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福祉国家派の消費税増税論と「北欧モデル」についての私見

 どうも最近、消費税増税を容認する福祉国家を推進する左翼系ブログが目につく。それらの議論はいずれも「高負担・高福祉」の「北欧」モデルの導入を想定している。スウェーデンは付加価値税25%だが、所得の平等度は高い。その事実が消費税増税と引き換えの社会保障給付の充実という政策思想の前提になっている。

 「北欧」モデルについては、今年に入ってから関係書籍を随時読んでいるのだが、知れば知るほど、日本と北欧諸国の「背負っている歴史」の違いを思い知らされる。スウェーデンでは早くも1910年代に社会民主党政権が成立している。2度の大戦にも中立を堅持した。一方、その頃の日本は戦争を繰り返し、社会主義は徹底的に弾圧された。90年以上、終始社会民主主義政党が第1党だった国と、保守政権が140年近く続く国を同列にはできない。
 スウェーデンで売上税(消費税に相当)が導入された時、すでに年金も児童手当も住宅支援も今の日本より充実していた。福祉国家が先にあった上で、消費税は後から導入されたのである。ところが日本では消費税を先に増税して、それを原資に福祉国家の実現を図ろうというのである。この違いは非常に大きい。

 こういうと例えば山口二郎氏(あるいは消費税増税派のブログ書き)あたりは、それではいつまでたっても福祉国家は実現しないと言うのだが、私に言わせれば、消費税増税で貧困層の生活が成り立たなくなることこそ、福祉国家の実現を阻害する。
 福祉国家が持続するためには、できるだけ多くの人々が税を負担しなければならない。そのためには、まず所得の平等度を高めることが必要であり、消費税は当面減税ないし廃止することが望ましいとさえ考える。

 消費税というのは、十分な所得再分配システムができてからならば、国家の構成員全員が負担しうる(人間は生きている限り必ず消費するため)という点で実は民主的な税であるが(国家に納税することで、国家に対する権利は明確になる)、再分配効果を高める政策が何一つ実施されていない現状では、逆進性の極めて高い消費税は完全に有害なのである。
 そして、ここが重要なのだが、国家による富の再分配効果は1年や2年というレベルではなく、2世代くらいの時間がなければ確かめることができない。「平等」とは動態的なものであり、個々人の全生涯を見なければならない。ある1年だけ取り出しても、社会の平等性が高いかどうかは本当のところはわからない。現在の雇用における正規・非正規間格差の問題も、ある時点では中には非正社員の方が正社員より手取り収入が多い場合があるが、生涯所得では大きな開きがある。実際に不平等を是正するには、長期間の取り組みが必要なのである。

 日本の現在の政治状況や社会構造を考えると、消費税を主体とした税制は50年以上先の課題である。今、消費税の引き上げをどんな目的であれ唱えるのは、結局のところ法人税減税の財源として消費税増税を目論む財界に利用されるだけだろう。
 しつこいようだが、必要なのは所得税の最高税率引き上げと累進回復と分離課税廃止、相続税の対象範囲拡大、法人税の復旧である。「歳出削減でもなく、消費税増税でもなく、金持ち増税を!」。貧困からの脱却にはそれしか道がない。

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森永卓郎氏による相続税改正論。相続額2000万円以上に100%の相続税をかけると国の歳入全てを賄えるという試算。現実的ではなく問題もあるが、財源は消費税以外にいくらでもあるという事実に注目してほしい。
by mahounofuefuki | 2008-03-09 16:03


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