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自衛隊、こわれてる?

 なぜか今日は自衛隊関係の不祥事が次々と報道されている。いつもお世話になっている「エキサイトニュース」を「自衛隊」で検索すると、いずれも7月11日付で「同僚の現金窃盗、陸士長を懲戒免」「<痴漢>女性の体触った1等陸佐を逮捕、容疑を否認」「<変死>1等陸佐が誤って侵入、水のないプールに転落か」「<石破防衛相>護衛艦放火取材で墜落『申し訳ない』」といった見出しが並ぶ。それぞれの事件は独立しているので、偶然重なっただけではあるが、こうも不祥事が続出するのは、あたかも最近の自衛隊を象徴しているかのようである。

 自衛隊をめぐっては近年、海自の給油量虚偽報告や航海日誌破棄のようないかにも「官庁的」な不祥事や、イージス艦「あたご」が漁船に衝突した事件のような惨事に加え、隊員の自殺者・変死者の増加パワハラ・セクハラの表面化など隊内における人権侵害問題が相次いで表面化している。先日の護衛艦「さわゆき」内での放火事件の容疑者は、仕事がきつかったことを動機として話していると伝えられている。「痴漢」や「泥酔の末の住居侵入」もストレス過重によるモラルハザードが容易に推測しうる。いずれにせよ心身ともにかなり追いつめられている自衛隊員が相当いるのではないかと疑うに十分だ。

 特に自衛隊員の自殺の多さは深刻である。防衛省人事教育局の発表によれば、事務官を含む自衛隊員の自殺者数は2003年度までは50~70人程度で推移していたが、04年度に94人へ急増し、さらに05年度と06年度はいずれも101人、07年度は89人と高止まりが続いている(「急増する自衛隊の自殺者とホットライン」、北海道新聞2008/04/16 16:06ほか)。日本経済新聞2008/04/16夕刊によれば、10万人あたりの自殺者数は、一般職公務員が17.7人、民間人が27.8人に対して、自衛隊員は38.7人と突出している。年齢を考慮すれば自衛隊の自殺率の高さは驚異的とさえ言えよう。これでも氷山の一角の可能性がなきにしもあらずである。

 自殺の増加は閉鎖的組織内での暴力と密接に結びついている。すでに自殺した自衛官の遺族による損害賠償請求訴訟がいくつか起こされているが、それらの自殺の原因は隊内でのいじめに求められている。前記日経の記事には、元航空自衛官の須賀雅則氏の「いじめは自衛隊では深刻な問題で、自分の在籍時にも自殺者は出ていた」「(いじめによる自殺は)管理責任に直結する。階級社会の自衛隊では上司が処分を嫌い、上層部に報告する際に(原因特定を)うやむやに済ませる傾向があった」というコメントがあるが、軍事組織に普遍的な暴力性に加え、旧軍の陰湿さを受け継いでいる自衛隊においていじめは相当深刻であるとみて良いだろう。

 元来からあった「体質」も問題だが、近年自殺者が急増している要因としては、「専守防衛」の防衛組織から日米軍事一体化の下での海外派兵を前提とする「外征」型の軍隊への変貌が挙げられる。テロ特措法とイラク特措法によりインド洋やイラクなどに派遣された経験のある自衛隊員のうち35人が死亡、うち自殺が16人、「事故・死因不明」(おそらく実際は自殺である者を含む)が12人にも上ることが昨年国会で明らかにあり、以前当ブログでも取り上げたことがあるが、過酷な海外勤務が隊員の心身を疲弊させていることが考えられる。また海外派兵が中心任務となって以降、従来よりも訓練が厳しくなったり、隊内の締め付けが強化されているとも言われている。

 個々の自衛隊員の「人権」という観点から、自衛隊の在り方やそれを事実上規定している日米安保体制の「逸脱」を批判的に検討する必要があるだろう。今後、イラク特措法の延長の可否が政治問題化することも考えれば、自衛隊の「いじめ」と自殺はもっと追及されて然るべきである。

【関連リンク】
『自衛隊員が死んでいく』暫定ブログ
http://blogs.yahoo.co.jp/jieijieitaitai
米兵・自衛官人権ホットライン
http://www.jca.apc.org/gi-heisi/
急増する自衛隊の自殺者とホットライン - 米兵・自衛官人権ホットライン
http://www.jca.apc.org/gi-heisi/news/no.007/007-02.html
NPJ 護衛艦たちかぜ 自衛官いじめ自殺事件
http://www.news-pj.net/npj/2007/tachikaze-20071115.html
自衛隊員の自殺が止まらない – Internet Zone::WordPressでBlog生活
http://ratio.sakura.ne.jp/archives/2008/04/17212331/
衆議院議員照屋寛徳君提出イラク帰還自衛隊員の自殺に関する質問に対する答弁書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/b168182.htm
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by mahounofuefuki | 2008-07-11 23:28

「無間地獄」と「死」の二者択一から逃れるために

 昨年の全国の自殺者数がまたしても3万人を超えるという。以下、共同通信(2008/05/27 17:31)より。
 全国で昨年1年間に自殺した人の数は3万人を超える見通しであることが27日、分かった。各都道府県警が調べた概数を共同通信が集計した。毎年6月ごろにまとまる警察庁の自殺者数統計は1998年以来3万人を上回っており、これで10年連続となることが確実になった。
 集計によると、昨年の自殺者数は約3万2000人。東京(約3000人)、大阪(約2000人)など、詳細な数字を明らかにしない都府県があるが、3万人を超えるのは確実とみられる。(後略)
 10年連続で毎年3万人以上という数字は尋常ではないと言わざるを得ない。これでは毎年戦争をやっているのと変わらない。実際は自殺の可能性があってももろもろの事情で「事故死」とされることもあるので、実数はもっと多いだろうと考えると暗澹たる気分に襲われる。

 先日、内閣府自殺対策推進室が発表した「自殺対策に関する意識調査」によれば、「自殺したいと思ったことがある」人々の割合は全体で19.1%と2割近い高率である。特に20代では24.6%、30代では27.8%とおおよそ4人に1人が自殺を考えたことがあるという。
 また、共同通信(2008/05/23 19:56)などによれば、労災認定された過労自殺の数は2年連続で過去最悪の状態が続いている。認定者の年代別比率では30代が37%、20代が25%と高く、ここでも20代、30代の自殺が多いことが窺える。
 もともと日本は自殺が多い国だが、特に1990年代後半以降、比較的若い世代の自殺が増加を続けているのは、明らかに競争原理の強化、成果主義の導入、雇用待遇差別など労働条件の悪化が影響している。労働者を「モノ」として扱う経済体制が多くの若者を自殺に追い込んでいるのは間違いない。特に過労自殺は企業による「殺人」であることは当ブログでも何度か指摘した。新自由主義が人間を殺しているとも言える。

 とはいえ現代の自殺増加の構造的原因が新自由主義による労働環境の悪化であるのは確かだとしても、本来は労働環境の悪さが必ず自殺に直結するわけではない。実際WHOの統計を見ると、福祉国家のスウェーデンやデンマークより新自由主義のアメリカやイギリスの方が自殺率はやや低い。旧ソ連・東欧諸国の自殺率が高いのは、社会主義の放棄による経済格差の拡大と社会保障の崩壊が影響していると推定できるが、あとは地域的偏差と経済構造との関係が見えない。
 要するに、同じような苦しい状況に追い込まれても「もう自殺しかない」と考える傾向が強い社会と、そうではない社会が存在し、それはおそらくそれぞれの社会の歴史的・文化的背景の相違があるのではないか。両者を隔てる根本的な相違が何かはわからないし、おそらくいくつもの要因が重なっているのだろうが、私見では自殺以外の道=「逃げ場」があるかどうかが鍵だと思っている。

 客観的な根拠はないが、日本を含む自殺率の高い国では、精神的ないしは経済的に追い込まれた時、「無間地獄」か「死」かの二者択一しかないように考えさせる思考様式があり、また実際にそうした思考様式を促進する社会構造があるのではないか。これがたとえば「逃避」や「亡命」という道があればおのずと様相は異なるような気がする。
 下川裕治『日本を降りる若者たち』(講談社、2007年)が、同調圧力が強くマッチョ化する日本社会に嫌気がさし、日本を「降り」て東南アジアに生活拠点を移した若者たちの姿を伝えているが、このよう「逃げ道」がもっと開かれることが自殺の抑制になるのではないか。

 「空気を読め」とか「日本人の誇りを持て」というような帰属意識を強要する社会風潮、あるいは「死んでお詫びする」とか「名誉の戦死」のような「死」そのものを特権化・美化する文化も、追い詰められた時に行き場を失わせ、自殺でしか自己の存在理由を守れないと考えさせる要因になっていると思う。この問題は一挙に解決できるような特効薬がなく、一筋縄ではいかない。
 とりあえず私から言えるのは「死ぬ前に、逃げようぜ」ということ。かつて某有名アニメで主人公が「逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ」と強迫的に自分を追い込んでいたが、実社会ではそれでは身がもたない。多くの人々が「逃げてもいいよ」と言える社会の方がずっと風通しが良いと思うのだが。

【関連リンク】
自殺対策に関する意識調査
http://www8.cao.go.jp/jisatsutaisaku/survey/report/index.html
図録▽自殺率の国際比較 - 社会実情データ図録
http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2770.html
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by mahounofuefuki | 2008-05-27 21:03