今日のいくつかの新聞が、いわゆる「タンス預金」が30兆円にも上るという日本銀行の推計を報じている。日銀のホームページを見ると、昨日付けの「日銀レビュー」に「銀行券・流動性預金の高止まりについて」と題するレポートが載っており、これがソースのようである(なお報道では「日銀」が主語になっているが、当のレポートによればあくまでも執筆者個人の意見で、必ずしも日銀の公式見解ではないそうだ)。
日銀レビュー 銀行券・流動性預金の高止まりについて http://www.boj.or.jp/type/ronbun/rev/rev08j09.htm このレポートの主題は、1990年代以降定期預金から普通預金・当座預金や現金に資金がシフトし、高止まりを続けている要因を明らかにすることで、従来は金融システムへの不安や低金利政策やペイオフの影響が指摘されていたが、この数年これらの要因が解消・減退しているにもかかわらず、「過去の関係への回帰は見受けられない」のは、「タンス預金」のような形で家計に現金が滞留していることが影響していると結論づけている。特に高齢層に顕著だという。 この推計は複数のアプローチをとっていて、それぞれ数字に幅があるのだが、「タンス預金」など非取引需要の銀行券・流動性預金(普通預金や当座預金)は、1995年当時にはおおむね約1~5兆円だったのが、2007年には約30兆円に上っている。また、2004年の1万円札改札後も、旧札が依然として約14兆円も日銀に回収されず滞留しているという。少なくともこの14兆円は文字通り「タンス」に眠っているのは間違いないところだろう。 一般的な感覚としては、バブル崩壊後、一貫して家計は苦しく、個別の預貯金は減り続けているように思えるし、実際3人に1人が預金ゼロであるという話もあるほどなので、家計の現金保有額や流動性預金が増加を続けているという数字は意外な気もするが、それだけある所にはあるということだろう。借金によって相殺されることを考慮しても、依然として家計が有する貯蓄は大きいことは確かだろう。 この推計が示すのは、相次ぐ金融緩和や低金利政策を続けたにもかかわらず、相当数の金持ちや資産持ちたちが資金を株式などへの投資に回さず、手元にため込んでいるということである。特に高齢層でそれが顕著なのは、それだけリスクに敏感であると同時に、漠然とした「将来への不安」が大きく影響しているのではないか。社会保障を中心とする歳出削減路線の結果、公的給付への不信感が高まり、とにかく手元に現金を置いておこうとする力学が働き、結局投資意欲が減退しているのである。 これこそ新自由主義政策の破綻を示しているのではないか。一方でリスクのある投資を促し、富裕層への減税を行いながら、他方で歳出削減を続け、公的給付を減らす。その結果が資金の流動化どころか、文字通りの「タンス預金」の蓄積では市場経済としては完全な失敗である。「小さな政府」を強化すればするほど、社会不安が増大し、カネが回らなくなるという厳然たる事実がここにある。 高齢者の「タンス預金」を引き出させようとするなら、医療や福祉や老齢年金への「安心」が必須である。「市場の活性化」という観点からも、実は十分な社会保障の確立が必要であることを示していよう。 (「タンス預金」どころか、今日明日の生活も不透明なこちらの本音としては、富裕税でも設けて強制的に再分配しろ!と言いたいところだが・・・。今回は自重する。)
by mahounofuefuki
| 2008-08-23 16:12
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