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生活保護行政が「生活保護以下」の職を斡旋する矛盾

 これは毎日新聞のスクープと言っていいだろう。札幌市に生活保護を申請したホームレスに対し、市職員が申請を認めなかった上、北海道外の派遣会社を紹介し、ホームレスが派遣先では極めて劣悪な条件で搾取されていたことが明らかになった。
 毎日新聞(2008/09/01 02:30)より(太字強調は引用者による、以下同じ)。
 札幌市内の一部の生活保護担当職員が、無届けの職業紹介を禁じた職業安定法に違反して、生活保護を希望するホームレスに人材派遣業者での就労をあっせんしていたことが分かった。紹介を受け派遣契約を結んだところ、劣悪条件の勤務を強いられてトラブルになったケースもあり、07年初めごろまでにはあっせんをやめたとされる。市は事実を認め「現在は指導を徹底し再発防止に努めている」と説明している。
 支援団体「北海道の労働と福祉を考える会」などによると、生活保護申請の相談をするため06年ごろに北区や中央区役所を訪れたところ、職員から「認められない」と言われた。職員は東京都新宿区と愛知県刈谷市の派遣業者2社の連絡先などを手渡し「本州で勤務することになるが、この会社なら住所がなくても働ける」と説明。職員が自ら連絡したケースもあった。
 2社の派遣先は東海地方の機械部品工場など。派遣業者が用意した寮に入居して勤務したところ、事前の説明と異なり給料から毎月計十数万円の寮費や光熱費、食費、旅費などが引かれ手元にほとんど残らなかった
 出勤も不定期で、仕事がないと寮費だけがかさみ、赤字になることもあった。「役所がこんな会社を紹介していいのか」と市に抗議した人もおり、相談を受けた考える会などが「職安法違反にあたる」として再三中止を申し入れていた。(後略)
 記事中にあるように、職業安定法は職業斡旋事業について有料・無料にかかわらず厚生労大臣の許可を要件としており、これは行政機関も例外ではない。生活保護行政を担当する公務員がこんなことも知らないはずはなく、生活保護申請者を「窓口」で追い返す「水際作戦」(=生活保護行政の職務放棄)の延長上にある悪質な違法行為とみて間違いないだろう。

 自治体としては受給額削減がノルマ化する中で、どんな手を使ってでも申請者を追い返したい。厚労省も「働けるものにはまず就労指導」という方針を指示している。もともとは「生活保護を受けさせてください」→「働けるだろ」→「働くところがありません」→「それなら紹介してやる」という流れがあったと思われる。一方、企業の側も安く使える労働者が欲しい。ホームレスならどんな扱いをしても構わない、むしろ働く機会を与えてやっているという思い上がりを背景に、派遣会社の方から生活保護行政担当者にホームレスを紹介するようアプローチがあったのだろう。生活保護行政と企業の利害は見事に一致する。

 ただ水際で追い返すよりは、職を紹介するだけましだろうという見方もあるだろうが、法令違反を別としても、それはあくまでも「生活保護以上」の収入が保障された職を紹介しない限り成立しない。本来、生活保護基準は日本社会で生きる上で「最低限」のラインであって、それを下回る場合には無条件で給付を行うのが正道である。生活保護行政が「生活保護以下」の職を紹介するのは矛盾以外のなにものでもない。問題の所在は「ホームレスが働かないで生活保護を受ける」ことではなく、「生活保護基準以下の職にしか就けない」ことにある。貧困対策にあたらねばならない行政が自ら貧困拡大に加担する構図には呆れるほかない。

 ついに行政までが「手配師」まがいのことをするような実態に戦慄を覚える。今回の事例は行政と企業が結託した「奴隷取引」同然である。行政担当者と企業との間に金銭が介在している可能性もあるのではないか? おそらく札幌市以外でも類似の事例があるはずだ。全国的な調査が必要である。

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あるホームレスの死
生活保護と生存権
社会保障切り捨て路線の是非と生存権裁判

【関連リンク】
職業安定法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S22/141.HTM
生活保護法 - 法庫
http://www.houko.com/00/01/S25/144.HTM
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by mahounofuefuki | 2008-09-01 11:23

生活保護と生存権

 小泉政権の「構造改革」の本質は「強きを助け、弱きをくじく」ことにあったが、それが最も如実に表れているのは、「聖域なき歳出削減」をうたい文句に社会保障費を毎年2200億円削減するよう決めたことである。2002年度以降、毎年予算編成のたびに厚生労働省はこの「2200億円」(ただし02年度は3000億円削減)をどうにかして捻り出すことを政府から求められ、その都度給付を削減したり負担を増やしたりしてきた。
 この5年余りの間に国民年金や厚生年金や介護保険の保険料が引き上げられ、医療の自己負担比率が増える一方、年金給付額が引き下げられ、雇用保険や健康保険の国庫負担が削減され、生活保護の老齢加算や母子加算が段階的に廃止され、診療報酬や介護報酬が引き下げられた。特に高齢者、障害者、貧困者といった弱い立場の人々を狙い打ちにし、富裕層優遇の経済政策と合わせて「貧困と格差」を拡大させた。

 今年度予算編成でも当初厚生労働省は生活保護基準の引き下げを行う予定だったが、昨年心ある人々の猛抗議により先送りされた(ただし母子加算の段階的廃止は予定通り実施)。あくまで「先送り」なので、このまま「構造改革」路線が続けば、来年度予算編成で再び生活保護基準引き下げを提起してくるだろう。
 そのための布石としてか、このところ生活保護の不正受給に関するニュースがいやに大きく報道されている。特に北海道滝川市で暴力団関係者が生活保護費を約2億円も詐取していた事件は、生活保護行政への反発を呼び起こし、ひいては生活保護受給者への不信につながっている。政府・厚労省としては生活保護受給者への誹謗中傷は歓迎するところで、生活保護基準引き下げへの世論の支持を調達する思惑がある。

 一方、不正受給問題の陰で、マスメディアがさっぱり大きく取り上げないのが、生活保護受給者らによる「生存権裁判」である。生活保護の老齢加算や母子加算の廃止は、生存権の保証を定めた憲法第25条に違反するとして、高齢者やシングルマザーの女性らが国を訴えている訴訟で、現在北海道、青森、秋田、東京、新潟、京都、兵庫、広島、福岡の各都道府県でそれぞれ進行している。
 ただでさえ少なかった生活保護給付額から加算分を減額されたことにより、基本的な衣食住も賄えなくなった人々が続出している。また母子加算の廃止は、まともな収入を得られる就労機会が少ない「子持ち女性」の生活を圧迫すると同時に、母子家庭に育つ子どもの教育機会を奪い、貧困を再生産させる。「食事を1日1回に減らした」「葬式にも出られない」という叫びに耳を傾けねばならない。
 政府が生活保護基準の引き下げを準備する中で、この訴訟の帰趨は今後の社会保障政策全般に影響するだろう。決して見過ごすことはできない。

 日本国憲法第25条は第1項で「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」、第2項で「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と規定している。これに従い生活保護法は「最低限度の生活は、健康で文化的な生活水準を維持することができるものでなければならない」と定め、国に「国民」の生存権を保障する義務を負わせている。
 当然、国家の側は憲法や法律に従って、貧困者が生存し、社会参加できるよう支援しなければならない。ましてや現在の貧困の主たる原因は、政府の経済政策の失敗にあり、そのツケを支払う責務がある。「生存権裁判」は改めて憲法第25条の重みと国家の社会保障の意味を問うていると言えよう。

 生活保護問題に対しては相変わらず「自己責任論」が幅を利かせており、「生存権裁判」に対しても誹謗中傷が絶えない。貧窮な高齢者に対しては現役時代の「努力」が足りないからだと責め立てたり、子どもを塾に通わせたいという女性原告の言葉じりをとらえて、「塾通いが“最低限度”の生活か」という類の罵声を浴びせたりする。
 これらの輩は、現代社会では貧窮者の多くが生まれた時から貧窮者で教育機会にも就職機会にも恵まれなかったことや、日本の年金制度や医療保険制度が一定規模以上の企業の正社員を標準としているため、その「標準」から外れる人々には圧倒的に不利であることを無視している。「塾通い」云々についても子どもには貧困のスパイラルから抜け出して欲しいという親心を理解しなければならない。
 もっと深刻なのは生活保護を受給していない貧窮者からの受給者への攻撃だが、これも昨年当ブログで繰り返したように、生活保護受給額が非受給者の所得より多いことが問題なのではなく、非受給者が生活保護基準を下回っているのに生活保護を受給しない、あるいはさせないことこそ問題なのである。少なくとも私は貧困ライン以下で「我慢」させられる状態を「美徳」とは思わない。

 そもそも現代における貧困とは、単に食料がなくて肉体的な生存が危機に瀕しているという状態だけを指すのではない。それぞれの属する社会で当然とされる生活習慣や生活様式を維持することができない状態を貧困というのである。
 親族や友人が亡くなれば葬式に出なければならないし、葬式に出れば香典を上げなければならない。冷蔵庫や洗濯機や電気炊飯器は日本社会ではもはや最低必需品である。「健康で文化的な生活」とはまさに日本社会で「常識」とされる生活習慣や生活様式のことである。その観点からすれば現行の生活保護基準は決して高いとは言えない。

 生活保護と生存権の関係をめぐる問題は、特権的エリートを除いて誰しも貧困に陥る可能性を持っている以上、決して見過ごすことができないはずだ。少しでも関心を持ってほしい。

【関連リンク】
日本国憲法-法庫
生活保護法-法庫
全国生活と健康を守る会連合会 【生存権裁判】
生活保護問題対策全国会議
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by mahounofuefuki | 2008-03-01 15:32

生活保護切り下げ見送り? (追記:やはりまやかしだった)

 管見のところでは産経新聞しか報道していないが、政府が来年度の生活保護基準の引き下げを見送る方針を固めたという。にわかには信じがたいが。
 以下、産経新聞(2007/12/09 22:10)より。
 政府・与党は9日、平成20年度から引き下げを検討していた、生活保護費のうち食費や光熱費など基礎的な生活費となる生活扶助の基準額について、見送る方針を固めた。ただ地域間の基準額の差を実態に合わせ縮小するなどの微修正は行う。生活保護費全体の総額は維持される見通しだ。

 生活扶助基準額をめぐっては、厚生労働省の有識者検討会の報告書に基づき、20年度から引き下げが有力視されていたが、格差問題がクローズアップされる中、野党の反対は根強く、与党内からも「引き下げでは国民の理解が得られず、次期総選挙を戦えない」との声が広がっていた。
(中略)
 厚労省は「勤労意欲を減退させかねない」として、実態に合わせて来年度から基準額を引き下げる方針だったが、最低賃金の底上げに逆行するなど影響が大きく、野党だけでなく与党内からも疑問の声が続出。福田康夫首相も「政府部内や政党での議論を見て判断する」と述べ、引き下げを慎重に判断する考えを示していた。
 事実とすれば、相次ぐ批判の声が政府の既定方針を覆したことになるが、以前ブログで指摘したように、経済財政諮問会議の「骨太の方針」が生きている限り、生活保護の切り下げはいつでも起こりうる。
 仮に今回の予算編成で見送られても、翌年度に先送りになるだけの可能性が高く、依然として危険なことに変わりはない。また、来年度の生活保護に関する歳出総額が維持されるとすれば、代わりに別の社会保障分野の歳出が削減される危険性もある。「骨太の方針」が年間2200億円の社会保障費削減を義務づけているからだ。決して手を緩めることなく、政府の「社会保障つぶし」に対する反抗を続けなければならない。


《追記》

 読売新聞(2007/12/10 13:20)によれば、「厚労省は、級地の違いによる基準額の差の縮小を引き続き検討する方針だ」という。地域の物価水準により生活扶助額に差があるが、これを縮小するということだ。要するに地方に合わせて、都市部の生活保護給付を削減する可能性が高い。これでは事実上の引き下げである。
 なお、生活保護問題対策全国会議が、2月10日付で緊急声明を発し、厚労省のいう「級地格差」のまやかしを実証的に批判している。ご一読を。
 生活保護問題対策全国会議blog [ 緊 急 声 明 ]「級地」の見直し(生活保護基準切り下げ)も許されない!


《追記 2007/12/13》

 やはり危惧した通り、「地域間格差」の是正を口実に、都市部では生活保護基準を引き下げるようだ。朝日新聞(2007/12/13 08:01)や北海道新聞(2007/12/13 20:46)によれば、約8400億円の歳出総額を維持した上で、地域ごとの配分を変えるという。上記の生活保護問題対策全国会議の声明が指摘するように、これでは実質的な引き下げである。
 最も貧困者の多い都市部への狙い撃ちは、政府に貧困を解決する意思がないことを示す。引き続き「弱者つぶし」に反抗の声をあげねばなるまい。

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生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策
生活保護基準引き下げは小泉が与えた「宿題」

【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第4回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第5回資料
生活扶助基準に関する検討会報告書(案)*PDF
生活扶助基準に関する検討会報告書参考資料*PDF
厚生労働省:平成18年度社会福祉行政業務報告(福祉行政報告例)結果の概況
経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006*PDF
社会保障予算~歳出削減と制度構築の在り方~-厚生労働委員会調査室 秋葉大輔*PDF
生活保護問題対策全国会議blog
生活保護問題対策全国会議
特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター もやい
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by mahounofuefuki | 2007-12-10 11:42

生活保護基準引き下げは小泉が与えた「宿題」

 厚生労働省社会・援護局長の私的研究会「生活扶助基準に関する検討会」が来年度からの生活保護基準引き下げを提言した問題に対する反響が広がっている。

 まずマスメディアだが、全国紙こそ相変わらずこの問題を軽視しているが、いくつかの地方紙が論説で生活保護基準引き下げの不当性を訴えている。中国新聞12月2日付朝刊社説は「低所得世帯に対しては不足分の保護申請を促すのが筋だ」と至極まっとうな見解を示した。沖縄タイムス12月3日付朝刊社説は「生活保護費の生活扶助を引き下げよりも、最低賃金制度の拡充などによって低所得世帯をてこ入れしていく政策を優先していくべき」と政府の「減額ありき」の姿勢に疑問を呈している。信濃毎日新聞12月5日付朝刊社説は「生活保護水準の引き下げが逆に低所得者の足を引っ張る結果を招きかねない」と最低賃金への影響を危惧している。
 生活保護切り下げ 物差しの当て方が逆だ-中国新聞
 [生活保護費減額]低所得層対策こそ本筋-沖縄タイムス
 生活保護 安易な引き下げは疑問-信濃毎日新聞
 いずれも今回の生活保護基準の引き下げが貧困の拡大を促進する危険性を警告しているのである。

 また日本弁護士連合会(日弁連)が平山正剛会長名で生活保護基準引き下げの拙速に反対する声明を発した。
 安易かつ拙速な生活保護基準の引き下げに反対する会長声明-日弁連
 声明では、生活保護基準に連動して、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、公立高校の授業料免除基準、就学援助の給付対象基準、国民健康保険料の減免基準などが引き下げられる可能性を指摘し、生活保護の引き下げが、受給者のみならず、生活保護を受給していない低所得層全般にも大きな影響を与えることを明らかにしている。
 声明はさらに、昨年7月に日弁連が実施した生活保護全国一斉電話相談の結果から「福祉事務所が保護を断った理由の約66%が違法である可能性が高」いと、蔓延する「水際作戦」を告発している。当ブログでも以前、生活保護申請者に申請書を渡さない「水際作戦」受給者を脅迫して「辞退」に追い込む不法行為を指摘したが、行政が堂々と違法行為を繰り返す状況に日弁連からも危惧の声が出ているのである。
 なお権力とマイノリティ:精力的にロビーイング活動を行う生活保護や貧困に取り組む弁護士らによると、生活保護や貧困問題に取り組む弁護士や司法書士らが国会議員へ生活保護切り下げ中止の請願活動を行っているという。このことも法曹界の危機感の表れだろう。

 以上のように、生活保護切り捨てに抗議する声が高まっているためか、民主党が12月5日、生活保護基準の引き下げに反対する談話を政策調査会長と「ネクスト厚生労働大臣」の連名で発表した。
 民主党:生活保護の引下げに反対する(談話)
 今国会で参院の第1党となり、議事運営の主導権を握ったにもかかわらず、改正最低賃金法と労働契約法で政府・与党に一方的に妥協した「前科」があるだけに、どこまで本気かは不明だが、少なくとも現時点でははっきりと「慎重な検討」を要求したことは心強い。民主党が裏切ることのないよう、同党に対して恒常的に生活保護基準の引き下げに正当性がないことを訴える必要があるだろう。

 「生活扶助基準に関する検討会」は生活保護基準引き下げの理由として、2004年の全国消費実態調査をもとに、最も低い年収階層の所得よりも生活保護の給付額の方が多いことをあげたが、これは「生活保護が高い」のではなく、生活保護を受けるべき低所得者が生活保護を受給できていないことを示す。生活保護を受けさせずに、「生活保護以下」の貧困層を増やしておいて、それで「生活保護が高い」と言うのは政府の「自作自演」の貧困拡大策でしかない。
 重要なのは、「検討会」が挙げた「生活保護が高い」という理由は、「減額ありき」という結果が先に決まっている上での後付けであり、生活保護引き下げの真の理由は別のところにあることだ。

 前記の中国新聞や信濃毎日新聞が言及しているように、厚生労働省が生活保護の切り捨てに躍起になっているのは、政府がすでに社会保障費の削減を決めていて、来年度予算編成までに削減分を提示しなければならないからである。
 小泉内閣末期の2006年7月に経済財政諮問会議が定めた「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」(いわゆる「骨太の方針2006」)は、2011年までに国が歳出する社会保障費を1.1兆円削減することを命じ、毎年平均2200億円の削減を義務付けている。生活保護に関しては「生活保護扶助基準について、低所得世帯の消費実態等を踏まえた見直し」「母子加算について、就労支援策を講じつつ、廃止を含めた見直し」「級地の見直し」などを「可能な限り2007年度に、間に合わないものについても2008年度には確実に実施する」と具体的な指示を行っている。
 この「骨太の方針2006」に従い、今年度は雇用保険の失業給付の国庫負担削減や生活保護の老齢加算の廃止・母子加算の段階的廃止により、2200億円の削減分を捻出した。そして来年度も同じく社会保障費の削減分2200億円を捻出しなければならず、厚労省はあわてて「検討会」を作り、おざなりの議論で生活保護基準の引き下げを決定したのである。
 要するに、小泉内閣が決めた「弱者切り捨て」方針が、内閣が交替しても財政を拘束しているのである。いわば小泉純一郎が残した「宿題」を今も政府はこなしているといえよう。究極のところ「骨太の方針」をやめさせない限り、生活保護を含む社会保障制度はどんどん悪化する一方なのは明らかだ。

 政府・与党は今後、生活保護のモラルハザードを喧伝し、長時間労働と低賃金に喘ぐ労働者との「不公平」を前面に出すだろうが、以上のような経過を考慮すれば、それはまやかしにすぎない。
 繰り返しになるが、「生活保護が高い」のではなく、「生活保護以下」なのに保護を受けられないことが問題であることをはっきりと認識してほしい。

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厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第4回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第5回資料
生活扶助基準に関する検討会報告書(案)*PDF
生活扶助基準に関する検討会報告書参考資料*PDF
厚生労働省:平成18年度社会福祉行政業務報告(福祉行政報告例)結果の概況
経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006*PDF
社会保障予算~歳出削減と制度構築の在り方~-厚生労働委員会調査室 秋葉大輔*PDF
生活保護問題対策全国会議blog
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by mahounofuefuki | 2007-12-06 22:36

生活保護切り下げは厚生労働省の「自作自演」の貧困拡大策

厚生労働省社会・援護局の研究会「生活扶助基準に関する検討会」が、今日(11月30日)生活保護基準引き下げを求める報告書をまとめた。

この「生活扶助基準に関する検討会」は5人の大学教授から成る研究会だが、先月19日以降5回にわたる会合を開き、生活保護基準の見直しを検討していた。学識経験者による「専門的な分析・検討」(第1回会合の資料より)を謳ってはいるが、他の諸官庁の諮問機関と同様、官僚の方針に「お墨付き」を与えるだけの形骸化した研究会である。来年度予算編成に間に合わせるために、わずか1か月強の検討で結論を出したのも、厚労官僚のシナリオ通りであろう。

すでにこの「検討会」設置前から厚労省の生活保護基準引き下げ方針は一部で報道されており、特に北海道新聞が何度かこの「検討会」の議論を伝えていたが、世論の喚起には至らず、今日の報告書決定に至った。

報告書はまだ厚労省のホームページに出ていないようだが、朝日新聞がその内容を今日の会合前にすでに伝えている(「検討会」の前にとっくに報告書ができていた証拠)。
以下、朝日新聞(2007/11/30 08:23)より。
(前略) 報告書案は、生活保護の支給額が高すぎると国民の公平感が損なわれるとの観点から、生活保護費の中の生活扶助について、全国消費実態調査(04年)をもとに検討。全世帯で収入が下から1割にあたる低所得世帯の生活費との比較が妥当だと明記した。
 その結果、夫婦と子の3人世帯の場合、低所得世帯の生活費が月14万8781円に対し、生活保護世帯の生活扶助費は平均15万408円と、約1600円高かった。60歳以上の単身世帯は、低所得者6万2831円に対し、生活扶助費は8000円以上高い7万1209円だった、とした。
 また、地域の物価水準の違いなどから、都市部の基準額を地方よりも最大22.5%高くしている現行制度について「地域間の消費水準の差は縮小している」と指摘した。
 このほか、基準額の決め方を、夫婦と子の3人世帯を標準とする現行方式に対して、単身を標準とする方式を提言している。
要するに、生活保護給付が生活保護を受給していない人の所得よりも多いので、「不公平感」に配慮して生活保護基準を引き下げるというのである。

しかし、引き下げの本当の要因が別のところにあることを、毎日新聞の吉田啓志記者が署名記事で伝えている。
以下、毎日新聞(2007/11/30 18:18)より。
(前略) 生活保護費のうち食費など生活扶助の見直しは、受給世帯の月収を、収入の下位から1割にあたる非受給世帯の月収水準にそろえるのが基本。夫婦と子供の3人世帯を標準とし、標準世帯で比較することを軸にしている。ところが報告書は、単身者を標準とするよう提言した。「受給者の7割が単身者だから」がその理由だ。
 しかし、受給世帯と非受給世帯の収入を比べると、3人世帯では受給世帯(15万408円)が1627円多いだけだが、単身者(60歳以上)だと受給者(7万1029円)が非受給者を8378円上回る。単身者は食材などの大量購入による節約が難しく、生活必需品の価格を積み上げて決める扶助基準が高く設定されがちだ。報告書が単身者を標準としたのは、扶助基準の引き下げ幅をより大きくすることも可能とするための布石だ。
 厚労省がこの時期、生活保護費の削減を可能としたのは、08年度も社会保障費を2200億円圧縮しなければならないのに、削減項目が詰まっていないことがある。
 1000億円程度を見込む政府管掌健康保険の国庫負担削減案が難航しており、予備に別の財源を用意する必要が生じている。政管健保の削減幅が縮小すれば、それとは関係ない生活保護費の削減幅が大きくなる構図で、国民の最低限度の生活を保障する制度が、予算編成のつじつま合わせに使われようとしている。
「不公平」云々という話は表向きで、実態は政府による社会保障費削減のあおりで、生活保護が犠牲に供せられたのである。

現在、生活保護給付と生活保護を受けていない人の所得が逆転しているのは事実である。
地域別の法定最低賃金は生活保護給付額を下回っており、しかも最低賃金はまったく守られていない。
そのため先日成立した改正最低賃金法は、最低賃金と生活保護の「整合性」を盛り込んだ。これで最低賃金を生活保護に合わせて引き上げることが可能になったが、逆に生活保護を最低賃金に合わせて引き下げることも可能になった。
厚労省は改正法の成立を見込んで、後者の生活保護の引き下げを準備していたのである。

しかし、生活保護の非受給者の収入の方が低いから生活保護を引き下げるというのは、矛盾した話である。
非受給者の収入と生活保護給付の「逆転現象」は、「生活保護が高すぎる」から起きるのではない。生活保護基準以下の生活を送っているのに、生活保護を受けられない人々が大勢いるから「逆転」するのである

近年の厚労省は生活保護を違法に運用して、セーフティネットとしての機能を弱らせている。
違法行為の第1は、生活保護の申請者を窓口で追い返す「水際作戦」である。申請者に申請書を渡さないのは職務放棄のはずだが、各地の自治体で横行している。
第2は、「就労指導」に名を借りた受給者への嫌がらせや脅迫である。無理やり生活保護を「辞退」させる非人道的な行為を厚労省が奨励しているのである(尾藤廣喜「北九州市から『生活保護』の現場を考える 『棄民』の構造をどう転換するか」『世界』2007年11月号を参照)。

つまり、厚労省は違法な切り捨てによって、生活保護を受けられない貧困者を増やしておいて(人為的に「生活保護の方が高い」状況を作り出して)、その上で生活保護基準の切り下げを行おうとしているのである。
これは厚労省による自作自演の貧困拡大策と言わざるをえない。

ちなみに舛添要一厚生労働大臣は、今日の閣議後の記者会見で、「非常にきめの細かい激変緩和措置をやって、若干下がるにしても明日から立ちいかなくなることは絶対に避けたい」と述べたという(朝日新聞 2007/11/30 11:48)。
語るに落ちるとはまさにこのことであろう。生活保護の切り下げが「激変」であることを大臣自ら認めたのである。
「激変緩和措置」などではなく、「激変」をやめる措置が必要であることは言うまでもない。

生活保護は貧困層だけの問題ではない。
誰もが何らかの理由で、失業→雇用保険給付→再就職難航→雇用保険打ち切り→生活保護、という道を歩む可能性をもっている。現在、貧困とは無縁の恵まれた人々も、「明日は我が身」の精神で生活保護問題をとらえなければならない。
(経済的に安定した職に就けなかった私には死活問題である。)


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最低賃金法改正案・労働契約法案における民主党の妥協
最低賃金と生活保護-北海道新聞の記事より

【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第4回資料
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by mahounofuefuki | 2007-11-30 20:34

最低賃金と生活保護-北海道新聞の記事より

(2007/11/17に投稿した記事ですが再掲します。理由は追記に)

北海道新聞2007/11/17朝刊より。
電子版には出ていないので、記事本文を紹介する。
*太字は引用者による。

(引用開始)
 厚生労働省が生活保護費の給付の基本となる基準額の算定方法を抜本的に見直し、2008年度に引き下げる方向で検討を進めている。増加する社会保障費の伸び幅を圧縮するのが狙いだが、基準額の絞り込みにより、それに連動する労働者の最低賃金の底上げの妨げになる可能性もある。(東京政経部 中村公美)

 「度重なる給付削減で、生活保護世帯の暮らしは本当に深刻。食事を1日2食に減らした人も多い」。基準額の見直し中止を求めている全国労働組合総連合(全労連)や市民団体は8日、厚労省内での記者会見で訴えた。生活保護費は06年度に老齢加算を廃止するなど引き下げが続いている。背景には高齢化に伴って生活保護受給世帯が年々増加していることがある。
 厚労省は10月16日、3日後の19日に「生活扶助基準に関する検討会」の初会合を開催すると発表した。「密室で決めようとしているのか」━。突然の開催と、会場の狭さを理由に傍聴者が少人数に抑えられ、傍聴を断られた市民団体が会場前で怒りの声を上げた。
 同検討会は厚労省社会・援護局長の私的研究会との位置付けだが、事実上、同省の方針を追認してきた。今回は08年度予算に反映するため、12月中に結論をまとめる。厚労省は「『骨太の方針』にも、来年度の基準額見直しが盛り込まれている。既定路線を変えるわけにはいかない」と、基準額を大幅に引き下げる構えだ
 今月8日に開かれた同研究会の3回目の会合では、厚労省側が給与の一部を収入認定から除外する勤労控除の見直しや、地域ごとに基準額に差を付ける「級地制度」の地域差縮小を提案した。
 一方、労働組合は「生活保護費の引き下げは、労働者の最低賃金に影響が及ぶ」(連合幹部)と懸念を強めている。今国会で成立確実な改正最低賃金法(最賃法)案は、最低賃金で働く労働者より、生活保護世帯の収入が高いという逆転現象を解消するのが主眼。そのため地域別最低賃金に「生活保護との整合性に配慮する」という新たな規定を盛り込んだ。
 だが、この規定も「もろ刃の剣」。逆転現象の解消にはつながっても。生活保護が引き下げられれば、最低賃金も抑制される恐れがある。最賃法の改正がワーキングプア(働く貧困層)の解消を目指しながらも、結局は賃金の底上げにはつながらないという皮肉な結果にもなりかねない。
 だが、厚労省内では生活保護費の基準額の見直しによる最低賃金への影響についての検討はない。旧厚生省出身の幹部は「基準額の見直しは最賃法に関係なく進める」としており、旧労働省出身の幹部は「改正最賃法は、労使の協議で行うものだ」とにべもない。出身官庁同士の縄張り意識が格差解消の障害になっている。
 車の両輪のように、生活保護制度が「最後のセーフティーネット」(舛添要一厚労相)として機能しながら、最低賃金制度でも賃金の底上げにつながるのが理想的。生活保護・労働両行政の一体となった論議が求められる。
(引用終わり)

今日は時間がないので、記事の紹介だけ。
「生活扶助基準に関する検討会」については、なぜかほとんどの新聞が報じていないこと、最低賃金法改正案で民主党が政府に妥協したのが間違いであることの2点を指摘しておきたい。


《追記 2007/11/21》

厚生労働省の「生活扶助基準に関する検討会」は20日、生活保護給付基準の引き下げを決定したようだ。
生活保護費、基準額下げ確実に 厚労省検討会 地域差縮小も「妥当」-北海道新聞(2007/11/21 08:31)
まさに密室で貧困層切り捨ての準備を着々と進めているのである。
この期に及んでも北海道新聞以外はまともに報道しないのが謎だ。

【関連記事】
新たな「棄民政策」
民間給与実態統計調査
最低賃金法改正案・労働契約法案における民主党の妥協
「反貧困たすけあいネットワーク」

【関連リンク】
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第1回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第2回資料
厚生労働省:生活扶助基準に関する検討会第3回資料
生活保護問題対策全国会議blog
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by mahounofuefuki | 2007-11-21 16:49

新たな「棄民政策」

厚生労働省が、生活保護給付の大幅削減を検討しているという。
先日、北九州で生活保護を無理やり打ち切られた(表向きは「辞退」)人が、日記に「おにぎり食べたい」と書き残して餓死したのは記憶に新しい。
そんな事件があったにもかかわらず、政府は反省するどころか、新たな「棄民政策」を準備しているのだ。

生活保護受給者に対しては、昔から「働かないで金だけもらう」「ずるい」という攻撃があった。特に長時間労働に苛まれている「会社人間」や、自分の努力だけで「成功」したと思い込んでいる「成金」ほど、そういう中傷を繰り返していた。
しかし、もろに就職氷河期にぶつかり、まともな仕事に就けるのは、実は「能力」のある者ではなく、「コネ」と「見た目の押し出しの強さ」のある者であることを熟知している「難民世代」の私には、そうした中傷は「持てる者」の傲慢以外の何物でもない。
「会社人間」は過労を強いる企業と闘う勇気のない己の小心さを誤魔化し、「成金」は自分の「成功」が他者の「失敗」を踏み台にしていることに無頓着なだけだ。

この国では、新卒で就職できなかったり、1度失業したり、あるいは病気になったりすると、もはや復活はできず、坂を転げ落ちるように転落する。はじめから貧しい家庭に生まれた者、高い教育を受ける機会がなかった者なら、なおさらだ。
生活保護を受けるのは「他人に食わせてもらっている」という点で屈辱である。そんな屈辱に甘んじても、生活保護がなければ生きられない人々が大勢いるのだ。
そして、何より現代社会は誰しも(特権階級をのぞいて)生活保護受給者になる可能性がある。ある日突然、職を失うリスクは常に存在するからだ。この国は失業保険給付も期間が短いので、失業が長引けば生活保護に頼るしかないのが現状だ。

国家は、大企業や富裕層の減税を繰り返す一方で、庶民を競わせ、貧困に追い込み、切り捨てようとしている。労働力と税金と公共料金だけはテイクし、何もギブしないのは、あからさまな「搾取」でしかない。

生活保護給付の削減は、受給者だけの問題ではない。
「明日の受給者」になるかもしれない私たち全員の問題である。
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by mahounofuefuki | 2007-09-01 10:54