常々思うのだが、この国の大衆世論というのは一貫性を欠いている。
社会保障費の抑制を継続すべきかと問われれば、大半の人々がノーと答えるが、他方で「無駄遣い」を減らせという叫びには同調し、社会保障費の削減を許容してきた。それでいて「本当の無駄遣い」である軍事費に対してはダンマリを決め込む。支配層にとっての「無駄」とは「社会保障」のことだといいかげん気づかないのか(金持ちの立場からすれば「なんで俺が稼いだ富を貧民どもに回さなければならないのだ!社会保障は無駄だ!」となる。労働者を搾取したり消費者を騙しても「俺の稼ぎ」なのが欺瞞だが)。政治用語としての「無駄遣いを減らす」とは、「庶民の生活維持のための支出を減らす」という意味である。 あるいは次の例。社会保障の充実や福祉国家の実現を目指す人々でも、「特殊法人を全廃しろ!」と叫ぶ場合が多い。小泉政権の「改革」でほとんどの特殊法人が独立行政法人に代わり、多くは「非公務員型」で「市場化テスト」にさらされているが、残った国民生活金融公庫や中小企業金融公庫なども近く日本政策金融公庫に統廃合される。まさに大衆のご期待通りになったのだが、統廃合の最初の直接の影響が何だか知っているのだろうか。 それは国民生活金融公庫の教育ローン貸し出しの所得上限切り下げである。今回の統廃合により教育ローン利用の資格制限が強化されるのである。奨学金事業の方も「無駄遣い」の名の下に縮小させられつつある中で、ますます家計の教育費負担は増大するだろう。独法も廃止しろと呼号していた左翼ジャーナリストが以前いたが、それは「奨学金を廃止しろ」と同義だとわかっているのだろうか。 「無駄遣い」をなくせ、公務員を減らせ、天下りをつぶせと普段叫んでいるくせに、これが捕鯨問題となると一転して典型的な天下り公益法人である日本鯨類研究所を擁護して、「捕鯨利権」を暴こうとしたグリーンピースをバッシングする。検察が「喧嘩両成敗」にしたならばともかく、グリーンピースの方だけを逮捕し、西濃運輸の横領容疑の方は不問というのは、あまりにも露骨な政治的判断である。サミットを前に国際的な反グローバル化運動を牽制しようとしているのが見え透く。 あるいは、秋葉原事件の場合。私の予想以上に容疑者への同調ないし同情意見が多い。それは彼が「派遣社員」という弱者で、理不尽な雇用待遇を受けていたことに、同じような境遇の人々が支持を与えているからだが、それならばなぜやはり社会的弱者が引き起こした光市母子殺害事件ではあれほど犯人がバッシングされたのか。見方によっては光市事件は、虐待を受け深い「心の傷」を負ってまともな職につけない「負け組」による、一流大学を出て大手企業のエリート正社員となり家庭にも恵まれた「勝ち組」への復讐劇である。殺害対象が無差別だった「秋葉原」よりも、「光市」の方がよほど階級闘争的である。「光市」と「秋葉原」の落差が私には不可解だ。 こうした矛盾の原因は一貫した思想や倫理ではなく、その時々の「空気」が価値判断の基準になってしまっているからだろうが、こんなことを繰り返していては結局のところ自分の首を絞めることになる。国家や巨大企業やマスメディアが流布する「イメージ」を冷静に受け流す術を誰もが身に付ける必要がある。
by mahounofuefuki
| 2008-06-21 15:59
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