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「羞恥や不安を与えるまなざし」をめぐって

 買い物中の女性の臀部をカメラ付き携帯電話で撮影した男が、迷惑防止条例違反に問われていた裁判で、最高裁は被告の上告を棄却し、有罪判決が確定するという。共同通信(2008/11/13 12:38)より。
(前略) 被告側は「条例で禁じられる『みだらな言動』の内容が不明確」と主張したが、藤田宙靖裁判長は「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言動と解釈できる。ズボンの上からの撮影でも被害者が気付けば恥ずかしがり、不安を覚える行為で、条例違反は明白だ」と指摘した。(後略)

 なお5人の裁判中、1人は「のぞき見」などとは「全く質的に異なる」、撮られた写真は「卑猥」な印象はないと判断して、無罪判決を求める少数意見を出したという(朝日新聞2008/11/13 11:10)。

 この訴訟ではズボン姿でも撮影が「みだらな言動」「卑猥な動作」なのかどうかが争点だったわけだが、それ以前に、見ず知らずの人を背後から無断で「約5分間、約40メートルにわたり付け狙い」(共同、同前)撮影するという時点で、被写体が着衣だったか、スカートだったか、あるいは身体のどこを映したのかにかかわらず、すでに被写対象の人格を損ねる行為とみなさざるをえず、条令が定める「みだらな言動」だったかどうかは別として、道義的に問題のある行為だったことは確かだ。法的な合理性の是非は留保したいが、心情的には「そりゃまずいだろう」というところである。

 ところで今回の判決は、報道を読む限りでは「被害者が気付けば恥ずかしがり、不安を覚える行為」だから有罪だという論理展開のようだが、これに従えば、たとえば「監視カメラ」はどうなるのだろう。時と場合によっては街中・建造物中あちこちに散在する「監視カメラ」も同様の問題を抱えているのではないか。

 今回の事件は、撮る側の「まなざし」や「動作」に対し、撮られる側が羞恥と不安を感じたことが問題なので、それ自体は「まなざし」を発しない「監視カメラ」には今回の判例は適用できないのかもしれない。しかし、そのカメラが誰かに遠隔操作されていたり、撮影後に誰かが映像をチェックして偶然「卑猥」とみなせる映像があるなどで、いわば被写対象には可視化されない「性的なまなざし」があった場合はどうなるか。判決は「被害者が気付けば」と断っているので、要は被写対象が気付かなければ問題にはならないとも読み取れる。しかし、それが倫理的によいのか?と頭を抱えざるをえない。

 問題は「表現の自由」やプライバシーの保護と関係しているだけに非常にデリケートであり、こうすべきだ!という明快な結論は私には全然出せないが、今回の最高裁判決は期せずして氾濫する「監視カメラ」の危険性について考える材料を提供しているのではないか。

 もう1点。今回の件が有罪となると、よく新聞やテレビのニュースで恣意的に「若い女性」や「肌の露出の多い女性」ばかり撮っているのはどうなるのだろう。海水浴の報道では必ずと言っていいほど映るのは若い水着姿の女性である。台風の時にはこれまた必ずと言っていいほど短めのスカートを必死に抑える若い女性(たいていは女子中高生)が映る。最近もたまたま某私立大学の学生が大麻所持で逮捕されたというテレビニュースを見ていたら、資料映像としてミニスカート姿の女子学生が歩く様子を脚部だけ十数秒にわたって映していたのに出くわした。これらにエロティシズムを感じるのは、言うまでもなく既存の「男らしさ」に拘束された私の視線に起因するが、撮影者やその種の写真・映像を使用した関係者も同様の視線を持っていることは間違いない。これらが無断撮影で、かつ被写対象が羞恥や不安を覚えたなら、やはり有罪になるのではないだろうか。

 小さなニュースだが、いろいろな問題を考える素材になると言えよう。
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# by mahounofuefuki | 2008-11-13 22:47

失政が続くほど政権が延命するという問題

 麻生内閣が経済対策として打ち出した定額給付金をめぐる右往左往が話題である。すでに多くの人々が指摘しているように、一時的な給付では景気刺激策としても救貧策としても効果に乏しく、消費税増税への地ならしを兼ねた選挙向けパフォーマンスであることはもはや疑いない。今日の報道では、給付にあたって立法措置を採らず、所得制限を含め市町村に委ねるということだが、そもそも給付の具体的方法(銀行振込?窓口申請?)や交付形式(市町村ごとに補正予算を組むのか?)がいまだはっきりしておらず、本当にやれるのかさえ不透明である。

 今回の給付金に対しては、当初よりかつて小渕内閣が実施した「地域振興券」になぞらえる見方があったが、市町村「丸投げ」となると、むしろ竹下内閣の「ふるさと創生」の1億円バラマキを思い出す。これはもはや経済政策ではない。いずれにせよ、このような混乱ぶりでは実際の給付時期は延びるかもしれない。選挙対策である以上、給付時期が延びれば、それだけ総選挙も先送りされることになる。

 どうも最近の麻生首相を見ていると、総選挙をどうにかして先送りすることを何よりも優先し、すべてそれに合わせて行動しているような気がしてならない。今国会冒頭の解散に失敗して以降、常に政治的スケジュールを埋め、あえて選挙に不利な消費税増税をことあるごとに強調し、あたかも選挙で自民党に不利な状況を作ることで、与党内の早期解散要求を封じているかのようである。もともと「選挙の顔」を期待されて首班に擁立された以上、麻生氏が政権の延命を図るためにはその選挙を先送りするほかない。

 わざと混乱させているということはないだろうが、経済対策の実施方法をめぐるゴタゴタが長引けば長引くほど、政権に対する世論の信用が低下するリスクを負う一方で、選挙先送りの「口実」ができて、結果として政権そのものは延命する。麻生氏にとっては総選挙後も首相のイスに座れるという成算がない限り(自公で衆院「3分の2」を維持するか、議席数で「自公」>「民公」となり自民党主導で民主党を連立に加える状況になるか、のどちらか)、解散には踏み切れない。そしてその成算はいまだない。となれば少しでも長く首相でいたかったら、ひたすら選挙を先送りするしかないのである。失政が政権を生きながらえさせるというのは皮肉である。

 失政のツケを払わされることを考えれば、主権者にとってはハタ迷惑でしかないが、残念ながらこれが現実である。与党が衆院で3分の2以上ではなく単なる過半数だったら、昨年の参院選直後の時点でとっくに解散になっていたことを考えると、いかにあの「郵政選挙」が呪うべきものだったか、今こそ痛感させられる。
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# by mahounofuefuki | 2008-11-12 21:45

田母神問題で明かされた自衛隊の歴史修正主義教育

 今日の参議院外交防衛委員会で、前航空幕僚長の田母神俊雄氏に対する参考人質疑が行われた。テレビ中継がなかったため、国会のインターネット中継にアクセスが殺到し視聴しにくい状況になったほど、人々の関心は高かったようである。「懸賞論文」問題の表面化以来、事実上田母神氏の作文を擁護する報道を繰り返してきた産経新聞が早速速記録を出しているが、同社の電子版はページ分割が多くて読みにくいうえ、いつ消えるともしれないので、同内容が転載された別サイトをリンクする。

 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(1)(2)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1578.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(3)(4)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1583.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(5)(6)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1584.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(7)(8)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1585.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(9)(10)(11)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1586.html

 改めて整理すると、田母神「論文」の一次的な問題は、①空幕長という要職にある者が、通常の歴史学では全く顧みられることのない根拠薄弱な妄説を盲信し、内容・形式ともに「論文」というには稚拙で粗末な作文を応募したこと、②憲法遵守義務があり、文民統制に服さねばならない自衛官でありながら、「論文」を通して憲法を否定する言動を行うという政治活動を行ったこと、③田母神氏の肝いりで航空自衛隊が組織的に特定の懸賞論文に応募したこと、の3点に集約される。さらに「論文」の重要な背景として、田母神氏と懸賞論文の主催者「アパ・グループ」との度を超えた癒着や、田母神氏の主導により自衛隊内で歴史修正主義・陰謀論に基づいた歴史教育を行っていることも問題である。

 現在、政府やマスメディアが問題としているのは、田母神作文の提示した歴史認識が「政府見解」「村山談話」に反するというもので、今回の質疑でもその線で追及が行われたが、はっきり言ってあの作文は政府見解がどうのというレベルですらなく、むしろその基礎学力の低さを強調するべきだろう。大学の卒業論文どころかレポート課題でもあの内容では不可である。田母神氏は「最優秀賞」の受賞が発表されると、自ら問題の作文を防衛省内や担当記者たちに配っていたというから重症である。欲を言えば、国会質疑では田母神氏が空自の制服トップに値する「能力」がなかったことをもっと厳しく追及して欲しかったところである。

 今回の質疑で私が最も注目したのは、共産党の井上哲士議員が取り上げた、田母神氏が統合幕僚学校校長在任中に陸海空すべての幹部教育の体系を改定して、歴史修正主義に基づく「歴史観・国家観」の講義を行わせたという件である(井上氏の当該質疑は前記「詳報」の9・10)。講師は防衛大学校でも防衛研究所でもなく「主として外部から」呼ぶことになっており、その講師は大正大学教授の福地惇氏だという。福地氏の講義案はweb上に出ているが、認識において田母神作文とも共通するところが多い(さすがにもっと巧妙で「論拠」もはるかに多いが)。

 15年戦争@wiki - 統合幕僚学校・高級幹部課程講義案
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1541.html

 福地氏と言えば東京大学国史学科の出身で、昨年沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題時に弊ブログでも問題にした、保守的歴史学者で東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下である。伊藤門下でも政治的に最右翼として知られ、1998年に伊藤氏の推薦で文部省主任教科書調査官に任官するも、雑誌上で当時の教科書検定基準を批判したために、わずか半年余りで更迭された。伊藤氏と同様「新しい歴史教科書をつくる会」に加わり、内紛により師の伊藤氏が脱会した後もとどまり、現在は副会長を務めている。明治政治史で業績のある人だが、それだけに専攻外の日中戦争で通説に反する根拠薄弱な「コミンテルン陰謀論」や「南京大虐殺否定論」といった妄説を唱えているのは、専攻の業績も吹っ飛んでしまうほど歴史学者としての知性と品性を疑わせしめる。もはや歴史学者と言うべきではないだろう。

 このようなふざけた講義が統合幕僚学校で行われていたということは、「田母神流」が空自にとどまらず、全自衛隊の幹部教育に貫徹していた可能性があり、問題はもはや田母神氏個人の域を超えて、自衛隊が一体どんな歴史教育を行っているのか、今後も徹底的に洗い出して正常化する必要があるだろう。田母神問題が大きくなることで、日本社会に潜在する歴史修正主義への「渇望」を呼び覚まし、かえってそうした言説が力をもつリスクはあるが、むしろ田母神氏が「自爆」を続けるこの機に膿を出してしまうべきである。

【関連記事】
教科書改竄の「黒幕」
教科書調査官の系譜~「さるのつぶやき」より
「トンデモ空幕長」爆発!
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# by mahounofuefuki | 2008-11-11 22:58

某ブログに対するTB禁止措置について

 先週、エコノミストの植草一秀氏が民主党の小沢一郎代表の提唱した特別行政法人、特殊法人等の全面廃止による財源捻出を支持していたこと、及び消費税増税を容認していたことを弊ブログで批判したが、これに対し植草氏は民主党の全面廃止論に与しているわけではないこと、当面の消費税増税を支持していないことを明言し、私は依然として見解の相違はあるものの、謝意を表して一件落着した。

 この議論に関連して「Easy Resistance」という植草氏の応援を標榜するブログから弊エントリに対する反論があり、弊ブログはこれに対して再反論を行った。「Easy~」の姿勢は、基本的には北海道大学大学院教授の山口二郎、宮本太郎両氏が指摘するところの「行政不信に満ちた福祉国家志向」を前提とした「無駄遣いを廃して社会保障充実」という線上にあり、「大企業・富裕層への増税による所得再分配機能を強化した福祉国家」を志向する私とは一線を画していた。特に「Easy~」の過剰なまでの官僚批判や公営事業の民営化・外部委託を容認する姿勢は、行革による財政再建を主張する財界と軌を一にし、貧困問題に対しても「官」の需要増強を求める私と明らかに対立するものであった。

 弊ブログの再反論の内容はいささか頭に血の上った状態で書いたものだったので(それは私の未熟ゆえでこの点は反省している)、「Easy Resistance」の文意を誤読した面もあったが(たとえば「Easy~」が所得税の累進強化を支持していることを知らなかった)、現下の情勢ではたとえ「天下り利権」の廃絶という積極的目的であろうとも、特に独立行政法人の統廃合や民営化は「小さな政府」を推進するものでしかなく、そうした言説自体が「行革」と「地方分権」を最後の砦とする新自由主義を伸長させるという見方は今も変わらない。極論すれば「天下り先の保持」という「不純な」動機であっても、官僚が民営化や統廃合に「抵抗」するなら、私は官僚の方を応援する。その点で「Easy~」が私を指して行政の代弁者であるとか、社会主義者であるというのは、「天下り利権」の廃止を至上命題とする限りにおいては一応理解できるところである(そもそも私は社会主義を否定していない)。

 弊ブログの再反論に対し、「Easy Resistance」は再々反論を行ったが、私は過去の類似の経験から判断して、これ以上やっても水かけ論に終始し徒労に終わるだろうと考え(これにばかり拘泥できるほど暇でもない)、再反論の追記でこちらから議論を打ち切ることを明記した。弊ブログは何らかの政治的目標の実現を目指す「政治ブログ」ではなく、日々のニュースを読んで私が考えていることを書いているだけなので、読み手がそれをどう受け取ろうと一切構わず、いわゆる「論破」や「折伏」などを目指していない。見解の相違は相違として明らかになればそれで十分であると考えている。

 ところがこれで落着と思いきや、「Easy Resistance」が不可解な行動をとった。「Easy~」の再々反論エントリのトラックバックは2008/11/08 03:33付で着信し、エキサイトブログは承認制がないためすぐに反映され、同日当エントリに追記もしたのだが、2日後の2008/11/10 01:53付で、なぜか「トラックバックが通っていなかったようです、ごめんなさい」というコメントを付して、同一のエントリを前回と同じ当エントリにトラックバックしてきたのである。当該エントリには他にトラックバックはなく、いくら何でも見落とすというのは考えにくく、この時点でスパム行為を疑ったが、単なるミスかもしれないので一応そのままにした。

 さらに「Easy Resistance」は今日になって新たなエントリを上げ、弊ブログに対する挑発的批判を行った。「Easy~」は最初の批判の時から妙になれなれしい文体で、それが私の癇に障ったのだが、今回も「この人調子に乗り過ぎる傾向が否めません、かわいいね~」(何様のつもりなんだろう)、「嘘だらけ、特定企業って私言ってませんよね=利権てあんた、捏造かい」(特定だろうと特定でなかろうと企業への委託は利権なのに)、「sekakataさん、あんた行政?」(財界か行政かと問われれば行政を選ぶが)といった不真面目な誹謗中傷言説が並び、「民間企業に運営、政府は保障」という彼の持論を私が「保証」と誤読しているというような詭弁を駆使し(言うまでもないが私は「保証」だろうと「保障」だろうと民間にやらせること自体に反対しているのだから全く無意味な反論)、大企業・富裕層への減税が貧困拡大と社会的不平等と財政の不健全化を招いているという事実を認識できず、相変わらず官僚利権一元説を繰り返していた。「地方財政が厳しいのは官が予算を独占しているからだ」と言うに至っては、地方財政の悪化の直接原因は国からの交付金や補助金の削減と大企業への利益誘導にあることを無視した暴論で、その「民間」への楽観性にあきれる(猪瀬直樹氏あたりが読んだら大喜びだろう)。私はそもそも「健全な市場」なるものを信用していない。

 いずれにせよスパム行為と疑わざるをえない不可解な行動、当方がもう批判をやめたのに挑発を繰り返す姿勢、当方の信用失墜を目的としていることを疑わざるをえない誹謗等に鑑み、「Easy Resistance」に対し当エントリ公開時をもってトラックバック禁止措置をとった(過去のトラックバックはそのままにする)。今回の措置に対し読者には批判もあろうが、私の個人ブログである以上、利用規約で認められた管理人としての当然の権利であることをご理解いただきたい。
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# by mahounofuefuki | 2008-11-11 12:38

「仲間とつながる安心感」さえあれば非正規雇用でもよいのか

 東京学芸大学教授の山田昌弘氏が「格差社会」の現状について語っているインタヴューが出ていた。「氷河期世代」の非正規労働者、いわゆる「年長フリーター」が抱える社会的孤立の現況とその打開の方向性について述べているのだが、その中で気になる指摘があった。

 格差問題の第一人者が憂う“格差の拡大”「下流から一歩進んで下層へ!」|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン
 http://diamond.jp/series/dw_special/10035/
(前略)
――非正規雇用を正規雇用に変えようという企業も登場し、国には日雇い労働などを法律で規制しようという動きがある。

 非正規雇用を正規雇用に変えたり、法律で日雇い労働を規制しても根本的な問題は解決しない。

 突き詰めれば、「単純労働を誰が担うのか」ということになるからだ。「仲間もなく単純労働を延々とこなす」という仕事が日本社会からなくならない以上、雇用形態や表現が変わっても、それを担う者は世の中に存在し続けるのだ。そういう若者が不安を感じ、希望を持てないことが問題の元凶なのだ。

 そもそも、皆が安くていいものを求め続ける限り、その種の労働はなくならない。「非正規雇用はかわいそう」「なくすべきだ」と言っている人に、「ハンバーガーが1000円になってもいいですか?」と聞けば、「ノー」と答えるだろう。

 非正規雇用のような労働はなくならない。ならば、そういう労働を担う人たちの心理的な不安を解消する仕組みが早急に必要となる。

――具体的にはどのようなことか。

 組織化や連帯だ。それは組合でもいい。欧米は組合で連帯を感じ、日本は正社員であることで連帯を感じ、安心してきた。そこからはじかれた労働者が今、連帯や仲間意識を持てないで不安や孤独を感じている。形はどうであれ、仲間とつながることで安心できる仕組みが求められる。

 かつて、不安感を歪んだかたちで組織化し、利用したのがヒットラーだった。このまま今の状況が放置されたら危険だろう。(後略)

 山田氏の立論は、現行の経済システムでは「非正規雇用のような労働はなくならない」ということを前提に、たとえ雇用形態を正規化しても、それが孤独な単純労働である限り労働者の不安と絶望はなくならないというものである。その上でこうした労働者の不安を解消するために「組織化と連帯」を勧めている。

 雇用待遇差別解消の基本的方向性として非正規雇用の正規化による均等待遇の実現を求める側としては、2つの問題を提起せざるをえない。1つは、本当に「非正規雇用のような労働はなくならない」のかという点。もう1つは、労働者の不安の根本的要因は「雇用の待遇」ではなく「帰属意識の欠如」なのかという点である。

 第1の点は、製造業を中心に末端の単純労動が完全にシステム化されていて、これを廃して産業が成り立つのは困難であるという事実を指す。この場合、仮に雇用待遇が「正社員」であっても「孤独な単純労働」自体は変わらない。私などはいつも非正規雇用の正規化を主張する際、仕事内容や「やりがい」といった問題は棚上げし、給与や保険や休暇といった条件面の引き上げに問題を集約して、極論すれば生活できるだけの所得さえ保障されれば仕事内容を問わないという線さえ否定していないが、労働「条件」だけでなく労働「内容」が差別と疎外感をもたらしているのならば、この問題は無視しえないのは確かである。

 とはいえ「非正規雇用のような仕事はなくならない」「正規雇用にしても問題は解決しない」という部分だけが一人歩きするのは危険である。インタヴューを行った「ダイヤモンド」の社論が「正規雇用の労働条件引き下げ」であることを考えれば、山田氏の発言自体が「非正規雇用をなくすことは不可能だから、正規雇用の引き下げによる均等待遇にしよう」というミスリードを誘う性質を持つ。それでは「貧困と格差」の解決にはならない。「非正規雇用のような仕事」と「非正規雇用」の違いをはっきりと認識しなければならない。

 第2の点はいわゆる「関係の貧困」にかかわる問題である。「氷河期世代」の非典型労働者が等しく感じるのは、社会から取り残された、正確には社会のスタンダードなライフサイクルから排除されたという疎外感である。年を重ねるにつれて典型労働者との落差が顕著となる。片や結婚して子どももいて社会から存在を認知されているのに、片や自立した生活を送れず社会からはいつまでたっても侮蔑的視線を受ける。つまり、収入の少なさもさることながら、社会から人間として認知されていないことに悩まされるのである。

 その点で山田氏が提起した「組織化と連帯」という結論自体は、「認知してくれる」視線、ひいては社会への帰属意識を獲得する方法として間違っていないし、実際コミュニティユニオンのような確かな実例もあるが、問題は第1の点(「非正規雇用のような仕事はなくならない」)を前提として第2の点(不安を取り除く帰属意識が必要)を論じているために、第1の点のミスリードと併せて「不安さえ解消すれば非正規雇用を維持してもよい」という論法に容易に転じてしまう危険性がある。

 非典型労働者の不安の原因を労働条件の低さに求めている限りは、「組織化と連帯」は労働条件引き上げの手段となる。しかし、労働条件と切り離して単に「仲間意識」がないことを労働者の不安の主因と捉えると、「組織化と連帯」で「仲間とつながる安心感」ができたのだから、それで不安は解消された、労働条件は別に上げる必要はないということになりかねない。「正社員」の肩書き=帰属意識を維持する引き換えに、際限のない労働条件の引き下げを受け入れさせられている「名ばかり正社員」と同根の問題がここでは露呈している。

 今回言及した問題、特に「氷河期世代」の非典型層の尊厳をめぐる議論は、私の中でいまだ詰め切れておらず確たることは言えないが、とりあえず注意したいのは、一見「格差」や「差別」を批判する言説も状況やロジックによっては、逆の立場に転化しうるということである。自戒したいところである。
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# by mahounofuefuki | 2008-11-10 01:38