DV防止法「出前授業」をつぶした「凶悪な力」

 この国の保守的国家主義者が現在最も目の敵にしているものは2つあって、1つは日本の国家犯罪の史実を明らかにする歴史像・歴史認識、もう1つは近代社会特有の性別役割分業の前提となる「男らしさ」「女らしさ」の在り方を変えようとする動きである。

 前者に対する攻撃が戦後ずっと続いているのは周知の通りだが、近年激しい攻撃を受けているのが後者で、特にジェンダーフリーに対する誤認と憎悪に満ちた攻撃はヒステリックで暴力的な様相を呈している。一昨年、国分寺市が東京都からの委託事業の人権学習講座で東京大学大学院教授の上野千鶴子氏の講演を予定していたところ、都教育庁の圧力で委託事業そのものが中止になったのは記憶に新しい。都の判断の背後に家父長制擁護者たる石原慎太郎知事の影響力があるのは確かだが、こうした事態は全国各地に広がりつつあるようだ。
 以下、共同通信(2008/01/22 21:51)より(太字は引用者による)。
 茨城県つくば市の県立茎崎高校が、28日に予定していたドメスティックバイオレンス(DV)被害者を支援する特定非営利活動法人(NPO法人)による出前授業を中止していたことが22日、分かった。

 隣のつくばみらい市が別の団体代表によるDV講演会を、抗議が殺到したのを理由に中止したのを受けた決定。この代表の講演を予定する新潟県長岡市にも多数の抗議が寄せられ、影響が広がり始めている。識者から「DV防止法の根幹にかかわる事態」と危惧する声が出ている。
 
 茎崎高校によると、茨城県内のNPO法人が1年生約60人を対象に、若い世代で多発している「デートDV」についての知識を広め、予防するための講義を予定していた。
 
 松井泰寿教頭は「学校に抗議があったわけではないが、公的機関であるつくばみらい市の判断を重視し、生徒の混乱を避けるため中止した」と説明した。
 茎崎高校に招かれていたNPOについてはあいにく不明だが、つくばみらい市が講演を予定していた「別の団体」とは、共同通信加盟社配信記事によれば「東京フェミニストセラピィセンター」で、代表の平川和子氏の講演が「抗議の殺到」により中止となったという。
 「学校に抗議があったわけではない」のに中止した学校側の弱腰ぶりは問題だが、それだけつくばみらい市への「抗議」がすさまじかったと言える。右翼団体や地域の有力者の影もあったかもしれない。

 「東京フェミニストセラピィセンター」のホームページによれば、同団体は「1997年より暴力被害女性のための緊急一時避難所を開設し、長期展望にたった支援に取り組む」とあり、DV被害者のためのシェルターづくりや有料のカウンセリング活動を行っているようである。
 言うまでもないことだが、DVについては2001年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(DV防止法)が施行され、国と地方自治体には配偶者による暴力を防止し、被害者を保護する責務を負わせている。行政が同法の趣旨にのっとり啓蒙活動や学習活動を行うのは当然のことであり、これを否定する所以はまったくない。

 なお引用記事にある通り、新潟県長岡市に対しても平川代表の講演への抗議活動が行われているようである。ネット上でリサーチしたところ、「DV防止法犠牲家族支援の会」という反フェミニズム団体が平川氏の講演に対する抗議を呼びかけていた(ホームページもあったが不愉快なのでリンクはしない。「家」制度への過剰な依存とフェミニズムに対する「被害妄想」に思わず失笑してしまった)。
 前記配信記事によると、今のところ講演の主催者である長岡市教育委員会は「粛々と行いたい」と抗議を意に介していないようだが、今後圧力が強まる可能性は否定できない。講演を決行するよう同市へ請願を行う必要があるかもしれない。

 いずれにせよこのような不当なバッシングを座視してはならない。この問題はDV防止法の危機のみならず、この国の言論の自由そのものが脅かされているとみなさねばならない。


《追記》

 ここまで書いたところ、多文化・多民族・多国籍社会で「人として」が、つくばみらい市の講演中止事件の詳細を明らかにした記事を上げておられた。
 多文化・多民族・多国籍社会で「人として」:つくばみらい市事件で考える、「威嚇」と行政
 どうも市役所への威嚇的な街宣活動があったようだ。なお講演の中止に抗議する電子署名活動が行われている。詳細は「多文化~」さんの記事を参照。


《追記 2008/01/24》

 トラックバックいただいたGazing at the Celestial Blue経由で、みどりの一期一会の関連エントリを読んだ。私は「出前授業」中止の件が報道されるまで、こんな凶悪な事態が進んでいたことをよく知らなかったので、恥ずかしい限りである。
 もしお読みでない方がいたら、ぜひお読みください。

【関連リンク】
配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律-内閣府男女共同参画局
東京フェミニストセラピィセンター
長岡市教育センター
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by mahounofuefuki | 2008-01-23 21:13


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