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田母神問題で明かされた自衛隊の歴史修正主義教育

 今日の参議院外交防衛委員会で、前航空幕僚長の田母神俊雄氏に対する参考人質疑が行われた。テレビ中継がなかったため、国会のインターネット中継にアクセスが殺到し視聴しにくい状況になったほど、人々の関心は高かったようである。「懸賞論文」問題の表面化以来、事実上田母神氏の作文を擁護する報道を繰り返してきた産経新聞が早速速記録を出しているが、同社の電子版はページ分割が多くて読みにくいうえ、いつ消えるともしれないので、同内容が転載された別サイトをリンクする。

 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(1)(2)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1578.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(3)(4)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1583.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(5)(6)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1584.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(7)(8)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1585.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(9)(10)(11)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1586.html

 改めて整理すると、田母神「論文」の一次的な問題は、①空幕長という要職にある者が、通常の歴史学では全く顧みられることのない根拠薄弱な妄説を盲信し、内容・形式ともに「論文」というには稚拙で粗末な作文を応募したこと、②憲法遵守義務があり、文民統制に服さねばならない自衛官でありながら、「論文」を通して憲法を否定する言動を行うという政治活動を行ったこと、③田母神氏の肝いりで航空自衛隊が組織的に特定の懸賞論文に応募したこと、の3点に集約される。さらに「論文」の重要な背景として、田母神氏と懸賞論文の主催者「アパ・グループ」との度を超えた癒着や、田母神氏の主導により自衛隊内で歴史修正主義・陰謀論に基づいた歴史教育を行っていることも問題である。

 現在、政府やマスメディアが問題としているのは、田母神作文の提示した歴史認識が「政府見解」「村山談話」に反するというもので、今回の質疑でもその線で追及が行われたが、はっきり言ってあの作文は政府見解がどうのというレベルですらなく、むしろその基礎学力の低さを強調するべきだろう。大学の卒業論文どころかレポート課題でもあの内容では不可である。田母神氏は「最優秀賞」の受賞が発表されると、自ら問題の作文を防衛省内や担当記者たちに配っていたというから重症である。欲を言えば、国会質疑では田母神氏が空自の制服トップに値する「能力」がなかったことをもっと厳しく追及して欲しかったところである。

 今回の質疑で私が最も注目したのは、共産党の井上哲士議員が取り上げた、田母神氏が統合幕僚学校校長在任中に陸海空すべての幹部教育の体系を改定して、歴史修正主義に基づく「歴史観・国家観」の講義を行わせたという件である(井上氏の当該質疑は前記「詳報」の9・10)。講師は防衛大学校でも防衛研究所でもなく「主として外部から」呼ぶことになっており、その講師は大正大学教授の福地惇氏だという。福地氏の講義案はweb上に出ているが、認識において田母神作文とも共通するところが多い(さすがにもっと巧妙で「論拠」もはるかに多いが)。

 15年戦争@wiki - 統合幕僚学校・高級幹部課程講義案
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1541.html

 福地氏と言えば東京大学国史学科の出身で、昨年沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題時に弊ブログでも問題にした、保守的歴史学者で東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下である。伊藤門下でも政治的に最右翼として知られ、1998年に伊藤氏の推薦で文部省主任教科書調査官に任官するも、雑誌上で当時の教科書検定基準を批判したために、わずか半年余りで更迭された。伊藤氏と同様「新しい歴史教科書をつくる会」に加わり、内紛により師の伊藤氏が脱会した後もとどまり、現在は副会長を務めている。明治政治史で業績のある人だが、それだけに専攻外の日中戦争で通説に反する根拠薄弱な「コミンテルン陰謀論」や「南京大虐殺否定論」といった妄説を唱えているのは、専攻の業績も吹っ飛んでしまうほど歴史学者としての知性と品性を疑わせしめる。もはや歴史学者と言うべきではないだろう。

 このようなふざけた講義が統合幕僚学校で行われていたということは、「田母神流」が空自にとどまらず、全自衛隊の幹部教育に貫徹していた可能性があり、問題はもはや田母神氏個人の域を超えて、自衛隊が一体どんな歴史教育を行っているのか、今後も徹底的に洗い出して正常化する必要があるだろう。田母神問題が大きくなることで、日本社会に潜在する歴史修正主義への「渇望」を呼び覚まし、かえってそうした言説が力をもつリスクはあるが、むしろ田母神氏が「自爆」を続けるこの機に膿を出してしまうべきである。

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教科書改竄の「黒幕」
教科書調査官の系譜~「さるのつぶやき」より
「トンデモ空幕長」爆発!
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by mahounofuefuki | 2008-11-11 22:58

「トンデモ空幕長」爆発!

 沖縄戦「集団自決」訴訟の控訴審が大江健三郎氏・岩波書店側の勝訴に終わって安堵していたところに、とんでもないニュースが目に入ってびっくり仰天した。航空自衛隊の制服組トップである航空幕僚長の田母神俊雄氏が、懸賞論文で「侵略、植民地支配を正当化する歴史認識を示し、憲法にも異を唱えるような」主張を行い、しかもその論文が「最優秀賞」を受賞したという(共同通信2008/10/31 19:48)。

 問題の懸賞は「アパグループ」の第1回「真の近現代史観」懸賞論文で、確かに最優秀賞受賞者に田母神氏の名があり、「日本は侵略国家であったのか」と題する論文がPDFファイルで出ていた。

 アパグループ 第一回「真の近現代史観」懸賞論文募集
 http://www.apa.co.jp/book_report/index.html

 主催者がアパで、審査委員長が渡部昇一氏という時点で、この懸賞のねらいは明白だが、実際のところ田母神論文は中国出兵合法論、張作霖爆殺事件や日米戦争のコミンテルン陰謀説、植民地善政論、日本による有色人種解放論と「おなじみ」の歴史修正主義・陰謀論言説のオンパレードである。論文というわりには注もなく、文章量も少なく、論拠に提示しているのが黄文雄、櫻井よしこ、岩間弘、秦郁彦、渡部昇一各氏らの著作で、秦氏を除いて歴史研究者ですらないところが失笑もので、論文どころか大学のレポートでも不可になりそうな代物である。

 とは言え歴史学に対する無知と無礼はともかく、「自衛隊は領域の警備も出来ない、また攻撃的兵器の保有も禁止されている」と不満を述べて、集団的自衛権の行使を実質的に求めているとなるとさすがに笑えない。現行憲法遵守義務を有する国家公務員として、文民統制に服する制服自衛官として、決して許される発言ではない。

 田母神氏と言えば、今年4月に名古屋高裁が自衛隊イラク派遣差し止め訴訟で違憲判決を出した際、記者会見で「そんなの関係ねえ」と発言して物議を醸した人だが、ほかにも暴言や問題行動を引き起こしている。

 昨年5月のクラスター爆弾禁止プロセスのリマ会議に関し、「不発弾による(日本人の)被害も出るが占領される被害の方が何万倍も大きい」と発言し、各国の参加者から厳しい批判を浴びた(毎日新聞2007/05/26 11:18)。軍事行動を優先するためには自国民の犠牲も厭わないという姿勢は、戦前の軍国主義と何ら変わらない。

 今年1月30日には航空自衛隊熊谷基地での講話で、複数の国立大学総長経験者らを「脳みそが左半分にしかない人たち」と誹謗したという(田母神空幕長がまたまた暴言か - 『自衛隊員が死んでいく』暫定ブログ http://blogs.yahoo.co.jp/jieijieitaitai/16673030.htmlによる)。そういう自分が「脳みそが右半分にしかない」と言われることを想定できないのだろうか。

 最近公表された昨年の政治資金報告書によれば、田母神氏を含む現職幹部自衛官7人が元自衛官の佐藤正久参院議員に政治献金を行っていたことも明らかになっている(MyNewsJapan 田母神空幕長ら自衛隊トップ7人に政治献金疑惑 自衛隊法違反か http://www.mynewsjapan.com/reports/924)。その法的・道義的正当性に疑念がもたれる。

 かの「そんなの関係ねえ」発言の時点ですでに更迭ものだったが、その後も悪びれずにこれだけ問題行動を繰り返しているのを放置しておいては、いくらなんでも政府の涸券にかかわるのではないか。自衛隊の要職者がこんな体たらくなのは、議会政治においても、国際関係においても有害でしかない。麻生太郎首相の首相就任後の姿勢とも齟齬をきたしている以上、今度ばかりは今までの問題行動をひっくるめて更迭するべきであろう。

 当の田母神氏は今春、東京大学の「五月祭」に招かれて講演した際に「将来リーダーとなる東大の学生の皆さんは高い志を持って燃えて欲しい。上が燃えないと組織は不燃物集積所になる」と述べたというが(産経新聞2008/05/24 16:42)、航空自衛隊を「不燃物集積所」どころか「火ダルマ」にしたくなければ、勝手に炎上している幕僚長にはご退場願うべきである。


《追記》

 ・・・という文を書いていたら、「dj19の日記」によると本当に更迭されたそうだ。当然の政治判断だろう。

 田母神俊雄・航空幕僚長「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」→即クビw – dj19の日記
 http://d.hatena.ne.jp/dj19/20081031/p2


《追記》

 リマ会議「で」という記述を、リマ会議「に関し」に訂正した。田母神氏は会議で発言したのではなく、記者会見で発言したのが、会議参加者の間で問題になった。推敲不足をおわびする。
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by mahounofuefuki | 2008-10-31 22:14

「テロとの戦い」の帰結としての海上自衛隊集団暴行事件

 またまた自衛隊の不祥事の表面化である。9月9日に海上自衛隊の第一術科学校(広島県江田島)の特別警備隊養成課程で1対15の徒手格闘が行われ、25歳の三等海曹が後頭部の強打により意識不明となり、同月25日に死亡したという。

 「教官2人の立ち会いのもとで、午後4時ごろから防具とグローブを着けて他の隊員15人を相手に1人につき50秒ずつ、パンチやけりで格闘」(朝日新聞2008/10/14 10:13)、「レスリングマットを隊員らが囲み、男性が倒れ込むと、引き起こして続けた」(読売新聞2008/10/14 13:40)というから尋常ではない。どうみてもこれは「集団リンチ」である。すでに一部で指摘されているように相撲部屋の「かわいがり」と大差ない。「教官2人の立ち会いのもとで」というのは重要で、辞めようとする「脱落者」に対する組織的な制裁とみて間違いないだろう。

 海自の特別警備隊は1999年の「不審船」事件を契機に創設された対テロ戦のための特殊部隊で、隊員は海自全部隊から公募して選抜される。発足当初よりイギリスやアメリカの特殊部隊の指導を受け、白兵戦を想定した実戦訓練を重ねており、自衛隊の中でも最も過酷な部隊の1つである。死亡した三曹は特警隊入りを目指して養成課程に入ったものの、おそらく厳しい訓練に半年ももたず、途中で辞めることを決意したのだろう。

 「今年7月にも、特別警備隊の養成課程をやめる直前だった隊員が16人と徒手格闘訓練をし、歯が折れるなどのけがをしたという」(朝日、同前)から、中途脱落者に対する制裁が常態化していることが窺える。中途で辞める者はいわば「ケジメ」として他の隊員からの制裁を受けるのが、この課程の暗黙の「掟」となっているのだろう。これはもはや「ヤクザ」の論理である。ちなみに7月の事件では16対1、9月の事件では15対1、いずれも養成課程の全隊員(同課程の募集は年1回だというから中途補充はないと思われる)が参加しており、死亡した隊員も7月の事件の時は「加害者」だったと推定できる。

 以前、当ブログで自衛隊員の自殺増加の件に言及した時、自衛隊が従来の「専守防衛」の組織から、日米一体化の下での海外派兵を前提とする「外征」型の軍隊に変貌しつつあることが、隊員の心身の疲弊に影響していると指摘したが、今回は対テロ特殊部隊という最精鋭の部隊のための育成機関で起きた事件であり、「テロとの戦い」のための過酷な訓練が自衛隊員の人間性を奪っている象徴的事例とさえ言えるだろう。実戦を前提とした軍隊は普通の人間をも殺人マシーンに変えてしまう。躊躇なく人間を殺せるような訓練を受けている以上、集団リンチにも疑問を持たなくなってしまう。そんな殺伐とした環境にいれば誰もが「逸脱」行動を起こしうる。

 今回の問題について、自衛隊の人権問題を追っているジャーナリスト三宅勝久氏が次のように指摘している。

 隊員はモノ以下の自衛隊 海自集団暴行事件に思う - 『自衛隊員が死んでいく』暫定ブログ
 http://blogs.yahoo.co.jp/jieijieitaitai/17787192.html
「眼窩底骨折、鼓膜裂傷、顔面裂傷・・・暴行で懲戒処分を受けた自衛隊員は、昨年1年間で80人を超える。その処分はせいぜい停職一ヶ月どまり。数日から戒告というものも多くある。特に階級が上のものが下級の隊員に対してふるった暴力は「指導」の一環だとして、軽くなる傾向がある」

「隊内で起きていることは、やがて隊外でも起きる。昨年度暴力で懲戒処分を受けた80人以上のうち、30人近くは一般市民を巻き添えにした事件を起こしている」(太字強調は引用者による)

 自衛隊員の「逸脱」は単に組織内だけの問題ではなく、市民社会にも影響しているにもかかわらず、十分な処分が行われていないのである。この種の問題はたいてい表に出るのは氷山の一角だから、実際は全く処分されず闇に消えた事件も多数あるだろう。浜田靖一防衛大臣は「(今回の訓練は)特殊、特別なのかという気がしないでもない」(共同通信2008/10/14 10:37)などと呑気な発言をし、海自もいまだ「事故」として処理しようとしているが、そこには日米安保体制強化に伴う組織的疲弊の現実や自衛隊員の人権擁護に対する危機感はなく、ましてや自衛隊員の暴力が市民生活の脅威になっているという意識など微塵もない。

 この問題をうやむやにしてはならない。自衛隊の暴力体質を白日の下に暴き、人権状況を徹底的に改善する必要がある。インド洋で「米国の、米国(の油)による、米国のための洋上給油」(水島朝穂氏)などしている場合ではない。

【関連記事】
自衛隊、こわれてる?

【関連リンク】
YouTube - 海自の特別警備隊 訓練初公開
http://jp.youtube.com/watch?v=fM3s4tRBqLc
*昨年行われた特別警備隊の公開訓練の様子を伝えるテレビニュース。隊員の育成には相当過酷な訓練を要するのが読み取れる。

防衛省・自衛隊:平成18年度における懲戒処分の状況について
http://www.mod.go.jp/j/news/2007/09/14e.html
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by mahounofuefuki | 2008-10-14 18:15

進む自公民談合・協力体制~インド洋給油活動延長を黙認する民主党

 昨年の今頃、国会における政局の焦点は、インド洋での海上自衛隊の給油支援活動を継続するためのテロ特措法の帰趨であった。結果は、野党が多数を占める参議院が否決したため、政府・与党は衆議院で3分の2の多数による再可決を強行し、給油活動は1年延長された。その現行法は1年時限なので、活動を継続するには再び国会で法改正しなければならない。今年もまたテロ特措法改正案を巡る攻防が臨時国会で繰り広げられるはずだった。

 ところがである。昨日の新聞各紙は、民主党が同法案の審議の短縮と早期の採決を容認し、会期内での衆院再可決が可能となったため、今国会での成立が確実になったと報じた。「民主党側は8日、改正案の委員会審議に10日に入り、同日中の採決にも応じる考えを自民党側に伝えた」(朝日新聞2008/10/08 15:08)、「民主党としては、麻生首相が成立への意欲を示す同改正案を早々と成立させることで衆院解散を促し、次期衆院選での争点となることを回避する狙いがある」(読売新聞2008/10/08 14:35)。

 要するに民主党は早く解散して欲しいので、テロ特措法改正案には形だけの反対しか行わず、早期の成立を黙認するということである。昨年は一応抵抗の姿勢を示し、対案すら提出している問題なのに(その対案には問題があるが)、今回は政局を優先して抵抗を事実上放棄するというのは公党としてどうなのか。補正予算も大した審議もせずにあっさりと賛成したが、これでは「解散してほしくば、政府・与党案に協力しろ」と迫られ、次々と妥協を繰り返しているようである。

 しかも早期解散を求める一方で「次期衆院選での争点となることを回避する狙い」とは片腹痛い。麻生政権がテロ特措法を総選挙で争点化するのならば、堂々と受けて立てばよい。アメリカ発の金融危機で対米一辺倒の外交路線の見直しが現実的課題となり、外国軍への「無料ガソリンスタンド」など行う経済的余裕が消えているという現況にあって、この問題の争点化が特段与党に有利に働くわけでもない。選挙戦略としても理解不能である。

 今回の民主党の姿勢は、結局のところインド洋給油問題を軽視し、本気で抵抗する気が最初からなく、せいぜい政局の道具として反対しているにすぎないことを実証したと言えよう。麻生首相が就任直後、真っ先に給油継続を国際公約するほど、政府・自民党はアメリカへの「忠誠」の証を示すことに躍起となっているが、民主党も政権獲得が現実味を帯びてくるにつれて、自民・公明両党と同様、ますます日米安保体制の強化という支配層主流の既定路線を邁進している。「政権交代」で自民党政治が終わると信じている人々の思いとは裏腹に、民主党の顔はすでに財界とアメリカに向いているのだ。

 ある意味今国会は、これまでも(たとえば労働契約法や宇宙基本法で)顕在化していた自公民談合・協力体制が完成しつつあると言える。どうせ解散になるから、と楽観している間に、次々と悪法の「駆け込み可決」が行われることが心配だ。すでに福田前首相が退陣表明した直後、大勢が新内閣発足直後の解散を予想する中で、弊ブログでは即時解散が望ましいが、実際には自公政権は「衆院3分の2」を簡単には手放さない、解散は先送りされると指摘したが、当時の私の予測が現実になっている。いかに野党が与党に「塩」を送ったところで、解散は首相の胸先三寸次第であり、民主党の行いは「エサ」に釣られた単なる一方的屈伏でしかない。

 こうも躊躇なく自公政権と協調できるのは、改めて総選挙後の民主党の動向に疑念を生むことにもなろう。選挙結果がどうなろうとも、参院の現況や経済情勢も考慮すると、表向きは激しい対立を装いつつ、要所では助け合う自民・公明と民主の「あ・うん」の呼吸は長らく続きそうである。

【関連リンク】
テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法 - 法令データ提供システム
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H20/H20HO001.html
テロ対策海上阻止活動に対する補給支援活動の実施に関する特別措置法の一部を改正する法律案 - 衆議院
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g17005004.htm
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by mahounofuefuki | 2008-10-09 21:10

昔の防衛官僚は新聞記者に機密を意図的にリークしていた

 読売新聞が2005年に中国の潜水艦事故について報道した件に関し、防衛機密を漏洩したとして、昨日防衛省情報本部の一等空佐が懲戒免職に処せられた。以下、共同通信(2008/10/02 22:22)より。
 南シナ海での中国潜水艦の事故をめぐる「防衛秘密」が防衛省から読売新聞記者に漏えいしたとされる事件で、同省は2日、自衛隊法(防衛秘密漏えい)違反容疑で書類送検された元情報本部課長の北住英樹1等空佐(50)=同本部総務部付=を、同日付で懲戒免職処分にしたと発表した。

 記者への情報提供を「漏えい」として、自衛官が懲戒免職となるのは初めて。書類送検を受けて捜査している東京地検が刑事処分を決める前に、同省が極めて厳しい処分に踏み切る異例の展開となった。背景には情報保全強化の流れがあり、取材を受ける公務員が萎縮(いしゅく)するなど「知る権利」「報道の自由」の制約につながる懸念がある。
(中略)
警務隊の調べなどでは、北住1佐は2005年5月30日、中国海軍の潜水艦が南シナ海で潜航中に起こした火災とみられる事故に絡み、防衛相が「特に秘匿が必要」として指定する防衛秘密に該当する潜水艦の動向に関する情報を記者に漏らした疑いが持たれている。(後略)

 この問題に対しては、自衛隊の警務隊が記事の取材源を特定するために捜査を行ったことの妥当性や、そもそも中国の潜水艦の動向が隠さなければならないほどの機密なのかという疑問や、外国の軍事関係者とかへの情報提供ならいざ知らず、新聞記者に対するリークで懲戒免職というのは過去にあまり例がないことや(外務省では有名な日米密約に絡む機密漏洩事件があったが)、アメリカ政府・軍からの圧力の疑いがあることなどなど、多くの疑念がある。

 実はこのニュースを聞いた時、個人的に真っ先に思い出したのは、ある日本近現代史料の研究会における次のやりとりだった。以下、その報告書中の速記録より(太字強調は引用者による)。
(前略) しかし、当時その記事を書いた社会部の記者も原子力なんてさっぱり分からんわけです。それで、伊藤先生はご存じだと思いますが、防衛庁関係で非常に敏腕な堂場肇という記者がおりました。再軍備関係のドキュメントをたくさん書いていますが、これもやっぱり波長が合ったんでしょうね、防衛庁の幹部の某氏から機密に属する資料をいくつも入手して、堂場文書という、これはいまどこに入っていますかね?(後略) (科学研究費成果報告書「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」より松崎昭一の発言、2004年7月9日)


(前略)
有馬 一つだけ。さっき、海原さんはやっぱり堂場氏に渡していたんだという話がありましたが、つまり相当量の文書史料を持っていると。防衛担当記者がそれだけ集められるという、常に海原さんから貰っていただけではないと思うんですけれども。

佐道 ではないと思います。

有馬 そこら辺は、何かわかるんですか。

伊藤 オーラルをやっているとわかりますけれども、新聞記者との関係でいろいろ話があって、机の上に置いといて「まあ、見て」ということはよくありますと。ある種、リークですね。それをコピーして持って行くかどうかはわかりませんけど、そ こまではっきり言っちゃったらまずいだろうから。

佐道 そうですね。とくに昭和 30 年代とか 40 年代は、だいぶオープンだったみたいです。出入り自由みたいな形で、しょっちゅう課長、局長のところに行ってみたいな。海原さんという人は、かなり腕力があった人というのは、逆にいうといろんな手段を使って自分のやりたいようにやっていた人ですから、おそらく使える政治家を使うし、新聞記者だって。

有馬 新聞記者も使う。

佐道 ええ。それには、「ちょっと、こんな文書があるんだよ」みたいなところでやったんじゃないかと思うんですよね。(後略) (同前より、有馬学、佐道明広、伊藤隆の発言、2004年3月15日)

 引用文中に出てくる堂場肇という人は、奇しくも今回問題になっている読売新聞の防衛担当記者だった人で、在職中数々のスクープを挙げたことで知られている。同じく引用文中の海原とは、防衛官僚の実力者だった海原治で、堂場は海原を含む防衛庁幹部からのリークで記事を書いていたという。特ダネの欲しい新聞記者と、新聞を利用して情報操作や内外の駆け引きの材料にしようとする防衛官僚とのギブアンドテイクが推定しうるが、彼らの現役時代にはもちろんこうした事情は一般には明かされず、リークした官僚も新聞記者も処罰されはしなかった。
*余談だが、この堂場肇が遺した機密文書の複写などを含む文書類は、その後大学の研究機関に移り、政治史研究に用いられている。先日、法務省が過去に流出し国会図書館が買い取った文書の閲覧禁止を要求したことの不当性は、この先例と比べても明らかである。

 つまり昔は防衛庁・自衛隊にあっても、他の省庁同様「消息筋によれば」という取材源を秘匿した形で、機密に属する情報が報じられていたのである。杓子定規に過剰なまでに秘密主義が採られ、高級官僚が情報を独占し、それ以外の人間が一切検証できない状態と比べた時、どちらが社会の在り方として「健全」であるか。安全保障や防衛機密の在り方については、いろいろ議論の分かれるところだろうが、正直なところ今回の「漏洩」が安全保障上、格別の危機をもたらしたとは思えず、むしろ一種の「見せしめ」ではないかという疑問が拭えない。

 どうにもキナ臭い世の中になってしまった・・・。

【関連リンク】
科学研究費成果報告書「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」(平成15・16年度) 5.松崎昭一*PDF
http://kins.jp/pdf/54matsuzaki.pdf
科学研究費成果報告書「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」(平成15・16年度) 5.佐道明弘*PDF
http://kins.jp/pdf/64samichi.pdf
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by mahounofuefuki | 2008-10-03 23:04

自衛隊、こわれてる?

 なぜか今日は自衛隊関係の不祥事が次々と報道されている。いつもお世話になっている「エキサイトニュース」を「自衛隊」で検索すると、いずれも7月11日付で「同僚の現金窃盗、陸士長を懲戒免」「<痴漢>女性の体触った1等陸佐を逮捕、容疑を否認」「<変死>1等陸佐が誤って侵入、水のないプールに転落か」「<石破防衛相>護衛艦放火取材で墜落『申し訳ない』」といった見出しが並ぶ。それぞれの事件は独立しているので、偶然重なっただけではあるが、こうも不祥事が続出するのは、あたかも最近の自衛隊を象徴しているかのようである。

 自衛隊をめぐっては近年、海自の給油量虚偽報告や航海日誌破棄のようないかにも「官庁的」な不祥事や、イージス艦「あたご」が漁船に衝突した事件のような惨事に加え、隊員の自殺者・変死者の増加パワハラ・セクハラの表面化など隊内における人権侵害問題が相次いで表面化している。先日の護衛艦「さわゆき」内での放火事件の容疑者は、仕事がきつかったことを動機として話していると伝えられている。「痴漢」や「泥酔の末の住居侵入」もストレス過重によるモラルハザードが容易に推測しうる。いずれにせよ心身ともにかなり追いつめられている自衛隊員が相当いるのではないかと疑うに十分だ。

 特に自衛隊員の自殺の多さは深刻である。防衛省人事教育局の発表によれば、事務官を含む自衛隊員の自殺者数は2003年度までは50~70人程度で推移していたが、04年度に94人へ急増し、さらに05年度と06年度はいずれも101人、07年度は89人と高止まりが続いている(「急増する自衛隊の自殺者とホットライン」、北海道新聞2008/04/16 16:06ほか)。日本経済新聞2008/04/16夕刊によれば、10万人あたりの自殺者数は、一般職公務員が17.7人、民間人が27.8人に対して、自衛隊員は38.7人と突出している。年齢を考慮すれば自衛隊の自殺率の高さは驚異的とさえ言えよう。これでも氷山の一角の可能性がなきにしもあらずである。

 自殺の増加は閉鎖的組織内での暴力と密接に結びついている。すでに自殺した自衛官の遺族による損害賠償請求訴訟がいくつか起こされているが、それらの自殺の原因は隊内でのいじめに求められている。前記日経の記事には、元航空自衛官の須賀雅則氏の「いじめは自衛隊では深刻な問題で、自分の在籍時にも自殺者は出ていた」「(いじめによる自殺は)管理責任に直結する。階級社会の自衛隊では上司が処分を嫌い、上層部に報告する際に(原因特定を)うやむやに済ませる傾向があった」というコメントがあるが、軍事組織に普遍的な暴力性に加え、旧軍の陰湿さを受け継いでいる自衛隊においていじめは相当深刻であるとみて良いだろう。

 元来からあった「体質」も問題だが、近年自殺者が急増している要因としては、「専守防衛」の防衛組織から日米軍事一体化の下での海外派兵を前提とする「外征」型の軍隊への変貌が挙げられる。テロ特措法とイラク特措法によりインド洋やイラクなどに派遣された経験のある自衛隊員のうち35人が死亡、うち自殺が16人、「事故・死因不明」(おそらく実際は自殺である者を含む)が12人にも上ることが昨年国会で明らかにあり、以前当ブログでも取り上げたことがあるが、過酷な海外勤務が隊員の心身を疲弊させていることが考えられる。また海外派兵が中心任務となって以降、従来よりも訓練が厳しくなったり、隊内の締め付けが強化されているとも言われている。

 個々の自衛隊員の「人権」という観点から、自衛隊の在り方やそれを事実上規定している日米安保体制の「逸脱」を批判的に検討する必要があるだろう。今後、イラク特措法の延長の可否が政治問題化することも考えれば、自衛隊の「いじめ」と自殺はもっと追及されて然るべきである。

【関連リンク】
『自衛隊員が死んでいく』暫定ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/jieijieitaitai
米兵・自衛官人権ホットライン
http://www.jca.apc.org/gi-heisi/
急増する自衛隊の自殺者とホットライン - 米兵・自衛官人権ホットライン
http://www.jca.apc.org/gi-heisi/news/no.007/007-02.html
NPJ 護衛艦たちかぜ 自衛官いじめ自殺事件
http://www.news-pj.net/npj/2007/tachikaze-20071115.html
自衛隊員の自殺が止まらない – Internet Zone::WordPressでBlog生活
http://ratio.sakura.ne.jp/archives/2008/04/17212331/
衆議院議員照屋寛徳君提出イラク帰還自衛隊員の自殺に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b168182.htm
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by mahounofuefuki | 2008-07-11 23:28

夕張市が自衛隊の市街戦演習地を誘致

 北海道夕張市の商工会議所が、陸上自衛隊の市街地戦闘訓練用の演習地を誘致する準備を進めているという。北海道新聞(2008/05/24 06:34)によれば「山間部に分散する集落から候補地を選び、住民を市中心部に移転させた後、老朽化した元炭鉱住宅のアパートや民家を演習用に提供」する計画で、国からの周辺整備費交付や自衛隊員滞在による消費効果を見込んでいるという。

 周知の通り、夕張市は財政破綻により財政再建団体となり、厳しい債務返済を課せられているが、もはやカネになるものなら何でも誘致しようと形振り構わぬ姿勢を示していると言えよう。発想としては原発や刑務所の誘致工作と同じで、国の側からすれば住民にとってリスクの高い施設を交付金をエサに地元の方から進んで誘致するよう仕向けたに等しい。
 記事によれば地元関係者が4月に防衛省陸上幕僚監部を訪問して打診したというが、そもそも陸自が市街戦用の演習地を欲しているという情報を夕張に流したのは誰か。これは素人の思いつきでは出てこない。表向きは夕張側の、それも地元財界の要請だが、実際は防衛省・自衛隊側の発案ではないかという疑問が拭えない。

 ところでこの件で私が思ったのは、ある意味で貧困と戦争の関係性を如実に表しているということである。アメリカ軍が貧困層から兵士のリクルートを強化したり、市民権をエサに移民層の志願兵を促進しているように、現代の戦争は「貧困が軍隊を支える」状態にあるが、夕張の件も広い意味で「貧困自治体」の弱みが戦争準備と結びついている。
 貧困地域が増えれば、その分軍隊にとっては「使い勝手の良い基地・施設」を手に入れられるという関係は非常にいびつだ。戦争で儲かる人々にとっては、貧困が増えた方が望ましいということになる。

 もう1点。この問題は自衛隊にとっては、従来の演習地内の模擬市街地では満足できないところに、本物の住宅や道路でドンパチできますよという「嬉しい」申し出である。かつて現実に人が生活していた市街地で「実戦」さながらの訓練ができるというのは、自衛隊の「実戦」への「渇望」を高める。
 これは東映の特撮戦隊モノが採石場で「戦闘」しているような滑稽さと同時に、ある種のうすら寒さを感じる。すでに専守防衛を事実上脱ぎ去り、海外でアメリカ軍の下請け部隊として活動することを予定している自衛隊にとって、想定する市街戦はアジアやアフリカのどこかでのものだろう。あるいは日本国内の「敵」を制圧する治安出動。「テロとの戦い」を口実にその銃口は国内の平和主義にも向いている。演習が「本物」に近いほど、戦争のリアリティは高まる。

 夕張の財界はテーマパークの誘致のような気楽な感覚を持っているのかもしれないが、これは慎重を要する問題である。

【関連記事】
グリーンカード兵士から見える軍隊の変容~「国民軍」から「グローバル軍隊」へ
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by mahounofuefuki | 2008-05-24 21:53

現職自衛官による議会政治へのテロ

 5月8日に陸上自衛隊朝霞駐屯地の自衛隊体育学校の陸士長が、国会議事堂中央玄関前で割腹自殺を図った事件。ずっと詳細が不明だったが、今日になって警視庁公安部がこの陸士長を建造物侵入と銃刀所持の容疑で逮捕した。
 朝日新聞(2008/05/13 12:54)によれば、この陸士長は「地下鉄国会議事堂駅のコインロッカーに、『福田総理に告ぐ』と題する抗議文を記録したUSBメモリーを入れていた」という。また産経新聞(2008/05/13 13:17)によれば、その抗議文は福田首相の外交・経済政策への批判で、彼は「右翼団体幹部の名刺を所持し、遺書に『天皇陛下万歳』と書いていたことも判明した」という。

 今時、それも20歳の若者が、割腹という時代がかった方法で自己顕示を図ったことに、いささかショックを受けた。かつて社会党委員長の浅沼稲次郎を刺殺した少年が現代に蘇ったような錯覚を得たほどである。
 現在の日本社会では周知の通り、狭隘な排外主義や無鉄砲なミリタリズムや無知な歴史改竄主義の言説が溢れていて、特にインターネットがそうした暴力的言説を増幅しているが、おおむねそうした「ネット右翼」はあくまで「安全な場所」から「攻撃しても大丈夫な公認の敵」を攻撃しているにすぎず、自らの政治信条に命を賭けることはない。
 しかも「天皇万歳」というのにも驚いた。現在の右翼言説の主流は専ら韓国・朝鮮・中国人などへの侮蔑・差別で、それによって「日本人」としての優越意識を高めて自尊心を満たすことに本質があるが、それだけに天皇制に対しては割合無頓着である。むしろ皇太子夫妻へのバッシングは右翼が中心に行っているほどで、「愛国心」は問題になっても「天皇への忠誠心」はほとんど問題にならない。
 右翼団体幹部の名刺を持っていたということは、「プロ右翼」の強い影響を受けていたと推定されるが、正直なところ今の若者が簡単に「プロ右翼」に洗脳されてしまうのが信じられない。容疑者の履歴などが不明なので何とも言い難いが、「ネット右翼」とは異なる古いタイプのナショナリズムが水面下で復活している予兆なのだろうか。

 ショックを受けてばかりもいられない。というのも客観的には今回の事件は現職武官による議会政治へのテロだからである。在野の右翼ではない現職の自衛官が、福田首相への抗議と称しながら首相官邸ではなく、国会議事堂を自らの血で汚そうとした意味は重い(単純に警備の軽重の結果、国会を選んだとしても)。逮捕容疑は建造物侵入と銃刀所持だが、実態としては限りなく国会に対する威力妨害に近い。
 また昨今の自衛隊の危うい状況も浮き彫りになっている。この若者が右翼思想にかぶれたのが自衛隊入隊前なのか入隊後なのか。右翼団体に出入りしていたことを自衛隊側は知っていたのかどうか。自衛隊体育学校での教育が事件に影響したとすれば、当然教育内容が問題になる。かつて冷戦時代には、自衛隊の一部に治安出動に際して在野の右翼との連携を模索する動きがあったが(たとえば三島由紀夫の「盾の会」は自衛隊幹部による「民兵」計画と連動していた。猪瀬直樹『ペルソナ 三島由紀夫伝』文春文庫より)、今も自衛隊と右翼団体が密接な関係があるのではないかとの疑問も拭えない。

 政府や自衛隊は今回の事件をできるだけ小さな事件として扱い、一般の目に触れないようにするだろう。しかし、これは防衛省・自衛隊の相次ぐ不祥事の延長としても、社会風潮の「右傾化」のメルクマークとしても決して軽視しえない事件である。模倣犯を防ぐためにも過剰に騒ぐ必要はないが、事件の真相は究明しなければならない。
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by mahounofuefuki | 2008-05-13 20:01

自衛隊が「創設100周年」!?

 今日の「しんぶん赤旗」電子版に「陸自、銃携え街行進/『創設100周年記念』帝国陸軍を継承」と題する記事があって目にとまった。三重県津市にある陸上自衛隊久居駐屯地の「駐屯地創設100周年記念行事」の一環として、昨日(4月26日)駐屯部隊のパレードが行われたという。

 自衛隊の前身の前身である警察予備隊が占領軍の命令で創設されたのが1950年だから、今年は58周年のはずなのに、なぜ100周年?と思ったら、旧帝国陸軍の久居駐屯地の開設が1908年で、それから起算して100年だというからふざけた話だ。
 言うまでもないが、帝国陸軍と自衛隊はその設置の法的根拠は全く異なる。しかも敗戦による旧軍解体後、駐屯地は数年間とはいえ大蔵省が管轄し、制度上は断絶している。それを連続して100周年と称するのは厚顔無恥にもほどがある。
 今まではどうだったのか簡単に調べてみると、久居駐屯地の開設記念行事は毎年行われているが、昨年までは警察予備隊発足から起算していて、昨年は「57周年」となっていた。それが今年唐突に「100周年」と銘打って、40年ぶりに市中でのパレードを大々的に行ったのである。自衛隊の存在感と戦前と戦後の連続性を強調することで、「戦後的」価値観を否定する政治的パフォーマンスと言えよう。

 「赤旗」によれば、駐屯地司令で第33普通科連隊長の甲斐芳樹一等陸佐は、地元新聞に「創設百周年を迎えて」と題した一文を寄稿し、戦前久居に駐屯していた旧陸軍歩兵第33連隊を「日露戦争、支那事変に参戦し数々の戦果をあげ精強部隊として名をとどろかせた」「輝かしい歴史と伝統を後世に継承したい」と述べたという。
 危うくスルーしそうになったが、歩兵第33連隊といえば、日中戦争時に上海攻略戦や南京攻略戦に参戦した部隊である。笠原十九司『南京事件』(岩波書店、1997年)によれば、同連隊の「南京付近戦闘詳報」は1937年12月13日、揚子江上を逃げ惑う戦意を失った敗残兵に対し「前衛および速射砲を江岸に展開し、江上の敵を猛射すること二時間、殲滅せし敵二千を下らざるものと判断す」と記している。
 無抵抗の敗残兵(実際は非戦闘員の難民を大量に含む)の一方的殺害のどこが「輝かしい歴史」なのか。そんな「伝統」を現在の自衛隊が引き継ぐなど言語道断だ。

 このニュースは「赤旗」以外では地元三重の報道だけで、全国向けには全く報道されていないようである。しかし、現在の自衛隊幹部の歴史意識を知る上で重要な事件である。帝国陸海軍の復活という時代錯誤を明確に批判する必要があるだろう。


《追記 2008/04/28》

 昨年は「57周年」となっていたと書きましたが、昨年は「開設55周年」と称していたという情報提供がありました。「57周年」というのは私の検索ミスだったようです。
 本文の「昨年までは警察予備隊発足から起算していて」を撤回し、「昨年は『57周年』となっていた」を「昨年は『55周年』となっていた」に訂正します。申し訳ありません。
 いずれにせよ昨年までは旧陸軍時代を加算していなかったことに変わりはなく、今年になって「100周年」と言いだしたのは唐突であることは確かです。

【関連リンク】
陸上自衛隊久居駐屯地創設100周年記念行事
陸自、銃携え街行進/『創設100周年記念』帝国陸軍を継承-しんぶん赤旗
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by mahounofuefuki | 2008-04-27 12:40

自民党の防衛省「改革」提言は危険すぎる

 昨年来、防衛省・自衛隊を巡っては、インド洋での海自補給艦の給油量虚偽報告や航海日誌破棄、アメリカ軍への軍需利権に関する汚職、イージス艦が漁船に衝突した事件など不祥事が相次ぎ、「改革」を求める声が各方面から上がった。
 これらはいわば政治化した「表」の不祥事であるが、一方で情報保全隊による市民監視活動、自衛官の自殺増加、自衛隊内部でのパワハラ・セクハラの発覚など、マスメディアがあまり報じない「裏」の不祥事も深刻で、本来「専守防衛」を旨とした自衛隊が、日米軍事一体化の「進展」によって海外で戦争のできる軍隊へと変貌を遂げつつある状況の矛盾が噴出している。

 こうした中で「表」の不祥事に対しては、政府に「防衛省改革会議」が設置されたが、それとは別に防衛省・自衛隊の「改革」案を検討していた自民党の防衛省改革小委員会が、今日「改革」の提言を公表した。
 提言・防衛省改革(4/24)-自民党
 冒頭で「不祥事などの事案」の「再発防止への取り組み」と称しているので、一連の不祥事を受けた予防策や改善策と思いきや、さにあらず、これがなんと専ら「制服組」の権限強化を中心とした自衛隊「強化」論なのである。

 まず「防衛省改革」のためには「憲法改正」を「早急に実現することが重要である」と強弁しているのに驚かされる。一連の不祥事が憲法9条のせいで発生したとでも考えない限り、この論法は成立しない。普通に考えれば現行憲法と汚職や衝突事件に直接の因果関係はない。それとも憲法を変えれば問題を隠蔽しやすくなるという意味なのだろうか。そんな「改革」など「改革」ではないのは言うまでもない。

 「制服組」の権限強化の具体策は、①「制服」を含む防衛省・自衛隊出身者の首相秘書官任用や首相を補佐する自衛官の副官設置、②防衛省内部部局に「制服組」を入れる、③統合幕僚長の権限強化と統合司令部の設置、④自衛官の国会出席・報告のルール設定などである。
 これらを貫くのは、「制服組」が独自に国家意思決定過程に関与できるシステムへの欲求である。①は常時首相の傍に制服の幹部自衛官が控えることを、②は防衛省の政策全般に「制服組」が関与できるようになることを、③は「制服」トップの統合幕僚長が直接に陸・海・空各自衛隊を統括指揮できるようになることを、それぞれ意味する。現在は文民が担っている領域への「侵食」を図っているのである。
 ④についてはご丁寧にも、国会で自衛官への「責任追及をする」ことのないようなルールづくりを提起している。これは国会で他の官僚に対するように自衛官を批判することを封じるもので、自衛官を特権化するものである。政府委員や参考人とは別種の資格で国会に出席させようとでもいうのだろうか。

 今回の提言を読むと、これを作成した小委員会は「統帥権の独立」の復活を目指しているのではないかという疑念が拭えない。「統帥権」とは大日本帝国下の慣行で、軍隊の「統帥」は天皇が独占する大権で、天皇を輔弼する責任をもつ国務大臣ですら関与できないというシステムである(「制服」のトップは内閣とは別に独自に天皇に直接進言できた)。この慣行が軍隊の政治化と暴走を招き、泥沼の戦争へと国家を引きずり込んだことはよく知られている通りである。
 現在は天皇の統帥大権はないが、首相と「制服」の間に文民が入らず、常時直接報告・進言できるルートの設定は、「素人」の首相が軍事情報を独占する「制服」に囲まれて「制服」の言いなりに動く可能性を想定せざるをえない。文民統制を弱め、「軍事」の暴走を可能にする非常に危険な動きである。

 この提言は他にも自衛隊の階級呼称を旧軍隊に戻すことや(それを「国民も親しみのある階級呼称」と言及しているのが失笑ものだが)、下士官クラスへの叙勲を要求するなど、同じ要求を文民の公務員がしたら袋叩きに遭いそうなずうずうしい内容も含まれる。「改革」の名を借りた「おねだり」でしかない。
 「裏」の不祥事については、わずかに「自殺者の増大などへの対応のためのメンタルヘルス」に言及するのみ。心身屈強なはずの自衛官の自殺が増大しているのは、裁判所も認めた「戦闘地域」での過酷な任務や日米軍事一体化の影響による非人間的な訓練の強化が原因と考えられるが、そうした構造的原因には一言も触れていない。

 改めて自民党には防衛省・自衛隊の「改革」を任せることなどできないことを露呈したと言えよう。相次ぐ不祥事の実態の究明もせずに、自衛官の権限強化を要求するなどあまりにも虫のよすぎる話である。

【関連記事】
陸自情報保全隊の監視活動をめぐって
「防衛省改革会議」に「改革」はできない
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by mahounofuefuki | 2008-04-24 23:42