2007年 11月 21日 ( 2 )

最低賃金と生活保護-北海道新聞の記事より

(2007/11/17に投稿した記事ですが再掲します。理由は追記に)

北海道新聞2007/11/17朝刊より。
電子版には出ていないので、記事本文を紹介する。
*太字は引用者による。

(引用開始)
 厚生労働省が生活保護費の給付の基本となる基準額の算定方法を抜本的に見直し、2008年度に引き下げる方向で検討を進めている。増加する社会保障費の伸び幅を圧縮するのが狙いだが、基準額の絞り込みにより、それに連動する労働者の最低賃金の底上げの妨げになる可能性もある。(東京政経部 中村公美)

 「度重なる給付削減で、生活保護世帯の暮らしは本当に深刻。食事を1日2食に減らした人も多い」。基準額の見直し中止を求めている全国労働組合総連合(全労連)や市民団体は8日、厚労省内での記者会見で訴えた。生活保護費は06年度に老齢加算を廃止するなど引き下げが続いている。背景には高齢化に伴って生活保護受給世帯が年々増加していることがある。
 厚労省は10月16日、3日後の19日に「生活扶助基準に関する検討会」の初会合を開催すると発表した。「密室で決めようとしているのか」━。突然の開催と、会場の狭さを理由に傍聴者が少人数に抑えられ、傍聴を断られた市民団体が会場前で怒りの声を上げた。
 同検討会は厚労省社会・援護局長の私的研究会との位置付けだが、事実上、同省の方針を追認してきた。今回は08年度予算に反映するため、12月中に結論をまとめる。厚労省は「『骨太の方針』にも、来年度の基準額見直しが盛り込まれている。既定路線を変えるわけにはいかない」と、基準額を大幅に引き下げる構えだ
 今月8日に開かれた同研究会の3回目の会合では、厚労省側が給与の一部を収入認定から除外する勤労控除の見直しや、地域ごとに基準額に差を付ける「級地制度」の地域差縮小を提案した。
 一方、労働組合は「生活保護費の引き下げは、労働者の最低賃金に影響が及ぶ」(連合幹部)と懸念を強めている。今国会で成立確実な改正最低賃金法(最賃法)案は、最低賃金で働く労働者より、生活保護世帯の収入が高いという逆転現象を解消するのが主眼。そのため地域別最低賃金に「生活保護との整合性に配慮する」という新たな規定を盛り込んだ。
 だが、この規定も「もろ刃の剣」。逆転現象の解消にはつながっても。生活保護が引き下げられれば、最低賃金も抑制される恐れがある。最賃法の改正がワーキングプア(働く貧困層)の解消を目指しながらも、結局は賃金の底上げにはつながらないという皮肉な結果にもなりかねない。
 だが、厚労省内では生活保護費の基準額の見直しによる最低賃金への影響についての検討はない。旧厚生省出身の幹部は「基準額の見直しは最賃法に関係なく進める」としており、旧労働省出身の幹部は「改正最賃法は、労使の協議で行うものだ」とにべもない。出身官庁同士の縄張り意識が格差解消の障害になっている。
 車の両輪のように、生活保護制度が「最後のセーフティーネット」(舛添要一厚労相)として機能しながら、最低賃金制度でも賃金の底上げにつながるのが理想的。生活保護・労働両行政の一体となった論議が求められる。
(引用終わり)

今日は時間がないので、記事の紹介だけ。
「生活扶助基準に関する検討会」については、なぜかほとんどの新聞が報じていないこと、最低賃金法改正案で民主党が政府に妥協したのが間違いであることの2点を指摘しておきたい。


《追記 2007/11/21》

厚生労働省の「生活扶助基準に関する検討会」は20日、生活保護給付基準の引き下げを決定したようだ。
生活保護費、基準額下げ確実に 厚労省検討会 地域差縮小も「妥当」-北海道新聞(2007/11/21 08:31)
まさに密室で貧困層切り捨ての準備を着々と進めているのである。
この期に及んでも北海道新聞以外はまともに報道しないのが謎だ。

【関連記事】
新たな「棄民政策」
民間給与実態統計調査
最低賃金法改正案・労働契約法案における民主党の妥協
「反貧困たすけあいネットワーク」

【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
生活保護問題対策全国会議blog
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by mahounofuefuki | 2007-11-21 16:49

「社会保障のための消費税増税」というまやかし

消費税増税への動きが加速している。
先月の経済財政諮問会議で、内閣府が社会保障維持のためには消費税を最低でも11%以上に引き上げる必要があるという試算を公表し、それを機に全国紙が一斉に「消費税増税やむなし」という宣伝を始めた。
伊藤隆敏・丹羽宇一郎・御手洗冨士夫・八代尚宏 「有識者議員提出資料 (給付と負担の選択肢について)」*PDF
伊藤隆敏・丹羽宇一郎・御手洗冨士夫・八代尚宏 「持続可能な基礎年金制度の構築に向けて」*PDF
今月に入ると、原油高騰やサブプライム問題による景気減速への不安から、政府・与党は来年度の消費税増税を見送る方針を固めたが、財政・税制関係の機関は動じることなく消費税増税路線を続けている。

まず財政制度等審議会が、来年度予算編成に関する意見書で、社会保障目的の消費税増税を提起した。
平成20年度予算の編成等に関する建議-財政制度等審議会*PDF
次いで政府税制調査会が、来年度税制改正の答申で、やはり社会保障の水準を維持するための消費税増税の必要性を明記した。
平成19年11月 抜本的な税制改革に向けた基本的考え方-税制調査会*PDF
さらに自民党の財政改革研究会は、明日の中間報告で、消費税の社会保障目的税化、2段階による消費税増税、消費税の名称変更などを提起するという。
社会保障目的明確化、消費税の名称変更を・・・財革研報告原案(読売新聞 2007/11/21 10:16)-Yahoo!ニュース
2009年度に基礎年金の国庫負担率が2分の1に引き上げられるのに合わせて、消費税増税を目論んでいるのが明白だ。

一連の動きに共通するのは、「社会保障給付を維持するために消費税を増税しなければならない」という思想である。
高齢化社会による社会保障費の増大→財源の不足→消費税増税」と「誘導」しているのである。

しかし、その思想は完全な誤りである。
第一に、社会保障の財源を消費税に限定する正当な理由は何もない
政府税調は今回の答申で、消費税を「経済の動向や人口構成の変化に左右されにくい」「世代間の不公平の是正に資する」と述べているが、実際は経済の動向の影響を受けやすく(家計が縮小すれば消費も減退する)、世代間の不公平を拡大する(年金生活の高齢者も税負担させられる)税である。現在、消費税以外の税も社会保障費に使っているが、何ら不都合はない。

第二に、消費税を増税すれば所得格差が増大し、結果として社会保障が貧弱になる
一般に社会保障は再分配機能があると思われているが、これは誤解である。年金も健康保険も保険料は所得にかかわらず定額で、消費税以上に逆進性をもつ。たとえば国民年金だと未納があれば給付が減額される。厚生年金だと報酬比例部分は生涯平均所得に左右される。いずれも高所得者に有利だ。
特に年金の場合、寿命に左右されるという宿命的な問題がある。社会保障の最高の受益者は「長命の金持ち」であり、最も不利なのは「短命の貧乏人」である。つまり、社会保障制度はそれ自体不平等なのである
この上、低所得者ほど不利な消費税を増税したら、ますます貧しい人の社会保障の負担力は低下し、受益も減少する。消費税増税は社会保障を安定にするどころか、保険料の不払いなどで社会保障の枠から脱落する人々を増やすだけである。
社会保障制度を持続させたかったら、所得の平等度を高くして、誰もが負担に耐えられるようにする必要がある。消費税がそれに逆行するのは言うまでもない。

第三に、財界や与党の本音は、企業減税の穴埋めに消費税増税分を使うことにある
そもそも消費税増税が社会保障目的であるという言説がまゆつばである。仮に歳出の社会保障費を全額消費税でまかなえば、今まで社会保障費に回していた他の税の分が浮く。実際はこれを利用して法人税の税率引き下げを企んでいるのである。
政府税調の井堀利宏委員(東京大学大学院教授)は、以前「消費税を上げる形での企業減税」を主張していた(ロイター 2007/10/02 19:04)。日本経団連をはじめ巨大企業の経営者たちは、ことあるごとに企業減税を唱え、法人税の実効税率の引き下げを要求している。これらの要求は消費税増税とワンセットである。

以上のように、「社会保障のための消費税増税」というのは真っ赤なウソである。
低所得から年金を払えず、健康保険証も取り上げられる人々が続出する中で、追い討ちをかけるように消費税を引き上げたらどうなるか、誰でも想像がつくだろう。
現在必要なのは、社会保障制度からはじかれた貧困層を制度内に取り込むことである。そのためには消費税の増税などもってのほかであり、所得格差を縮小するために所得税の累進を強化すること、資産への課税を強化することが何よりも必要である。


《追記》

この記事を書いたあと、消費税について興味深い記述を見つけたので、引用する。
晴天とら日和:消費税の社会保障財源化は選択肢のひとつとして幅広く検討すべき=政府税調答申⇒でもねぇ、「消費税導入」時には「福祉目的で導入する」とおっしゃってませんでしたか! 社民党は福祉削減の脅しで大増税あおるなと大反撃!⇒クソ自公チューのニャロメ!より。
(前略)消費税で苦しんでいる人たちがいる一方で、消費税をもらう人たちがいます。不公平の極みです。トヨタ、キャノン、ソニー、ホンダ、東芝、NECなどわが国を代表する大企業は消費税を一銭も納めません。納めないどころか、トヨタは年間二〇〇〇億円もの輸出戻し税を受け取っています。輸出戻し税制度です。輸出する場合、輸出先の国の税金がかかるので、輸出品に消費税をかけない。消費税をかけないのだから、輸出企業が下請けなどに払ったとされる消費税は戻しましょうという制度です。

その輸出戻し税が毎月、税務署から輸出企業の口座に振り込まれます。輸出戻し税の総額は、年間で約二兆円。これほど財政危機だと騒いでいるのに、税務署は輸出している大企業に二兆円も支払っているのです。このような輸出戻し税制度は、ヨーロッパにはありますが、アメリカにはありません。この輸出戻し税は一種の輸出補助金であり、ただちに廃止すべきと私は主張しています。トヨタは輸出戻し税があるから消費税を導入した、と言っています。

税務署は全国に五百十二あります。税金を徴収するのが税務署の仕事ですから、徴収する税金が上がる税務署ほど、署長の評価が高くなります。トヨタがある愛知県の豊田税務署は、徴収する税金が上がるどころか、トヨタ一社に対する輸出戻し税のためにマイナスです。トヨタなどが主導している日本経団連が、なぜ消費税引き上げに必死になるのか、おわかりと思います。五%の消費税で、トヨタは年間二〇〇〇億円の輸出戻し税を受け取ります。消費税が一〇%になれば、トヨタの受け取りは二倍の四〇〇〇億円になります。消費者や大部分の事業者に負担が重く、大企業に利益となる、これほど不公平な税金はありません。(後略)


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by mahounofuefuki | 2007-11-21 16:19