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失政が続くほど政権が延命するという問題

 麻生内閣が経済対策として打ち出した定額給付金をめぐる右往左往が話題である。すでに多くの人々が指摘しているように、一時的な給付では景気刺激策としても救貧策としても効果に乏しく、消費税増税への地ならしを兼ねた選挙向けパフォーマンスであることはもはや疑いない。今日の報道では、給付にあたって立法措置を採らず、所得制限を含め市町村に委ねるということだが、そもそも給付の具体的方法(銀行振込?窓口申請?)や交付形式(市町村ごとに補正予算を組むのか?)がいまだはっきりしておらず、本当にやれるのかさえ不透明である。

 今回の給付金に対しては、当初よりかつて小渕内閣が実施した「地域振興券」になぞらえる見方があったが、市町村「丸投げ」となると、むしろ竹下内閣の「ふるさと創生」の1億円バラマキを思い出す。これはもはや経済政策ではない。いずれにせよ、このような混乱ぶりでは実際の給付時期は延びるかもしれない。選挙対策である以上、給付時期が延びれば、それだけ総選挙も先送りされることになる。

 どうも最近の麻生首相を見ていると、総選挙をどうにかして先送りすることを何よりも優先し、すべてそれに合わせて行動しているような気がしてならない。今国会冒頭の解散に失敗して以降、常に政治的スケジュールを埋め、あえて選挙に不利な消費税増税をことあるごとに強調し、あたかも選挙で自民党に不利な状況を作ることで、与党内の早期解散要求を封じているかのようである。もともと「選挙の顔」を期待されて首班に擁立された以上、麻生氏が政権の延命を図るためにはその選挙を先送りするほかない。

 わざと混乱させているということはないだろうが、経済対策の実施方法をめぐるゴタゴタが長引けば長引くほど、政権に対する世論の信用が低下するリスクを負う一方で、選挙先送りの「口実」ができて、結果として政権そのものは延命する。麻生氏にとっては総選挙後も首相のイスに座れるという成算がない限り(自公で衆院「3分の2」を維持するか、議席数で「自公」>「民公」となり自民党主導で民主党を連立に加える状況になるか、のどちらか)、解散には踏み切れない。そしてその成算はいまだない。となれば少しでも長く首相でいたかったら、ひたすら選挙を先送りするしかないのである。失政が政権を生きながらえさせるというのは皮肉である。

 失政のツケを払わされることを考えれば、主権者にとってはハタ迷惑でしかないが、残念ながらこれが現実である。与党が衆院で3分の2以上ではなく単なる過半数だったら、昨年の参院選直後の時点でとっくに解散になっていたことを考えると、いかにあの「郵政選挙」が呪うべきものだったか、今こそ痛感させられる。
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by mahounofuefuki | 2008-11-12 21:45

田母神問題で明かされた自衛隊の歴史修正主義教育

 今日の参議院外交防衛委員会で、前航空幕僚長の田母神俊雄氏に対する参考人質疑が行われた。テレビ中継がなかったため、国会のインターネット中継にアクセスが殺到し視聴しにくい状況になったほど、人々の関心は高かったようである。「懸賞論文」問題の表面化以来、事実上田母神氏の作文を擁護する報道を繰り返してきた産経新聞が早速速記録を出しているが、同社の電子版はページ分割が多くて読みにくいうえ、いつ消えるともしれないので、同内容が転載された別サイトをリンクする。

 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(1)(2)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1578.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(3)(4)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1583.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(5)(6)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1584.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(7)(8)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1585.html
 15年戦争資料@wiki - 産経【田母神氏招致・詳報】(9)(10)(11)
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1586.html

 改めて整理すると、田母神「論文」の一次的な問題は、①空幕長という要職にある者が、通常の歴史学では全く顧みられることのない根拠薄弱な妄説を盲信し、内容・形式ともに「論文」というには稚拙で粗末な作文を応募したこと、②憲法遵守義務があり、文民統制に服さねばならない自衛官でありながら、「論文」を通して憲法を否定する言動を行うという政治活動を行ったこと、③田母神氏の肝いりで航空自衛隊が組織的に特定の懸賞論文に応募したこと、の3点に集約される。さらに「論文」の重要な背景として、田母神氏と懸賞論文の主催者「アパ・グループ」との度を超えた癒着や、田母神氏の主導により自衛隊内で歴史修正主義・陰謀論に基づいた歴史教育を行っていることも問題である。

 現在、政府やマスメディアが問題としているのは、田母神作文の提示した歴史認識が「政府見解」「村山談話」に反するというもので、今回の質疑でもその線で追及が行われたが、はっきり言ってあの作文は政府見解がどうのというレベルですらなく、むしろその基礎学力の低さを強調するべきだろう。大学の卒業論文どころかレポート課題でもあの内容では不可である。田母神氏は「最優秀賞」の受賞が発表されると、自ら問題の作文を防衛省内や担当記者たちに配っていたというから重症である。欲を言えば、国会質疑では田母神氏が空自の制服トップに値する「能力」がなかったことをもっと厳しく追及して欲しかったところである。

 今回の質疑で私が最も注目したのは、共産党の井上哲士議員が取り上げた、田母神氏が統合幕僚学校校長在任中に陸海空すべての幹部教育の体系を改定して、歴史修正主義に基づく「歴史観・国家観」の講義を行わせたという件である(井上氏の当該質疑は前記「詳報」の9・10)。講師は防衛大学校でも防衛研究所でもなく「主として外部から」呼ぶことになっており、その講師は大正大学教授の福地惇氏だという。福地氏の講義案はweb上に出ているが、認識において田母神作文とも共通するところが多い(さすがにもっと巧妙で「論拠」もはるかに多いが)。

 15年戦争@wiki - 統合幕僚学校・高級幹部課程講義案
 http://www16.atwiki.jp/pipopipo555jp/pages/1541.html

 福地氏と言えば東京大学国史学科の出身で、昨年沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題時に弊ブログでも問題にした、保守的歴史学者で東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下である。伊藤門下でも政治的に最右翼として知られ、1998年に伊藤氏の推薦で文部省主任教科書調査官に任官するも、雑誌上で当時の教科書検定基準を批判したために、わずか半年余りで更迭された。伊藤氏と同様「新しい歴史教科書をつくる会」に加わり、内紛により師の伊藤氏が脱会した後もとどまり、現在は副会長を務めている。明治政治史で業績のある人だが、それだけに専攻外の日中戦争で通説に反する根拠薄弱な「コミンテルン陰謀論」や「南京大虐殺否定論」といった妄説を唱えているのは、専攻の業績も吹っ飛んでしまうほど歴史学者としての知性と品性を疑わせしめる。もはや歴史学者と言うべきではないだろう。

 このようなふざけた講義が統合幕僚学校で行われていたということは、「田母神流」が空自にとどまらず、全自衛隊の幹部教育に貫徹していた可能性があり、問題はもはや田母神氏個人の域を超えて、自衛隊が一体どんな歴史教育を行っているのか、今後も徹底的に洗い出して正常化する必要があるだろう。田母神問題が大きくなることで、日本社会に潜在する歴史修正主義への「渇望」を呼び覚まし、かえってそうした言説が力をもつリスクはあるが、むしろ田母神氏が「自爆」を続けるこの機に膿を出してしまうべきである。

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by mahounofuefuki | 2008-11-11 22:58

某ブログに対するTB禁止措置について

 先週、エコノミストの植草一秀氏が民主党の小沢一郎代表の提唱した特別行政法人、特殊法人等の全面廃止による財源捻出を支持していたこと、及び消費税増税を容認していたことを弊ブログで批判したが、これに対し植草氏は民主党の全面廃止論に与しているわけではないこと、当面の消費税増税を支持していないことを明言し、私は依然として見解の相違はあるものの、謝意を表して一件落着した。

 この議論に関連して「Easy Resistance」という植草氏の応援を標榜するブログから弊エントリに対する反論があり、弊ブログはこれに対して再反論を行った。「Easy~」の姿勢は、基本的には北海道大学大学院教授の山口二郎、宮本太郎両氏が指摘するところの「行政不信に満ちた福祉国家志向」を前提とした「無駄遣いを廃して社会保障充実」という線上にあり、「大企業・富裕層への増税による所得再分配機能を強化した福祉国家」を志向する私とは一線を画していた。特に「Easy~」の過剰なまでの官僚批判や公営事業の民営化・外部委託を容認する姿勢は、行革による財政再建を主張する財界と軌を一にし、貧困問題に対しても「官」の需要増強を求める私と明らかに対立するものであった。

 弊ブログの再反論の内容はいささか頭に血の上った状態で書いたものだったので(それは私の未熟ゆえでこの点は反省している)、「Easy Resistance」の文意を誤読した面もあったが(たとえば「Easy~」が所得税の累進強化を支持していることを知らなかった)、現下の情勢ではたとえ「天下り利権」の廃絶という積極的目的であろうとも、特に独立行政法人の統廃合や民営化は「小さな政府」を推進するものでしかなく、そうした言説自体が「行革」と「地方分権」を最後の砦とする新自由主義を伸長させるという見方は今も変わらない。極論すれば「天下り先の保持」という「不純な」動機であっても、官僚が民営化や統廃合に「抵抗」するなら、私は官僚の方を応援する。その点で「Easy~」が私を指して行政の代弁者であるとか、社会主義者であるというのは、「天下り利権」の廃止を至上命題とする限りにおいては一応理解できるところである(そもそも私は社会主義を否定していない)。

 弊ブログの再反論に対し、「Easy Resistance」は再々反論を行ったが、私は過去の類似の経験から判断して、これ以上やっても水かけ論に終始し徒労に終わるだろうと考え(これにばかり拘泥できるほど暇でもない)、再反論の追記でこちらから議論を打ち切ることを明記した。弊ブログは何らかの政治的目標の実現を目指す「政治ブログ」ではなく、日々のニュースを読んで私が考えていることを書いているだけなので、読み手がそれをどう受け取ろうと一切構わず、いわゆる「論破」や「折伏」などを目指していない。見解の相違は相違として明らかになればそれで十分であると考えている。

 ところがこれで落着と思いきや、「Easy Resistance」が不可解な行動をとった。「Easy~」の再々反論エントリのトラックバックは2008/11/08 03:33付で着信し、エキサイトブログは承認制がないためすぐに反映され、同日当エントリに追記もしたのだが、2日後の2008/11/10 01:53付で、なぜか「トラックバックが通っていなかったようです、ごめんなさい」というコメントを付して、同一のエントリを前回と同じ当エントリにトラックバックしてきたのである。当該エントリには他にトラックバックはなく、いくら何でも見落とすというのは考えにくく、この時点でスパム行為を疑ったが、単なるミスかもしれないので一応そのままにした。

 さらに「Easy Resistance」は今日になって新たなエントリを上げ、弊ブログに対する挑発的批判を行った。「Easy~」は最初の批判の時から妙になれなれしい文体で、それが私の癇に障ったのだが、今回も「この人調子に乗り過ぎる傾向が否めません、かわいいね~」(何様のつもりなんだろう)、「嘘だらけ、特定企業って私言ってませんよね=利権てあんた、捏造かい」(特定だろうと特定でなかろうと企業への委託は利権なのに)、「sekakataさん、あんた行政?」(財界か行政かと問われれば行政を選ぶが)といった不真面目な誹謗中傷言説が並び、「民間企業に運営、政府は保障」という彼の持論を私が「保証」と誤読しているというような詭弁を駆使し(言うまでもないが私は「保証」だろうと「保障」だろうと民間にやらせること自体に反対しているのだから全く無意味な反論)、大企業・富裕層への減税が貧困拡大と社会的不平等と財政の不健全化を招いているという事実を認識できず、相変わらず官僚利権一元説を繰り返していた。「地方財政が厳しいのは官が予算を独占しているからだ」と言うに至っては、地方財政の悪化の直接原因は国からの交付金や補助金の削減と大企業への利益誘導にあることを無視した暴論で、その「民間」への楽観性にあきれる(猪瀬直樹氏あたりが読んだら大喜びだろう)。私はそもそも「健全な市場」なるものを信用していない。

 いずれにせよスパム行為と疑わざるをえない不可解な行動、当方がもう批判をやめたのに挑発を繰り返す姿勢、当方の信用失墜を目的としていることを疑わざるをえない誹謗等に鑑み、「Easy Resistance」に対し当エントリ公開時をもってトラックバック禁止措置をとった(過去のトラックバックはそのままにする)。今回の措置に対し読者には批判もあろうが、私の個人ブログである以上、利用規約で認められた管理人としての当然の権利であることをご理解いただきたい。
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by mahounofuefuki | 2008-11-11 12:38

「仲間とつながる安心感」さえあれば非正規雇用でもよいのか

 東京学芸大学教授の山田昌弘氏が「格差社会」の現状について語っているインタヴューが出ていた。「氷河期世代」の非正規労働者、いわゆる「年長フリーター」が抱える社会的孤立の現況とその打開の方向性について述べているのだが、その中で気になる指摘があった。

 格差問題の第一人者が憂う“格差の拡大”「下流から一歩進んで下層へ!」|『週刊ダイヤモンド』特別レポート|ダイヤモンド・オンライン
 http://diamond.jp/series/dw_special/10035/
(前略)
――非正規雇用を正規雇用に変えようという企業も登場し、国には日雇い労働などを法律で規制しようという動きがある。

 非正規雇用を正規雇用に変えたり、法律で日雇い労働を規制しても根本的な問題は解決しない。

 突き詰めれば、「単純労働を誰が担うのか」ということになるからだ。「仲間もなく単純労働を延々とこなす」という仕事が日本社会からなくならない以上、雇用形態や表現が変わっても、それを担う者は世の中に存在し続けるのだ。そういう若者が不安を感じ、希望を持てないことが問題の元凶なのだ。

 そもそも、皆が安くていいものを求め続ける限り、その種の労働はなくならない。「非正規雇用はかわいそう」「なくすべきだ」と言っている人に、「ハンバーガーが1000円になってもいいですか?」と聞けば、「ノー」と答えるだろう。

 非正規雇用のような労働はなくならない。ならば、そういう労働を担う人たちの心理的な不安を解消する仕組みが早急に必要となる。

――具体的にはどのようなことか。

 組織化や連帯だ。それは組合でもいい。欧米は組合で連帯を感じ、日本は正社員であることで連帯を感じ、安心してきた。そこからはじかれた労働者が今、連帯や仲間意識を持てないで不安や孤独を感じている。形はどうであれ、仲間とつながることで安心できる仕組みが求められる。

 かつて、不安感を歪んだかたちで組織化し、利用したのがヒットラーだった。このまま今の状況が放置されたら危険だろう。(後略)

 山田氏の立論は、現行の経済システムでは「非正規雇用のような労働はなくならない」ということを前提に、たとえ雇用形態を正規化しても、それが孤独な単純労働である限り労働者の不安と絶望はなくならないというものである。その上でこうした労働者の不安を解消するために「組織化と連帯」を勧めている。

 雇用待遇差別解消の基本的方向性として非正規雇用の正規化による均等待遇の実現を求める側としては、2つの問題を提起せざるをえない。1つは、本当に「非正規雇用のような労働はなくならない」のかという点。もう1つは、労働者の不安の根本的要因は「雇用の待遇」ではなく「帰属意識の欠如」なのかという点である。

 第1の点は、製造業を中心に末端の単純労動が完全にシステム化されていて、これを廃して産業が成り立つのは困難であるという事実を指す。この場合、仮に雇用待遇が「正社員」であっても「孤独な単純労働」自体は変わらない。私などはいつも非正規雇用の正規化を主張する際、仕事内容や「やりがい」といった問題は棚上げし、給与や保険や休暇といった条件面の引き上げに問題を集約して、極論すれば生活できるだけの所得さえ保障されれば仕事内容を問わないという線さえ否定していないが、労働「条件」だけでなく労働「内容」が差別と疎外感をもたらしているのならば、この問題は無視しえないのは確かである。

 とはいえ「非正規雇用のような仕事はなくならない」「正規雇用にしても問題は解決しない」という部分だけが一人歩きするのは危険である。インタヴューを行った「ダイヤモンド」の社論が「正規雇用の労働条件引き下げ」であることを考えれば、山田氏の発言自体が「非正規雇用をなくすことは不可能だから、正規雇用の引き下げによる均等待遇にしよう」というミスリードを誘う性質を持つ。それでは「貧困と格差」の解決にはならない。「非正規雇用のような仕事」と「非正規雇用」の違いをはっきりと認識しなければならない。

 第2の点はいわゆる「関係の貧困」にかかわる問題である。「氷河期世代」の非典型労働者が等しく感じるのは、社会から取り残された、正確には社会のスタンダードなライフサイクルから排除されたという疎外感である。年を重ねるにつれて典型労働者との落差が顕著となる。片や結婚して子どももいて社会から存在を認知されているのに、片や自立した生活を送れず社会からはいつまでたっても侮蔑的視線を受ける。つまり、収入の少なさもさることながら、社会から人間として認知されていないことに悩まされるのである。

 その点で山田氏が提起した「組織化と連帯」という結論自体は、「認知してくれる」視線、ひいては社会への帰属意識を獲得する方法として間違っていないし、実際コミュニティユニオンのような確かな実例もあるが、問題は第1の点(「非正規雇用のような仕事はなくならない」)を前提として第2の点(不安を取り除く帰属意識が必要)を論じているために、第1の点のミスリードと併せて「不安さえ解消すれば非正規雇用を維持してもよい」という論法に容易に転じてしまう危険性がある。

 非典型労働者の不安の原因を労働条件の低さに求めている限りは、「組織化と連帯」は労働条件引き上げの手段となる。しかし、労働条件と切り離して単に「仲間意識」がないことを労働者の不安の主因と捉えると、「組織化と連帯」で「仲間とつながる安心感」ができたのだから、それで不安は解消された、労働条件は別に上げる必要はないということになりかねない。「正社員」の肩書き=帰属意識を維持する引き換えに、際限のない労働条件の引き下げを受け入れさせられている「名ばかり正社員」と同根の問題がここでは露呈している。

 今回言及した問題、特に「氷河期世代」の非典型層の尊厳をめぐる議論は、私の中でいまだ詰め切れておらず確たることは言えないが、とりあえず注意したいのは、一見「格差」や「差別」を批判する言説も状況やロジックによっては、逆の立場に転化しうるということである。自戒したいところである。
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by mahounofuefuki | 2008-11-10 01:38

期待が大きいほど裏切られた時の反動が怖い

 アメリカ大統領選挙は民主党のバラク・オバマ候補の当選で終わったが、これほど全世界からその勝利を歓迎されたアメリカ大統領は今まで例がないだろう。その原因は何と言ってもジョージ・ブッシュ現大統領のあまりのひどさにあるが、単に「ブッシュよりまし」というだけでなく、1人の人間として余人をもって代えがたい「魅力」があることも確かで、民族的マイノリティであるという属性や卓越した演説能力といった表層だけではない、言葉では言い表せない「何か」を感じる。

 とはいえ選挙運動におけるポピュリズム的な動員手法は、かつてのファシズムを彷彿とさせるものであったし、分断されたアメリカの国民統合の回復を強調する姿勢は、一歩間違えれば排他的なナショナリズムに通じる。金融危機に際しても「ウォール街よりも市民を救済せよ」という声に反して、金融資本救済の政治的合意形成に動いた。伝えられるところでは共和党からも入閣があるようで、いわば「挙国一致」政権を指向しているとも考えられる。危惧すべき点も少なくないのである。

 私が何よりも不安なのは、アメリカ内外のオバマ氏への「期待」があまりにも過剰なことにある。貧困の解決、景気の回復、泥沼化したイラク戦争やアフガニスタン戦争の処理、現政権が消極的な温暖化対策などなど、人々はオバマ政権に、というよりオバマその人に多くのものを期待している。しかし、アメリカに限らないが、複雑化した現代の政治構造の下では単にトップや政権が交代したところで、根本的な変革は容易なことではない。ましてや新政権が「挙国一致」を志向するならば、既存の利害関係に気を配らねばならない。保守二大政党制のため議会に「左翼」が存在しないアメリカでは、真に民衆の利害を政治に媒介する回路がない以上、オバマ政権も従来の政治の枠から出ることはないのではないか。

 人は初めから期待していないものには見返りを求めない。逆に期待が大きいほど見返りへの要求も高くなる。オバマ氏がこれらの期待に応えられなかった時、期待が大きい分「裏切られた」という思いは人一倍強くなる。その反動が不安である。オバマ氏の演説を聴きながら涙まで流している人を観るたびに、私の不安はますます募る。裏切られた時の反動がどのような形で噴出するか。それが世界を危険な道に誘うものである可能性は考慮しなければならない。

 日米関係に関しては、すでに一方的にオバマ氏へ期待(あるいは反発)していた向きの思いとは裏腹に、先の麻生首相との電話会談で「日米同盟」の堅持・強化を約束した。オバマ政権が公約通りアフガニスタンでの「テロとの戦い」を増強する場合、日本の自衛隊派遣への圧力が強まることもあろう。そもそも共和党も民主党も一貫して日米安保体制を強化する方向性を持続してきた。安保条約の実質的な改定だった「周辺事態」に対する新ガイドラインの制定はクリントン民主党政権下で行われた。軍事的にも経済的にも新政権が「内向き」志向を強めれば、「同盟国」に対する負担を強く求めていくこともありえよう。

 現代アメリカの宿命的な病とも言える「戦争と貧困」について言えば、一度の政権交代程度で是正できるほど甘くはないと思っている。故に私はオバマ政権に対し特に期待はない。一方的に自らの願望をオバマという一人格に投影するようなことは慎まねばならない。
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by mahounofuefuki | 2008-11-08 15:29

少なくともあなたの方は「小さな政府」論者です

 面倒なので前置きなし。

 Easy Resistance:植草さんは「小さな政府」論者ではありませんよ
 http://easyresistance.blog.ocn.ne.jp/blog/2008/11/post_7868.html

それはただ天下りを禁止するだけでは、公庫に資金を取り戻すことができないからです。独立行政法人など政府系企業は天下り人件費を捻出するために、業務遂行とは関係のない経費(人件費)を計上できるようにできています。通常の利益を稼ぐ法人とは全くの別物で、そこに配分される国費は彼らにとって利権で、天下りが来なければこれ幸いと、その分も何らかの形で自分達のために利用することでしょう。

 その論法だったら、独立行政法人どころか政府のあらゆる機関が必要ないということになる。「業務遂行と関係ない経費」を計上して予算を獲得する手は行政ならどこでも使う手。しかし、例えば地方自治体がそういう手を使っているからと言って、「自治体を廃止しろ」とはならない。必要なのはあくまで会計検査の強化であって、政府の業務を減らして、行政サービスを落とすことではない。ちなみにこの人は「人件費=悪」という典型的な新自由主義的思考にとらわれているが、貧困対策のために公務員を倍増して「ワーキングプア」を優先採用しろと要求している私からすれば、その人件費で雇用が増えるという条件ならば、人件費は多い方がよい。


おっしゃる通り有益な事業も数多く存在します。しかしそれを残しながら天下りの受け皿である政府系企業を廃止する方法は色々あります。民間企業に運営させ保障だけを与えるとか、地方自治体へ移管する(もちろん一般会計で運営していただく)証券化して市場へ任せる(2次市場形成は問題ありそうですねw)一般会計で予算を組む、利益の見込める事業は民間へ払い下げる等

 民間委託と地方丸投げと証券化! あなたは橋下徹ですか!? 竹中平蔵ですか!? 「天下り利権」にはうるさいくせに、特定企業への委託=利権はいいと! ただでさえ財政の厳しい地方自治体に移管してどうやって運営するのか。地方間格差も広がる。民営化すれば収益を上げなければならない。市場原理にそぐわないものは排除されてしまう。また外部委託は公務員の非正規化を招いている(「官製ワーキングプア」で調べよ)。

 たとえば公団住宅をご指摘通り民営化するとしよう。家賃が引き上げられ、貧乏人は追い出される。奨学金を民営化するとしよう。利息は上がり、信用保証のない貧乏人は借りることもできなくなる。国立病院を民営化するとしよう。採算のとれない田舎の病院は廃止されるだろう。ちょっとシミュレーションすればわかること。それでも「天下りの廃止のためには仕方がない」と言うようなら「さよなら」だ。必要なのはいつ民営化されるかわからない独立行政法人という形態を完全に国の直轄機関にすることである。


政府系企業はその規模の分だけ民業を圧迫しています、その圧力を取り除けば日本の企業は活力を再生させるはずです。その伸びに雇用を求めるのが正攻法ではないかと考えます、同時にそれが追いつくまでの間、何らかの保障は必要になると思われますが。

 公営事業とぶつかる民業の多くはいわゆる「貧困ビジネス」である。公営住宅がもっとたくさんあれば、ネットカフェや個室ビデオに寝泊まりする人は減る。職業訓練事業がもっと充実すれば、派遣会社は減る。しかし、そうした「民業の圧迫」はむしろ歓迎されるべきではないのか。政府が正規雇用を減らして、その分民間の非正規雇用が増えても、単に貧困を拡大するだけにすぎない。現実は金融危機以降、どんどん民間での特に非正規雇用の「首切り」が進んでいる。今必要なのは、政府が公務員を増やすなり、社会保障の充実と連動した公営事業を増やして雇用のイスを増やすことではないのか? 


その通りですね、それが改革の名を借りた利権の保全に他ならないからです。まさしく天下りは温存され、国民の権利が削られる悪しき改革の典型です。この政府系金融も解体すべきだと私は思っています。

 何が「その通りですね」だ! 曲解も甚だしい! 私が問題にしているのは「利権の保全」でも「天下りの温存」でもない。奨学金の補完的役割を果たしている「教育ローン」の貸出資格が、政府系金融の経営統合によって従来よりも狭められたことを問題にしているのだ。政府系金融解体? 民間金融機関へ業務委託? ますます貧乏人は排除されるではないか。「改革」など不要。元に戻してくれ。

 財政民主主義上、特別会計の廃止が望ましいということは私も同意見だが、廃止した場合の社会的ダメージをフォローするする必要があることは注意しておきたい。公共事業をちょっと減らしただけで、地方は本当に悲惨な状況にある。私の周囲でも会社ぐるみで出稼ぎに出ているなんて話もある。正義漢ぶって「不正」を排除したはいいが、何ら手当てがなければ結局弱い所にしわ寄せが来るということを自覚して欲しい。

 「共に新自由主義と戦いましょう!」と結ばれているが、私にはこのブログ主こそ新自由主義者としか思えない。植草氏を「小さな政府」論者と言ったのは言い過ぎだったかもしれないが、少なくとも「Easy Resistance」氏は「小さな政府」論者である。「官僚主犯説」どころか、半ば陰謀論めいた「官僚単独犯説」のようで、「財界主犯説」を採る私とは全く相容れない。「無自覚な新自由主義者」。この国の「民=善、官=悪」信仰の深刻さを改めて実感した次第である。


《追記 2008/11/08》

 予想通り再々反論が来たが、「共通の土台」がないことが明確になった。私は社会主義を否定していないので、噛み合うはずもない。まあ確かに当方の言が漠然としすぎていたのは問題であったが・・・。もういくらやっても徒労に終わりそうなので、これで打ち止めにする。


《追記 2008/11/11》

 「Easy Resistance」に対しトラックバック禁止措置をとった。理由は以下のエントリを参照のこと。
 某ブログに対するTB禁止措置について

【関連記事】
非正規公務員の「ワーキングプア」化~貧困対策としての正規公務員増員政策の必要性
「官僚主犯説」が財界の政治介入を促進する
「小さな政府」を堅持する民主党と「植草一秀現象」
植草一秀氏に答える
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by mahounofuefuki | 2008-11-07 22:00

政府提出の労働者派遣法改正案に対する声明

 「派遣ユニオン」のブログから、政府が今国会に提出した労働者派遣法改正案に対する声明のTBをいただいた。記録を兼ねて改めて紹介したい。

 派遣ユニオン ブログ 派遣法改正法案閣議決定に関する声明
 http://hakenunion.blog105.fc2.com/blog-entry-13.html
 「名目こそ『日雇い派遣禁止』と謳っているが、その内容は『30日以内の雇用契約の派遣を禁止する』というだけのものであり、『日雇い派遣』が生み出した低賃金・不安定雇用・労災の多発などの問題を全く解決しない、みせかけだけの改正法案だ」

 「閣議決定された『30日以内の派遣禁止』法案は、『30日+1日』を繰り返す『細切れ契約』の派遣を容認しており、『契約満了』の一言で雇用を失う『派遣切り』を防止することはできない」

 また、雨宮処凛、宇都宮健児、鎌田慧、小島周一、斎藤貴男、堤未果、本田由紀、森ます美、湯浅誠各氏が連名で、やはり派遣法改正案に対する声明を出している。

 閣議決定された派遣法改正案に対する声明 ガテン系連帯☆ブログ
 http://gatenkei2006.blog81.fc2.com/blog-entry-209.html
 「第1に、日雇い派遣禁止をうたいながら30日以内の雇用契約を禁止するにすぎず、『日々派遣の契約』を禁止するものにはなっていない。逆に18業務で日雇い派遣を公認し、今後拡大する可能性さえはらんでいる」

 「第2に、細切れでいつ切られるかわからない不安定な雇用が大きな問題となっている登録型派遣の見直しは先送りされ、常用型派遣への転換も努力義務ばかりの実効性のないものとなっている」

 「第3に、市場競争の影響をもろに受けて賃金切り下げにさらされてきた派遣労働者の労働条件改善についても、派遣先労働者との均等待遇や派遣会社のマージン率規制とは程遠い内容となっている」

 「第4に、派遣拡大の最大の要因になってきた『違法派遣を受け入れても責任が問われない派遣先』に対する『みなし雇用責任制』の導入を回避して、相変わらず行政勧告制度にとどめている」

 「第5に、『期間の定めのない』派遣労働者に対しては事前面接という実質的な派遣先の労働者選抜を容認するなど、労働者派遣制度の変質につながる規制緩和さえ行おうとしている」

 弊ブログでは、今回の労働者派遣法改正案のたたき台になった労働政策審議会の報告書が出た時に、これは規制緩和との「抱き合わせ」改正であると指摘したが、実際の法案でもその性格は変わっていない。上記の声明が指摘しているように、今回の改正案の看板である「日雇派遣」の規制強化ですら限りなく「ザル法」の気配が濃厚である。国会審議では同案の問題点を洗い出し、真に雇用待遇差別と不安定雇用を解消しうる方向性での改正を目指す必要があることは言うまでもない。

【関連記事】
労働者派遣法改正問題リンク集

【関連リンク】
厚生労働省:「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律案の一部を改正する法律案」について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/11/h1104-1.html
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by mahounofuefuki | 2008-11-06 20:38

自民党のCMは麻生首相への皮肉ですか?

 今日、夕食時にテレビのプロ野球中継を観ていたら、自民党のCMが流れていた。麻生首相が働く姿にかぶせて「今この瞬間も麻生は動いている」というナレーションが流れるのだが・・・




 今この瞬間はホテルで飲み食いしているんじゃない?

 と思ってしまった。このCM、流す時間によっては皮肉でしかない。
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by mahounofuefuki | 2008-11-05 21:29

植草一秀氏に答える

 前のエントリ「小さな政府」を堅持する民主党と「植草一秀現象」に対し、植草一秀氏が弊ブログへの返信と題して追加説明のエントリを上げておられた。

 植草一秀の『知られざる真実』:「世界の片隅でニュースを読む」への返信
 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-401d.html

 先のエントリで私が最も問題とした「天下り法人」の廃止という民主党の公約について、氏は次のように記述の撤回を表明された。
(前略) 私の主張は、「特権官僚の天下り利権を根絶し、そのことに伴って削減できる政府支出が大規模に存在する」というものである。

 しかし、この主張と天下り機関の原則廃止との間には隔たりがあり、天下り機関の原則廃止を示している民主党の主張に同意したとみなせる私の記述は誤りであり、この点については、記述を撤回するとともに、お詫びしたい。(後略)

 「天下り法人」廃止論が内包する危険性について、原則論としてはご理解いただけたようなのは幸いである。奨学金を廃止して社会保障費を捻出するような方法は全くナンセンスであり、特に独立行政法人に対する世上の誤解を解くためにも、氏のような専門家にはぜひともこのことを強調していただきたいところである。

 一方、ほかの論点については依然として見解の相違としか言いようがない。植草氏は次のように民主党が「大きな政府」志向であると指摘する。
(前略) 「所得再分配機能」に対するスタンスの差が「小さな政府」についてのスタンスを示すとすれば、民主党の政策は明らかに「大きな政府」志向である。「所得再分配機能の重視」、「生存権の重視」の基本方針が明確に示されていると考える。(後略)

 しかし、所得税や法人税や相続税のような直接税に手をつけないで所得再分配機能を強化することなど不可能である。累進強化を提示できない民主党に再分配機能の強化を期待はできない。また、最低賃金法や労働者派遣法の改正をめぐるこれまでの民主党の姿勢から「生存権の重視」を読み取ることもできない。とうてい民主党は「大きな政府」志向などとは言えないというのが私の見立てである。

 氏はさらに社会保障財源について次のように指摘する。
(前略) 共産党は累進課税による所得税および法人税で、社会保障財源をすべて賄うべきだと主張し、消費税を全面的に否定している。わたしは、所得税による所得再分配、法人税の重要な役割を否定しないが、この二者ですべての社会保障財源を賄うことには懐疑的である。(後略)

 私が知る限り共産党は保険料制度を前提としているので、その2税で社会保障の全財源を賄うという主張はそもそも存在しない。問題なのはこれまで社会保障財源にすると称された消費税増税分が、実質的には企業減税に置き換えられたことであり、今回も財界サイドからは消費税の増税と同時に所得税・法人税の減税の要求が出ている(*1)。「消費税=社会保障目的税」論の真の目的が「消費税以外の現行の社会保障財源」を他の用途に回すことであることは、ほかでもない元大蔵官僚の野口悠紀雄氏が指摘している(*2)。いずれにせよ消費税を社会保障と結びつけた議論は大企業・富裕層優遇策とリンクしており、「消費税を活用することも選択肢の一つ」と言っているようでは再分配機能強化などおぼつかないのではないか。

 *1 日本経団連:税・財政・社会保障制度の一体改革に関する提言(2008-10-02)
    http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2008/068/honbun.html
 *2 「超」整理日記 社会保障目的税は増税目的のトリック
    http://essays.noguchi.co.jp/archives/69

 当方の不具合でTBを出せなかったにもかかわらず(なぜかココログの一部はTBが通りにくい)、植草氏が弊ブログを読んでくださったことは素直に感謝申し上げる。ただ、変な話になるが、氏のようなキャリアのあるエコノミストならば、卑見など「サヨクの世迷言」と斬って捨てるのが普通で、もし氏がシンクタンクや大学に勤務されていた頃だったら、一介の素人など相手にしなかったのではないかと思うのである。最近、民主党支持のブロガーとの結びつきを強くされているようだが、未熟なブログ言論に迎合することなくプロのエコノミストとしての立場を貫いて欲しいと願う次第である。
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by mahounofuefuki | 2008-11-05 00:58

「小さな政府」を堅持する民主党と「植草一秀現象」

 アメリカの金融危機により新自由主義は失墜したと言われるが、一方で新自由主義の最も重要なファクターである「小さな政府」に対する信仰は依然として強力である。大型不況の足音が確実に大きくなり、実際中小企業の倒産や労働者の解雇が増えているように、弱いところからダメージがじわじわと広がる中で、むしろ「大きな政府」を復権させて「富の再分配」を強化することが必要なのに、相変わらず「無駄遣い」の一点張りで歳出削減策ばかりが持て囃される。それでいて増税と言えば再分配効果の無い消費税ばかり。もういい加減うんざりさせられる。

 今日もあるエコノミストのブログの主張にいたく怒りを覚えた。

 植草一秀の『知られざる真実』:フジテレビ「サキヨミ」の偏向報道
 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-1336.html
(前略) 民主党は、「天下り」機関に年間12.6兆円もの国費が投入されている事実を指摘したうえで、民主党が提示する政策プログラムを実現するための財源を段階的に確保する政策プログラムを発表している。

 10月2日の衆議院本会議代表質問で民主党の小沢一郎代表は民主党が提示する政策の財源確保について、明快な説明を示している。「天下り」を根絶し、特殊法人、特別会計、独立行政法人を廃止し、2009年度に8.4兆円、10年度と11年度はそれぞれ14兆円、12年度には総予算の1割の20.5兆円の新財源を生み出すことが示されているのだ。

 自民党は「天下り」利権を全面擁護している。特殊法人、特別会計、独立行政法人をそのまま温存して、特権官僚の天下り利権を全面擁護するのだから、新しい財源を見出すことができないのは当然だ。麻生首相の提案は、官僚利権を温存したままで一般国民に巨大な負担を押し付ける消費税増税に踏み切ろうとするものなのだ。この政策姿勢と民主党の政策を同一に論じることが欺瞞に満ちている。(後略)

 要するに植草一秀氏は、「天下り法人」の廃止による財源捻出を提示した民主党を絶賛しているのだが、前にも書いたように「天下り」を廃したかったら法令で禁止すればいいだけの話で、なぜ受け皿の法人まで道連れにするのか。特殊法人や独立行政法人には本来国が責任をもって行うべき業務がたくさんある。奨学金も公団住宅も国立病院も博物館・美術館も中小企業向け金融も独法である。ほかにも民間ではできない事業がいくつもある。これらはむしろ完全国営化するべきくらいで、廃止や民営化はそれこそ植草氏が批判する「弱肉強食」政策に加担するものだ。だいたい天下り役員以外の一般の職員の生活はどうなるのか、少しでも考えているのだろうか。

 特殊法人だった国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫が統合し、日本政策金融公庫なるものが先月発足したが、その最初の市民生活へのダメージは「教育ローン」貸出の所得上限切り下げであった。「無駄遣い」というプロパガンダに踊らされた結果、またひとつ庶民の生命線が弱体化させられたのである。特法・独法「改革」の構図は郵政民営化の時と何ら変わらない。

 植草氏の最大の欺瞞は、自民党と同様に消費税増税を不可避であると誘導していることである。「最大の論点は、消費税増税の前に『天下り』に代表される特権官僚の利権を排除するかどうかなのだ」と言うが、それは要するに「利権」さえ排除すれば消費税増税の障害は存在しないということである。これはまさしく「歳出削減か消費税増税か」の二者択一しかないように錯覚させ、「本当の聖域」である大企業・富裕層へ応分の税負担を課すという選択肢を排除しているのである。

 なぜだか私には全く不可解なのだが、「ネット世間」で「左翼」とか「リベラル」に位置づけられるブログには、このような「小さな政府」論者の植草氏をやたらと持ち上げる風潮があるようである。冤罪だか弾圧だかは知らないが、少なくとも私にはその政策論はとうてい受け入れられない。そしていみじくも植草氏がお墨付きを与えたように、民主党は依然として「小さな政府」路線を堅持しているのである。小泉政権の「構造改革」路線を批判しながら、民主党の政策を支持する矛盾にいい加減気付かなければならない。それがわからない者はもはや新自由主義者と同類である。

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by mahounofuefuki | 2008-11-03 21:36