文部科学省が新しい学習指導要領(幼稚園、小学校、中学校)を告示した。今回は教育基本法改悪後初の改訂という点で注目されたが、先月発表された改訂案が告示直前に「修正」されるという前代未聞の事態となった。
何と言っても問題なのは、総則の教育課程編成の一般方針に「伝統と文化を尊重し,それらをはぐくんできた我が国と郷土を愛し」との文言が追加されたことである。総則に記載されたということは「国と郷土を愛する」ことを全教科で目標としなければならないことを意味する。 そもそも道徳教育を全教科に渡って行うこと自体が「知識」「理解」を軽視し、科学的認識の獲得の妨げになっているのに、それに輪をかけて「愛国心」を強制することは、無理やり好きでも何でもない異性を愛せと言うようなもので、断然許容できない。 もう1つ問題なのは、音楽科の指導計画の作成と内容の取扱いに「君が代」を「いずれの学年においても歌えるよう指導すること」と、単に「指導すること」としていた従来よりも指導性を強化したことである。「君が代」が歌えるかどうかが評価対象となる法的根拠を付与したことになる。 本来、どんな歌も歌うか歌わないかは当人の自由である。それは「国歌」も例外ではない。その上、「万世一系」という虚構を前提とした天皇制の永続を願う「君が代」が、主権在民の国家の国歌として相応しいとは言い難い。「天皇の奴隷」になることを強要する歌を強制するのは反民主的である。 中央教育審議会(中教審)の審議もなく、文部科学大臣の職権で事前に公表した改訂案を「修正」したことについて、各報道は自民党国家主義派の政治的介入を示唆している。 「改訂案に対しては、自民党内から『改訂案が教育基本法の改正を反映していない』と早くから不満が上がっていた」(朝日新聞2008/03/28 06:15)、「与党部会とのやり取りなども加味して修正」(毎日新聞2008/03/28朝刊)、「愛国心を強調することで、そうした批判に配慮した」(「自民党中堅」の話、読売新聞2008/03/28 05:05)といった記述から、自民党の文教族をはじめとする議員たちの不当な圧力があったことを読み取れる。 渡海紀三郎文部科学大臣は、学習指導要領告示にあたっての談話の中で「去る2月15日に案を公表し、30日間、広く国民の皆様からご意見をいただいた。それらを踏まえ必要な修正を行い、本日公示に至った」と、「国民の皆様からのご意見」を「修正」の理由に挙げているが、改訂案公表後に公募したパブリックコメントの全容は正確には不明である。 国家主義教育団体「日本教育再生機構」がパブコメ用のテンプレートを作成し、右翼色の濃いコメントを送るよう呼びかけていたが、他方でweb上では民主的な方向への改訂を要求するコメントを呼びかける動きもあった。「国民の皆様のご意見」が多種多様であったことは間違いなく、その中から特定の組織の意見だけを取り上げるのは著しく公平性を欠くと言わざるを得ない。 学習指導要領は戦後初期においては教育内容の「試案」という位置づけで、学校が教育内容を決定するにあたっての参考資料にすぎなかったが、現在は「告示」という法令であり法的拘束力を持つ。教育基本法が改悪されてしまった以上、これに抗する法的根拠は日本国憲法しかないのが現状で、学校教育の劣化を防ぐのは非常に困難である。改悪後、教基法は政治課題となっていないが、1947年教育基本法への復旧を目指す機運を少しでも高める必要があるだろう。 【関連リンク】 新しい学習指導要領-文部科学省 教育基本法-法令データ提供システム 教育基本法(廃)-法庫
by mahounofuefuki
| 2008-03-28 20:55
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