2007年 09月 28日 ( 2 )

橋下発言はツッコミどころ満載

以前も書いたが、私は光市母子殺害事件の訴訟そのものにはもはや関心がない。
たくさんある殺人事件の中でこの事件に特別な興味を抱く理由が私にはない。
極端な話、被告が死刑になろうとそうでなかろうとも私の生活には関係ない。彼が処刑されてもされなくても、私には何のメリットもない(関係者以外のほかの人々にもあるとは思えないが)。コンコルド広場にて国王や王妃をギロチンで斬首する光景に熱狂したパリ市民のようなグロテスクな趣味も持ち合わせていない。
だから、もう結果が決まったようなものである光市事件の訴訟については語る言葉はない。
しかし、光市事件に異様に熱狂し、拘置所ですでに自由を奪われている被告や、自らの職務に忠実な弁護士をバッシングする人々の動きには関心をもたざるをえない。それは、この騒動が司法権の独立や訴訟の公平な進行を損ねているからで、1度でもこんな前例ができると、今後の刑事訴訟全体に悪影響を及ぼすことを危惧している。
仮に将来、誰かが(私やあなたかも)無実の罪で逮捕・起訴された時、検察側の誘導でバッシングが行われ、被害者が無実の人を犯人と思い込み、弁護人の活動が阻害され、罪をなすりつけられるのを心配している。日本はただでさえ冤罪が多い。特に「痴漢」の冤罪は後をたたない。「それでも僕はやっていない」なんて映画が売れるくらいだ。
光市事件は冤罪ではない。しかし、味をしめた検察が被害者を利用する可能性は否めない。それに何よりも、世論の関心度によって量刑が左右されることなどあってはならない。世論の関心の高い事件は刑が重いとなると、そうでない事案との不公平性が問題になる。
それゆえ、光市事件そのものは私の関知するところではないが、バッシング現象の方は私の(そして多くの人々の)利害にかかわるのである。だから、面倒でも発言せざるをえないのだ。

さて、光市事件の被告弁護団に対する懲戒請求を扇動した(しかし自分は請求していない)橋下徹弁護士を提訴した民事訴訟の第1回口頭弁論が広島地裁で行われた。
何よりも驚いたのは、橋下氏がこの弁論に出廷せず、書面提出による擬制陳述で済ませたことである。しかも、今後の弁論も電話会議で行い、被告尋問までは出廷しないという。 
彼の言い分は次の通り(以下、引用はすべて橋下徹のLawyer’s EYEより)。

あのね、民事の裁判で傍聴人を呼んでも、
争点が整理されるまでは事務的なやり取りなんだから、
傍聴人も何をやってるんだかさっぱりわからない。
わざわざ足を運んでもらって、あの民事の手続きだけを見せたら、
その方が傍聴人に怒られるんだよ。分からないのかね。
原告らは公開の法廷で、何か大弁論を展開したいのか知りませんが、
僕は、そんな原告らの趣味に付き合うほど暇ではありません。

「事務的なやり取り」を軽視しているとしか思えない暴言だ。
どうやら彼は、テレビカメラが入り味方の群衆が大勢いるところでなら「大弁論」をやりたいが、野次馬がわざわざ足を運ぶことのない地方の法廷ではやりたくないようだ。
ついでに言っておくが、ブログでの彼の言葉遣いはとても社会人とは思えないほど汚い

彼の弁明は続く。

原告らは、今回の裁判が社会にとって必要不可欠な裁判で、自分たちはその正義のために闘っているとまたもや勘違い。
今回の裁判は、光市母子殺害事件の被害者遺族に対して、非常に迷惑のかかる、
もし違う方法があるのであれば、本当は避けなければならない裁判だったんだ。
世間だって、こんな裁判があろうとなかろうと、全く影響ない。
たまたまメディアが取り上げてくれているけど、本質的には、弁護士間の大人げないくだらない痴話げんかなんだよ!!
分からないのか!!
もっと謙虚になれよ。俺たちは刑事弁護人の在り方を論じる重要な裁判をやってるんだって堂々と胸を張るんじゃねーよ。
ほんとしょうもないことやってすみませんっていうのが、今回の、
俺たち弁護士がとらなきゃならない態度だろ!!

「大人げないくだらない痴話げんか」を仕掛けたのはほかでもない橋下氏だったはずだ。大人げないと自覚しているなら、懲戒請求の扇動なんかしなければいいのである。自分の播いた種でありながら、他人のせいにするのは全く許しがたい。
「もっと謙虚に」なるべきなのは、こんな横柄な口の利き方をする橋下氏の方だろう。

重要な裁判なのかどうかは世間が決めること、俺たちが決めることではない。
俺たちが自分で重要な裁判だと言った時点で、もう周囲が見えなくなる。
自分が絶対的な正義だと勘違いする。

「世間」!? そんなあいまいなものによりかからないでほしい。多数派がいつも正しいのか? 「世間」に丸投げするなど、思考停止でしかない。
「自分が絶対的正義だと勘違い」しているのは橋下氏の方であろう

このような感覚だから、日弁連の模擬裁判のリハーサルなんて、くだらない鼻くそイベントに出席するために、
光市母子殺害事件最高裁の弁論期日を欠席しちゃうんだよね。

自分が被告になっている訴訟の口頭弁論に出ない者が言っていい言葉ではない。出席の可否は彼の判断基準が絶対だという独善以外の何物でもない。橋下氏は自分を「神」だとでも思っているのだろうか

彼の発言はまだまだツッコミどころ満載なのだが(この程度の論述力でよく弁護士ができるものだ)、「場外乱闘」のさらに「場外乱闘」なんて自慢できることでもないし、これ以上自分のブログを汚したくないのでもうやめておく。
(しかし、本当に彼の言葉遣いはひどい。この横暴さが支持されるなんて世も末だ。)
いいかげん、この下品な男をまるで「英雄」扱いするのをやめてほしい。
「テレビに出ている=正義」なんて今どき思っていたら、ちょっと恥ずかしい。
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by mahounofuefuki | 2007-09-28 23:52

民間給与実態統計調査

国税庁が2006年分の民間給与実態統計調査を発表した。
民間企業の給与の実態を知る上で有効な調査である。

まず注目したいのは、全民間企業が支払った給与総額と源泉徴収された所得税額の推移である。
(A=給与総額 B=所得税総額 単位:A、B=億円 B/A=%)

1996年 A=2,161,631  B=107,269  B/A=4.96
1997年 A=2,206,165  B=121,401  B/A=5.50
1998年 A=2,228,375  B=100,501  B/A=4.51
1999年 A=2,174,867  B= 95,923  B/A=4.41
2000年 A=2,164,558  B= 96,400  B/A=4.45
2001年 A=2,147,215  B= 94,898  B/A=4.42
2002年 A=2,079,134  B= 90,177  B/A=4.34
2003年 A=2,036,827  B= 85,919  B/A=4.22
2004年 A=2,017,742  B= 88,979  B/A=4.41
2005年 A=2,015,802  B= 90,364  B/A=4.48
2006年 A=2,000,346  B= 99,321  B/A=4.97

給与総額は1999年以降毎年減少を続けているのが一目瞭然である。
それなのに税負担は2004年以降増加しており、特に2006年に急増したことがわかる。
この目に見える負担増が、先の参院選に影響したのだ。

次に、年間の平均給与の推移である。(単位:千円)

1996年 4,608
1997年 4,673
1998年 4,648
1999年 4,613
2000年 4,610
2001年 4,540
2002年 4,478
2003年 4,439
2004年 4,388
2005年 4,368
2006年 4,349

平均給与も1998年以降毎年減少し続けているのがわかる。

そして、給与階級別の構成比の推移である。
(単位:% 2002年→2003年→2004年→2005年→2006年)

100万円以下       7.0→ 7.4→ 7.7→ 7.9→ 8.0
100~200万円    12.1→12.8→14.0→13.9→14.8
200~300万円    15.8→15.8→15.8→15.8→16.0
300~400万円    17.9→17.5→17.0→17.2→16.9
400~500万円    14.5→14.5→14.4→14.2→13.9
500~600万円    10.6→10.3→10.1→10.1→ 9.6
600~700万円     6.9→ 6.6→ 6.4→ 6.4→ 6.4
700~800万円     5.0→ 4.9→ 4.7→ 4.6→ 4.5
800~900万円     3.2→ 3.2→ 3.1→ 3.0→ 3.0
900~1,000万円    2.2→ 2.0→ 2.0→ 2.1→ 2.0
1,000~1,500万円  3.7→ 3.8→ 3.7→ 3.6→ 3.7
1,500~2,000万円  0.8→ 0.7→ 0.8→ 0.7→ 0.8
2,000万円超       0.4→ 0.4→ 0.4→ 0.5→ 0.5

この5年間で年収300万円以下の層が増大しているのがわかる。
他方、年収1000万円以上の比較的富裕な層に増減がなく、金持ちが固定化しているのもわかる。

ちなみに年収100万円以下の男性は、2002年で 1.9 %だったのが、2006年には 2.7 %に、年収100~200万円の男性は、5.0 %から 6.9 %に増えている。
この調査は日雇いを含んでいないので、低所得者の実数はもっと多いはずだ。
2006年時点で、男性の実に10人に1人が年収200万円以下なのである。
もはや「格差」ではなく、完全に「貧困」である。

税制を通した国家の所得再配分の強化が必要なことを痛感させられる統計だ。
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by mahounofuefuki | 2007-09-28 21:44