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厚労省の労働者派遣法改正案はやはり「抱き合わせ」だった

 労働者派遣法の改正作業を巡って、弊ブログでは以前から、「日雇派遣」では規制強化を行う一方で、直接雇用申込義務の廃止や派遣期間の規制緩和などを盛り込む「抱き合わせ」の「改正」を警戒するべきであると指摘してきたが、今月12日の労働政策審議会(労政審)労働力需給部会に厚生労働省が提示した報告書案は、まさに恐れていた通り規制強化と規制緩和の「抱き合わせ」の内容であった。

 報告書案は厚労省のホームページに昨日アップされていたが、読んでびっくり。先日の一般向けの報道では「日雇派遣」許容業種が18に限定されたことばかりが強調されていたが、実際にはそれすらも完全に骨抜きが可能な内容であり、さらにどさくさに紛れてとんでもない規制緩和策が盛り込まれているのである。

 労働力需給制度部会 報告(案)*PDF
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0912-3a.pdf

 「日雇派遣」に関しては、1999年の派遣全面解禁以前から派遣が認められていた26業種よりも狭い18業種に限定するとなっているが、そんな表向きの制限条項を事実上無効にする一文が盛り込まれている(太字強調は引用者による)。
 「日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認める」・・・「これ以外の業務については専門性があり労働者の保護に問題のない業務のリスト化など、適宜リストの見直しを行う
 政令!? 「日雇派遣」が可能な業種を法律ではなく政令で定めるというのである。これではいくら法律で規制しても、政府が「専門性があり労働者保護に問題ない」と判断すれば(その基準は不明瞭)、法改正なしにいくらでもリストに業種を追加できる。これは当初言われていた「日雇派遣」原則禁止方針を事実上骨抜きにするものである。

 これだけではない。もっと重大な規制緩和案が提示されている。常用型派遣の直接雇用申込義務を廃止するというのである。
 「期間の定めのない雇用契約の派遣労働者について、労働者派遣法第40条の5(雇用契約申込義務)の適用対象から除外することが適当である」
 周知の通り、現行法では派遣3年で派遣先に直接雇用申込義務が課せられており、それ故に主に製造業を中心に「2009年問題」(偽装請負から派遣に切り替えた労働者の多くが来年3年の期限を迎える)が起きているが、この問題で厚労省は財界言いなりの案を出してきたのである。

 先の国会で政府は派遣が一時的・臨時的な雇用形態であると改めて答弁していたが、報告書案のこの条項は、常用型派遣の正規雇用化を否定し、派遣の常用雇用代替機能を容認しているのである。これでは派遣は永久に派遣のままで決して直接雇用にはなりえず、そもそも労働者派遣法改正議論のきっかけとなった「ワーキングプア」を放置するに等しい。

 すでに「2009年問題」に対しては、厚労省指針の「クーリング期間」規定を悪用し、派遣期間3年になると取りあえず直接雇用に切り替えるが、3か月で再び派遣に戻すという脱法的なやり方で乗り切ろうとする企業が続出している。今こそはっきりと実効力のある直接雇用化を法的に義務づける必要があるのに、厚労省は労働者に背を向け、派遣法の制度的根幹を改悪しようとしているのである。

 常用雇用の代替機能の強化という点では次の条項も見逃せない。
 「期間の定めのない雇用契約の派遣労働者について、特定を目的とする行為を可能とする」
 要するに常用型派遣に関して派遣先の「事前面接」を解禁するというのである。これも以前から企業側が要求していた規制緩和策で、実際にはすでにさまざまな「抜け道」の方法で行われているが、こうした違法状態を既成事実として追認していると言えよう。特定の労働者を採用するのならば、当然それは直接雇用でなければならない。派遣はあくまで派遣先と派遣会社との間の契約であるにもかかわらず、派遣先が契約関係のない労働者の選別を行うなど矛盾以外のなにものでもない。

 報告書案には規制強化の条項もあるが、そんなものは吹き飛んでしまうほどの、とんでもない改悪案である。経営者側(特に派遣会社)はこれでも不満でいろいろと注文をつけているようだが、こんな内容では労働側としても葬り去るしかない。次の臨時国会が解散になれば、派遣法改正は先送りなるが、いずれにせよこんな「改正」を許してはならない。
 改めて先の国会で野党の改正案がまとまらなかったことが悔やまれる。労政審では経営者サイドの委員が入るので、どうしても折衷案になってしまう。やはり国会が主導して派遣労働者の地位を強化し、保護する法改正が必要である。日和見の態度をとった民主党には改めて猛省を促したい。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集
派遣労働見直しへのバックラッシュと「抱き合わせ」改正への警戒
厚労省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」報告書は不十分

【関連リンク】
厚生労働省:第120回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/s0912-3.html
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by mahounofuefuki | 2008-09-17 00:05

「名ばかり管理職」に関する厚労省の通達は無意味

 厚生労働省が小売業や飲食業などのチェーン店における「管理監督者」の基準を各地の労働局に通達した。いわゆる「名ばかり管理職」問題への対応だという。以下、東京新聞(2008/09/09夕刊)より。
(前略) 厚労省によると、「職務内容、責任と権限」「勤務態様」「賃金等の待遇」の三点について、管理監督者であることを否定する重要な基準と補強的な基準を整理した。
 重要基準として(1)アルバイトなどの採用に責任と権限がない(2)部下の人事考課に実質的に関与しない(3)遅刻、早退を理由に減給されるなど不利益な扱いを受ける(4)時給換算でバイトなどの賃金に満たない-などを列挙。
 補強的基準として(1)労働時間の裁量がほとんどない(2)役職手当などの優遇措置が不十分-などを挙げた。該当すると「名ばかり管理職」と判断される可能性が高まる。(後略)

 管理職の実態がないにもかかわらず労基法上の「管理監督者」として扱われ、残業代が支払われない「名ばかり管理職」問題は、マクドナルドの店長が会社に残業代の支払いを求めた訴訟を機に大きな社会問題として注目されるようになったが、ようやく厚労省がこの問題に重い腰を上げたと言えよう。

 しかし、他の労働問題でもそうだが、こんな一片の通達で問題が是正されるはずもなく、特に今回の通達内容はあまりにも実情とかけ離れている。法的に焦点となっているのは、「管理職とは言えないのに残業代が支払われていない」という問題だが、実際の問題の核心は「身も心もボロボロになるほどの過労をせざるをえない状況に追い込まれている」ことであり、さらに「業績を上げるためには表向きの労働時間を改竄して隠れてでも残業しなければならない」ことにある。この通達ではそうした実態を考慮しているとは言い難い。

 「身も心もボロボロになるほどの過労をせざるをえない状況に追い込まれている」のは、極端な人件費削減の結果、少数の正社員に責任と負担が集中するようになっているからである。「業績を上げるためには表向きの労働時間を改竄して隠れてでも残業しなければならない」のは、賃金決定方式が成果主義になったからである。今回の通達では、こうした構造的問題には手をつけず、単に法律上の管理職から外れるというだけで、すでにマクドナルドがやったように、残業代を支払う代わりに本来の給与を削るような「抜け道」を予防することはできない。

 ちなみに、そもそも企業が「名ばかり管理職」というものを考えだしたのは、労働基準法が労働時間や休日などの規定を「管理監督者」には免除しているからだが、以前から疑問なのは、この問題への対応として「管理監督者」にも労基法の規定を適用するという発想はなぜ出てこないのだろうか。法思想的には使用者と労働者では全く立場が異なる以上、使用者に労基法を適用するのはおかしな話なのだろうが、経営者だろうと管理職だろうと、ある意味「労働」をしている以上、その労働時間を規制しても構わないのではないのか。労働法の素人の浅墓な発想なのかもしれないが、「名ばかり管理職」の予防策としては、ずっと効果的だと思うのだがどうだろう。

 いずれにせよ「名ばかり管理職」は、行政の通達ごときで是正できるような問題ではなく、法改正も必要であるということは強調しておきたい。

【関連記事】
マクドナルド残業代不払い訴訟で勝訴判決
マクドナルドの新報酬制度は手の込んだ賃下げ

【関連リンク】
厚生労働省:多店舗展開する小売業、飲食業等の店舗における管理監督者の範囲の適正化について―具体的な判断要素を整理した通達を発出―
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/09/h0909-2.html
労働基準法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S22/049.HTM#s4
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by mahounofuefuki | 2008-09-09 23:02

「やりがい」さえあれば労働条件が劣悪でもよいのか?

 日本社会では戦後労働運動に相当な威力があり、企業経営にも余力があった時でも、労働三法が骨抜きにされ、欧米に比べて労働条件は悪かったのだが、そこへ市場原理を絶対的に信奉する新自由主義が流入したことで、ただでさえ劣悪な労働環境がますます悪化し、今や無法状態なのは周知の通りである。

 その決定的な要因は、労働者を人間ではなくモノとみなし、雇用が商取引化していることにあるが、こうした人間本来の生理に反するやり方に適応できない人々が、営利目的の企業を離れ、NPOに活路を見出す例も少なくない。新卒ルートからはじかれた「氷河期世代」が居場所を求めて働く場合もあろう。このNPOで働く人々、特に比較的若い世代の労働実態について、産経新聞の武部由香里記者が興味深い記事を書いている。

 NPO法人で働く若者 低賃金でも楽しい 給与、労働条件・・・厳しい側面も - MSN産経ニュース
 http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/080905/sty0809050742000-n1.htm
(前略) NPOで働く若者は、企業で正社員として就職している同世代よりも低収入だが、仕事内容への評価が高い-。こんな調査結果を、第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部副主任研究員の北村安樹子さんが公表した。調査は、NPOで働く20~39歳の男女313人と、企業で働く2128人に行った。
 結果は、NPO従事者の8割が活動を通じて収入を得ており、無給の人も含めた平均年収は約160万円年収300万円未満の人が3分の2以上を占めた。一方、仕事の評価は「内容がおもしろい」(91・7%)、「能力がいかせる」(86・8%)と多くの人が満足している。
 この結果は、企業で働く社員と比べ収入面では低いが、仕事に対する評価は高い。また、アルバイトなど非正規社員と比べると収入も仕事に対する評価も高い
 ただ、若者を有給で雇用できるNPOは事業規模が大きいところにほぼ限られている。北村さんは「企業ではNPOのように刺激的でおもしろい仕事にかかわれる機会が少ない。しかし、若者を雇用する力があるNPOは多くはなく、雇用しても高い給与は払えないのが現状だ」と指摘する。(後略) (注―太字強調は引用者による。)
 平均年収160万! しかも第一生命経済研HPの当該レポートを読むと、調査対象のNPOは「全国の平均的なNPOに比べて財政基盤が安定したところが多いという特性をもつことに留意する必要がある」と述べられていて、実際は下方修正する必要があることが示唆されている。一般に労働時間が企業労働者より短いこと、兼業者や無給のボランティアがいることなどを差し引いても、いくら何でも安すぎである。これは新たな「ワーキングプア」と言ってもさしつかえあるまい。

 それにもかかわらず仕事内容そのものの満足感は高い。レポートの当該部分によれば、「仕事の内容がおもしろい」「能力が生かせる」「信頼できる上司がいる」の3項目で8割以上の高率である。一方、「雇用が安定している」「福利厚生が充実している」「給料がよい」といった項目では企業の正規労働者を下回る。下回るといっても、企業労働者の満足度も決して高くはなく(「給料がよい」は3割強ほど)、かえって現在の企業の労働環境の悪さが露呈しているのだが、それでも経済的条件という点で、多くのNPOの労働者の立場が企業労働者に比べて不安定であることは確かだろう。

 「やりがい」「自己実現」「社会貢献」などと「安定収入」が両立しえないということを所与の絶対的条件とするならば、「やりがいがあれば低賃金でもいい」ということになるし、逆に「高い収入を得るには不条理な労働環境でも我慢する」ということになり、多くの人々がそう考えているのかもしれないが、果たしてそれでいいのか?という疑問が拭えない。「雇用の安定」や「福利厚生」という、本来は労働者にとって当然の条件を、「やりがい」やら「自己実現」なるもので相殺できるのか、という問題がここにはある。

 私などが不安を覚えるのは、1990年代、まさにその「やりがい」や「自己実現」という観念が、新卒→正規雇用というルート以外に自己に適した道があるのではないかという期待をもたせ、「自分探し」の流行と合わせて、結局は財界による正規雇用の非正規雇用への置き換えを促進する役割を果たしたことを想起させるからである。また「やりがい」さえあれば低賃金でも長時間労働でも、あるいは社会保障がなくても構わないという考え方が広がることも心配である。

 もう一点、NPOと言ってもピンからキリまであり、特に事実上行政の「下請け」となっていたり、非営利を称しながら実際は営利の企業と変わらない場合も少なくないことを指摘しなければならない。実際、本来は行政が直接行わなければならない業務を、財政難を理由に安く外部委託するのにNPOが利用される例が後を絶たない。たとえば私が行きつけの公立図書館は業務のほとんどをNPOに委託していて、図書館の司書の多くが自治体の直接雇用ではなく、年限契約の有期・間接雇用である。行政がNPOを使って公務員の事実上の非正規化を進め、不安定雇用の拡大に手を貸しているのである。「行政の無駄を減らせ」とか「公務員を減らせ」とか唱えている人々に是非とも知って欲しい事実である。

 また、最近「NPOワーカーズコープはNさんに謝罪せよ」というブログからTBをいただいた。以前弊ブログで「協同労働の協同組合」について書いた折に紹介したNPO「ワーカーズコープ」が運営する名古屋のNPOセンターで、不当解雇やパワハラが起きているという。この問題は「JanJan」が詳しく報じているが(関連リンク参照)、本来人間をモノのように扱う働かせ方へのアンチテーゼとしての意味合いをもっていた労協において、企業と同じような矛盾が起きているようである。これなどNPOの「行政下請け」化と「企業」化の典型例であろう。

 以前のエントリで、「協同労働の協同組合」について「雇用者と被雇用者」という関係がないというのは注目に値すると指摘したが、このことは実態としては被雇用者であっても、法的には労働者とは認められず、労基法をはじめとする労働法制が適用されない恐れがあることを意味する。「協同労働の協同組合」法制化やNPOの地位強化にあたって、働く者の権利をはっきりとさせないと、労働法制の解体を促進することすら予想されよう。

 ところで、前記産経の記事で見過ごすことができない一節がある。「アルバイトなど非正規社員と比べると収入も仕事に対する評価も高い」。つまり企業の非正規雇用は、正規雇用のみならず、NPOに比べても低収入で、なおかつ「やりがい」もないのである。「収入はそこそこあるがやりがいのない正規雇用」「低収入だがやりがいはあるNPO」「収入も低くやりがいもない非正規雇用」という階層性が見事に現れている。NPO対象の調査からも、非正規雇用の劣悪な状態が浮き彫りになっているのは、非常に重い事実である。

【関連記事】
「協同労働の協同組合」法制化の動き

【関連リンク】
北村安樹子「NPOにかかわる若者の働き方と仕事観」(『ライフデザインレポート』2008年3-4月)- 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部*PDF
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/report/rp0803.pdf
NPOワーカーズコープはNさんに謝罪せよ
http://workerswho.blog95.fc2.com/
『KY解雇』が発生?名古屋市の施設の指定管理者交代のその後 – JanJan
http://www.news.janjan.jp/area/0806/0806130507/1.php
労働法軽視「偽装経営者」の温床になるか?市民会議提案の労協法案を考える – JanJan
http://www.news.janjan.jp/living/0809/0808315930/1.php
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by mahounofuefuki | 2008-09-07 15:51

「日本版デュアルシステム」で「ネットカフェ難民」対策ができるのか

 これまで弊ブログの労働者派遣法改正問題や『労働経済白書』のエントリで述べたように、昨年末くらいから厚生労働省の労働政策は従来の規制緩和路線を修正しはじめており、最近は「貧困と格差」の是正を目指す施策の準備も伝えられている。その方向性は歓迎すべきことなのだが、問題は出てくる施策が既存の行き詰った制度を「転用」しようとするものばかりで、実効性が疑われることである。

 たとえば「ネットカフェ難民」への「自立支援」策。読売新聞(2008/08/23 14:54)によると、雇用・能力開発機構の「日本版デュアルシステム」受講を条件に、月15万円を住宅・生活費として事実上給付する制度を準備しているようだが、この施策については以下のブログ記事がその実効性の欠如を厳しく批判していている。

 150人分の予算 - 非国民通信
 http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/47ea7402610f1300a8e781626237a493
 政府は何も分かっていない - アフガン・イラク・北朝鮮と日本
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/9f9c7e5024238b7cfd33848660b1cf80

 私から付け加えるとすれば、そもそも「ネットカフェ難民」に受講させようとしている「日本版デュアルシステム」自体がもろもろの問題を抱えている。「デュアルシステム」とは元来ドイツの伝統的な職業訓練システムで、「16歳から18歳の若年者(高校段階)が職業学校の教育と企業内訓練を並行して受講し、修了試験を経て職業資格が付与される。技能の高いマイスター制度を支え、とりわけ高度の職人、熟練工を育成する」ものだが(『日本労働年鑑』第74集、2004年版による)、日本版では専門学校等での座学と企業での職業実習の併用という点は共通するものの、本来は学生向けの職業教育である制度をもって失業者や無業者や非正規労働者の就労対策に充てようとしているため、重大な齟齬が生じている。以下の論文がその問題点を明らかにしている。
(前略)
 厚生労働省は、(独)雇用・能力開発機構を通じてデュアルシステムを実施している。こちらはフリーター対策を主目的としており、おおむね35歳未満で不安定な職業に就いている者や失業している者が対象である。したがって、キャリア教育というより、就業支援か職業訓練といった方が適切である。(中略)
 (独)雇用・能力開発機構では、4カ月から6カ月の短期のデュアルシステムも実施しており、この場合に座学(講義)を担当するのは、民間の専修・専門学校である。通常は、学校での講習が終了した後、1カ月から3カ月の実地訓練が企業で行われる。(中略)
 デュアルシステムにおける訓練の場は、学校と企業である。したがって、デュアルシステムが成立するには企業の協力が欠かせない。ドイツでは企業が職業訓練を行うことは、企業がもつ社会的責任の一つであると認識されているが、日本にはそのような認識はない。(中略)
 しかし、大企業はデュアルシステムに関してまったくといってよいほど関心をもっていない。(中略)大企業は高卒者をコストをかけて採用・育成するよりは、派遣社員や請負社員を活用した方がよいと考えているためであろう。あるいは高卒が必要だとしても独力で採用できるため、デュアルシステムに興味がないのかもしれない。(中略)
 デュアルシステムに中小企業は不可欠であるとしても、中小企業にとってデュアルシステムに協力することはどのようなメリットがあるのだろうか。少なくとも金銭的にはメリットよりデメリットの方が大きい。高校で行われているデュアルシステムの場合、協力企業に対する謝礼は一切ない。職業能力開発大学校等で行っているデュアルシステムの場合は、受け入れ企業に対して訓練生1人につき月24,000円(消費税別)の範囲内で委託費が支払われるが、訓練生に相応の技術をもった人、たとえば工場長や経営者が指導するとなれば、その間彼らは自分の仕事ができない。実際、経営者自らが残業するなどによって訓練時間を捻出している企業もある。それが1カ月も2カ月も続くとなれば、企業の費用負担は無視できないほど大きくなる。訓練によって失われる収益機会は多少の委託費ではカバーされない。(中略)
 (独)雇用・能力開発機構が行っているデュアルシステムも、就職を考慮して訓練先を選択するとはいえ、受け入れた訓練生が就職する保証があるわけではない。(後略) (竹内英二「キャリア教育における中小企業の役割 ―日本版デュアルシステムを中心に―」、国民生活金融公庫『調査季報』2008年2月号より、太字強調は引用者による)
 要するに公的支援が不十分で民間への丸投げなので企業負担が大きく、大企業からはそっぽを向かれ、何よりも「訓練生が就職する保証があるわけではない」のである。しかも、訓練中でも雇用契約が結ばれるドイツとは異なり、日本ではその間は労働者という扱いではないので失業者同様、雇用保険で生活するしかない(雇用保険未加入者は無収入になる)。

 最新のデータを見つけることができなかったので、少し前のデータになるが、2004年度の訓練生の就職状況をみると、正規雇用は49.5%、派遣が15.8%、パート・アルバイトが34.7%となっている(厚労省「日本版デュアルシステムの今後の在り方についての研究会」報告書より)。「デュアルシステム」受講者の過半数が非正規雇用というのは、現在の全雇用の正規・非正規比率(約2:1)を考慮すればあまりにも多すぎる。これを「ネットカフェ難民」の就労対策に転用しても、貧困の解消につながるとはとうてい思えない数字である。

 そして周知の通り、雇用・能力開発機構は現在、独立行政法人「改革」の標的となっていて、昨日の行政減量・効率化有識者会議は同機構の廃止方針を決定した。報道によれば、厚労省は同機構の廃止に抵抗しており、今月中旬にもまとめる予定の厚労省サイドの改革素案では、同機構が行う職業訓練は「年長フリーターやワーキングプアの問題に対応するための雇用のセーフティネット」だと強調するという(朝日新聞2008/09/03 22:43)。「ネットカフェ難民」対策に「日本版デュアルシステム」を転用する真の理由はこれで明らかだろう。注目される社会問題である「ワーキングプア」対策を盾に、機構の存続を図ろうとしているのである。つまり、雇用・能力開発機構の存続こそが目的で、「ネットカフェ難民」対策はそのための手段なのである

 もちろん弊ブログは昨年来一貫して独立行政法人の民営化に反対しており、今回の件も確かに雇用・能力開発機構は多くの問題を抱えているが、民営化や地方委託では単なる行政の責任放棄でしかなく、公共職業訓練はしっかりと国の業務として行われるべきであると考えている。だからこそ厚労省には小細工ではなく、はっきりと憲法第25条に従って最低限の生活を保障するという観点から貧困対策を打ち出して欲しいのだが、実際は貧困問題を専ら就労対策でカバーする一方で、その就労対策自体が生活保護などのセーフティネットを弱める役割を果たしている。自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠氏は次のように指摘している。
 (前略)東京ではそれ(引用注―野宿者の「自立支援事業」の失敗)に対して2004年からテント対策として新事業を始めました。テントを潰すかわりにアパートに入れるという施策ですが、生活保護が保障するラインより下に、行政自身がネットをつくっている面があります。生活保護の下方修正ではないかというのが私の評価で、それはネットカフェ難民対策として打ち出した東京都のチャレンジネットも同じ性格を持っています。これがどう運用されるのかといえば、生活保護の相談に行った人が、「ネットカフェの人はこっちの施策を利用してもらうことになっている」などと言われて、そっちに流されてしまうのです。(後略) (生田武志・湯浅誠「貧困は見えるようになったか」『世界』2008年9月号より、湯浅の発言、太字強調は引用者による)
 東京都の「ネットカフェ難民」支援事業については、以前弊ブログで比較的高い評価をしてしまったことがあるが、湯浅氏の言葉で目が覚めた。東京都の事例が生活保護基準の実質的な下方修正ならば、似たような事業である今回の厚労省の支援策も、生活保護申請を却下する口実に使われる可能性が高い。

 考えてみれば「月15万円」という額は微妙である。東京都の場合、30代の単身者の生活扶助給付額がだいたい最大で月13~14万円くらいだから、一応ぎりぎり保護基準を上回ってはいるが、職業訓練受講にあたってどの程度自己負担があるのか不明だし(たとえば教材費や交通費は給付に含まれるのか否か)、生活保護受給者が受けられるさまざまな減免措置がないことを考慮すれば、実質的には生活保護基準を下回る可能性もある。これは法的にも問題である。

 シミュレートしてみよう。「ネットカフェ難民」に生活保護を受けさせないために、「日本版デュアルシステム」を利用した新事業へ回す。「非国民通信」が指摘するように150人分の予算しかないとすれば、新事業を利用できる人は限られるので選別される。選ばれなかった人は「難民」のままである。運よく選ばれると、生活保護基準ぎりぎりか、それを下回る水準の現金給付を受けながら、指定された専門学校へ通い、協力企業で職業訓練を受ける。すべて終えても安定雇用に就ける保障はなく、過半数が非正規雇用になる。「ネットカフェ難民」だった履歴があること自体不利に働くのに、具体的な就職支援はない。再び不安定雇用にしかありつけなくとも、受講終了と同時に給付は打ち切られる。その時点で、家賃を支払えるだけの収入がなければ、再び「ネットカフェ難民」へと戻る。政府は「やるだけのことはやったので、後の貧困状態は自己責任」とうそぶく。これでは貧困解消に程遠い上に、政府に貧困対策を行わない口実すら与えかねない。

 抜本的な貧困対策としては、生活保護基準以下の収入しかもたらさない状態を一切認めず、それらをすべて公的給付でフォローしなければならないが、先日弊ブログで紹介した、生活保護行政の担当者がホームレスに生活保護基準を下回る住み込みの派遣の職を斡旋していた事例のように、行政は今も生活保護の骨抜きを続けている。貧困解消にあたっては就労対策に限定するのではなく、実効性のあるセーフティネットの確立が必要不可欠である。そのためには「小さな政府」だの「ムダ・ゼロ」などやめて社会保障費の大幅増が必要であることも自明であろう。

【関連記事】
生活保護行政が「生活保護以下」の職をあっせんする矛盾

【関連リンク】
厚生労働省:日本版デュアルシステムホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/syokunou/dual/index.html
厚生労働省:「日本版デュアルシステムの今後の在り方についての研究会」報告書について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/11/h1129-3.html
独立行政法人 雇用・能力開発機構
http://www.ehdo.go.jp/
法政大学大原社会問題研究所_若年労働者の就業促進に向けての対策 [日本労働年鑑第74集057]
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/2004/rn2004-057.html
竹内英二「キャリア教育における中小企業の役割 ―日本版デュアルシステムを中心に―」、国民生活金融公庫『調査季報』2008年2月号*PDF
http://www.kokukin.go.jp/pfcj/pdf/kihou2008_02b.pdf
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by mahounofuefuki | 2008-09-04 20:33

八代尚宏の日雇派遣禁止反対論に反駁する

 引用(「」内の文)はすべて、八代尚宏「経済を見る眼」(『週刊東洋経済』2008年8月16・23合併号)より。逐次批判する(赤字の文)。

 「日雇い派遣には労働安全上の問題が多いというが、そうでない職場も多い。危険な業務についてのみ禁止ではなく、専門業務以外は原則禁止することは、現在従事している労働者の利益を損なうだけである。」
 →日雇派遣の問題は「労働安全上の問題」だけではない。何よりも中間搾取による低賃金と短期契約に伴う生活の不安定が問題なのである。故に「労働安全上の問題」のない職場はそのままでよいということにはならない。

 「日雇い派遣を不安定な働き方として禁止しても、正社員の仕事が増えるわけではない。代わりに日雇いへの職業紹介と給与処理代行業務との組み合わせになるだけであり、労働者に何の利益があるのだろうか。」
 →「日雇いへの職業紹介と給与処理代行業務との組み合わせ」を法的に規制すれば済むことである。現行制度のままで労働者に何の利益があるというのか。

 「規制強化論者は、普通の日雇いになれば派遣会社のマージン分だけ賃金が上がるという。しかし、逆に派遣先の企業はなぜ直接雇用して高いマージン分を節約しないのか。それは短期雇用では、自ら募集や面接・賃金支払いをするコストのほうが高いと考えているためで、派遣禁止で賃金が上がることは期待できない。」
 →派遣先が直接雇用しないようになったのは、労働者派遣法が改悪を重ねて派遣労働が原則自由になったからであり、そもそも法が派遣労働を厳しく規制していれば、「自ら募集や面接・賃金支払いをするコスト」をいやでもかけざるを得ない。また「賃金が上がることは期待できない」という言は、次の事実が否定している。
(前略) 日雇い派遣労働者だった男性は(32)は廃業発表のニュースを苦々しい思いで見た。
 4年前に就職しようと上京したが、「ついずるずると」日雇い派遣で暮らしてきた。今年1月、グッドウィルの事業停止を機に、派遣先の企業のアルバイトになった。日雇い派遣の時は日給7250円。雇用先は人材を確保したいからと、グッドウィルに払っていた派遣料金1万2千円を男性に支払うことにした。
 その結果、手取りは月18万円から30万円に。給与明細を見るたびに思う。「こんなにグッドウィルに取られていたのか。アホらしい」。(後略) (朝日新聞2008/07/11朝刊、太字引用は引用者による)
 「日雇派遣」が直接雇用のアルバイトになるだけで、これだけ賃金が違うのである。「日雇派遣」を禁止しても求人がなくなるわけではない。

 「むしろ短期間の直接雇用では、雇用主が頻繁に変わることの不利益のほうが大きい。現に6カ月未満の派遣契約者の内、4分の1が有給休暇を得ている。これは派遣先がたびたび変わっても、雇用主が同じであれば義務づけられるためで、雇用保険や社会保険にも入り易くなる。」
 →「4分の1が有給休暇を得ている」ということは「4分の3は有給休暇を得ていない」ということである。少数例をもって多数例を無視するのはどうか。「雇用保険や社会保険にも入り易くなる」とのたまうが、実際はこれら保険に加入していない派遣会社が山ほどある実態をどう説明するのか。

 「厚生労働省等の調査によっても、派遣労働者の大部分は、拘束性の強い正社員の働き方と比べて、職種や働き場所を選べ、残業も少ない派遣の働き方を積極的に求めている。また、派遣会社の社員が加入する人材サービスゼネラルユニオンの調査でも、現に日雇い派遣に従事している人たちの内、都合のつくときだけ働ける仕組みに満足している者が多数である。残りの人にとっても、選拓肢が狭まり得になるわけではない。」
 →『2008年版労働経済白書』本文図表基礎資料によれば、短期派遣労働者に「今後希望する雇用形態」を問うたところ、「現在のままでよい」と回答した割合は45.7%で半数に満たない。それもここでいう「短期派遣労働者」には、学生や主婦のような日雇派遣のみで生計を立てているわけではない人も含む。これでは「大部分」とはとうてい言えない。

 「派遣に関しては経営側が自由化を、組合側が規制を求める『労使対立』の問題と考えられているが、肝心の派遣労働者の組合は『派遣は諸悪の根源ではない』と禁止に反対している。派遣問題の核心は正社員と非正社員との間の『労労対立』にある。」
 →「派遣ユニオン」や「ガテン系連帯」や各派遣会社のユニオンの多くが日雇派遣禁止はもちろん、短期派遣や登録型派遣の禁止を主張している。御用労組の主張のみをもって「派遣労働者の組合は・・・禁止に反対している」という言はあまりにも独善的である。派遣問題の核心は、資本家が労働者を人間ではなく、まるで部品のように扱っていることの是非である。「労労対立」を仕組んでいるのは資本サイドにほかならない。

 八代氏の立論は「日雇派遣」禁止以外は現行制度を継続することを前提としている。逆に言えば、派遣労働規制にあたっては「日雇派遣」禁止だけでは全くもって不十分であり、あくまで直接雇用・無期雇用の原則を法的に担保し、なおかつ実効性を伴った厳しい規制強化が必要であることをかえって如実に示している。

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by mahounofuefuki | 2008-08-26 23:06

「造反有理」

 東京で27歳の男が派遣会社「インテリジェンス」に「殺害予告」のメールを送ったとされる件。賢明な読者なら当ブログの過去ログから私の言いたいことは容易に推測できるだろうから、多くは語るまい。

 「『日雇い』禁止に反対しているようだがてめぇじゃ絶対働かないシステムだろ?一度そこまで行った人がどうやって立ち直って飯食っていくんだ?」(毎日新聞2008/08/19 13:24)までだったら喝采ものだったのに。あと派遣会社だけでなく、派遣先の企業にも言及していたら良かったのだが。

 いずれにせよ、本当に特定の標的を狙う気があったら「予告」などしないのもまた事実。

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「日雇派遣」禁止議論に対するモリタクの警告
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by mahounofuefuki | 2008-08-19 17:59

「日雇派遣」禁止議論に対するモリタクの警告

 厚生労働省の日雇派遣禁止方針に関しては、同省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書が不十分な内容であることを当ブログでも批判したが、昨日、森永卓郎氏がさらに厳しい見方を示していた。
 「日雇い派遣禁止」の裏に隠された巧妙なからくり / SAFETY JAPAN [森永卓郎氏] / 日経BP社
 http://www.nikkeibp.co.jp/sj/2/column/o/145/index.html

 森永氏は特に2つの問題を重視している。第一は、日雇派遣禁止に伴い、日雇労働者が大量に失業する可能性があること、第二は、報告書が派遣対象業務の規制を無視していることである。氏は今回の厚労省の動きについて「結局は大手業者の利権を守りつつ、世間の批判をかわすために出てきた措置ではないか」とまで指摘している。

 結論から言えば、森永氏の心配は決して杞憂ではない。
 第一の問題に関しては、単に日雇派遣禁止だけでは短期的には失業者が増えることは、すでにグッドウィル廃業で経験済みであって、当然何らかの手当てを行わなければならない。現在、厚労省では「しごと情報ネット」を拡充して、日雇などの短期雇用の求人を派遣会社に代わって紹介する事業を検討していると伝えられるが、実効的に機能するようなシステムが必要だろう。理論的には「日雇派遣」を禁止しても、「日雇」に対する企業の需要がある限り、求人はなくならないが、禁止前に派遣の時給引き上げが必要であるという氏の指摘は正論である。

 第二の問題に関しては、当ブログでも「最低でも同一労働の均等待遇を義務づけ、不安定な登録型派遣を廃し、派遣対象業種を制限するところまでやらなければ、雇用待遇差別の解消のスタートラインにすら立てない」と指摘したが、特に派遣の製造業への解禁が貧困を拡大したことは『労働経済白書』も認めているほどで、派遣対象業種の規制は絶対必要不可欠である。
 森永氏は「証拠はないものの、製造業務への派遣労働禁止をしないのは、派遣労働を大量に利用している大手製造業と、大きな利益を得ている大手派遣会社に、政府が配慮しているからではないか」と指摘しているが、この点は製造業における「2009年問題」を考えれば、正しい見立てだろう。私は以前から直接雇用申込義務の廃止と日雇派遣禁止の「抱き合わせ」を警戒しているが、政府・財界は日雇派遣中心の新参派遣業者を切り捨ててでも、大手メーカーの利益を擁護しようとするだろう。今後の展開によっては「大手業者の利権を守りつつ、世間の批判をかわすために出てきた措置」になってしまう可能性がある。

 派遣労働問題に関しては、派遣それ自体の解消で完結するのではなく、正規雇用や他の非正規雇用(請負など)も含めた、この国の労働環境全般を視野に入れて、人間らしい働き方を確立する方向性につなげる必要性を、最近特に感じている。非正規雇用の正規化をもって雇用待遇差別是正の突破口にしたいという考えは変わっていないが、政府や財界が巧妙な罠を次々と仕掛ける中で、より戦略的な対応を求められているのも事実だろう。

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by mahounofuefuki | 2008-08-12 12:34

規制で解決しないと言うなら、何だったら解決するんだ!

 政府・厚生労働省が「日雇派遣」の原則禁止方針を打ち出し、次期国会で労働者派遣法改正案が提出される見込みだが、政府案は直接雇用・無期雇用の原則確立には程遠い不十分な内容にもかかわらず、依然として「日雇派遣」の禁止にすら反対する動きが顕在化している。

 「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書答申を受けて、厚労省の諮問機関である労働政策審議会の労働力需給制度部会は派遣労働問題の検討を再開したが、報道によれば先月30日に行われた会議では、経営者側が「日雇派遣」の禁止に反発し、指導監督の強化で十分だと主張したという(時事通信2008/07/30 14:43など)。「指導監督」では一向に違法行為が改まらないから、法改正の必要性を協議しているのに、このような言い草をする厚顔無恥ぶりには呆れるほかないが、それだけ必死であるとも言え、派遣労働見直しに対するバックラッシュは依然侮れない。

 財界の御用新聞と言っていい日本経済新聞は「規制では解決しない派遣労働の問題」と題する社説を出したが(日経2008/08/04朝刊社説)、ここでも「日雇派遣」の禁止に事実上反対する主張を行っている。

 日経の主張は、①法令違反の取り締まり強化による悪質派遣業者の排除、マージン率公開は必要、②「日雇派遣」の禁止は「学生や主婦」などが不便となり、30日以内の短期派遣の全面禁止は経済へのダメージが大きい、③やむなく日雇で生計を立てざるをえない「一部の人」には正社員への雇用を促進する手立てが必要だ、④「専ら派遣」は派遣自体が問題ではなく、正社員と派遣社員との賃金格差が問題だ、⑤派遣労働が「社会に根付いた」以上、派遣を「臨時的・一時的労働力」と位置づけず、「例外扱い」をやめるべきだ、などである。

 ①については、合法・違法にかかわらずピンハネ=「中間搾取」が反社会的であるという問題意識が欠如している。悪質業者さえ排除すれば済むと言うが、「悪質ではない」派遣業者などいるのか? いたら是非教えて欲しい。

 ②については、「学生や主婦」だからと言って「派遣」でいいという根拠はない。今回問題になっているのは「日雇派遣」であって「日雇」ではない。派遣法が拡大する前は短期のアルバイトでも直接雇用で何ら問題がなかった以上、「日雇派遣」を容認する理由にはならない。

 ③については、「日雇」で生計を立てている人が「一部」と決めつけているのは問題だが、正社員化の必要性を認識している点に限れば評価できる。

 ④については、賃金格差を是正するためにこそ、法的規制が必要であることを理解していない。「派遣」という地位自体が差別の理由にされている以上、これを規制するのは当然である。

 ⑤については、「期限のある奴隷」から「無期限の奴隷」にしろという意味で、首相や厚生労働大臣でさえ国会で「派遣」を「臨時的・一時的労働力」と認めざるをえなかった意味を考慮していない。確かに正規雇用を諦めた派遣労働者の中には「派遣」のままで社会に認知されるよう求める切実な声があるが、一方で先日の『労働経済白書』でも明らかなように正社員になることを希望する人が多数おり、間接・有期雇用の永久化はそうした希望と対立する。派遣を恒常的労働力とすれば、企業はますます正規雇用を非正規雇用に転換し、貧困が拡大するだろう。

 日経の社説は「小手先の規制でなく、本質的な議論が必要だ」と結んでいるが、その字面だけは全くその通りだが、「小手先の規制」を主張しているのは現行法の運用改善でお茶を濁そうとしている経営側であり、労働側が主張する派遣法の抜本的改正こそが「本質的な議論」である。今回の「日雇派遣」問題の本質は、まるで「手配師」のような貧者を食い物にするビジネスを公認し続けるのか、ピンハネという非人道的行為を容認するのかどうかである。その点を見誤ってはならない。

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【関連リンク】
厚生労働省:第116回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/07/s0730-15.html
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by mahounofuefuki | 2008-08-04 23:05

厚労省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」報告書は不十分

 労働者派遣法の見直しを検討していた厚生労働省職業安定局の「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」が報告書案を答申した(厚労省のHPにはまだ出ていない)。すでに厚労省や与党は「日雇派遣」の原則禁止の方針を示しており、問題は研究会がプラスアルファをどのくらい盛り込むのかという点にあったが、各報道を読む限りでは既定方針の追認に終始しており失望の感はぬぐえない。

 毎日新聞(2008/07/28 21:42)によれば、報告書の要点は①30日以内の短期派遣の原則禁止、②労働局が派遣先に直接雇用を勧告する制度の新設、③企業グループ内の「専ら派遣」割合の制限(8割以下)、④マージン率の公開義務づけなどである。研究会ではマージン率の法的規制や派遣先の「みなし雇用」なども検討されたが、今回の報告書では盛り込まれず、登録型派遣の禁止も派遣対象業務の制限も見送られた。厚労省は今年に入ってから従来の規制緩和一辺倒の労働法制解体路線からの政策転換を図っているが、現状では全く不十分であると言わざるを得ない。

 今回の報告書に対しては、「派遣ユニオン」が早速声明を出して派遣規制の不足を批判している。TBいただいた「エム・クルー ユニオン」のブログに記載されているので参照いただきたい。
 声明 在り方研報告・日雇い派遣規制等に関する派遣ユニオンの見解 - エム・クルー ユニオン
 http://blog.goo.ne.jp/m_crew_union/e/d0e07266d34f44a0e5ef48ba90cd176a

 産経新聞(2008/07/28 21:06)によれば、「日雇派遣」についても禁止の例外となる業種の選定を労働政策審議会の今後の審議に委ねたというから、今回の報告書の内容ですら骨抜きされる可能性は依然として残っている。毎日新聞(2008/07/28 23:00)も指摘しているが、以前から当ブログが指摘しているように、労働者派遣法改正をめぐっては与党対野党ではなく、「自公・民主」対「共産・社民・国民新」という対立軸になっており、圧倒的多数の前者の動向によっては規制緩和との「抱き合わせ」の危険もある。決して楽観できる状況にはない。

 あくまでもピンハネという「中間搾取」の撤廃を目指すという観点から労働者派遣法の抜本的改正、特に不安定な登録型派遣の禁止、事実上企業のリストラ策となっている「専ら派遣」の禁止、派遣会社のマージン率の上限規制、派遣先による違法行為の場合の「みなし雇用」などは喫緊の課題である。今後舞台は労政審、さらに国会に移るがはっきりと声を上げていく必要がある。


《追記 2008/07/30》

 厚労省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」の報告書がホームページに上がっていたのでリンクする。
 厚生労働省:「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告書」について
 http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/07/h0728-1.html

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by mahounofuefuki | 2008-07-29 07:45

『めぞん一刻』は「格差恋愛」ではない

 今朝、新聞のテレビ番組欄に目を通していたら、次の一文が視野に入った。
「めぞん一刻~お金はないが愛はある!貧乏な就職浪人生と美しい管理人さんとの笑って泣ける“格差恋愛”!!」
 『めぞん一刻』は高橋留美子氏の1980年代の漫画で、「一刻館」という老朽アパートを舞台に、住人のさえない学生(当初は大学浪人)五代裕作と、美貌の管理人(20歳そこそこで「未亡人」になってしまったという設定)音無響子とのぎこちない恋愛を軸にしたラブコメディである。これまで何度かアニメ化や実写化がなされてきたが、今回はどうやら作品後半の実写ドラマ化らしい。作中の裕作は就職戦線で脱落し、大学卒業後「フリーター」を続けるので、そのあたりを指して番組欄の担当者はこのような惹句を書いたのだろうが、私には納得できない。なぜなら少なくとも原作は「お金はないが愛はある」という内容でもなければ、響子と裕作の恋愛は「格差恋愛」でもないからだ。

 作中、裕作と響子の恋は四角関係、五角関係が絡まり、それぞれの優柔不断のせいもあって、なかなか進展しないが、作品終盤最大の「障害」は裕作が「フリーター」で、定職に就いていないことにあった。一応はアパートの管理人という職にある響子が無職の裕作を食わせるという展開にはならない。裕作は保育士資格(当時の公式名称は男でも「保母」だった)を取り、(結果として)過去のコネで保育所に就職を決めてから響子にプロポーズする。響子はストーリーの序盤から経済面にシビアなところを見せている。作品を客観的に分析すれば「お金はないが愛はある」と言えるほど夢想的ではない。

 「格差恋愛」という「評価」は、そんな「負け組」だった裕作と「美貌」のヒロインである響子との立場の「格差」を前提にしているが、実は響子はその「美貌」以外には特に何のとりえもなく、「貧困リスク」さえ抱えている。実際、響子は母親に「あんたみたいに未亡人で若くもなくて、学歴も技術もないわがままな子をもらってくれる男なんて、これから先鐘や太鼓で捜したって、金輪際未来永劫現れない」とまで言われていたように、前夫とは高校卒業後すぐに結婚したために学歴も社会経験もなく、しかもサラリーマンの1人娘なので将来の「親の介護」というリスクを抱えている。漫画の終盤では20代後半にさしかかり、唯一の「利点」であった「顔面偏差値」も怪しくなっている。「一刻館」はいつまで存続できるかどうかわからないほど老朽化しており、大家である前夫の父親(かなり老齢)の死後の生活は極めて不透明である。「格差」と言えるほど裕作に対して優位に立っているわけではないのだ。

 ところで、現在の視点で『めぞん一刻』を読み返すと、雇用問題や「貧困」をめぐる環境の変化が読み取れる。作中で裕作が大学を卒業したのは1985年(この漫画の時間軸設定は雑誌連載時とほぼ一致する)だが、この年の雇用者の非正規率は16.4%で、昨年の33.7%のおおよそ半分である(『労働経済白書』2008年版)。現在新卒で正規雇用に就けないということは珍しくも何ともないにもかかわらず、非正規労働者に対する「差別のまなざし」は依然として厳しいが、当時は量的に今よりもはるかに少数派だったから今以上にみじめで肩身の狭い思いを強いられていたはずである。実際、作中の裕作はアルバイト時代にみじめな姿を響子に見られたくないと悩んでいる。その点で『めぞん一刻』は今日の雇用における「尊厳」社会の貧窮者への「差別のまなざし」の問題を先取りしている。

 一方で裕作は「人とのつながり」には恵まれている。彼の実家は新潟の定食屋だが、店は姉婿が継ぐことになっているため、地元に帰ることができない。しかし、彼の祖母は時々上京するなど常に裕作を気にかけていて、響子との結婚が決まった時も自らの預金を結婚費用として裕作に貸したりしている。裕作は大学時代に教育実習先を「一刻館」の大家に紹介してもらったり、就職先やアルバイト先を大学時代の先輩や友人に紹介してもらったり、変人ぞろいの住人には何だかんだ言って愚痴や悩みを聞いてもらっている。何より女性にもてている。つまり、彼は浪人時代も含めて孤独であったことがない。作中の裕作はホームレスになるかどうかというような瀬戸際までは行っていないが、仮にそうなっても何とかなるのではないかという感じがする。湯浅誠氏の貧困論に従えば「溜め」があるのである。この点は現在の貧窮者との決定的な差である。

 そして最大の問題は、作中の裕作は貧しく不安定な非正規労働者から経済的に自立しうる社会人になり得たが、現在は一度貧困に陥るとそこから抜け出すことが困難であるということだ。裕作は保育士になったが、現在この職業は専門職にもかかわらず、保育所の民営化や外部委託など規制緩和政策のせいで派遣のような間接雇用やアルバイトのような有期雇用が増加し、低賃金(特に派遣はピンハネがすさまじい)で不安定かつ過酷な仕事になっている。介護業界もそうだが、本来公営事業として公費を投入して経営すべき福祉・教育分野に市場原理を導入した結果、これらの分野の労働者は不当に低く扱われるようになった。保育士で食べていけた『めぞん一刻』の時代と現在の相違は、この20年間の労働者の地位低下を象徴している。

 現代は一見、五代裕作のような男性は大勢いて、音無響子のような女性はほとんどいないように見えるかもしれないが(今回の番組欄を書いた人はそう考えて「格差恋愛」と指摘したのだろう)、本当のところは、自分を食わせてくれる都合のよい男をただ待っているだけの音無響子の方こそ大勢いて、貧困から抜け出してまともな仕事にありつき結婚もできた五代裕作の方こそ天然記念物並みの少数なのではないか。『めぞん一刻』は今日ではいろいろと読み替えが必要なようである。
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by mahounofuefuki | 2008-07-26 18:18