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政府によるまやかし~消費税・「思いやり予算」・生活保護・薬害肝炎

 この数日ニュースを読んでいると、政府によるまやかしがあまりにも多くて呆れてしまう。本当はそれぞれ個別の問題についてじっくり読み解きたいところだが、そんな暇はないので、簡単にまとめてコメントする。

 第1に、来年度の与党税制改正大綱。
 社会保障の主要な財源に消費税を充てると明記し、将来の引き上げも示唆した。社会保障費の増大に対応するため、消費税の増税が必要だというのが、政府・与党の一貫した言い分だが、全くのまやかしである。社会保障費を消費税で賄うということは、現在社会保障費に充てている消費税以外の財源を別の用途に回すということである。
 現に自民党の財革研の中間報告では、国家財政を社会保障とそれ以外に分けて、社会保障を消費税で賄うと提言している。これは現在の財源に消費税増税分を上乗せするのではなく、消費税以外の財源を社会保障以外の目的に回すことを意味する。その浮いた財源が公共事業に使われるか、軍事費に使われるか、企業減税に使われるかは不明だが(その財源を巡って権力闘争が始まるだろう)、「社会保障のための消費税増税」の真相は、消費税以外の現用の社会保障財源を分捕り合戦なのである。

 第2に、アメリカへの「思いやり予算」削減。
 日本が負担する在日アメリカ軍の駐留費用「思いやり予算」は3年間で8億円の減額が決まったが、これは成果でも何でもない。当初、日本側は年間1400億円の減額を要求していたこともあるが、むしろ問題は減額分のカネの行方である。
 「思いやり予算」は大枠では防衛関係予算だから、減額分8億円は枠を超えて他の分野に使われることはない。今回、日本側が大幅減額を要求したのも、その減額分でミサイル防衛を賄おうとしたからである。8億円は確実に軍事費に回る。すでに日米の軍事一体化が進んでいる以上、「思いやり予算」が減っても、日本の軍事費が増えるのではたいした違いはない。
 ついでに言うと、政府・与党からは、インド洋での給油活動からの撤退が、「思いやり予算」における日本の交渉力を弱めたという恨み節が出ているが、とんでもない言いがかりだ。アメリカ政府は日本が給油していようがいまいが、要求に手心を加えるような「優しい国」ではない。8億円でも減額に応じたのは、ここでゴネて日本国内の反米感情を高めるのは得策ではないと判断したからで、むしろ給油活動を実際にやめたからこそ、アメリカ側は折れたと言えよう。

 第3に、生活保護給付の引き下げ。
 厚生労働省は当初、生活保護基準を一律で引き下げようとしていたが、批判が相次ぎ、来年度予算で給付の総額を維持する方向転換をした。しかし、これは「引き下げの先送り」でしかない。小泉政権の置き土産である「骨太の方針2006」が毎年2200億円の社会保障費削減を定めている以上、来年度に引き下げを行わなくても、再来年度以降に引き下げが行われる。
 だいたい今回一律引き下げこそ見送ったものの、都市部では引き下げ、地方では引き上げるという小細工を弄している。都市部こそ最低賃金と生活保護の「逆転」が著しく、自立するだけの収入を得られない「ワーキングプア」が多いのに。あえて予言するが、今回都市部をまず引き下げておいて、次回に地方の平均給与が下がったとか何とかと難癖をつけて、地方の給付も引き下げる腹積もりだろう。まったくの子ども騙しだ。

 第4に、薬害肝炎問題。
 政府と製薬会社はなかなか全員の救済に応じないが、この問題については以下の記事を参照。
 薬害C型肝炎:「全員」でも補償可能 原告側分析-毎日新聞(2007/12/13 21:59)
 要するに政府が全員の補償に応じないのは、カネの問題ではなく、単なる面子の問題だということだろう(厚労省は患者リストを倉庫に放置した責任を結局自己免罪した)。

 近年の政府は、とかく論点のすりかえや肝心な事実の隠ぺいによって、大衆を騙そうとしている。もういいかげんにしてほしいものだ。
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by mahounofuefuki | 2007-12-14 16:41

生活保護切り下げ見送り? (追記:やはりまやかしだった)

 管見のところでは産経新聞しか報道していないが、政府が来年度の生活保護基準の引き下げを見送る方針を固めたという。にわかには信じがたいが。
 以下、産経新聞(2007/12/09 22:10)より。
 政府・与党は9日、平成20年度から引き下げを検討していた、生活保護費のうち食費や光熱費など基礎的な生活費となる生活扶助の基準額について、見送る方針を固めた。ただ地域間の基準額の差を実態に合わせ縮小するなどの微修正は行う。生活保護費全体の総額は維持される見通しだ。

 生活扶助基準額をめぐっては、厚生労働省の有識者検討会の報告書に基づき、20年度から引き下げが有力視されていたが、格差問題がクローズアップされる中、野党の反対は根強く、与党内からも「引き下げでは国民の理解が得られず、次期総選挙を戦えない」との声が広がっていた。
(中略)
 厚労省は「勤労意欲を減退させかねない」として、実態に合わせて来年度から基準額を引き下げる方針だったが、最低賃金の底上げに逆行するなど影響が大きく、野党だけでなく与党内からも疑問の声が続出。福田康夫首相も「政府部内や政党での議論を見て判断する」と述べ、引き下げを慎重に判断する考えを示していた。
 事実とすれば、相次ぐ批判の声が政府の既定方針を覆したことになるが、以前ブログで指摘したように、経済財政諮問会議の「骨太の方針」が生きている限り、生活保護の切り下げはいつでも起こりうる。
 仮に今回の予算編成で見送られても、翌年度に先送りになるだけの可能性が高く、依然として危険なことに変わりはない。また、来年度の生活保護に関する歳出総額が維持されるとすれば、代わりに別の社会保障分野の歳出が削減される危険性もある。「骨太の方針」が年間2200億円の社会保障費削減を義務づけているからだ。決して手を緩めることなく、政府の「社会保障つぶし」に対する反抗を続けなければならない。


《追記》

 読売新聞(2007/12/10 13:20)によれば、「厚労省は、級地の違いによる基準額の差の縮小を引き続き検討する方針だ」という。地域の物価水準により生活扶助額に差があるが、これを縮小するということだ。要するに地方に合わせて、都市部の生活保護給付を削減する可能性が高い。これでは事実上の引き下げである。
 なお、生活保護問題対策全国会議が、2月10日付で緊急声明を発し、厚労省のいう「級地格差」のまやかしを実証的に批判している。ご一読を。
 生活保護問題対策全国会議blog [ 緊 急 声 明 ]「級地」の見直し(生活保護基準切り下げ)も許されない!


《追記 2007/12/13》

 やはり危惧した通り、「地域間格差」の是正を口実に、都市部では生活保護基準を引き下げるようだ。朝日新聞(2007/12/13 08:01)や北海道新聞(2007/12/13 20:46)によれば、約8400億円の歳出総額を維持した上で、地域ごとの配分を変えるという。上記の生活保護問題対策全国会議の声明が指摘するように、これでは実質的な引き下げである。
 最も貧困者の多い都市部への狙い撃ちは、政府に貧困を解決する意思がないことを示す。引き続き「弱者つぶし」に反抗の声をあげねばなるまい。

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「ネットカフェ難民」排除の動き
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生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策
生活保護基準引き下げは小泉が与えた「宿題」

【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第4回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第5回資料
生活扶助基準に関する検討会報告書(案)*PDF
生活扶助基準に関する検討会報告書参考資料*PDF
厚生労働省:平成18年度社会福祉行政業務報告(福祉行政報告例)結果の概況
経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006*PDF
社会保障予算~歳出削減と制度構築の在り方~-厚生労働委員会調査室 秋葉大輔*PDF
生活保護問題対策全国会議blog
生活保護問題対策全国会議
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by mahounofuefuki | 2007-12-10 11:42

生活保護基準引き下げは小泉が与えた「宿題」

 厚生労働省社会・援護局長の私的研究会「生活扶助基準に関する検討会」が来年度からの生活保護基準引き下げを提言した問題に対する反響が広がっている。

 まずマスメディアだが、全国紙こそ相変わらずこの問題を軽視しているが、いくつかの地方紙が論説で生活保護基準引き下げの不当性を訴えている。中国新聞12月2日付朝刊社説は「低所得世帯に対しては不足分の保護申請を促すのが筋だ」と至極まっとうな見解を示した。沖縄タイムス12月3日付朝刊社説は「生活保護費の生活扶助を引き下げよりも、最低賃金制度の拡充などによって低所得世帯をてこ入れしていく政策を優先していくべき」と政府の「減額ありき」の姿勢に疑問を呈している。信濃毎日新聞12月5日付朝刊社説は「生活保護水準の引き下げが逆に低所得者の足を引っ張る結果を招きかねない」と最低賃金への影響を危惧している。
 生活保護切り下げ 物差しの当て方が逆だ-中国新聞
 [生活保護費減額]低所得層対策こそ本筋-沖縄タイムス
 生活保護 安易な引き下げは疑問-信濃毎日新聞
 いずれも今回の生活保護基準の引き下げが貧困の拡大を促進する危険性を警告しているのである。

 また日本弁護士連合会(日弁連)が平山正剛会長名で生活保護基準引き下げの拙速に反対する声明を発した。
 安易かつ拙速な生活保護基準の引き下げに反対する会長声明-日弁連
 声明では、生活保護基準に連動して、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、国民健康保険料の減免基準などが引き下げられる可能性を指摘し、生活保護の引き下げが、受給者のみならず、生活保護を受給していない低所得層全般にも大きな影響を与えることを明らかにしている。
 声明はさらに、昨年7月に日弁連が実施した生活保護全国一斉電話相談の結果から「福祉事務所が保護を断った理由の約66%が違法である可能性が高」いと、蔓延する「水際作戦」を告発している。当ブログでも以前、生活保護申請者に申請書を渡さない「水際作戦」受給者を脅迫して「辞退」に追い込む不法行為を指摘したが、行政が堂々と違法行為を繰り返す状況に日弁連からも危惧の声が出ているのである。
 なお権力とマイノリティ:精力的にロビーイング活動を行う生活保護や貧困に取り組む弁護士らによると、生活保護や貧困問題に取り組む弁護士や司法書士らが国会議員へ生活保護切り下げ中止の請願活動を行っているという。このことも法曹界の危機感の表れだろう。

 以上のように、生活保護切り捨てに抗議する声が高まっているためか、民主党が12月5日、生活保護基準の引き下げに反対する談話を政策調査会長と「ネクスト厚生労働大臣」の連名で発表した。
 民主党:生活保護の引下げに反対する(談話)
 今国会で参院の第1党となり、議事運営の主導権を握ったにもかかわらず、改正最低賃金法と労働契約法で政府・与党に一方的に妥協した「前科」があるだけに、どこまで本気かは不明だが、少なくとも現時点でははっきりと「慎重な検討」を要求したことは心強い。民主党が裏切ることのないよう、同党に対して恒常的に生活保護基準の引き下げに正当性がないことを訴える必要があるだろう。

 「生活扶助基準に関する検討会」は生活保護基準引き下げの理由として、2004年の全国消費実態調査をもとに、最も低い年収階層の所得よりも生活保護の給付額の方が多いことをあげたが、これは「生活保護が高い」のではなく、生活保護を受けるべき低所得者が生活保護を受給できていないことを示す。生活保護を受けさせずに、「生活保護以下」の貧困層を増やしておいて、それで「生活保護が高い」と言うのは政府の「自作自演」の貧困拡大策でしかない。
 重要なのは、「検討会」が挙げた「生活保護が高い」という理由は、「減額ありき」という結果が先に決まっている上での後付けであり、生活保護引き下げの真の理由は別のところにあることだ。

 前記の中国新聞や信濃毎日新聞が言及しているように、厚生労働省が生活保護の切り捨てに躍起になっているのは、政府がすでに社会保障費の削減を決めていて、来年度予算編成までに削減分を提示しなければならないからである。
 小泉内閣末期の2006年7月に経済財政諮問会議が定めた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(いわゆる「骨太の方針2006」)は、2011年までに国が歳出する社会保障費を1.1兆円削減することを命じ、毎年平均2200億円の削減を義務付けている。生活保護に関しては「生活保護扶助基準について、低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直し」「母子加算について、就労支援策を講じつつ、廃止を含めた見直し」「級地の見直し」などを「可能な限り2007年度に、間に合わないものについても2008年度には確実に実施する」と具体的な指示を行っている。
 この「骨太の方針2006」に従い、今年度は雇用保険の失業給付の国庫負担削減や生活保護の老齢加算の廃止・母子加算の段階的廃止により、2200億円の削減分を捻出した。そして来年度も同じく社会保障費の削減分2200億円を捻出しなければならず、厚労省はあわてて「検討会」を作り、おざなりの議論で生活保護基準の引き下げを決定したのである。
 要するに、小泉内閣が決めた「弱者切り捨て」方針が、内閣が交替しても財政を拘束しているのである。いわば小泉純一郎が残した「宿題」を今も政府はこなしているといえよう。究極のところ「骨太の方針」をやめさせない限り、生活保護を含む社会保障制度はどんどん悪化する一方なのは明らかだ。

 政府・与党は今後、生活保護のモラルハザードを喧伝し、長時間労働と低賃金に喘ぐ労働者との「不公平」を前面に出すだろうが、以上のような経過を考慮すれば、それはまやかしにすぎない。
 繰り返しになるが、「生活保護が高い」のではなく、「生活保護以下」なのに保護を受けられないことが問題であることをはっきりと認識してほしい。

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【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第4回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第5回資料
生活扶助基準に関する検討会報告書(案)*PDF
生活扶助基準に関する検討会報告書参考資料*PDF
厚生労働省:平成18年度社会福祉行政業務報告(福祉行政報告例)結果の概況
経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006*PDF
社会保障予算~歳出削減と制度構築の在り方~-厚生労働委員会調査室 秋葉大輔*PDF
生活保護問題対策全国会議blog
生活保護問題対策全国会議
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by mahounofuefuki | 2007-12-06 22:36

生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策

厚生労働省社会・援護局の研究会「生活扶助基準に関する検討会」が、今日(11月30日)生活保護基準引き下げを求める報告書をまとめた。

この「生活扶助基準に関する検討会」は5人の大学教授から成る研究会だが、先月19日以降5回にわたる会合を開き、生活保護基準の見直しを検討していた。学識経験者による「専門的な分析・検討」(第1回会合の資料より)を謳ってはいるが、他の諸官庁の諮問機関と同様、官僚の方針に「お墨付き」を与えるだけの形骸化した研究会である。来年度予算編成に間に合わせるために、わずか1か月強の検討で結論を出したのも、厚労官僚のシナリオ通りであろう。

すでにこの「検討会」設置前から厚労省の生活保護基準引き下げ方針は一部で報道されており、特に北海道新聞が何度かこの「検討会」の議論を伝えていたが、世論の喚起には至らず、今日の報告書決定に至った。

報告書はまだ厚労省のホームページに出ていないようだが、朝日新聞がその内容を今日の会合前にすでに伝えている(「検討会」の前にとっくに報告書ができていた証拠)。
以下、朝日新聞(2007/11/30 08:23)より。
(前略) 報告書案は、生活保護の支給額が高すぎると国民の公平感が損なわれるとの観点から、生活保護費の中の生活扶助について、全国消費実態調査(04年)をもとに検討。全世帯で収入が下から1割にあたる低所得世帯の生活費との比較が妥当だと明記した。
 その結果、夫婦と子の3人世帯の場合、低所得世帯の生活費が月14万8781円に対し、生活保護世帯の生活扶助費は平均15万408円と、約1600円高かった。60歳以上の単身世帯は、低所得者6万2831円に対し、生活扶助費は8000円以上高い7万1209円だった、とした。
 また、地域の物価水準の違いなどから、都市部の基準額を地方よりも最大22.5%高くしている現行制度について「地域間の消費水準の差は縮小している」と指摘した。
 このほか、基準額の決め方を、夫婦と子の3人世帯を標準とする現行方式に対して、単身を標準とする方式を提言している。
要するに、生活保護給付が生活保護を受給していない人の所得よりも多いので、「不公平感」に配慮して生活保護基準を引き下げるというのである。

しかし、引き下げの本当の要因が別のところにあることを、毎日新聞の吉田啓志記者が署名記事で伝えている。
以下、毎日新聞(2007/11/30 18:18)より。
(前略) 生活保護費のうち食費など生活扶助の見直しは、受給世帯の月収を、収入の下位から1割にあたる非受給世帯の月収水準にそろえるのが基本。夫婦と子供の3人世帯を標準とし、標準世帯で比較することを軸にしている。ところが報告書は、単身者を標準とするよう提言した。「受給者の7割が単身者だから」がその理由だ。
 しかし、受給世帯と非受給世帯の収入を比べると、3人世帯では受給世帯(15万408円)が1627円多いだけだが、単身者(60歳以上)だと受給者(7万1029円)が非受給者を8378円上回る。単身者は食材などの大量購入による節約が難しく、生活必需品の価格を積み上げて決める扶助基準が高く設定されがちだ。報告書が単身者を標準としたのは、扶助基準の引き下げ幅をより大きくすることも可能とするための布石だ。
 厚労省がこの時期、生活保護費の削減を可能としたのは、08年度も社会保障費を2200億円圧縮しなければならないのに、削減項目が詰まっていないことがある。
 1000億円程度を見込む政府管掌健康保険の国庫負担削減案が難航しており、予備に別の財源を用意する必要が生じている。政管健保の削減幅が縮小すれば、それとは関係ない生活保護費の削減幅が大きくなる構図で、国民の最低限度の生活を保障する制度が、予算編成のつじつま合わせに使われようとしている。
「不公平」云々という話は表向きで、実態は政府による社会保障費削減のあおりで、生活保護が犠牲に供せられたのである。

現在、生活保護給付と生活保護を受けていない人の所得が逆転しているのは事実である。
地域別の法定最低賃金は生活保護給付額を下回っており、しかも最低賃金はまったく守られていない。
そのため先日成立した改正最低賃金法は、最低賃金と生活保護の「整合性」を盛り込んだ。これで最低賃金を生活保護に合わせて引き上げることが可能になったが、逆に生活保護を最低賃金に合わせて引き下げることも可能になった。
厚労省は改正法の成立を見込んで、後者の生活保護の引き下げを準備していたのである。

しかし、生活保護の非受給者の収入の方が低いから生活保護を引き下げるというのは、矛盾した話である。
非受給者の収入と生活保護給付の「逆転現象」は、「生活保護が高すぎる」から起きるのではない。生活保護基準以下の生活を送っているのに、生活保護を受けられない人々が大勢いるから「逆転」するのである

近年の厚労省は生活保護を違法に運用して、セーフティネットとしての機能を弱らせている。
違法行為の第1は、生活保護の申請者を窓口で追い返す「水際作戦」である。申請者に申請書を渡さないのは職務放棄のはずだが、各地の自治体で横行している。
第2は、「就労指導」に名を借りた受給者への嫌がらせや脅迫である。無理やり生活保護を「辞退」させる非人道的な行為を厚労省が奨励しているのである(尾藤廣喜「北九州市から『生活保護』の現場を考える 『棄民』の構造をどう転換するか」『世界』2007年11月号を参照)。

つまり、厚労省は違法な切り捨てによって、生活保護を受けられない貧困者を増やしておいて(人為的に「生活保護の方が高い」状況を作り出して)、その上で生活保護基準の切り下げを行おうとしているのである。
これは厚労省による自作自演の貧困拡大策と言わざるをえない。

ちなみに舛添要一厚生労働大臣は、今日の閣議後の記者会見で、「非常にきめの細かい激変緩和措置をやって、若干下がるにしても明日から立ちいかなくなることは絶対に避けたい」と述べたという(朝日新聞 2007/11/30 11:48)。
語るに落ちるとはまさにこのことであろう。生活保護の切り下げが「激変」であることを大臣自ら認めたのである。
「激変緩和措置」などではなく、「激変」をやめる措置が必要であることは言うまでもない。

生活保護は貧困層だけの問題ではない。
誰もが何らかの理由で、失業→雇用保険給付→再就職難航→雇用保険打ち切り→生活保護、という道を歩む可能性をもっている。現在、貧困とは無縁の恵まれた人々も、「明日は我が身」の精神で生活保護問題をとらえなければならない。
(経済的に安定した職に就けなかった私には死活問題である。)


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厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
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by mahounofuefuki | 2007-11-30 20:34

最低賃金と生活保護-北海道新聞の記事より

(2007/11/17に投稿した記事ですが再掲します。理由は追記に)

北海道新聞2007/11/17朝刊より。
電子版には出ていないので、記事本文を紹介する。
*太字は引用者による。

(引用開始)
 厚生労働省が生活保護費の給付の基本となる基準額の算定方法を抜本的に見直し、2008年度に引き下げる方向で検討を進めている。増加する社会保障費の伸び幅を圧縮するのが狙いだが、基準額の絞り込みにより、それに連動する労働者の最低賃金の底上げの妨げになる可能性もある。(東京政経部 中村公美)

 「度重なる給付削減で、生活保護世帯の暮らしは本当に深刻。食事を1日2食に減らした人も多い」。基準額の見直し中止を求めている全国労働組合総連合(全労連)や市民団体は8日、厚労省内での記者会見で訴えた。生活保護費は06年度に老齢加算を廃止するなど引き下げが続いている。背景には高齢化に伴って生活保護受給世帯が年々増加していることがある。
 厚労省は10月16日、3日後の19日に「生活扶助基準に関する検討会」の初会合を開催すると発表した。「密室で決めようとしているのか」━。突然の開催と、会場の狭さを理由に傍聴者が少人数に抑えられ、傍聴を断られた市民団体が会場前で怒りの声を上げた。
 同検討会は厚労省社会・援護局長の私的研究会との位置付けだが、事実上、同省の方針を追認してきた。今回は08年度予算に反映するため、12月中に結論をまとめる。厚労省は「『骨太の方針』にも、来年度の基準額見直しが盛り込まれている。既定路線を変えるわけにはいかない」と、基準額を大幅に引き下げる構えだ
 今月8日に開かれた同研究会の3回目の会合では、厚労省側が給与の一部を収入認定から除外する勤労控除の見直しや、地域ごとに基準額に差を付ける「級地制度」の地域差縮小を提案した。
 一方、労働組合は「生活保護費の引き下げは、労働者の最低賃金に影響が及ぶ」(連合幹部)と懸念を強めている。今国会で成立確実な改正最低賃金法(最賃法)案は、最低賃金で働く労働者より、生活保護世帯の収入が高いという逆転現象を解消するのが主眼。そのため地域別最低賃金に「生活保護との整合性に配慮する」という新たな規定を盛り込んだ。
 だが、この規定も「もろ刃の剣」。逆転現象の解消にはつながっても。生活保護が引き下げられれば、最低賃金も抑制される恐れがある。最賃法の改正がワーキングプア(働く貧困層)の解消を目指しながらも、結局は賃金の底上げにはつながらないという皮肉な結果にもなりかねない。
 だが、厚労省内では生活保護費の基準額の見直しによる最低賃金への影響についての検討はない。旧厚生省出身の幹部は「基準額の見直しは最賃法に関係なく進める」としており、旧労働省出身の幹部は「改正最賃法は、労使の協議で行うものだ」とにべもない。出身官庁同士の縄張り意識が格差解消の障害になっている。
 車の両輪のように、生活保護制度が「最後のセーフティーネット」(舛添要一厚労相)として機能しながら、最低賃金制度でも賃金の底上げにつながるのが理想的。生活保護・労働両行政の一体となった論議が求められる。
(引用終わり)

今日は時間がないので、記事の紹介だけ。
「生活扶助基準に関する検討会」については、なぜかほとんどの新聞が報じていないこと、最低賃金法改正案で民主党が政府に妥協したのが間違いであることの2点を指摘しておきたい。


《追記 2007/11/21》

厚生労働省の「生活扶助基準に関する検討会」は20日、生活保護給付基準の引き下げを決定したようだ。
生活保護費、基準額下げ確実に 厚労省検討会 地域差縮小も「妥当」-北海道新聞(2007/11/21 08:31)
まさに密室で貧困層切り捨ての準備を着々と進めているのである。
この期に及んでも北海道新聞以外はまともに報道しないのが謎だ。

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【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
生活保護問題対策全国会議blog
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by mahounofuefuki | 2007-11-21 16:49

「社会保障のための消費税増税」というまやかし

消費税増税への動きが加速している。
先月の経済財政諮問会議で、内閣府が社会保障維持のためには消費税を最低でも11%以上に引き上げる必要があるという試算を公表し、それを機に全国紙が一斉に「消費税増税やむなし」という宣伝を始めた。
伊藤隆敏・丹羽宇一郎・御手洗冨士夫・八代尚宏 「有識者議員提出資料 (給付と負担の選択肢について)」*PDF
伊藤隆敏・丹羽宇一郎・御手洗冨士夫・八代尚宏 「持続可能な基礎年金制度の構築に向けて」*PDF
今月に入ると、原油高騰やサブプライム問題による景気減速への不安から、政府・与党は来年度の消費税増税を見送る方針を固めたが、財政・税制関係の機関は動じることなく消費税増税路線を続けている。

まず財政制度等審議会が、来年度予算編成に関する意見書で、社会保障目的の消費税増税を提起した。
平成20年度予算の編成等に関する建議-財政制度等審議会*PDF
次いで政府税制調査会が、来年度税制改正の答申で、やはり社会保障の水準を維持するための消費税増税の必要性を明記した。
平成19年11月 抜本的な税制改革に向けた基本的考え方-税制調査会*PDF
さらに自民党の財政改革研究会は、明日の中間報告で、消費税の社会保障目的税化、2段階による消費税増税、消費税の名称変更などを提起するという。
社会保障目的明確化、消費税の名称変更を・・・財革研報告原案(読売新聞 2007/11/21 10:16)-Yahoo!ニュース
2009年度に基礎年金の国庫負担率が2分の1に引き上げられるのに合わせて、消費税増税を目論んでいるのが明白だ。

一連の動きに共通するのは、「社会保障給付を維持するために消費税を増税しなければならない」という思想である。
高齢化社会による社会保障費の増大→財源の不足→消費税増税」と「誘導」しているのである。

しかし、その思想は完全な誤りである。
第一に、社会保障の財源を消費税に限定する正当な理由は何もない
政府税調は今回の答申で、消費税を「経済の動向や人口構成の変化に左右されにくい」「世代間の不公平の是正に資する」と述べているが、実際は経済の動向の影響を受けやすく(家計が縮小すれば消費も減退する)、世代間の不公平を拡大する(年金生活の高齢者も税負担させられる)税である。現在、消費税以外の税も社会保障費に使っているが、何ら不都合はない。

第二に、消費税を増税すれば所得格差が増大し、結果として社会保障が貧弱になる
一般に社会保障は再分配機能があると思われているが、これは誤解である。年金も健康保険も保険料は所得にかかわらず定額で、消費税以上に逆進性をもつ。たとえば国民年金だと未納があれば給付が減額される。厚生年金だと報酬比例部分は生涯平均所得に左右される。いずれも高所得者に有利だ。
特に年金の場合、寿命に左右されるという宿命的な問題がある。社会保障の最高の受益者は「長命の金持ち」であり、最も不利なのは「短命の貧乏人」である。つまり、社会保障制度はそれ自体不平等なのである
この上、低所得者ほど不利な消費税を増税したら、ますます貧しい人の社会保障の負担力は低下し、受益も減少する。消費税増税は社会保障を安定にするどころか、保険料の不払いなどで社会保障の枠から脱落する人々を増やすだけである。
社会保障制度を持続させたかったら、所得の平等度を高くして、誰もが負担に耐えられるようにする必要がある。消費税がそれに逆行するのは言うまでもない。

第三に、財界や与党の本音は、企業減税の穴埋めに消費税増税分を使うことにある
そもそも消費税増税が社会保障目的であるという言説がまゆつばである。仮に歳出の社会保障費を全額消費税でまかなえば、今まで社会保障費に回していた他の税の分が浮く。実際はこれを利用して法人税の税率引き下げを企んでいるのである。
政府税調の井堀利宏委員(東京大学大学院教授)は、以前「消費税を上げる形での企業減税」を主張していた(ロイター 2007/10/02 19:04)。日本経団連をはじめ巨大企業の経営者たちは、ことあるごとに企業減税を唱え、法人税の実効税率の引き下げを要求している。これらの要求は消費税増税とワンセットである。

以上のように、「社会保障のための消費税増税」というのは真っ赤なウソである。
低所得から年金を払えず、健康保険証も取り上げられる人々が続出する中で、追い討ちをかけるように消費税を引き上げたらどうなるか、誰でも想像がつくだろう。
現在必要なのは、社会保障制度からはじかれた貧困層を制度内に取り込むことである。そのためには消費税の増税などもってのほかであり、所得格差を縮小するために所得税の累進を強化すること、資産への課税を強化することが何よりも必要である。


《追記》

この記事を書いたあと、消費税について興味深い記述を見つけたので、引用する。
晴天とら日和:消費税の社会保障財源化は選択肢のひとつとして幅広く検討すべき=政府税調答申⇒でもねぇ、「消費税導入」時には「福祉目的で導入する」とおっしゃってませんでしたか! 社民党は福祉削減の脅しで大増税あおるなと大反撃!⇒クソ自公チューのニャロメ!より。
(前略)消費税で苦しんでいる人たちがいる一方で、消費税をもらう人たちがいます。不公平の極みです。トヨタ、キャノン、ソニー、ホンダ、東芝、NECなどわが国を代表する大企業は消費税を一銭も納めません。納めないどころか、トヨタは年間二〇〇〇億円もの輸出戻し税を受け取っています。輸出戻し税制度です。輸出する場合、輸出先の国の税金がかかるので、輸出品に消費税をかけない。消費税をかけないのだから、輸出企業が下請けなどに払ったとされる消費税は戻しましょうという制度です。

その輸出戻し税が毎月、税務署から輸出企業の口座に振り込まれます。輸出戻し税の総額は、年間で約二兆円。これほど財政危機だと騒いでいるのに、税務署は輸出している大企業に二兆円も支払っているのです。このような輸出戻し税制度は、ヨーロッパにはありますが、アメリカにはありません。この輸出戻し税は一種の輸出補助金であり、ただちに廃止すべきと私は主張しています。トヨタは輸出戻し税があるから消費税を導入した、と言っています。

税務署は全国に五百十二あります。税金を徴収するのが税務署の仕事ですから、徴収する税金が上がる税務署ほど、署長の評価が高くなります。トヨタがある愛知県の豊田税務署は、徴収する税金が上がるどころか、トヨタ一社に対する輸出戻し税のためにマイナスです。トヨタなどが主導している日本経団連が、なぜ消費税引き上げに必死になるのか、おわかりと思います。五%の消費税で、トヨタは年間二〇〇〇億円の輸出戻し税を受け取ります。消費税が一〇%になれば、トヨタの受け取りは二倍の四〇〇〇億円になります。消費者や大部分の事業者に負担が重く、大企業に利益となる、これほど不公平な税金はありません。(後略)


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消費税増税問題に関するリンク
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消費税増税の危機は続く
財政審の生活破壊路線
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by mahounofuefuki | 2007-11-21 16:19

堺市の入院患者置き去り問題について

堺市のある総合病院の職員らが、糖尿病で入院中だった60代の全盲の患者を連れ出し、大阪市内の公園に放置していた問題が明るみになった。

東京新聞(2007/11/14 朝刊)より。
(前略) 調べや病院などによると、職員と医事課員三人は九月二十一日午後一時ごろ、男性を車に乗せ、大阪市住吉区の男性宅に連れて行ったが、住んでいた前妻(63)が引き取りを拒否。午後二時二十分ごろ、病院から約十キロ離れた西成区の公園に連れて行ってベンチに座らせ、下着類などの荷物とともに置き去りにした。
 四人のうち一人は直後に匿名で「目の見えない男性が倒れている」と一一九番し、サイレンの音を確認して立ち去った。男性は別の病院に運ばれ、現在も入院中。搬送時、救急隊に「熱がある」と訴えていた。
 渉外係の職員は「前妻から『持病があり、困る』と拒否され、どうにもならず、救急隊に任せれば大丈夫と思った」と話しているという。
 男性は糖尿病で約七年前から入院。当初は生活保護を受けていたが、約二年前に打ち切られたという。病院側は「治療は必要だが通院で対応できる」として退院を勧めていた。入院費約百八十五万円が未払いだったほか、待遇などをめぐりトラブルになっていた。(後略)
毎日新聞(2007/11/13 21:00)より。
(前略) 同病院や堺市保健所によると、男性は約2年前から入院費用など治療費を滞納。約3年前から退院可能な病状だった上、自宅が判明したため、職員4人が9月21日午後1時ごろ、男性を車に乗せて大阪市住吉区内にある男性の自宅を訪れた。しかし、同居する前妻が本人の持病を理由に引き取りを拒否したことから、同2時20分ごろ、西成区内の公園で男性を降ろして放置した。(中略)
 男性は約7年前に入院。生活保護が打ち切られて治療費が滞納状況となり、備品を壊したり看護師に暴言を吐くなどトラブルもあったという。(後略)
既に大阪府警が保護責任者遺棄容疑で病院を捜索し、堺市保健所が医療法違反にあたるとして病院へ行政指導したという。

前記東京新聞には院長のコメントが出ている。
 医療人として非常に恥ずかしい。この一言に尽きる。職員が独断でやったことだが、反省しきりだ。ただ、病室でのトラブルが続き、入院費も未納で、福祉事務所や保健所に何度も相談に行ったが対応してもらえなかった。私たちが(患者と行政側の)谷間だった。治療は必要だが通院で対応できる状況で「通院してください」とお願いしていた。
病院が問題の患者を持て余していたこと、事件が起きるまで行政が何ら対応していなかったことがわかる。

この問題について、弁護士の津久井進さんが論じており、一部引用する。
津久井進の弁護士ノート 本当に保護責任者遺棄をしたのは誰か?~現代姥捨山
(前略) まだ立件されているわけではないけれども,私は,この病院を弁護したい。

 もちろん,この職員の行為は,医療関係者としてあるまじき行為であるであって,当然,責任はあるだろう。
 しかし,本当に悪いのは,別のところにあるのではないか。
 真の原因は,違うところにあるのではないか。

 第1に,最初にこの患者を見捨てたのは,大阪市の生活保護課ではないのか。
 詳しい事情はよく分からないけれども,2年前に生活保護が打ち切られたとのこと。
 生活保護の受給を受けていたら,医療扶助があるので,医療費滞納などという事態は起こりえない。
 生活保護の打ち切りで,現実の不利益を受けるのは,病院ではないのか。

 第2に,病院を追い詰めたのは,厚生労働省の政策にほかならない。
 厚生労働省は,「療養病床」の削減計画を打ち出している。
 「療養病床」というのは,治療目的の一般病床ではなく,長期入院のお年寄りの受け皿の病床だ。
 医療費圧縮のために,現在,全国に約35万床あるのを,5年後までに約15万床に減らそうという締め付け政策だ。
 病院は,この患者の追い出し行為につき国から褒められこそすれ,保護すれば責められるのだ。

 家族に見捨てられ,生活保護からも放逐された社会的入院患者の行き場は,どこにあるのだろうか。(後略)
津久井さんの見解に全面的に賛同したい。
生活保護の切り捨てと療養病床の削減という政府の施策が、医療従事者を極限にまで追い込んだのである。
最近は入院費のみならず、通院患者の医療費滞納や、保険料未納による保険証取り上げなども問題になっている。
いずれも貧困と格差の拡大に起因する。

誰もが病気になりうるし、誰もが必ず老いる。
誰もがある日突然、介護する側にも介護される側にもなりうる。
故に今回の問題は決して他人事ではない。
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by mahounofuefuki | 2007-11-14 12:21

「反貧困たすけあいネットワーク」

貧困層による相互扶助組織「反貧困たすけあいネットワーク」が来月結成される。
「首都圏青年ユニオン」と「自立生活サポートセンター・もやい」の呼びかけで、若い「ワーキングプア」のセーフティネットを目指すという。

朝日新聞(2007/11/10 11:51)によれば、「会費は月300円。半年以上の入会を条件に、病気やケガで失業した人に1日1000円、10日間で1万円を支給。無利子で1万円の生活資金も貸し付ける。組織は労働組合とし、組合員の助け合いの形をとる。借金や労働問題などの相談や情報提供もする」という。

きっかけは、呼びかけ人の1人である首都圏青年ユニオンの川添誠書記長が、アルバイト残業代の不払いの相談に訪れた母子家庭の高校生から「労組に加入して組合費を払うぐらいなら、家計のたしにする」と言われたことだという(毎日新聞 2007/11/10 05:36)。
以前から当ブログで述べているように、雇用保険法が改悪され、国会での民主党の背信により最低賃金の実質的引き上げが難しくなり、労働契約法も成立必至になってしまい、既成の労組は相変わらず非正規労働者の利益を代表し得ない中で、貧困の最前線で行動してきたユニオンやNPOの人々だけが、「難民」の救いの綱になっている。
こういう取り組みこそ貧困と格差に立ち向かう上で、実効的な施策であろう。

特に失業や貧窮のために借金を重ねざるをえない現状への対策になることを期待したい。
最近、NTTデータ経営研究所が発表した「消費者ローン利用者・利用経験者の借入に関する意識調査」によれば、借金の理由で最も多いのは、銀行・信用機関、クレジットカード・信販会社、消費者金融のいずれも「日常の生活費」の補てんである。中でも消費者金融では56%にものぼる。
「世間」一般のイメージとは異なり、「サラ金」のような高利貸に手を出すのは生活苦が原因である場合が多いのである。

同調査によれば、20~30代でははじめから消費者金融に行ってしまう割合が多いことも明らかになっている。テレビや新聞などの広告や、簡単な審査による貸出が影響していることが読み取れる。突然の病気や失業ですぐにもカネが入用になり、消費者金融から借り入れて、多重債務に陥るというのが、最も多いパターンだろう。

なお「反貧困たすけあいネットワーク」の発足イベントが11月22日に開催される。
以下、Moyai Blogより。

~私たちにパンと誇りを!~
反貧困助け合いネットワーク Launch Party
生きづらいのは自分のせいではない。働いても食うに食えない若者たちが、
自分たちの手で状況を切り開くための助け合いプロジェクト「反貧困助け合いネットワーク」の発足イベント、
それが「Bread and Roses」。
話題の書「貧困襲来」でシーンを震撼させた湯浅誠から、首都圏青年ユニオンの河添誠、NPO、ジャーナリスト、そして政治家までが結集。
今、ワーキングプアの逆襲が始まる!

反貧困たすけあいネットワーク 発足イベント

日時:11月22日(木、祝前日)18:00~22:00

場所:SUPER DELUX(スーパーデラックス)
    106-0031東京都 港区 西麻布3.1.25 B1F
    TEL:03-5412-0515

入場料金: 500円 (年収300万円未満の方) / 1000円 (年収400万円未満の方) / 2000円 (年収400万円以上の方)

「反貧困たすけあいネットワーク」とは

① サラ金・日雇い派遣情報ではなく・・・・・生きるうえで役立つ労働・生活の情報を携帯配信するメルマガの発信

② 自分たちの手で生きられる条件を・・・・休業補償・無利子貸付のための助け合いシステムの発足

③ いつでも、どんなことでも・・・・・・・・・・・残業代未払い、不当解雇、生活保護、借金(多重債務)、なんでも相談、解決する。

④ だべろう・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・まったりと集う若者カフェの開催

《追記 2007/11/23》

11月22日に行われた「反貧困たすけあいネットワーク」発足イベント「私たちにパンと誇りを!」(BREAD AND ROSES)の様子は以下の記事を参照。
【動画あり】「私たちにパンと誇りを!」──過重労働の報告も-Ohmynews
たすけあいネット/連帯し貧困救おう/発足記念イベント-しんぶん赤旗

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最低賃金法改正案・労働契約法案における民主党の妥協

【関連リンク】
BREAD AND ROSES (反貧困たすけあいネットワーク)
首都圏青年ユニオン
特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター もやい
消費者ローン利用者の借入残高、4割以上の人が「年収の3分の1以上」-日経トレンディネット
消費者ローン利用者・利用経験者の借入に関する意識調査 2007年11月6日-NTTデータ経営研究所
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by mahounofuefuki | 2007-11-11 16:08

本格化する消費税増税の動き

世論はすっかり「小沢騒動」一色だが、そんな喧騒をよそに、政府による消費税増税への動きはいよいよ本格化している。
昨日(11月5日)首相官邸で行われた政府税制調査会の総会には、就任後初めて福田康夫首相が出席し「社会保障や少子化などについて将来あるべき姿を描き、必要な安定財源を確保し、負担を先送りしないようにするのが政治の責任だ」とあいさつした(毎日新聞 2007/11/05 20:00)。
「安定財源」「負担を先送りしない」とは消費税の増税を指したも同然で、すでに2008年度税制改正の答申に消費税引き上げを盛り込むことを決定している政府税調に完全同調したと言えよう。

この日の会合後、政府税調の香西泰(こうさい・ゆたか)会長は会見で「将来の消費税増税は社会保障制度維持のために不可欠で、同時に所得などの格差是正策を講じる必要がある」と述べる一方、法人課税の実効税率を引き下げるべきとの認識を示したという(フジサンケイ ビジネスアイ 2007/11/06 08:35)。
税調の主流が、法人税の減税のために消費税を増税しようとしていることがよくわかる発言である。

政府税調のホームページには税調内の議論をまとめた資料が公表されているが、税調の消費税をめぐる議論は、まず増税ありきで、いかに大衆を騙すかに費やされている。
これまでに出された主な意見等(消費課税関係)*PDF

たとえば、「経済活性化を重視する観点から、勤労世代への負担集中を回避することや、経済活動に歪みを生じさせない中立性や国際競争力も重視すべき」という意見は、まるで消費税が「全世代に公平な」税制と言っているようだが、実際には消費税は所得の少ない若年層と年金生活を送る老年層にとって辛い税である事実がまったく念頭にない(消費税が上がっても給料や年金給付が増えるわけではない)。
あるいは「消費税が実質的に福祉、特に高齢者のために使われていることを国民に理解してもらうことが重要」という意見は、なぜ福祉の財源が消費税でなければならないか説明がつかない。高齢者に給付するために高齢者への課税を強化するのは本末転倒である。

何よりも私が憤りを感じたのは、「社会保障は再分配において大きな役割を果たしており、消費税の『社会保障財源化』については、消費税が社会保障による再分配を通じて受益面から大きな役割を果たしている」という部分である。
日本で再配分に占める社会保障の役割が大きいように見えるのは、税制が再配分の役割を果たしていないからにすぎない。現に税調内でも「『逆進性』で言えば、(消費税より)社会保険料の方がはるかに逆進的」という指摘があり、所得にかかわらず保険料が定額である社会保険は極めて不平等で、再配分には何ら寄与していないのである。
特に年金給付の場合、所得以上に「寿命」に左右される。早死にした人はどんなに現役世代に保険料を支払っていても、それに見合った給付を受けることはできない。
逆説的に言えば社会保障はどんなに工夫しても再配分効果を高めることなどできないのである。

だからこそ、税金の方こそ累進性を高めて再配分効果をもたせる必要があるのだが、そういう意見は税調ではほとんどない。
現行の税体系を前提に消費課税のウェイトを高めることは、格差社会を助長するおそれがあり、所得税における累進性の回復、資産所得への課税強化、低所得に対する配慮、法人税との関係等の視点を踏まえ、税体系全体の見直しの中で考えることが不可欠」というのが唯一の真っ当な見解で、こういう発言をする人がいるだけ、不当な金持ち言いなりの経済財政諮問会議よりましではあるが、それも気休めでしかない。

ところで、朝日新聞が今月3~4日に消費税増税について世論調査を行っているが(朝日新聞 2007/11/05 23:52)、その結果が興味深い。
「消費税の引き上げが必要か」という問いに、「必要だ」は43%、「必要ない」は49%で、拮抗している。ところが「社会保障の財源確保のために消費税を引き上げることに納得できるか」という問いだと、「納得できる」が36%、「納得できない」が54%なのである。
しかも「納得できない」と答えた人は、30代で61%、50代で55%、70歳以上で42%と、年齢が若いほど消費税と社会保障の関連性に懐疑的なのである。
これは税調の思惑(「勤労世代」への負担集中を回避するために消費税を増税するという詭弁)とは裏腹に、現役の「勤労世代」の方こそ消費税引き上げに抵抗感が強いことを示している。
同時に、高齢者は税負担の増減よりも、目の前の年金給付が減ることへの不安をかかえていることがわかる。

今後、消費税増税阻止のために必要なのは「年金の財源にするために消費税増税が必要」という考えに洗脳されている高齢者に対し、「消費税増税の目的は企業減税の穴埋め」という真実をアピールすることだろう。
心配なのは民主党のゴタゴタが、消費税増税に有利に働いていることであり、最近の増税への政府の動きもすっかり隠されてしまっている。もともと民主党には消費税増税を公約に掲げた「前科」があるので信用ならないとはいえ、現在のところ消費税増税に反対している以上、賛成に転じないよう繋ぎ留めなければならない。
消費税が争点となる次期総選挙を「郵政」の二の舞にしないよう注意したい。

【関連記事】
政府とマスコミが一体化した「消費税増税キャンペーン」
消費税増税問題に関するリンク
法人申告所得過去最高でも消費税上げますか?

【関連リンク】
Yahoo!ニュース-消費税引き上げ問題
内閣府 税制調査会
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by mahounofuefuki | 2007-11-06 20:30

「下」には厳しいが「上」には甘い官僚組織

組織というのは、「上」に甘く、「下」に厳しい。
改めてそう感じざるをえないニュースがある。
以下、朝日新聞(2007/10/27 18:35)より。

 社会保険庁のずさんな年金記録管理の原因や責任問題を調べる総務省の「年金記録問題検証委員会」(座長・松尾邦弘前検事総長)が、来週中に発表する最終報告で、歴代の厚生・厚生労働相や社会保険庁長官の個人責任を明記しないことが27日、分かった。歴代閣僚・長官の監督責任を一体として問う形をとる。5000万件に及ぶ「宙に浮いた年金記録」などを招いた責任追及が検証委設置の主な目的だっただけに、責任の所在があいまいな結論には批判も出そうだ。

 最終報告は、社保庁が一人ひとりの記録を一貫して管理する姿勢に欠けていたことや、本人の申し出がなければ記録を確認しない申請主義などが記録問題の直接的な原因となったと指摘。宙に浮いた年金記録のサンプル調査結果、消えた年金記録の一因とされる職員らによる横領問題、「三層構造」と呼ばれる社保庁独特の閉鎖的な人事システムや組合問題などにも言及する。約30ページの本文のほか、約700ページに及ぶ資料編で構成されている。報告書は来週半ばにも公表する見通し。
(中略)
 また、名前や生年月日の欠けた記録をどう入力するのか、社保庁とシステム開発業者との間で検討した経緯が分かる当時の資料が一部を除き残っていないことも判明。責任者の判断や不作為が記録の管理にどのような影響を及ぼしたのか、十分に検証できなかったという。

 このため、1942年の年金制度発足以来、長年にわたる記録管理の不備が背景にあり、「個人の責任は限定できない」として、個人の名前を挙げる形で責任を問うのは難しいとの認識で一致。歴代長官は記録管理の直接の監督責任があったこと、歴代の厚相・厚労相、事務次官は、定期的な報告を求めるなど現状把握の努力を怠ったことを問題視し、「いずれも重い責任がある」と結論づけた。 (後略)
出来心で保険料を着服した安月給の下っ端職員は、懲戒免職や退職強要を課せられ、着服額を全額返済していても、タレント大臣の「牢屋に入ってもらう」という一声で、今さら刑事告発される。対して政治家や高級官僚は「個人の責任は問えない」とおとがめなし。これは不条理以外のなにものでもない。

しかも、「当時の資料が一部を除き残っていない」というのは、海上自衛隊の航海日誌破棄や、厚生労働省の薬害肝炎の資料放置と同じで、公文書の作為的な隠蔽である。自ら証拠隠滅しておいて、自己免罪しているようなものだ
そんなずさんな調査で、勝手に年金記録消失と横領問題を結び付け(両者に直接の関係はない)、「人事システム」や「組合問題」に責任転嫁するなど、とうてい許せない。
「年金記録問題検証委員会」自体を検証する必要があるだろう。

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by mahounofuefuki | 2007-10-28 11:28