昨年末に福田康夫首相が公約していた政府の「社会保障国民会議」の設置が閣議決定された。
朝日新聞(2008/01/25 13:27)、毎日新聞(2008/01/25 11:59)によれば、メンバーは次の通り(敬称略)。 吉川洋(東京大学大学院教授)=座長/大森弥(東京大学名誉教授)/奥田碩(トヨタ自動車相談役)/小田与之彦(日本青年会議所会頭)/唐沢祥人(日本医師会長)/神田敏子(全国消費者団体連絡会事務局長)/権丈善一(慶応大学商学部教授)/塩川正十郎(元財務大臣)/清家篤(慶応大学商学部教授)/高木剛(連合会長)/竹中ナミ(社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)/中田清(全国老人福祉施設協議会副会長)/樋口恵子(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長)/南砂(読売新聞編集委員)/山田啓二(京都府知事)自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠氏を起用するようなサプライズはなく、予想通り既成の圧力団体の関係者と御用文化人ばかりで、官僚がコントロールできる人選である。ワーキングプアやホームレスの代弁者は1人もいない。「国民会議」と称していながら政府・与党にとって壁となるような人物もいない(ただし分科会の方で呼ばれる可能性は残っているが)。 また消費税増税派が多数を占めており、政府・与党の既定路線である消費税の社会保障目的税化と引き上げに「お墨付き」を与えるだけの機関になりそうだ。 現在の日本の社会保障は、こんな人々に任せることができないほど疲弊し、崩壊が進行している。社会保障とは本来、その名の通り社会生活を保障するもので、困っている人や弱っている人が自立できるようになるためのセーフティネットである。しかし、少なくとも日本の社会保障制度は、豊かな人や恵まれた人ほど有利で、本当に困窮している人々を制度の外側に排除するような仕組みになっている。 たとえば年金。 周知の通り、現在すべての「国民」が国民年金への加入を義務づけられているが、公務員や教職員の場合は共済年金、会社員の場合は厚生年金があり、それぞれ国民年金に上乗せされる2階部分がある。使用者(国・企業)負担があり、報酬に比例するこの「2階部分」があるのとないのとでは、世帯当たりの年金給付額に相当大きな開きがあることは従来からよく言われていた。 「2階部分」がある場合と国民年金だけの場合との格差に加え、国民年金は保険料が所得にかかわらず定額(現在は月額14,100円)で低所得者ほど負担が大きいという問題がある。しかも、国民年金の給付は現役時代の年金納入期間によって左右される。未納期間が長ければ長いほど自身の給付額は減る。そもそも国民年金の担い手は自営業者や厚生年金に加入できないパート・アルバイトなどで、ただでさえ所得が不安定なのに、この逆進的な制度のためにますます苦境に追いやられている。 現在、国民年金保険料の未納率は4割に達する。保険料納入の時効はわずか2年。長期未納者は年金給付の権利を喪失する。現在の年金制度は安定した終身雇用を前提にしているため、そうでない不安定雇用の人々を制度の外側に追い出しているのである。 あるいは、医療保険。 これも年金と同様、公務員は共済組合、会社員は組合健保ないし政府管掌健保で、それ以外は国民健康保険というように雇用形態により違いがあるのは言うまでもない。問題は使用者負担のある健保に比べ、自治体が運営する国保はいずれも財政赤字で年々保険料が増加しているため、保険料の未納・滞納者が続出していることである。 国保はこれまた雇用や所得が不安定な人々が主たる担い手になっている。ただでさえ弱い立場にあるのに高額の保険料を負担させられ、滞納が続くと保険証を取り上げられる。厚生労働省の最近の発表によると、国保料の滞納世帯は約474万6000世帯で、国保加入世帯の18.6%にものぼる。そのうち約34万世帯が保険証を取り上げられ、資格証明書の発行を受けている。資格証明書での受診は全額自己負担である。病気になってもカネがなくて治療を受けられない人々が増加している。 その結果、弱者が保険制度の外側にはじかれる→制度の内側に辛うじて残っている人々の負担が増える→負担に耐えられず外側にはじかれる、という悪循環を引き起こしており、ここでも困っている人、弱っている人が社会保障の枠組みから排除されているのである。 年金と医療を例示したが、雇用保険や介護保険や障害年金や生活保護など他の分野でも似たような事態が進行している。あえて言ってしまうが、現在の日本の社会保障制度は、安定した雇用と所得を得られる人々だけの「特権」になっている。本当に保障を必要とする困窮者ほど社会保障制度から排除され、恩恵に与れないのは矛盾以外の何者でもない。 「特権」をすべての主権者が享受できる「当り前の権利」にすることが必要なのは言うまでもない。特に年金と医療については雇用形態による差別をなくしていく方向性が欲しい。 前述の通り、政府と財界は社会保障国民会議で、消費税の社会保障目的税化と引き上げの既定路線化を進めるのは間違いない。 しかし、究極の逆進税である消費税の引き上げは、この国の社会保障の崩壊にとどめを刺す暴挙である。政府は消費税を引き上げようとする一方で、国民年金保険料も国民健康保険料も引き上げを続けている(それでいて給付の方は引き上げられず「現状維持」もしくは「引き下げ」である)。消費税を消費支出を通して強制的に負担させられる分、保険料を負担できなくなり、低所得者はますます社会保障制度の外側へ追いやられる。 そして最後のセーフティネットである生活保護も、政府は今年再び引き下げを図っている。これ以上、政府と財界と自民・公明両党(もしかすると民主党も)による社会保障つぶしが続けば、この国の生活困窮者は増大し続け、結局は消費市場を縮小させ、労働力を失い、社会保障のみならず経済も崩壊するだろう。 社会保障国民会議には全く期待できないが、これを機に在野においても社会保障制度のあるべき姿について提起していくべきであろう。
by mahounofuefuki
| 2008-01-25 17:07
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