東京学芸大学教授の山田昌弘氏が「格差社会」の現状について語っているインタヴューが出ていた。「氷河期世代」の非正規労働者、いわゆる「年長フリーター」が抱える社会的孤立の現況とその打開の方向性について述べているのだが、その中で気になる指摘があった。
格差問題の第一人者が憂う“格差の拡大”「下流から一歩進んで下層へ!」|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン http://diamond.jp/series/dw_special/10035/ (前略) 山田氏の立論は、現行の経済システムでは「非正規雇用のような労働はなくならない」ということを前提に、たとえ雇用形態を正規化しても、それが孤独な単純労働である限り労働者の不安と絶望はなくならないというものである。その上でこうした労働者の不安を解消するために「組織化と連帯」を勧めている。 雇用待遇差別解消の基本的方向性として非正規雇用の正規化による均等待遇の実現を求める側としては、2つの問題を提起せざるをえない。1つは、本当に「非正規雇用のような労働はなくならない」のかという点。もう1つは、労働者の不安の根本的要因は「雇用の待遇」ではなく「帰属意識の欠如」なのかという点である。 第1の点は、製造業を中心に末端の単純労動が完全にシステム化されていて、これを廃して産業が成り立つのは困難であるという事実を指す。この場合、仮に雇用待遇が「正社員」であっても「孤独な単純労働」自体は変わらない。私などはいつも非正規雇用の正規化を主張する際、仕事内容や「やりがい」といった問題は棚上げし、給与や保険や休暇といった条件面の引き上げに問題を集約して、極論すれば生活できるだけの所得さえ保障されれば仕事内容を問わないという線さえ否定していないが、労働「条件」だけでなく労働「内容」が差別と疎外感をもたらしているのならば、この問題は無視しえないのは確かである。 とはいえ「非正規雇用のような仕事はなくならない」「正規雇用にしても問題は解決しない」という部分だけが一人歩きするのは危険である。インタヴューを行った「ダイヤモンド」の社論が「正規雇用の労働条件引き下げ」であることを考えれば、山田氏の発言自体が「非正規雇用をなくすことは不可能だから、正規雇用の引き下げによる均等待遇にしよう」というミスリードを誘う性質を持つ。それでは「貧困と格差」の解決にはならない。「非正規雇用のような仕事」と「非正規雇用」の違いをはっきりと認識しなければならない。 第2の点はいわゆる「関係の貧困」にかかわる問題である。「氷河期世代」の非典型労働者が等しく感じるのは、社会から取り残された、正確には社会のスタンダードなライフサイクルから排除されたという疎外感である。年を重ねるにつれて典型労働者との落差が顕著となる。片や結婚して子どももいて社会から存在を認知されているのに、片や自立した生活を送れず社会からはいつまでたっても侮蔑的視線を受ける。つまり、収入の少なさもさることながら、社会から人間として認知されていないことに悩まされるのである。 その点で山田氏が提起した「組織化と連帯」という結論自体は、「認知してくれる」視線、ひいては社会への帰属意識を獲得する方法として間違っていないし、実際コミュニティユニオンのような確かな実例もあるが、問題は第1の点(「非正規雇用のような仕事はなくならない」)を前提として第2の点(不安を取り除く帰属意識が必要)を論じているために、第1の点のミスリードと併せて「不安さえ解消すれば非正規雇用を維持してもよい」という論法に容易に転じてしまう危険性がある。 非典型労働者の不安の原因を労働条件の低さに求めている限りは、「組織化と連帯」は労働条件引き上げの手段となる。しかし、労働条件と切り離して単に「仲間意識」がないことを労働者の不安の主因と捉えると、「組織化と連帯」で「仲間とつながる安心感」ができたのだから、それで不安は解消された、労働条件は別に上げる必要はないということになりかねない。「正社員」の肩書き=帰属意識を維持する引き換えに、際限のない労働条件の引き下げを受け入れさせられている「名ばかり正社員」と同根の問題がここでは露呈している。 今回言及した問題、特に「氷河期世代」の非典型層の尊厳をめぐる議論は、私の中でいまだ詰め切れておらず確たることは言えないが、とりあえず注意したいのは、一見「格差」や「差別」を批判する言説も状況やロジックによっては、逆の立場に転化しうるということである。自戒したいところである。
by mahounofuefuki
| 2008-11-10 01:38
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