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都知事と台東区長は五十歩百歩

 東京都の石原慎太郎知事が3日の記者会見で、大阪の個室ビデオ放火事件に関連して、「ネットカフェ難民」や山谷の簡易宿泊所に言及したトンデモ発言が波紋を広げている。

 問題の石原発言は次のようなものだ(毎日新聞2008/10/07朝刊、太字強調は引用者による、以下同じ)。
「山谷のドヤに行ってご覧なさいよ。200円、300円で泊まれる宿はいっぱいあるんだよ。そこに行かずにだな、何だか知らんけれでもファッションみたいな形でね、1500円っていうお金を払ってね、そこへ泊まって『おれは大変だ、大変だ』って言うのはね」
 要するに、ネットカフェや個室ビデオなどに寝泊まりしているのは好きでやっていることで、本当に生活困難ならば「200円、300円」の簡易宿泊を利用しているはずだ、と言っているのである。これに対し、6日付で「自立生活サポートセンターもやい」が石原氏に公開質問状を送付した。

 石原都知事に公開質問状「200円の宿があるなら紹介してください」- レイバーネット
 http://www.labornetjp.org/news/2008/1223258651860staff01

 質問の主旨は①本当に200円、300円で泊まれる宿がたくさんあるのか具体的事実を提示せよ、②事実誤認ならば発言を公式に撤回せよ、③事実誤認を改めて総合的・包括的な生活困窮者支援策を打ち出せ、の3点である。質問状では、石原氏の思い込みとは裏腹に、実際には「都内では山谷地域でも一泊1000円以下の簡易旅館は皆無に近く、1500円以下の宿泊先を見つけるのですら、困難な状況」と指摘しているが、いかに石原氏が貧困問題に無頓着であるか、図らずも証明したと言えよう。

 一方、今日になって東京都台東区の区長と区議会議長が、石原氏に発言の訂正と謝罪を要求した。共同通信(2008/10/07 18:17)より。
 個室ビデオ店放火殺人事件に関連して東京都の石原慎太郎知事が「山谷は200円、300円で泊まれる宿がいっぱいある」と発言したことに対し、山谷地区がある台東区の吉住弘区長と木下悦希区議会議長が7日、記者会見し「重大な事実誤認がありイメージが損なわれた」として、知事に発言の訂正と謝罪を求める抗議文をそれぞれ出したことを明らかにした。

 台東区によると、同区と荒川区にまたがる山谷地区には現在、約160軒の簡易宿泊所がある。中には1泊1000円以下の宿泊所もあるが、おおむね2000円程度だという。

 抗議文では「(山谷地区は)地元や関係者の努力により、外国人観光客やビジネス客の利用も増えている。発言により当該地域のイメージが著しく損なわれ、誠に遺憾」などとしている。

 吉住区長は「今は200円、300円という時代ではない。都のトップがそういう認識というのは非常に残念だ」と述べた。(後略)
 今日のテレビ報道などでは、「もやい」の抗議と台東区の抗議を同じようなものとして扱っていたが、両者に共通するのは「山谷には200円、300円の宿泊所などない」という事実認識だけで、問題の捉え方は180度異なる。台東区長らの抗議内容には重大な問題がある。

 台東区の抗議は、要するに「観光客やビジネス客も山谷の簡易宿泊所を利用しているのに、石原発言のせいで貧困労働者ばかりが集まっているようなイメージが高まり迷惑している」ということである。「200円で泊まれるような宿はない」というのは「もやい」の抗議と同じだが、台東区の方は「そんな貧乏くさいものが存在するように思われるのは困る」というニュアンスがある。ここには山谷の「対外的」イメージを気にする姿勢しかなく、労働者の排除の方向性すら読みとれる。行政としての貧困対策の必要性を全く軽視しているという点で、石原氏と台東区長らは五十歩百歩なのである。

 中央がさっぱり貧困問題に本腰を上げないなかで、地方自治体にやれることは限られているとはいえ、自治体のトップがこんなお粗末な認識では全くどうにもならない。石原氏は今日になって記者団の「ぶらさがり」で、バツが悪そうに発言を訂正していたようだが、これは「記者会見の場での公式の撤回」とは言えまい。同時に街の「イメージ」を理由に労働者を厄介者扱いする台東区長らにも、批判の矛先は向けられるべきだろう。

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by mahounofuefuki | 2008-10-07 21:57

「1人の市民を減らして3人の奴隷を増やす」のではなく「3人とも市民にしろ」

 数日前の弊ブログで非正規公務員の「ワーキングプア」化~貧困対策としての正規公務員増員政策の必要性というエントリを挙げて、行政の人件費削減により臨時採用などの非正規公務員が増加している現状を批判し、正規公務員を増やせと主張したが、これに対し「はてなブックマーク」で、やはり以前弊ブログの清掃職員が年収1100万円で悪いか!でも取り上げた、奈良市の清掃職員の「高給」問題を前提に「これって、年収300万円で3人正規採用すればいいよなぁ?ブサヨは公務員の高給を擁護しているが、そのせいではじき出される人間はどうでもいいんだよなぁ?」という誹謗コメントがついていた。

 雇用待遇差別問題で非正規雇用を正規雇用に引き上げよと唱えると、必ず正規雇用の方の待遇を引き下げよとか、正規雇用の解雇を自由化しないと非正規雇用は正規雇用にはなれないといった批判が起きるが、これもそれらと同じ「引き下げ」論法である。全民間労働者の平均収入よりも低い年収300万円に引き下げろ、と平気で主張できるのは「格差」は問題にするが「貧困」を問題にしない典型例で、労働者全体の総取り分を勝手に固定しない限り成立しない議論である。

 奈良市の件は「年収1100万円」というといかにも「高給」だし、これが規定の労働条件の下で為されていたら私でも「高すぎる」と言うだろうが、以前も強調したように、この例は「給与が高い」のではなく「労働時間が異常に長い」のであって、時間外手当を除く給料500万円、賞与200万円余りというのは、問題の職員が定年の60歳であることを考慮すれば、安くはないが高いとは言えず妥当なところだろう(それでも時間給で区切られる「ワーキングプア」層から見れば夢のような話ではあるが、資本の論理に合わせて「あるべき給与水準」を引き下げる必要は全くない)。

 弊ブログは先のエントリで、「ワーキングプア」を優先的に正規公務員に採用しろと唱えているのだから、そもそも「はじき出される人間はどうでもいい」という非難は全くあたらないが、そういう非難が出てくるのは、要は人件費の総額を固定して考えているからで、私が税収を増やして人件費も増やせと言っているのを見落としているからである。民間の場合も、資本の取り分には手をつけずに、正規雇用の所得を減らして非正規雇用に回せという論法がまかり通っているが、これも労働分配率の引き上げを全く考慮していない。

 誹謗コメントに沿ってわかりやすく例示すれば、「1人の正規労働者を解雇して、その分で3人の非正規労働者を雇う」あるいは「1人の労働者の給与を3分の1に引き下げて、その分で労働者を3人に増やす」のではなく、あくまで「正規労働者として給与を引き下げずに3人雇え」ということである。それは現実的でないという批判が当然あろうが、現在の「貧困と格差」の本質は、要は「貴族」の取り分が増大した分、「市民」の中から「奴隷」に落とされる人々が大幅に増えた点にあり、「奴隷」という状態自体に問題がある以上、これは「貴族」の取り分を減らして「奴隷」を「市民」にしない限り解決することはない。1人の「市民」を減らして3人の「奴隷」が増えても意味はない。

 「引き下げ」論法は、残りの「市民」もすべて「奴隷」にしろということであり、「奴隷」状態が人間として許容できるかどうかは問わず、非「貴族」間の「平等」を夢見ているが、「市民」と「奴隷」の分断は「貴族」にとっての統治戦術でもあり、実際は「市民」が「奴隷」に引き下がっても「平等」は訪れず、「奴隷」ももっと引き下がり、今度は「新奴隷」と「旧奴隷」の差別が生じるだろう。そして「市民」の残りの取り分も「貴族」に吸収される。「引き下げ」競争は「貴族」の欲望が続く限り際限なく拡大する。「市民」にとっても「奴隷」にとっても「敵」は「貴族」=巨大資本・富裕層なのである(ただし「市民」による「奴隷」への差別・蔑視を免罪するつもりはない)。

 話がいささか抽象的になってしまったが、現実問題として、中小企業に限っては労働分配率の高止まりが続いており、これ以上正規雇用を増やすことは難しい。だからこそ余裕のある大企業に正規雇用化を義務付けると同時に、特に民間企業での正規採用が難しい年長の未熟練非正規労働者を公務員に優先採用しろ、福祉国家路線で行政の仕事を増やし公務員を増員しろ、というのが弊ブログのこれまでの主旨である。具体的に実現するための方法論は全くないので、いわば理想論にすぎないことは認めるが、少なくとも政策としての方向性くらい提示する権利はあるだろう。減税や歳出削減がその方向性に逆行するのは言うまでもない。私が「歳出削減でも消費税増税でもなく金持ち増税」を一貫して主張する所以である。
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by mahounofuefuki | 2008-10-04 23:32

非正規公務員の「ワーキングプア」化~貧困対策としての正規公務員増員政策の必要性

 弊ブログでは再三再四にわたり、「官の無駄遣い」というプロパガンダが行政機構の民営化・市場化を促進させ、結果として公的な社会維持機能を弱め、「貧困と格差」の拡大に加担していることを厳しく批判してきた。残念ながら肝心の左翼系の人々ですら「小さな政府」信仰が強く、私のような主張はほとんど軽視されているが、改めて行政のコストカットが何をもたらしたかを明示するニュースがある。

 共同通信(2008/09/29 21:00)より。
 自治労が29日発表した地方自治体職員の勤務実態調査で、臨時雇いや非常勤などの非正規職員が全体の27・8%を占めることが分かった。非正規職員の少なくとも67%は「年収200万円以下の官製ワーキングプア(働く貧困層)に該当する」とみられる。
 (中略)
 調査は、全自治体に6月1日現在の非正規職員数や待遇などについて質問。全体の53・1%に当たる23都府県と963市区町村から回答を得た。
 その結果、回答を得た自治体の職員107万1496人のうち、29万7571人が非正規職員だった。自治労は未回答の自治体を含めれば、「非正規職員は全自治体で50万人を超える」と推定している。
 非正規職員の収入に関しては「賃金の約65%は日給・時給型で、その70%超は時給(換算で)1000円未満。残りの月給型も約58%は16万円に届かない」といい、自治労は全体の67%が年収200万円以下と分析している。

 たとえば学校教員で臨時採用の比率が増大したり、職業紹介を担うハローワークで社労士資格を持った専門家でも短期契約の非正規職員だったり、従来は正規雇用が当たり前だった領域で非正規雇用への置き換えが進んでいるという話はよく聞くが、約28%というのは驚きである(国家公務員も同じようなものだろう)。民間の非正規比率はすでに3割を超えているが、多くの人々の思い込みとは裏腹に確実に「官民格差」は縮小(それも悪い方に)しているのである。

 雇用待遇差別問題に関しては、弊ブログは非正規雇用を正規雇用に転換させるよう方向付けることが必要だと指摘し続けているが、そう言いつつも企業が本質的に市場原理に基づく存在である以上、たとえ法的に義務づけても簡単には進まないという現実も認識している。それ故に民間企業の正規雇用が減少した分を、行政が正規雇用を増やすことでフォローするような政策が必要だと考えている。私がいつも公務員バッシングに反発し、行政コストの削減に抵抗し、過剰な「官」批判を強く非難するのも、ひとえに「ワーキングプア」問題、なかんずく「年長フリーター」問題は「未熟練労働者を公務員として優先採用する」くらいの行政の強力な支援なしには決して解決しないからである。

 最近、月刊誌『世界』で労働問題の専門家らが「若年雇用促進法」を提案し、特に「氷河期世代」の既卒求職者の採用を一定の割合で企業に義務付けるというアイデアを提示しているが、これは企業のみならず、むしろ政府や自治体にこそ率先して行わせるべき施策である。現実問題として再び景気が後退し、企業がまたしても雇用コストの削減に向かう中で、行政が公務員を増やすことで労働市場を広げることが必要である。「貧困と格差」に本当に向き合うのならば、増税してでも正規の公務員を増加させなければならない

 公務員の非正規化・貧困化の現況はそうした方向に完全に逆行する。しかも、非正規化が進んでいるのは、教育や福祉や医療といった領域が中心で、その点でも昨今の社会保障弱体化の流れと軌を一にしている。逆に言えば福祉国家路線に転換するには、まさに教育や福祉や医療といった分野で人員を増やさねばならない。この国では一方で福祉国家を訴えながら、同じ口で公務員の削減を唱える矛盾した行動を採る人が後を絶たないが、行政サービスを充実させたかったら、それに見合った人員が必要なのは本来子どもでもわかることだ。

 今回の調査対象はあくまでも法的な身分上の公務員に限られているが、最近の行政は公務員の非正規化とともに、民間企業やNPOなど外部への業務委託も増えており、身分上は公務員ではなくても実際には公的業務を担っている例も少なくない。こうした問題も含めて、改めて公務員の地位問題を思い込みや感情論を排除して冷静に検討する必要があるだろう。

【関連記事】
ハローワークさらに削減へ~公務員減らしは行政サービスを悪化させるだけ
「やりがい」さえあれば労働条件が劣悪でもよいのか?

【関連リンク】
地方公務員法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S25/261.HTM
巻頭特集 増える非正規労働者 [座談会] 公立保育職場の臨時・非常勤職員の現状 - 自治労通信2008年9・10月号
http://www.jichiro.gr.jp/tsuushin/732/732_01.html
*地方公務員法第22条が労働者派遣法と同じ問題を抱えていることがわかる。
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by mahounofuefuki | 2008-09-30 21:47

自民党も民主党も「貧困と格差」おいてけぼり

 福田康夫首相が退陣を表明した直後には、自民党は総裁選を「劇場化」して盛り上げ、その余勢で衆院を解散し総選挙を有利に運ぶだろう、というのが大方の見方だった。これに対し弊ブログでは、即効性のあるリーダー候補が枯渇していること、わかりやすい「既得権益の解体」というエサを用意できないことを根拠に、「劇場化」はうまくいかないだろうと分析した(福田内閣退陣と今後の政局に関する私見参照)。

 結果は周知の通り、自民党総裁選は麻生太郎氏圧勝という、しらけた「出来レース」となって盛り上がらず、メディアを使った小細工もほとんど焼け石に水だった。自民党の戦略の失敗には、「汚染米」転売問題の表面化やリーマン・ブラザーズ破綻にはじまる金融危機という総裁選どころではない一大事が影響してはいるが、これらはいずれも市場化・民営化を至上とする新自由主義路線の行き詰まりを示す出来事であり、もはや従来の政策路線の矛盾は小手先の「劇場」で覆い隠すことができないほど拡大していると言える。

 総裁選では当初3つの財政路線が提示されたが、一見対立するこれらは「いかにして巨大企業と富裕層の税負担を減らすか」という目的において共通し、「貧困と格差」に喘ぐ日本社会の処方箋とはなりえないものばかりだった。歳出削減による均衡財政を優先する「上げ潮」路線は、「官の既得権益」解体を称しながら、その実「庶民の既得権益」を解体し、その分で大企業・富裕層向けの減税を行う。消費税増税による社会保障財源捻出を目指す「財政タカ派」路線は、逆進税である消費税を社会保障に回す分、累進課税の直接税をこれまた大企業・富裕層のために減税する。そして赤字国債増発を辞さない「財政出動」路線は、要は金持ちからの借金で金持ち向けの「景気対策」を行い、そのツケを庶民に支払わせる。まさに巨大企業の代弁者としての役割を自民党は忠実に果たしているのである。

 このように政策論争としても、芸能的パフォーマンスとしても、自民党総裁選はお粗末な結果に終わったが、一方、この自民党に対峙している(ことになっている)民主党は、昨日の党大会で小沢一郎氏を代表に三選し、次期衆院選後の政権構想を明らかにした。自民党総裁選中、まるで自民党の宣伝機関に成り下がっていたNHKが、「偏向報道」批判に備えたアリバイづくりのために小沢氏の演説をテレビ中継したことで、むしろ民主党の方がある種「劇場化」の様相を呈した。

 弊ブログは再三にわたり、民主党が政府の社会維持機能を弱める「小さな政府」路線から決別していないこと、貧困解消政策に消極的なことを批判してきたが、ここでも小沢氏に全く反省の色はなく、「氷河期世代」の貧乏人としては完全な「おいてけぼり」感をくらわされた。財政については相変わらず「無駄遣いをなくす」の一点張り。同じように「無駄遣い」と言いながら庶民のための公的給付を減らし続けた小泉政権を思い出す。独立行政法人の整理などまるで新自由主義者ばりの主張で、市場化・民営化路線以外の何ものでもない。重点政策として、高速道路無料化、農業者個別所得補償、子ども手当の3点を挙げたが、いずれも中間層向けの「目先のエサ」的施策で、貧困層の生活水準を引き上げる効果は薄く、この党の立脚する階層がどこにあるか如実に示している。先の参院選で公約した最低賃金の引き上げはどこへ行ったのか過労や雇用待遇差別は?

 この期に及んでも、自民党も民主党も「貧困と格差」には本気で取り組む意思がないことは明らかだ。税制の累進強化による所得再分配と生活サポートのための公的領域拡大を封印し、労働環境の不条理をなくすための具体策を提示できないうちは、全く話にならない。改めて「貧困と格差」解消を目指す人々が採るべき政治行動が何であるかを再確認した。
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by mahounofuefuki | 2008-09-22 13:00

厚労省の労働者派遣法改正案はやはり「抱き合わせ」だった

 労働者派遣法の改正作業を巡って、弊ブログでは以前から、「日雇派遣」では規制強化を行う一方で、直接雇用申込義務の廃止や派遣期間の規制緩和などを盛り込む「抱き合わせ」の「改正」を警戒するべきであると指摘してきたが、今月12日の労働政策審議会(労政審)労働力需給部会に厚生労働省が提示した報告書案は、まさに恐れていた通り規制強化と規制緩和の「抱き合わせ」の内容であった。

 報告書案は厚労省のホームページに昨日アップされていたが、読んでびっくり。先日の一般向けの報道では「日雇派遣」許容業種が18に限定されたことばかりが強調されていたが、実際にはそれすらも完全に骨抜きが可能な内容であり、さらにどさくさに紛れてとんでもない規制緩和策が盛り込まれているのである。

 労働力需給制度部会 報告(案)*PDF
 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0912-3a.pdf

 「日雇派遣」に関しては、1999年の派遣全面解禁以前から派遣が認められていた26業種よりも狭い18業種に限定するとなっているが、そんな表向きの制限条項を事実上無効にする一文が盛り込まれている(太字強調は引用者による)。
 「日雇派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認める」・・・「これ以外の業務については専門性があり労働者の保護に問題のない業務のリスト化など、適宜リストの見直しを行う
 政令!? 「日雇派遣」が可能な業種を法律ではなく政令で定めるというのである。これではいくら法律で規制しても、政府が「専門性があり労働者保護に問題ない」と判断すれば(その基準は不明瞭)、法改正なしにいくらでもリストに業種を追加できる。これは当初言われていた「日雇派遣」原則禁止方針を事実上骨抜きにするものである。

 これだけではない。もっと重大な規制緩和案が提示されている。常用型派遣の直接雇用申込義務を廃止するというのである。
 「期間の定めのない雇用契約の派遣労働者について、労働者派遣法第40条の5(雇用契約申込義務)の適用対象から除外することが適当である」
 周知の通り、現行法では派遣3年で派遣先に直接雇用申込義務が課せられており、それ故に主に製造業を中心に「2009年問題」(偽装請負から派遣に切り替えた労働者の多くが来年3年の期限を迎える)が起きているが、この問題で厚労省は財界言いなりの案を出してきたのである。

 先の国会で政府は派遣が一時的・臨時的な雇用形態であると改めて答弁していたが、報告書案のこの条項は、常用型派遣の正規雇用化を否定し、派遣の常用雇用代替機能を容認しているのである。これでは派遣は永久に派遣のままで決して直接雇用にはなりえず、そもそも労働者派遣法改正議論のきっかけとなった「ワーキングプア」を放置するに等しい。

 すでに「2009年問題」に対しては、厚労省指針の「クーリング期間」規定を悪用し、派遣期間3年になると取りあえず直接雇用に切り替えるが、3か月で再び派遣に戻すという脱法的なやり方で乗り切ろうとする企業が続出している。今こそはっきりと実効力のある直接雇用化を法的に義務づける必要があるのに、厚労省は労働者に背を向け、派遣法の制度的根幹を改悪しようとしているのである。

 常用雇用の代替機能の強化という点では次の条項も見逃せない。
 「期間の定めのない雇用契約の派遣労働者について、特定を目的とする行為を可能とする」
 要するに常用型派遣に関して派遣先の「事前面接」を解禁するというのである。これも以前から企業側が要求していた規制緩和策で、実際にはすでにさまざまな「抜け道」の方法で行われているが、こうした違法状態を既成事実として追認していると言えよう。特定の労働者を採用するのならば、当然それは直接雇用でなければならない。派遣はあくまで派遣先と派遣会社との間の契約であるにもかかわらず、派遣先が契約関係のない労働者の選別を行うなど矛盾以外のなにものでもない。

 報告書案には規制強化の条項もあるが、そんなものは吹き飛んでしまうほどの、とんでもない改悪案である。経営者側(特に派遣会社)はこれでも不満でいろいろと注文をつけているようだが、こんな内容では労働側としても葬り去るしかない。次の臨時国会が解散になれば、派遣法改正は先送りなるが、いずれにせよこんな「改正」を許してはならない。
 改めて先の国会で野党の改正案がまとまらなかったことが悔やまれる。労政審では経営者サイドの委員が入るので、どうしても折衷案になってしまう。やはり国会が主導して派遣労働者の地位を強化し、保護する法改正が必要である。日和見の態度をとった民主党には改めて猛省を促したい。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集
派遣労働見直しへのバックラッシュと「抱き合わせ」改正への警戒
厚労省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」報告書は不十分

【関連リンク】
厚生労働省:第120回労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会資料
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/s0912-3.html
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by mahounofuefuki | 2008-09-17 00:05

「やりがい」さえあれば労働条件が劣悪でもよいのか?

 日本社会では戦後労働運動に相当な威力があり、企業経営にも余力があった時でも、労働三法が骨抜きにされ、欧米に比べて労働条件は悪かったのだが、そこへ市場原理を絶対的に信奉する新自由主義が流入したことで、ただでさえ劣悪な労働環境がますます悪化し、今や無法状態なのは周知の通りである。

 その決定的な要因は、労働者を人間ではなくモノとみなし、雇用が商取引化していることにあるが、こうした人間本来の生理に反するやり方に適応できない人々が、営利目的の企業を離れ、NPOに活路を見出す例も少なくない。新卒ルートからはじかれた「氷河期世代」が居場所を求めて働く場合もあろう。このNPOで働く人々、特に比較的若い世代の労働実態について、産経新聞の武部由香里記者が興味深い記事を書いている。

 NPO法人で働く若者 低賃金でも楽しい 給与、労働条件・・・厳しい側面も - MSN産経ニュース
 http://sankei.jp.msn.com/life/lifestyle/080905/sty0809050742000-n1.htm
(前略) NPOで働く若者は、企業で正社員として就職している同世代よりも低収入だが、仕事内容への評価が高い-。こんな調査結果を、第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部副主任研究員の北村安樹子さんが公表した。調査は、NPOで働く20~39歳の男女313人と、企業で働く2128人に行った。
 結果は、NPO従事者の8割が活動を通じて収入を得ており、無給の人も含めた平均年収は約160万円年収300万円未満の人が3分の2以上を占めた。一方、仕事の評価は「内容がおもしろい」(91・7%)、「能力がいかせる」(86・8%)と多くの人が満足している。
 この結果は、企業で働く社員と比べ収入面では低いが、仕事に対する評価は高い。また、アルバイトなど非正規社員と比べると収入も仕事に対する評価も高い
 ただ、若者を有給で雇用できるNPOは事業規模が大きいところにほぼ限られている。北村さんは「企業ではNPOのように刺激的でおもしろい仕事にかかわれる機会が少ない。しかし、若者を雇用する力があるNPOは多くはなく、雇用しても高い給与は払えないのが現状だ」と指摘する。(後略) (注―太字強調は引用者による。)
 平均年収160万! しかも第一生命経済研HPの当該レポートを読むと、調査対象のNPOは「全国の平均的なNPOに比べて財政基盤が安定したところが多いという特性をもつことに留意する必要がある」と述べられていて、実際は下方修正する必要があることが示唆されている。一般に労働時間が企業労働者より短いこと、兼業者や無給のボランティアがいることなどを差し引いても、いくら何でも安すぎである。これは新たな「ワーキングプア」と言ってもさしつかえあるまい。

 それにもかかわらず仕事内容そのものの満足感は高い。レポートの当該部分によれば、「仕事の内容がおもしろい」「能力が生かせる」「信頼できる上司がいる」の3項目で8割以上の高率である。一方、「雇用が安定している」「福利厚生が充実している」「給料がよい」といった項目では企業の正規労働者を下回る。下回るといっても、企業労働者の満足度も決して高くはなく(「給料がよい」は3割強ほど)、かえって現在の企業の労働環境の悪さが露呈しているのだが、それでも経済的条件という点で、多くのNPOの労働者の立場が企業労働者に比べて不安定であることは確かだろう。

 「やりがい」「自己実現」「社会貢献」などと「安定収入」が両立しえないということを所与の絶対的条件とするならば、「やりがいがあれば低賃金でもいい」ということになるし、逆に「高い収入を得るには不条理な労働環境でも我慢する」ということになり、多くの人々がそう考えているのかもしれないが、果たしてそれでいいのか?という疑問が拭えない。「雇用の安定」や「福利厚生」という、本来は労働者にとって当然の条件を、「やりがい」やら「自己実現」なるもので相殺できるのか、という問題がここにはある。

 私などが不安を覚えるのは、1990年代、まさにその「やりがい」や「自己実現」という観念が、新卒→正規雇用というルート以外に自己に適した道があるのではないかという期待をもたせ、「自分探し」の流行と合わせて、結局は財界による正規雇用の非正規雇用への置き換えを促進する役割を果たしたことを想起させるからである。また「やりがい」さえあれば低賃金でも長時間労働でも、あるいは社会保障がなくても構わないという考え方が広がることも心配である。

 もう一点、NPOと言ってもピンからキリまであり、特に事実上行政の「下請け」となっていたり、非営利を称しながら実際は営利の企業と変わらない場合も少なくないことを指摘しなければならない。実際、本来は行政が直接行わなければならない業務を、財政難を理由に安く外部委託するのにNPOが利用される例が後を絶たない。たとえば私が行きつけの公立図書館は業務のほとんどをNPOに委託していて、図書館の司書の多くが自治体の直接雇用ではなく、年限契約の有期・間接雇用である。行政がNPOを使って公務員の事実上の非正規化を進め、不安定雇用の拡大に手を貸しているのである。「行政の無駄を減らせ」とか「公務員を減らせ」とか唱えている人々に是非とも知って欲しい事実である。

 また、最近「NPOワーカーズコープはNさんに謝罪せよ」というブログからTBをいただいた。以前弊ブログで「協同労働の協同組合」について書いた折に紹介したNPO「ワーカーズコープ」が運営する名古屋のNPOセンターで、不当解雇やパワハラが起きているという。この問題は「JanJan」が詳しく報じているが(関連リンク参照)、本来人間をモノのように扱う働かせ方へのアンチテーゼとしての意味合いをもっていた労協において、企業と同じような矛盾が起きているようである。これなどNPOの「行政下請け」化と「企業」化の典型例であろう。

 以前のエントリで、「協同労働の協同組合」について「雇用者と被雇用者」という関係がないというのは注目に値すると指摘したが、このことは実態としては被雇用者であっても、法的には労働者とは認められず、労基法をはじめとする労働法制が適用されない恐れがあることを意味する。「協同労働の協同組合」法制化やNPOの地位強化にあたって、働く者の権利をはっきりとさせないと、労働法制の解体を促進することすら予想されよう。

 ところで、前記産経の記事で見過ごすことができない一節がある。「アルバイトなど非正規社員と比べると収入も仕事に対する評価も高い」。つまり企業の非正規雇用は、正規雇用のみならず、NPOに比べても低収入で、なおかつ「やりがい」もないのである。「収入はそこそこあるがやりがいのない正規雇用」「低収入だがやりがいはあるNPO」「収入も低くやりがいもない非正規雇用」という階層性が見事に現れている。NPO対象の調査からも、非正規雇用の劣悪な状態が浮き彫りになっているのは、非常に重い事実である。

【関連記事】
「協同労働の協同組合」法制化の動き

【関連リンク】
北村安樹子「NPOにかかわる若者の働き方と仕事観」(『ライフデザインレポート』2008年3-4月)- 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部*PDF
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dlri/ldi/report/rp0803.pdf
NPOワーカーズコープはNさんに謝罪せよ
http://workerswho.blog95.fc2.com/
『KY解雇』が発生?名古屋市の施設の指定管理者交代のその後 – JanJan
http://www.news.janjan.jp/area/0806/0806130507/1.php
労働法軽視「偽装経営者」の温床になるか?市民会議提案の労協法案を考える – JanJan
http://www.news.janjan.jp/living/0809/0808315930/1.php
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by mahounofuefuki | 2008-09-07 15:51

「日本版デュアルシステム」で「ネットカフェ難民」対策ができるのか

 これまで弊ブログの労働者派遣法改正問題や『労働経済白書』のエントリで述べたように、昨年末くらいから厚生労働省の労働政策は従来の規制緩和路線を修正しはじめており、最近は「貧困と格差」の是正を目指す施策の準備も伝えられている。その方向性は歓迎すべきことなのだが、問題は出てくる施策が既存の行き詰った制度を「転用」しようとするものばかりで、実効性が疑われることである。

 たとえば「ネットカフェ難民」への「自立支援」策。読売新聞(2008/08/23 14:54)によると、雇用・能力開発機構の「日本版デュアルシステム」受講を条件に、月15万円を住宅・生活費として事実上給付する制度を準備しているようだが、この施策については以下のブログ記事がその実効性の欠如を厳しく批判していている。

 150人分の予算 - 非国民通信
 http://blog.goo.ne.jp/rebellion_2006/e/47ea7402610f1300a8e781626237a493
 政府は何も分かっていない - アフガン・イラク・北朝鮮と日本
 http://blog.goo.ne.jp/afghan_iraq_nk/e/9f9c7e5024238b7cfd33848660b1cf80

 私から付け加えるとすれば、そもそも「ネットカフェ難民」に受講させようとしている「日本版デュアルシステム」自体がもろもろの問題を抱えている。「デュアルシステム」とは元来ドイツの伝統的な職業訓練システムで、「16歳から18歳の若年者(高校段階)が職業学校の教育と企業内訓練を並行して受講し、修了試験を経て職業資格が付与される。技能の高いマイスター制度を支え、とりわけ高度の職人、熟練工を育成する」ものだが(『日本労働年鑑』第74集、2004年版による)、日本版では専門学校等での座学と企業での職業実習の併用という点は共通するものの、本来は学生向けの職業教育である制度をもって失業者や無業者や非正規労働者の就労対策に充てようとしているため、重大な齟齬が生じている。以下の論文がその問題点を明らかにしている。
(前略)
 厚生労働省は、(独)雇用・能力開発機構を通じてデュアルシステムを実施している。こちらはフリーター対策を主目的としており、おおむね35歳未満で不安定な職業に就いている者や失業している者が対象である。したがって、キャリア教育というより、就業支援か職業訓練といった方が適切である。(中略)
 (独)雇用・能力開発機構では、4カ月から6カ月の短期のデュアルシステムも実施しており、この場合に座学(講義)を担当するのは、民間の専修・専門学校である。通常は、学校での講習が終了した後、1カ月から3カ月の実地訓練が企業で行われる。(中略)
 デュアルシステムにおける訓練の場は、学校と企業である。したがって、デュアルシステムが成立するには企業の協力が欠かせない。ドイツでは企業が職業訓練を行うことは、企業がもつ社会的責任の一つであると認識されているが、日本にはそのような認識はない。(中略)
 しかし、大企業はデュアルシステムに関してまったくといってよいほど関心をもっていない。(中略)大企業は高卒者をコストをかけて採用・育成するよりは、派遣社員や請負社員を活用した方がよいと考えているためであろう。あるいは高卒が必要だとしても独力で採用できるため、デュアルシステムに興味がないのかもしれない。(中略)
 デュアルシステムに中小企業は不可欠であるとしても、中小企業にとってデュアルシステムに協力することはどのようなメリットがあるのだろうか。少なくとも金銭的にはメリットよりデメリットの方が大きい。高校で行われているデュアルシステムの場合、協力企業に対する謝礼は一切ない。職業能力開発大学校等で行っているデュアルシステムの場合は、受け入れ企業に対して訓練生1人につき月24,000円(消費税別)の範囲内で委託費が支払われるが、訓練生に相応の技術をもった人、たとえば工場長や経営者が指導するとなれば、その間彼らは自分の仕事ができない。実際、経営者自らが残業するなどによって訓練時間を捻出している企業もある。それが1カ月も2カ月も続くとなれば、企業の費用負担は無視できないほど大きくなる。訓練によって失われる収益機会は多少の委託費ではカバーされない。(中略)
 (独)雇用・能力開発機構が行っているデュアルシステムも、就職を考慮して訓練先を選択するとはいえ、受け入れた訓練生が就職する保証があるわけではない。(後略) (竹内英二「キャリア教育における中小企業の役割 ―日本版デュアルシステムを中心に―」、国民生活金融公庫『調査季報』2008年2月号より、太字強調は引用者による)
 要するに公的支援が不十分で民間への丸投げなので企業負担が大きく、大企業からはそっぽを向かれ、何よりも「訓練生が就職する保証があるわけではない」のである。しかも、訓練中でも雇用契約が結ばれるドイツとは異なり、日本ではその間は労働者という扱いではないので失業者同様、雇用保険で生活するしかない(雇用保険未加入者は無収入になる)。

 最新のデータを見つけることができなかったので、少し前のデータになるが、2004年度の訓練生の就職状況をみると、正規雇用は49.5%、派遣が15.8%、パート・アルバイトが34.7%となっている(厚労省「日本版デュアルシステムの今後の在り方についての研究会」報告書より)。「デュアルシステム」受講者の過半数が非正規雇用というのは、現在の全雇用の正規・非正規比率(約2:1)を考慮すればあまりにも多すぎる。これを「ネットカフェ難民」の就労対策に転用しても、貧困の解消につながるとはとうてい思えない数字である。

 そして周知の通り、雇用・能力開発機構は現在、独立行政法人「改革」の標的となっていて、昨日の行政減量・効率化有識者会議は同機構の廃止方針を決定した。報道によれば、厚労省は同機構の廃止に抵抗しており、今月中旬にもまとめる予定の厚労省サイドの改革素案では、同機構が行う職業訓練は「年長フリーターやワーキングプアの問題に対応するための雇用のセーフティネット」だと強調するという(朝日新聞2008/09/03 22:43)。「ネットカフェ難民」対策に「日本版デュアルシステム」を転用する真の理由はこれで明らかだろう。注目される社会問題である「ワーキングプア」対策を盾に、機構の存続を図ろうとしているのである。つまり、雇用・能力開発機構の存続こそが目的で、「ネットカフェ難民」対策はそのための手段なのである

 もちろん弊ブログは昨年来一貫して独立行政法人の民営化に反対しており、今回の件も確かに雇用・能力開発機構は多くの問題を抱えているが、民営化や地方委託では単なる行政の責任放棄でしかなく、公共職業訓練はしっかりと国の業務として行われるべきであると考えている。だからこそ厚労省には小細工ではなく、はっきりと憲法第25条に従って最低限の生活を保障するという観点から貧困対策を打ち出して欲しいのだが、実際は貧困問題を専ら就労対策でカバーする一方で、その就労対策自体が生活保護などのセーフティネットを弱める役割を果たしている。自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠氏は次のように指摘している。
 (前略)東京ではそれ(引用注―野宿者の「自立支援事業」の失敗)に対して2004年からテント対策として新事業を始めました。テントを潰すかわりにアパートに入れるという施策ですが、生活保護が保障するラインより下に、行政自身がネットをつくっている面があります。生活保護の下方修正ではないかというのが私の評価で、それはネットカフェ難民対策として打ち出した東京都のチャレンジネットも同じ性格を持っています。これがどう運用されるのかといえば、生活保護の相談に行った人が、「ネットカフェの人はこっちの施策を利用してもらうことになっている」などと言われて、そっちに流されてしまうのです。(後略) (生田武志・湯浅誠「貧困は見えるようになったか」『世界』2008年9月号より、湯浅の発言、太字強調は引用者による)
 東京都の「ネットカフェ難民」支援事業については、以前弊ブログで比較的高い評価をしてしまったことがあるが、湯浅氏の言葉で目が覚めた。東京都の事例が生活保護基準の実質的な下方修正ならば、似たような事業である今回の厚労省の支援策も、生活保護申請を却下する口実に使われる可能性が高い。

 考えてみれば「月15万円」という額は微妙である。東京都の場合、30代の単身者の生活扶助給付額がだいたい最大で月13~14万円くらいだから、一応ぎりぎり保護基準を上回ってはいるが、職業訓練受講にあたってどの程度自己負担があるのか不明だし(たとえば教材費や交通費は給付に含まれるのか否か)、生活保護受給者が受けられるさまざまな減免措置がないことを考慮すれば、実質的には生活保護基準を下回る可能性もある。これは法的にも問題である。

 シミュレートしてみよう。「ネットカフェ難民」に生活保護を受けさせないために、「日本版デュアルシステム」を利用した新事業へ回す。「非国民通信」が指摘するように150人分の予算しかないとすれば、新事業を利用できる人は限られるので選別される。選ばれなかった人は「難民」のままである。運よく選ばれると、生活保護基準ぎりぎりか、それを下回る水準の現金給付を受けながら、指定された専門学校へ通い、協力企業で職業訓練を受ける。すべて終えても安定雇用に就ける保障はなく、過半数が非正規雇用になる。「ネットカフェ難民」だった履歴があること自体不利に働くのに、具体的な就職支援はない。再び不安定雇用にしかありつけなくとも、受講終了と同時に給付は打ち切られる。その時点で、家賃を支払えるだけの収入がなければ、再び「ネットカフェ難民」へと戻る。政府は「やるだけのことはやったので、後の貧困状態は自己責任」とうそぶく。これでは貧困解消に程遠い上に、政府に貧困対策を行わない口実すら与えかねない。

 抜本的な貧困対策としては、生活保護基準以下の収入しかもたらさない状態を一切認めず、それらをすべて公的給付でフォローしなければならないが、先日弊ブログで紹介した、生活保護行政の担当者がホームレスに生活保護基準を下回る住み込みの派遣の職を斡旋していた事例のように、行政は今も生活保護の骨抜きを続けている。貧困解消にあたっては就労対策に限定するのではなく、実効性のあるセーフティネットの確立が必要不可欠である。そのためには「小さな政府」だの「ムダ・ゼロ」などやめて社会保障費の大幅増が必要であることも自明であろう。

【関連記事】
生活保護行政が「生活保護以下」の職をあっせんする矛盾

【関連リンク】
厚生労働省:日本版デュアルシステムホームページ
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/syokunou/dual/index.html
厚生労働省:「日本版デュアルシステムの今後の在り方についての研究会」報告書について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/11/h1129-3.html
独立行政法人 雇用・能力開発機構
http://www.ehdo.go.jp/
法政大学大原社会問題研究所_若年労働者の就業促進に向けての対策 [日本労働年鑑第74集057]
http://oohara.mt.tama.hosei.ac.jp/rn/2004/rn2004-057.html
竹内英二「キャリア教育における中小企業の役割 ―日本版デュアルシステムを中心に―」、国民生活金融公庫『調査季報』2008年2月号*PDF
http://www.kokukin.go.jp/pfcj/pdf/kihou2008_02b.pdf
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by mahounofuefuki | 2008-09-04 20:33

生活保護行政が「生活保護以下」の職を斡旋する矛盾

 これは毎日新聞のスクープと言っていいだろう。札幌市に生活保護を申請したホームレスに対し、市職員が申請を認めなかった上、北海道外の派遣会社を紹介し、ホームレスが派遣先では極めて劣悪な条件で搾取されていたことが明らかになった。
 毎日新聞(2008/09/01 02:30)より(太字強調は引用者による、以下同じ)。
 札幌市内の一部の生活保護担当職員が、無届けの職業紹介を禁じた職業安定法に違反して、生活保護を希望するホームレスに人材派遣業者での就労をあっせんしていたことが分かった。紹介を受け派遣契約を結んだところ、劣悪条件の勤務を強いられてトラブルになったケースもあり、07年初めごろまでにはあっせんをやめたとされる。市は事実を認め「現在は指導を徹底し再発防止に努めている」と説明している。
 支援団体「北海道の労働と福祉を考える会」などによると、生活保護申請の相談をするため06年ごろに北区や中央区役所を訪れたところ、職員から「認められない」と言われた。職員は東京都新宿区と愛知県刈谷市の派遣業者2社の連絡先などを手渡し「本州で勤務することになるが、この会社なら住所がなくても働ける」と説明。職員が自ら連絡したケースもあった。
 2社の派遣先は東海地方の機械部品工場など。派遣業者が用意した寮に入居して勤務したところ、事前の説明と異なり給料から毎月計十数万円の寮費や光熱費、食費、旅費などが引かれ手元にほとんど残らなかった
 出勤も不定期で、仕事がないと寮費だけがかさみ、赤字になることもあった。「役所がこんな会社を紹介していいのか」と市に抗議した人もおり、相談を受けた考える会などが「職安法違反にあたる」として再三中止を申し入れていた。(後略)
 記事中にあるように、職業安定法は職業斡旋事業について有料・無料にかかわらず厚生労大臣の許可を要件としており、これは行政機関も例外ではない。生活保護行政を担当する公務員がこんなことも知らないはずはなく、生活保護申請者を「窓口」で追い返す「水際作戦」(=生活保護行政の職務放棄)の延長上にある悪質な違法行為とみて間違いないだろう。

 自治体としては受給額削減がノルマ化する中で、どんな手を使ってでも申請者を追い返したい。厚労省も「働けるものにはまず就労指導」という方針を指示している。もともとは「生活保護を受けさせてください」→「働けるだろ」→「働くところがありません」→「それなら紹介してやる」という流れがあったと思われる。一方、企業の側も安く使える労働者が欲しい。ホームレスならどんな扱いをしても構わない、むしろ働く機会を与えてやっているという思い上がりを背景に、派遣会社の方から生活保護行政担当者にホームレスを紹介するようアプローチがあったのだろう。生活保護行政と企業の利害は見事に一致する。

 ただ水際で追い返すよりは、職を紹介するだけましだろうという見方もあるだろうが、法令違反を別としても、それはあくまでも「生活保護以上」の収入が保障された職を紹介しない限り成立しない。本来、生活保護基準は日本社会で生きる上で「最低限」のラインであって、それを下回る場合には無条件で給付を行うのが正道である。生活保護行政が「生活保護以下」の職を紹介するのは矛盾以外のなにものでもない。問題の所在は「ホームレスが働かないで生活保護を受ける」ことではなく、「生活保護基準以下の職にしか就けない」ことにある。貧困対策にあたらねばならない行政が自ら貧困拡大に加担する構図には呆れるほかない。

 ついに行政までが「手配師」まがいのことをするような実態に戦慄を覚える。今回の事例は行政と企業が結託した「奴隷取引」同然である。行政担当者と企業との間に金銭が介在している可能性もあるのではないか? おそらく札幌市以外でも類似の事例があるはずだ。全国的な調査が必要である。

【関連記事】
生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策
生活保護基準引き下げは小泉が与えた「宿題」
あるホームレスの死
生活保護と生存権
社会保障切り捨て路線の是非と生存権裁判

【関連リンク】
職業安定法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S22/141.HTM
生活保護法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S25/144.HTM
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by mahounofuefuki | 2008-09-01 11:23

八代尚宏の日雇派遣禁止反対論に反駁する

 引用(「」内の文)はすべて、八代尚宏「経済を見る眼」(『週刊東洋経済』2008年8月16・23合併号)より。逐次批判する(赤字の文)。

 「日雇い派遣には労働安全上の問題が多いというが、そうでない職場も多い。危険な業務についてのみ禁止ではなく、専門業務以外は原則禁止することは、現在従事している労働者の利益を損なうだけである。」
 →日雇派遣の問題は「労働安全上の問題」だけではない。何よりも中間搾取による低賃金と短期契約に伴う生活の不安定が問題なのである。故に「労働安全上の問題」のない職場はそのままでよいということにはならない。

 「日雇い派遣を不安定な働き方として禁止しても、正社員の仕事が増えるわけではない。代わりに日雇いへの職業紹介と給与処理代行業務との組み合わせになるだけであり、労働者に何の利益があるのだろうか。」
 →「日雇いへの職業紹介と給与処理代行業務との組み合わせ」を法的に規制すれば済むことである。現行制度のままで労働者に何の利益があるというのか。

 「規制強化論者は、普通の日雇いになれば派遣会社のマージン分だけ賃金が上がるという。しかし、逆に派遣先の企業はなぜ直接雇用して高いマージン分を節約しないのか。それは短期雇用では、自ら募集や面接・賃金支払いをするコストのほうが高いと考えているためで、派遣禁止で賃金が上がることは期待できない。」
 →派遣先が直接雇用しないようになったのは、労働者派遣法が改悪を重ねて派遣労働が原則自由になったからであり、そもそも法が派遣労働を厳しく規制していれば、「自ら募集や面接・賃金支払いをするコスト」をいやでもかけざるを得ない。また「賃金が上がることは期待できない」という言は、次の事実が否定している。
(前略) 日雇い派遣労働者だった男性は(32)は廃業発表のニュースを苦々しい思いで見た。
 4年前に就職しようと上京したが、「ついずるずると」日雇い派遣で暮らしてきた。今年1月、グッドウィルの事業停止を機に、派遣先の企業のアルバイトになった。日雇い派遣の時は日給7250円。雇用先は人材を確保したいからと、グッドウィルに払っていた派遣料金1万2千円を男性に支払うことにした。
 その結果、手取りは月18万円から30万円に。給与明細を見るたびに思う。「こんなにグッドウィルに取られていたのか。アホらしい」。(後略) (朝日新聞2008/07/11朝刊、太字引用は引用者による)
 「日雇派遣」が直接雇用のアルバイトになるだけで、これだけ賃金が違うのである。「日雇派遣」を禁止しても求人がなくなるわけではない。

 「むしろ短期間の直接雇用では、雇用主が頻繁に変わることの不利益のほうが大きい。現に6カ月未満の派遣契約者の内、4分の1が有給休暇を得ている。これは派遣先がたびたび変わっても、雇用主が同じであれば義務づけられるためで、雇用保険や社会保険にも入り易くなる。」
 →「4分の1が有給休暇を得ている」ということは「4分の3は有給休暇を得ていない」ということである。少数例をもって多数例を無視するのはどうか。「雇用保険や社会保険にも入り易くなる」とのたまうが、実際はこれら保険に加入していない派遣会社が山ほどある実態をどう説明するのか。

 「厚生労働省等の調査によっても、派遣労働者の大部分は、拘束性の強い正社員の働き方と比べて、職種や働き場所を選べ、残業も少ない派遣の働き方を積極的に求めている。また、派遣会社の社員が加入する人材サービスゼネラルユニオンの調査でも、現に日雇い派遣に従事している人たちの内、都合のつくときだけ働ける仕組みに満足している者が多数である。残りの人にとっても、選拓肢が狭まり得になるわけではない。」
 →『2008年版労働経済白書』本文図表基礎資料によれば、短期派遣労働者に「今後希望する雇用形態」を問うたところ、「現在のままでよい」と回答した割合は45.7%で半数に満たない。それもここでいう「短期派遣労働者」には、学生や主婦のような日雇派遣のみで生計を立てているわけではない人も含む。これでは「大部分」とはとうてい言えない。

 「派遣に関しては経営側が自由化を、組合側が規制を求める『労使対立』の問題と考えられているが、肝心の派遣労働者の組合は『派遣は諸悪の根源ではない』と禁止に反対している。派遣問題の核心は正社員と非正社員との間の『労労対立』にある。」
 →「派遣ユニオン」や「ガテン系連帯」や各派遣会社のユニオンの多くが日雇派遣禁止はもちろん、短期派遣や登録型派遣の禁止を主張している。御用労組の主張のみをもって「派遣労働者の組合は・・・禁止に反対している」という言はあまりにも独善的である。派遣問題の核心は、資本家が労働者を人間ではなく、まるで部品のように扱っていることの是非である。「労労対立」を仕組んでいるのは資本サイドにほかならない。

 八代氏の立論は「日雇派遣」禁止以外は現行制度を継続することを前提としている。逆に言えば、派遣労働規制にあたっては「日雇派遣」禁止だけでは全くもって不十分であり、あくまで直接雇用・無期雇用の原則を法的に担保し、なおかつ実効性を伴った厳しい規制強化が必要であることをかえって如実に示している。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集
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by mahounofuefuki | 2008-08-26 23:06

奨学金の返済延滞2200億円くらい国庫で負担しろ

 国の奨学金返済の延滞額が増え続けているという。
 共同通信(2008/08/23 16:28)より(太字強調は引用者による)。
 国の奨学金の返済延滞が増えている。返済が3カ月以上止まっている延滞額の合計は2007年度末で、2253億円(元金残高ベース)と前年度末に比べて179億円増加、全体の7・0%を占める。
 返済できない理由として低所得や無職・失業を挙げる人が多く、卒業後に安定した職業が見つからないなど若者の雇用環境の悪化が背景にある。ただ、国の税金で穴埋めを強いられる可能性があることから、財務省は事業主体の日本学生支援機構に回収を急ぐよう求めている。(後略)
 全労働者の3分の1以上が不安定な非正規雇用であることを考えれば、奨学金返済の延滞が増えるのは当然である。現行の奨学金制度の返済の仕組みは、毎月連続で支払うのが基本で、新卒→終身雇用を前提としており、途中で職を失ったり、月によって所得が不定だったりすると、途端に延滞してしまう。「貧困と格差」の拡大の象徴的事例である。

 私もそうだが、「氷河期世代」の比較的貧しい階層の出身者にとってとかくやりきれないのは、奨学金を借りながら高校や大学に何とか通い、そこそこの成績で出たにもかかわらず、就職戦線でこぼれ落ちて正規雇用に就けなかったり、運よく正規雇用に就けても過労や低所得や劣悪な待遇に耐えられずドロップアウトしたり、務めていた企業が倒産したりして、結局は「ワーキングプア」になっていたということが普遍的な人生になっていることである。この層はただでさえ不安定・低収入なのに、国民健康保険やら国民年金やら住民税やら各種の公共料金はきっちり定額で支払わなければならない。その上に奨学金の返済など無理な話である。

 ただでさえ奨学金を受けなければならないほど、経済的に苦しい学生時代を送らされたあげく、さらに社会人になってもその返済で苦しめられることに不条理を覚える。安定雇用が「狭き門」の時代にあっては、奨学金を受けるような階層であること自体が、就職に不利に働く。子どもの頃には塾や予備校に通って教育水準の高い学校に入り、血縁・地縁をはじめとする諸々のコネと世渡りのノウハウに恵まれた金持ちたちと同じ土俵で勝負などさせられては、貧乏人に勝ち目はない。前借金としての奨学金を得ても、まともな仕事に就ける保障がない以上、あえて誤解を恐れず言えば、現代の奨学金(返済のいらない給付奨学金を除いて)は一種の「貧困ビジネス」と化している。

 政府は法的措置を含め、回収に躍起になっているようだが、延滞者の多くがカネを支払えないような経済状況にあるのは、これまでの国の貧困拡大政策に起因する以上、返済を免除し、国庫で負担するべきである。「たったの」2253億円である。ちょうど同程度のアメリカ軍への「思いやり予算」をやめれば賄えますよ。

【関連記事】
学歴と結婚と階級社会
貧困のために学費を減免されている公立高校生は22万4000人
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by mahounofuefuki | 2008-08-25 22:34