相次ぐ不正が明らかになった大分県の教員採用試験だが、こんなニュースが目に入った。
毎日新聞(2008/08/15夕刊)より。 大分県の教員採用試験(小中高)で、長年にわたり面接官を出していた大分経済同友会(代表幹事・高橋靖周大分銀行会長ら、会員240人)が、今年は協力を見合わせることが分かった。採点結果が合否判定にどう生かされているかなど県教委から十分な説明がなく、会員の間に以前から不信感が募っており、汚職事件で決定的となったという。教員採用試験の面接官に民間企業経営者!? 長年!? 恥ずかしながら今まで全く知らなかった。てっきり教員と教育委員会の人間だけで面接していると思っていた。 文部科学省のホームページに、昨年各地の教育委員会が実施した2008年度教員採用試験の概要が出ているが、確かにそこに「民間人」面接官のことも記載されていた。 平成20年度公立学校教員採用選考試験の実施方法について(概要)- 文部科学省 http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/20/01/07121305.htm 採用試験を実施した全64の都道府県及び指定都市の教委のうち、42の教委で民間企業から面接官を入れている。いつから行われているのか不明だが、こんなところで財界が教員人事に直接関与していたことに驚かされる。 「外部」の「民間人」を面接官に起用すること自体は別に悪いとは思わない。不正を抑制するためにも、ある程度「外」の人間を入れる必要はあろう。しかし、それがなぜ企業経営者なのか。大分県の場合、2005年以降は地元の財界団体に依存していたそうだから、少なくともこの数年は財界人以外の民間人は起用されていなかったことになる。もちろんその中には教育に詳しく熱心な人もいたかもしれないが、本来利益の追求を至上命題とする企業経営とそうではない教育とは水と油である。企業のものさしでは優秀な人材が、教員として優秀であるとは限らない。 たとえば、これが経営者ではなく、同じ企業でも労働組合の幹部が面接官に起用されることを想像してみよう。誰もが「おかしい」と思い「偏った選考」を危惧するだろう。あるいは、逆に教員が企業の採用面接者に起用されることを想像してみよう。誰もが「教員なんかに企業がわかるのか」と疑問を抱くだろう。財界人が教員採用の面接官を務めるのも同じようなものである。ところが、「民=善」「官=悪」という思い込みのせいもあって、財界人だけはスルーされる。 そもそも「民間人」を入れていたのに、一連の不正を防ぐことはできなかった。むしろ捜査の手が伸びていないだけで、財界人が面接官になるルートが財界と教委の「口利きルート」になっていたのでは?と邪推さえしてしまう。そういえば某県では地元新聞社の経営者に教員採用の口利き疑惑が持ち上がった。汚職体質は官も民も変わらない。 結局のところ「民間人面接官」も、この数十年続いている教育への市場原理導入の策動と、それを容易にするために教育の専門家(教員や教育学者など)の地位を貶めようとする政策の一環ととらえるべきだろう。 私は昨今の教育問題なるものは、「素人」があまりにも教育政策に口出ししすぎることに起因すると考えていて、今一度「教育の専門性」を見直し、専門家が力を発揮できる環境を作ることが必要だとみている。その観点に立てば、今回の大分県の場合、いっそのこと民間企業からの面接官任用をやめてしまうべきだ。前記文部科学省の集計によれば、「民間人」でも臨床心理士やスクールカウンセラーを面接官に起用した教委が23ある。こうした教育に隣接する分野の実務者の任用枠を増やす方が、より「現場」に即した教員採用に寄与すると思う。 【関連記事】 教育再生会議最終報告について 教員採用・人事汚職の背景
by mahounofuefuki
| 2008-08-17 12:06
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