アメリカ大統領選挙は民主党のバラク・オバマ候補の当選で終わったが、これほど全世界からその勝利を歓迎されたアメリカ大統領は今まで例がないだろう。その原因は何と言ってもジョージ・ブッシュ現大統領のあまりのひどさにあるが、単に「ブッシュよりまし」というだけでなく、1人の人間として余人をもって代えがたい「魅力」があることも確かで、民族的マイノリティであるという属性や卓越した演説能力といった表層だけではない、言葉では言い表せない「何か」を感じる。
とはいえ選挙運動におけるポピュリズム的な動員手法は、かつてのファシズムを彷彿とさせるものであったし、分断されたアメリカの国民統合の回復を強調する姿勢は、一歩間違えれば排他的なナショナリズムに通じる。金融危機に際しても「ウォール街よりも市民を救済せよ」という声に反して、金融資本救済の政治的合意形成に動いた。伝えられるところでは共和党からも入閣があるようで、いわば「挙国一致」政権を指向しているとも考えられる。危惧すべき点も少なくないのである。 私が何よりも不安なのは、アメリカ内外のオバマ氏への「期待」があまりにも過剰なことにある。貧困の解決、景気の回復、泥沼化したイラク戦争やアフガニスタン戦争の処理、現政権が消極的な温暖化対策などなど、人々はオバマ政権に、というよりオバマその人に多くのものを期待している。しかし、アメリカに限らないが、複雑化した現代の政治構造の下では単にトップや政権が交代したところで、根本的な変革は容易なことではない。ましてや新政権が「挙国一致」を志向するならば、既存の利害関係に気を配らねばならない。保守二大政党制のため議会に「左翼」が存在しないアメリカでは、真に民衆の利害を政治に媒介する回路がない以上、オバマ政権も従来の政治の枠から出ることはないのではないか。 人は初めから期待していないものには見返りを求めない。逆に期待が大きいほど見返りへの要求も高くなる。オバマ氏がこれらの期待に応えられなかった時、期待が大きい分「裏切られた」という思いは人一倍強くなる。その反動が不安である。オバマ氏の演説を聴きながら涙まで流している人を観るたびに、私の不安はますます募る。裏切られた時の反動がどのような形で噴出するか。それが世界を危険な道に誘うものである可能性は考慮しなければならない。 日米関係に関しては、すでに一方的にオバマ氏へ期待(あるいは反発)していた向きの思いとは裏腹に、先の麻生首相との電話会談で「日米同盟」の堅持・強化を約束した。オバマ政権が公約通りアフガニスタンでの「テロとの戦い」を増強する場合、日本の自衛隊派遣への圧力が強まることもあろう。そもそも共和党も民主党も一貫して日米安保体制を強化する方向性を持続してきた。安保条約の実質的な改定だった「周辺事態」に対する新ガイドラインの制定はクリントン民主党政権下で行われた。軍事的にも経済的にも新政権が「内向き」志向を強めれば、「同盟国」に対する負担を強く求めていくこともありえよう。 現代アメリカの宿命的な病とも言える「戦争と貧困」について言えば、一度の政権交代程度で是正できるほど甘くはないと思っている。故に私はオバマ政権に対し特に期待はない。一方的に自らの願望をオバマという一人格に投影するようなことは慎まねばならない。
by mahounofuefuki
| 2008-11-08 15:29
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