『週刊文春』の「疑惑の銃弾」と題する記事をきっかけに、いわゆる「ロス疑惑」がマスメディアを騒がした当時、私は小学校に上がったか上がらないかという年齢であり、事件そのものについては全く理解できなかったが、「三浦和義」という名前とテレビに何度も映された彼のサングラス姿だけは鮮明に記憶に焼きつけられた。
今にして思えば、あの事件こそ刑事事件を大衆の「娯楽」にするワイドショー型事件報道のはしりだったわけで、幼児の脳裏に残るほどテレビの影響力は絶大だったことを改めて認識しなければならない。 周知の通り「ロス疑惑」の核心である三浦和義氏の当時の妻が銃撃された事件について、日本の最高裁では三浦氏の無罪判決が確定している。今になって突然アメリカの警察当局がサイパンに滞在していた三浦氏の身柄を拘束したことに疑念が出るのも当然である。 特に在日アメリカ軍の軍人による暴行事件をはじめとする一連の不祥事や海上自衛隊のイージス艦「あたご」が漁船に衝突した事件から、マスメディアの矛先を変えさせるための「陰謀」を疑う声が出ている。たとえば日頃「陰謀論」を批判しているきまぐれな日々でさえ、「日本国民の目をそらさせたいであろうアメリカによる「陰謀」を疑いたくなってしまう」と述べるほどだ。 私には「陰謀」説を肯定することも否定することもできない。ただ、私が思ったのは米兵の暴行事件、「あたご」事件、そして今回の三浦氏の逮捕の3つに共通するのは、「アメリカの横暴」が背景にあるということである。 暴行事件については言うまでもない。日米安保体制と在日米軍の存在が「公認された殺人者」たるアメリカ兵を野放しにし、市民生活を脅かした。「あたご」事件は日本の自衛隊の問題だが、そもそもイージス艦は日米軍事一体化の過程で、特にアメリカ主導のミサイル防衛システムの構築と関わって建造されたことを考えると、結局はアメリカの軍事戦略が事件の遠因とも言える。いずれも日本に従属的軍事パートナーの役割を押し付けるアメリカの対日政策が通奏低音となっていることは疑いない。 そして、今回の「ロス疑惑」の件。確かに事件そのものはアメリカ領内で発生したので、今もアメリカには裁判権があるし、ロスアンゼルスを含むカリフォルニア州の州法では殺人罪に公訴時効がない。逮捕や起訴の手続きは合法だろう。 しかし、日本ではすでに無罪が確定し、時効も過ぎている。日本国憲法第39条は「同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない」と、国際人権規約もB規約第14条で「何人もそれぞれの国の法律及び刑事手続に従って既に確定的に有罪又は無罪の判決を受けた行為について再び裁判され又は処罰されることはない」と定めている。いわゆる一時不再理の原則で、条文上は別の国での裁判や処罰を妨げないが、本来刑事訴訟については慣習上、国際間でも適用されるべきである。 さらに日米間には犯罪人引き渡し条約が存在する。条約第4条は「引渡しを求められている者が被請求国において引渡しの請求に係る犯罪について訴追されている場合又は確定判決を受けた場合」は引き渡しを行わないと定めている。この規定故にアメリカ側はたとえ「新証拠」があっても、日本側に「確定判決を受けた」三浦氏の身柄引き渡しを要求することができない。条約上身柄引き渡しができない者を、たまたま自国領内にいたからという理由で逮捕勾留するのは人道上疑問が残る。 「ロス疑惑」の再燃で在日米軍や自衛隊の不祥事が霞むのを心配するのならば、むしろこれらをつなぐ共通項である「アメリカの無法と横暴」を強調する必要があるだろう。 《追記》 本文中「一時不再理」は誤字で、正しくは「一事不再理」でした。おわびして訂正します。 【関連リンク】 きまぐれな日々 突然の三浦和義氏再逮捕と「9.11」の因縁 日本国憲法-法庫 市民的及び政治的権利に関する国際条約(B規約)第三部-外務省 日本国とアメリカ合衆国との間の犯罪人引き渡し条約-国際法研究室
by mahounofuefuki
| 2008-02-25 12:31
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