タグ:税制 ( 30 ) タグの人気記事

私の財政論に誤解があるようなので改めて説明

 5月14日付国に「無駄遣い」を義務付ける宇宙基本法と16日付消費税増税の不当性について、一部で誤解があるようなので改めて説明。

 私の持論は何度も繰り返しているように「歳出削減でも消費税増税でもなく金持ち増税」で、消費税の増税については貧困と所得格差を拡大し、景気を悪化させるので全面反対だが、再分配効果を強化する直接税の増税には賛成している。
 要するに消費税の増税は不合理だが、国家財政の歳出を拡大するために、増税そのものは必要であるという立場で、基本的には「高負担・高福祉」「大きな政府」論者である。「増税か、歳出削減か」と問われたら「増税」と答えるが、庶民への増税ではなく、この20年さんざん甘やかされた富裕層への大増税を行えという意味である。究極のところ敗戦直後にやったような財産税の導入すら考慮すべきだとさえ考えている。そこのところを間違わないように。

 また歳出については、「思いやり予算」を含む軍事費(防衛費)や需要の少ない大型事業への支出のような「本当の無駄遣い」は削減するべきだが、政府が行うべき仕事にかかわる予算はきちんと確保するべきであると考えている。
 よく公務員の無駄を減らせとか、天下り法人を廃止しろとかいう声があるが、そうした発言は要注意である。人件費の削減は人員不足による行政サービスの低下や公務員の非正規化(ワーキングプア化)を招く。天下りにかかるカネなどは「本当の無駄遣い」に比べれば微々たるものにすぎない。「行政に無駄が多い」というプロパガンダが社会保障費削減や、本来行政が責任を持って行うべき業務の民営化に利用されたことを忘れてはならない。

 それから以前某ブログのコメント欄で指摘したことがあるが、特殊法人は大半が小泉政権の「構造改革」で独立行政法人などに移行し、現在残っているのは国民生活金融公庫や中小企業金融公庫などで、これらも今秋には統廃合されてしまう。これらの民営化は郵政民営化と同じで大銀行や外国資本を喜ばせるだけで、庶民や中小企業には何らメリットはない。
 また独立行政法人も、国立病院や公団住宅や奨学金をはじめ、本来は国営できちんとやるべき領域がほとんどである。昨年、よく調べもせずにただ天下りが多いという理由で独法を全部廃止しろと放言した左派系のジャーナリストを批判したことがある。行政のコストという点ではもはや「無駄」などないと思ったほうがよい。
 宇宙基本法案が危険なのは、宇宙開発という極めて軍事色が強く、しかも納税者への見返りが薄い分野への支出増加を義務付けていることで、これは「本当の無駄遣い」なので私は反対しているのである。

 少し前に国家財政に「埋蔵金」があるかどうか論争があったが、前述した軍事費のようなものを除けば、「埋蔵金」と言えるものはないというのが私の立場である。最近は「地方分権」とか「道州制」を口実にさらなる歳出削減路線が進行しつつあるが、主権者の側がただ「増税反対」とか「行政のコストカット」とか言っている限り、これらの策謀を破ることはできない。
 「もう歳出を減らすな、金持ちに増税しろ!」と言うのが唯一の正解である。

【関連記事】
消費税増税問題リンク集
独立行政法人には必要な業務がたくさんある
ハローワークさらに削減へ~公務員減らしは行政サービスを悪化させるだけ
「道州制」は新自由主義の隠れ蓑
「ムダ・ゼロ政府」構想は行政の責任放棄
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-05-17 22:41

消費税増税の不当性

 日本経団連が基礎年金の全額税方式を打ち出したり、消費税=社会保障目的税論者の与謝野馨氏がやたらとメディアに露出したりするなど、いよいよ年金目的を口実にした消費税増税への動きは不可避の状況を迎えている。
 この問題は支配層において「消費税増税と大企業の負担の軽減」というゴールだけはとっくに決まっていて、あとはどうやって有権者を騙していくかという方法論の相違と、企業負担の軽減方法の相違(全額税方式にして企業の保険料負担を廃止するか、消費税増税で浮いた財源を法人税減税に使うか)があるにすぎない。与謝野氏は『週刊東洋経済』3月29日号で「法人税を低める圧力はあっても、税率を引き上げる理屈は見つからない」と断言しており、その点では竹中平蔵氏ら「上げ潮」派と全く変わらない。大企業の負担を庶民に転嫁するという点では完全一致しているのである。

 以前某所で、収入にかかわらず月額固定という超逆進的な国民年金の保険料を廃止して消費税に切り替えた方がましではないかという意見があったが、この見解は年収の14%強一律負担の(つまり定額ではない)厚生年金を考慮していないだけでなく、現在消費税の4割以上を地方に回していることや、消費税の使途が基礎年金だけではないことを失念しているという問題がある。実際、現在出ている年金=消費税論は「保険料を廃止して消費税で基礎年金すべてをまかなう」か「保険料を維持して国庫負担分(現行3分の1、来年度以降は2分の1)をすべて消費税でまかなう」かのどちらかである。
 昨年度の場合、地方消費税を除く消費税収が約10兆6000億円、うち地方へ回した分を除いて国に残ったのは約7兆5000億円。対して基礎年金給付総額は約19兆円、うち国庫負担は約6兆6000億円。しかもほかに老人医療に約4兆2000億円、介護に約1兆9000億円かかっていて、これらの主要な財源が消費税である。仮に消費税を10%にしても基礎年金を全額賄うことなどできない。無理に「基礎年金=消費税のみ」を断行すれば、よほどの大増税になるか年金以外の社会保障の歳出を削減することになりかねない。一方、現行の保険料を維持したまま、国庫負担分に消費税を充てる場合、逆進性が強化されるのは言うまでもない。

 そしてここが重要なのだが、増税しても1人当たりの給付は増えない。増税する一方で給付を増やす予定が全くないのである。ましてや現在年金保険料を支払えない貧困層にとっては、消費税増税はいわば「強制徴収」と同じ役割を果たす。それでいて貧困層は支払期間の不足により、受給年齢に達しても年金の給付を受けることができないか、雀の涙ほどの給付しか受けられない。非正規労働者の大半が高齢者になった時に生活保護受給者になると言われる所以である。
 保険料制度維持派も全額税方式派もこの問題について今のところ何ひとつ有効な方策を提示していない。たとえば加入履歴を無視して全員に年金給付を保障するというような案を出す気はさらさらないのである。そもそも年収200万円とか100万円の貧困層にとっては、消費税が1%引き上がるだけでも死活問題である。消費税増税は新たな「官製貧困」の拡大でしかない。

 現在の景気後退の主因は、原油や穀物の世界的な高騰に端を発した物価上昇によるコスト増だが、それを考慮すれば最大の景気対策は消費税の減税もしくは廃止である。法人税の減税では一部の企業にしか恩恵はないが、消費税の減税はすべての企業に波及し、家計にも恩恵がある。減税分は所得税の総合課税化及び累進強化と相続税の課税ベースの大幅拡大でいくらでもフォローできる。
 消費税問題の本質は、「大企業が応分に税負担」対「経済的・社会的弱者ほど重い負担」という対立である。しつこいようだが「歳出削減でも消費税増税でもなく、金持ち増税を」である。まずは「財源が消費税しかない」というウソを見破ること。

【関連記事】
消費税増税問題リンク集
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-05-16 20:18

「国の財政は夕張より悪い」は欺瞞

 財政大臣の諮問機関である財政制度等審議会の財政構造改革部会は今日会合を開き、2009年度予算編成ための議論を始めた。各報道によれば、財務省は国の「実質公債比率」が財政再建団体になった北海道夕張市よりもはるかに高く、より深刻な財政危機にあるという試算を部会に提示したという。
 「構造改革」という名の庶民搾取強化路線に対する怨嗟が広がり、歳出における社会保障費の削減が続いた結果、医療も福祉も崩壊に瀕している中で、改めて財政危機をアピールすることで、さらなる歳出削減への理解を求めたと言えよう。

 まだ今回の財政審の資料を精読していないので詳細は不明だが、報道を読む限り、財務省の試算は国の債務と地方自治体の債務の質的な相違を隠蔽して、我々「素人」をだましていると言わざるをえない。
 国の債務はいざとなれば国債保有者へ債券相当分の課税を行えばすぐにでも解消できるが、債権者が当該地方住民とは限らない地方債はいわば「対外債務」なのでそうはいかない。公債比率では国の方が深刻な赤字だが、破たんリスクという点では地方の方がはるかに深刻である。やる気さえあれば「金持ち増税」でいつでも赤字を解消できる国家財政と、国の支援がない限り永遠に借金を背負わされる地方財政を同列に語るのは欺瞞である。
 「将来への負担転嫁」を回避するため均衡財政が必要であるというのが財務省やその腰巾着たちの主張だが、これ以上歳出削減路線が続けば、もはや我々に「将来」などない。プライマリーバランスが均衡になったとき、社会が崩壊し、荒野に死屍累々というさまになっていては本末転倒である。

 読売新聞(2008/04/18 12:57)によれば、財務省は地方交付税を縮小するため、消費税率引き上げを前提に地方消費税を増税する地方財政「改革」案も提示したというが、この国の財政関係者たちの多くはいつも歳出削減と言えば社会保障を狙い撃ちにし、歳入増加と言えば逆進税の消費税を頼る。いいかげん消費税しか財源がないような議論はやめるべきだ
 なぜ歳出では軍事費や公共事業費を問題にしないのか。なぜ歳入では所得税や法人税や相続税を問題にしないのか。「聖域なき構造改革」と言いながら実際はこれらを「聖域」にしているのである。この問題について私はいまだに納得できる説明にお目にかかったことがない(経済対策なら法人税減税より消費税廃止の方が全企業に波及するという点ではるかに効果的だ)。
 本気で財政再建を目指すのなら、庶民にばかり「痛み」を押し付けずに、金持ちや大企業への負担増を真剣に検討せよ。貧者に増税しておいて、貧者の生活のための歳出を削減するのでは財政民主主義に反する。

 財政の役割については、東京大学大学院教授の神野直彦氏が最近次のように述べている。
 財政の使命は「市場の失敗(market failure)」に対応するだけではない。公共と民間、豊かさと貧しさ、仕事と生活などで生じているアンバランスを回復するラーゴムと、「悲しみを分かち合う」生活共同体を育成することにもあるのである。 (神野直彦「三つのドグマを打ち破ろう」『世界』2008年4月号) 
 *「ラーゴム」=スウェーデン語の「ほどほど」の意。
 財務省や財政審の現在の路線は「アンバランス」を拡大し、「悲しみ」を経済力のない人々だけに押し付けているとしか思えない。今一度、原点に戻って財政の社会的使命を自覚するべきだろう。

【関連記事】
消費税増税問題に関するリンク

【関連リンク】
財政制度等審議会 財政制度分科会 財政構造改革部会(平成20年4月18日開催)資料一覧:財務省
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-04-18 17:45

OECD「対日経済審査報告書2008」について

 経済協力開発機構(OECD)が2008年の「対日経済審査報告書」を発表した。
 新聞報道では正規・非正規雇用差別の是正を促進したことが強調されていたので(たとえば東京新聞2008/04/07夕刊)、てっきり新自由主義路線の修正を促す内容なのかと思って原文の要旨を読んだらたまげた。まるで竹中平蔵氏と与謝野馨氏のそれぞれの議論をつまみ食いしたような内容だったからだ。

 全6章から成る報告書のうち、労働市場について述べているのは最後の第6章だけで、後は専ら規制緩和と財政再建の立場からの「庶民の痛み」を伴う提言ばかりである。
 その労働市場改革の提言も非正規雇用の増大が「公平と効率の面で深刻な懸念を惹起している」としつつ、「正規労働者の雇用弾力化」(正規雇用の保護規制の柔軟化)を主張しており、非正規雇用待遇の正規化=「引き上げ」による均等化ではなく、正規雇用待遇の非正規化=「引き下げ」による均等化を容認している。これでは雇用待遇差別の根本的解消につながらないことは言うまでもない。

 財政再建問題については依然として「均衡財政のドグマ」(東京大学大学院教授の神野直彦氏による)にはまった徹底した歳出削減を提唱している。
 公共投資や公務員人件費の削減を高く評価し、さらなる削減を求めている。公共投資の減少が地方経済を疲弊させ、公務員人件費の削減が非正規雇用の公務員を増やし、生活を不安定にさせると同時に行政サービスの低下を招いたことは、もはや常識の範疇に含まれるのにもかかわらず。
 また、公的医療支出を抑制するために、「民間部門の関与をこれまでより広く認めるといった規制改革」を要求している。現在の医師不足や国民健康保険の赤字財政の原因は公的医療支出の減少にあることを全く理解していない。これが「国民皆保険制度」の崩壊をより悪化させることも言うまでもない。

 税制については、所得税と消費税の増税を促す一方、法人税率の引き下げを提起している。
 消費税増税の問題性は当ブログでは何度も書いているのでここでは繰り返さない。OECDは法人税の課税ベースを拡大した上で税率の引き下げを提起しているが、これは実質的には中小企業の負担を増やし、大企業の負担を減らすことを意味する。現在、法人収入が史上最高とはいえ、大企業と中小企業の格差は拡大している。大企業からのコスト削減要求のために中小企業の経営はいっぱいいっぱいであり、その上税制でも不公正を拡大すれば、とても立ち行かない。
 OECDは財政再建路線と法人税引き下げの矛盾について「法人税率引き下げによる税の減収は、投資の伸びと企業部門の拡大といったサプライサイドからの効果によって一部は相殺できる」と、相殺効果が「一部」にすぎないことを認めている。

 サービス部門の競争強化を要求しているのも問題だ。大規模小売店舗の「参入障壁」の排除、電力やガスのような公共企業間の競争促進、空港の民営化、教育・医療における民間委託の推進などを求めている。郵政民営化のプロセスも計画通り進めるべきだと主張している。ここまで来ると、もはや経済財政諮問会議や規制改革会議の議論と変わらない。

 評価できるのは「死亡件数の4%しか課税されない相続税を強化する」という部分くらいである。少なくとも今回の報告書に関して新聞報道は当てにならない。OECD報告書を雇用待遇問題の資料として使うのは危険を伴うことを指摘しておきたい。

【関連リンク】
Economic survey of Japan 2008-OECD
OECD対日経済審査報告書2008年版*PDF
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-04-08 13:10

福祉国家派の消費税増税論と「北欧モデル」についての私見

 どうも最近、消費税増税を容認する福祉国家を推進する左翼系ブログが目につく。それらの議論はいずれも「高負担・高福祉」の「北欧」モデルの導入を想定している。スウェーデンは付加価値税25%だが、所得の平等度は高い。その事実が消費税増税と引き換えの社会保障給付の充実という政策思想の前提になっている。

 「北欧」モデルについては、今年に入ってから関係書籍を随時読んでいるのだが、知れば知るほど、日本と北欧諸国の「背負っている歴史」の違いを思い知らされる。スウェーデンでは早くも1910年代に社会民主党政権が成立している。2度の大戦にも中立を堅持した。一方、その頃の日本は戦争を繰り返し、社会主義は徹底的に弾圧された。90年以上、終始社会民主主義政党が第1党だった国と、保守政権が140年近く続く国を同列にはできない。
 スウェーデンで売上税(消費税に相当)が導入された時、すでに年金も児童手当も住宅支援も今の日本より充実していた。福祉国家が先にあった上で、消費税は後から導入されたのである。ところが日本では消費税を先に増税して、それを原資に福祉国家の実現を図ろうというのである。この違いは非常に大きい。

 こういうと例えば山口二郎氏(あるいは消費税増税派のブログ書き)あたりは、それではいつまでたっても福祉国家は実現しないと言うのだが、私に言わせれば、消費税増税で貧困層の生活が成り立たなくなることこそ、福祉国家の実現を阻害する。
 福祉国家が持続するためには、できるだけ多くの人々が税を負担しなければならない。そのためには、まず所得の平等度を高めることが必要であり、消費税は当面減税ないし廃止することが望ましいとさえ考える。

 消費税というのは、十分な所得再分配システムができてからならば、国家の構成員全員が負担しうる(人間は生きている限り必ず消費するため)という点で実は民主的な税であるが(国家に納税することで、国家に対する権利は明確になる)、再分配効果を高める政策が何一つ実施されていない現状では、逆進性の極めて高い消費税は完全に有害なのである。
 そして、ここが重要なのだが、国家による富の再分配効果は1年や2年というレベルではなく、2世代くらいの時間がなければ確かめることができない。「平等」とは動態的なものであり、個々人の全生涯を見なければならない。ある1年だけ取り出しても、社会の平等性が高いかどうかは本当のところはわからない。現在の雇用における正規・非正規間格差の問題も、ある時点では中には非正社員の方が正社員より手取り収入が多い場合があるが、生涯所得では大きな開きがある。実際に不平等を是正するには、長期間の取り組みが必要なのである。

 日本の現在の政治状況や社会構造を考えると、消費税を主体とした税制は50年以上先の課題である。今、消費税の引き上げをどんな目的であれ唱えるのは、結局のところ法人税減税の財源として消費税増税を目論む財界に利用されるだけだろう。
 しつこいようだが、必要なのは所得税の最高税率引き上げと累進回復と分離課税廃止、相続税の対象範囲拡大、法人税の復旧である。「歳出削減でもなく、消費税増税でもなく、金持ち増税を!」。貧困からの脱却にはそれしか道がない。

【関連記事】
消費税増税問題に関するリンク

【関連リンク】
消費税論議を吹き飛ばす、相続税改正の大きなパワー/SAFETY JAPAN[森永卓郎氏]/日経BP
森永卓郎氏による相続税改正論。相続額2000万円以上に100%の相続税をかけると国の歳入全てを賄えるという試算。現実的ではなく問題もあるが、財源は消費税以外にいくらでもあるという事実に注目してほしい。
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-03-09 16:03

私が禁煙派なのにたばこ増税に反対する理由

 日本学術会議がたばこ税の大幅引き上げを厚生労働省に提言した。以下、毎日新聞(2008/03/05朝刊)より。
(前略) 学術会議は、たばこの規制に関する分科会(大野竜三委員長)で、06年6月から検討してきた。提言では自動販売機の設置禁止、喫煙率削減の数値目標設定のほか、たばこ税(1箱当たり189円)を現在の2倍程度にすることの検討を求めた。この場合、年間消費量は現在の約2700億本から4分の1減少、喫煙者数は少なくとも200万人減少すると試算した。一方、税収は年間約2兆3000億円から約1兆2000億円増えるという。(後略)
 私はたばこを吸わないだけでなく、日頃の実生活で嫌煙権を主張しているくらいなので、日本学術会議が主張する「脱タバコ社会」という目標そのものには全く異論がない。たばこ自動販売機の設置禁止も未成年の喫煙を防止する上で必要だと考えている。

 しかし、たばこ税の増税はいただけない。禁煙派は一般にたばこ増税には無条件で賛成する人が多いが、私は一貫して反対している
 「税が無駄遣いされるから」ではもちろんない。私が基本的に「大きな政府」論者であることは、当ブログの税制や社会保障関係の記事にいつも書いている通りである。私がたばこ税の増税に否定的なのは全く別の理由からである。

 それは喫煙の本質が「依存症」である以上、いくらたばこの価格が上がっても重度の喫煙者がたばこをやめることはないからである。本当のヘビースモーカーはたとえ価格が倍になったところで喫煙をやめることなどできない。ニコチン依存症とはそれほど重い「病気」だからだ。
 たばこ増税論はあくまでも喫煙者=ニコチン依存症患者がたばこをやめないことを前提に、税収を増やそうとする方策である。いわば病人の弱みにつけ込んだ懲罰的な徴税である。税は年貢ではない。税を負担する以上は、当然見返りがなければならない。現在のたばこ税では納税者たる喫煙者に何も恩恵はない。

 むしろ財政に求めるべきは、ニコチン依存症治療促進のための歳出増大である。現在、禁煙は専ら個人の「自助努力」に委ねられている。しかし、本当に「脱タバコ社会」を目指すならば、いつまでも喫煙者任せにはできない。喫煙者が積極的に依存症を治せるよう、財政支出を増やさなければならない。具体的には禁煙治療への医療費助成や保険適用範囲の拡大である。
 ちなみにたばこ税をその財源に使うことはできない。それでは喫煙減少のための財源を増やすために、喫煙を増やすという二律背反になってしまうからだ。たばこ税の税収が大きくなるほど、喫煙者を減らす財政上の必然性がなくなってしまう。故に真の禁煙派はたばこ増税に反対しなければならない。

 禁煙派はたばこに対する憎悪のあまり、つい喫煙者への差別と懲罰に傾きがちだが、喫煙者はあくまでも治療が必要な病人であることを考慮してほしい。私は本気で喫煙習慣を撲滅したいからこそ、たばこ税の増税に反対し、喫煙者の禁煙治療に対する財政出動の強化を求める。

【関連リンク】
要望 脱タバコ社会の実現に向けて-日本学術会議*PDF
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-03-05 17:22

「金持ち増税」論は少数意見ではない~山口二郎・宮本太郎共同論文を読む

 常連読者はまたかと思うだろうが、私は本来しつこいので、何度でも繰り返す。
 消費税の増税は低所得層の生活を完全破壊し、物価高騰と合わせて短期的にも中長期的にも国内市場を縮小させ、日本社会を破綻に導く「悪魔のカード」である。消費税を社会保障目的税にしようと、年金特定財源にしようと、社会の不平等拡大という事実は消えない。もちろんだからと言って「構造改革」派の言うような増税せずに歳出削減を徹底するという思想にも与することはできない。軍事費や特定の巨大企業への補助金を削減するなら大賛成だが、実際は社会保障費や医療費ばかりが削減された。総量としての「歳出削減」は完全に誤りである。
 必要なのは所得税の累進強化と分離課税の廃止、法人税・相続税の増税であり、「構造改革」によって一握りの資本が不当に労働者から搾取した富を取り返す措置が必要である。企業業績の悪化? 労働意欲の減退? 本当にそうなるか実際にやってみようじゃないか。やりもせずにそんな脅しは通用しない。だいたい少なくとも私は、我々低所得階級を踏み台にした経済成長より、貧しくとも平等な社会の方を選びたいのだ。

 こんな私見が決して少数意見でも非現実的意見でもないことを、今月発売の『世界』3月号に掲載された北海道大学大学院教授の山口二郎宮本太郎両氏の「日本人はどのような社会経済システムを望んでいるのか」と題する論文が明らかにしている。現在の社会経済情勢に対する認識や将来望む社会像を問うた世論調査の結果の紹介とその分析で、世論調査の方は皮肉にも山口氏の消費税増税容認論にとって不都合な(私には好都合な)結果が出ている。
 この世論調査は『世界』では明示されていないが、私の記憶が確かなら、北大が科研費を受けて長期的に行っているもので、過去にも何度か総合誌に紹介されていたはずだ。RDD法による調査で、標本数は全国で1500だという。

 調査結果の詳細は『世界』を参照されたいが、社会保障と税制の再構築にかかわるのは次の2点である。
 第1は「日本のあるべき社会像」の質問で、①アメリカのような競争と効率を重視した社会、②北欧のような福祉を重視した社会、③かつての日本のような終身雇用を重視した社会、の3択である。結果は①6.7%(自民党支持者では6.3%、民主党支持者では5.5%)、②58.4%(自50.3%、民61.3%)、③31.5%(自41.4%、民31.5%)だった。
 支持政党にかかわらず、アメリカ型競争社会への忌避感が強く、特に民主党支持層で「北欧型」福祉国家への待望が強いという結果から、山口・宮本両氏はこれを「北欧型福祉社会モデルへの期待」と評価しているが、それはやや誘導尋問の疑いが残る。③に「かつての日本のような」という「守旧」ないし「復古」というマイナスのイメージを想起させる枕詞を付けることで、市場原理主義に不満を持つ層を「北欧型」に誘導しているのではないか。実際は「1億総中流」(客観的にはまやかしであっても)の記憶をもつ人々にとっては、終身雇用を前提にした企業共同体型と「北欧型」の区別は不明瞭だと私は考えている。「北欧型」の「分配度の高さ」に注目しているのか、「高負担による高福祉」に注目しているのか、より詳細な分析が必要だろう。

 第2は「社会保障の財源」の質問で、①消費税率の引き上げはやむを得ない、②消費税ではなく、法人税や所得税など裕福な人や企業に負担させるべき、③行財政改革を進めるなど国民の負担を増やす以外の方法を採るべき、④そもそも今の社会保障で十分、の4択である。結果は①17.5%(自民党支持者26.5%、民主党支持者15.3%)、②35.4%(自35.4%、民37.6%)、③44.0%(自35.0%、民45.9%)、④2.0%(自2.3%、民1.2%)だった。
 自民党支持層の4人に1人が消費税増税に賛成してはいるが、むしろ自民党支持層も含めて企業・富裕層への増税を支持する人々が相当多いことに着目すべきだろう。歳出削減路線の支持層よりは少ないが、35%以上というのは無視しえない比率である。前述した私の見解が決して少数意見ではないという根拠はこれである。
 一方、民主党支持層の半数近くが歳出削減路線を支持しており、この結果は特に民主党政権による福祉国家路線を目指す山口氏には都合の悪い結果だろう。さすがに「増えてもよい負担とは、法人税や裕福な人が払う所得税であり、一般庶民が払う消費税ではないという解釈をするしかないであろう」(太字強調は引用者による、以下同じ)と消費税増税に未練たっぷりながら、それがまったく支持されていない現状を認める解説を付している。消費税増税論が「構造改革」路線の対立軸にならないことは明白である。

 山口・宮本論文の問題点はこの結果にもかかわらず、強引に新自由主義と社会民主主義の2大政党制が完成しつつあるという牽強付会な結論を提示していることにある。彼らは語る。
 我々は小泉時代の新自由主義政策に反対であるが、この時代の構造改革によって、二大勢力の対決という政策論議の空間ができたことで、日本の政党政治が進化したと考えている。
(中略)
90年代から始まった政治改革や政党再編の試行錯誤は、最終段階に入った。右側に新自由主義をとる保守政党、左側に福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党が対置するという世界標準の二大政党制の姿がようやく現れつつある。
 前述の世論調査からどうしてそんな結論になるのか。むしろ民主党支持層が一方で福祉国家を待望しながら、他方で増税には抵抗感を示し、さらなる行財政改革(歳出削減)を求めるという矛盾した姿は、とうてい民主党が「福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党」になりえていないことを証明している(ついでに言えば自民党も「新自由主義をとる保守政党」になりきれていないのは現在の道路特定財源問題を見ればわかる通りだ)。
 現に両氏も論文の別の箇所で「行政不信に満ちた福祉国家志向」という言葉でこの現象を説明している。つまり依然として現在の民主党支持層が新自由主義に心動かされる可能性が十分にあり、目の前の既得権益の解体というエサが示されればそれに飛びつく恐れが濃厚なのである。

*ついでに言えば、この結果からは二大政党制の下では意見が3つ以上に分かれた場合、必ずどれかが政策論議から漏れてしまうことも示唆している。仮に中選挙区制のままだったら、自民党は新自由主義路線と利益誘導型路線に分裂していただろう。小選挙区制を導入したことが自民党長期政権の打倒を難しくしたのは間違いなく(現に細川連立政権は中選挙区制だから誕生できた)、その点でも特に二大政党制を推進した山口氏の罪は大きい。

 いずれにせよこんな状況を打開するには、福祉国家派が消費税増税論を完全放棄することであり、歳出・歳入の両面で不公平を抜本的に是正する財政方針を明確に示すことである。消費税増税も歳出削減も「庶民への負担増」である。故にはっきりと「金持ち増税」を打ち出すべきであり、それが自民党支持層をも含め相当な支持基盤があることを今回の調査は実証したのではないか。現在「金持ち増税」を明確に主張しているのは共産党だけだが、民主党に必要なのは少なくとも財政問題において共産党に近づくことなのではないか。
 山口・宮本両氏、特に民主党の政権獲得に命を賭けている山口氏は当然このことを考慮しなければならない。

【関連記事】
「歳出の公平性」だけでなく「歳入の公平性」も必要だ
社会保障の財源が消費税でなければならない理由はあるのか
消費税増税問題に関するリンク
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-02-15 21:43

民主党は「構造改革」を継承する気か

 昨年の参院選で自民・公明両党が大敗したのは、小泉・安倍政権下の「構造改革」という名の生活破壊政策に対する民衆の不満が爆発し、民主党が唱えた「生活第一」というスローガンに一定程度期待が寄せられたからにほかならなかった。
 しかし、選挙後の臨時国会で、民主党は最低賃金法改正であっさりと公約を捨てて与党の軍門に下り、その「生活第一」を実現する意欲を疑わせた。さらに昨年末には民主党税制調査会が「税制改革大綱」で、消費税の社会保障目的税化を前提とした引き上げを示唆し、これは党のシャドーキャビネットも了承した。民主党の信者以外の誰もが、これでは自民党とほとんど変わらないと考えざるをえない状況が続いている。
 そして昨日、民主党はついにルビコン川を渡ってしまったことが明らかになった。以下、時事通信(2008/02/07 15:11)より(太字強調は引用者による)。
 民主党は7日の予算調査会で、党の財政運営の基本理念をまとめた「予算機能転換法案」の要綱を決定した。消費税率を据え置く一方、徹底した歳出削減に取り組むことで、国の一般会計単独でプライマリーバランス(基礎的財政収支)の2011年度黒字化を目指す。政府・与党よりも高い目標を掲げ、財政再建に向けた強い姿勢を打ち出した。
 民主党は同法案を「政権取得後のマニュフェスト(政権公約)的な予算案」(中川正春「次の内閣」財務相)と位置づけ、今国会に提出する方針。ただ、財源確保の面であいまいな点が多く、説得力のある歳出削減策を打ち出せるかが今後の大きな課題となる。
 基礎的財政収支は、借入金を除いた歳入から借入金返済に関する費用を除いた歳出を差し引いて算出され、政策経費などが借金に頼らずに賄えているかを示す指標。国の一般会計の場合、08年度は5.2兆円の赤字になる見込みだ。政府・与党は、国の赤字を地方の黒字が穴埋めする形で、国・地方合計で11年度の黒字化を目指しており、「国の一般会計単独での黒字化」を掲げた民主党案の方がより厳しい財政改革が必要になる。
 民主党が2011年度までのプライマリーバランスの黒字化を目指す予算機能転換法案を準備していることは、すでに先月報じられていたが(共同通信2008/01/22 13:45など)、今回の決定で民主党が当面は歳出削減路線を強化する方針がはっきりしたと言えよう。これまで政府の経済財政諮問会議が行ってきた路線と同じであり、国が行うべき仕事を放棄する「小さな政府」の立場である。
 消費税の税率を据え置くとしているが、先の「税制改革大綱」でも税率の引き上げは消費税の社会保障目的税化を実現してからと明示し、当面は「消費税率は現行の5%を維持した上で、税収全額相当分を年金財源とする」と述べており、両者に矛盾はない。つまり歳出削減路線を採るからと言って、消費税増税路線を放棄したわけではないことを意味する。そこを見誤ってはならない。

 山口二郎氏が最近消費税増税も視野にした福祉国家論をしきりに唱えていたのは、おそらく民主党の歳出削減路線を採用する動きに対する牽制の意味合いがあったのだろう。しかし、消費税増税では歳出削減に対する牽制には決してなりえない。なぜなら歳出削減論者は根本的に消費税増税を否定しておらず、むしろ消費税増税の露払いとして歳出削減を行っているからである。そして消費税増税も歳出削減も「庶民いじめ」という点では全く同じである。
 政府はすでに福田康夫首相が再三消費税引き上げを示唆しており、自民党内の議論は消費税増税の可否ではなく、消費税引き上げを既定とした上で、年金の保険料方式を維持するか、税方式をどの程度導入するかといった段階に移っている。新自由主義の巣窟と目される経済財政諮問会議も、昨年来とっくに消費税増税の世論操作を始めている。そんな状況で民主党が歳出削減を前面に打ち出すのは、小泉・安倍時代と所入れ替わり、まるで民主党が「構造改革」路線を継承するようなものである。それが参院選の民意と矛盾するのは言うまでもない。

 消費税増税路線も歳出削減路線も「貧困と格差」を解消する方向性をもっていないことは明らかである。必要なのは、歳入においては逆進性の是正と累進性の回復、歳出においては削減ではなく配分の変更である。
 なお、私は以下の財政論を支持している。
 全国商工新聞 第2816号 私たちの主張-全商連(太字強調は引用者による)
(前略) 消費税に頼らなくても財源はあります。資本金10億円以上の大企業の経常利益はバブル期のピークだった1990年度の18・8兆円から2006年度には32・8兆円と史上最高を記録しました。しかし、税負担は13・9兆円から13・7兆円とほぼ同水準にとどまっています。法人税がかつては40%以上だったのが、現在30%に引き下げられた上に、連結納税制度、研究開発制度など大企業に有利な減税制度によるものです。
  法人税を当面、消費税導入前の40%にもどせば5兆円以上の財源が生み出せます。現在40%である所得税の最高税率を引き上げることも必要です。また、利権にまみれて水増しが横行している5兆円もの軍事費、毎年300億円も支給されながら使い切れない政党助成金など、見直しするべきところはたくさんあります。いま問題となっている道路特定財源を一般財源化することや、10年で59兆円も使うことが決まっている道路計画も再検討することが必要です。(後略)

【関連記事】
消費税増税問題に関するリンク
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-02-08 17:29

社会保障の財源が消費税でなければならない理由はあるのか

 以前、北海道大学大学院教授の山口二郎氏の消費税増税を含む財政論をブログで批判したことがあったが、その要点は氏が歳出の公平性は重視するのに、歳入の公平性を軽視していることだった。そうした批判は方々から出ているようで、『週刊金曜日』2月1日号で氏が反論していた。社会保障の財源がなぜ消費税でなければならないのかという問いには全く答えず、はっきり言って失望させられた。
 『金曜日』の記事は山口氏のブログに転載されている。
 YamaguchiJiro.com|08年2月:どのような日本を造るのか

 「私は、西ヨーロッパ型の福祉国家モデルを日本も採用すべきだと考えている。また、環境保護のためには経済成長をある程度抑制しなければならないとも考えている。日本の現状を見て、財務省と経済財政諮問会議およびその周辺にいるいかがわしいエコノミストの言う歳出削減路線が、社会保障を壊し、格差を広げたと憤っている」(太字は引用者による、以下同じ)という事実認識と目指す方向性に異論はない。歳出の総量を削減する必要は全くなく、現在の「小さくなりすぎた政府」を「大きな政府」とまでは言わずとも「ほどよい政府」くらいにはすぐにでも拡大しないと、日本社会の持続可能性は消滅すると私も考えている。
 問題は次の箇所である。「先日も、札幌の市民派ローカル政党を支持する市民と話をしていて、医療、介護に行政が責任を持つならもっと税金を払ってもいいけれど、今の政府は信用できないから増税には反対だという、市民派がよく言う主張を聞いた。しかし、信用できる政府を作ったうえで増税に応じるなどという話は、百年河清を待つ類である。新自由主義者や財務省は、政府は常に信用できないものだから、いつも小さいままでいいのだと、この種の議論を逆手に取る」と、「信用できる政府」は決して生まれないというシニシズムを前提にした議論を展開するのである。
 私はその対話の席にいたわけではないので、実際のところどのような話だったのか不明だが、福祉国家への具体的な道筋と具体的な予算配分を明確に公約した政府のもとでなければ増税を容認できないというのであれば正論である。道路特定財源で在日米軍の将校用住宅を作っているような(しんぶん赤旗2008/02/02による)政府が、いくら口先だけで「社会保障を充実します」と言っても誰も信用しないのは当然だ。これまで負担増のたびに私たちは裏切られ続けた。実際に増税を先行して社会保障に使われなかった時(後述するようにその可能性が非常に高い)、山口氏はどうやって責任をとるつもりなのか。

 一方で、氏は「私は、今すぐ消費税率をあげろといっているのではない。所得税の累進性の回復や相続税の増税など、公平の観点から先にすべき増税が何種類かある」とも述べているが、まさにその点こそ現在直面している課題であり、なぜその主張を第一に掲げないのか疑問だ。たとえ「将来」と限定していても氏のようなオピニオンリーダーが消費税増税を口にすることが、いかなる政治的効果を与えるかを知らぬわけではあるまい。社会保障の財源が消費税である必要は何もない。所得税でも法人税でも相続税でも構わないはずだ。
 山口氏は「消費税増税による財政再建か、歳出削減による財政再建か」という議論にとらわれすぎているように思える。しかし、実態はこの両者に違いはない。その証拠に日本経団連をはじめ財界団体はさらなる歳出削減を主張すると同時に、消費税増税も唱えている。彼らの目論見は消費税増税によって企業減税の財源を作ることにある。こうした動きを粉砕するには「庶民増税か、金持ち増税か」という次元の異なる対立軸を提示することであり、それは氏のような影響力のある政治学者の仕事である。

 最近の「北欧」ブームも含めて、私が何よりも不安なのは、現在の貧困層を切り捨てた上での福祉国家構築の動きである。消費税が引き上がれば、貧困層の家計は大打撃を受け、年金や健康保険の保険料を負担できなくなり、社会保障制度の枠外にはじかれる。山口氏が唱えるようにいくら増税で医療も教育も無料にすると言っても、増税と社会保障制度の充実にはタイムラグが生じる。増税の瞬間に確実な社会保障給付が行われでもしない限り、貧困層は生存権を失う。
 実は福祉国家構築の最も手っ取り早い方法はまさにこれで、社会保障の負担ができずに給付を受けるだけの貧困層や高齢者を死滅させ、残った現役の中産階級以上の人々だけで「高負担・高福祉」を実現する。かつて北欧諸国がマイノリティーに対する断種政策を行ったように、あらかじめ「税を負担できず給付を受けるだけの存在」を消し去りたいのではないかという疑問が拭えない。「社会保障充実のための消費税増税」というレトリックの影にそんな企図を読み取るのは穿ちすぎだろうか。
 今、何よりも必要なのは、所得格差の縮小である。所得の平等度を高めない限り、「高負担・高福祉」など夢のまた夢である。消費税の引き上げがそれに逆行するのは言うまでもない。

【関連記事】
「歳出の公平性」だけでなく「歳入の公平性」も必要だ
消費税増税問題に関するリンク
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-02-03 17:03

北国の本音は、ガソリン<道路<灯油

 通常国会が開幕したが、なぜか揮発油税の暫定税率の存廃が「最大の争点」ということになっている。3月で暫定税率を定めた租税特措法の期限が切れるからだが、政府・与党は暫定税率の10年延長に固執する一方、民主党は暫定税率の廃止でガソリンの価格が1リットルあたり25円下がると喧伝し、貧困問題も年金問題もそっちのけでこの問題に血眼である。
 そもそもこの問題の焦点は小泉政権の頃から道路特定財源の存否だったはずだが、微妙に問題がずらされている。道路特定財源は揮発油税だけではなく、自動車重量税石油ガス税もあり、それらを包括した議論が必要だがそうはなっていないのが実情だ。

 暫定税率廃止によるガソリン値下げはおおむね歓迎されそうだが、地方では道路建設の停滞を心配する声が多いのも事実である。これは何も既得利権の擁護ばかりではない。地方では依然として自動車事故のリスクが高い山道や峠があり、またすでに途中まで建設された自動車道路を放置されるのも困る、というのは地方在住者の正直な思いである。私は道路特定財源の一般財源化には賛成だが、十把ひとかけらで「道路はいらない」という暴論は容認できない。
 問題はどの道路が必要でどの道路が必要でないかを公正に決定するプロセスがなく、今も道路族議員の政治的力学関係に左右されていることにある。客観的で合理的な方法をきちんと考えねばならないはずだが、なかなか進まない。

 ところで民主党はガソリン価格のことばかり熱心だが、北国に住む者にとってはガソリンよりも道路よりも切実な問題がある。言うまでもなく灯油の高騰である。
 原油価格の高騰が今も続くなか、中央の政治やメディアの世界ではガソリン価格のことばかり取り上げているが、北国では何よりも灯油の高騰に悩まされている。札幌市消費者センターの定例調査によれば、灯油1リットルあたりの平均小売価格の最近の変遷は次の通りである。
 石油製品小売価格推移表 灯油-札幌市消費者センター*PDF
10/10 80.44円
10/25 80.81円
11/09 85.71円
11/22 89.52円
12/10 98.62円
12/25 98.62円
01/10 98.66円
 12月以降、値上がり幅は落ち着いたが、それでも一貫して値上がりを続けており、昨年に比べて30%以上も高い。小売店によっては1リットルあたり100円を超えるところも少なくない。札幌は北海道で最も灯油価格が低いので、他の地域ではもっと高いことは言うまでもない。ちなみに北海道では灯油の盗難事件が相次いでいる。

 日銀札幌支店は1月8日付で灯油高騰が北海道の家計に及ぼす影響についてレポートを発表している。
 北海道金融経済レポート 灯油高が道内家計に及ぼす影響-日本銀行札幌支店*PDF
 それによると、灯油需要期である昨年11月から今年3月までの1世帯当たりの灯油支出額は13.2万円(1か月あたり2.6万円)で、前年度に比べ4割も増加している。また灯油の家計に占める割合は、消費支出30万円程度の世帯で1割近くに達する(一般に消費支出の低い家計ほど灯油の占める割合が多くなる)。灯油代の分は他の支出を抑制するしかなく、日銀は北海道全体の消費支出抑制額を1か月あたり170億円程度と試算している。
 ここでは北海道の資料しか示さないが、他の寒冷地でも家計への圧迫は同様だろう。新テロ特措法審議時、アメリカ軍に給油支援する余裕があるのなら我々の灯油を支援しろという声をずいぶん聞いた。

 ガソリンよりも道路よりも、高すぎる灯油をなんとかして欲しい。一部の自治体では生活保護世帯などへの福祉灯油を実施しているが、灯油高は全階層にまたがる切実な課題である。寒冷地以外の人々も他人事として突き放さないで欲しい。

【関連リンク】
札幌市消費者センター|石油製品
日本銀行札幌支店ホームページ
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-01-21 21:20