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田母神問題で明かされた自衛隊の歴史修正主義教育

 今日の参議院外交防衛委員会で、前航空幕僚長の田母神俊雄氏に対する参考人質疑が行われた。テレビ中継がなかったため、国会のインターネット中継にアクセスが殺到し視聴しにくい状況になったほど、人々の関心は高かったようである。「懸賞論文」問題の表面化以来、事実上田母神氏の作文を擁護する報道を繰り返してきた産経新聞が早速速記録を出しているが、同社の電子版はページ分割が多くて読みにくいうえ、いつ消えるともしれないので、同内容が転載された別サイトをリンクする。

 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(1)(2)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1578.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(3)(4)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1583.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(5)(6)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1584.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(7)(8)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1585.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(9)(10)(11)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1586.html

 改めて整理すると、田母神「論文」の一次的な問題は、①空幕長という要職にある者が、通常の歴史学では全く顧みられることのない根拠薄弱な妄説を盲信し、内容・形式ともに「論文」というには稚拙で粗末な作文を応募したこと、②憲法遵守義務があり、文民統制に服さねばならない自衛官でありながら、「論文」を通して憲法を否定する言動を行うという政治活動を行ったこと、③田母神氏の肝いりで航空自衛隊が組織的に特定の懸賞論文に応募したこと、の3点に集約される。さらに「論文」の重要な背景として、田母神氏と懸賞論文の主催者「アパ・グループ」との度を超えた癒着や、田母神氏の主導により自衛隊内で歴史修正主義・陰謀論に基づいた歴史教育を行っていることも問題である。

 現在、政府やマスメディアが問題としているのは、田母神作文の提示した歴史認識が「政府見解」「村山談話」に反するというもので、今回の質疑でもその線で追及が行われたが、はっきり言ってあの作文は政府見解がどうのというレベルですらなく、むしろその基礎学力の低さを強調するべきだろう。大学の卒業論文どころかレポート課題でもあの内容では不可である。田母神氏は「最優秀賞」の受賞が発表されると、自ら問題の作文を防衛省内や担当記者たちに配っていたというから重症である。欲を言えば、国会質疑では田母神氏が空自の制服トップに値する「能力」がなかったことをもっと厳しく追及して欲しかったところである。

 今回の質疑で私が最も注目したのは、共産党の井上哲士議員が取り上げた、田母神氏が統合幕僚学校校長在任中に陸海空すべての幹部教育の体系を改定して、歴史修正主義に基づく「歴史観・国家観」の講義を行わせたという件である(井上氏の当該質疑は前記「詳報」の9・10)。講師は防衛大学校でも防衛研究所でもなく「主として外部から」呼ぶことになっており、その講師は大正大学教授の福地惇氏だという。福地氏の講義案はweb上に出ているが、認識において田母神作文とも共通するところが多い(さすがにもっと巧妙で「論拠」もはるかに多いが)。

 15年戦争@wiki - 統合幕僚学校・高級幹部課程講義案
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1541.html

 福地氏と言えば東京大学国史学科の出身で、昨年沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題時に弊ブログでも問題にした、保守的歴史学者で東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下である。伊藤門下でも政治的に最右翼として知られ、1998年に伊藤氏の推薦で文部省主任教科書調査官に任官するも、雑誌上で当時の教科書検定基準を批判したために、わずか半年余りで更迭された。伊藤氏と同様「新しい歴史教科書をつくる会」に加わり、内紛により師の伊藤氏が脱会した後もとどまり、現在は副会長を務めている。明治政治史で業績のある人だが、それだけに専攻外の日中戦争で通説に反する根拠薄弱な「コミンテルン陰謀論」や「南京大虐殺否定論」といった妄説を唱えているのは、専攻の業績も吹っ飛んでしまうほど歴史学者としての知性と品性を疑わせしめる。もはや歴史学者と言うべきではないだろう。

 このようなふざけた講義が統合幕僚学校で行われていたということは、「田母神流」が空自にとどまらず、全自衛隊の幹部教育に貫徹していた可能性があり、問題はもはや田母神氏個人の域を超えて、自衛隊が一体どんな歴史教育を行っているのか、今後も徹底的に洗い出して正常化する必要があるだろう。田母神問題が大きくなることで、日本社会に潜在する歴史修正主義への「渇望」を呼び覚まし、かえってそうした言説が力をもつリスクはあるが、むしろ田母神氏が「自爆」を続けるこの機に膿を出してしまうべきである。

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「トンデモ空幕長」爆発!
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by mahounofuefuki | 2008-11-11 22:58

「トンデモ空幕長」爆発!

 沖縄戦「集団自決」訴訟の控訴審が大江健三郎氏・岩波書店側の勝訴に終わって安堵していたところに、とんでもないニュースが目に入ってびっくり仰天した。航空自衛隊の制服組トップである航空幕僚長の田母神俊雄氏が、懸賞論文で「侵略、植民地支配を正当化する歴史認識を示し、憲法にも異を唱えるような」主張を行い、しかもその論文が「最優秀賞」を受賞したという(共同通信2008/10/31 19:48)。

 問題の懸賞は「アパグループ」の第1回「真の近現代史観」懸賞論文で、確かに最優秀賞受賞者に田母神氏の名があり、「日本は侵略国家であったのか」と題する論文がPDFファイルで出ていた。

 アパグループ 第一回「真の近現代史観」懸賞論文募集
 http://www.apa.co.jp/book_report/index.html

 主催者がアパで、審査委員長が渡部昇一氏という時点で、この懸賞のねらいは明白だが、実際のところ田母神論文は中国出兵合法論、張作霖爆殺事件や日米戦争のコミンテルン陰謀説、植民地善政論、日本による有色人種解放論と「おなじみ」の歴史修正主義・陰謀論言説のオンパレードである。論文というわりには注もなく、文章量も少なく、論拠に提示しているのが黄文雄、櫻井よしこ、岩間弘、秦郁彦、渡部昇一各氏らの著作で、秦氏を除いて歴史研究者ですらないところが失笑もので、論文どころか大学のレポートでも不可になりそうな代物である。

 とは言え歴史学に対する無知と無礼はともかく、「自衛隊は領域の警備も出来ない、また攻撃的兵器の保有も禁止されている」と不満を述べて、集団的自衛権の行使を実質的に求めているとなるとさすがに笑えない。現行憲法遵守義務を有する国家公務員として、文民統制に服する制服自衛官として、決して許される発言ではない。

 田母神氏と言えば、今年4月に名古屋高裁が自衛隊イラク派遣差し止め訴訟で違憲判決を出した際、記者会見で「そんなの関係ねえ」と発言して物議を醸した人だが、ほかにも暴言や問題行動を引き起こしている。

 昨年5月のクラスター爆弾禁止プロセスのリマ会議に関し、「不発弾による(日本人の)被害も出るが占領される被害の方が何万倍も大きい」と発言し、各国の参加者から厳しい批判を浴びた(毎日新聞2007/05/26 11:18)。軍事行動を優先するためには自国民の犠牲も厭わないという姿勢は、戦前の軍国主義と何ら変わらない。

 今年1月30日には航空自衛隊熊谷基地での講話で、複数の国立大学総長経験者らを「脳みそが左半分にしかない人たち」と誹謗したという(田母神空幕長がまたまた暴言か - 『自衛隊員が死んでいく』暫定ブログ http://blogs.yahoo.co.jp/jieijieitaitai/16673030.htmlによる)。そういう自分が「脳みそが右半分にしかない」と言われることを想定できないのだろうか。

 最近公表された昨年の政治資金報告書によれば、田母神氏を含む現職幹部自衛官7人が元自衛官の佐藤正久参院議員に政治献金を行っていたことも明らかになっている(MyNewsJapan 田母神空幕長ら自衛隊トップ7人に政治献金疑惑 自衛隊法違反か http://www.mynewsjapan.com/reports/924)。その法的・道義的正当性に疑念がもたれる。

 かの「そんなの関係ねえ」発言の時点ですでに更迭ものだったが、その後も悪びれずにこれだけ問題行動を繰り返しているのを放置しておいては、いくらなんでも政府の涸券にかかわるのではないか。自衛隊の要職者がこんな体たらくなのは、議会政治においても、国際関係においても有害でしかない。麻生太郎首相の首相就任後の姿勢とも齟齬をきたしている以上、今度ばかりは今までの問題行動をひっくるめて更迭するべきであろう。

 当の田母神氏は今春、東京大学の「五月祭」に招かれて講演した際に「将来リーダーとなる東大の学生の皆さんは高い志を持って燃えて欲しい。上が燃えないと組織は不燃物集積所になる」と述べたというが(産経新聞2008/05/24 16:42)、航空自衛隊を「不燃物集積所」どころか「火ダルマ」にしたくなければ、勝手に炎上している幕僚長にはご退場願うべきである。


《追記》

 ・・・という文を書いていたら、「dj19の日記」によると本当に更迭されたそうだ。当然の政治判断だろう。

 田母神俊雄・航空幕僚長「我が国が侵略国家だったなどというのは正に濡れ衣である」→即クビw – dj19の日記
 http://d.hatena.ne.jp/dj19/20081031/p2


《追記》

 リマ会議「で」という記述を、リマ会議「に関し」に訂正した。田母神氏は会議で発言したのではなく、記者会見で発言したのが、会議参加者の間で問題になった。推敲不足をおわびする。
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by mahounofuefuki | 2008-10-31 22:14

朝日新聞と橋下徹のダブルスタンダード

 大阪府知事の橋下徹氏が陸上自衛隊の記念行事の祝辞で、「人の悪口ばっかり言ってるような朝日新聞のような大人が増えると日本はダメになります」と述べたことが物議を醸している。光市母子殺害事件被告弁護団に対する懲戒扇動訴訟の一審判決にあたり、朝日新聞2008年10月3日付社説が橋下氏を批判したことへの「反論」だという。

 問題の社説は「弁護士は被告の利益や権利を守るのが仕事である。弁護団の方針が世間の常識にそぐわず、気に入らないからといって、懲戒請求をしようとあおるのは、弁護士のやることではない」「判決を真剣に受け止めるならば、控訴をしないだけでなく、弁護士の資格を返上してはどうか。謝罪が形ばかりのものとみられれば、知事としての資質にも疑問が投げかけられるだろう」という最近の朝日にしては珍しく真っ当な論説で、橋下氏の弁護士としての資質に疑義を呈した判決内容から敷衍すれば至極当然の批判である。これに対して、まさに「悪口」でしか反撃できないあたり、橋下氏の悪あがきが逆説的に露呈している。

 ところで、橋下氏は朝日を「悪口ばっかり言っている」と断定しているが、果たして実情はどうなのか。次の記事を紹介したい。
 大阪府茨木市の中心部から北に10キロほど行くと、巨大な橋梁が安威川沿いに何本も現れてくる。府が進める安威川ダムの予定地で、「新名神高速道路・高槻~神戸」の茨木北インターチェンジとつながる付替道路を水没地区に建設していたのだ。
〈中略〉
 もう1つの府営ダムである「槇尾川ダム」(和泉市)でも付替道路の工事が始まっていた。この川も「三面張りの堀に僅かな水が流れている程度。タクシーの運転手は「こんなところにダムを本当に作るのですか」と驚いた。
〈中略〉
 しかし知事直系の「改革PT」は6月にまとめた財政再建案で、府営の2ダムを「事業継続」としていた。「橋下知事はダム建設推進派」としか考えられないが、朝日新聞は「知事はダム見直し派」と印象づける記事を出した。「検証橋下徹③ まずい情報ほど公開」(7月30日の夕刊)は、こんな会話を紹介したのだ。

 「公開性を重視する橋下の姿勢には、前鳥取県知事の片山善博(現・慶應大学教授)の影響がある。6月25日、東京・三田の慶應大学に橋下の姿があった。(中略)2人はキャンパスを歩きながら、こんな言葉を交わした。
 片山『私、ダムをやめたんですよ』
 橋下『ぜひ、そのやり方を教えていただきたい』(以下略)」

 片山教授が知事時代に止めたのは「中部ダム」。県土木部は「護岸工事の147億円よりダム工事の140億円が安い」と事業を正当化していたが、知事は「嘘を言ったら情報公開条例で罰せられるぞ。試算をやり直せ」と迫った。〈中略〉当然、橋下知事も同じ話を聞いたはずだから、ダム中止の手法を記した面談記録を担当部に突きつけて再試算を命じたと思った。しかし、都市整備局河川室は予想外な答えをした。
 「片山前知事との面談記録は回ってきていませんし、知事から『鳥取県と同じように再試算をするように』といった指示はありません。単に個人的に会っただけではないですか。〈後略〉」 (横田一「橋下改革劇場の舞台裏 道路やダムにメスを入れない『改革派』」『世界』2008年10月号、p.p.95-96、太字強調は引用者による、一部改行、漢数字はアラビア数字に変換した)

 要するに、橋下氏が実際にはどうみても役に立たないダム事業を継続しているのに、朝日新聞は前鳥取県知事の片山善博氏との対話を誇張して、あたかも橋下氏がダム事業を見直しているかのような印象操作を行ったのである。「朝日は人の悪口ばかり」どころか「朝日は橋下の提灯持ち」と言われても仕方のない所業である。橋下氏にとっては残念ながら(?)、現実の朝日は橋下氏に対してある種のダブルスタンダードを用いている。

 もう1点、見過ごせない問題がある。橋下氏は「弁護士資格返上」の件について、「僕にも家族はあるし事務職員を抱えている。弁護士資格を返上したら従業員はどうなるのか」と語ったそうだが(朝日新聞2008/10/20 03:02)、まったく噴飯ものである。大阪の府立学校の非正規職員346人の解雇を決定したのは誰だったか? 医療費助成の切り下げを決定したのは誰だったか? 非正規職員にも医療費助成を受ける人々にも、橋下氏の家族や橋下事務所の従業員と同様に生活がある。「自分の身内」の困窮を想像できるのなら、「他人」の困窮も想像するべきで、それができない者には弁護士も知事も務める資格はない。

 とはいえ、今回も朝日を一方的に「サヨク」と決めつけ憎悪する右傾大衆には格好の「ネタ」で(私のような「左翼」からすると、朝日はせいぜい「中道」で経済的には「右」ですらあるのだが)、橋下氏の「釣り」行為はまたしても「成功」をおさめるだろう。学力テストの件といい、イモ掘りの件といい、大衆の「嫌悪感」を嗅ぎつけ「敵意」を煽る能力が天才的であることは認めざるをえない。何らかの奇策を用いることでしか橋下氏とその信奉者の暴走を止めることは難しいだろう。

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by mahounofuefuki | 2008-10-20 16:19

都知事と台東区長は五十歩百歩

 東京都の石原慎太郎知事が3日の記者会見で、大阪の個室ビデオ放火事件に関連して、「ネットカフェ難民」や山谷の簡易宿泊所に言及したトンデモ発言が波紋を広げている。

 問題の石原発言は次のようなものだ(毎日新聞2008/10/07朝刊、太字強調は引用者による、以下同じ)。
「山谷のドヤに行ってご覧なさいよ。200円、300円で泊まれる宿はいっぱいあるんだよ。そこに行かずにだな、何だか知らんけれでもファッションみたいな形でね、1500円っていうお金を払ってね、そこへ泊まって『おれは大変だ、大変だ』って言うのはね」
 要するに、ネットカフェや個室ビデオなどに寝泊まりしているのは好きでやっていることで、本当に生活困難ならば「200円、300円」の簡易宿泊を利用しているはずだ、と言っているのである。これに対し、6日付で「自立生活サポートセンターもやい」が石原氏に公開質問状を送付した。

 石原都知事に公開質問状「200円の宿があるなら紹介してください」- レイバーネット
 http://www.labornetjp.org/news/2008/1223258651860staff01

 質問の主旨は①本当に200円、300円で泊まれる宿がたくさんあるのか具体的事実を提示せよ、②事実誤認ならば発言を公式に撤回せよ、③事実誤認を改めて総合的・包括的な生活困窮者支援策を打ち出せ、の3点である。質問状では、石原氏の思い込みとは裏腹に、実際には「都内では山谷地域でも一泊1000円以下の簡易旅館は皆無に近く、1500円以下の宿泊先を見つけるのですら、困難な状況」と指摘しているが、いかに石原氏が貧困問題に無頓着であるか、図らずも証明したと言えよう。

 一方、今日になって東京都台東区の区長と区議会議長が、石原氏に発言の訂正と謝罪を要求した。共同通信(2008/10/07 18:17)より。
 個室ビデオ店放火殺人事件に関連して東京都の石原慎太郎知事が「山谷は200円、300円で泊まれる宿がいっぱいある」と発言したことに対し、山谷地区がある台東区の吉住弘区長と木下悦希区議会議長が7日、記者会見し「重大な事実誤認がありイメージが損なわれた」として、知事に発言の訂正と謝罪を求める抗議文をそれぞれ出したことを明らかにした。

 台東区によると、同区と荒川区にまたがる山谷地区には現在、約160軒の簡易宿泊所がある。中には1泊1000円以下の宿泊所もあるが、おおむね2000円程度だという。

 抗議文では「(山谷地区は)地元や関係者の努力により、外国人観光客やビジネス客の利用も増えている。発言により当該地域のイメージが著しく損なわれ、誠に遺憾」などとしている。

 吉住区長は「今は200円、300円という時代ではない。都のトップがそういう認識というのは非常に残念だ」と述べた。(後略)
 今日のテレビ報道などでは、「もやい」の抗議と台東区の抗議を同じようなものとして扱っていたが、両者に共通するのは「山谷には200円、300円の宿泊所などない」という事実認識だけで、問題の捉え方は180度異なる。台東区長らの抗議内容には重大な問題がある。

 台東区の抗議は、要するに「観光客やビジネス客も山谷の簡易宿泊所を利用しているのに、石原発言のせいで貧困労働者ばかりが集まっているようなイメージが高まり迷惑している」ということである。「200円で泊まれるような宿はない」というのは「もやい」の抗議と同じだが、台東区の方は「そんな貧乏くさいものが存在するように思われるのは困る」というニュアンスがある。ここには山谷の「対外的」イメージを気にする姿勢しかなく、労働者の排除の方向性すら読みとれる。行政としての貧困対策の必要性を全く軽視しているという点で、石原氏と台東区長らは五十歩百歩なのである。

 中央がさっぱり貧困問題に本腰を上げないなかで、地方自治体にやれることは限られているとはいえ、自治体のトップがこんなお粗末な認識では全くどうにもならない。石原氏は今日になって記者団の「ぶらさがり」で、バツが悪そうに発言を訂正していたようだが、これは「記者会見の場での公式の撤回」とは言えまい。同時に街の「イメージ」を理由に労働者を厄介者扱いする台東区長らにも、批判の矛先は向けられるべきだろう。

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by mahounofuefuki | 2008-10-07 21:57

「中山騒動」と「劇場」型政治

 政治が「劇場」化する必要条件は何か、ということを今年の大阪府知事選以来考えているのだが、今のところ①衆目を集めるエキセントリックなキャラクター、②大衆の敵意を喚起する「既得権益」、③筋書きのない展開へのライヴ感覚の3点に集約しうるのではないかと仮定している。「郵政選挙」や「橋下劇場」はこれらすべてを備えていた。一方、先の自民党総裁選は「出来レース」になったために③が決定的に欠如していたことが「劇場」化失敗の最大の要因であろう。

 昨日国土交通大臣を辞任に追い込まれた中山成彬氏をめぐる「騒動」は、自民党内では「失策」と受け取られ、「いい迷惑」という「空気」が大勢を占め、報道が伝える一般の世論の声も「ネット右翼」のヒステリックな中山擁護の論調とは裏腹に、中山発言への不快感と批判がほとんどである。中山氏は少なくとも27日の宮崎での日教組に対する中傷は、世論の喚起を狙った「確信犯」だったと自認し、いわばこの問題の「劇場」化を図っていたことを認めたが(橋下徹知事を引き合いに出したにもそのための戦術だろう)、現時点では「劇場」化そのものは「失敗」に終わったと言えるだろう。

 「中山劇場」が不発だったのは、先の3条件のうち①と③が不足していたからだと推定しうる。①に関しては、中山氏の発言自体はエキセントリックであったが、中山氏本人はラ・サール→東大→大蔵省という絵に描いたような「古いタイプのエリート」で、キャラクターとしてはむしろ「元高級官僚」という「大衆の敵」になりうる素質をもっているほどである。③に関しては、問題表面化直後から「地位にしがみつくつもりはない」という趣旨の発言をして、既定の「更迭」路線を自ら追認しており、「辞任による決着」は目に見えていた。

 逆に言えば、これが大衆受けするキャラクターの持ち主であったり、あくまで辞任しないとゴネて、「罷免されるか否か」という「ドラマ」が成立していたなら、「劇場」化していた可能性は十分にあっただろう。また当初から日教組だけを標的にしていたならば、異なる展開になっていたことも考えられる。民族問題と成田問題は政府や自民党の公式の立場と矛盾するが故に、支持者からも疑問がもたれたわけでだが、日教組への敵視は自民党・保守層の共有認識である。大衆世論にあっても公務員バッシングや学校不信の煽りもあって日教組への敵意は根強い。ちょっとした歯車のかみ合わせの違いで、日教組バッシング→解散・総選挙の一大争点化という展開になっていたかもしれない。

 現実問題として、「劇場」としては不発であったとは言え「中山騒動」がさまざまな問題を隠蔽する役割を果たしたことも否定できない。麻生太郎首相による国連総会でのインド洋給油継続公約や集団的自衛権行使を容認する発言は、「中山騒動」のせいで吹き飛んでしまった。「汚染米」転売問題や厚生年金記録改ざん問題も相対的に弱まってしまった。「敵失」がないと何もできない民主党は「中山問題」で内閣を追及すると息巻いているが、あまりこの問題に囚われて重要な社会問題が置き去りにあれるのはおもしろくない。

 麻生内閣は発足当初から「末期症状」にあるのは確かだが、「末期」ならではの道化的なパフォーマンスに気をとられて、肝心な問題が見過ごされることのないよう注意しなければなるまい。「劇場」化の罠はどこにでも転がっていることも念頭に置かねばなるまい。以上、自戒をこめて。

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「日本のがん」中山成彬が勝手に「ぶっ壊れる」
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by mahounofuefuki | 2008-09-29 12:42

「日本のがん」中山成彬が勝手に「ぶっ壊れる」

 就任以来、無知と思い込みによる恥知らずな暴言を繰り返していた中山成彬国土交通大臣が辞任するようだ。第一報が産経新聞とフジテレビというのが「いかにも」で、要するに中山氏と産経系メディアとの日常からの親交(癒着?)を如実に示していると言えよう。こんな輩を任命した麻生首相の責任は極めて重大である。

 この問題については、発言内容が虚偽のオンパレードであること、いかに彼の「本音」とはいえ、新内閣発足直後にわざわざ挑発的言辞を弄する政治センスの欠如に、あきれてものも言えなかった。詳細な分析はできれば後日改めて行いたいが、当面指摘しておきたいのは、彼が最後まで撤回しなかった日教組への中傷は、そのまま文教族の有力議員で元文部科学大臣である中山氏に跳ね返ってくる、ということである。

 中山氏は「学力の低下」の原因を何の根拠もなく日教組に転嫁しているが、実際には「学力の低下」が言われるようになったきっかけは、1989年の文部省学習指導要領で指導要録(学校の学籍と指導の記録原簿)に観点別評価が導入され、「知識」や「理解」よりも、「関心」や「態度」や「意欲」を重く評価するようになったのが始まりで、これを「新しい学力観」と称して推進したのは文部省の方であって、教職員組合は反対していたのである。つまり「学力の低下」なるものに「主犯」がいるとすれば、それは文部省とそれを支持した自民党文教族であり(保守派の彼らは「新学力観」を通して「できる子」と「できない子」を選別することを狙っていた)、中山氏もその1人であった。

 中山氏は日教組を「教育のがん」と言い放ったが、私に言わせれば、中山氏のような右翼政治家こそ「日本のがん」である。これまでも数々の歴史改竄発言で知性の欠如を曝け出し、今また意識的かどうかは別として日教組を「安心して攻撃できる悪」として大衆に供し、ポピュリズムを扇動した罪は万死に値する。今回の件で私が警戒したのは、中山氏が居座り「ウヨホイホイ」の役割を演じて、総選挙を前に「『左』を忌避するポピュリズム」を強化することであったが、辞任に追い込まれたことで、辛うじて日本社会にわずかに残る良識の力が発揮されたと言えよう。

 「日教組をぶっ壊す」と言っていた「日本のがん」が勝手に一人で「ぶっ壊れた」。こんな輩を議員に選出している宮崎1区の有権者は徹底して反省するべきである。
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by mahounofuefuki | 2008-09-27 22:50

「失言」が許されてしまう人

 自民党幹事長の麻生太郎氏が、民主党の政権交代論や国会戦術を揶揄し、ナチスの政権獲得過程を引き合いに出した「失言」の件。

 福田改造内閣発足にあたって弊ブログでは「新自由主義『漸進』路線を明示した福田改造内閣」というエントリをあげたが、実はその時意識的に触れなかった問題があって、それが「麻生太郎」の件であった。
 自民党が現在持っている「手駒」の中で相対的に最も「人気」が高い麻生氏を党幹事長に起用することで、「次の首相」は麻生氏という「期待感」を大衆に付与し、次期総選挙を何とか有利にしようとするねらいは明白だが(総選挙に「麻生総裁」で臨む可能性もある)、その流れに従えば麻生氏を「話題にする」こと自体が自民党の目論み通りになるので、基本的に天邪鬼な私はあえてスルーしたのである。しかし、早くも嫌でも話題にせざるをえない問題を起こしてくれた。自己嫌悪を抱きながら本稿を書いている。

 麻生氏はかつての田中眞紀子氏や小泉純一郎氏や橋下徹氏のような真の意味でのポピュリストではないので、黙っていれば平凡な世襲の保守政治家の1人にすぎないが、「漫画好き」とか「べらんめえ調」といったキャラクターを本人や周囲が仕立てていくことで「人気者」という虚像が形成されていく構図になっている。
 「失言癖」もそんな彼を「その他大勢」から引き立てる役割を果たしており、その失言の矛先が「世間の空気」に向かわない限り、麻生氏の「国民目線」のキャラクターはますます強化され、知名度も上がる。彼の「失言癖」は対外的には命取りになりかねないが、国内向けとしては決して不利になることはないのだ。

 しかも古来大衆扇動の要諦は、体制に順応した人々が不安や不満の責任を転嫁したがっている「醜悪で悪意に満ちた敵」を徹底的に攻撃することにある(皮肉にもそれに最も「成功」した例がナチスのアドルフ・ヒトラー)。小泉氏は大衆の公務員への嫉妬感情に乗じて「郵便局」を、橋下氏は大衆の少年犯罪への復讐感情に乗じて「光市事件弁護団」を「敵」に仕立てることで、「敵と闘うヒーロー」になりえた。麻生氏の場合、朝鮮半島の植民地支配に対する歴史修正主義発言が韓国・朝鮮人への差別意識を潜在させている人々に認知され、かえって知名度を上げた過去がある。麻生信奉者が「失言」に乗じて「民主党=ナチス」というネガティヴキャンペーンを仕掛けることさえ不可能ではない。

 残念ながらこの国のマジョリティーは、小泉氏や橋下氏やあるいは石原慎太郎氏といった攻撃的指導者の「失言」を「失言」とはとらえず、大衆と「同じ目線」の「本音」と捉える。麻生氏が「何を言っても、何をやっても許される」彼らの列に加われることができるかどうかはまだ何とも言えないが、麻生氏は今後もこうした「失言」を繰り返すことで、「左」を忌避する人々に喝采を浴び(実際の民主党は「左」ではなく「リベラル」という規定すら怪しいのだが)、その「空気」が大衆社会のメインストリームになる可能性さえあるだろう。

 当ブログではこれまで民主党に厳しいことを言ってきたし、これからもその見方は変わらないが、それ以上に私はポピュリズムが嫌いなので、麻生氏をめぐる現状ははっきり言って面白くはない。
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by mahounofuefuki | 2008-08-05 20:04

「自爆テロじゃなくてよかった」という渡辺喜美の暴言

 勝浦のマグロ漁船と海自のイージス艦「あたご」が衝突し、漁船が大破のうえ乗員が行方不明になっている事件。
 これを書いている時点ではまだ詳細は不明だが、海上保安部が業務上過失往来危険容疑で強制捜査に踏み切るようで、イージス艦側に非があるようだ。海上衝突予防法を調べてみると「2隻の動力船が互いに進路を横切る場合において衝突するおそれがあるときは、他の動力船を右げん側に見る船は、当該地の動力船の進路を避けなければならない」とあり、産経新聞(2008/02/19 11:59)などによると、今回の場合は横須賀へ北上するイージス艦の方が回避義務のある「避航船」だったという。漁船は左側面の損傷が大きいので位置関係はそれで間違いないだろう。

 自衛隊の艦船はこれまでも何度となく民間船と事故を起こしてきただけに、正直「またか」という思いは否めず、ましてや目視による見張りの怠慢などが報道されており、「凶器」を扱っているという自覚が自衛隊には不足しているとしか思えず、怒り心頭である。
 しかし、私が何よりも激怒したのは、渡辺喜美行革担当大臣の次の発言である。
 素人的に考えると、(漁船が)レーダーに映らなかったのか(と思う)。映らない場合もあるそうだが、万が一これが自爆テロの船ならどうするのか。(時事通信2008/02/19 10:58)
 「自爆テロの船ならどうするのか」という発言は、どう考えても「衝突したのが漁船だからイージス艦の損傷が軽微ですんだが、工作船の自爆攻撃だったら大損害だった」と解釈するしかない。つまりこの男はイージス艦のレーダーが漁船はともかく工作船を捉えられないことを何よりも心配しており、イージス艦さえ無事ならあとはどうでもいいと放言しているのである。

 自衛隊は建前上、住民を守るのが仕事ということになっている。しかし、実際は住民を守るはずのもが住民を傷つける事実に目を閉ざしてはならない。なお野党各党は国会で防衛大臣の責任を追及するようだが、大臣への連絡の遅さやらレーダーの技術的問題やらに論点をすり替えられないように注意してほしい。問題はあくまでもイージス艦が多額の国税をつぎ込むに値するのかという点である。

【関連リンク】
海上衝突予防法-法庫
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by mahounofuefuki | 2008-02-19 21:29

大阪府民へ、こんな下劣な男を知事にしてはならない

 *2007/12/11 改題、編集しました。

 タレントで弁護士の橋下徹氏が、大阪府知事選挙に立候補するという。自民・公明両党が推薦するという。

 以下、すべて橋下徹氏のブログ橋下徹のLawyer's EYEより。

「世の中法律だけじゃないんだよ!!」
「弁護士はそんなに偉いのか!!」
「お前ら勝手に来年まででも期日の調整をしてろよ!!」
「この集会はカルト集団の自慰(オナニー)集会だね。」
「そして、やっぱりと思ったけど、いましたよ、チンカス弁護士が。」
「コメンテーターの仕事や、番組に出演する仕事は、この裁判よりも重要でないっていうのか!!」
「日弁連の模擬裁判のリハーサルなんて、くだらない鼻くそイベント」
「弁護士自治も全く都合がいいもんだぜ。そんな団体なら強制加入団体なんかにすんなよ!!」
「ありがたい情報を頂いたんだから,弁護士会が手前らでコピーしろよ!!」
「分かってんのか!この似非人権団体の横浜弁護士会よ!」

 弁護士どころか、社会人とは思えない罵詈雑言の数々である。
 こんな品性下劣にして傍若無人な「不良弁護士」を本当に知事にしていいのか!?
 大阪府民へ。「橋下徹」の名を投票用紙に書くすべての人を私は深く軽蔑し、絶対に許しません。良心があったら、間違っても彼に投票してはいけません。

【関連記事】
橋下発言はツッコミどころ満載
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by mahounofuefuki | 2007-12-05 12:20

東国原知事の発言と徴兵制への誤解

宮崎県の東国原英夫知事が地元の建設業者との懇談会で、徴兵制を支持する発言を行った。
朝日新聞(2007/11/28 20:53)より発言部分を抜き取ると・・・
徴兵制があってしかるべきだ。若者は1年か2年くらい自衛隊などに入らなくてはいけないと思っている
若者が訓練や規則正しいルールにのっとった生活を送る時期があった方がいい
道徳や倫理観などの欠損が生じ、社会のモラルハザードなどにつながっている気がする
軍隊とは言わないが、ある時期、規律を重んじる機関で教育することは重要だと思っている

東国原氏の過去の履歴を考えると、彼が「道徳や倫理観」などと言っても全然説得力がないと思うのだが・・・(苦笑)。
ただこの国では相変わらず「問題のある若者」はスパルタ的にしごけば済むという非合理的な発想がなかなか消えないのは残念である。
この東国原発言については、花・髪切と思考の浮遊空間が私の言いたいことをほとんど書いてくださっているので、そちらを参照されたい。
花・髪切と思考の浮遊空間 東国原知事の「徴兵制論」

・・・とよそのブログへの丸投げだけでは何なので、この機会に徴兵制への一般の誤解について書いておきたい。

東国原氏も誤解しているようだが、徴兵制=義務兵役制は「国民皆兵」を謳っているが、少なくとも戦前の日本では、実際には全国民が軍隊経験をもったわけではない。
徴兵検査の受検は全男子に義務付けられていたが、検査の成績から合格者は甲種、乙種、丙種に分けられ、日中戦争全面化以前は、実際に現役兵として徴集され入営するのは甲種と乙種の中からくじ引きで選ばれた者だけだった。

徴兵相当人員のうち実際に入営した人員の割合(現役徴集率)は、日露戦争後の1911年で20.0%、軍縮期の1929年で15.4%、中国侵略開始後の1936年で18.2%と、終始10数%~20%で推移した(吉田裕 『日本の軍隊』 岩波書店、2002年、p.19より)。
要するに徴兵制といっても、根こそぎ動員の総力戦となるアジア・太平洋戦争後期を除けば、常に軍隊に入らなかった若者の方が徴兵された若者よりずっと多いのである。
現役徴集率が90%近くに達した(同前 p.198)敗戦前後の記憶があまりにも鮮烈だったため、あたかも全員が軍隊にとられたような錯覚をもちがちだが、現実にはすべての若者を軍隊に入れたことなど過去の日本には1度もないのである。

現代の日本で実際に徴兵制など導入したら、深刻な労働力不足と財政的コスト増大に見舞われるだろう。アメリカ軍にならって少数精鋭を指向しつつある自衛隊の方も願い下げだろう。
東国原氏の考えはあまりにも非現実的である。
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by mahounofuefuki | 2007-11-29 12:55