薬害C型肝炎被害者救済のための特措法が成立した。
薬害C型肝炎をめぐる5つの訴訟の1審判決が出そろい、最も審理が先行していた大阪高裁での和解交渉が始まって以降の動きは、周知の通り急展開の連続であった。国の責任認定と被害者の一律救済を行うよう政治決断を迫る原告団に対し、福田内閣はこれを一度は足蹴にした。しかし、世論の反発を受けて与党が議員立法での解決を打ち出し、結局与野党共同提案で特措法が提出され、衆参両院での異例のスピード審議を経て、全会一致で成立した。 法律は前文で「政府は、感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者及びその遺族の方々に心からおわびすべきである。さらに、今回の事件の反省を踏まえ、命の尊さを再認識し、医薬品による健康被害の再発防止に最善かつ最大の努力をしなければならない」と、薬害放置に対する政府の責任と被害者に対する謝罪、今後の薬害防止を明記した。 これにより国は医薬品医療機器総合機構を通して被害者への給付金を拠出する。1人当たりの給付金は、肝炎に起因する肝硬変・肝臓がんの患者に4000万円、慢性肝炎患者に2000万円、肝炎ウィルスに感染するも未発症の患者に1200万円である。給付金の請求期限は法の施行から5年間と定められた。 原告団・原告弁護団と政府は15日に和解合意書に調印するが、製薬会社との和解交渉は未だ進んでおらず、ましてや今回はC型肝炎のみの話であり、薬害肝炎問題そのものの終わりではなく、あくまでも一里塚にすぎない。 今回の法律の正式名称は「特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第Ⅸ因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法」とあるように、今次の訴訟の案件である「フィブリノゲン」と「第9因子製剤」に起因するC型肝炎のみが対象であって、他の医原性のC型肝炎やB型肝炎は含まれていない。また、給付金の請求期限が5年間で、それまでに薬害による肝炎感染を証明し、裁判所が被害者と認定しなければ補償を受けることができない。 これらの件をもって原告団や弁護団に対する批判があるが、今回の訴訟そのものがこの2つの血液製剤による薬害を巡るものであるので、他の症例の解決についてまで原告団に負わせるのは酷だろう。むしろ今回の行動を機に、来年度末までの肝炎ウィルス検査の無料化と、来年度からのインターフェロン治療への公費助成制度を勝ち取った(朝日新聞2008/01/11 10:39など)ことを評価するべきだろう。 今回の特措法を突破口にして、すべての薬害肝炎・医原肝炎の実態解明と責任追及、公的医療体制確立を目指す必要があるのは言うまでもない。今国会では与党と民主党がそれぞれ提出していた包括的な肝炎対策のための法律案は継続審議となるが、すぐに召集される通常国会で肝炎被害者・患者の声が届くよう強く望む。 一連の薬害肝炎問題から私は次の点を学んだ。 第1に、厚生労働省や製薬会社の無能・無反省ぶりはもはや「不治の病」である。彼らの患者軽視、安全性軽視、隠蔽体質は薬害HIVの時から何も変わっていない。今回の薬害肝炎では本来、汚染された血液製剤を認可・放置した当時の厚生官僚は刑事訴追に値する。個々の官僚の責任を問うことが必要だ。製薬会社に対しては外部からの監視を導入するべきだ。 第2に、新聞やテレビのようなマスメディアの威力である。訴訟当初こそ大きく報道されることもあったが、次第にニュースに占める比重は低下し、原告団が請願や抗議行動を行っても報道の扱いは小さかった。それが大阪高裁の和解骨子案が出た前後から、俄然新聞やテレビのニュースのトップを飾るようになり、連日原告の女性たちが映し出されたことが世論の喚起につながった。マスメディアが大きく取り上げなければ、今回の和解は決してなかっただろう。 一方で、報道が相変わらず感情的で、原告が泣き叫ぶ所ばかり映したことで、市井では原告に対する誹謗中傷や薬害肝炎そのものへの不正確な理解と偏見が少なからずあった。バッシングが不発だったのは同情論が圧倒したからだが、それも若くて美貌の原告が「悲劇のヒロイン」の役割を担わされた側面は否めず、気まぐれな大衆の「空気」の方向性によってはイラク人質事件のような事態もありえた。マスメディアの功罪は改めて検証しなければなるまい。 以上のようにさまざまな問題が山積してはいるが、先月には一度は和解交渉の決裂寸前までいったことを考えれば、今日の薬害C型肝炎被害者救済法の成立をひとまずは喜びたい。 【関連リンク】 Yahoo!ニュース-薬害問題 衆法 第168回国会 23 特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第Ⅸ因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法案(厚生労働委員長) 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 薬害肝炎訴訟 リレーブログ B型・C型肝炎患者の早期全面救済を! 薬害肝炎訴訟全国弁護団ホームページ 投与記録のある1000人以外の、「349万9000人」の思い-OhmyNews
by mahounofuefuki
| 2008-01-11 17:00
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