公務員、特に要職に就いていた官僚が出身官庁と関係が深い企業や公営の法人などに再就職する「天下り」に対しては、風当たりがますます強くなっているが、そんな中で北海道の公営企業の役員に「天下り」した元北海道副知事が、民間出身の役員に比べて報酬額が低く制限されているのは不公平だとして、報酬引き上げを要求しているという。
北海道新聞(2008/09/13 14:03)より(引用にあたり漢数字をアラビア数字に変換した)。 道の関与団体「北海道農業開発公社」の理事長に天下りした近藤光雄元副知事(61)が、自らの年間報酬を道の再就職要綱が定める上限額の倍以上の千四百四十万円に引き上げるよう、同公社の理事会に提案していたことが13日までに分かった。関係者からは「要綱の形骸(けいがい)化を図る行為で、とても理解は得られない」との批判が出ている。 とにかく「官」を敵視し、民営化・市場化さえすれば全てうまくいくと思っている人々が読んだら、湯気が出るほど怒り心頭になるだろう。「天下り」を憎む「世間」の「空気」を読めない行為であるのは確かである。 とは言え、冷静に考えれば「同じ仕事をしているのに、前職の違いで給与に著しい差別があるのはおかしい」という近藤氏の主張そのものは、「天下り」の是非と切り離せば「正論」である。北海道新聞(2008/09/14 06:56)によれば、近藤氏は「民間出身者と倍の報酬格差があるのはおかしい」とインタビューに答えている。官僚の「天下り」は袋たたきに遭うのに、民間からの「天上がり」は完全スルーされる世情への不満もあるだろう。 「天下り」そのものに問題があるのは言うまでもない。「天下り」前の出身官庁と「天下り」先の法人・企業との癒着、「天下り」先の生え抜き職員・社員を差し置いて役員の席を占める不公正、複数の「天下り」先を渡り歩くことによる報酬の多重受領など、さまざまな課題を抱えていることは否定しない。 しかし、不可解なのは「官」からの「天下り」は徹底的に攻撃されるのに、「民」から政府機関や公営の法人等に役員として入る「天上がり」はさっぱり見過ごされていることである。前述した「天下り」が抱える課題は「天上がり」にも共通するにもかかわらず、むしろ「官」=悪、「民」=善という固定観念から「民間」出身者(それもたいてい大企業経営者)が起用されるのは歓迎される。「民間出身の役員の報酬が高すぎる」といった批判はいまだかつて聞いたことがない。近藤氏の問いからは、現代日本社会における「民尊官卑」の歪みが見え隠れする。 昨今の「天下り」をめぐる議論はますますおかしなことになっている。「天下り」が問題なら「天下り」を禁止すれば済む話である。ところが、なぜか「天下り法人」を廃止しろという論点のすり替えが行われている。これは情報操作である。問題は「天下り」であって法人ではない。これら法人は確かに「官」の既得権益ではあるが、一方で「民衆の既得権益」でもある。郵政民営化と全く同じ構図なのに、郵政民営化に抵抗した人ですら、独立行政法人や公益法人(未だに「特殊法人」がどうのとほざいている人もいるが、特殊法人は小泉政権でほとんど衣替えされた)となると、新自由主義者と一緒になって統廃合や民営化を主張する。私には全く理解できない。 あえて極言すれば「天下り」以上に「天上がり」の方が問題である。「民間人」と言いながら企業経営者と御用学者ばかりなのが実情である。特に政府の審議会や有識者会議などに「民間議員」とか「民間委員」と称して入っている財界人は、専ら自己の企業経営に有利な政策を国に押し付ける役割を果たしている(その最右翼が経済財政諮問会議の民間議員)。現在の権力構造は政財官が相互に牽制しつつ依存しあっている状態だが、ここで官だけを弱めてもパワーバランスが崩れて与党と財界の力が強くなるだけである。社会保障の弱体化がまさにこの力学の変化によって行われたことを決して忘れてはならない。 「天下り」を問題とする場合、退職金がどうのこうのといった嫉みに囚われて、結局は「官」の利権を我が物にしたいだけの財界に利用されるようなことは避けたいものである。 【関連記事】 独立行政法人=「悪」ではない! 独立行政法人には必要な業務がたくさんある 経済財政諮問会議の問題は「組織」ではなく「人選」だ 「ムダ・ゼロ政府」構想は行政の責任放棄
by mahounofuefuki
| 2008-09-14 17:47
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