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「金持ち増税」論は少数意見ではない~山口二郎・宮本太郎共同論文を読む

 常連読者はまたかと思うだろうが、私は本来しつこいので、何度でも繰り返す。
 消費税の増税は低所得層の生活を完全破壊し、物価高騰と合わせて短期的にも中長期的にも国内市場を縮小させ、日本社会を破綻に導く「悪魔のカード」である。消費税を社会保障目的税にしようと、年金特定財源にしようと、社会の不平等拡大という事実は消えない。もちろんだからと言って「構造改革」派の言うような増税せずに歳出削減を徹底するという思想にも与することはできない。軍事費や特定の巨大企業への補助金を削減するなら大賛成だが、実際は社会保障費や医療費ばかりが削減された。総量としての「歳出削減」は完全に誤りである。
 必要なのは所得税の累進強化と分離課税の廃止、法人税・相続税の増税であり、「構造改革」によって一握りの資本が不当に労働者から搾取した富を取り返す措置が必要である。企業業績の悪化? 労働意欲の減退? 本当にそうなるか実際にやってみようじゃないか。やりもせずにそんな脅しは通用しない。だいたい少なくとも私は、我々低所得階級を踏み台にした経済成長より、貧しくとも平等な社会の方を選びたいのだ。

 こんな私見が決して少数意見でも非現実的意見でもないことを、今月発売の『世界』3月号に掲載された北海道大学大学院教授の山口二郎宮本太郎両氏の「日本人はどのような社会経済システムを望んでいるのか」と題する論文が明らかにしている。現在の社会経済情勢に対する認識や将来望む社会像を問うた世論調査の結果の紹介とその分析で、世論調査の方は皮肉にも山口氏の消費税増税容認論にとって不都合な(私には好都合な)結果が出ている。
 この世論調査は『世界』では明示されていないが、私の記憶が確かなら、北大が科研費を受けて長期的に行っているもので、過去にも何度か総合誌に紹介されていたはずだ。RDD法による調査で、標本数は全国で1500だという。

 調査結果の詳細は『世界』を参照されたいが、社会保障と税制の再構築にかかわるのは次の2点である。
 第1は「日本のあるべき社会像」の質問で、①アメリカのような競争と効率を重視した社会、②北欧のような福祉を重視した社会、③かつての日本のような終身雇用を重視した社会、の3択である。結果は①6.7%(自民党支持者では6.3%、民主党支持者では5.5%)、②58.4%(自50.3%、民61.3%)、③31.5%(自41.4%、民31.5%)だった。
 支持政党にかかわらず、アメリカ型競争社会への忌避感が強く、特に民主党支持層で「北欧型」福祉国家への待望が強いという結果から、山口・宮本両氏はこれを「北欧型福祉社会モデルへの期待」と評価しているが、それはやや誘導尋問の疑いが残る。③に「かつての日本のような」という「守旧」ないし「復古」というマイナスのイメージを想起させる枕詞を付けることで、市場原理主義に不満を持つ層を「北欧型」に誘導しているのではないか。実際は「1億総中流」(客観的にはまやかしであっても)の記憶をもつ人々にとっては、終身雇用を前提にした企業共同体型と「北欧型」の区別は不明瞭だと私は考えている。「北欧型」の「分配度の高さ」に注目しているのか、「高負担による高福祉」に注目しているのか、より詳細な分析が必要だろう。

 第2は「社会保障の財源」の質問で、①消費税率の引き上げはやむを得ない、②消費税ではなく、法人税や所得税など裕福な人や企業に負担させるべき、③行財政改革を進めるなど国民の負担を増やす以外の方法を採るべき、④そもそも今の社会保障で十分、の4択である。結果は①17.5%(自民党支持者26.5%、民主党支持者15.3%)、②35.4%(自35.4%、民37.6%)、③44.0%(自35.0%、民45.9%)、④2.0%(自2.3%、民1.2%)だった。
 自民党支持層の4人に1人が消費税増税に賛成してはいるが、むしろ自民党支持層も含めて企業・富裕層への増税を支持する人々が相当多いことに着目すべきだろう。歳出削減路線の支持層よりは少ないが、35%以上というのは無視しえない比率である。前述した私の見解が決して少数意見ではないという根拠はこれである。
 一方、民主党支持層の半数近くが歳出削減路線を支持しており、この結果は特に民主党政権による福祉国家路線を目指す山口氏には都合の悪い結果だろう。さすがに「増えてもよい負担とは、法人税や裕福な人が払う所得税であり、一般庶民が払う消費税ではないという解釈をするしかないであろう」(太字強調は引用者による、以下同じ)と消費税増税に未練たっぷりながら、それがまったく支持されていない現状を認める解説を付している。消費税増税論が「構造改革」路線の対立軸にならないことは明白である。

 山口・宮本論文の問題点はこの結果にもかかわらず、強引に新自由主義と社会民主主義の2大政党制が完成しつつあるという牽強付会な結論を提示していることにある。彼らは語る。
 我々は小泉時代の新自由主義政策に反対であるが、この時代の構造改革によって、二大勢力の対決という政策論議の空間ができたことで、日本の政党政治が進化したと考えている。
(中略)
90年代から始まった政治改革や政党再編の試行錯誤は、最終段階に入った。右側に新自由主義をとる保守政党、左側に福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党が対置するという世界標準の二大政党制の姿がようやく現れつつある。
 前述の世論調査からどうしてそんな結論になるのか。むしろ民主党支持層が一方で福祉国家を待望しながら、他方で増税には抵抗感を示し、さらなる行財政改革(歳出削減)を求めるという矛盾した姿は、とうてい民主党が「福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党」になりえていないことを証明している(ついでに言えば自民党も「新自由主義をとる保守政党」になりきれていないのは現在の道路特定財源問題を見ればわかる通りだ)。
 現に両氏も論文の別の箇所で「行政不信に満ちた福祉国家志向」という言葉でこの現象を説明している。つまり依然として現在の民主党支持層が新自由主義に心動かされる可能性が十分にあり、目の前の既得権益の解体というエサが示されればそれに飛びつく恐れが濃厚なのである。

*ついでに言えば、この結果からは二大政党制の下では意見が3つ以上に分かれた場合、必ずどれかが政策論議から漏れてしまうことも示唆している。仮に中選挙区制のままだったら、自民党は新自由主義路線と利益誘導型路線に分裂していただろう。小選挙区制を導入したことが自民党長期政権の打倒を難しくしたのは間違いなく(現に細川連立政権は中選挙区制だから誕生できた)、その点でも特に二大政党制を推進した山口氏の罪は大きい。

 いずれにせよこんな状況を打開するには、福祉国家派が消費税増税論を完全放棄することであり、歳出・歳入の両面で不公平を抜本的に是正する財政方針を明確に示すことである。消費税増税も歳出削減も「庶民への負担増」である。故にはっきりと「金持ち増税」を打ち出すべきであり、それが自民党支持層をも含め相当な支持基盤があることを今回の調査は実証したのではないか。現在「金持ち増税」を明確に主張しているのは共産党だけだが、民主党に必要なのは少なくとも財政問題において共産党に近づくことなのではないか。
 山口・宮本両氏、特に民主党の政権獲得に命を賭けている山口氏は当然このことを考慮しなければならない。

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by mahounofuefuki | 2008-02-15 21:43

民主党は「構造改革」を継承する気か

 昨年の参院選で自民・公明両党が大敗したのは、小泉・安倍政権下の「構造改革」という名の生活破壊政策に対する民衆の不満が爆発し、民主党が唱えた「生活第一」というスローガンに一定程度期待が寄せられたからにほかならなかった。
 しかし、選挙後の臨時国会で、民主党は最低賃金法改正であっさりと公約を捨てて与党の軍門に下り、その「生活第一」を実現する意欲を疑わせた。さらに昨年末には民主党税制調査会が「税制改革大綱」で、消費税の社会保障目的税化を前提とした引き上げを示唆し、これは党のシャドーキャビネットも了承した。民主党の信者以外の誰もが、これでは自民党とほとんど変わらないと考えざるをえない状況が続いている。
 そして昨日、民主党はついにルビコン川を渡ってしまったことが明らかになった。以下、時事通信(2008/02/07 15:11)より(太字強調は引用者による)。
 民主党は7日の予算調査会で、党の財政運営の基本理念をまとめた「予算機能転換法案」の要綱を決定した。消費税率を据え置く一方、徹底した歳出削減に取り組むことで、国の一般会計単独でプライマリーバランス(基礎的財政収支)の2011年度黒字化を目指す。政府・与党よりも高い目標を掲げ、財政再建に向けた強い姿勢を打ち出した。
 民主党は同法案を「政権取得後のマニュフェスト(政権公約)的な予算案」(中川正春「次の内閣」財務相)と位置づけ、今国会に提出する方針。ただ、財源確保の面であいまいな点が多く、説得力のある歳出削減策を打ち出せるかが今後の大きな課題となる。
 基礎的財政収支は、借入金を除いた歳入から借入金返済に関する費用を除いた歳出を差し引いて算出され、政策経費などが借金に頼らずに賄えているかを示す指標。国の一般会計の場合、08年度は5.2兆円の赤字になる見込みだ。政府・与党は、国の赤字を地方の黒字が穴埋めする形で、国・地方合計で11年度の黒字化を目指しており、「国の一般会計単独での黒字化」を掲げた民主党案の方がより厳しい財政改革が必要になる。
 民主党が2011年度までのプライマリーバランスの黒字化を目指す予算機能転換法案を準備していることは、すでに先月報じられていたが(共同通信2008/01/22 13:45など)、今回の決定で民主党が当面は歳出削減路線を強化する方針がはっきりしたと言えよう。これまで政府の経済財政諮問会議が行ってきた路線と同じであり、国が行うべき仕事を放棄する「小さな政府」の立場である。
 消費税の税率を据え置くとしているが、先の「税制改革大綱」でも税率の引き上げは消費税の社会保障目的税化を実現してからと明示し、当面は「消費税率は現行の5%を維持した上で、税収全額相当分を年金財源とする」と述べており、両者に矛盾はない。つまり歳出削減路線を採るからと言って、消費税増税路線を放棄したわけではないことを意味する。そこを見誤ってはならない。

 山口二郎氏が最近消費税増税も視野にした福祉国家論をしきりに唱えていたのは、おそらく民主党の歳出削減路線を採用する動きに対する牽制の意味合いがあったのだろう。しかし、消費税増税では歳出削減に対する牽制には決してなりえない。なぜなら歳出削減論者は根本的に消費税増税を否定しておらず、むしろ消費税増税の露払いとして歳出削減を行っているからである。そして消費税増税も歳出削減も「庶民いじめ」という点では全く同じである。
 政府はすでに福田康夫首相が再三消費税引き上げを示唆しており、自民党内の議論は消費税増税の可否ではなく、消費税引き上げを既定とした上で、年金の保険料方式を維持するか、税方式をどの程度導入するかといった段階に移っている。新自由主義の巣窟と目される経済財政諮問会議も、昨年来とっくに消費税増税の世論操作を始めている。そんな状況で民主党が歳出削減を前面に打ち出すのは、小泉・安倍時代と所入れ替わり、まるで民主党が「構造改革」路線を継承するようなものである。それが参院選の民意と矛盾するのは言うまでもない。

 消費税増税路線も歳出削減路線も「貧困と格差」を解消する方向性をもっていないことは明らかである。必要なのは、歳入においては逆進性の是正と累進性の回復、歳出においては削減ではなく配分の変更である。
 なお、私は以下の財政論を支持している。
 全国商工新聞 第2816号 私たちの主張-全商連(太字強調は引用者による)
(前略) 消費税に頼らなくても財源はあります。資本金10億円以上の大企業の経常利益はバブル期のピークだった1990年度の18・8兆円から2006年度には32・8兆円と史上最高を記録しました。しかし、税負担は13・9兆円から13・7兆円とほぼ同水準にとどまっています。法人税がかつては40%以上だったのが、現在30%に引き下げられた上に、連結納税制度、研究開発制度など大企業に有利な減税制度によるものです。
  法人税を当面、消費税導入前の40%にもどせば5兆円以上の財源が生み出せます。現在40%である所得税の最高税率を引き上げることも必要です。また、利権にまみれて水増しが横行している5兆円もの軍事費、毎年300億円も支給されながら使い切れない政党助成金など、見直しするべきところはたくさんあります。いま問題となっている道路特定財源を一般財源化することや、10年で59兆円も使うことが決まっている道路計画も再検討することが必要です。(後略)

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by mahounofuefuki | 2008-02-08 17:29

社会保障の財源が消費税でなければならない理由はあるのか

 以前、北海道大学大学院教授の山口二郎氏の消費税増税を含む財政論をブログで批判したことがあったが、その要点は氏が歳出の公平性は重視するのに、歳入の公平性を軽視していることだった。そうした批判は方々から出ているようで、『週刊金曜日』2月1日号で氏が反論していた。社会保障の財源がなぜ消費税でなければならないのかという問いには全く答えず、はっきり言って失望させられた。
 『金曜日』の記事は山口氏のブログに転載されている。
 YamaguchiJiro.com|08年2月:どのような日本を造るのか

 「私は、西ヨーロッパ型の福祉国家モデルを日本も採用すべきだと考えている。また、環境保護のためには経済成長をある程度抑制しなければならないとも考えている。日本の現状を見て、財務省と経済財政諮問会議およびその周辺にいるいかがわしいエコノミストの言う歳出削減路線が、社会保障を壊し、格差を広げたと憤っている」(太字は引用者による、以下同じ)という事実認識と目指す方向性に異論はない。歳出の総量を削減する必要は全くなく、現在の「小さくなりすぎた政府」を「大きな政府」とまでは言わずとも「ほどよい政府」くらいにはすぐにでも拡大しないと、日本社会の持続可能性は消滅すると私も考えている。
 問題は次の箇所である。「先日も、札幌の市民派ローカル政党を支持する市民と話をしていて、医療、介護に行政が責任を持つならもっと税金を払ってもいいけれど、今の政府は信用できないから増税には反対だという、市民派がよく言う主張を聞いた。しかし、信用できる政府を作ったうえで増税に応じるなどという話は、百年河清を待つ類である。新自由主義者や財務省は、政府は常に信用できないものだから、いつも小さいままでいいのだと、この種の議論を逆手に取る」と、「信用できる政府」は決して生まれないというシニシズムを前提にした議論を展開するのである。
 私はその対話の席にいたわけではないので、実際のところどのような話だったのか不明だが、福祉国家への具体的な道筋と具体的な予算配分を明確に公約した政府のもとでなければ増税を容認できないというのであれば正論である。道路特定財源で在日米軍の将校用住宅を作っているような(しんぶん赤旗2008/02/02による)政府が、いくら口先だけで「社会保障を充実します」と言っても誰も信用しないのは当然だ。これまで負担増のたびに私たちは裏切られ続けた。実際に増税を先行して社会保障に使われなかった時(後述するようにその可能性が非常に高い)、山口氏はどうやって責任をとるつもりなのか。

 一方で、氏は「私は、今すぐ消費税率をあげろといっているのではない。所得税の累進性の回復や相続税の増税など、公平の観点から先にすべき増税が何種類かある」とも述べているが、まさにその点こそ現在直面している課題であり、なぜその主張を第一に掲げないのか疑問だ。たとえ「将来」と限定していても氏のようなオピニオンリーダーが消費税増税を口にすることが、いかなる政治的効果を与えるかを知らぬわけではあるまい。社会保障の財源が消費税である必要は何もない。所得税でも法人税でも相続税でも構わないはずだ。
 山口氏は「消費税増税による財政再建か、歳出削減による財政再建か」という議論にとらわれすぎているように思える。しかし、実態はこの両者に違いはない。その証拠に日本経団連をはじめ財界団体はさらなる歳出削減を主張すると同時に、消費税増税も唱えている。彼らの目論見は消費税増税によって企業減税の財源を作ることにある。こうした動きを粉砕するには「庶民増税か、金持ち増税か」という次元の異なる対立軸を提示することであり、それは氏のような影響力のある政治学者の仕事である。

 最近の「北欧」ブームも含めて、私が何よりも不安なのは、現在の貧困層を切り捨てた上での福祉国家構築の動きである。消費税が引き上がれば、貧困層の家計は大打撃を受け、年金や健康保険の保険料を負担できなくなり、社会保障制度の枠外にはじかれる。山口氏が唱えるようにいくら増税で医療も教育も無料にすると言っても、増税と社会保障制度の充実にはタイムラグが生じる。増税の瞬間に確実な社会保障給付が行われでもしない限り、貧困層は生存権を失う。
 実は福祉国家構築の最も手っ取り早い方法はまさにこれで、社会保障の負担ができずに給付を受けるだけの貧困層や高齢者を死滅させ、残った現役の中産階級以上の人々だけで「高負担・高福祉」を実現する。かつて北欧諸国がマイノリティーに対する断種政策を行ったように、あらかじめ「税を負担できず給付を受けるだけの存在」を消し去りたいのではないかという疑問が拭えない。「社会保障充実のための消費税増税」というレトリックの影にそんな企図を読み取るのは穿ちすぎだろうか。
 今、何よりも必要なのは、所得格差の縮小である。所得の平等度を高めない限り、「高負担・高福祉」など夢のまた夢である。消費税の引き上げがそれに逆行するのは言うまでもない。

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by mahounofuefuki | 2008-02-03 17:03

現行の社会保障制度は弱者を排除している~「社会保障国民会議」発足を前に

 昨年末に福田康夫首相が公約していた政府の「社会保障国民会議」の設置が閣議決定された。
 朝日新聞(2008/01/25 13:27)、毎日新聞(2008/01/25 11:59)によれば、メンバーは次の通り(敬称略)。
吉川洋(東京大学大学院教授)=座長/大森弥(東京大学名誉教授)/奥田碩(トヨタ自動車相談役)/小田与之彦(日本青年会議所会頭)/唐沢祥人(日本医師会長)/神田敏子(全国消費者団体連絡会事務局長)/権丈善一(慶応大学商学部教授)/塩川正十郎(元財務大臣)/清家篤(慶応大学商学部教授)/高木剛(連合会長)/竹中ナミ(社会福祉法人プロップ・ステーション理事長)/中田清(全国老人福祉施設協議会副会長)/樋口恵子(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長)/南砂(読売新聞編集委員)/山田啓二(京都府知事)
 自立生活サポートセンター「もやい」の湯浅誠氏を起用するようなサプライズはなく、予想通り既成の圧力団体の関係者と御用文化人ばかりで、官僚がコントロールできる人選である。ワーキングプアやホームレスの代弁者は1人もいない。「国民会議」と称していながら政府・与党にとって壁となるような人物もいない(ただし分科会の方で呼ばれる可能性は残っているが)。
 また消費税増税派が多数を占めており、政府・与党の既定路線である消費税の社会保障目的税化と引き上げに「お墨付き」を与えるだけの機関になりそうだ。

 現在の日本の社会保障は、こんな人々に任せることができないほど疲弊し、崩壊が進行している。社会保障とは本来、その名の通り社会生活を保障するもので、困っている人や弱っている人が自立できるようになるためのセーフティネットである。しかし、少なくとも日本の社会保障制度は、豊かな人や恵まれた人ほど有利で、本当に困窮している人々を制度の外側に排除するような仕組みになっている。

 たとえば年金。
 周知の通り、現在すべての「国民」が国民年金への加入を義務づけられているが、公務員や教職員の場合は共済年金、会社員の場合は厚生年金があり、それぞれ国民年金に上乗せされる2階部分がある。使用者(国・企業)負担があり、報酬に比例するこの「2階部分」があるのとないのとでは、世帯当たりの年金給付額に相当大きな開きがあることは従来からよく言われていた。
 「2階部分」がある場合と国民年金だけの場合との格差に加え、国民年金は保険料が所得にかかわらず定額(現在は月額14,100円)で低所得者ほど負担が大きいという問題がある。しかも、国民年金の給付は現役時代の年金納入期間によって左右される。未納期間が長ければ長いほど自身の給付額は減る。そもそも国民年金の担い手は自営業者や厚生年金に加入できないパート・アルバイトなどで、ただでさえ所得が不安定なのに、この逆進的な制度のためにますます苦境に追いやられている。
 現在、国民年金保険料の未納率は4割に達する。保険料納入の時効はわずか2年。長期未納者は年金給付の権利を喪失する。現在の年金制度は安定した終身雇用を前提にしているため、そうでない不安定雇用の人々を制度の外側に追い出しているのである。

 あるいは、医療保険。
 これも年金と同様、公務員は共済組合、会社員は組合健保ないし政府管掌健保で、それ以外は国民健康保険というように雇用形態により違いがあるのは言うまでもない。問題は使用者負担のある健保に比べ、自治体が運営する国保はいずれも財政赤字で年々保険料が増加しているため、保険料の未納・滞納者が続出していることである。
 国保はこれまた雇用や所得が不安定な人々が主たる担い手になっている。ただでさえ弱い立場にあるのに高額の保険料を負担させられ、滞納が続くと保険証を取り上げられる。厚生労働省の最近の発表によると、国保料の滞納世帯は約474万6000世帯で、国保加入世帯の18.6%にものぼる。そのうち約34万世帯が保険証を取り上げられ、資格証明書の発行を受けている。資格証明書での受診は全額自己負担である。病気になってもカネがなくて治療を受けられない人々が増加している。
 その結果、弱者が保険制度の外側にはじかれる→制度の内側に辛うじて残っている人々の負担が増える→負担に耐えられず外側にはじかれる、という悪循環を引き起こしており、ここでも困っている人、弱っている人が社会保障の枠組みから排除されているのである。

 年金と医療を例示したが、雇用保険や介護保険や障害年金や生活保護など他の分野でも似たような事態が進行している。あえて言ってしまうが、現在の日本の社会保障制度は、安定した雇用と所得を得られる人々だけの「特権」になっている。本当に保障を必要とする困窮者ほど社会保障制度から排除され、恩恵に与れないのは矛盾以外の何者でもない。
 「特権」をすべての主権者が享受できる「当り前の権利」にすることが必要なのは言うまでもない。特に年金と医療については雇用形態による差別をなくしていく方向性が欲しい。

 前述の通り、政府と財界は社会保障国民会議で、消費税の社会保障目的税化と引き上げの既定路線化を進めるのは間違いない。
 しかし、究極の逆進税である消費税の引き上げは、この国の社会保障の崩壊にとどめを刺す暴挙である。政府は消費税を引き上げようとする一方で、国民年金保険料も国民健康保険料も引き上げを続けている(それでいて給付の方は引き上げられず「現状維持」もしくは「引き下げ」である)。消費税を消費支出を通して強制的に負担させられる分、保険料を負担できなくなり、低所得者はますます社会保障制度の外側へ追いやられる。
 そして最後のセーフティネットである生活保護も、政府は今年再び引き下げを図っている。これ以上、政府と財界と自民・公明両党(もしかすると民主党も)による社会保障つぶしが続けば、この国の生活困窮者は増大し続け、結局は消費市場を縮小させ、労働力を失い、社会保障のみならず経済も崩壊するだろう。

 社会保障国民会議には全く期待できないが、これを機に在野においても社会保障制度のあるべき姿について提起していくべきであろう。
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by mahounofuefuki | 2008-01-25 17:07

「ひきこもりセーフティネット」は「引きこもり予備軍」への「監視活動」か

 この国の労働政策や教育政策の特徴として、何か問題があると、現在進行形で問題をかかえる人々を放置し、専ら次の世代を対象とした「対策」に集中してしまうということがある。
 たとえば「学力低下」問題。最近、中央教育審議会は「ゆとり教育」を見直し授業時間を増加する答申を行ったが、これから学齢期を迎える子どもはそれでいいとして、十分な学力を得られないまますでに社会に放たれた人々はどうなるのか。「ゆとり教育」は失敗でしたと断じた以上、その失敗した政策のもとで「生産」された「学力の低い」大人に対して、何一つケアがないというのはあまりにも無責任ではないか。
 雇用問題でも我々「氷河期世代」へは今も何ら実効的な措置が行われていない。学卒期にたまたま就職難であったために、非正規雇用でスタートした人々はずっと社会の底辺で淀み続けることを余儀なくされている。ところが労働政策は専らこれから就職する若者への対策ばかりで、「氷河期世代」は放置されたままだ。安倍政権は偽善的とはいえ、まだ「再チャレンジ」を唱えて、問題の所在だけは認識していたが、福田政権になってからはそれすらなくなった。

 毎日新聞(2008/01/19 12:26)によれば、東京都は来年度から「引きこもり」とその保護者を支援する「ひきこもりセーフティネット」事業を始めるという。「予防に特化した支援」ということで、ここでも現在「ひきこもり」を余儀なくされている人々への自立・社会復帰支援はなく、専ら「将来ひきこもりになりそうな」若者への「支援」である。
 しかもその「支援」内容はとても「支援」とは言えないような危険な代物なのである。以下、同記事より。
(前略) 都は区市町村に教育・福祉や、NPO(非営利組織)のスタッフらで構成する連絡協議会を設置。中学や高校から、退学したり不登校の生徒に関する情報提供を受け、支援が必要なケースでは積極的に保護者への相談に乗り出したり本人に訪問面談する。地域の特性も加えた独自の対策案を各自治体から募り、効果が高いと判断した3カ所をモデル事業に指定する。
 また、引きこもり予防のため、家族を支援する「対策マニュアル」も初めて作成する。保健所、NPO、都立校など約720機関と約50人の経験者を対象にした07年度のアンケートや面談による調査結果を活用し、予防に役立てる。都は08年度予算に「若年者自立支援経費」として2億円を計上する。(後略)
 つまり中途退学者や不登校の子どもを「引きこもり予備軍」とみなして、彼らの所在に関する情報収集を行い、「積極的に」彼らを訪問するというのである。これは「支援」というより、むしろ「引きこもり予備軍」に対する「監視」と言うべきである。

 そもそも東京都の発想は根本から間違っている。「引きこもり」=「中途退学者」「不登校」という前提が偏見と思い込みにすぎない。実際の「引きこもり」は年齢も学歴も多様で、その原因も一様ではない。ただはっきりしているのは日本社会での「生きにくさ」を感じていることで、それは人間性をはく奪するような弱肉強食化した社会構造に起因する。その大前提を無視して、まるで「引きこもり」を「犯罪者」扱いして、監視対象とするのはまったく賛成できない。
 「引きこもり」支援に従事するNPOとの連携を重視しているようだが、NPOといってもピンからキリまである。「引きこもり」を「落後者」「できそこない」と烙印を押して、ただ厳しく鍛えればいい、というような乱暴な軍隊式の方法を好む団体もある。しかも、東京都のトップである石原慎太郎知事がまさにそういう考えの持ち主であり、この「ひきこもりセーフティネット」を社会政策ではなく、治安政策という位置づけを与えるのではないかと危惧せざるをえない。

 「未来の問題」の「予防」ばかりに気をとられ、「現在の問題」の「解決」を軽視する風潮は座視しがたい。特に「引きこもり」問題の場合、むしろ人間らしい働き方を許さない労働環境や、競争と選別を中心とする教育環境にこそ切り込まない限り、決して解決への道筋はつけられないであろう。それが結果として「予防」にもつながると思うのだが。
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by mahounofuefuki | 2008-01-20 11:35

ドクターズユニオン結成へ~立ち上がった勤務医と医師不足問題

 花・髪切と思考の浮遊空間の記事で知ったのだが、勤務医を中心としたグループが医師の労働環境改善を目指して新たな医師団体の結成を計画しているという。
 共同通信(2008/01/13 19:39)や朝日新聞(2008/01/14朝刊)などによれば、「全国医師連盟設立準備委員会」というグループで、勤務医や研究医など現在約420人が会員となっているという。1月13日には東京ビッグサイトで総決起集会が行われた。今年5~7月に「全国医師連盟」の設立を目指す。既成の代表的な医師団体である日本医師会が開業医中心であるため、それとは異なる立場から問題提起を図るという。特に勤務医の過労や医師不足の解消を訴えており、医師の労働組合の結成も準備しているようだ。

 実のところ医療問題はあまりよく知らない分野で(今まで幸いにも入院や大きな手術をしたことがないため)、故にこれまでブログできちんと取り上げたことはなかったが、社会保障の再建や長時間労働の是正は私が最も重視する問題であり、少しは勉強しなければならないようだ。ちょうどタイミングを合わせるように今月発売の『世界』2月号が医療崩壊問題を特集しており、メモを兼ねて情報をまとめておこう。

 全国医師連盟設立準備委員会のホームページによれば、「新組織は、いかなる政党、宗派とも独立した組織です。大学や学会や病院などの既存の権威に依存しない、あくまでも現場の医師達の組織です」と自己規定している。
 また、同HPには「檄文」が掲載されている。そのうち「当面の行動」と題する文書を引用する(太字は引用者による)。
全国医師連盟は、
1 医療労働環境改善のために、個人加盟制の医師職労働組合ドクターズユニオンを創設すると共に、厚労省、公共団体、病院管理者に労働基準法遵守の指導を徹底させます。
2 医療報道の是正と世論への啓発のために、記者向けの医療事案解説サービスを設置し、迅速なプレスリリースや医療記事の誤報訂正などを働きかけ、より公正な報道を導きます。
3 医療過誤冤罪を防止し、同時に医師の自浄作用を発揮させるため医師関連団体に働きかけ、また法曹関係者等と協同してこれらの活動を行います。
4 適正な医療費の公的扶助を実現するため、国の医療費抑制政策を転換させ、公共の福祉の向上と共に、診療経営を防衛します。

我々は、医師と医療の真の社会貢献をめざします。
患者と医師が協同して、病気の治療にとりくむ、最善の医療環境をめざします。
 医療過誤問題については、事実さまざまな事件が起きており、「自浄作用」による「冤罪防止」という立場については保留したいが、政府が続けている医療費抑制政策は全面的に廃止するべきだと私も考えており、医師の労働条件改善も理解・支持できる。
 「ドクターズユニオン」構想は、まさに各地の個人加盟型労組である地域ユニオンの医師版であり、ここでも政治団体化した既成の圧力団体(労組の場合は連合など、医師の場合は日本医師会)とは異なる、本当に加盟者の権利を守る組織への希求が読み取れる。
*ただしOhmyNewsによれば、同会の代表世話人である黒川衛氏は「医師会と対立する見解も部分的にはあるが、全面対立するものではない」と注意しており、いわゆる「医師会への反乱」と位置づけることはできないだろう。企業内で御用組合と闘う少数組合とは異なるようだ。

 現在日本の医療における最大の問題は医師不足であろう。勤務医の労働条件悪化の第一の要因もここにある。日野秀逸「医療費抑制政策からの転換を」(『世界』2008年2月号)が日本の医師数について国際比較を行っている。以下、同論文による。
 日本国内の医師総数は約26万人。WHO「ワールド・ヘルス・リポート2006」付録「加盟国における保健労働者の国際比較」によれば、人口10万人あたりの医師数は198人、加盟192カ国の第67位である。ちなみにヨーロッパで最も低水準のイギリスで230人、他の西欧・北欧諸国は軒並み300人台で、イタリアは420人、ロシアは425人である(以上、2002年当時)。
 また、OECDの調査によれば、2003年現在のOECD加盟国における人口10万人あたりの臨床医師数の平均は約300人、日本(2002年、04年)は約200人となっている。日本の人口に当てはめると、臨床医師がOECD平均より12万7000人以上も不足しているという。
 統計によって数字に開きがあるようだが、「先進国」で日本の医師数が最低水準なのは間違いないところだろう。

 医療は教育や福祉とともに「構造改革」によるダメージを最も受けた分野である。今回勤務医たちが声を上げたのを機に、医療のあるべき姿について真剣に考えなければならないだろう。

【関連リンク】
「医療崩壊阻止し、医師の新時代を」-OhmyNews
全国医師連盟設立準備委員会
日経メディカルオンラインブログ 本田宏の「勤務医よ、闘え!」
勤務医の「反乱」をどうみる。-花・髪切と思考の浮遊空間
社会保障と「分断」-勤務医の「反乱」再論-花・髪切と思考の浮遊空間
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by mahounofuefuki | 2008-01-15 23:14

「歳出の公平性」だけでなく「歳入の公平性」も必要だ

 北海道大学大学院教授の山口二郎氏といえば一般にリベラル派(という呼び方は嫌いだが)の代表的な政治学者と目されており、その行動力と鋭い知性において比類がない。故に学生時代から私は一定の敬意を持っているし、その発言に影響も受けてきた。
 しかし、一方で常に山口氏に対するある種の違和感も持っているのも事実で、それは1990年代の「政治改革」の熱狂が渦巻いた時代に、二大政党制推進のオピニオンをリードし、結局小選挙区制への道を開いたことだったり(死票が多く、1票の格差が大きい反民主主義的な選挙制度であることは言うまでもない)、民主党を露骨に支援したりする姿勢だったり(昨年の「大連立」を巡る騒動でその矛盾が露呈した)、要するにあまりに「現実的」であろうとする傾向に対する疑問であった。

 なぜこんな話をするのかというと、村野瀬玲奈の秘書課広報室経由で知ったふじふじのフィルターが紹介している山口氏の東京新聞(2007/12/24朝刊)でのコラム(電子版には出ていない)と、山口氏自身のブログにも転載されている週刊東洋経済2007/12/22号でのコラムとの間に「矛盾」を感じたからで、しかもそれは今後の財政問題にとって重大な論点であり、決して見過ごせないことなのである。
 両方のコラムの全文はそれぞれのブログで確かめて欲しいが(下記の関連リンク参照)、東京新聞では歳出について、東洋経済では歳入について論じており、両者は一対のものである。

 東京新聞のコラムでは、財政支出の増大を「バラマキ」と非難するマスメディアの論調への批判を通して、国家による公平な「富の再分配」の必要性を強調している(引用文中の太字は引用者による、以下同じ)。
 「そもそも政策とは分配の変更をもたらすものである。労働分野の規制緩和を進めて低賃金を可能にすることは、労働者から企業への富の再分配をもたらす。小泉-安倍政権の時代には、そうした再分配を改革と美化してきたものだから、それに対する反動で弱者にもっと再分配しろとの声が高まるのも当然である。強者への再分配は改革と賞賛し、弱者への再分配はバラマキと非難する。このような言質のゆがみに、確信犯である日経新聞は仕方ないとしても、他メディアはもっと敏感になるべきだ」というくだりはもっともで、私も全面的に賛成である。
 貧困と格差が拡大した第一の原因が、国家の再分配機能の低下にあることを考えれば、「歳出の有効性と公平性」こそ問われなければならないという山口氏の主張は真っ当だ。

 一方、東洋経済のコラムでは、民主党の政権担当能力をめぐる議論を通して、社会保障の恒久的財源としての消費税引き上げを主張している。
 「これからの社会保障、環境保全、少子化対策など様々な政策需要を考えたとき、小さな政府が解決策になるはずがない。したがって、中期的な観点から財源についても真剣に考えなければならないはずである」というのはその通りだが、なぜそれが「消費税の引き上げについても、本格的な議論を始めるべきである」ことに直結するのか。社会保障や環境保全の財源が消費税でなければならない理由が何なのか示さずに消費税引き上げを語るのは無責任である。
 しかも、消費税増税論の提唱が政権担当能力を示すという論調は「政権を取りたかったら消費税増税を公約すべき」と言っているようなもので、まるで脅しのようで非常に危険である。

 山口氏は歳出については「有効性と公平性」を唱えながら、歳入については「有効性と公平性」を度外視しているのである。歳出における再分配機能を重視するのに、なぜ歳入においては逆進性が強くて弱者に不利な消費税の増税を求めるのか。再分配は歳出のみならず、徴税においても行われなければ無効である。
 「中期的観点」と限定している以上、山口氏はおそらく消費税の即時引き上げには慎重で、順序として「歳出における再分配の回復・強化」→「消費税の社会保障目的税化」→「消費税増税」という道筋を考えているのかもしれない。北欧型の「高負担・高福祉」を想定しているのだろう。
 しかし、いかに歳出において弱者への再分配を手厚くしても、消費税が高くなれば所得再分配効果は激減する。北欧諸国の消費税が高くても問題がないのは所得の平等度が高いからで、不平等度が今やアメリカに次いで大きい日本では消費税を引き上げたら貧困と格差はますます拡大する。所得の平等度を高くするのがまず必要なことであり、それは財政出動だけでは実現できない。何としても所得税の累進課税の強化と企業の税負担の増強(できれば資産課税の強化も)がなければ無理である
 消費税増税を検討する前に、所得税や法人税のあり方こそまず検討するのが順序として正しい。

 実態として自公政権下においては、「歳出削減」(いわゆる「上げ潮」派)か「消費税増税」(いわゆる財政再建派)かの二者択一の議論に終始している以上、「骨太の方針」の継続を狙う「上げ潮」派を批判すると、財政再建派に肩入れしてしまいがちである(山口氏は財政再建派の中心人物である与謝野馨氏を「常識と責任感を持った政治家」と持ち上げている)。
 しかし、そもそもそんな二者択一は欺瞞である。その証拠に日本経団連をはじめとする財界は、依然として「小さな政府」を要求しながら、消費税の増税も要求している。なにせ大企業は輸出戻し税によって消費税が上がれば上がるほど儲かる仕組みになっている。当ブログで何度もしつこく指摘しているように、社会保障の財源を消費税に限定するということは、現在社会保障に用いている消費税以外の財源が浮くことを意味する。この「浮いた財源」こそが消費税増税派の狙いであり、政府税調の中からもこの財源で法人減税を行うべきだとの声があった。

 山口氏は民主党に影響力があり、民主党が安易な消費税増税論に転換するのが心配だ。昨年末すでに民主党が消費税増税を検討するとのニュースが流れている。もう一刻の猶予もない。
 私が言いたいのは「歳出削減でも消費税増税でもなく金持ちたちに応分の負担を」ということに尽きる。山口氏の再考を強く望みたい。

【関連記事】
消費税増税問題に関するリンク

【関連リンク】
ふじふじのフィルター:バラマキとは何か
村野瀬玲奈の秘書課広報室 「バラマキ」という言葉を安易に使う報道機関を信用したくない (不定期連載「決まり文句を疑う」)
YamaguchiJiro.com|07年12月:政権担当能力の試金石となる税制論議
全商連[全国商工新聞] 大企業上位10社で1兆円超の消費税環付金
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by mahounofuefuki | 2008-01-05 15:34

年頭所感を読む

 新年あけましておめでとうございます
 我々を取り巻くひどい社会状況を考えると、全然おめでたくないというのが本音ではありますが、本年もよろしくお願いします。


 さて、元日は各界の年頭所感が発表されるのが恒例である。たいていは形式的な建前上のあいさつだが、それだけに品格が問われるところであるし、その人物や団体の志向性が読み取れる好材料でもある。

 まずは何を措いても読まねばならないのは内閣総理大臣の年頭所感であろう。
 年頭所感-首相官邸
 福田康夫首相の所感はその現状認識の甘さにあきれる。「日本は、目覚ましい戦後復興を成し遂げ、高度経済成長を経て、世界にも誇る経済大国へと発展しました。経済発展とともに、医療の充実や国民皆保険・皆年金などを目指して安定した社会を作りあげた結果、今や、平均寿命世界一の長寿国となっています」と言うが、この国のどこが「国民皆保険・皆年金」なのか。国民健康保険料を支払えず、保険証を取り上げられる人々が続出し、治療費の滞納が蔓延する現状をどう説明するのか。中曾根政権が国保の国費負担を減額して以来、自民党政権はすでに国民皆保険の放棄を指向しているのである。国民年金も未納率はすでに4割近くに達する。そのほとんどが低所得者であり、未納期間が長いほど受給額は減るから貧しいものほど社会保障が受けられないという「逆転現象」が起きている。首相の発言はこうした現状を無視した暴言とさえ言える。
 福田氏は先月公表した社会保障に関する「国民会議」にも言及しているが、「これまで日本がとってきた社会保障制度、すなわち中福祉中負担のままでよいのか、スウェーデンのような高福祉高負担の方向が望ましいのかなど、広い視野から議論し、多くの国民が納得する制度を考えていただきたい」という発言も、単に消費税の社会保障目的税化と引き上げの口実にしか思えない。毎年2200億円ずつ社会保障費を削減している現在の予算編成はどうなのか。スウェーデンは高負担だが、同時に税制を通した所得再分配を行っている。所得の平等化を目指さずに「高福祉高負担」と言ってもリアリティはない。今のままでは社会保障削減の「骨太の方針」を継続しながら、消費税だけは引き上げ、現在社会保障に使っている消費税以外の財源を金持ちと大企業の減税に使い、結局「低福祉高負担」になるのではないか。

 福田以上に最悪なのは日本経団連の年頭所感である。
 日本経団連:成長創造~躍動の10年へ~
 「いま国民が感じている閉塞感は、成長が足踏みしていることによる面も大きく、いわゆる格差問題への対応も、全体の規模拡大がなければ限られたパイの奪い合いに陥りかねない」と言うが、経済が成長していようが、停滞していようが、資本主義経済は基本的にパイの奪い合いである。パイがいくら大きくなっても欲望に際限がない人間はどこまでも自分の取り分を増やそうとする。パイが大きくなっても公平な分配機能がなければますます格差は拡大し閉塞感は高まるだろう。
 「10年以内に世界最高の所得水準を達成」することを目標に上げているが、日本の所得水準はすでに世界最高水準にある。これ以上引き上げて、ますます途上国を貧困にするのか。1人あたりの所得が少ないのは、労働者への分配率が低いからで、それは日本経団連をはじめ財界が進めた新自由主義政策の結果である。いいかげん経済成長ですべて解決という「神話」の誤りに気づいて欲しい。

 ちなみに経済同友会も年頭所感で相変わらず競争万能を謳っている。
 魅力ある日本の再構築に向けて:経済同友会
 「国の責務は、最低限のナショナル・ミニマムの保障によるセイフティネットの提供と再挑戦を可能にする制度整備などに限定し、小さくて効率的な、信頼される政府の構築を目指すべきである」と未だに小泉政権の「構造改革」路線を主張しているが、それがとっくに破たんしていることがわからないのか。人口当たりの公務員数がすでに世界最低レベルなのに、これ以上「小さな政府」にしたら社会は崩壊する。最低限のセーフティネットすら破壊したのはどこの誰だったか。バカバカしくて話にならない。

 財界とは対極にあるはずの労組も頼りない。連合の高木剛会長の年頭所感を読むと、もう連合は再生不能なのではないかとさえ思ってしまう。
 日本労働組合総連合会(連合)ホームページ
 「歪みの根底に非正規雇用労働者問題があると指摘し、運動の柱に据えてきました」という言葉が空虚だ。連合は具体的に何か非正規労働者のための実効的な活動をしたのか。昨年、非正規労働者の権利確立のために目立った闘いを敢行していたのは、各地の地域ユニオンや派遣企業のユニオンだった。連合はカネを出すなりヒトを出すなりしたのか。非正社員の多くが正社員からの差別と侮辱に苦しんでいる現状を無視している限り、組織率の回復など画餅にすぎない。

 政党はどうか。民主党は党役員の新春メッセージ映像を発表している。
 民主党 web-site
 このうち小沢一郎代表は「政治は生活である」と強調し、自民党の「半世紀以上の長期政権」の腐敗を批判し、「政権を替える以外に方法はない」と述べているが、その「半世紀以上」の政権中枢には小沢氏自身もずいぶんと長い間いた事実はどう説明するのか。ついでに言えば細川・羽田政権はどこへ消えたのか。あれも政権交代だったはずだが、すっかり忘却しているようである。自民党政治の主流にどっぷりと浸かり、自民党と連立しようと画策した人が「何としても総選挙で勝利しなければなりません」と言っても説得力に欠ける。

 共産党の志位和夫委員長の所感はシンプルである。
 2008年 志位和夫委員長のごあいさつ-日本共産党
 「暮らしの悲鳴がこんなに深刻に聞こえてくることはありません」とはその通りだし、「もう自民党ではやっていけない」という声も多いが、「共産党がんばって」という声は志位氏が言うほど私には聞こえない。むしろ「とりあえず政権交代」という考えで民主党に支持を奪われているのが実情ではないか。共産党に肩入れすることの多い私だが、今回は物足りなさを感じた。

 今回読んだ年頭所感の中で個人的に最も共感し、感銘を受けたのは社民党の福島瑞穂党首のメッセージである。
 社民党全国連合|2008年を迎えて 社民党党首・福島みずほ
 「大政翼賛会は、戦争一直線への道です」というあたりは教条的で史実にも反するが(翼賛体制が戦争を生んだのではなく、戦争が翼賛体制を生んだ)、「政治は、人の人生を応援すべきものであるにもかかわらず、今の政治は、人々の人生を破壊していっています」というくだりには全面賛成だし、「政治の結果生じた格差と貧困の拡大は、政策の転換でしか根本的には変えることができません」というのもその通りで、「政権交代」しても「政策転換」がなければ無意味という事実を下敷きにしている。また文章自体に何となく「優しさ」がにじみ出ているのも好感が持てる。

 もう1つ、意外と良かったのは新党日本の田中康夫代表である。
 新党日本代表 田中康夫「年末年始のご挨拶」-新党日本
 田中氏が言うように、「おかしいことは、おかしいと言う」だけでなく「おかしいことを、一緒に変えていく」という姿勢は現在の日本社会に最も必要なことである。貧困や格差が存在するとアピールする時期は終わり、貧困や格差をどう直すか、具体的に行動することが必要だろう。「怯まず・屈せず・逃げず」というモットーも、現に田中氏は参議院本会議で労働契約法案の採決に際して、統一会派を組んでいる民主党の党議を無視して反対票を投じただけに説得力がある。

 以上、いろいろな年頭所感を読んでみたが、2008年こそは「社会的平等」の価値回復への転換の年になってほしいと切に祈願している。
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by mahounofuefuki | 2008-01-01 17:40

「反貧困たすけあいネットワーク」結成

 以前、当ブログでも紹介した「反貧困たすけあいネットワーク」が12月22日に結成総会を行う。
 以下、反貧困たすけあいネットワーク:12/22 結成総会を開催しますより。
12月22日(土)、「反貧困たすけあいネットワーク」結成総会を開催します。団体の目的や運営体制、「たすけあい制度」についての説明、会員やサポーターの募集告知など。会員のみなさんはもちろん、メディア関係者や貧困問題に関心をお持ちの方々まで、奮ってご参加ください。
【とき】12月22日(土) 10:30より
【ところ】東京都豊島区南大塚2-33-10 東京労働会館 地下ホール
JR大塚駅5分、地下鉄丸の内線新大塚駅7分
Tel 03-5395-5359 Fax 03-5395-5139(首都圏青年ユニオン)
 「反貧困たすけあいネットワーク」について、同ブログでは次のように説明している。
誰も守らないなら、自分たちで守る!
「反貧困たすけあいネットワーク」は、首都圏青年ユニオンと自立生活サポートセンター・もやいの共同企画。病気で1日1000円、最大で10日分10000円が保証される「休業たすけあい金」と、生活に困ったときに10000円の救援が受けられる「生活たすけあい金」のふたつの「たすけあい制度」を備えたネットワークの誕生です。そして、会員のみなさんと情報を共有するための「メールマガジン」も発行します。 エキスパートによる労働・生活相談、イベントや“居場所”作りの話題、健康や趣味の話から会員の方々のメッセージまで、 「しごと」と「くらし」に役立つ情報をお届けしていきます。
 入会案内と入会申込書は以下のPDFファイルを参照。
 たすけあいネット入会案内*PDF
 たすけあいネット申込書*PDF

 詳細は入会案内を参照してほしいが、上記のように、月会費は300円からで、6か月以上の加入で、病気時に1日1000円の給付を、生活困窮時に1万円の無利子貸付を受けられる。給付や貸付にあたっては面談があるが、病気の場合、国民健康保険証を取り上げられていても構わない。2008年からはメルマガも発行する。

 「反貧困たすけあいネットワーク」が、何の保障もない「ワーキングプア」にとっての最低限の社会保障として機能することを望みたいが、本来こうした社会保障は政府がやる仕事である。しかし、この国は来るはずもない弾道ミサイルを撃ち落とす実験(しかも実戦では相手ミサイルには届かない)には、1回あたり100億ものカネをつぎ込んでも、貧困の解消にはまったくカネを使わない。「誰も守らないなら、自分たちで守る」という言葉はあまりにも痛切に響く。
 この試みが、この国の歪んだ財政と崩壊した社会保障を是正するきっかけになってほしい。

【関連リンク】
反貧困たすけあいネットワーク
首都圏青年ユニオン
特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター もやい
「ご飯を食べながら、寝たこともある」──過重労働の報告も 反貧困たすけあいネットワーク発足イベント-OhmyNews
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by mahounofuefuki | 2007-12-20 12:43

「社会保障に関する国民会議」に要注意

 福田康夫首相が社会保障に関する「国民会議」の設置を表明した。
 この構想はもともと民主党の小沢一郎代表との党首会談で与党側が提案したものだが、民主党が拒否していたいわくつきの代物である。
 朝日新聞(2007/12/18 16:11)より(太字は引用者による)。
 福田首相は18日、社会保障全般について議論する「国民会議」を新たに立ち上げる考えを表明した。会議は経済団体や労働組合の代表、学識経験者らで構成。年金など社会保障制度を支える財源としての消費税率引き上げに向け、給付と負担のあり方についての議論を喚起するとともに、参院第1党の民主党との話し合いの糸口を見いだす狙いもありそうだ。政府は、来年1月中に初会合を開く方向で調整している。

 首相は同日、仕事と生活の調和を図る働き方について議論する「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」で、「様々な立場の方々に幅広く参加いただき、社会保障のあるべき姿と、政府にどのような役割を期待し、負担を分かち合うのか、国民の方々が思い描くことができるような議論を行いたい」と語った。

 会議の趣旨について、首相は同日午前、首相官邸で記者団に「スウェーデンのような完備されたものがいいのか、中福祉・中負担がいいのか、議論してもらいたい」と述べた。消費税引き上げについては「とりあえず議論しない」とし、半年をめどに議論をとりまとめたいとの考えを示した。

 首相は「宙に浮いた年金記録」問題をめぐる自らの発言が「公約違反」と批判され、内閣支持率が急落。「国民の安心と安全」を掲げる政権だけに、年金をはじめ社会保障制度の信頼回復が最優先課題となっている。今回の国民会議の設置で、社会保障問題に積極的に取り組むという政府の姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。

 町村官房長官は同日午前の記者会見で、扱うテーマについては「社会保障に関する雇用、年金、医療、介護、福祉、子育て、少子化対策、男女共同参画など、具体的な中身と政府の役割について議論していく」と述べ、個別テーマごとに専門調査会を設けることも検討する考えを示した。(後略)
 「国民会議」を謳い、労使の代表や有識者に加え、野党側の参加を求めているが、野党側は国会で議論すべきだとして改めて参加を拒否した(東京新聞 2007/12/18 夕刊)。小沢氏は記者会見で「国会がまさに国民会議であり、国会で各党が論戦すればいい」と一蹴したようだが(毎日新聞 2007/12/18 13:16)、その点はまったく正論である。国会という全政党が参加でき、有識者を参考人として招致できる場があるのにもかかわらず、政府内に「国民会議」なるものを設置するのは疑問である。

 当ブログがずっと指摘しているように、政府は何とかして消費税の増税を実現したがっている。そのために「社会保障制度を維持するための消費税増税」という詭弁を繰り返しているのだが、この「国民会議」はその「社会保障制度を維持するための消費税増税」という結論に「お墨付き」を与えるための権威となる可能性が高い。福田首相は「負担のことは取りあえず議論しない」(東京新聞、前掲)と「国民会議」での消費税増税議論を否定したが、「取りあえず」がいつまでなのか不明で、当てにならないことは言うまでもない。
 年金記録問題の再燃でみたび年金不安が高まり、福田内閣の支持率が急落し、野党も年金不安を煽るなかで、逆に「年金を守るためには消費税を引き上げるしかない」という考えが浸透しやすい状況にある。特に高齢者にはその傾向が強い。政府が真剣に社会保障に取り組んでいるフリをする格好の場ともなろう。

 「国民会議」の陣容はまだ不明だが、専門ごとの部会が作られるとなると、大がかりなものになるかもしれない。会議の人選、議題、機構などに注意する必要があるだろう。

【関連記事】
消費税増税問題に関するリンク
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by mahounofuefuki | 2007-12-18 17:43