沖縄戦における住民の「集団自決」をめぐる教科書検定の現在の動向がほぼ明らかになった。
当ブログは12月7日の記事で「依然として文部科学省が『軍の強制』を明記することに抵抗している」と指摘し、教科用図書検定調査審議会が「軍の強制」を容認したと報じた共同通信など一部の報道を否定したが、当の共同通信が今日になって誤報を改めた。 以下、共同通信(2007/12/22 00:00)より(太字は引用者による)。 沖縄戦の集団自決をめぐる高校日本史教科書の検定問題で、日本軍による強制があったとの記述で訂正申請していた複数の教科書会社と文部科学省の教科書調査官との間で、「強制」の文言使用を避ける形で記述内容の“調整”をしていることが21日、関係者の話で分かった。沖縄のメディアはさらに詳細を伝えている。沖縄タイムス(2007/12/22朝刊)によれば、教科書調査官側は、「日本軍」を主語とした「強制」「強いた」という文言を使わないよう教科書会社側に求め、「日本軍の強制」と「集団自決」の背景を併記して訂正再申請した会社も、結局それに沿って訂正再々申請したという。また、琉球新報(2007/12/22 09:43)によれば、審議会は「日本軍」を主語とすることは認めたが、「強制」ではない「関与」にとどめているという。 さらに前記琉球新報の記事は、12月4日に審議会が教科書会社側に示した「指針」で、「今後の調整は教科書調査官に委任する」と述べていたことも明かしている。当ブログが以前から指摘してきたように、現行の教科書検定では教科用図書検定調査審議会は有名無実化し、教科書調査官の役割が増大しているが、今回も審議会は調査官に丸投げし、一方的に教科書発行者に「指針」を押し付けたのである。これではもはや「検定」というより「検閲」であり、戦前の国定教科書と何ら変わりがない。 そもそも今回の検定問題は、前回までの検定を通過していた記述に対し、何ら正当な根拠もなく今回になって突如検定意見が付されたことに端を発する。前回検定から今回検定までの間に、通説を覆すような学術論文が発表されたわけではない。非学問的な要因によって教科書が書き換えられたのである。 当初の申請本では、すべての「集団自決」が日本軍の「強制」だったとは書いていない(「日本軍によって強いられた人もあった」というような記述)。ところが、検定意見は一切「日本軍」を「強制」の主語とすることを禁じた(当ブログの沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題の資料を参照)。実際は「軍命」もあったし、軍のいない所では「集団自決」が起きていない以上、すべての「集団自決」に軍が関与していると言ってもいいのだが、いずれの教科書も慎重な姿勢だったのである。 ところが文部科学省は教科書会社や執筆者のそんな慎重な姿勢をも吹き飛ばし、史実を隠蔽した。文部科学省は歴史学の研究状況を無視し、歴史修正主義者らの政治的介入によって検定を歪めたのである。 その後、沖縄県民をはじめとする世論の強い批判を受けて、検定の再申請が行われたが、前述のように依然として文部科学省は姿勢を改めず、相変わらず当初の検定意見に固執していることが明白になった。やはり当ブログが以前指摘したように、この問題は時間との戦いであり、教科書会社側は文部科学省に従うほかない。検定審査を通らなければ、教科書を発行することはできず、出版社は確実に倒産する。残念ながらそうした弱みがある限り、検定の壁を突破することは難しい。 改めて文部科学省による教科書検定制度の廃止を含む全面的な見直しを提起したい。同時に自らの学問的良心よりも政治的な自己保身を優先した教科書検定調査審議会日本史小委員会の4人の委員(別記)と教科書調査官に厳重な抗議の意を示したい。 《別記》 教科書検定調査審議会の日本史小委員会のメンバーは次のとおり。 九州大学大学院教授 有馬学有馬氏と広瀬氏が、歴史修正主義グループに参画する東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下ないしは深い関係にあることは、当ブログが指摘し、その後国会でも明らかになった。上山氏は伊藤氏が教授だった時期に東京大学大学院に在籍し、当然伊藤ゼミにも出ていたと思われるが、彼は一般には同時期に東京大学教授だった高村直助氏の門下と目されている。波多野氏は政治学畑で「文学部系統」の歴史家ではないが、かつて家永教科書訴訟で被告の国側の証人として出廷したことがある。 教科書調査官については教科書改竄の「黒幕」参照。 《追記 2007/12/25》 NHKニュース(2007/12/24 18:37)によれば、教科書会社6社中、5社の訂正申請に対し、教科用図書検定調査審議会は「住民に対する日本軍の直接的な命令を示す資料は見つかっていない」という理由で、「事実上の修正」を求め、教科書会社側は修正して申請したという。国策放送であるNHKが報じたことで、事態はよりはっきりしたと言えよう。文部科学省の姿勢は今春の検定意見の段階から何ら変わっていない。これは日本の支配層が「沖縄」を切り捨ててまで「日本軍の名誉」を重んじたことを意味する。歴史修正主義勢力に屈したと言っても過言ではない。 【関連記事】 教科書改竄の「黒幕」 教科書検定の徹底検証を 沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題の資料 教科書検定に関する石井郁子議員の質問 文部科学省はまだ「軍の強制」を弱めようとしている~「集団自決」教科書検定は訂正再申請へ 【関連リンク】 教科用図書検定規則-文部科学省 高等学校歴史教科書に関する検定結果(平成18年度)-文部科学省 教科書検定の手続-文部科学省 沖縄戦「集団自決」問題-沖縄タイムス 沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会 「軍命あった」 沖縄戦専門家の林教授が講演-JANJAN 日本の現代史と戦争責任についてのホームページ 林博史研究室へようこそ 眠れぬシーサーさんの「眠り狂五郎」
by mahounofuefuki
| 2007-12-22 12:25
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