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「反撃の書」としての2008年版「労働経済白書」

 厚生労働省が2008年の『労働経済白書』を公表し閣議に提出した。既に報道されているように、特に雇用についてこれまでの「構造改革」路線を事実上否定し、非正規雇用の正規雇用化や成果主義・業績主義賃金の見直しを提言するなど、最近の風向きの変化を反映する内容となっている。

 まだ全文を精査していないが、おおよそ眼を通したところでは、次の諸点に注意を引かれた(ページ数は「白書」本文版による)。

○ 全労働者に占める正規雇用の割合が低下を続ける一方、非正規雇用の割合が2007年度には33.7%にまで拡大し、特に派遣社員の構成比は2002年の0.8%から2007年の2.4%へ3倍も広がっている(p.26)。
○ 正社員を希望しながらやむなく非正社員として働く労働者の数が増加を続け、非正社員の8割以上が正社員を希望している(p.29)。
労働分配率は中小企業では上昇傾向が続いているが、資本金10億円以上の巨大企業では低下を続け、2006年度は53.3%にまで下落した(p.45)。一方、巨大企業の経常利益率は上昇を続け、配当率は2006年度こそ前年を下回ったが、依然として29.3%の高水準にある(p.46)。
○ 年間の総実労働時間は長期的には減少傾向にあるが、2000年代以降は所定外労働時間が増加し、労働時間短縮の動きは停滞している(p.52)。
○ 仕事に対する満足度は「収入」「やりがい」「安定」「休暇」いずれも、微小な増減はあるものの長期的に低落傾向が続いている(p.81)。
○ 日本の若年者の職場に対する不満は欧米諸国に比べて高く、他方で転職への意欲は低く、長期勤続を希望する傾向が高い(p.98)。
○ 日本では諸外国に比べて性別役割分業を支持する割合が突出して高い(p.102)。
○ 経営者の半数以上が依然としてパートや派遣等の非正規雇用の比率を拡大することを求めている(p.151)。
○ 卸売・小売・サービス業では有期雇用の増加や企業経営上の都合による雇用調整の結果、離職率が2000年代以降上昇を続けている(p.170)。
○ 経営者・労働者とも成果主義・業績主義による賃金決定方式を評価する傾向が高い(p.190)。ただし、賃金決定における年功要素の比重低下の結果、50歳代以上の比較的高齢層で賃金水準が低下している(p.192)。
○ 日本では経済成長の成果が労働者に波及しておらず、雇用・所得とも増加率が欧米諸国よりも低い(p.225)。
○ 産業別の労働分配率では特に製造業で低下が著しく、高度成長終焉後では最低水準にある。製造業は雇用数も景気回復過程にもかかわらず上がっていない(p.227)。
○ 大企業が短期的な利益率の向上を最優先し、配当金増加による株価上昇や内部留保拡大を重視した結果、中小企業が犠牲となっている(p.245)。

 今回の白書からも、日本の労働環境が欧米諸国に比べて相当劣悪な状況にあること、今回の景気回復が労働者には全くと言っていいほど恩恵をもたらさなかったこと、過労や雇用待遇差別が深刻であることなどが読み取れる。労働者の職場に対する不満も高い。

 注目すべきは、厚労省が安定的な正規雇用の拡大の必要性を明言したことにある(太字強調は引用者による、以下同じ)。
(前略)企業が今まで、正規従業員の雇用機会を絞り込んできたため、パートタイマーや派遣労働者などでは、正規の従業員として働きたいと望む人が増えている。経済の持続的な成長のもとで、正規従業員の雇用機会を拡大させていくとともに、滞留傾向がみられる年長フリーターの正規雇用化の取組を推進していくことが重要である。また、こうした就業促進の取組を、雇用の安定へと着実につなげていくため、正規従業員への就職促進と連動させて定着指導を強化し、継続性をもった安定的な雇用機会の拡大に取り組んでいくことが求められる。さらに、人々の多様な就業希望にも柔軟に応えながら、就業形態間で均衡のとれた処遇を着実に推進し、誰もが安心して働くことができる労働環境を整備していかなくてはならない。(後略) (p.p.258-259)
 単に正規雇用の機会を拡大すると言うならば、解雇規制を緩和することで「イスの奪い合い」を激化させて労働者を消耗させる可能性が想定されるが、「継続性をもった安定的な雇用機会」と断っている以上、離職率を抑制しつつ「正社員のイス」を増やす必要性を示したと言えよう。一方で、「就業形態間での均衡待遇」とは、正規・非正規間の同一労働・同一賃金の確立と読み取れるが、「均等」とは表記していないのでこの点は注意が必要である。

 本文中では特に製造業における雇用数の伸び率の低さ(及びそれに伴う労働時間の増加)と、正規雇用の減少を批判しているが、これは製造業への派遣労働の拡大を容認した2004年の労働者派遣法改定の誤りを事実上認めたと言える。昨年来の厚労省の路線転換と軌を一にしており、派遣労働制限への流れの一環であると評価すべきだろう。

 また、多くの企業で導入された成果主義・業績主義賃金が労働者間の意欲格差を生み、結果として労働生産性を低下させたことを批判していることも重要である。
(前略)企業は、業績・成果主義的な賃金制度を導入し、労働者一人ひとりに応じた賃金決定を行うことによって、仕事への意欲を高める人事方針をとってきたが、そのことは必ずしも成功していない。業績・成果主義的賃金制度の導入に伴い、特に、大卒ホワイトカラーにおいて、40 歳台から50 歳台の賃金格差が拡大しているが、自らの賃金や処遇に納得できないまま、意欲を失い、ただ無為に勤続期間だけが延びていくという労働者も少なくないのである。このような状況では、せっかくの企業における職務の経験も本人の職業能力開発につながらない。(後略) (p.255)
 成果主義・業績主義自体を否定してはいないが、競争原理の弊害を指摘し、「格差」の是正と人事評価の公平性・透明性の確立も要求しており、これまでの路線とは一線を画している。成果主義・業績主義が事実上労務コスト削減策に過ぎない実態も認めており、「競争万能」からの決別が読み取れる。

 総じて今回の『労働経済白書』は、経済財政諮問会議や財務省に対する厚労省の「反撃の書」と言ってよいのではないか。厚労省としてはこの機に労働政策の主導権を取り返し、「省益」の確保を確実にしただけにすぎないかもしれないし、表向きの言葉と実際の労働行政の酷薄さとのギャップは決して座視しえないが、少なくとも規制緩和一辺倒の「労働者いじめ」を繰り返した新自由主義路線から、人間らしい労働を制度的に保障する体制への転換に期待が持てる内容であることは確かだ。非正規雇用から正規雇用への転換を目指す側にとっても「反撃の書」となり得るだろう。

【関連記事】
広がる「結婚・出産格差」~「21世紀成年者縦断調査」を読む
高まる「平等」「安定」志向~「勤労生活に関する調査」を読む
労働者派遣法改正問題リンク集
日雇派遣禁止方針と秋葉原事件に因果関係はない

【関連リンク】
厚生労働省:平成20年版労働経済の分析(本文版)*いわゆる「労働経済白書」
http://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/08/index.html
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by mahounofuefuki | 2008-07-23 20:49

雇用の流動化で非正規労働者は救われるか

 2月に弊ブログで「『非正社員が正社員になりたかったら、正社員の解雇自由化に賛成しろ』という悪魔の囁き」というエントリを挙げたが、これに対して「異論-はにはに-Observation」というブログから反論のトラックバックをいただいた(なぜか記事本文では名指しを回避し、リンクもされていないが、サイドバーに明記しているように引用・転載・リンクはフリーにしているので、余計な配慮は無用である)。
 非正社員の「本当の敵」は正社員だ!|異論-はにはに-Observation
 http://iron.blog75.fc2.com/blog-entry-214.html

 このブログの他のエントリをいくつか斜め読みしたが、このブログ主と私との間には基本的な社会認識や倫理観において深い溝があり、議論を繰り返しても平行線のままなのは確実なので、捨て置いてもよいのだが(「共通の土台」のない相手との議論は不毛だと私は考えている)、正規雇用の解雇規制緩和をめぐる問題は改めて述べたかったので、この機会に再反論を通して当方の見解を整理したい。

 「異論~」氏の批判の要点をまとめると次のようになる。
①弊ブログの主張は「正社員」の立場からの物言いであって、「国全体」を良くしようとするのなら、個人の既得の地位に固執してはならないのではないか。
②全労働者の均等待遇のためには、正社員の待遇を引き下げるべきで、「全労働者の奴隷化」ですら労働者間の利害統一のためには容認できるのではないか。
③解雇規制を緩和して雇用市場を流動化した方が、労働者の企業への帰属性が弱まり、むしろ経営の労務管理に対する自由が拡大して、過労や成果競争を緩和できるのではないか。
④経営者側には労働者間を分断する必然性はなく、むしろ正社員層が非正社員層への差別を求めているのではないか。
 以上の批判はいずれも弊ブログの主張の根幹にかかわる論点であり、ほぼ全面否定と言ってよいだろう。結論から言えば「異論~」氏の主張はあまりにも無邪気で、雇用待遇差別問題に対する無知と問題解決への見通しの甘さを曝け出しており、とうてい受容できる内容ではない。

 まず①について。弊ブログは一貫して非正規雇用者の立場から待遇差別を批判するというスタンスをとっており、それゆえに御用組合に堕した正社員労組の姿勢を厳しく批判したり、正社員層の非正社員層に対する「差別のまなざし」を問題にしてきた。氏は勝手に私を「恵まれた正社員」に仕立てているが、実際のところ私は正社員ではない。さらに「国全体」を良くしようという意思は私には全くない。あくまで労働者階級の利益追求が最優先であり、「公共の福祉」のために弱者を犠牲にするような思考は私の最も唾棄するところである。氏はそうした思考を「政治運動」と切り捨てるのだが、「政治運動」の何が悪いのか。労働者の利益追求は「政治運動」だから駄目で、資本家の利益追求は「国益」だから良いとでも言うのだろうか。往々にして「国全体の利益」なるものは権力者に利益にすぎない。この批判は論外である。

 次に②について。正規・非正規雇用間の待遇差別は「格差」も問題だが、何よりも非正規労働者が置かれた状況の非人間性に最大の問題がある。有期雇用・間接雇用であるが故に、低賃金の上に失業リスクが高く、既存の社会保障システム(医療保険・雇用保険・年金)から排除されているというのは、生存権が脅かされていると言っても過言ではない。故にいかに正規雇用の待遇引き下げによって「格差」が解消されても、そこでは生存権の侵害という根本は何も解決されていない。
 氏は正社員の待遇を落としてでも非正社員の待遇引き上げを実現し、その上で改めて全労働者で総体的な待遇改善を要求すべきと述べているが、あまりにも非現実的な話である。正社員の待遇引き下げが非正社員の待遇引き上げに直結するわけではない。正社員の待遇を引き下げても非正社員の待遇が引き上がる保障は全くない。労組主導でワークシェアを行うにしても、日本の労組組織率は著しく低く、特に中小企業ではそんな構想は絶望的である。さらに正社員の引き下げにあわせて、それを口実に(正社員でさえ我慢しているのだからとか言って)非正社員の引き下げも行われる可能性さえある。

 ③については、解雇規制を弱めればそれだけ失業リスクが上がる以上、是が非でも会社に残ろうとして無理をしてでも働くので、労働時間は増える一方となる。1人当たりの労働時間が増えれば労働者数は減り、結局「正社員のイス」を減らすことになるので、非正社員が正社員になる機会は減ることになる。氏は雇用が流動化すれば労働者はより好待遇の企業に移ることができると言うが、実際は多くの業種で勤続年数が評価されるので、転職自体がリスクとなる。何よりも辞めた後、次の仕事が見つかるまでの生活はどうするのか。
 だいたい氏も認めるように雇用流動化で「正社員のイス」をゲットできるのは「一定のスキル」をもつ人であり、長年非正社員の地位に押し込められてスキルを獲得できなかった人は雇用が流動化しても這い上がることなどできない。雇用市場の流動化はむしろ「格差」の固定化に寄与すると言えよう。

 *なおあえて氏に有利な情報を提供するが、デンマークでは解雇が原則自由で、雇用市場は流動化されていて、氏の言うようなメリットが実際にある。ただし、それが可能なのは充実したセーフティネットと強力な労働運動が存在するからである。日本で解雇規制緩和を主張する人はなぜかおしなべてセーフティネットや労組の弱体化に加担している。もし「雇用待遇差別解消のための雇用の流動化」を主張するのならば、失業給付の大幅拡充やそれを可能にする「高負担・高福祉」の「大きな政府」を提唱しなければならない。単に雇用の流動化を唱えるのは、実際には待遇差別の解消など考えていないからである。

 ④については、財界の政策基調に対してあまりにも無知である。1990年代以降、財界は一貫して基幹的業務を少数精鋭の正社員に担わせ、それ以外は不安定な非正規雇用に転換する方針を貫いてきた。全体としてのコストカットと同時に労働者間を競わせ、正社員層には「被差別階層」を設定することで「ガス抜き」とし、非正社員層には経営者に向かうべき敵意を正社員層に振り向けることで、資本家は高みの見物ができるのである。解雇規制自由化は財界が近年推進してきた労働法制解体(労働環境を労使間の個別契約だけですべて決定できるようにし、労働三法を骨抜きにする企み)の一環で、あたかも正社員の解雇が自由になれば非正社員が正社員になれるような幻想を与えることで、非正社員層の支持を調達したいだけにすぎない。

 以上、論点に沿って再反論したが、最後にほかでもない財界サイドの人物の「本音トーク」を紹介しよう。日本経団連参与の高橋秀夫氏の発言である。
 年長フリーターにとって道はたやすくない。新卒採用が全体的に改善したとはいっても、企業を個別にみれば厳しい目で選考している。企業は正社員の採用には慎重だ。そこへ氷河期世代だったからといって、30歳までフリーターとして過ごしてしまい、技術のない人がきても採用はされない。(『エコノミスト』2008年5月20日号)
 要するに「正社員のイス」を増やしたくないのである。非正社員のキャリアなど全く評価していないのである。雇用の流動化が非正社員の正社員化に何ら寄与しないことをこの発言ははっきりと証明している。

 雇用待遇差別は解雇規制の緩和では解決するどころか、余計差別が強化されるだろう。企業任せでは決して解決することはない。そうであるならば法的規制によって非正規雇用を減らし、直接雇用・無期雇用の原則を確立して、法の力で企業に「正社員のイス」を増やすよう強要するしかない。労働者派遣法の抜本的改正がその端緒であることは弊ブログが常々指摘している通りである。

 *なお本当は正規・非正規間の差別についてもっとシビアな現実に即した話や、両者の連帯を可能にするための方法論について述べたかったが(当然そこでは正社員層に対するやや厳しい批判が含まれる)、反論だけで紙幅を費やしてしまったのでそれは別の機会に譲る。実は先日来、持病になっている外科的な症状が悪化して(具体的なことは個人情報なので書けないが)、病院へ定期的に通院しなければならなくなった。そんなわけで「別の機会」はいつになるかわからないし、ブログの更新頻度も落ちると思うがご容赦いただきたい。


《追記 2008/07/16》

 当該ブログがさらに反論のエントリを上げていたが、解雇規制の話を転職の話にすり替えるなど、本人も自認しているように「とりとめのない」内容で、その詭弁のオンパレードに失笑してしまった。そもそもの土台が違うので建設的な議論ができるはずもなく、私はもう相手にしない(向こうも「推敲する気力」がないそうだし)。互いに歩み寄る気がない以上、あとは読者の判断に委ねればそれでよいと思う。


《追記 2008/07/17》

 「相手にしない」と言ったのにご丁寧にもTBを送られてきたので一応追記する(推敲前の記事のTBは削除した。同一エントリなので)。ツッコミどころが多いので逐条批判を行いたいところだが、時間的余裕がないので要点のみでご了承いただきたい。

 辻広氏も「異論~」氏も「解雇規制の緩和」を前提とした「雇用の流動化」を主張していたからこそ、私ははじめからそこを批判しているのに、そこへ雇用が流動化されれば転職できるから問題はないという話を持ち出したのはほかでもない「異論~」氏であって、それを勝手に「雇用を流動化しない」=「転職しない」と決めつける姿勢が全く理解できない。私は一貫して「解雇規制の緩和を前提にした流動化」を問題にしているので、「雇用の流動化」=「解雇の自由化」と解釈しているのである。

 氏は自分の詭弁を認識していないようなので1つ教えると、「『現状はこうである!』これを無条件で是認してしまっては改善など出来ません」と言いながら、「法の力で企業に強要さえすれば『日本の労働者を全て正社員に出来る』と言う事でなければなりません。こんな法律を作っても『非正社員』なる労働者は確かに存在しなくなったけど、労働者の半数は貧困層のままなんて事になりかねません」と、まさに「希望者全員が(正社員の―引用注)イスに座れない」現状を無条件で是認しているのである。私は最初から雇用待遇差別の解消には、間接雇用・有期雇用を厳しく法的に規制し、特殊な例外を除いてすべて直接雇用・無期雇用にすべしと言っているのに、氏はよほどこの提案が気に入らないようで「アイデア合戦をしましょう」などと言って別の対案を出せと要求するのだが、少なくとも正社員になれば社会保障の企業負担が生じるので、貧困の一端は解消される契機になる以上「貧困層のまま」ということはない。

 氏の「全く違う意見の方が学ぶ所は多い」という点は正論だし、実際元エントリで辻広氏への批判を書いたことがきっかけとなって、それまで食わず嫌いしていたビジネス誌を読むようになり、得るものが大きかったという経験をしている。しかし、失礼ながら他のエントリから判断する限り、氏の言論姿勢そのものに疑問を感じるので、水かけ論になるだろうと判断して「相手にしない」と議論の打ち切りを表明した次第である。この判断には私が一目置くブログ「非国民通信」の次のエントリの影響を受けている。
 見苦しい - 非国民通信
 http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/8c04c7cb5399a3031e75fc1d86836e00

 他人のハンドルネームにケチをつけたり、他人の批判を「罵倒」呼ばわりするくせに「その社会では某国のように『共通の土台』を有しない人を粛清するのですか」といった誹謗をするような人と議論をする意味を見出すことはできない。現在内服薬の副作用で体調が不良なこともあって以後はTBが来ても相手にできない。「異論~」はずいぶん検索八分に遭っているそうなので、誹謗中傷もほどほどに、どうぞご自愛を。

【関連記事】
「非正社員が正社員になりたかったら、正社員の解雇自由化に賛成しろ」という悪魔の囁き
再度答える。「正社員の解雇自由化」は社会の崩壊を招く。
「正社員のイス」をめぐって
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by mahounofuefuki | 2008-07-15 03:20

2月8日の志位質問の会議録がようやく出た

 2月8日の衆議院予算委員会において、共産党の志位和夫委員長が派遣労働の実態を告発し、労働者派遣法の全面見直しを求めた質疑は、多くのマスメディアの黙殺にもかかわらず、ネットの動画投稿サイトなどで話題となり、政府が派遣労働の規制緩和路線を見直す契機の1つとなったが、なぜかこの日の会議録は長らく作成されていなかった。それだけ政府・与党にとって痛いところを突いた歴史的質疑だったのだが、今日衆院のホームページを確認したらようやく会議録が公開されていた。現在の非正規雇用差別の問題が集約されており、改めて読み直して決して損はない。

 衆議院のホームページで「会議録」→「予算委員会」→「第169回(常会)」→「第5号」と進むと、2月8日の予算委の会議録が読める。ぜひ参照を。

 衆議院ホームページ
 http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index.htm

 共産党に限らず国会議員がいつもこういう仕事をしてくれれば政治不信も少しは解消するのだが・・・。

【関連リンク】
YouTube - 2/8 派遣法改正し"労働者保護法"に 志位委員長が質問/衆院予算委員会(全編)
http://jp.youtube.com/watch?v=6I_NTfz3RNs&feature=user
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by mahounofuefuki | 2008-07-12 20:42

派遣労働見直しへのバックラッシュと「抱き合わせ」改正への警戒

 派遣労働をめぐっては昨年来、「ワーキングプア」拡大に対する世論の厳しい視線を背景に、政府・与党内の風向きが変わりはじめ、従来の規制緩和一辺倒から何らかの規制強化策を打ち出すことで、問題の緩和を図ろうとする流れが確立しつつある。厚生労働省が日雇派遣の禁止方針を打ち出し、自民・公明両党のプロジェクトチームがやはり日雇派遣の禁止、マージン開示義務、「専ら派遣」への規制強化を骨子とする労働者派遣法改正案を公表したのも、そうした流れの中に位置する。これらは先の国会会期中に民主党が用意した改正案と同様、派遣労働の抜本的見直しからははるかに遠い不十分極まりない案だが、少なくとも現状のままではいけないという問題意識だけは共有されていると言えよう。

 *与党の労働者派遣法改正案の問題点については、以前TBいただいた「エム・クルー ユニオン」のブログエントリを参照いただきたい。
 声明 与党PT「日雇派遣禁止案」に関する派遣ユニオンの見解 – エム・クルー ユニオン
 http://blog.goo.ne.jp/m_crew_union/e/316e7a940f7cf83ebfc79a3e638c88ab

 一方で、こうした流れに対するバックラッシュも最近強まっている。労働法制の解体を推進してきた規制改革会議は今月2日に第3次答申の「中間とりまとめ」を発表したが、非正規雇用に対する雇用待遇差別の存在を認識しつつも、相変わらず派遣労働の恒常化を求め、派遣法改正にあたっても派遣期間を超えた労働者に対する派遣先の雇用申込義務の廃止や派遣業種規制のさらなる緩和を示唆するなど、最近の流れに完全に逆行する内容となっている。

 また、これに呼応するかのように、日本経済新聞と読売新聞が相次いで日雇派遣禁止に疑義を示す社説を出した(日経は7月7日付、読売は7月8日付)。いずれも日雇派遣に対する労働者側のニーズの存在を口実に、企業の「使い勝手の良さ」を弁護する内容となっており、政府・与党に配慮してか日雇派遣の可否自体に触れなかった規制改革会議の中間答申を補完する役割を果たしている。これら社説には日雇派遣が貧困を生み、その貧困が日本社会を荒廃させ、貧民の人間性を剥奪していることへの問題意識は全くない。政府を監視すべきマスメディアが政府機関よりも鈍感なのには改めて驚かされる。派遣労働見直しの機運の高まりにはマスメディアの果たした役割が大きかったが、それだけにマスメディアがバックラッシュに加担することになればダメージは計り知れない。

 バックラッシュのねらいは実ははっきりしている。それは製造業における「2009年問題」を目前に控え、メーカー側は何としても現行の労働者派遣法第40条2~5項を改めて、できれば派遣先の直接雇用申込義務の廃止、最低でも現行3年の派遣期限の延長を実現したいのである。実態は派遣先の指示で働く「派遣」を、雇用期限のない「請負」に偽装していた「偽装請負」問題がクローズアップされたのが2006年。その「偽装請負」を糊塗するために、多くの製造業で請負から派遣への切り替えが行われたが、現行法が続けば3年後に当たる2009年に多くの派遣労働者が雇用期限を迎える。メーカー側は大量の派遣社員を直接雇用にするか、契約解除するしかない。いずれも経営上回避したい事態なのである。

 以前にも民主党の腰砕けの時に指摘したが、労働者派遣法改正問題で今後警戒しなければならないのは、一方で日雇派遣の禁止やマージン開示義務を前面に押し出しながら、他方で直接雇用申込義務の廃止や派遣期間の規制緩和を盛り込む「抱き合わせ」の「改正」である。与党は予定を前倒しして次の臨時国会で派遣法改正案を提出すると伝えられているが、先に日雇派遣禁止で世論を欺き、後から規制緩和条項を盛り込むことも考えられよう。財界としては日雇派遣業界を切り捨ててでも、有期雇用・間接雇用の恒常化を推進したいはずである。

 すでにキャノンが世論の批判と国会の猛攻を受けて、派遣社員を直接雇用の期間社員と業務請負に転換する方針を表明し、実際に転換を進めているようだが、一方で「偽装請負」表面化後も企業によってはさまざまな「抜け道」を「開拓」して、事実上間接雇用の永久化を図っている。キャノンの例も依然として有期雇用の不安定性という問題は何ら解決していない。真の解決には何としても労働者派遣法の抜本的改正を足掛かりにして、直接雇用・無期雇用の原則を確立しなければならない。ここでさらなる規制緩和や「抱き合わせ」を容認しては日本社会に未来はないと断言しよう。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集

【関連リンク】
規制改革会議「中間とりまとめ―年末答申に向けての問題提起― 5 社会基盤」*PDF
http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/publication/2008/0702/item080702_09.pdf
規制改革会議「中間とりまとめ」/派遣労働是正に抵抗/流れが見えない異質の存在 – しんぶん赤旗
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-07-08/2008070805_02_0.html
規制改革会議の孤立化:五十嵐仁の転成仁語
http://igajin.blog.so-net.ne.jp/2008-07-06
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by mahounofuefuki | 2008-07-08 17:28

グッドウィル廃業と雇用待遇差別の根深さ

 派遣大手グッドウィルが厚生労働省より事業許可取り消し処分を受けるのが確実になり、ついに廃業に追い込まれた。事業停止処分を受けて以来、急速にシェアを失い、つぶれるのは時間の問題ではあったが、最後の最後まで経営側の身勝手に振り回され、労働者には苦しみしか与えられなかったと言えよう。

 グッドウィルユニオンが次のような声明を出している(太字強調は引用者による)。
(前略) 違法派遣や賃金不払など違法行為を繰り返してきたグッドウィルに対して派遣事業許可取り消し等の厳しい処分が出されるのは当然のことである。
 しかし、1995年以降、違法派遣を繰り返しながら拡大してきたグッドウィルを放置したばかりか、1999年の派遣法改正によりグッドウィルが行う事業を合法化して急成長に拍車をかけた国の責任は極めて大きい。
 もっと早くこのような違法派遣を取り締まっていれば、グッドウィルで働く労働者が数千人、数万人規模まで膨れ上がることはなかったし、許可取り消しによって大量の失業者を生み出すようなこともなかった。
 また、グッドウィルで働く日雇い派遣労働者が日雇い雇用保険に加入していれば、失業しても当面は「あぶれ手当」の受給により当面の生活を凌ぐことができたはずだが、厚生労働省は、グッドウィルが日雇い雇用保険に全く加入させていない状態を承知しながら、それさえも放置した
 許可取り消しまたは廃業により、雇用を失い、生活の道を立たれる労働者の救済が何よりも優先されなければならない。 (後略)
 廃業の直接的影響は言うまでもなく派遣労働者の失業である。しかし、日雇派遣については昨年雇用保険が適用されるように制度改正されたにもかかわらず、会社側が加入していなかったため、何の給付も受けられない。事業停止の時も遡及加入を求める動きがあったが、厚生労働省は何の実効的な対策をとらなかった。セーフティネットが貧弱どころか、皆無なのである。

 ところで、グッドウィルは廃業に際して、正社員もすべて解雇するようだが、その正社員の労組「人材サービスゼネラルユニオン(JSGU)」と上部組織のゼンセン同盟が昨日経営側を非難する会見を開いている(毎日新聞2008/06/25 22:22など)。一方的な退職通知に怒りを顕わにしていたそうだが、正直あまり同情はない。

 なぜならこの御用労組はこれまでさんざん会社側の手先として働き、労働者派遣法改正の骨抜きを民主党に働きかけたのも彼らだからだ(ゼンセン同盟は周知の通り旧民社党→民主党の支持母体である)。我々の世代の一般的な通念である「正社員が非正社員を搾取している」という見方を私はとらないが(あくまでも搾取者は資本家である)、経営側に同調して非正規雇用に対する待遇差別に加担している御用労組を免責することはできない。

 今回の件で改めて正規・非正規雇用間の差別の根深さを再確認した。もはや労働者派遣法を抜本的改正して直接・無期雇用原則を確立する以外に一連の問題の解決はない。厚労省はすでに日雇派遣禁止方針を決めているが、それだけでは全く不十分である(むしろ失業が増大する可能性すらある)。国会は1999年の派遣法全面改悪時、共産党以外の政党が賛成した罪を今償うべきである。秋葉原事件に続いて派遣労働の劣悪さが世上の注目を浴びている今こそ正念場かもしれない。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集

【関連リンク】
グッドウィル許可取り消し・廃業方針に関する声明|グッドウィルユニオン
http://ameblo.jp/goodwillunion/entry-10109914801.html
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by mahounofuefuki | 2008-06-26 00:18

トヨタの取締役の平均報酬1憶2200万円にもっと怒るべき

 この国のマジョリティーは、公務員の「厚遇」にはほんのわずかなものでも目くじらを立て、民間の劣悪な労働条件を「官」にも押し付けようとする。本来は公務員を叩くのではなく、「自分らも公務員並みにしろ」と「引き上げ」を要求すべきところを、とかく自己の「引き上げ」よりも他者の「引き下げ」を求めたがる。「他者の不幸」にしか「救済」を見出せないのが現在の日本社会の特徴だが、どうせなら少しは「官」の不公平だけでなく、「民」の不公平にも目を向けるべきではないか。

 トヨタ自動車が今日株主総会を開き、役員報酬を決定したという。以下、東京新聞2008/06/24夕刊より(太字強調は引用者による。漢数字をアラビア数字に転換した)。
 トヨタ自動車は24日午前、愛知県豊田市の本社で株主総会を開き、2008年3月期の取締役29人と監査役7人に対する役員報酬や賞与などの総額を、前期比約17%増の39億2000万円とすることを決めた。
 取締役の人数を増やしたことや08年3月期決算の純利益が過去最高となったことを反映させており、取締役の平均では、年間1人当たり約5%増の1億2200万円となる。(後略)
 役員報酬の総額が昨年よりも17%も引き上がり、取締役1人当たりでは平均1億2200万円。「天下り官僚」の退職金には血眼になる人々はなぜこれには黙っているのだろうか。

 税金でまかなう官僚の給与と一緒にするなと言う人もいるだろう。しかし、私に言わせればトヨタの空前の収益は多くの労働者の犠牲の上に立っており、本来労働者に配分されるべきカネを収奪しているにすぎない。税金はまだ公的給付という見返りがあるが、こちらはただ労働力を搾取され、過労を強いられ、賃上げも抑制されている。役員たちは巨額の報酬を得てウハウハだが、その陰で何人もの社員が過労死や病気に追い込まれたり、下請けや孫請けの企業が上から求められるコストカット要求に苦しめられ、さらに底辺では非正規雇用に押し込められた無数の人々が死屍累々と横たわっているのである。そういえば「秋葉原」の彼もトヨタ系企業に派遣で働いていた。

 藤田宏「大企業の労働分配率は52.3%」(『経済』2008年4月号)が、「法人企業統計」を用いて資本金10億円以上の企業の労働分配率(人件費÷付加価値費)を算出しているが、今世紀に入ってからは次のように推移している。
2001年 62.9%
2002年 60.0%
2003年 58.1%
2004年 55.3%
2005年 53.8%
2006年 52.3%
 一目瞭然。6年間で10%以上も低下している。一般に労働分配率を算出する際、役員給与も人件費に含むが、藤田論文では役員給与は付加価値扱いで、より経営の実態に即している。役員報酬の増加と労働者の給与の低下という事実は明白である。

 ちなみに余談だが、今日英会話学校「NOVA」の猿橋望元社長が、社員の福利厚生のための積立金を横領していた容疑で逮捕されたが、なぜかこういう「ずるい経営者」はバッシングの対象とはならない。以前、彼の趣味の悪い社長室について当ブログで批判したことがあったが、当時「あれが男の夢」というようなことを書いていたブログがあった記憶がある。不当な官僚には憎悪をむき出しにするが、不当な経営者は依然として「憧れの的」というわけである。いくら憧れても、なれるはずもないのに。

 「構造改革」の罪の1つは企業経営者のエゴを公認してしまったことにある。労働者には苦しみだけ与えて、自分らだけで富を独り占めする彼らを決して許すことはできない。

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by mahounofuefuki | 2008-06-24 21:05

日雇派遣禁止方針と秋葉原事件に因果関係はない

 「陰謀論」の本質は、実際には因果関係のないものに因果関係があるのでは?と勝手に類推することだと思っている。これには「左」であるか「右」であるか、あるいは拠って立つ思想が何であるかは全く関係ない。たとえばかつて幕末の孝明天皇の死に対して「毒殺説」が有力だった。「毒殺説」を採っていた研究者にはマルクス主義系の人もいた。原口清氏の詳細な研究が「毒殺説」を論破してからは「病死」が通説になっているが、これなど「科学的」であろうとしても「陰謀論」に絡めとられた実例である。

 かくいう私も安倍晋三首相が退陣した時、アメリカに引導を渡されたのかという疑いを書いた前歴があるので、偉そうなことは言えないのだが、不透明なことがあると「○○の謀略」とか「○○の陰謀」と考えてしまう思考様式は常に自省せねばなるまい。世の中には確かに「本当の陰謀」もあるのだが、因果関係を見出せないものを、無理に関係があるように錯覚することは厳に慎みたい。

 厚生労働省が日雇派遣の原則禁止を打ち出した件について、秋葉原の事件の影響を疑い、真っ当な政治運動をチマチマとやるよりも、インパクトのあるテロで衆目を集めた方が実効性があるのではないかという見方があるようだが、これは誤った見立てである。日雇派遣禁止方針と秋葉原事件には因果関係はない

 もともと厚生労働省は今春の通常国会で労働者派遣法改正案を成立させる予定だった。ところが昨年の労働政策審議会での議論がまとまらなかったため、翌年への先送りを決めた。これは少なくとも財界が要求する規制緩和一辺倒の「改正」案が作られるような政治力学が、昨年末の時点でなくなっていたことを意味する。厚労省がその時点で何らかの規制を行わなければならないと政策転換したのは間違いない。

 昨年末、規制改革会議がさらなる労働法制の解体を促す答申を出した時も、厚労省はやや厳しい反論を行った。そして、今春厚労省は「改正」先送りの代替措置として「緊急違法派遣一掃プラン」を実施し、新たに「日雇派遣指針」を派遣元と派遣先に課した。これは実施前から実効性に疑問がもたれ、現に今のところ全く効果がないが、秋葉原事件のはるか前から厚労省は派遣労働の「改善」方針に舵を切っていたことは確かである(ただし「改善」では不十分であるのは言うまでもない)。

 つまり、日雇派遣禁止方針は秋葉原事件にショックを受けて唐突に登場したものではなく、マスメディアによる「ワーキングプア」に関する報道や、個人加盟型のユニオンなどの新しい労働運動が注目されたことなどを背景に、昨年からの派遣労働見直しの大きな流れの中で現れたのである。確かに秋葉原事件を受けて、厚労省は法令を遵守するよう緊急通達を出したのだが、これは前述の「緊急違法派遣一掃プラン」の延長線上にあるもので、事件がきっかけで政策転換したわけではない。そしてこの通達もおそらく実効性はないだろう。

 事件の容疑者は派遣社員ではあるが、日雇ではない。その1点からも日雇派遣禁止方針の決定と秋葉原事件との間に因果関係を認めることはできない。時と場合によってはちまちました運動よりも、瞬間芸的なテロが社会を動かす事実を私は否定しないが、今回の件はそうではない。秋葉原事件をあまり雇用問題だけに絞りすぎると、「派遣社員=アブナイ」という偏見を生じ、かえって労働者間の分断を深め、派遣労働者に対する社会的排除を招く恐れがあることも指摘しておきたい。

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by mahounofuefuki | 2008-06-16 22:07

日雇派遣禁止は当たり前。問題はそのあと。

 舛添要一厚生労働大臣が今日の閣議後の記者会見で、日雇派遣を原則として禁止する労働者派遣法改正案を次の臨時国会に提出する意向を示したという。これまでは厚労省が進めている改正作業が来春の通常国会を目途にしていると伝えられていたが、大臣の発言はこれを前倒しすることを示唆したと言えよう。舛添氏はこれまで口先では「~をやる」と言いながら、根回し不足で前言を反故にすることが多く、今回の件も省内や政府内の合意があるとは思えないが、少なくとも悪い話ではない。

 ただし、日雇派遣の禁止は、偽装請負や多重派遣など相次ぐ派遣会社の違法行為や「格差問題」に対する厳しい世論の高まりもあって、ほぼ既定路線だったとも言える。グッドウィルやフルキャストが事業停止処分を受けるなど派遣会社はかなり追い込まれている。最近の厚労省は労働法制の解体を目指す経済財政諮問会議や規制改革会議などとは明らかに距離をとっており、また今国会では提出に至らなかったが、野党が労働者派遣法改正案の政策協議を続けており、与党の改正案も近く出るとみられている。少なくとも日雇派遣の原則禁止とマージン率規制については実行される客観的情勢が存在する。

 問題は日雇派遣禁止で終わってしまうのでは困るということだ。最低でも同一労働の均等待遇を義務づけ、不安定な登録型派遣を廃し、派遣対象業種を制限するところまでやらなければ、雇用待遇差別の解消のスタートラインにすら立てない。何より依然として財界側は日雇派遣の禁止も含めあらゆる見直しに抵抗していて、のみならずさらなる規制緩和さえ要求しており、一方で日雇派遣を禁止しながら、他方でたとえば企業の直接雇用義務を撤廃するような、労使の要求を折衷した抱き合わせの「改正」が行われることを危惧している。

 現在、厚労省職業安定局が設置した「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が派遣法改正の方向性を検討しているが、企業の直接雇用義務の「みなし規定」導入など、当初の想像以上に調査範囲は広がっており、派遣法の抜本的改正を求める声を無視できなくなっている。それだけに今後資本側の反撃も強くなるだろうが、まだまだ勝負は続いている。今国会で民主党が中途半端な改正案しか出さず、野党共闘が失敗した時は、正直かなり失望させられたが、派遣労働見直しへの道はまだ閉ざされてはいないと確信した。

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by mahounofuefuki | 2008-06-13 20:59

『蟹工船』ブームという不幸

 小林多喜二の『蟹工船』がブームになっているとよく言われるが、私の行きつけの書店では特に平積みになってもいないし、実際に最近初めて読んだという同世代の声も聞かない。「中央」と「地方」の相違なのかもしれないが、正直なところ今の若者が「あの」文体をすらすらと読めるのか疑問だし、専らイメージだけが独り歩きしている可能性もあるのではないか、というのは穿ち過ぎだろうか。

 本当に「氷河期世代」でブームになっているとすれば、あまりにも悲痛である。労働法制と言えば工場法くらいしかなく、労働運動は治安警察法や治安維持法などで厳しく制限され、労働争議の鎮圧に軍隊が出動するような『蟹工船』の時代と、労働基準法も労働組合法もある現在の労働環境が同じであるというのは、いかにこの国の労働行政や労働運動が貧弱であるかを実証しているようなものだ。

 確かに『蟹工船』が提示する経済構造は現在の「ルールなき資本主義」の状況とクロスしている。たとえば次の箇所。
 ――蟹工船はどれもボロ船だった。労働者が北オホッツクの海で死ぬことなどは、丸ビルにいる重役には、どうでもいいことだった。資本主義がきまりきった所だけの利潤では行き詰まり、金利が下がって金がだぶついてくると、「文字どおり」どんなことでもするし、どんな所へでも、死に物狂いで血路を求め出してくる。そこへもってきて、船一艘でマンマと何十万円が手にはいる蟹工船、――彼らの夢中になるのは無理がない。
 丸ビルを「六本木ヒルズ」とでも言いかえれば、そのまま現在の大企業にあてはまる。作中では斡旋屋の搾取や蟹工船間の成果競争や安全・衛生管理の無視や「監督」のリンチなどが描かれるが、いずれも現在いたる所で普通に起こっていることである(営業職などで上司が部下に文字通り鉄拳制裁を下すのはよくあることである)。こうした描写にリアリティを感じて共感することは十分にありうる。

 とはいえ『蟹工船』は、出自も性格も異なる労働者たちが心身ともに追い込まれサボタージュをはじめるあたりまでは臨場感のある描写が光るが、その後団結して立ち上がっていく過程ははっきり言って「革命ファンタジー」である。『蟹工船』がプロレタリア文学として傑作である所以は、社会主義運動の弱点も厳しく抽出している(たとえば民主集中制を「それはそうたやすくは行われなかったが」と指摘)からだと私は考えているが、それでも戦前の日本共産党が大衆的基盤を得られないまま強力な弾圧で潰され、さらに戦後の社会主義運動は冷戦の枠組みを抜け出すことができなかった上に分裂と抗争を繰り返し、社会主義自体が失敗に終わった現在の視点から見れば、『蟹工船』に「革命のリアリティ」も「現在の希望」も見出すことは至難である。

 実際、少なくとも私は10代の頃『蟹工船』を「敗北の書」と解釈していた。そして特高による拷問の傷跡が痛々しい小林多喜二の遺体写真と合わせて、時の権力に正面から反抗すればどうなるか「見せしめ」の役割を果たしていた。反抗すれば必ずむごたらしい暴力を受けて虐殺されるが、抵抗せずに我慢すればやはり過労死に至る可能性はあるが、何とか生き残ってわずかばかりとは言えカネをもらえる可能性が残る。ほとんどの人間は後者を選ぶだろう。本当に苦境にある人ほど『蟹工船』によって絶望感を促進されるのではないか。

 そんな問題を抱えているにもかかわらず、『蟹工船』が読まれているとすれば、一時期の「癒し」ブームなんかと同じように、「革命ファンタジー」への現実逃避があるのではないか。実際には孤立している「わたし」が、「仲間」とともに立ち上がり、非人間的な職場を変革していくという「夢」。「夢」を見るだけでなく実際に行動できる人は少ないし、ましてや現実的な成果を勝ち取れる人はもっともっと少ない。毎日新聞2008/06/03朝刊「記者の目」で、「『蟹工船』の世界は、結婚している労働者がいるなど、今のフリーターより恵まれて見える面もある」という赤木智弘氏の言葉が紹介されているが、私も同感である。個々の労働者が個別にノルマが課せられ競争にさらされている現在、同一職場内の「横の連帯」は非常に困難になっている。連帯の可能性があった「蟹工船の時代」をうらやましく、憧れさえ抱いてしまう。ただし憧憬だけでは地に足のついた抵抗にはつながらない。

 『蟹工船』ブームに対する既成のコミュニストやそのシンパの反応も不可解だ。『蟹工船』が売れているのを「共産主義が理解されている」と喜んでいるようでは、他人の不幸を喜んでいるのと変わらない。労働環境が今ほどひどくなければ『蟹工船』など読まれはしない。『蟹工船』など読まれない社会の方がよほど幸福である。もし社会の矛盾の拡大が「革命」の早道などと考えていたら本末転倒だ。さらに『蟹工船』から80年間、これを超える「貧困を語るリアリティのある言葉」を生み出せなかったことを恥じなければならない。

 『蟹工船』がブームになる社会はあまりに不幸である。『蟹工船』が「昔話」になる時代は私の眼の黒いうちに到来するだろうか。このブームに私は「希望」を見出すことができない。

*現在ベストセラーになっているのは新潮文庫版らしいが、私の手持ちの『蟹工船』は十数年前に古書で購入した角川文庫版で、奥付は1985年刊行の「改版30版」となっている。本文の引用は同版によった。
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by mahounofuefuki | 2008-06-08 16:45

労働者派遣法改正問題における民主党の「使えなさ」

 今日の貧困拡大の原因については、長期不況のせいだとか、労働者にそもそもやる気がないからだといった全く的外れの議論がいまだにあるが、1990年代の「リストラの嵐」こそ長期の構造不況に起因するものの、2000年前後から顕在化した「若者の貧困」に関しては断じてそんなことはない。
 本当の原因は相次ぐ労働法制の規制緩和、特に1999年の労働者派遣法改悪による派遣労働の原則「自由化」であり、これが不安定な非正規雇用を際限なく拡大させ、企業が容易に労働者を使い捨てできる状況を生んだ。貧困の原因が不況ならば、景気回復とともに問題は減少していなければならない。しかし、実際は大企業の景気回復と反比例するように、労働分配率は2003年以降急低下し、非正規労働者の割合は昨年33.5%に達した(総務省「労働力調査」)。
 つまり、政府と財界による人為的な労働力搾取・収奪強化が貧困を引き起こしたのであって、まさしく現在の貧困は「官製貧困」なのである。

 故に貧困解消のためには、まず何よりも貧困拡大の直接の引き金となった労働者派遣法の規制緩和を中止し、事実上常用雇用の代替手段となっている現行の派遣労働を、一部の専門業種に限定していた元来の状態に復旧することが必要である。
 政府は昨年の時点では、今期の通常国会でさらなる規制緩和を求める財界の要求に応えた労働者派遣法改悪案を成立させる予定だったが、昨年の参院選による与党大敗の結果、その目論見は打ち砕かれた。昨年はまたマスメディアを通して日本社会の貧困の実態がかなり報道され、「ワーキングプア」という言葉が流通するようになった。追い込まれた派遣労働者による労働運動が注目を集め、これらの声を政府も無視するわけにはいかなくなった。

 政府が労働者派遣法改正を1年先送りする一方、野党サイドは政府の機先を制して今国会に独自の労働者派遣法改正案を提出する算段だった。この問題を何とかしなければならないという問題意識は全野党(さらには与党の一部も)に共有されていたはずだった。少なくとも「日雇派遣」の禁止やマージン率の制限については一致していた。
 しかし、結局今国会では改正案は提出されなかった。その原因は民主党が現場の労働運動などの声を無視して、抜本的な改正案を用意せず、さらには他党との政策協議を行わずに単独で改正案を提出する構えさえ見せたことにある。昨日、4野党の国対委員長会談で民主党案の単独提出は見送られ(毎日新聞2008/06/04朝刊)、野党の政策協議の継続は確認されたが(しんぶん赤旗2008/06/04)、改めて民主党の貧困問題へのやる気の欠如が顕わになったと言えよう。

 民主党を除く共産・社民・国民新各党の改正案は微妙な異同はあるが、日雇派遣を原則禁止すること、マージン率を制限すること、登録型派遣を一部の専門業種に限定すること、常用代替機能を防止すること、派遣先の直接雇用義務を強化する(みなし規定など)こと、社会保障を拡充することなどの点でおおよその一致は得られていた。実はこれでも法律など端から守る気のない企業に実際に履行させられるか疑問が出ていたほどだが、派遣法を1999年以前に引き戻すという方向性は明らかだった。
 ところが、民主党案は登録型派遣の禁止も、対象業務の制限もなく、派遣労働の常用代替機能を継続するものだった。4月17日に国会内で行われた「さあつくろう派遣法改正案、各党の改正案を聞く院内集会」で、民主党のネクストキャビネットの厚生労働担当である山田正彦衆院議員は民主党内に「厳しすぎるとの声もある中、ここまでなんとかまとめた。賛否がある、なんとか調整を取って法案を出そうとしている」と述べていたが、要するに民主党にはそもそも派遣労働の全面見直しに抵抗する議員が少なからずいて、まともな改正案をまとめることができないのである。
 あえて忖度すれば、民主党は野党共闘による法案の完成度よりも、自民・公明両党との共同提出を模索しているのだろう。そのために玉虫色の改正案でお茶を濁しているのだ。確かに野党提案は黙っていれば衆院で否決され成立しない。しかし、はっきりと抜本的改正の姿勢を見せることで、政府の無策を際立たせ、現在進んでいる厚生労働省の立法作業にも影響を与えることができる。むしろ先に器を用意して政府・与党の方が歩み寄らざるをえない状況を作らねばならない。だいたい規制緩和と抱き合わせの小細工を施した改正を望む労働者などいないのだ。

 派遣業界が与野党の議員へのロビー活動を強化しているようなので、その影響もあろうが、より本質的な問題として民主党が依然として規制緩和・市場開放路線と決別していないことを指摘しなければならない。すでに昨年の最低賃金法改正や労働契約法での「裏切り」で、この党の「生活第一」が口先だけであることは露呈していたが、一連の労働者派遣法改正を巡る動揺はますます新自由主義路線との親和性を疑わせるに十分である。
 非正規雇用比率の高い「氷河期世代」における共産党支持率の急増や、じわじわと広がる「蟹工船」ブーム(「ブーム」と言うにはあまりに悲痛で、80年も前の「敗者」の文学に縋らざるを得ないのは不幸なことだと私は考えているが)の背景には、劣悪な労働環境を何とかして欲しいという人々の悲鳴がある。民主党が本当に貧困問題を解決する気があるのならば、こうした声を無視してはならない。次期総選挙を「政権選択選挙」といくらうそぶいても、非人間的な雇用待遇に苦しむ人々は民主党の欺瞞を見抜いて決して支持することはないだろう。この際、はっきりと労働者の側に立ち位置を移すこと、共産党や社民党に歩み寄ることが民主党には求められている。

 そう言いながらも私はこの党が手紙やメールやファックスを出したくらいでは変わることがないことを知っている。政治献金をくれるわけでもない貧しい労働者群より、潤沢な利権を望める資本サイドの方を選ぶことも知っている。与党の「敵失」でしか何もできないことも知っている。土壇場での腰の弱さはもはや周知の通り。
 民主党よ、ここまで言われて悔しいと思ったら、貧しき者の声を聞いて、自己変革を遂げてみろ!

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4・17院内集会での各党の労働者派遣法改正案 – mahounofuefukiのメモ
http://d.hatena.ne.jp/mahounofuefuki/20080604/1212531786
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by mahounofuefuki | 2008-06-04 23:21