2008年 06月 26日 ( 2 )

社会保障切り捨て路線の是非と生存権裁判

 生活保護給付の老齢加算母子加算の廃止・減額は憲法第25条の生存権保障規定に反するとして、受給者らが自治体を訴えていた「生存権裁判」のうち、東京地裁の老齢加算廃止違憲訴訟の判決が下った。結果は残念ながら原告の請求棄却であった。

 この訴訟は単に生活保護受給者の問題ではなく、「構造改革」路線のもとで強力に進められている社会保障切り捨て政策そのものを問う意味を含んでいたが、今回の判決は厚生労働大臣の裁量権を広く認め、事実上切り捨てを追認したと言えよう。おそらく控訴するだろうし、まだほかの各地の訴訟もあるが、当面は政府の社会保障費抑制路線を後押しする効果を与えよう。以前、当ブログでは「この訴訟の帰趨は今後の社会保障政策全般に影響するだろう」と述べただけに本当に残念だ。

 今年の経済財政諮問会議の「骨太の方針」も、相変わらず社会保障費の自然増分の2200億円削減を継続し、歳出削減を「最大限」続けるという内容になる見通しだし、「上げ潮」派の巻き返しで政府・与党内の歳出抑制批判の声も抑えられ、またしてもしばらくは生活に直結した公的給付が削られたり、負担が増えたりする状況が続くだろう。

 庶民への負担増となる消費税増税は先送りされたものの、「無駄遣い」削減とたばこ税増税では再分配効果はなく「庶民いじめ」に変わりない。以前も指摘したが、現在の政界における「無駄」とは、軍事費や需要の低い大型開発のような「本当の無駄」ではなく、専ら人件費と社会保障費を指す。人件費といっても高級官僚の給与が減るわけではない。だいたいが福祉や医療や教育などの民生分野で下の職員が有期雇用や民間委託に置き換えられるのがオチだ。行政能力を落とし、不安定雇用を増加させるだけである。いいかげん騙されるのはやめて欲しいが、相変わらず「居酒屋タクシー」のような目くらましで、またしても世論は歳出削減路線に流れてしまう。

 社会保障の切り捨てと非正規雇用の増大が「官製貧困」の原因である以上、これらをやめることが急務であるにもかかわらず、裁判所までが自民・公明政権の悪政を追認してしまった。改めて日本の司法権の存在意義を問い直す必要があるだろう。


《追記》

 原告団・原告弁護団が東京地裁判決について声明を発している。
 東京生存権裁判の判決について*PDF
 http://www.news-pj.net/siryou/pdf/2008/tokyoseizonkensaibangenkokudan-20080626.pdf

 「本日言い渡された本判決は、第1に、生活保護基準以下の生活を強いられている国民(とりわけ高齢者)が存在する事実に対して、この貧困を解決するのではなく、この貧困状態に合わせて生活保護基準を切り下げ、格差と貧困を拡大する政府の不当な政策を是認したものであり、第2に、老齢加算が果たしてきた重要な役割を何ら理解することなく、老齢加算が廃止されることで高齢保護受給者の生存権を侵害している実態から目を背け、行政の違憲・違法な措置を追認した不当なものである」という批判は正鵠を得ている。

【関連記事】
生活保護と生存権
「無駄遣いがある限り増税はだめ」では消費税増税論に対抗できない

【関連リンク】
全国生活と健康を守る会連合会【生存権裁判】
http://www.zenseiren.net/seizonken/seizonken.html
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by mahounofuefuki | 2008-06-26 17:35

グッドウィル廃業と雇用待遇差別の根深さ

 派遣大手グッドウィルが厚生労働省より事業許可取り消し処分を受けるのが確実になり、ついに廃業に追い込まれた。事業停止処分を受けて以来、急速にシェアを失い、つぶれるのは時間の問題ではあったが、最後の最後まで経営側の身勝手に振り回され、労働者には苦しみしか与えられなかったと言えよう。

 グッドウィルユニオンが次のような声明を出している(太字強調は引用者による)。
(前略) 違法派遣や賃金不払など違法行為を繰り返してきたグッドウィルに対して派遣事業許可取り消し等の厳しい処分が出されるのは当然のことである。
 しかし、1995年以降、違法派遣を繰り返しながら拡大してきたグッドウィルを放置したばかりか、1999年の派遣法改正によりグッドウィルが行う事業を合法化して急成長に拍車をかけた国の責任は極めて大きい。
 もっと早くこのような違法派遣を取り締まっていれば、グッドウィルで働く労働者が数千人、数万人規模まで膨れ上がることはなかったし、許可取り消しによって大量の失業者を生み出すようなこともなかった。
 また、グッドウィルで働く日雇い派遣労働者が日雇い雇用保険に加入していれば、失業しても当面は「あぶれ手当」の受給により当面の生活を凌ぐことができたはずだが、厚生労働省は、グッドウィルが日雇い雇用保険に全く加入させていない状態を承知しながら、それさえも放置した
 許可取り消しまたは廃業により、雇用を失い、生活の道を立たれる労働者の救済が何よりも優先されなければならない。 (後略)
 廃業の直接的影響は言うまでもなく派遣労働者の失業である。しかし、日雇派遣については昨年雇用保険が適用されるように制度改正されたにもかかわらず、会社側が加入していなかったため、何の給付も受けられない。事業停止の時も遡及加入を求める動きがあったが、厚生労働省は何の実効的な対策をとらなかった。セーフティネットが貧弱どころか、皆無なのである。

 ところで、グッドウィルは廃業に際して、正社員もすべて解雇するようだが、その正社員の労組「人材サービスゼネラルユニオン(JSGU)」と上部組織のゼンセン同盟が昨日経営側を非難する会見を開いている(毎日新聞2008/06/25 22:22など)。一方的な退職通知に怒りを顕わにしていたそうだが、正直あまり同情はない。

 なぜならこの御用労組はこれまでさんざん会社側の手先として働き、労働者派遣法改正の骨抜きを民主党に働きかけたのも彼らだからだ(ゼンセン同盟は周知の通り旧民社党→民主党の支持母体である)。我々の世代の一般的な通念である「正社員が非正社員を搾取している」という見方を私はとらないが(あくまでも搾取者は資本家である)、経営側に同調して非正規雇用に対する待遇差別に加担している御用労組を免責することはできない。

 今回の件で改めて正規・非正規雇用間の差別の根深さを再確認した。もはや労働者派遣法を抜本的改正して直接・無期雇用原則を確立する以外に一連の問題の解決はない。厚労省はすでに日雇派遣禁止方針を決めているが、それだけでは全く不十分である(むしろ失業が増大する可能性すらある)。国会は1999年の派遣法全面改悪時、共産党以外の政党が賛成した罪を今償うべきである。秋葉原事件に続いて派遣労働の劣悪さが世上の注目を浴びている今こそ正念場かもしれない。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集

【関連リンク】
グッドウィル許可取り消し・廃業方針に関する声明|グッドウィルユニオン
http://ameblo.jp/goodwillunion/entry-10109914801.html
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by mahounofuefuki | 2008-06-26 00:18