厚生労働省が小売業や飲食業などのチェーン店における「管理監督者」の基準を各地の労働局に通達した。いわゆる「名ばかり管理職」問題への対応だという。以下、東京新聞(2008/09/09夕刊)より。
(前略) 厚労省によると、「職務内容、責任と権限」「勤務態様」「賃金等の待遇」の三点について、管理監督者であることを否定する重要な基準と補強的な基準を整理した。 管理職の実態がないにもかかわらず労基法上の「管理監督者」として扱われ、残業代が支払われない「名ばかり管理職」問題は、マクドナルドの店長が会社に残業代の支払いを求めた訴訟を機に大きな社会問題として注目されるようになったが、ようやく厚労省がこの問題に重い腰を上げたと言えよう。 しかし、他の労働問題でもそうだが、こんな一片の通達で問題が是正されるはずもなく、特に今回の通達内容はあまりにも実情とかけ離れている。法的に焦点となっているのは、「管理職とは言えないのに残業代が支払われていない」という問題だが、実際の問題の核心は「身も心もボロボロになるほどの過労をせざるをえない状況に追い込まれている」ことであり、さらに「業績を上げるためには表向きの労働時間を改竄して隠れてでも残業しなければならない」ことにある。この通達ではそうした実態を考慮しているとは言い難い。 「身も心もボロボロになるほどの過労をせざるをえない状況に追い込まれている」のは、極端な人件費削減の結果、少数の正社員に責任と負担が集中するようになっているからである。「業績を上げるためには表向きの労働時間を改竄して隠れてでも残業しなければならない」のは、賃金決定方式が成果主義になったからである。今回の通達では、こうした構造的問題には手をつけず、単に法律上の管理職から外れるというだけで、すでにマクドナルドがやったように、残業代を支払う代わりに本来の給与を削るような「抜け道」を予防することはできない。 ちなみに、そもそも企業が「名ばかり管理職」というものを考えだしたのは、労働基準法が労働時間や休日などの規定を「管理監督者」には免除しているからだが、以前から疑問なのは、この問題への対応として「管理監督者」にも労基法の規定を適用するという発想はなぜ出てこないのだろうか。法思想的には使用者と労働者では全く立場が異なる以上、使用者に労基法を適用するのはおかしな話なのだろうが、経営者だろうと管理職だろうと、ある意味「労働」をしている以上、その労働時間を規制しても構わないのではないのか。労働法の素人の浅墓な発想なのかもしれないが、「名ばかり管理職」の予防策としては、ずっと効果的だと思うのだがどうだろう。 いずれにせよ「名ばかり管理職」は、行政の通達ごときで是正できるような問題ではなく、法改正も必要であるということは強調しておきたい。 【関連記事】 マクドナルド残業代不払い訴訟で勝訴判決 マクドナルドの新報酬制度は手の込んだ賃下げ 【関連リンク】 厚生労働省:多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について―具体的な判断要素を整理した通達を発出― http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0909-2.html 労働基準法 - 法庫 http://www.houko.com/00/01/S22/049.HTM#s4
by mahounofuefuki
| 2008-09-09 23:02
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