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自民党も民主党も「貧困と格差」おいてけぼり

 福田康夫首相が退陣を表明した直後には、自民党は総裁選を「劇場化」して盛り上げ、その余勢で衆院を解散し総選挙を有利に運ぶだろう、というのが大方の見方だった。これに対し弊ブログでは、即効性のあるリーダー候補が枯渇していること、わかりやすい「既得権益の解体」というエサを用意できないことを根拠に、「劇場化」はうまくいかないだろうと分析した(福田内閣退陣と今後の政局に関する私見参照)。

 結果は周知の通り、自民党総裁選は麻生太郎氏圧勝という、しらけた「出来レース」となって盛り上がらず、メディアを使った小細工もほとんど焼け石に水だった。自民党の戦略の失敗には、「汚染米」転売問題の表面化やリーマン・ブラザーズ破綻にはじまる金融危機という総裁選どころではない一大事が影響してはいるが、これらはいずれも市場化・民営化を至上とする新自由主義路線の行き詰まりを示す出来事であり、もはや従来の政策路線の矛盾は小手先の「劇場」で覆い隠すことができないほど拡大していると言える。

 総裁選では当初3つの財政路線が提示されたが、一見対立するこれらは「いかにして巨大企業と富裕層の税負担を減らすか」という目的において共通し、「貧困と格差」に喘ぐ日本社会の処方箋とはなりえないものばかりだった。歳出削減による均衡財政を優先する「上げ潮」路線は、「官の既得権益」解体を称しながら、その実「庶民の既得権益」を解体し、その分で大企業・富裕層向けの減税を行う。消費税増税による社会保障財源捻出を目指す「財政タカ派」路線は、逆進税である消費税を社会保障に回す分、累進課税の直接税をこれまた大企業・富裕層のために減税する。そして赤字国債増発を辞さない「財政出動」路線は、要は金持ちからの借金で金持ち向けの「景気対策」を行い、そのツケを庶民に支払わせる。まさに巨大企業の代弁者としての役割を自民党は忠実に果たしているのである。

 このように政策論争としても、芸能的パフォーマンスとしても、自民党総裁選はお粗末な結果に終わったが、一方、この自民党に対峙している(ことになっている)民主党は、昨日の党大会で小沢一郎氏を代表に三選し、次期衆院選後の政権構想を明らかにした。自民党総裁選中、まるで自民党の宣伝機関に成り下がっていたNHKが、「偏向報道」批判に備えたアリバイづくりのために小沢氏の演説をテレビ中継したことで、むしろ民主党の方がある種「劇場化」の様相を呈した。

 弊ブログは再三にわたり、民主党が政府の社会維持機能を弱める「小さな政府」路線から決別していないこと、貧困解消政策に消極的なことを批判してきたが、ここでも小沢氏に全く反省の色はなく、「氷河期世代」の貧乏人としては完全な「おいてけぼり」感をくらわされた。財政については相変わらず「無駄遣いをなくす」の一点張り。同じように「無駄遣い」と言いながら庶民のための公的給付を減らし続けた小泉政権を思い出す。独立行政法人の整理などまるで新自由主義者ばりの主張で、市場化・民営化路線以外の何ものでもない。重点政策として、高速道路無料化、農業者個別所得補償、子ども手当の3点を挙げたが、いずれも中間層向けの「目先のエサ」的施策で、貧困層の生活水準を引き上げる効果は薄く、この党の立脚する階層がどこにあるか如実に示している。先の参院選で公約した最低賃金の引き上げはどこへ行ったのか過労や雇用待遇差別は?

 この期に及んでも、自民党も民主党も「貧困と格差」には本気で取り組む意思がないことは明らかだ。税制の累進強化による所得再分配と生活サポートのための公的領域拡大を封印し、労働環境の不条理をなくすための具体策を提示できないうちは、全く話にならない。改めて「貧困と格差」解消を目指す人々が採るべき政治行動が何であるかを再確認した。
by mahounofuefuki | 2008-09-22 13:00


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