ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」(以下「靖国」と略す)に対する上映妨害問題は、映画の上映を求める世論の声と表現・言論の自由を擁護しようとする心ある人々の尽力で、来月にも各地で上映の見通しがついたことで、とりあえず落着するかと思いきや、守勢に立たされた妨害勢力が論点をすり替えて反撃に打って出ている。
この問題の焦点は、自民党の稲田朋美衆院議員らが何ら法的根拠も道義的正当性もなく文化庁に映画の事前試写を要求し、正当な手続きで支出された芸術文化振興基金の助成にケチをつけたことにある。この件では単なる議員個人の圧力を国政調査権と称した稲田氏を文部科学大臣が批判したほどで、稲田氏の弁明も二転三転し、引き際を知らない政治経験の浅さを露骨に示した。 基金の助成要件については以前当ブログでも指摘したが、「政治的、宗教的宣伝意図を有するものは除く」とは特定の政党・政治団体の宣伝と解するほかなく、実際文化庁の文化部長は国会でそのように答弁していた。審査を行った専門委員会に「9条の会」に参加している人がいたと噛みついている人がいるようだが、「9条の会」は政党でも宗教団体でもない上に、委員の全員ないし多数がそうならばともかく、1人や2人いることがどれほどの影響があるというのか。全くばかばかしい。 一方、追い込まれた稲田氏に代わって前面に出てきたのは有村治子参院議員である。 有村氏は3月27日の参議院内閣委員会における質疑で、「靖国」の中心的出演者である刀匠が映画の「キャストになることを了承していらっしゃいません」(参議院会議録情報 第169回国会 内閣委員会 第3号)と主張、当の刀匠夫妻が「出演場面と名前を(映画から)切ってほしい」「だまされた」(高知新聞2008/04/10 13:50)などと「靖国」製作サイドへの不信感を表明するに至り、上映妨害勢力は刀匠の「肖像権」を前面に押し出すようになった。 刀匠が今になってこう言い出したのは、よりにもよって自分が映された映画が「反日」とのレッテルを張られていることに不安を覚えたからだろう。言うまでもなく彼は長年靖国神社に深く関わってきた人間で、その歴史観や政治意識において保守主義と親和的であるとみられ、「反日」と言われるのは我慢がならないはずだからだ。 妨害勢力は刀匠が李纓監督らにだまされたと主張し、上映擁護側は有村氏が刀匠を変心させたと批判しているが、「だまされた」と言うのは撮影を応諾した当時の刀匠をあまりにも馬鹿にしているし、「変心」というのも刀匠がもともと靖国サイドの人であることを考えれば正確ではない。あまりにも問題が大きくなりすぎたために自己保身を図っているというのが本当のところだろう。 はっきりしておきたいのは、仮に刀匠が肖像権の侵害を主張しても、稲田氏らの「検閲」の罪は消えないということである。実際、稲田氏らは議員向け上映を要求した時も、出演者の権利のことなど一言も触れていない。出演当事者が承諾していないことと、「検閲」の正当性は全く別の次元の話である。 出演許諾問題以上に重大な結果を招きそうなのが、これまで事態を静観していた(ように見えた)靖国神社が、突如境内の撮影許可手続が遵守されていないなどと主張し、映像の削除を要求しはじめたことである。 これも李纓氏は10年もの間、神社を撮影していたのだから、今になって茶々を入れたのは明らかに不自然で、何らかの政治的思惑を推測しうるが、問題は靖国神社を支持する保守派・右翼の中にも「靖国」を高く評価したり、上映を求めている人々が少なくないのにもかかわらず、神社側が稲田氏や有村氏のような妨害勢力に肩入れをした点にある。 私のような「左翼」が言うのも何だが、靖国神社の「権威」は今回の映画が上映されても何ら揺るぐことはない。本来は「そんな映画がいくら広がっても神社はびくともしません」と余裕を見せた方が戦略的には得策である。ところが、何を焦っているのか映像削除要求という無茶な行動に出たのである。これは靖国神社がその社会的支持基盤の維持に自信を失っているとも読み取れる。 共同通信(2008/04/14 19:21)によれば、配給元は法的に問題がないと判断し、上映を中止しないとの意向を示しているというので、とりあえずは大丈夫のようだが、靖国神社本体が動き出したことで、妨害活動は今後ますます組織的に強化されるだろう。「映画をみせろ」とはっきりとアピールし続けることが必要である。 【関連記事】 映画「靖国」上映妨害問題 (追記あり)
by mahounofuefuki
| 2008-04-14 21:30
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