権利教育ネットワーク
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by mahounofuefuki | 2008-02-18 21:02

ナショナリストが在日米軍に期待するもの

 日米安全保障条約をサンフランシスコ講和条約と抱き合わせで締結した当時、日本の政治家や官僚や資本家たちは、本心ではアメリカ軍が日本領土内に一方的に駐留を続けることを屈辱と感じ、日米安保体制をあくまでも将来の大日本帝国復活のための「臥薪嘗胆」と考えていたはずだ。
 なにしろ日本では敗戦を挟んで指導者が交代したわけではなく、「大東亜共栄圏」を唱え、「鬼畜米英」と呼号した連中が戦後すぐに国家中枢に復帰した。自己と国家を同一化し、自己肥大幻想を国家の膨張主義に「昇華」させる彼らが、在日米軍という「異物」を自らの体内に抱えることは矛盾以外のなにものでもない。

 そんな彼らがどうやって日米安保体制を自分自身に納得させたかというと、「共産主義」の「脅威」から日本を「守る」ためにはアメリカの力が必要だという論理を受け入れることであった。
 ソ連が消滅し、中国が今や新自由主義顔負けの競争社会になってしまった現在では想像しにくいが、1960年ごろまで「共産革命」は現実に「明日にもありうる」事態であり、明治・大正生まれの人々にはロシア革命の記憶はいまだ鮮明だっただけに、そうした論理は受容されやすかった。実際は講和交渉の過程を見れば、無期限・無制限に日本列島のどこにでも軍事基地を設置できる特権を離したくないアメリカに強引に押し切られたというのが真相だが、条文上ではあくまでも日本側が米軍の駐留を「希望」したという体裁で隠された。

 西園寺公望や牧野伸顕ら戦前の親英米路線を引き継ぐ吉田茂とその一党のように、日米安保体制を国際安全保障体制の延長ないしは代替のシステムとして理解した人々も多かったが(そして今もそれが主流)、一方で在日米軍を撤退させて完全な「自主防衛」の実現を目標とする人々も少なくなかったはずだ。
 たとえば日本がアメリカのために再軍備を進め、集団的自衛権を行使する代わりに、在日米軍に撤退してもらうという構想は、鳩山一郎内閣の外務大臣だった重光葵が1955年にアメリカ側へ提起したことがある。この時、ほかでもない昭和天皇が在日米軍の撤退に反対した。重光の日記に記された「日米協力反共の必要、駐屯軍の撤退は不可なり」という昭和天皇の言葉を読んだ時、背筋が凍った記憶がある(象徴天皇制のもとでも戦前同様国政への介入を続けていたことにも驚かされた)。昭和天皇は確かに「革命」を恐れていたのだ。彼は日本の「国民」を微塵も信用していなかった。だから在日米軍に「国体」を守ってもらおうとしていたのだ。重光と昭和天皇、どちらの路線が生き残ったかは言うまでもない。

 その後、1960年の安保改定(この時はじめてアメリカの日本防衛義務が盛り込まれた。それまでは名実ともにアメリカは「義務なき特権」をもっていた)を経て、日本外交は「とりあえずアメリカに従っておけば間違いはない」という思考停止が常態化した。1950年代には集団的自衛権を行使する代わりに在日米軍を撤退させるという思考がパワーエリートにあったが、21世紀の今日では何の国家的な「見返り」もなく集団的自衛権の行使を推し進め、自衛隊とアメリカ軍の一体化を平然と容認する。
 それはこの50年ほどの間に米軍が日本駐留を続けることでの受益層が形成されたことを意味するが(昨年発覚した防衛省汚職でその一端は明らかになった)、「愛国」を自任する右翼ナショナリストの主流はなぜかそんな層を「売国奴」と攻撃しない。右翼ナショナリストは逆に日本社会では今やマイノリティである左翼を攻撃し、かつてのソ連の「爪の垢」ほどの力しかもたない「北朝鮮」に怯え、米軍基地に反対する動きを誹謗中傷する。アメリカに対峙する勇気のないとんだチキンぶりだ。米軍基地の存在を許容している者のどこが「愛国者」なのだ?

 今回の沖縄での忌まわしい事件に対する右翼メディアやその追随者たちの反応を見ると、ある意味で日本の近代ナショナリズムは終焉したのだという感慨をもたざるをえない。事件に心から怒っているのは、どう見てもナショナリストとは呼べない人々ばかりだ。元来ナショナリズムは「異人」に「邦人」が傷つけられた時にこそ噴出するノルマントン号事件以来それは一貫していた。まかり間違っても「暴行事件は基地反対派のハニートラップ」などという被害妄想的な発想は出て来なかった。
 沖縄という不当にも「内国植民地」として扱われた地域の事件だから、というわけではあるまい。「本土」で同様の事件があっても同じ反応だろう。自称「愛国者」たちは昭和天皇と同様、自国の民衆を「同胞」とは考えず、自らの妄想で過大評価している「狡猾な左翼」という仮想敵からアメリカ軍に守ってもらうことを期待しているのだ。そうでなければ、航空自衛隊の航空総隊司令部が横田の米軍基地に移転するという前代未聞の主権放棄行動をも支持するのは説明がつかない。

 人類に「異人」と「邦人」という線引きをするのがナショナリズムならば、現在のナショナリストにとってアメリカ軍人こそが「邦人」で、もはや日本の一般庶民は「異人」でしかないのだろう。一見矛盾するグローバリズムとナショナリズムの親和性を解くカギはこの点にあるのかもしれない。
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by mahounofuefuki | 2008-02-17 11:13

江原啓之を客員教授に迎える旭川大学学長の言い分

 当ブログの1月22日付のエントリで「スピリチュアルカウンセラー」江原啓之氏が旭川大学の教員に迎えられるという情報をお伝えしたが、この問題について2月15日発売の北海道向けの月刊経済誌『財界さっぽろ』3月号が詳細を報じている。
 結論から言えば、やはり江原氏は2008年度より旭川大学に新設される保健福祉学部の客員教授に迎えられる。講義科目は「生命倫理」や「コミュニティ福祉への招待」で、年2、3回程度教壇に立つという。講義回数こそ少ないものの、恐れていた通り、「スピリチュアルカウンセラー」の経験を生かした内容になりそうな気配が濃厚な科目名である。

 『財界さっぽろ』の記事によれば、大学側から声をかけたのではなく、昨年7月中旬に江原氏の方からアプローチがあったのがきっかけだったという。旭川大学に看護系学部が新設されるという情報をキャッチした江原氏が、「友人を介して」旭川大学の山内亮史学長に会見を申し入れたという。その「友人」が何者なのか気になるところだが、それはさておき山内学長の話を『財界さっぽろ』より引用しよう(太字強調は引用者による)。
 江原さんは、2つの理由で看護師や介護士からよく相談を受けてると話していました。一つは、看護師が忙しさに追われ、自分が思うような看護ができず燃え尽き症候になり、仕事辞めたいという相談です。もう一つが、余命いくばくもない患者さんに、どう声をかけて接すればいいかわからないというものです。
 江原さんの緩和ケアに対する熱い思いを聞いて、わたしが目指す学部像と共通する部分があると感じました。そこで『もし機会があれば一度講演をお願いしたい』と頼むと、江原さんが『旭川には友人が大変お世話になった。わたしでよければ何でも協力させていただきます』という答えが返ってきました。
 この「友人」かどうか明示されていないが、記事には江原氏が20年来懇意にしている歌手のイルカさん(「なごり雪」の人)の夫(昨年3月に死去)が晩年を旭川で療養していて、江原氏は何度も見舞いに訪れていたという話も紹介されている。
 再び山内学長の話に戻ろう。
 道北地方は過疎と高齢化が進み、自治体病院も経営的にもたなくなってきている。特に医師、看護師不足が深刻です。これからの医療は、病気を治すだけでなく、心の痛みをどのように緩和するかなどの精神的なケアが求められます。学校は単に知識や技術を教えるだけではダメなんです。『生命倫理』や『終末期看護論』なども取り入れ、地域社会に貢献できる人材を養成していきたい。(引用注:「道北地方」=北海道北部の地元での通称)
 そのご説はもっともだが、それがなぜ元神職でバリトン歌手の江原氏なのか? 江原氏と看護論にどんな関係が?
 大学で、テレビ番組『オーラの泉』のようなスピリチュアルカウンセリングをやるわけではないんです。亡くなった先祖を呼ぶこともありません。講義では、江原さんが考える『緩和ケア』や『スピリチュアルペイン(心の痛み)』、『人間の生と死』を語ってもらうだけです。その点はどうか誤解しないでほしい。わたしが江原さんの事務所を訪れてお願いしたわけではない。『客寄せパンダ』のように、有名タレントを大学の宣伝に使う考えはありません。江原さんが客員教授に就任した経緯を振り返ってもらえば、理解していただけると思います
 「スピリチュアルペイン」や「人間の生と死」はテレビでも語っているではないか。それがほかでもない「スピリチュアルカウンセリング」のなのでは? 「客員教授に就任した経緯」からわかるのは、江原氏がテレビを追われた時に備えて「確かな身分」を欲していて、そのために山内氏を丸めこんだことだけだ。
 ちなみに山内学長は大学で「スピリチュアルカウンセリング」をやることは否定しているが、「スピリチュアルカウンセリング」そのものは否定していないことに注目すべきだろう。それは教育社会学者としてどうなのか。

 ちなみにこの件が表面化してから、旭川大学には「普通の人も聞けるのか」「入場料はいくらですか」「カウンセリングしてほしい」などの問い合わせが殺到したという。学長は否定しているが、江原氏は確実に「客寄せパンダ」の役割を果たしているようだ。

【関連記事】
江原啓之を教員に迎える旭川大学の「見識」

【関連リンク】
旭川大学
財界さっぽろ
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by mahounofuefuki | 2008-02-15 23:24

「金持ち増税」論は少数意見ではない~山口二郎・宮本太郎共同論文を読む

 常連読者はまたかと思うだろうが、私は本来しつこいので、何度でも繰り返す。
 消費税の増税は低所得層の生活を完全破壊し、物価高騰と合わせて短期的にも中長期的にも国内市場を縮小させ、日本社会を破綻に導く「悪魔のカード」である。消費税を社会保障目的税にしようと、年金特定財源にしようと、社会の不平等拡大という事実は消えない。もちろんだからと言って「構造改革」派の言うような増税せずに歳出削減を徹底するという思想にも与することはできない。軍事費や特定の巨大企業への補助金を削減するなら大賛成だが、実際は社会保障費や医療費ばかりが削減された。総量としての「歳出削減」は完全に誤りである。
 必要なのは所得税の累進強化と分離課税の廃止、法人税・相続税の増税であり、「構造改革」によって一握りの資本が不当に労働者から搾取した富を取り返す措置が必要である。企業業績の悪化? 労働意欲の減退? 本当にそうなるか実際にやってみようじゃないか。やりもせずにそんな脅しは通用しない。だいたい少なくとも私は、我々低所得階級を踏み台にした経済成長より、貧しくとも平等な社会の方を選びたいのだ。

 こんな私見が決して少数意見でも非現実的意見でもないことを、今月発売の『世界』3月号に掲載された北海道大学大学院教授の山口二郎宮本太郎両氏の「日本人はどのような社会経済システムを望んでいるのか」と題する論文が明らかにしている。現在の社会経済情勢に対する認識や将来望む社会像を問うた世論調査の結果の紹介とその分析で、世論調査の方は皮肉にも山口氏の消費税増税容認論にとって不都合な(私には好都合な)結果が出ている。
 この世論調査は『世界』では明示されていないが、私の記憶が確かなら、北大が科研費を受けて長期的に行っているもので、過去にも何度か総合誌に紹介されていたはずだ。RDD法による調査で、標本数は全国で1500だという。

 調査結果の詳細は『世界』を参照されたいが、社会保障と税制の再構築にかかわるのは次の2点である。
 第1は「日本のあるべき社会像」の質問で、①アメリカのような競争と効率を重視した社会、②北欧のような福祉を重視した社会、③かつての日本のような終身雇用を重視した社会、の3択である。結果は①6.7%(自民党支持者では6.3%、民主党支持者では5.5%)、②58.4%(自50.3%、民61.3%)、③31.5%(自41.4%、民31.5%)だった。
 支持政党にかかわらず、アメリカ型競争社会への忌避感が強く、特に民主党支持層で「北欧型」福祉国家への待望が強いという結果から、山口・宮本両氏はこれを「北欧型福祉社会モデルへの期待」と評価しているが、それはやや誘導尋問の疑いが残る。③に「かつての日本のような」という「守旧」ないし「復古」というマイナスのイメージを想起させる枕詞を付けることで、市場原理主義に不満を持つ層を「北欧型」に誘導しているのではないか。実際は「1億総中流」(客観的にはまやかしであっても)の記憶をもつ人々にとっては、終身雇用を前提にした企業共同体型と「北欧型」の区別は不明瞭だと私は考えている。「北欧型」の「分配度の高さ」に注目しているのか、「高負担による高福祉」に注目しているのか、より詳細な分析が必要だろう。

 第2は「社会保障の財源」の質問で、①消費税率の引き上げはやむを得ない、②消費税ではなく、法人税や所得税など裕福な人や企業に負担させるべき、③行財政改革を進めるなど国民の負担を増やす以外の方法を採るべき、④そもそも今の社会保障で十分、の4択である。結果は①17.5%(自民党支持者26.5%、民主党支持者15.3%)、②35.4%(自35.4%、民37.6%)、③44.0%(自35.0%、民45.9%)、④2.0%(自2.3%、民1.2%)だった。
 自民党支持層の4人に1人が消費税増税に賛成してはいるが、むしろ自民党支持層も含めて企業・富裕層への増税を支持する人々が相当多いことに着目すべきだろう。歳出削減路線の支持層よりは少ないが、35%以上というのは無視しえない比率である。前述した私の見解が決して少数意見ではないという根拠はこれである。
 一方、民主党支持層の半数近くが歳出削減路線を支持しており、この結果は特に民主党政権による福祉国家路線を目指す山口氏には都合の悪い結果だろう。さすがに「増えてもよい負担とは、法人税や裕福な人が払う所得税であり、一般庶民が払う消費税ではないという解釈をするしかないであろう」(太字強調は引用者による、以下同じ)と消費税増税に未練たっぷりながら、それがまったく支持されていない現状を認める解説を付している。消費税増税論が「構造改革」路線の対立軸にならないことは明白である。

 山口・宮本論文の問題点はこの結果にもかかわらず、強引に新自由主義と社会民主主義の2大政党制が完成しつつあるという牽強付会な結論を提示していることにある。彼らは語る。
 我々は小泉時代の新自由主義政策に反対であるが、この時代の構造改革によって、二大勢力の対決という政策論議の空間ができたことで、日本の政党政治が進化したと考えている。
(中略)
90年代から始まった政治改革や政党再編の試行錯誤は、最終段階に入った。右側に新自由主義をとる保守政党、左側に福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党が対置するという世界標準の二大政党制の姿がようやく現れつつある。
 前述の世論調査からどうしてそんな結論になるのか。むしろ民主党支持層が一方で福祉国家を待望しながら、他方で増税には抵抗感を示し、さらなる行財政改革(歳出削減)を求めるという矛盾した姿は、とうてい民主党が「福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党」になりえていないことを証明している(ついでに言えば自民党も「新自由主義をとる保守政党」になりきれていないのは現在の道路特定財源問題を見ればわかる通りだ)。
 現に両氏も論文の別の箇所で「行政不信に満ちた福祉国家志向」という言葉でこの現象を説明している。つまり依然として現在の民主党支持層が新自由主義に心動かされる可能性が十分にあり、目の前の既得権益の解体というエサが示されればそれに飛びつく恐れが濃厚なのである。

*ついでに言えば、この結果からは二大政党制の下では意見が3つ以上に分かれた場合、必ずどれかが政策論議から漏れてしまうことも示唆している。仮に中選挙区制のままだったら、自民党は新自由主義路線と利益誘導型路線に分裂していただろう。小選挙区制を導入したことが自民党長期政権の打倒を難しくしたのは間違いなく(現に細川連立政権は中選挙区制だから誕生できた)、その点でも特に二大政党制を推進した山口氏の罪は大きい。

 いずれにせよこんな状況を打開するには、福祉国家派が消費税増税論を完全放棄することであり、歳出・歳入の両面で不公平を抜本的に是正する財政方針を明確に示すことである。消費税増税も歳出削減も「庶民への負担増」である。故にはっきりと「金持ち増税」を打ち出すべきであり、それが自民党支持層をも含め相当な支持基盤があることを今回の調査は実証したのではないか。現在「金持ち増税」を明確に主張しているのは共産党だけだが、民主党に必要なのは少なくとも財政問題において共産党に近づくことなのではないか。
 山口・宮本両氏、特に民主党の政権獲得に命を賭けている山口氏は当然このことを考慮しなければならない。

【関連記事】
「歳出の公平性」だけでなく「歳入の公平性」も必要だ
社会保障の財源が消費税でなければならない理由はあるのか
消費税増税問題に関するリンク
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by mahounofuefuki | 2008-02-15 21:43

厚生労働省「日雇い派遣指針」をめぐって~労働者派遣法改正問題

 以前当ブログでも書いたが、当初政府は今年の通常国会で労働者派遣法改正案を提出する予定だった。しかし、派遣法改正問題を審議していた厚生労働省労働政策審議会の労働力需給制度部会では、さらなる派遣労働の拡大と規制緩和を求める使用者側と、派遣労働の制限と規制強化を訴える労働者側の溝は埋まらず、与野党が逆転している国会情勢の影響もあって政府の改正案の策定は見送られた。
 その代わりに同部会が作成したのが「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針案要綱」などで、当面現行法を前提として、「日雇い派遣」に対する規制を行政の「指針」で行う方針を示したわけだが、後述するようにその実効性に疑念がもたれており、派遣法の抜本的改正が必要な状況に変わりはない。
 一方、厚生労働省は今年度の改正案作成見送りを受けて、学識経験者による「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」を職業安定局長のもとに設置し、第1回研究会は明日(2月14日)開催される。現在野党が議員立法を目指して準備しているといわれる労働者派遣法改正案の動向を睨みつつ、派遣法改正の方向性を定めていくとみられるが、その方向性が企業側に傾くか、労働者側に傾くかは今後の世論にかかっていると言えよう。昨年の生活保護給付引き下げ問題の時もそうだったが、厚労省のこうした研究会はなかなか侮りがたく、注視する必要がある。

 厚労省の「指針」の全容・全文は次のリンクを参照。
 厚生労働省:「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針案要綱」、「派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する告示案要綱」及び「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行規則の一部を改正する省令案要綱」についての労働政策審議会に対する諮問及び答申について(な、長い・・・)
 この「指針」については、現在行政手続法によるパブリックコメントの募集が行われている。それに伴いグッドウィルユニオンがパブリックコメント用の意見書を公開している。コピペしてもいいそうなので、長文だが「指針」の問題点を網羅していて、今後の派遣労働の在り方を考える上で非常に参考になるので、全文転載する(ただし適宜改行した)。
 日雇い派遣についてパブリックコメントを出そう!厚生労働省に意見を言おう!|グッドウィルユニオン
(転載開始)
「日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針案等に関する意見」
 「概要」をもとに、以下のように意見を提出させていただきます。行政手続法にのっとり、十分に考慮していただくことをお願いします。

Ⅰ 日雇派遣労働者の雇用の安定等を図るために派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針
①趣旨
 「日雇派遣労働者(日々又は30日以内の期間を定めて雇用される者)について、派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置を定めたものである」について
 日雇派遣労働者と呼ばれる者の中には、同じ派遣元から同じ派遣先に長期間派遣され続けている者もいます。今回の指針では「日々又は30日以内の期間を定めて雇用される者」のみを保護することになり兼ねずもっとも保護が必要な違法状態に置かれている派遣労働者が置き去りにされる可能性があります。ここでは、広く日雇派遣労働者と呼称される「軽作業派遣労働者」を対象とすべきと考えます。

②日雇派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
 「派遣元事業主及び派遣先は、事前に就業条件を確認する」について
 日雇派遣と呼ばれる形態は前日の午後まで派遣先からの発注を受け付けているケースが多く、趣旨としては理解できますが、現実味に欠けます。
 「労働者派遣契約、雇用契約の期間を長期化する」について
 派遣期間は、派遣元だけでなく派遣先の意向が大きく影響します。現行の派遣先指針を改正して、労働契約法の条文と同様の内容「使用者は、期間の定めのある労働契約について、その労働契約により労働者を使用する目的に照らして、必要以上に短い期間を定め㌻ことにより、その労働契約を反復して更新することのないよう配慮しなければならない」を示すべきだと考えます。
 「労働者派遣契約の解除の際に、就業のあっせんや損害賠償等の適切な措置を図る」について
 現行の指針にも同様の文言がありますが、まったくといっていいほど機能していません。
 労働者派遣契約の解除は派遣先の都合によって生じるもので、派遣先への罰則も含めた規定がなければ十分に機能しないと考えます。

③労働者派遣契約に定める就業条件の確保
 「派遣先の巡回、就業状況の報告等により労働者派遣契約に定められた就業条件を確保する」について
 1日のみの派遣について派遣先の巡回は実質的にできません。趣旨としては理解できますが、現実味に欠けます。

④労働・社会保険の適用の促進
 「派遣元事業主は、労働・社会保険(日雇に関する保険を含む。)の手続を適切に行う」について
 業界最大手であるグッドウィルは未だに日雇雇用保険の印紙購入通帳の手続きをしておりません。日雇雇用保険の手続きを頼みたいが、これまでの経緯からそうしたことを頼むと仕事の紹介がなくなるなどの不利益をおそれているスタッフがいることも予想されます。1日も早く印紙購入通帳の手続き行政指導により行わせることを期待します。
 「派遣元事業主は、派遣先に対し労働・社会保険の適用状況を通知し、派遣先と日雇派遣労働者に未加入の場合の理由の通知を行う」について
 現行の派遣も年新にも同様の記述がありますが、まったくといっていいほど機能していません。
 本来、労働・社会保険に加入すべき派遣労働者であって、未加入の派遣労働者を受け入れた派遣先に対する罰則がなければ十分に機能しないと考えます。

⑤日雇派遣労働者に対する就業条件等の明示
 「労働者派遣法に定められた就業条件の明示を、モデル就業条件明示書(日雇派遣・携帯メール用)の活用等により確実に行う」について
 携帯メールによる労働条件の明示を認めることは、文書明示を原則とした労働基準法と矛盾します。集合場所での労働条件明示書の配布などもでき得ることから、日雇派遣であるから文書明示が不可能ということはないと考えます。

⑥教育訓練機会の確保
 「派遣元事業主は、職務の遂行のための教育訓練を派遣就業前に実施する」「派遣元事業主は、職務を効率的に遂行するための教育訓練を実施するよう努める」について
 日雇派遣の職種は多種多様です。派遣元がそのすべてについて教育訓練を行うことは事実上不可能と考えます。また、軽作業にどのような「教育訓練」が必要になるのでしょうか。
 派遣元に教育訓練を義務付けるのではなく、一定の教育訓練の機会を多くの労働者に等しく担保するためには、無料または安価で国が実施すべきだと考えます。

⑦関係法令等の関係者への周知
 「派遣元事業主は、派遣労働者登録用のホームページや登録説明会で関係法令の周知を行う。また、文書の配布等により、派遣先、日雇派遣労働者等の関係者に関係法令の周知を行う」について
 「派遣先は、文書の配布等により、派遣労働者、直接指揮命令する者等の関係者に関係法令の周知を行う」について
 法律が周知され違法だとわかっても、派遣労働者は違法を指摘すれば契約を打ち切られ、収入の糧である仕事を失います。このような措置は派遣元や派遣先の違法の責任の一端を日雇派遣労働者に押し付けるものになりかねません。
 派遣事業報告により、行政に派遣の実績は通知されているはずです。昨今の「小さな政府」には反しますが、雇用環境を適正なものにするため、人員を増強してでも徹底したつぶさに調査を行い、違法を摘発すべきと考えます。

⑧安全衛生に係る措置
 「雇入れ時の安全衛生教育、危険有害業務就業時の安全衛生教育を確実に行う」について
1日のみの派遣労働者に対しこうした教育の実施は事実上不可能です。趣旨としては理解できますが、現実味に欠けます。

⑨労働条件確保に係る措置
 「賃金の一部控除、労働時間の算定をはじめとして、労働基準法等関係法令を遵守する」について
 賃金の一部控除については、ほとんどのケースで労使協定はなく「事故が起きたときの保険」などといわば偽って徴収を続けてきたのが現状です。
 労働時間の算定については、集合時間からの拘束があるケースも少なくありません。
 「遵守する」ではなく、調査の上、監督・指導の徹底を期待します。

⑩情報の公開
 「派遣元事業主は、派遣料金等の事業運営の状況に関する情報の公開を行う」について
 不当に高いマージン率を規制するために、このような規定を設けるという趣旨のはずです。このため個別の派遣料金が明らかにならなければ規制としては不十分です。

⑪派遣元責任者及び派遣先責任者の連絡調整等
 「派遣元責任者及び派遣先責任者は、安全衛生等について連絡調整を行う」について
 安全衛生が不十分では、労働者の健康を害する危険性があり、重要な問題と考えます。このため、連絡調整行う具体的な項目について列挙し、要件を満たしていないケースについて指導の対象とすべきと考えます。

⑫派遣先への説明
 「派遣元事業主は、派遣先がこの指針を適用できるようにするために、日雇派遣労働者を派遣することを説明する」について
 説明に応じない派遣先は、行政の指導の対象とし、一時的に派遣労働の受け入れをできないようするなどの強硬な措置がなければ必要で「説明する」だけでは、意味がないと考えます。

Ⅱ 派遣元事業主が講ずべき措置に関する指針の一部を改正する告示
○情報の公開
 「派遣元事業主は、派遣料金等の事業運営の状況に関する情報の公開を行う」について
 不当に高いマージン率を規制するために、このような規定を設けるという趣旨のはずです。このため個別の派遣料金が明らかにならなければ規制としては不十分です。

Ⅲ 労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行規則の一部を改正する省令
③事業報告書の様式改正(様式第11 号関係)
 「労働者派遣等実績に、日雇派遣労働者が従事した業務に係る労働者派遣の料金、日雇派遣労働者の賃金を追加する」について
 不当に高いマージン率を規制するために、このような規定を設けるという趣旨のはずです。このため個別の派遣料金が明らかにならなければ規制としては不十分です。

 以上のことから、今回の指針で現状の多くの問題を解決することは事情不可能だと考えます。雇用環境を適正なものとするためにも、労働者派遣法を1999年以前に戻すとともに、登録型派遣を厳しく制限するなどの措置がなければ抜本的な問題の解決はできません。
 現在、労働者派遣法の改正に向け、学識経験者による議論が進められていますが、真に派遣労働者のための法改正というスタンスに立った議論を期待します。
(転載終了)

 「指針」に対するパブリックコメントは2月21日まで受け付けている。詳細は次のリンクを参照。
 意見募集中案件詳細 案件番号495070237

 現在の「貧困と格差」の最大の原因は、1990年代以降、労働者派遣法を相次いで改悪して、派遣業種を広げ続けたことにある。有期雇用・間接雇用を縮小し、正規雇用に戻していくための抜本的な法改正が必要だ。労働者派遣法改正問題は今後の日本社会の進路にとって最大の岐路になると言えよう。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題の行方

【関連リンク】
労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律-法庫
厚生労働省:今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会の開催について
厚生労働省:第110回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会資料
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by mahounofuefuki | 2008-02-13 18:00

「国民」を守れなかった日本政府の責任に口を閉ざす不思議

 沖縄のアメリカ海兵隊所属の下士官が女子中学生を暴行した事件。
 どんな事件であっても警察発表を鵜呑みにせず、初発の報道を疑うのが私の習わしなので、事件の内容について語ることはない。特に強姦罪が適用されている事件ということを考えると、メディアが大々的に報道したり、不特定多数の人々が政治的思惑や好奇心から事件に触れること自体が、被害者へのセカンドレイプなのではないかという思いが私にはあり、口が重くならざるをえない(またしても右翼メディアやシニシズム的大衆による誹謗中傷が始まっているようだし)。

 今回の件で私が気になるのは、日本政府の対応である。
 事件翌日の2月11日、まず外務省北米局長がアメリカ大使館次席公使に電話で抗議を行っている。ドノバン次席公使は「米側としても事態を深刻にとらえており、日本側の捜査に全面的に協力していく」と述べたという。また外務省の沖縄担当大使も海兵隊司令官にやはり電話で再発防止と綱紀粛正を要請し、ジルマー司令官は「綱紀粛正を徹底させたい」と述べたという(時事通信2008/02/11 16:44、朝日新聞2008/02/11 15:12)。さらに防衛省地方協力局長も、在日米軍司令官に同様の申し入れを行ったという(毎日新聞2008/02/12 12:15)。

 閣僚も相次いで今回の事件について「遺憾」の意を発言する。まず11日には岸田文雄沖縄担当大臣が「強い憤りを感じている」「(日米地位協定の見直しについて)まずは綱紀粛正、再発防止の議論をした上で、対応が必要なのかどうか考えなければいけない」と記者団に述べた(朝日2008/02/11 18:06)。岸田氏は翌日も記者会見で、地位協定について「地元の意見をしっかり聞いた上で、運用改善の問題についても考えていきたい」と語った(時事2008/02/12 11:46)。
 翌12日になると次々と閣僚が発言をする。閣議後の閣僚懇談会では福田康夫首相が「過去にも同種の事案があった。大変大きな問題で、しっかりと対応しなければいけない」と閣僚らに指示したという。首相はその後の衆院予算委員会でも「政府としても米側としっかりと交渉していく。事実関係の究明、再発防止のために、できるだけのことをしていく」と述べた(朝日2008/02/12 11:49)。

 閣議後の記者会見では、町村信孝内閣官房長官が「極めて遺憾な事案と言わざるを得ない。法と証拠に基づき適切に処理する」(時事2008/02/12 11:13)、泉信也国家公安委員長が、「沖縄県警で米側の協力を得ながら、法と証拠に基づき捜査を進めている。類似事案は過去にも起きており、外務省などで米軍側に外交上の申し入れをしているが、厳重な対応をしてほしい」(時事2008/02/12 10:19)、石破茂防衛大臣が「日米同盟の根幹にかかわる」(時事2008/02/12 11:46)、渡辺喜美金融・行革担当大臣が「沖縄の皆さんの心を逆なでするような事件で許しがたい」、冬柴鉄三国土交通大臣が「こういう事件は日米関係に大きな影響がある。関係者は肝に銘じてほしい」などと述べた(毎日、前掲)。

 日米関係を所管する高村正彦外務大臣は、日米関係への影響について「県民感情の問題。影響がないことはあり得ない」「綱紀粛正や再発防止により、日米関係への悪い影響を少なく収められるかどうかだ」(毎日、前掲)と述べる一方、地位協定の見直しについては「今回のことと地位協定は直接の関係はない」と否定した(時事 2008/02/12 11:46)。
 一方、外務省の薮中三十二事務次官は、アメリカの臨時代理大使を呼び、「綱紀粛正を再三求めてきたのにも米兵が逮捕されたことは極めて遺憾だ」と強く抗議した。アメリカ側は捜査の全面協力を約束、在日米軍副司令官は「米軍は性的暴力を一切許容しない」と述べたという(共同通信2008/02/12 19:52)。

 こうして並べてみると、何となく日本政府の方向性が見えてくる。
 まず、事件への「怒り」を沖縄と共有しているという姿勢をアピールしていること。これは1995年に、女子小学生暴行事件を機に沖縄で空前の反基地運動が起こったことを念頭に置いて、「反米」が「反政府」に転化するのを防ごうとする意図がある。福田首相らが「過去の類似の事案」に言及したのも、「過去」の苦い記憶を気にしている証である。昨年の教科書検定問題で改めて沖縄の人々の連帯と行動力を思い知ったことも考慮しただろう。沖縄担当大臣に地位協定の見直しに言及させるリップサービスまでやらせている(しかし外務大臣が否定するのも忘れない)。

 次に、事件をあくまでも日米同盟の強化にとって「水を差すものだ」という考え方を前提にしていること。実際は「日米安保体制のせいで事件は起きた」のに、日本政府は「事件が日米安保体制を損なう」という倒錯した論理を用い、アメリカ軍が駐留する体制そのものへの批判が生じるのを避けようとしている。特に米軍再編への影響を恐れているのは、高村外務大臣の発言に顕著で、何とかうまく収まって欲しいという意図が丸見えである。

 そして何よりも問題なのは、事件を起こしたアメリカ軍を批判はするが、「自国民を守れなかった国家責任」については全く触れていないことである。国家が「国民を守る責務」を負っているのならば、駐留軍隊の獰猛な軍人からいたいけな少女を守れなかったのは、国家の名誉にかかわる問題である。それにもかかわらず誰もそのことを問題にしないのは、現行の国家側には「国民」を守る意思などさらさらないことを図らずも示したといえよう。
 首相や防衛大臣の口から、たとえでまかせでも「政府が国民の安全を維持できなかったことは誠に遺憾である」くらいの発言もできないのは、日米安保体制が「日本を守る」という建前とは裏腹に、実際は日本の住民の安全を脅かしていることを認めたくないからである。

 岩国の艦載機移転問題もそうだったが、現在の日米間の安全保障問題の矛盾は、実際に在日米軍が駐留する地域で噴出している。問題はそれらがいずれも個々の地域の特殊な問題として扱われ、全国的な問題に発展しないことである。「地域問題」を「全国の問題」に変えられるかどうかが、日米安保体制の矛盾を是正するための鍵となるだろう。
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by mahounofuefuki | 2008-02-12 22:37

「建国記念の日」について

 今日2月11日は「建国記念の日」である。
 なぜこの日が祝日なのか、どういう起源をもっているのか、どういう過程で祝日になったのか、今やほとんどの人々が何も知らずに、単なる休日としか理解していないだろう。かく言う私もこれが戦前の「紀元節」を復活させたものということは知っているが、そもそも「紀元節」がいつどのように制定されたか、大学の講義で学習したはずなのに、すっかり忘れてしまったので、この機会に手元にある資料で調べてみた。

 「紀元節」の歴史はそう古くはない。他の祝祭日と同様、明治維新後に制定されたものである。
 宮中行事の「神仏分離」により、1871年10月29日に四時祭典定則が制定され、その中で記紀(「古事記」「日本書紀」)神話において初代天皇として創作された「神武天皇」を記念する日として、3月11日が「神武天皇祭」と定められたが、この時点ではまだ「紀元節」はなかった。

 次いで1872年11月15日に政府は太政官布告で、「神武天皇」の「即位」(「日本書紀」が記す「辛酉春正月庚申朔」)を紀元とする「皇紀」を定め、翌年の太陽暦施行に合わせて、旧暦(天保暦)の1月1日に相当する1月29日を「神武天皇」の「即位」記念の祝日とした。1873年3月の布告で、1月29日の祝日は「紀元節」と名付けられた。
 しかし、同年10月に太政官が布告した「年中祭日祝日等の休暇日」では「紀元節」は2月11日に変更されていた(「神武天皇祭」は4月3日に変更)。2月11日になったのは「神武天皇」在位当時の中国の暦を用いて算出した結果とされたが、暦の調査を担当した太政官地誌課長の塚本明毅は後に『三正綜覧』(1880年)の中で、孝元天皇紀9年(前206年)以前は対照する暦がなかったことを認めており、「2月11日」には全く根拠がなかった。
 政府は「紀元節」を重視し、大日本帝国憲法(明治憲法)も1889年2月11日の「紀元節」に発布した。その後1891年「小学校祝日大祭日儀式規程」の制定により、「紀元節」をはじめとする天皇関係の祝祭日には、小学校で「御真影」(天皇・皇后の肖像)への「拝礼」、「教育勅語」の「奉読」、唱歌の合唱などの儀式を行うよう定められ、次第に社会へ定着していった。

 「紀元節」は第2次世界大戦後、1948年の「国民の祝日に関する法律」(祝日法)の制定により廃止されたが、右翼・保守勢力はその復活を終始望み、1957年以降、2月11日を「建国記念の日」とする祝日法改正案が何度か議員立法で国会に上程された。これは成立しなかったが、1966年、内閣提出の改正法案が野党の反対を押し切って成立してしまった。祝日法では通常「国民の祝日」の日付を明記するが、「建国記念の日」は「政令で定める日」と記され、法は日付を決めていない。政府がそんな異例の離れ業を使うほど、当時「紀元節」復活への良心的抵抗が激しかったのである。
 結局、政府お手盛りの「建国記念日審議会」の答申に従い、「建国記念の日となる日を定める政令」が発せられ、翌1967年より2月11日が祝日「建国記念の日」となったのである。

 以上の経過を見ればわかるように、「建国記念の日」及び前身の「紀元節」には何ら歴史的根拠がなく、近代国家が国家統合の手段とするために、古代の「神話」を曲解して「神武天皇」の「即位」日を捏造したのである。最近はこうした事実を語ること自体を「イデオロギー」的と敬遠する向きが強いが、むしろこんな反科学的な祝日を容認することこそ特定の「イデオロギー」に毒されていることをあえて強調したい。

*本稿を書くにあたり、村上重良『国家神道』(岩波書店、1970年)、朝尾直弘ほか編『角川新版日本史辞典』(角川書店、1996年)、高木博志「祝祭日」(原武史、吉田裕編『岩波 天皇・皇室辞典』岩波書店、2005年)等を参照した。ただし文責は言うまでもなく当ブログ管理人にある。

【関連リンク】
国民の祝日に関する法律-法庫
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by mahounofuefuki | 2008-02-11 17:54

「協同労働の協同組合」法制化の動き

 「協同労働の協同組合」の法制化を目指す超党派の議員連盟が2月20日に発足するという。
 以下、読売新聞(2008/02/10 09:32)より。
 参加者が生活するために必要な利益だけ確保する非営利団体「協同労働の協同組合」の法制化を目指し、20日に超党派の議員連盟が発足することが9日、明らかになった。
 フリーター、働いても収入が少ない「ワーキングプア」、既に退職した高齢者などが働くための受け皿となることを期待して、法的根拠を明確にしようというもので、「脱貧困」対策として、今後の取り組みが注目される。
 協同組合はNPO(非営利組織)法人と民間企業の中間的な位置付けの団体。働く人が出資者と経営者も兼ねる形となっており、一口5万円程度の出資金を出して「組合員」として働く事例が多い。出資額に関係なく組合員は平等な権利を持ち、企業のように「雇用者と被雇用者」という関係が存在しない。生活協同組合(生協)の労働版とも言われる。行政からの補助金など、公的支援に頼らない点も特徴だ。
 全国には「協同労働の協同組合」の理念で活動している人が約3万人おり、事業規模は年300億円程度に上るとされる。事業内容は、介護・福祉サービスや子育て支援、オフィスビルの総合管理など幅広い。企業で正規に雇用されない若者や、退職した高齢者などが集まって、働きやすい職場を自分たちの手で作り、生計を立てられるようにすることが最大の利点で、フリーターなどの新しい働き方として期待されている。
 しかし、協同組合の根拠法がないため、形式的にNPO法人などとして活動している事例が多い。協同組合の法制化が実現すれば、寄付に頼るNPO法人よりも財政基盤が強固となり、参入できる事業の規模や種類が拡大すると見られている。また、地方自治体の行政サービスを民営化する際の委託先などになることも想定されている。(後略)
 この「協同労働の協同組合」については、そういうものがあるということは聞いたことがあるが、詳細はよくわからない。ネットでとりあえず調べたところでは、この議員連盟の発起人会が2月1日に行われており、自民、公明、民主、社民、国民新各党の議員が出席している。共産党がいないのは、この「協同労働の協同組合」の法制化を目指している「協同労働法制化市民会議」の会長が前連合会長の笹森清氏であることと関係しているのだろう(共産党が敬遠しているのか、「市民会議」が共産党を排除しているのかは不明だが)。

 貧困問題の背景として、労働者の人間性を否定する厳しい労働環境があるのは確かで、それだけに「雇用者と被雇用者」という関係がないというのは注目に値すると思う。何であれ「日雇い派遣」のような「貧困ビジネス」に頼る働き方から抜け出す機会が創出されることは良いことだ。
 ただし、「公的支援に頼らない」「行政サービスを民営化する際の委託先などになる」というのが気になる。行政が何もやらないのを免罪したり、民営化の道具になってしまうようでは困る。

 いずれにせよ私はよく知らないので、とりあえず検索にかかった関連サイトをリンクしておく。まだきちんと読んでいないので、この件の論評は保留する。


《追記 2008/02/21》

 「協同労働の協同組合」の法制化を目指す超党派による「協同出資・協同経営で働く協同組合法を考える議員連盟」の発会式が20日国会内で行われた。しんぶん赤旗(2008/02/21)によれば、共産党からも複数の国会議員が出席し、国会の全会派が参加することになったようだ。
 故に本文の「共産党が敬遠しているのか、『市民会議』が共産党を排除しているのかは不明だが」の部分は撤回する。関係者及び読者の皆様におわび申し上げます。

【関連リンク】
協同労働法制化市民会議 オープンフォーラム
協同労働法市民会議だより
日本労働者協同組合連合会
ワーカーズコープ労協センター事業団
NPOワーカーズコープ
協同総合研究所
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by mahounofuefuki | 2008-02-10 11:30

詩情あふれる文章を書ける人が羨ましい

 私は子どものころから詩情の欠けた人間で、「国語」の授業でも詩とか短歌とかは苦手だった。
 今も自分の思いを表出させる文才がなく、当ブログでも無味乾燥な分析調になってしまっているのは見ての通りである。だからこそ詩情を表現できる人が羨ましい。
 そんな羨望を感じた先輩ブログの記事を、最近立て続けに読んだ。

 dr.stoneflyの戯れ言:「ほんとのことだけ綴りたい」・・・たかが戯れ言だからこそ
 私がブログをやっていて最近感じる「違和感」を言いつくしてくれている。「政治のための運動なんてしたくない。運動のための運動なんてしたくない。ほんとのことだけ希求したい」という叫びに私は心から共感する。こういう人がいる限り、私は辛うじてこの国に生きる希望を見出せる。

 そいつは帽子だ:アカ、ダメ、イヤの茶色の朝に
 トラックバックいただいた記事だが、その説得力にシビれた。本当の知性を感じた。同じことを私が書いたら、ただ憎悪と悪意をばらまくだけで敵を増やすだけだろう(大阪府知事選挙の時のように)。「“日本人”としての誇り」ではなく「“人間”としての誇り」に自信をもっていなければ決してこういう文章は書けない。

 その場限りでない、長く心に響く文章。ネットの言説もまだ捨てたもんじゃない。
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by mahounofuefuki | 2008-02-09 15:56

民主党は「構造改革」を継承する気か

 昨年の参院選で自民・公明両党が大敗したのは、小泉・安倍政権下の「構造改革」という名の生活破壊政策に対する民衆の不満が爆発し、民主党が唱えた「生活第一」というスローガンに一定程度期待が寄せられたからにほかならなかった。
 しかし、選挙後の臨時国会で、民主党は最低賃金法改正であっさりと公約を捨てて与党の軍門に下り、その「生活第一」を実現する意欲を疑わせた。さらに昨年末には民主党税制調査会が「税制改革大綱」で、消費税の社会保障目的税化を前提とした引き上げを示唆し、これは党のシャドーキャビネットも了承した。民主党の信者以外の誰もが、これでは自民党とほとんど変わらないと考えざるをえない状況が続いている。
 そして昨日、民主党はついにルビコン川を渡ってしまったことが明らかになった。以下、時事通信(2008/02/07 15:11)より(太字強調は引用者による)。
 民主党は7日の予算調査会で、党の財政運営の基本理念をまとめた「予算機能転換法案」の要綱を決定した。消費税率を据え置く一方、徹底した歳出削減に取り組むことで、国の一般会計単独でプライマリーバランス(基礎的財政収支)の2011年度黒字化を目指す。政府・与党よりも高い目標を掲げ、財政再建に向けた強い姿勢を打ち出した。
 民主党は同法案を「政権取得後のマニュフェスト(政権公約)的な予算案」(中川正春「次の内閣」財務相)と位置づけ、今国会に提出する方針。ただ、財源確保の面であいまいな点が多く、説得力のある歳出削減策を打ち出せるかが今後の大きな課題となる。
 基礎的財政収支は、借入金を除いた歳入から借入金返済に関する費用を除いた歳出を差し引いて算出され、政策経費などが借金に頼らずに賄えているかを示す指標。国の一般会計の場合、08年度は5.2兆円の赤字になる見込みだ。政府・与党は、国の赤字を地方の黒字が穴埋めする形で、国・地方合計で11年度の黒字化を目指しており、「国の一般会計単独での黒字化」を掲げた民主党案の方がより厳しい財政改革が必要になる。
 民主党が2011年度までのプライマリーバランスの黒字化を目指す予算機能転換法案を準備していることは、すでに先月報じられていたが(共同通信2008/01/22 13:45など)、今回の決定で民主党が当面は歳出削減路線を強化する方針がはっきりしたと言えよう。これまで政府の経済財政諮問会議が行ってきた路線と同じであり、国が行うべき仕事を放棄する「小さな政府」の立場である。
 消費税の税率を据え置くとしているが、先の「税制改革大綱」でも税率の引き上げは消費税の社会保障目的税化を実現してからと明示し、当面は「消費税率は現行の5%を維持した上で、税収全額相当分を年金財源とする」と述べており、両者に矛盾はない。つまり歳出削減路線を採るからと言って、消費税増税路線を放棄したわけではないことを意味する。そこを見誤ってはならない。

 山口二郎氏が最近消費税増税も視野にした福祉国家論をしきりに唱えていたのは、おそらく民主党の歳出削減路線を採用する動きに対する牽制の意味合いがあったのだろう。しかし、消費税増税では歳出削減に対する牽制には決してなりえない。なぜなら歳出削減論者は根本的に消費税増税を否定しておらず、むしろ消費税増税の露払いとして歳出削減を行っているからである。そして消費税増税も歳出削減も「庶民いじめ」という点では全く同じである。
 政府はすでに福田康夫首相が再三消費税引き上げを示唆しており、自民党内の議論は消費税増税の可否ではなく、消費税引き上げを既定とした上で、年金の保険料方式を維持するか、税方式をどの程度導入するかといった段階に移っている。新自由主義の巣窟と目される経済財政諮問会議も、昨年来とっくに消費税増税の世論操作を始めている。そんな状況で民主党が歳出削減を前面に打ち出すのは、小泉・安倍時代と所入れ替わり、まるで民主党が「構造改革」路線を継承するようなものである。それが参院選の民意と矛盾するのは言うまでもない。

 消費税増税路線も歳出削減路線も「貧困と格差」を解消する方向性をもっていないことは明らかである。必要なのは、歳入においては逆進性の是正と累進性の回復、歳出においては削減ではなく配分の変更である。
 なお、私は以下の財政論を支持している。
 全国商工新聞 第2816号 私たちの主張-全商連(太字強調は引用者による)
(前略) 消費税に頼らなくても財源はあります。資本金10億円以上の大企業の経常利益はバブル期のピークだった1990年度の18・8兆円から2006年度には32・8兆円と史上最高を記録しました。しかし、税負担は13・9兆円から13・7兆円とほぼ同水準にとどまっています。法人税がかつては40%以上だったのが、現在30%に引き下げられた上に、連結納税制度、研究開発制度など大企業に有利な減税制度によるものです。
  法人税を当面、消費税導入前の40%にもどせば5兆円以上の財源が生み出せます。現在40%である所得税の最高税率を引き上げることも必要です。また、利権にまみれて水増しが横行している5兆円もの軍事費、毎年300億円も支給されながら使い切れない政党助成金など、見直しするべきところはたくさんあります。いま問題となっている道路特定財源を一般財源化することや、10年で59兆円も使うことが決まっている道路計画も再検討することが必要です。(後略)

【関連記事】
消費税増税問題に関するリンク
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by mahounofuefuki | 2008-02-08 17:29