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「防衛省改革会議」に「改革」はできない

 「防衛省改革会議」の2回目の会合が今日(12月17日)開かれた。
 この会議は、海上自衛隊の補給艦「ときわ」がインド洋で行った給油量を実際より少なく報告していた問題と、同じくインド洋で給油活動に従事していた補給艦「とわだ」の航海日誌が防衛省の内規に反して破棄された問題を契機に、首相官邸に設置されたもので、すでに12月3日に1回目の会合が行われている。
 1回目の会合では、①文民統制の徹底、②厳格な情報保全体制の確立、③防衛調達の透明性確保の3点を会議の主題とし、来年2月頃に検討報告をまとめることを確認したが(朝日新聞 2007/12/03 12:12)、2回目の今日は福田康夫首相も出席し、自衛隊に対するシビリアンコントロールについて意見交換が行われた。
 以下、東京新聞(2007/12/17 夕刊)より。
(前略) 首相は冒頭、「問題の原因の多くは、防衛省・自衛隊の業務の在り方の基本にかかわっている。出直しのための改革にとって最良の基本的方向性を大所高所から提言してほしい」と述べた。
 会議では、海上自衛隊による給油量訂正隠ぺい問題について「責任の所在が明らかでない。この機会に、防衛省の組織、責任体制の在り方の抜本的見直しが必要」という指摘が出た。
 また、防衛調達の透明性を議論するため、同省OBら調達にかかわったことがある専門家を招いた勉強会を年明け以降に開くことで合意した。
 新テロ特措法案の審議過程で明らかになった給油量虚偽報告問題と航海日誌破棄問題は、すっかり守屋武昌前事務次官の汚職をめぐる軍需利権問題の陰に隠れてしまっているが、今も全容解明に至ったとは言い難く、疑惑の核心は依然藪の中である。虚偽報告も日誌破棄も現場レベルで行われ、政府や防衛省上層部に伝わっていなかったことが問題とされているが、むしろ自衛隊が給油した燃料をテロ特措法に反してイラク戦争に転用した証拠を意図的に隠滅したのではないかという疑惑こそ本当の問題であり、「改革会議」が真にシビリアンコントロールの確立の徹底を目指すなら、この証拠隠滅疑惑こそ追及しなければならない。
 しかし、1回目の会合の資料と今日の報道を読む限り、「改革会議」はあくまでも意図的な隠蔽とは捉えず、問題の所在を単なる官僚機構の責任体制の在り方にすり替えており、私たちの疑念に応える意思はまったくないらしい。こうした会議は年金記録検証委員会の例を見るまでもなく、「政府が改革に取り組んでる」という姿勢をアピールするためのパフォーマンスでしかなく、おそらく当たり障りのない「改革案」を提言して幕を閉じるだろう。まったく税金の無駄でしかない。

 そもそもこの「防衛省改革会議」は、首相官邸主導を強調するために、防衛大臣ではなく、内閣官房長官の直轄の下に置かれてはいるが、人選からして政府の「やる気」を疑わせる。
 構成メンバーは以下の通りである(内閣官房長官「防衛省改革会議の開催について」より)。
五百籏頭 眞(防衛大学校 学校長)
小島 明(社団法人日本経済研究センター 会長)
佐藤 謙(財団法人世界平和研究所 副会長)
竹河内 捷次(株式会社日本航空インターナショナル常勤顧問)
田中 明彦(東京大学大学院情報学環 教授)
御厨 貴(東京大学先端科学技術研究センター 教授)
南 直哉(東京電力 顧問)
 現在の肩書だとわかりにくいが、佐藤氏は元防衛事務次官、竹河内氏は元統合幕僚会議議長であり、いわゆる「背広組」と「制服組」の元トップで、防衛省の「身内」である。五百籏頭氏、田中氏、御厨氏はいずれも実績のある政治学者だが(私も学生時代に彼らの現代政治史の研究書を読んだ)、自民党タカ派に近いと目され、防衛省・自衛隊に対してとても厳しいことを言えるような人々ではない。しかも五百籏頭氏は現職の防大の校長である。また、佐藤氏と田中氏は、安倍政権が現憲法下での集団的自衛権の行使を容認するために設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」のメンバーでもあった。「外部の第三者」と言えるのは、日本経済新聞出身の小島氏と東京電力生え抜きの南氏だけだが、この2人は安全保障問題に関しては「素人」であろう。
 防衛省の「身内」と軍事の「素人」で構成される「防衛省改革会議」にとても「改革」などできるはずがない

 こうなるとやはり国会が国政調査権を最大限に使って疑惑を追及するほかない。参議院での新テロ特措法案の審議は問題が拡散し、政局の道具になっているのが現状だが、単に給油を再開するかどうかという矮小化された議論ではなく、政府・防衛省・自衛隊全体を通した隠蔽体質を追及し、一連の疑惑の根っこにある対米追従の防衛政策そのものを俎上に上げるべきである。
 すでに国会の会期が延長され、新テロ特措法案の時間切れによる再議決が可能になってしまった以上、審議の中身で勝負するしか野党に活路はない。与野党逆転の今こそ機を失ってはならない。

【関連リンク】
防衛省改革会議-首相官邸
防衛省改革会議の開催について*PDF
安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会の設置について-官房長官記者発表
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by mahounofuefuki | 2007-12-17 17:24

防衛省「裏金」報道の意味

 防衛省をめぐる疑惑はもはや底なしの状態となっているが、ついに報償費を裏金としている問題が報じられた。以下、共同通信(2007/12/26 02:03)より(太字は引用者による)。

 防衛省が情報収集を主な目的とする報償費の多くを架空の領収書で裏金化して、幹部や関係部局の裁量で使えるような不正経理を組織ぐるみで長年にわたり続けていたことが判明した。防衛省OBら複数の関係者が15日、明らかにした。報償費は2007年度予算で年間約1億6400万円。裏金が職員同士の飲食経費など目的外に流用された可能性は否めず、新テロ対策特別措置法案の国会審議にも影響を与えるのは必至だ。

 政府は防衛省の報償費について「情報および資料収集、犯罪の捜査に必要な経費」と規定しており、大半は「情報収集」名目で使われてきた。

 関係者によると、裏金工作は数10年間繰り返されてきた。裏金は単年度で使い切れず、プール金は総額で少なくとも数1000万円に上るという。
 電子版ではこれだけの記事だが、共同通信加盟各社に配信された記事では、もっと詳細が記されている。それによると「裏金づくりは大臣官房などが防衛省のOBらの名前を使い情報提供の協力者に見せ掛け、偽の領収書を防衛省職員が大量に作成。具体的には、偽の情報協力者を接待したり毎月現金を手渡したかのように装う架空領収書で報償費から裏金を捻出してきた」という。また「裏金は内局に加え陸海空各自衛隊の関係部局もあり、情報収集名目の交際費などで支出、裏金を管理する「裏帳簿」も用意し原則として領収書を提出させていた」ともいう(北海道新聞 2007/12/16 朝刊)。

 情報提供者や協力者を捏造して報償費を支払ったように見せかけて官庁内部で流用するという手口は、警察の裏金問題と同様である。また使途が非公開の支出を利用した裏金づくりという点では、外務省の職員が機密費を私的流用した事件とも共通する。
 さらに使い切らなかった予算を内部でプールするという手口は、各地の自治体の裏金問題でもありふれたもので、おそらくどの官公庁でも行われている。防衛省も例外ではなかったということだ。

 さて、ここで問題になるのは、なぜこの時期に防衛省の裏金問題が報じられたのか、ということである。今回の共同通信の記事の取材元は「防衛省OBら複数の関係者」ということになっている。ちょうど守屋武昌前事務次官をめぐる汚職が捜査中であることに触発されて、防衛省の汚職体質を一掃したいOBがあえて告発したと考えるのは早計だろう。私にはむしろ裏金問題を持ち出すことで、守屋をめぐる疑惑に集中している世論や国会の視線を拡散させるねらいがあるように思われる。これ以上守屋問題を広げたくない人々(一部の防衛官僚や「国防族」の政治屋や軍需産業)が、あえて裏金というエサを用意して追及の矛先をはぐらかそうとしているのではないか。
 それというのも、過去の官庁の裏金問題はどれをとっても抜本的に解決したものがないからである。警察の裏金問題は、記者クラブ制度を通して警察と相互依存関係にある大手メディアがほとんど報道せず、結局警察庁による全国規模の組織的な裏金システムの全容解明には至らなかった。外務省の機密費問題はさんざん世論の攻撃を浴びたが、結果は田中眞紀子や鈴木宗男らトリックスターの問題にすり替えられ、これまた全容解明と全面改革には至らなかった。裏金はどの官庁にもあるため、やり出したらキリがない。防衛省の裏金問題もうやむやにできるという確信があればこそ、「防衛省OB」はわざとリークしたのではないかと私は疑っている(いざとなれば下っぱ職員をスケープゴートにすれば済む)。

 そして何よりも裏金問題は、現在防衛省をめぐる疑惑を捜査している検察当局にとってもナイーヴな問題である。各地の検察庁には調査活動費という報償費に相当する支出がある。この調査活動費が検察内部の裏金になっているのではないかという疑惑は過去に報じられた。調活費の流用を告発しようとしていた検察幹部が不可解な別件逮捕に至り、結局この問題がメディアではタブーになったことを記憶している人も多いだろう。あえて忖度すれば、今回の裏金問題のリークは防衛省サイドの検察に対する牽制の意味合いもあるような気がする。

 今のところこの防衛省の裏金問題がどう展開するか予測がつかないが(国会で取り上げられるか、全国紙が大きく報じるかどうかで決まる)、十分に注目する必要はあるだろう。
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by mahounofuefuki | 2007-12-16 12:34

トヨタ過労死訴訟で労災確定

 今月に入ってから当ブログの「検索ワード」第1位は断トツで「トヨタ過労死」である。
 といっても私の当該記事は新聞記事を紹介しただけのたいした内容ではないので恐縮なのだが、リンクした記事やトラックバックをいただいた記事はとても優秀なので、そうした記事への入口となれば幸いである。
 この問題を1度しか書いていない当ブログに「トヨタ過労死」で来る人が多いということは、それだけ過労に対する関心が高いということだろう。

 そのトヨタの過労死に労災が認定されなかった訴訟は、トヨタが業務と認めていない時間外活動を業務と断じる判決が出され、原告が勝訴したが、昨日(12月14日)、被告の国が控訴を断念したために判決が確定した。まずは良かったと言えよう。
 タダ働きはトヨタだけの問題ではない。これを機に「サービス残業」を実効的に規制することを望む。

 ただ、過労死に関していつも思うのは、死んでからでは遅いということだ。現在進行形で過労に苦しむ労働者を実質的に助けられる手立てがなければ、どうにもならない。死んでから遺族にはした金を支払って解決ということが続くのは辛い(この問題は下記の関連記事を参照してほしい)。

 過労は今や現代社会の最大の問題である。何で政治課題にならないのだろう?

【関連記事】
相変わらず多い残業代不払い
「過労自殺」は企業による「殺人」である
企業による「殺人」
トヨタ過労死訴訟で画期的な判決
「生きのびるための労働法」手帳

【関連リンク】
全トヨタ労働組合(ATU)
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by mahounofuefuki | 2007-12-15 12:15

政府によるまやかし~消費税・「思いやり予算」・生活保護・薬害肝炎

 この数日ニュースを読んでいると、政府によるまやかしがあまりにも多くて呆れてしまう。本当はそれぞれ個別の問題についてじっくり読み解きたいところだが、そんな暇はないので、簡単にまとめてコメントする。

 第1に、来年度の与党税制改正大綱。
 社会保障の主要な財源に消費税を充てると明記し、将来の引き上げも示唆した。社会保障費の増大に対応するため、消費税の増税が必要だというのが、政府・与党の一貫した言い分だが、全くのまやかしである。社会保障費を消費税で賄うということは、現在社会保障費に充てている消費税以外の財源を別の用途に回すということである。
 現に自民党の財革研の中間報告では、国家財政を社会保障とそれ以外に分けて、社会保障を消費税で賄うと提言している。これは現在の財源に消費税増税分を上乗せするのではなく、消費税以外の財源を社会保障以外の目的に回すことを意味する。その浮いた財源が公共事業に使われるか、軍事費に使われるか、企業減税に使われるかは不明だが(その財源を巡って権力闘争が始まるだろう)、「社会保障のための消費税増税」の真相は、消費税以外の現用の社会保障財源を分捕り合戦なのである。

 第2に、アメリカへの「思いやり予算」削減。
 日本が負担する在日アメリカ軍の駐留費用「思いやり予算」は3年間で8億円の減額が決まったが、これは成果でも何でもない。当初、日本側は年間1400億円の減額を要求していたこともあるが、むしろ問題は減額分のカネの行方である。
 「思いやり予算」は大枠では防衛関係予算だから、減額分8億円は枠を超えて他の分野に使われることはない。今回、日本側が大幅減額を要求したのも、その減額分でミサイル防衛を賄おうとしたからである。8億円は確実に軍事費に回る。すでに日米の軍事一体化が進んでいる以上、「思いやり予算」が減っても、日本の軍事費が増えるのではたいした違いはない。
 ついでに言うと、政府・与党からは、インド洋での給油活動からの撤退が、「思いやり予算」における日本の交渉力を弱めたという恨み節が出ているが、とんでもない言いがかりだ。アメリカ政府は日本が給油していようがいまいが、要求に手心を加えるような「優しい国」ではない。8億円でも減額に応じたのは、ここでゴネて日本国内の反米感情を高めるのは得策ではないと判断したからで、むしろ給油活動を実際にやめたからこそ、アメリカ側は折れたと言えよう。

 第3に、生活保護給付の引き下げ。
 厚生労働省は当初、生活保護基準を一律で引き下げようとしていたが、批判が相次ぎ、来年度予算で給付の総額を維持する方向転換をした。しかし、これは「引き下げの先送り」でしかない。小泉政権の置き土産である「骨太の方針2006」が毎年2200億円の社会保障費削減を定めている以上、来年度に引き下げを行わなくても、再来年度以降に引き下げが行われる。
 だいたい今回一律引き下げこそ見送ったものの、都市部では引き下げ、地方では引き上げるという小細工を弄している。都市部こそ最低賃金と生活保護の「逆転」が著しく、自立するだけの収入を得られない「ワーキングプア」が多いのに。あえて予言するが、今回都市部をまず引き下げておいて、次回に地方の平均給与が下がったとか何とかと難癖をつけて、地方の給付も引き下げる腹積もりだろう。まったくの子ども騙しだ。

 第4に、薬害肝炎問題。
 政府と製薬会社はなかなか全員の救済に応じないが、この問題については以下の記事を参照。
 薬害C型肝炎:「全員」でも補償可能 原告側分析-毎日新聞(2007/12/13 21:59)
 要するに政府が全員の補償に応じないのは、カネの問題ではなく、単なる面子の問題だということだろう(厚労省は患者リストを倉庫に放置した責任を結局自己免罪した)。

 近年の政府は、とかく論点のすりかえや肝心な事実の隠ぺいによって、大衆を騙そうとしている。もういいかげんにしてほしいものだ。
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by mahounofuefuki | 2007-12-14 16:41

南京大虐殺を告発して「自決」した軍人

 今日12月13日は、日中戦争のさなか日本軍が中国の南京を陥落させてから70周年にあたる。
 周知の通り、日本軍は南京への進軍から南京城内外での戦闘、さらに陥落後の占領に至る過程で、多数の捕虜、投降兵、敗残兵、住民の老若男女らを虐殺、強姦し、放火や掠奪の限りを尽くした(南京大虐殺)。残念ながら日本ではいまだにこの事件を否定しようとする人々が後を絶たないが、南京大虐殺は現地軍の軍人の日記や出征部隊の日誌などからも実証されている厳然たる事実である。

 ところで、今年9月に発売された『世界』10月号に、評論家の日高六郎氏の「戦後の憲法感覚が問われるとき」というインタビュー(聞き手は保坂展人氏)が掲載されていたが、その中で、敗戦直後に「自決」した高級軍人が遺書で南京大虐殺に言及しているという話がずっと気になっていた。もしかすると有名な話なのかもしれないが、私は初耳だったので調べてみると、確かに日高氏が1960年代に編纂した敗戦前後の言論を集めた資料集にその遺書が載っていた(日高六郎編『戦後日本思想大系1 戦後思想の出発』筑摩書房、1968年)。

 その軍人とは親泊朝省(おやどまり・ちょうせい)という人である。1903年沖縄生まれ、陸軍士官学校の第37期生で、騎兵科を首席で卒業した俊英だったという。アジア・太平洋戦争の戦局の転換点となったガダルカナル島の戦闘に第38師団の参謀として従軍、1944年からは大本営陸軍部の報道部に勤務し、敗戦時には報道部長で終戦処理にも関与した。日本政府と軍が降伏文書に調印した1945年9月2日、自ら妻子を殺害し、自身も自殺した。死の直前、8月20日付で「草莽の文」と題する遺書を書き、陸軍の関係者に配布した。
 日高氏によれば、親泊の弟と日高氏の兄が親友だった関係で遺書を入手し、資料集に紹介したという。遺書の内容は「皇国の天壌無窮を絶対に信ずる」という典型的な皇国史観に彩られており、「大東亜戦争は道義的には勝利を占めたが、残念乍ら国体の護持は困難になった」といった精神主義色が濃厚な代物だが、日本軍の行為に対する反省の弁を述べている点に特徴がある。以下、その反省の部分を引用する。そこで南京大虐殺にも言及している(太字は引用者による)。
(前略)
 明治維新なって建軍の本義漸く明らかになり、国運之に伴って隆々とし来り、国軍の威容重きをなすに従って、我等軍に従うものまた自ら反省すべきものがあったのではなかろうか。
 軍の横暴、軍の専上と世に専ら叫ばれることに就て、私は自ら反省して自らはずべきこと少なからざるものあるを悟るのである。
 例えば、満州事変、支那事変の発端の如き、現地軍の一部隊、一幕僚の独断により大命をないがしろにした様な印象を与え、満州事変以来みだりに政治に干与して事更に軍横暴の非難を買うが如き態度を示したが如きはそれである。
 また外征軍、特に支那に於て昭和十二、十三年頃の暴状は遺憾乍ら世界各国環視の下に日本軍の不信を示したといえる。即ち無辜の民衆に対する殺戮、同民族支那人に対する蔑視感、強姦、掠奪等の結果は、畏れ多き事ながら或る高貴な方をして皇軍をして蝗軍と呼ばしめ奉るに至ったのである。
 斯くて皇軍の権威は地を払い、我が陸軍は海軍とも相克対立を示すに至っては、官は軍を離れ、民も亦漸く軍を離れる次第となったのである。(後略)

 *親泊朝省「草莽の文」(日高六郎編『戦後日本思想大系1 戦後思想の出発』筑摩書房、1968年)p.p.67-68より。用語や仮名遣いに今日では不適当なものがあるが、原文のままとした。
 「昭和十二、十三年頃の暴状」とは言うまでもなく1937-38年の南京戦及び占領下での日本軍の行いを指す。また、日高氏によれば日本軍を「蝗」=「イナゴ」と呼んだ「或る高貴な方」とは皇族の東久邇宮稔彦(ひがしくにのみや・なるひこ)王だという(東久邇宮は敗戦後、昭和天皇の要請で首相となるが、政府・軍の戦争責任を曖昧にした「一億総懺悔」論を唱えて反発を呼び、さらに強力な占領改革についていけず短命政権で終わった)。

 注目すべきは、この遺書は連合国の占領が始まる前に書かれたものであり、その頃日本国内で南京大虐殺を知っていたのは、実際に南京戦・占領に参加した軍の将兵と政府・軍の高官以外にはほとんどいなかったことである。一般の人々がまだ真実を知らず、国家も隠蔽を続けていた時期に事件を告発した意味は大きい。
 妻子を道連れに「自決」するような身勝手さや、今日から見れば時代錯誤な国家観・歴史観はともかく、「大日本帝国」と日本軍の再建を願うが故に、自軍の「汚点」をあえて告発した親泊と、自己が信じる「物語」のために史実を一向に認めようとしない現在の歴史修正主義者との間には、深い溝があるように感じるのは私だけだろうか。

 奇しくも今日、欧州連合(EU)議会が「従軍慰安婦」問題に関し、日本政府に清算を求める決議を行う見通しである。EU加盟国では、特にオランダ人女性が日本占領下のインドネシア(旧オランダ領東インド)で「慰安婦」にされており、オランダ議会が日本に謝罪要求決議を行っている。「慰安婦」制度は南京大虐殺における強姦の多発がきっかけで広がった以上、両問題は密接に関係している。史実を受け入れない日本政府と多くの日本人に対する諸外国の視線は依然厳しい。改めて過去に目を閉ざすことのないよう願う次第である。

 なお、親泊朝省については、澤地久枝 『自決 こころの法廷』(日本放送出版協会、2001年)が詳しい。

【関連リンク】
はてなリング-歴史修正主義に反対します
親泊朝省-歴史が眠る多磨霊園
親泊(おやどまり)朝省大佐一家の自決-絵日記による学童疎開600日の記録
親泊(おやどまり)朝省大佐の自決-上田博章@昭和8年.COM学童疎開
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by mahounofuefuki | 2007-12-13 21:23

エム・クルーの偽装請負・賃金ピンハネ問題と「成金」イデオロギー

 建設請負会社エム・クルーの日雇い派遣労働者の労働組合エム・クルーユニオンが、エム・クルーの賃金不払いと偽装請負を東京労働局に申告した(毎日新聞 2007/12/12 22:02)。
 10月1日に結成されたエム・クルーユニオンは、同社が「安全協力費」「福利厚生費」の名目で賃金から1回あたり300~500円をピンハネしている実態を告発し、会社側にピンハネ分の全額返還を要求している(産経新聞 2007/10/01 18:43など)。人材派遣大手のグッドウィルやフルキャストと同様の手口で、貧困者を食い物にした「中間搾取」だが、エム・クルーはいまだ返還に応じておらず、偽装請負も否定している。

 エム・クルーの実態については、Moyai Blog エム・クルーユニオン結成がわかりやすいので一部引用する(太字は引用者による、他の引用文も同じ)。
(前略)エム・クルーと聞いても、ピンとこない人が多いかもしれないが、レストボックスと言えば、「聞いたことがある」と言う人もいるのではないだろうか。「元ホームレス社長」前橋靖(おさむ)氏が経営し、「フリーターに夢を」と謳っている会社だ。レストボックスとは、家のないフリーターが安く宿泊できる安ホテル。エム・クルーはレストボックスを運営しつつ、そこに泊まっている人にも泊まっていない人にも、日雇仕事を紹介している。

しかし、その仕組みは、エム・クルーの自己宣伝とは裏腹に、怪しいところが満載だ。まず、フルキャストが返還し、グッドウィルも2年分については返還すると約束している使途不明の違法天引き金額が、エム・クルーの場合500円にのぼる。フルキャストが250円、グッドウィルが200円だから、破格の高さだ。

そして、紹介される仕事先は、ほとんどが建設現場。建設現場への労働者派遣は法律で禁じられているから、エム・クルーはこれを「請負」と主張しているが、それならばエム・クルーが現場の担当部署を管理・運営しなければならない。しかし実際には、送り込まれた先の会社の指揮下に入っている。つまり、違法派遣をごまかすための偽装請負だ。

私もエム・クルーに登録して働きに行ったが、最初に送り込まれた現場は、私一人で、完全に派遣先の会社の指揮下に入って仕事をした。私立学校の宿舎改修現場だった。初めての人間がたった一人で、担当部署を管理・運営することなどありえない。間違いなく偽装請負だった。そして、ちゃんと?500円が天引きされている。(後略)
 また、11月27日の参議院厚生労働委員会で共産党の小池晃議員がエム・クルーの問題を取り上げている。以下、参議院会議録情報 第168回国会 厚生労働委員会 第8号より。
(前略)
○小池晃君 それから、最低賃金制度にかかわってお聞きしたいんですが、資料をお配りしております、三枚目以降を見ていただきたいんですが、建設請負会社のエム・クルー、これはネットカフェ難民を扱う会社として登場して、社長がホームレスだったこと、あるいは竹中平蔵さんと非常に仲がいいというか、そんなことでも話題になっています。これは、都内主要駅ほとんど、レストボックスという二段ベッドの宿舎を提供して、簡易宿泊と建設請負の仕事紹介をセットにして営業している、そういう企業です。
 この会社で働いている労働者が今年十月労組を作りまして、安全協力費とか福利厚生費の名目で最大一日五百円の天引きが同意なく行われているということで全額返還を求めております。
 お配りしたのは、この会社の建設会社に対して向けたチラシと、それから労働者に向けて出した案内。これを見ますと、建設会社が支払う料金というのは一日一人当たり、これキャンペーン中なんでちょっと安いんですが、組合によりますと、一日一人当たり一万二千三百八十円なんです。ところが、二枚目見ていただくと、労働者に対する賃金見ると、これ七千七百円なんですね。問題の経費五百円ここから引きますから手取りで七千二百円、もう実にマージン率が四二%ということになるわけです。
 これ、時給換算すると九百円で、まあ最低賃金はクリアしているかもしれません。しかし、料金の六割程度の賃金で、しかも交通費込みだと。宿泊費、これは千八百円取られるんで、残るのは五千四百円。これ、宣伝では、エム・クルーで働いて頑張れば部屋が借りられるようになる、こう言っていますけど、これでは生きていくのが精一杯ではないかなというふうに思うんですね。
 最賃がやっぱり低いことがこういう事態を生んでいる原因の一つにもなっているのではないかと思うんですが、この会社、建設請負で派遣事業法の登録していません。しかし、実際には他社の工事現場に労働者を送る、実態としては労働者派遣。元々、建設は禁止されているはずなんです
 大臣、今こういう貧困ビジネスというのが大きく広がっているんですね。宿泊施設付きの派遣や請負、こういう事態について実態把握がされているのか。もし把握していないのであれば、私は派遣法や労基法に基づいてきちっと調査すべきだと思いますが、大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(舛添要一君) 今は一つ個別の案件を御引用なさいましたけれども、一般的に、基本的には労働関連の法令に違反したところに対してはきちんと厳正な処置をやると、そういう方向で我々はやっていっているし、今後ともその方向は曲げないでやっていきたいというふうに思っております。
○小池晃君 いや、そういう一般論じゃなくて、こういう貧困ビジネスというのはかなり大きなトレンドになってきている中で、厚生労働省としてもこれはやっぱり一定の問題意識持って調査をするという態度、必要じゃないですか。
○国務大臣(舛添要一君) その点も含めまして、先ほど来のほかの委員の先生方にもお答えいたしましたけれども、九月から労働政策審議会において、そういう点も含めて派遣労働の在り方について再検討を加えるということをきちんとやっておりますので、その結果を踏まえて必要な対処をいたしたいと思います。(後略)
 労働者派遣法が禁じる業種での派遣をごまかすために、「派遣」ではなく「請負」と言い張るのは近年の偽装請負の最も典型例だが、ピンハネ金額がハンパじゃない。経営者の悪質さは天下一品だ。
 
 引用記事でも触れられているが、このエム・クルーは創業者(社長)が「元ホームレス」であることを売り物にし、同じような境遇にある若者を応援する「ソーシャル・ベンチャー」をうたっている。
 以下、エム・クルーのホームページの前橋靖社長のメッセージより。
 社長メッセージ-エム・クルー
(前略) 私は、高校卒業後、定職に就かずに夢を追いかけプロサーファーを目指しておりましたが、挫折して車上生活者となりその後上京し、気がつけばヤングホームレスという生活を2年近く経験致しました。私も含め、夢を求めて上京しても、その後、自己表現できるような職にめぐり合えず仕方なくフリーターを続けている人がほとんどというのが現実です。 そこで、求職者やフリーター(定住先を求める)が自己啓発やモラールを身につけていけるような環境を提供し、次のチャンスを獲得できるよう応援したいと考え、「フリーター・求職者支援」事業を立ち上げました。

 2006年12月にバングラデシュのグラミン銀行とその設立者であるムハマド・ユヌス氏が、貧困層のひとびとの経済的・社会的発展への貢献が評価され、ノーベル平和賞を受賞しました。同銀行はマイクロクレジットと呼ばれる貧困層を対象にした少額無担保融資を行う新しいモデルをバングラデシュで構築しただけではなく、それを世界に広げ、世界の貧困削減に大きく貢献しました。ソーシャル・ベンチャーを標榜するエム・クルーとしましては、今回の受賞を心より祝福すると同時に、社会問題をビジネスの手法で解決する「社会起業家」が世界的に注目されていることを真摯に受け止めております。ムハマド・ユヌス氏と同様に、貧困層を対象とする当社のビジネスを今後も強力に展開することにより社会に貢献する所存であります。(後略)
 ムハマド・ユヌス氏はこんな所で自分の名前が使われているとはつゆ知らないだろう。実際に貧窮者の自立を実現してきたグラミン銀行と、労働者を貧窮状態に置いたまま搾取を繰り返すエム・クルーでは天と地の差だ
 
 ところで私が思うに、前橋氏のような「成り上がり者」ほど「上」に甘く「下」に厳しいような気がする。たとえば消費者金融の経営者には自身が債務で苦しんだ者も少なくない。自分が他人を蹴落として「成功」した自負から、かつての自分のような「下流」には自分と同じ「努力」を求める一方(「成功者」はたいてい自分の「努力」だけで成り上がったと思い込みがち)、「上流」に対しては単純な羨望の眼差しを送り、ひたすら仲間入りを目指す。それが一般的な「成金」の姿だろう。前橋氏も竹中平蔵氏のような「セレブ」と昵懇になれて有頂天なのだろう。
 問題は、社会の平等化など考えもせず、階級社会と「弱肉強食」を絶対の所与の条件として、その中で「セレブ」になる夢を追うという考え方が、「下流」の人々にも広がっていることにある。このイデオロギーに立てば、彼らにとって支配階級は「憧れの的」であって、怒りの対象とはならない。「下流」ほど自民党を支持したがる傾向や、「左」を忌避する傾向とも共鳴しているのではないか。
 エム・クルー社長の前橋靖氏の存在は、現在の階級社会の問題性を考える上で、格好の素材だと思う。この問題は別の機会に取りあげたい。

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日雇い派遣にアブレ手当
民間給与実態統計調査
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by mahounofuefuki | 2007-12-13 12:45

共産党のビラ配布に対し不当判決

 共産党の「都議会報告」などのビラを東京都内のマンションのドアポストに配布していた人が住居侵入罪に問われていた訴訟で、東京高裁は一審の無罪判決を破棄し、被告に罰金5万円の支払いを命ずる不当判決を下した。
 昨年8月に東京地裁が下した一審判決は「防犯意識の高まりなどを考慮しても、ビラを配布する目的で昼間に短時間立ち入ることすら許されないという社会通念が確立しているとはいえない」(読売新聞 2007/12/11 20:36)と奥歯にものがはさまったような物言いながら、至極当然の内容だったのに対し、今回の控訴審判決は「住民は住居の平穏を守るため部外者の立ち入りを禁止できる」とマンション管理組合がビラ配布を禁止していたことを認め、「被告は立ち入りが許容されていないことを知っており、住居侵入罪が成立する」と断定し、さらにビラ配布の「目的自体に不当な点はない」としながら「表現の自由は無制限に保障されるものではなく、他人の財産権を不当に害することは許されない」(毎日新聞2007/12/12 朝刊)と財産権が表現の自由に優先するという不可解な内容である。

 この事件は、表向きは「住居侵入罪」だが、実態は共産党をはじめとする政府に批判的な政治活動に対する活動妨害を公認しようとしている点に問題がある。立川の自衛隊官舎に自衛隊のイラク派遣に反対するビラを配った運動家もやはり住居侵入罪で逮捕、異例の長期拘束を受けたが(しかもやはり控訴審が有罪判決を下し係争中)、企業のセールスや訪問販売などが大手を振って立ち入りしているのに、政治活動それも現政府に批判的な活動だけが検挙されている事実は、問題の所在を端的に示していよう。
 今回の判決はビラ配布が住民の財産権を侵害したと断じているが、具体的にどう侵害されたのか言及していない(しんぶん赤旗 2007/12/12)。財産権云々はいかにも牽強付会で、裁判官の行政権力への迎合ぶりが際立っている(池田修裁判長はこの判決が「評価」されて次期異動で「栄転」するだろう)。住居侵入で通報した住民、逮捕した警察官、起訴した検察官、有罪判決を下した裁判官に共通するのは、表現の自由が民主主義の前提であることへの無自覚であり、既存の権力秩序に従ってさえいれば「幸せ」に生活できるという「小市民的保守主義」への依存である。20年前ならとうてい起訴などされないような案件が、保守的な大衆と警察権力と司法権力の合作によって「事件」に仕立てられること自体、すでにこの国の民主主義が崩壊していることを象徴している。

 ちなみに私の住居には、共産党も自民党も民主党も公明党もビラを配布していく(選挙中には「怪文書」も)。たとえば「公明新聞」なんて普段は読めないので、ビラと一緒に置いてもらえるのは「敵情視察」に使えるのでありがたい。共産党のビラを見たくないからと言って警察に通報した反共住民は、そういう寛容さも持ち合わせていないのだろう。非常に偏狭だ。
 最近は自分と異なる意見を読むことを厭う人々が増えているような気がする。「異論の共存」を認めないことからファシズムは生まれる(故に一部の左翼ブロガーの「ネトウヨを逮捕せよ」といった言に私は与しない)。現在の日本の言論状況が閉塞しているのも、そのあたりに原因があるように思う。

 いずれにせよ、特定の政党への弾圧を公認する今回の判決は明白な憲法違反であり、とうてい容認できない。被告は即日上告したので訴訟の舞台は最高裁へ移るが、最高裁が無罪判決を下すよう強く願う次第である。

【関連記事】
「アカの壁」を越えるために

【関連リンク】
葛飾ビラ配布弾圧事件 ビラ配布の自由を守る会
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by mahounofuefuki | 2007-12-12 13:07

独立行政法人には必要な業務がたくさんある

 独立行政法人(独法)の整理・合理化の動きが重大な局面を迎えている。
 12月下旬に予定している「独立行政法人整理合理化計画」の策定は、閣僚折衝の不調により、来年にずれ込む可能性も報道されている。マスメディアの多くは相変わらず「改革」を進める渡辺喜美行政改革担当大臣をヒーローに仕立て、独法の統廃合や民営化に反対する各省庁を「抵抗勢力」として描いているが、これはかの郵政民営化の構図と同じである。独法=「税金の無駄」「高級官僚の天下りの受け皿」という一方的なプロパガンダを繰り返し、多くの大衆は例のごとく公務員への嫉妬からそれに同調し、「独法なんか全部廃止してしまえ!」という暴論を支持する始末である。
 始末に負えないのは、郵政民営化に反対し、日頃から小泉流「構造改革」を批判している人々も独法の統廃合や民営化にはなぜか黙殺していることで、なかには高級官僚への憎しみからむしろ民営化論に同調している人々も少なくない。一体、郵政民営化で何を学んだのか? 民営化すれば天下りが無くなると思い込んでいるとしたら、あまりにもおめでたすぎるし、独法にどんな機関があるか、どんな仕事をしているかまったく調べもせず、ただ何となく「無駄だ」と考えているとすれば単なる不勉強である。

 現在、独法は公務員型の特定独立行政法人が8、非公務員型の非特定独立行政法人が94もある。こんなに独法が増大したのは小泉内閣が「小さな政府」を唱え、国が所管していた様々な機関をまとめて独法にしてしまったからである。その目的は歳出削減であり、独法の多くは職員の身分が安定性を欠く非公務員型組織になった。さらに国の機関から法的には一法人となったことで納税義務も生じ、「業績」によって予算配分を左右される「成果主義」が導入された。
 注意しなければならないのは、小泉政権は独法をあくまでも「廃止・民営化」の一里塚と考えていたことで、行政改革推進法は第15条で、2006年度以降「国の歳出の縮減を図る見地から」独法を見直すようわざわざ法律で義務付けているのである。
 政府が策定を急いでいる「独立行政法人整理合理化計画」は、今年6月に経済財政諮問会議が定めた「経済財政改革の基本方針2007」(いわゆる「骨太の方針2007」、例の「美しい国」へのシナリオと銘打った噴飯物の文書)に従ったものである。「骨太の方針」は、独法「改革」の3大原則として「官から民へ」「競争原則」「(他の構造改革との)整合性原則」を提示し、存続する場合もすべての事業に「市場化テスト」を導入することを示唆、その上ですべての独法について「民営化や民間委託の是非を検討」するよう命じ、12月下旬までの「計画」策定を政府に求めている。
 独法整理・合理化の主張が、郵政民営化と同じく、「小さな政府」論を前提にする市場原理主義路線を踏襲しているのが明白だろう。

 一般に独法というと、安倍内閣の松岡利勝農水大臣の汚職で有名になった緑資源機構のような「胡散臭い」イメージがあるが、実際は造幣局、国立印刷局、国立文化財機構など明らかに市場原理にそぐわず、国が責任をもって業務を行うべき機関も多い。以前、当ブログでも紹介した国民生活センター(消費者相談、商品テストなどを行う)や労働政策研究・研修機構(労働問題、労働環境の実態調査など行う)も、民営化すれば公平な立場を維持することは難しい。
 最近、問題になっているのは都市再生機構である。同機構は全国に公団住宅を保有しており、これらは主に低所得者向けの賃貸住宅として機能している。12月6日には東京で公団住宅の入居者らが都市再生機構民営化に反対する集会を開くなど、不安が広がっている(毎日新聞 2007/12/06 21:11)。そして、実際に今日になって公団住宅を5万戸削減するという報道が出ている(朝日新聞 2007/12/11 09:14)。民営化されれば老朽化した住宅を売却したり(住民は追い出される)、家賃を引き上げたりする可能性が高い。民営化論は公団住宅の土地を狙う企業の要求であり、「弱者つぶし」以外の何者でもない。
 また、男女平等政策の拠点である国立女性教育会館も統廃合の危機にある。この件では各地の女性議員らが反対の署名運動を行っている。
 みどりの一期一会 「国立女性教育会館の単独存続を求める申し入れ書」の呼びかけ
 以前も当ブログで紹介した労働政策研究・研修機構の統廃合に反対する研究者らの署名活動も続いており、あわせて参照していただきたい。
 JILPT廃止反対要望書への賛同署名及び転送のお願い-玄田ラヂオ


 ほかにも奨学金事業を行う日本学生支援機構(旧「日本育英会」)が、返済の滞納の増加により、奨学金の貸出を減らすという報道もある。今回は同機構の民営化が俎上に上がってはいないが、いつ奨学金事業の民営化論が出るかわからない。言うまでもなく教育機会の均衡化のために国営の奨学金は絶対に必要である。おそらく他にもまだまだ国が行うべき業務を担う独法があることだろう。
 必要なのは、独法の廃止や民営化ではなく、公共性を有する事業は国が責任をもって行うことであり、そのためには必要な独法を再び国の直轄機関に戻すことだ。現に国立公文書館は、文書管理制度の確立を国会議員としてのライフワークとする福田康夫首相の「鶴の一声」で、独法から国の機関に戻りそうである(毎日新聞2007/12/08朝刊)。採算性だけを基準にした不毛な民営化論議をやめて「骨太の方針」を廃棄し、改めて独法の中から公共性を基準として、国の機関に戻すことを検討して欲しい。

【関連記事】
独立行政法人=「悪」ではない!

【関連リンク】
総務省行政評価局 独立行政法人一覧
行政改革推進本部事務局ホームページ
経済財政改革の基本方針2007 について*PDF
独立行政法人整理合理化計画の策定に係る基本方針について[要旨]*PDF
国民生活センター
国立公文書館
国立女性教育会館
都市再生機構
日本学生支援機構
労働政策研究・研修機構
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by mahounofuefuki | 2007-12-11 22:41

生活保護切り下げ見送り? (追記:やはりまやかしだった)

 管見のところでは産経新聞しか報道していないが、政府が来年度の生活保護基準の引き下げを見送る方針を固めたという。にわかには信じがたいが。
 以下、産経新聞(2007/12/09 22:10)より。
 政府・与党は9日、平成20年度から引き下げを検討していた、生活保護費のうち食費や光熱費など基礎的な生活費となる生活扶助の基準額について、見送る方針を固めた。ただ地域間の基準額の差を実態に合わせ縮小するなどの微修正は行う。生活保護費全体の総額は維持される見通しだ。

 生活扶助基準額をめぐっては、厚生労働省の有識者検討会の報告書に基づき、20年度から引き下げが有力視されていたが、格差問題がクローズアップされる中、野党の反対は根強く、与党内からも「引き下げでは国民の理解が得られず、次期総選挙を戦えない」との声が広がっていた。
(中略)
 厚労省は「勤労意欲を減退させかねない」として、実態に合わせて来年度から基準額を引き下げる方針だったが、最低賃金の底上げに逆行するなど影響が大きく、野党だけでなく与党内からも疑問の声が続出。福田康夫首相も「政府部内や政党での議論を見て判断する」と述べ、引き下げを慎重に判断する考えを示していた。
 事実とすれば、相次ぐ批判の声が政府の既定方針を覆したことになるが、以前ブログで指摘したように、経済財政諮問会議の「骨太の方針」が生きている限り、生活保護の切り下げはいつでも起こりうる。
 仮に今回の予算編成で見送られても、翌年度に先送りになるだけの可能性が高く、依然として危険なことに変わりはない。また、来年度の生活保護に関する歳出総額が維持されるとすれば、代わりに別の社会保障分野の歳出が削減される危険性もある。「骨太の方針」が年間2200億円の社会保障費削減を義務づけているからだ。決して手を緩めることなく、政府の「社会保障つぶし」に対する反抗を続けなければならない。


《追記》

 読売新聞(2007/12/10 13:20)によれば、「厚労省は、級地の違いによる基準額の差の縮小を引き続き検討する方針だ」という。地域の物価水準により生活扶助額に差があるが、これを縮小するということだ。要するに地方に合わせて、都市部の生活保護給付を削減する可能性が高い。これでは事実上の引き下げである。
 なお、生活保護問題対策全国会議が、2月10日付で緊急声明を発し、厚労省のいう「級地格差」のまやかしを実証的に批判している。ご一読を。
 生活保護問題対策全国会議blog [ 緊 急 声 明 ]「級地」の見直し(生活保護基準切り下げ)も許されない!


《追記 2007/12/13》

 やはり危惧した通り、「地域間格差」の是正を口実に、都市部では生活保護基準を引き下げるようだ。朝日新聞(2007/12/13 08:01)や北海道新聞(2007/12/13 20:46)によれば、約8400億円の歳出総額を維持した上で、地域ごとの配分を変えるという。上記の生活保護問題対策全国会議の声明が指摘するように、これでは実質的な引き下げである。
 最も貧困者の多い都市部への狙い撃ちは、政府に貧困を解決する意思がないことを示す。引き続き「弱者つぶし」に反抗の声をあげねばなるまい。

【関連記事】
新たな「棄民政策」
「ネットカフェ難民」排除の動き
民間給与実態統計調査
最低賃金法改正案・労働契約法案における民主党の妥協
最低賃金と生活保護-北海道新聞の記事より
生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策
生活保護基準引き下げは小泉が与えた「宿題」

【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第4回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第5回資料
生活扶助基準に関する検討会報告書(案)*PDF
生活扶助基準に関する検討会報告書参考資料*PDF
厚生労働省:平成18年度社会福祉行政業務報告(福祉行政報告例)結果の概況
経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006*PDF
社会保障予算~歳出削減と制度構築の在り方~-厚生労働委員会調査室 秋葉大輔*PDF
生活保護問題対策全国会議blog
生活保護問題対策全国会議
特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター もやい
反貧困ネットワーク
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by mahounofuefuki | 2007-12-10 11:42

「真珠湾攻撃」より「マレー侵攻」の方が先だ~「12月8日」考

 今日12月8日は、大日本帝国がアメリカ・イギリス・オランダに対する戦争を開始してから66周年の日である。
 1941年12月8日(日本時間、アメリカ時間では7日)、太平洋上の日本海軍がハワイの真珠湾を空爆して戦争が始まった、とされる。この奇襲攻撃により、日本側の日米交渉打ち切り通告が攻撃よりも遅れたこともあって、アメリカの厭戦世論は消えて全面戦争へ発展したことは、よく知られている。今に至るも「真珠湾」はアメリカにとって第2次大戦の最もシンボリックな日であり、他方の日本でも「真珠湾」を巡って、日本の「だまし打ち」の「汚名」を何とかして返上しようと、主に靖国史観や歴史修正主義の信奉者がアメリカがわざと日本に攻撃させたという類の「陰謀論」を書きたてている。

 ところで、私は昔からずっと疑問に思っていた。なぜ、アジア・太平洋戦争は「真珠湾攻撃」によって始まったことになっているのか?
 それというのも、日本海軍の機動部隊がハワイへの第1次攻撃を命じたのは、12月8日午前3時19分(日本時間、以下同じ)だが、同じ日に日本陸軍がイギリス領マレー半島(現在のマレーシア)のコタバルに上陸したのが午前2時15分だからである。つまり、「真珠湾攻撃」より約1時間早く、日本軍はマレー半島への侵攻を開始しているのである。 日本政府はイギリス政府に対して何ら通告を行っていない。「真珠湾」が「だまし打ち」だろうとなかろうと、少なくとも日本はイギリスに対しては完全な一方的奇襲を敢行しているのである。
 ほとんどの歴史書は、その立場にかかわらず、戦争を「真珠湾攻撃」から語り始める。そして12月8日といえば「真珠湾の日」と記憶されている。しかし、時間の順序からいえばマレー半島侵攻から叙述を始めるべきではないのか。この問題について書いている一般向けの本は、管見の限りでは、一橋大学教授の吉田裕氏の近著くらいである。

 この現象は「真珠湾攻撃」を特別視するアメリカの歴史観の影響ではないのか。日本の正当性を言いたて、アメリカの不当性を強調する人々も、こと叙述においてはアメリカの影響を受けて「真珠湾」から書き始めるのは皮肉である。
 アジア・太平洋戦争は「真珠湾」からではなく、「マレー」から始まった。この事実を認識している人がどれほどいるのか心もとない。
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by mahounofuefuki | 2007-12-08 20:14