法務省は今日3人の死刑囚に対し死刑を執行したが、その中の1人が連続幼女誘拐殺人事件の宮崎勤死刑囚(私は基本的にブログでは一般人の実名を書かないようにしているが、死亡した以上もはや匿名にする意味はないので実名をあげる)だったことは、結果として先日の秋葉原での連続殺人事件に、正確にはその事件を引き起こした容疑者(本稿では以下「K」と呼称する)に特別の「意味」を付与してしまった愚行と言わざるをえない。
鳩山法相やそれに追随する法務官僚の意図は不明だが、結果として「おたく」の犯罪者の嚆矢とされる宮崎の処刑が、「おたく」の街=秋葉原で起こされた事件に対する政府のリアクションとして位置づけられる可能性を形成してしまった。要するに政府は秋葉原事件を「おたく」にかかわる犯罪とみなし、「おたく」犯罪の祖である宮崎を「みせしめ」的に犠牲にした、というストーリーが成立してしまうのである。 鳩山法相下ではほぼ2カ月に1度のハイペースで死刑執行が繰り返されており、実際には宮崎の処刑決定も秋葉原事件より前に行われたかもしれないが(私はその可能性が高いと考えているが)、そうであっても秋葉原事件があったにもかかわらず、「予定」通り宮崎を血祭りにあげることで、本来まったく無関係の2つの事件に関係性を与えてしまった。Kの犯罪の結果としての宮崎の処刑という「作られた因果」は、Kと宮崎とが歴史的に等価交換の可能な存在であると公認したも同然である。その政治的効果は、Kを「異常犯罪者の系譜」に組み込むことで、事件の引き金になった派遣労働の非人道性を見えなくさせると同時に(ただし私は以前も述べたように秋葉原事件を雇用問題だけに一元化する見方には否定的である)、「おたく」=「犯罪」という錯覚を広げることである。 今回と類似の事例は過去にもあった。1997年の神戸連続児童殺傷事件である。「酒鬼薔薇聖斗」を自称した容疑者が逮捕されたのは同年6月28日。その1か月余り後の8月1日、連続ピストル射殺事件で死刑判決が確定していた永山則夫死刑囚に対し死刑が執行された。事件の原因も質も異なる永山と「酒鬼薔薇」には「犯行時に未成年」という共通点があった。当時永山の処刑は、犯行時14歳で通常の裁判で裁けない「酒鬼薔薇」の「身代わり」として「生贄」を求める大衆の欲求に従ったのではないかという説がささやかれた。その当否は私にはわからないが、問題は法務大臣の意図に関わらず、残された「結果」は「少年犯罪」に対する「報復」(ただしその「報復」を求める人々には本来「報復の資格」はない)を国家が代行したという意味を持ってしまったことにある。 今回の場合は「おたくの犯罪」に対する「報復」を国家が代行することで、「生贄」を求める大衆の欲望に応えたと言えるのではないか。Kが果たして本当に「おたく」と言えるのかどうか議論が分かれているにもかかわらず、法務省は強引に「職場に不満を持つ派遣社員の犯罪」から「異常な精神をもつおたくの犯罪」に価値転換を行ってしまった。私自身は再三述べているように、雇用問題は秋葉原事件の重要なピースではあるが「すべて」ではないとみている。依然として「謎」が残る中で、思考停止のような「回答」を法務省が示したことに深い怒りを感じざるをえない。 鳩山法相の愚行の結果、Kは「犯罪者の格」として宮崎勤と「同格」になってしまった。私は以前、Kはダークヒーローになり損ねたと指摘したが、国家の側が図らずもKを「宮崎を生贄にするだけの価値がある」と烙印を押してしまった。宮崎の場合、事件後の知識人たちの「語り」が彼をある意味で歴史的存在に押し上げてしまったが、今後宮崎を語る時には鳩山によって彼の「死」と関係づけられた「秋葉原のK」のことが必ず連想されるだろう。Kは「特別」になってしまった。ダークヒーローKがどのような効果を社会に与えるかは私には未知の領域である。 【関連記事】 そして「漠然とした不安」だけが残る
by mahounofuefuki
| 2008-06-17 16:57
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