人気ブログランキング | 話題のタグを見る

派遣労働見直しへのバックラッシュと「抱き合わせ」改正への警戒

 派遣労働をめぐっては昨年来、「ワーキングプア」拡大に対する世論の厳しい視線を背景に、政府・与党内の風向きが変わりはじめ、従来の規制緩和一辺倒から何らかの規制強化策を打ち出すことで、問題の緩和を図ろうとする流れが確立しつつある。厚生労働省が日雇派遣の禁止方針を打ち出し、自民・公明両党のプロジェクトチームがやはり日雇派遣の禁止、マージン開示義務、「専ら派遣」への規制強化を骨子とする労働者派遣法改正案を公表したのも、そうした流れの中に位置する。これらは先の国会会期中に民主党が用意した改正案と同様、派遣労働の抜本的見直しからははるかに遠い不十分極まりない案だが、少なくとも現状のままではいけないという問題意識だけは共有されていると言えよう。

 *与党の労働者派遣法改正案の問題点については、以前TBいただいた「エム・クルー ユニオン」のブログエントリを参照いただきたい。
 声明 与党PT「日雇派遣禁止案」に関する派遣ユニオンの見解 – エム・クルー ユニオン
 http://blog.goo.ne.jp/m_crew_union/e/316e7a940f7cf83ebfc79a3e638c88ab

 一方で、こうした流れに対するバックラッシュも最近強まっている。労働法制の解体を推進してきた規制改革会議は今月2日に第3次答申の「中間とりまとめ」を発表したが、非正規雇用に対する雇用待遇差別の存在を認識しつつも、相変わらず派遣労働の恒常化を求め、派遣法改正にあたっても派遣期間を超えた労働者に対する派遣先の雇用申込義務の廃止や派遣業種規制のさらなる緩和を示唆するなど、最近の流れに完全に逆行する内容となっている。

 また、これに呼応するかのように、日本経済新聞と読売新聞が相次いで日雇派遣禁止に疑義を示す社説を出した(日経は7月7日付、読売は7月8日付)。いずれも日雇派遣に対する労働者側のニーズの存在を口実に、企業の「使い勝手の良さ」を弁護する内容となっており、政府・与党に配慮してか日雇派遣の可否自体に触れなかった規制改革会議の中間答申を補完する役割を果たしている。これら社説には日雇派遣が貧困を生み、その貧困が日本社会を荒廃させ、貧民の人間性を剥奪していることへの問題意識は全くない。政府を監視すべきマスメディアが政府機関よりも鈍感なのには改めて驚かされる。派遣労働見直しの機運の高まりにはマスメディアの果たした役割が大きかったが、それだけにマスメディアがバックラッシュに加担することになればダメージは計り知れない。

 バックラッシュのねらいは実ははっきりしている。それは製造業における「2009年問題」を目前に控え、メーカー側は何としても現行の労働者派遣法第40条2~5項を改めて、できれば派遣先の直接雇用申込義務の廃止、最低でも現行3年の派遣期限の延長を実現したいのである。実態は派遣先の指示で働く「派遣」を、雇用期限のない「請負」に偽装していた「偽装請負」問題がクローズアップされたのが2006年。その「偽装請負」を糊塗するために、多くの製造業で請負から派遣への切り替えが行われたが、現行法が続けば3年後に当たる2009年に多くの派遣労働者が雇用期限を迎える。メーカー側は大量の派遣社員を直接雇用にするか、契約解除するしかない。いずれも経営上回避したい事態なのである。

 以前にも民主党の腰砕けの時に指摘したが、労働者派遣法改正問題で今後警戒しなければならないのは、一方で日雇派遣の禁止やマージン開示義務を前面に押し出しながら、他方で直接雇用申込義務の廃止や派遣期間の規制緩和を盛り込む「抱き合わせ」の「改正」である。与党は予定を前倒しして次の臨時国会で派遣法改正案を提出すると伝えられているが、先に日雇派遣禁止で世論を欺き、後から規制緩和条項を盛り込むことも考えられよう。財界としては日雇派遣業界を切り捨ててでも、有期雇用・間接雇用の恒常化を推進したいはずである。

 すでにキャノンが世論の批判と国会の猛攻を受けて、派遣社員を直接雇用の期間社員と業務請負に転換する方針を表明し、実際に転換を進めているようだが、一方で「偽装請負」表面化後も企業によってはさまざまな「抜け道」を「開拓」して、事実上間接雇用の永久化を図っている。キャノンの例も依然として有期雇用の不安定性という問題は何ら解決していない。真の解決には何としても労働者派遣法の抜本的改正を足掛かりにして、直接雇用・無期雇用の原則を確立しなければならない。ここでさらなる規制緩和や「抱き合わせ」を容認しては日本社会に未来はないと断言しよう。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集

【関連リンク】
規制改革会議「中間とりまとめ―年末答申に向けての問題提起― 5 社会基盤」*PDF
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_09.pdf
規制改革会議「中間とりまとめ」/派遣労働是正に抵抗/流れが見えない異質の存在 – しんぶん赤旗
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-07-08/2008070805_02_0.html
規制改革会議の孤立化:五十嵐仁の転成仁語
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-07-06
by mahounofuefuki | 2008-07-08 17:28


<< 教員採用・人事汚職の背景 「北海道洞爺湖サミット」という悪夢 >>