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大晦日にあえて「絶望」する

 2007年も今日で終わりである。
 大晦日には1年を回顧し、翌年への展望を述べるのがブログの定石だろうが、それは1年間発言を続けた者にこそ許される特権だと思っているので、開設以来4か月強しかたっていない当ブログでは「今年はこうでした」というようなことは述べない。だいたい私は本来悲観的でネガティブな人間であり、1年を振り返っても悪いことしか思い出せないし、来年への展望も暗い見通ししか示せない。参院選の余勢で今年先送りされた様々な「負債」を考えると、とてもではないが明るい未来など浮かばない。

 社会全般を見渡せばそもそも現在の年末年始の在り方からして、冷酷無比な矛盾が噴き出している。
 かつて年末年始(大晦日と三が日)は、家族団らんで骨休めする時間であり、警察や郵便局などを除いて社会全体が一時の休息を堪能できた。しかし、現在は多くのサービス業が年中無休であり、当然そこで働く労働者には正月はない。昔の小売は元日だけは休業したものだが、今や元日初売りは当たり前になってしまった。
 市場も証券取引所の大納会で終わり、という時代は過ぎ去り、電子取引が休みなく続いている。今日もパキスタン情勢の不安からアメリカの原油先物が上昇したというニュースが入っている(ロイター 2007/12/31 14:10)。いつになったら原油市場のマネーゲームは終わるのか。

 さらに多くの貧困者のことを考えると憂鬱になる。
 ホームレス、車上生活者、ネットカフェ難民には家族も住居も食糧もなく、寒空の下で生死をさまよっている。日雇い労働者は年末年始には仕事がないため完全な無収入状態になる。日雇いでなくとも派遣社員は年末年始の休業分の給与をしっかり差し引かれる。12月26日に「反貧困たすけあいネットワーク」が行った無料電話相談にも、とても年を越せないという悲鳴のような相談が多数寄せられたという(朝日新聞 2007/12/28朝刊「天声人語」)。彼らにはこたつに包り、みかんを食べながら「紅白歌合戦」を観て、年越し蕎麦を食べるような「小市民」的な大晦日を送ることなど夢のまた夢なのである。

 市場原理主義による貧困と格差はもう手がつけられないほど拡大している。「ワーキングプア」という言葉が流通し、多くの人々が貧困問題を自覚しても、依然即効性のある施策は行われていない。
 政権交代? それまで待てというのか。その前に餓死しそうだ。希望は戦争? 戦場で「意味のある死」を得られるのはプロ兵士だけで、「難民」はせいぜい銃後で勤労奉仕(という名のタダ働き)が関の山だ(「内戦」だったら階級は流動化するけど、起きそうもない)。
 2008年には市場原理主義からの転換が起きると予測する識者は少なくないが、たとえそうなっても我々「ロストジェネレーション」の「ロスト」した時間は戻らない。かつて「革命ごっこ」に興じた世代の多くは保守化し、年金のためには消費税を上げろと合唱する始末。完全な八方ふさがりである。

 大晦日だからこそ、あえてふだんはオブラートに包んでいる私の「絶望感」を明かした。
 2008年はこの絶望と格闘しながら、生きる希望を見出す努力をする1年になりそうである(結局、来年への展望を述べてしまった)。


 追伸:今年当ブログを訪問、閲覧してくださったすべての皆様にお礼を申し上げます。これという方向性もなく、生来の分裂気質が災いして支離滅裂になっている当ブログを辛抱強く読んでいただいたことに深く感謝しています。いつまで続くかわかりませんが、気力のある限りは2008年もブログを書く所存です。今後もよろしくお願いします。
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by mahounofuefuki | 2007-12-31 18:05

パキスタンは「アジアの火薬庫」か~ブット暗殺

 パキスタンのブット元首相が暗殺された。暗殺犯はブット氏を銃撃後、自らも自爆、多数の人々が死傷した。
 パキスタンの不穏な情勢はずいぶん伝えられてはいたが、白昼堂々と有力政治家の暗殺が敢行されたことは衝撃である。
 パキスタンについては、2004年に参議院憲法調査会で参考人として招致された関西学院大学教授の豊下楢彦氏の発言がずっと頭を離れないでいる。
 第159回国会 参議院憲法調査会 第2号より(太字は引用者による)。

《引用開始》
(前略) 短時間ですので端的な例を挙げますと、私は、イラク問題が深刻化する前から主張していたんですけれども、今世界で大量破壊兵器とテロリズムが結合する最も危険な地域はどこかといいますと、それは北朝鮮でもイラクでもイランでもリビアでもなくて、パキスタンなわけですねパキスタンは間違いなく核保有国であり、強力なミサイルを持っており、しかも他の国に核技術を輸出しており、しかも国内ではアルカイダの残党がばっこしておると。仮に今大統領が暗殺されるということになればどんな事態が起こるかと。予想を超えるわけです。
 実は、九八年にパキスタンが核実験をやったときに、日本は非常任理事国として決議案のために奔走いたしまして、全会一致で非難決議を上げて、そして制裁に踏み切ったわけです。ところが、九月十一日が起こりますと、ブッシュ大統領は、アルカイダと闘うということの理由があったんでしょう、パキスタンに対する制裁を解除して、そして訪米した小泉首相に対しても、日本も制裁を解除してほしい、そして核保有国の政情を安定していなければならないから緊急の経済援助をやってくれという要請をした。それで、小泉政権はそれにこたえて、〇一年十月に制裁解除しました。パキスタンはNPT体制に入るとも何も言っておりませんが、制裁解除いたしました。そういうことで、論理的に考えますと、テロリストと闘うために核拡散を認めると、これは正に倒錯した論理であります。
 アメリカにはアメリカの様々な軍事戦略があるでしょうけれども、日本はやはり被爆国としてNPT体制をきっちりと守っていく、あるいはそれを再構築していくという視点からしますと、パキスタンに対する制裁を解除したことは、私は根本的に誤りだと思うんですね。だから、今、日本がやるべきことは、パキスタンなりインドなりにもう一度核を放棄してもらって、もちろんイスラエルに対してもそれを要求する。もうちょっとよろしいですか。
 イスラエルの場合は、私は、日本は非常にある種優位な立場に立っておると思いますのは、ユダヤ人問題としての過去を持っていないわけですね。ヨーロッパ諸国と違って、日本はナチと同盟しましたけれども、日本はユダヤ人に対して差別や迫害をした歴史を持っていない。だから、正面からイスラエルに対して核の問題も、それから今日の占領の問題も、何十年にわたって安保理決議を違反してきたことについて日本は堂々と言う権利を持っている。そのことによってまたアラブ社会の支持を得ることもできるだろう。
 ただ、もちろん諸外国からしますと、日本はアメリカの核の傘の下にのうのうといるじゃないかという批判があります。だから、今の北朝鮮問題とかかわって、日本と朝鮮半島全域を非核地帯にする、そして周辺のアメリカとロシアと中国はそれに対して攻撃を加えないという、そういった協定を北東アジアで結ぶという、そういった言わばNPT体制を根本的に再構築していくようなそういう方針があれば、先ほど言いましたように、簡単にパキスタンに対する制裁を解除しなかったというふうに思うんですね。(後略)
《引用終了》

 要するにアメリカが「テロとの戦い」と称して戦争を続けているアフガニスタンやイラク、あるいは核開発疑惑を突き付けている朝鮮やイランなどよりも、現在アメリカが対アフガン戦争で同盟関係を持っているパキスタンこそ、本当の「火薬庫」であるということだ。3年以上前の発言だが、今も基本的な情勢は変化しておらず、依然有効であろう。
 ムシャラフ大統領は最近、アメリカの圧力で文民となったが、実態は依然として軍事政権である。選挙前に野党の指導者が暗殺されるような国をアメリカは「同盟国」として扱い、日本も追随しているのである。日本はテロ特措法によるインド洋の給油活動でパキスタンを支援していた。そして今も福田政権は給油活動を再開しようともくろんでいる。
 そもそもパキスタンの治安がこれほど悪化した要因の1つは一連のアメリカの軍事行動にあり、アフガンの戦争がパキスタンに波及しているからにほかならない。しかもパキスタンの政府や軍とテロリストとの関係が切れていないという疑念は強い。アメリカがパキスタンを支援すればするほど、かえってテロが拡散しているのではないか。アメリカの戦争がテロの予防になっていないことは明らかだ。

 なぜかどの報道もさしたる根拠もなく「イスラム過激派」の犯行としているが(「アルカイダ」という話もでているが、今や何でもかんでもそのせいにできる便利な存在になってしまった)、当然ブット氏の支持者からは政権側の関与を疑う声が出るだろう。混乱状態は今後拡大するのは間違いない。核保有国であるパキスタンの不安定化はアジア全体を危機に陥れるものだ。
 テロ特措法は衆院での再議決による成立の公算が大きいが(民主党が問責決議を見送るという報道あり)、アメリカの戦争がアフガンやパキスタンを不安定化させている以上、日本は完全に手を引くべきである。
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by mahounofuefuki | 2007-12-28 12:28

教科用図書検定調査審議会が聴取した「専門家」の意見について

 教科用図書検定調査審議会日本史小委員会が訂正申請に際して聴取した専門家9人のうち、8人の氏名と意見の要旨が公表された(北海道新聞2007/12/27朝刊)。新聞に記載された要旨から次のように整理できる。

 「集団自決」を日本軍の「強制」とする立場を明確にしているのは、沖縄県史編集委員の大城将保氏と関東学院大学教授の林博史氏。大城氏は「『敵の捕虜になる前に潔く自決せよ』という軍命令は沖縄全域に徹底されていた」と「軍命」の存在にも言及し、林氏は「沖縄戦での『集団自決』が、日本軍の強制と誘導で起きたことは沖縄戦研究の共通認識」と軍による「強制と誘導」を強調している。

 「強制」と明言してはいないが、軍の存在と「集団自決」の因果関係を認める立場をとるのは、山梨学院大学教授の我部政男氏、琉球大学教授の高良倉吉氏、沖縄学研究所所長の外間守善氏。我部氏は「沖縄戦末期にいわゆる『集団自決』が事実として起こった。その背景に『軍官民一体化』の論理が存在していたことは明確だ」とし、「軍命令」は「軍官民一体化」の論理の範囲に入ると指摘している。高良氏は「目前の住民の生死より作戦遂行を至上とした軍の論理があり、軍民雑居状態を放置した。慶良間諸島での集団自決も、軍の結果責任は明らかで、軍側の論理の関与を否定できる根拠はない」と軍の「関与」を強調している。外間氏は「沖縄県民十余万人を犠牲とした、集団自決を含む責任は日本国にある」「沖縄における軍の存在は脅威だった」と軍の「脅威」を強調している。

 「強制」を狭くとらえ、軍と「集団自決」の因果関係を否定しているのは、現代史家の秦郁彦氏、防衛省防衛研究所戦史部客員研究員の原剛氏。秦氏は「渡嘉敷島を中心に考察するが、集団自決の軍命説は成立しない。自決の「強制」は物理的に不可能に近い」「攻撃用手榴弾の交付と集団自決に因果関係はない」と軍命を全面否定し、軍の「関与」も否定している。原氏は「沖縄戦では戒厳令は宣告されず、軍に住民への命令権限はなかった。関係者の証言によると、渡嘉敷・座間味両島の集団自決は軍の強制と誘導によるものとはいえない」と大江・岩波訴訟の原告側証言のみを根拠として「強制と誘導」を否定し、さらに住民は「自ら死を選び自己の尊厳を守ったのだ」と「自決」を美化さえしている。

 軍の関与の度合いについてはっきりしないのが帝京大学講師の山室建徳氏で、ただ「先祖伝来の地に住む沖縄県民の多くは『集団自決』の道をとらなかった。一部の軍が住民に自決を強要したとだけ記述するのは、事実としても適切ではない」と「集団自決」が県民の少数派であることを強調し(これは前述の秦氏も渡嘉敷の「自決者は全島民の3割に及ばず」と強調していた)、軍の「強制」「関与」とも少なくとも教科書に記載することには反対している。

 専門家といっても実際は沖縄戦の研究業績のない研究者が含まれている。高良氏は中世・近世史の研究者で琉球王国の専門家である。秦氏は軍事史の研究者ではあるが、一般には沖縄戦の研究者とは目されていない。山室氏は政治史の研究者で、歴史修正主義グループに参画する東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下である。
 文部科学省は訂正申請に際して専門家に意見聴取する前から、軍の「関与」は認めるものの、軍の「強制」はあくまで認めないという方針を固め、「関与」説が多数ないし「中立」になるよう恣意的な人選をしたと考えられる。
 *ただし意見書の全文を読んでいないので、当ブログの整理・分類が不正確な可能性はある。

 なお長らく非公表だった教科用図書検定調査審議会の日本史小委員会の委員も8人中7人が公表された。九州大学大学院教授の有馬學氏、國學院大學教授の上山和雄氏、筑波大学副学長の波多野澄雄氏、駿河台大学教授の広瀬順晧氏、國學院大學名誉教授の二木謙一氏、学習院女子大学教授の松尾美恵子氏、国立歴史民俗博物館教授の吉岡真之氏である。
 このうちすでに当ブログで指摘した有馬、上山、波多野、広瀬各氏が近代史専攻である。

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by mahounofuefuki | 2007-12-27 12:03

文部科学省はやはり「軍の強制」を認めなかった~「追いこまれた」と「強いられた」の差

 沖縄戦における住民の「集団自決」をめぐる高校用日本史教科書の検定に関し、教科用図書検定調査審議会が教科書会社側の訂正申請を受理し、文部科学大臣に報告した。
 共同通信(2007/12/26 15:25)や朝日新聞(2007/12/26 15:06)は「軍の強制」の記述が「事実上」認められたと報じたが、これに対して沖縄タイムスや琉球新報は号外を出し「軍の強制」が認められなかったと報じ、時事通信(2007/12/26 17:33)も「軍による『強制』『強要』などの表現は認めなかった」としている。検定結果に対する反応がメディアによって全く異なるので混乱している人も多いだろう。
 今回の訂正結果を含む各教科書の記述の変遷は沖縄タイムスの電子号外2面が詳しいので、それぞれ自身の眼で参照してほしい。
 沖縄タイムス 号外 教科書検定による「集団自決」記述の変遷*PDF

 結論から言うと、文部科学省は結局「軍の強制」を認めなかった
 日本軍に「自決」を「強いられた」「強制された」といった記述を認めず、日本軍の「関与」によって「自決」に「追いこまれた」「追いやられた」といった記述に変えさせた。春の検定意見では日本軍の「関与」すら一切認めなかったのに比べれば、少しはましになったと言えるが、文部科学省側は「軍の強制」という記述には頑なに抵抗した。
 教科書執筆者の尽力で、日本軍という主語が復活し、特に実教出版は「強制的な状況」という記述を通したが、それでも「強いられた」ではなく「追い込まれた」という以上、軍が「自決」せざるをえない状況は作ったが、あくまでも「自決」そのものの契機は住民にあるという解釈が可能になる。文部科学省は、軍が「自決」を強いたという通説をどこまでも否定しようとしているのである。

 沖縄戦研究の第一人者である関東学院大学教授の林博史氏は「研究者としても、これまでの研究成果を反映していないどころか否定した検定で、受け入れられない」と今回の訂正を批判している。沖縄の人々もこれでは容認できないだろう。
 また、教科書検定過程に加えて、今回の訂正申請過程も不透明なことが多い。表向きは教科書会社の訂正申請を審議会が受理したという建前になっているが、事前の相次ぐ報道の通り、訂正申請の内容に教科書調査官が深く介入したことは間違いない。昨年来の検定の全過程を徹底的に検証する必要があるだろう。

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by mahounofuefuki | 2007-12-26 20:20

年末恒例行事

 2007年も残り1週間強となった。
 8月末にブログを始めて以来、毎日のように更新を続け、2日以上休んだことはなかったが、さすがに年末年始はそうもいかない。特に個人的な「ある事情」から12月の最終週はブログの記事を書く時間はとれそうもない。その「事情」については、夏への扉 The Door into Summerさんが11月8日のエントリーで一言で説明してくれている。
 夏への扉 The Door into Summer:年末はバイロイト音楽祭だ

 バイロイト音楽祭といっても、クラシック音楽ファン以外には何のことだかわからないかもしれないので説明すると、毎年夏にドイツでワーグナーのオペラ作品をまとめて上演するバイロイト音楽祭というのがあって、このライヴ録音をNHKのFM放送が毎年12月最終週に放送するのである。私はいわゆるワグネリアン(ワーグナーの信奉者)ではなく、むしろイタリアオペラ派なのだが、それでも時々はワーグナーの作品を聴きたくなる。地方在住の貧乏人にとって長大な作品群(特に「ニーベルングの指環」4部作)の演奏を通しで聴ける機会は、この歳末のFM放送しかない(海外からのネット中継もあるが、私のパソコンの音質ではさすがにあの長丁場は辛い)。この10年ほどは図書館からポケットスコアと解説本を借りてきて、連夜ワーグナーを聴いて夜更かししながら歳末を送るのが恒例になってしまった。

 ふだん「難民」だの「貧困」だのほざいている割には、クラシック音楽が趣味だなんてどこの坊ちゃんだ、とツッコミがありそうだが、まったくそんなことはない。私がクラシックをよく聴くようになったのは、学生時代に親戚からアンプやスピーカーなどオーディオ一式を譲り受けたものの、CDを買うカネがなく、専ら図書館から借用するか、FM放送を聴くかで、おのずとジャンルが限られてクラシックに行き着いたからにすぎない。そんなわけで、東京に住んでいた頃もほとんどコンサートに行ったこともなく、ましてや今は地方住まいなので相変わらずNHKのFM放送には助けられている(それを民営化しようと画策した竹中平蔵は不倶戴天の敵だ)。

 以上のような事情なので、年内はもうあまりブログを更新できないと思う。教科書問題とか大阪府知事選とか気になることはあるが、こればかりはやめられないのでご勘弁を(ヒトラーや小泉純一郎が愛好した音楽なんか聴くな、とか言わないでね。音楽に罪はない)。

【関連リンク】
Bayreuther Festspiele (バイロイト音楽祭公式サイト)
NHK 年末年始特集番組
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by mahounofuefuki | 2007-12-23 22:16

文部科学省は「軍の強制」否定に固執した~「集団自決」検定問題は終局へ

 沖縄戦における住民の「集団自決」をめぐる教科書検定の現在の動向がほぼ明らかになった。
 当ブログは12月7日の記事で「依然として文部科学省が『軍の強制』を明記することに抵抗している」と指摘し、教科用図書検定調査審議会が「軍の強制」を容認したと報じた共同通信など一部の報道を否定したが、当の共同通信が今日になって誤報を改めた。
 以下、共同通信(2007/12/22 00:00)より(太字は引用者による)。
 沖縄戦の集団自決をめぐる高校日本史教科書の検定問題で、日本軍による強制があったとの記述で訂正申請していた複数の教科書会社と文部科学省の教科書調査官との間で、「強制」の文言使用を避ける形で記述内容の“調整”をしていることが21日、関係者の話で分かった。
 教科書検定審議会は軍の強制記述を削除・修正させた検定意見を撤回しない一方で、一定の条件付きで「事実上の強制」を示す記述を容認する考えを示していたが、「強制」という文言そのものの使用は認めない方針のもようで、調査官が検定審の意向を伝えたとみられる。(後略)
 沖縄のメディアはさらに詳細を伝えている。沖縄タイムス(2007/12/22朝刊)によれば、教科書調査官側は、「日本軍」を主語とした「強制」「強いた」という文言を使わないよう教科書会社側に求め、「日本軍の強制」と「集団自決」の背景を併記して訂正再申請した会社も、結局それに沿って訂正再々申請したという。また、琉球新報(2007/12/22 09:43)によれば、審議会は「日本軍」を主語とすることは認めたが、「強制」ではない「関与」にとどめているという。
 さらに前記琉球新報の記事は、12月4日に審議会が教科書会社側に示した「指針」で、「今後の調整は教科書調査官に委任する」と述べていたことも明かしている。当ブログが以前から指摘してきたように、現行の教科書検定では教科用図書検定調査審議会は有名無実化し、教科書調査官の役割が増大しているが、今回も審議会は調査官に丸投げし、一方的に教科書発行者に「指針」を押し付けたのである。これではもはや「検定」というより「検閲」であり、戦前の国定教科書と何ら変わりがない

 そもそも今回の検定問題は、前回までの検定を通過していた記述に対し、何ら正当な根拠もなく今回になって突如検定意見が付されたことに端を発する。前回検定から今回検定までの間に、通説を覆すような学術論文が発表されたわけではない。非学問的な要因によって教科書が書き換えられたのである。
 当初の申請本では、すべての「集団自決」が日本軍の「強制」だったとは書いていない(「日本軍によって強いられた人もあった」というような記述)。ところが、検定意見は一切「日本軍」を「強制」の主語とすることを禁じた(当ブログの沖縄戦の「集団自決」に関する教科書検定問題の資料を参照)。実際は「軍命」もあったし、軍のいない所では「集団自決」が起きていない以上、すべての「集団自決」に軍が関与していると言ってもいいのだが、いずれの教科書も慎重な姿勢だったのである。
 ところが文部科学省は教科書会社や執筆者のそんな慎重な姿勢をも吹き飛ばし、史実を隠蔽した。文部科学省は歴史学の研究状況を無視し、歴史修正主義者らの政治的介入によって検定を歪めたのである。

 その後、沖縄県民をはじめとする世論の強い批判を受けて、検定の再申請が行われたが、前述のように依然として文部科学省は姿勢を改めず、相変わらず当初の検定意見に固執していることが明白になった。やはり当ブログが以前指摘したように、この問題は時間との戦いであり、教科書会社側は文部科学省に従うほかない。検定審査を通らなければ、教科書を発行することはできず、出版社は確実に倒産する。残念ながらそうした弱みがある限り、検定の壁を突破することは難しい。
 改めて文部科学省による教科書検定制度の廃止を含む全面的な見直しを提起したい。同時に自らの学問的良心よりも政治的な自己保身を優先した教科書検定調査審議会日本史小委員会の4人の委員(別記)と教科書調査官に厳重な抗議の意を示したい。

《別記》
 教科書検定調査審議会の日本史小委員会のメンバーは次のとおり。
九州大学大学院教授 有馬学
國學院大学教授 上山和雄
筑波大学教授 波多野澄雄
駿河台大学教授 広瀬順晧
 有馬氏と広瀬氏が、歴史修正主義グループに参画する東京大学名誉教授の伊藤隆氏の門下ないしは深い関係にあることは、当ブログが指摘し、その後国会でも明らかになった。上山氏は伊藤氏が教授だった時期に東京大学大学院に在籍し、当然伊藤ゼミにも出ていたと思われるが、彼は一般には同時期に東京大学教授だった高村直助氏の門下と目されている。波多野氏は政治学畑で「文学部系統」の歴史家ではないが、かつて家永教科書訴訟で被告の国側の証人として出廷したことがある。
 教科書調査官については教科書改竄の「黒幕」参照。


《追記 2007/12/25》

 NHKニュース(2007/12/24 18:37)によれば、教科書会社6社中、5社の訂正申請に対し、教科用図書検定調査審議会は「住民に対する日本軍の直接的な命令を示す資料は見つかっていない」という理由で、「事実上の修正」を求め、教科書会社側は修正して申請したという。国策放送であるNHKが報じたことで、事態はよりはっきりしたと言えよう。文部科学省の姿勢は今春の検定意見の段階から何ら変わっていない。これは日本の支配層が「沖縄」を切り捨ててまで「日本軍の名誉」を重んじたことを意味する。歴史修正主義勢力に屈したと言っても過言ではない。

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教科用図書検定規則-文部科学省
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沖縄戦「集団自決」問題-沖縄タイムス
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by mahounofuefuki | 2007-12-22 12:25

原告団は最大限の譲歩をしたのに政府は官僚の面子に固執した

 薬害肝炎訴訟の和解協議で、政府側は原告団が求める「全員一律救済」を受け入れず、協議は決裂の見通しとなった。
 すでに多くのメディアが報じており、私からは改めて説明することはない。というより昨日から放心状態で、この問題について書く気力がないというのが正直なところだ。

 原告団は1人あたりの和解金の減額や、血液製剤投与を実証できる患者に限定した救済を提示するなど、最大限の譲歩を行った。しかし、政府は司法判断を口実に、肝炎ウィルスに汚染された血液製剤の投与時期によって患者を区分し、一部の患者だけに和解金を支払い、残りの患者には「基金」をもって「活動支援金」を支払うという、原告を馬鹿にした案を突き付けた。
 舛添厚生労働大臣は、昨日の記者会見で「基金」は「原告の皆様の裁量」に任せると発言した。カネだけ出して、後は丸投げ。「賠償金」でも「和解金」でもない根拠のないカネを受け取れるはずもない。

 要するに福田首相は、「国民」の生命を守る「国家の責務」よりも、「国家の無謬性」に固執する「官僚の論理」を優先したということだ。製薬会社と国家官僚と御用学者の合作によって引き起こされた薬害である以上、その最も重要な一角を占める国が責任を担うのは当然のことだが、首相にはそれが理解できないらしい。
 ハンセン病訴訟の時の小泉純一郎や中国残留孤児訴訟の時の安倍晋三は、曲がりなりにも「政治決断」によって行政の長としての最低限の仕事をした。しかし、福田にはそれすらなかった。

 今後も薬害肝炎をめぐる闘いは続く。なお、原告弁護団は、首相官邸のホームページの「ご意見募集」に一律救済を求めるメッセージを送るよう呼びかけている。ぜひとも対応してほしい。
 ご意見募集-首相官邸

【関連リンク】
Yahoo!ニュース-薬害問題
薬害C型肝炎訴訟「命の線引きが残った」-JANJAN
薬害肝炎訴訟リレーブログ B型・C型肝炎患者の早期全面救済を!:政府、全員一律救済を受け入れず
薬害肝炎訴訟リレーブログ B型・C型肝炎患者の早期全面救済を!:国の提案の問題点
薬害肝炎訴訟全国弁護団ホームページ
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by mahounofuefuki | 2007-12-21 12:49

「反貧困たすけあいネットワーク」結成

 以前、当ブログでも紹介した「反貧困たすけあいネットワーク」が12月22日に結成総会を行う。
 以下、反貧困たすけあいネットワーク:12/22 結成総会を開催しますより。
12月22日(土)、「反貧困たすけあいネットワーク」結成総会を開催します。団体の目的や運営体制、「たすけあい制度」についての説明、会員やサポーターの募集告知など。会員のみなさんはもちろん、メディア関係者や貧困問題に関心をお持ちの方々まで、奮ってご参加ください。
【とき】12月22日(土) 10:30より
【ところ】東京都豊島区南大塚2-33-10 東京労働会館 地下ホール
JR大塚駅5分、地下鉄丸の内線新大塚駅7分
Tel 03-5395-5359 Fax 03-5395-5139(首都圏青年ユニオン)
 「反貧困たすけあいネットワーク」について、同ブログでは次のように説明している。
誰も守らないなら、自分たちで守る!
「反貧困たすけあいネットワーク」は、首都圏青年ユニオンと自立生活サポートセンター・もやいの共同企画。病気で1日1000円、最大で10日分10000円が保証される「休業たすけあい金」と、生活に困ったときに10000円の救援が受けられる「生活たすけあい金」のふたつの「たすけあい制度」を備えたネットワークの誕生です。そして、会員のみなさんと情報を共有するための「メールマガジン」も発行します。 エキスパートによる労働・生活相談、イベントや“居場所”作りの話題、健康や趣味の話から会員の方々のメッセージまで、 「しごと」と「くらし」に役立つ情報をお届けしていきます。
 入会案内と入会申込書は以下のPDFファイルを参照。
 たすけあいネット入会案内*PDF
 たすけあいネット申込書*PDF

 詳細は入会案内を参照してほしいが、上記のように、月会費は300円からで、6か月以上の加入で、病気時に1日1000円の給付を、生活困窮時に1万円の無利子貸付を受けられる。給付や貸付にあたっては面談があるが、病気の場合、国民健康保険証を取り上げられていても構わない。2008年からはメルマガも発行する。

 「反貧困たすけあいネットワーク」が、何の保障もない「ワーキングプア」にとっての最低限の社会保障として機能することを望みたいが、本来こうした社会保障は政府がやる仕事である。しかし、この国は来るはずもない弾道ミサイルを撃ち落とす実験(しかも実戦では相手ミサイルには届かない)には、1回あたり100億ものカネをつぎ込んでも、貧困の解消にはまったくカネを使わない。「誰も守らないなら、自分たちで守る」という言葉はあまりにも痛切に響く。
 この試みが、この国の歪んだ財政と崩壊した社会保障を是正するきっかけになってほしい。

【関連リンク】
反貧困たすけあいネットワーク
首都圏青年ユニオン
特定非営利活動法人 自立生活サポートセンター もやい
「ご飯を食べながら、寝たこともある」──過重労働の報告も 反貧困たすけあいネットワーク発足イベント-OhmyNews
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by mahounofuefuki | 2007-12-20 12:43

大阪弁護士会への懲戒請求について

 正直なところ困惑している。
 光市母子殺害事件の被告弁護人らに対する懲戒請求を扇動した橋下徹氏について、市民342人が大阪弁護士会へ懲戒請求を行った件である。
 朝日新聞(2007/12/18 11:19)によれば、請求者は12都府県にまたがり、「関係者によると、賛同する市民らが9月以降、知人に声をかけるなどして広がった」という。「9月」というのが事実ならば、弁護人らへの異常な数の懲戒請求が各地の弁護士会に対して行われていた頃から、逆に橋下氏への懲戒を請求する準備をしていたことになり、橋下氏が立候補を表明している大阪府知事選挙とはまったく関係がない
 今のところこの「342人」が何者なのか、本当に口コミだけで集まったのか、組織的な動きがなかったのか、私にも疑問が多い。いわゆる「仕掛け人」を巡って、さまざまな未確認情報や憶測が飛び交っているが、いまいちはっきりしない。
 橋下氏は今回の件に関し「特定の弁護士が主導して府知事選への出馬を表明した時期に懲戒請求したのなら、私の政治活動に対する重大な挑戦であり、刑事弁護人の正義のみを絶対視する狂信的な行為」(産経新聞 2007/12/17 22:24)とコメントしているが、「特定の弁護士」に心当たりがあるのか。ただ橋下氏の出馬が最初に報じられた日から起算しても、そんなわずかな期間で342人も請求者が現れるとは考えにくく、この懲戒請求が知事選とぶつかったのは偶然の可能性が高い。
*余談だが、この橋下氏のコメント、「府知事選~」を「光市事件の公判」に、「政治活動」を「弁護活動」に、「刑事弁護人」を「被害者遺族」に換えれば、そのまま橋下氏にはね返る。相変わらずの自爆ぶりである。

 とは言え、結果として知事選と重なったことはやはり問題である。
 そもそも今回の懲戒請求が正当なのか、私には疑問である。当ブログでは開設当初から光市事件の被告弁護団を擁護し、弁護団をバッシングする人々を「安心して攻撃できる“絶対悪”」を求めているにすぎないと喝破してきたし、橋下氏に対しても時として感情を剥き出しにしてまで非難してきた(直情的になりすぎて良識ある人々にはかえって不興を買ったかもしれない)。故に請求者の橋下氏への怒りや司法の独立への危機感は理解できる。
 しかし、橋下氏への懲戒を求めるというやり方は、ある種の「仕返し」の様相が濃く、それこそ橋下氏が始めた「懲戒請求の濫用」を拡大・継続し、今後も別の訴訟でこうした「懲戒請求合戦」を引き起こす危険性があるのではないか。
 日弁連によれば、「弁護士法や所属弁護士会・日弁連の会則に違反したり、所属弁護士会の秩序・信用を害したり、その他職務の内外を問わず「品位を失うべき非行」があったとき」に弁護士法が定める懲戒を行う。光市事件の弁護団に対する懲戒請求も、橋下氏に対する懲戒請求も「品位を失うべき非行」を理由に行われたわけだが、この「非行」とは明白な違法行為に限定されるべきであって、個々の弁護士の発言を問責するものであってはならない。いかに軽率な発言であっても、これを弁護士会の懲戒制度をもって問責することが常態化すれば、それは一種の言論弾圧であり、弁護士を委縮させる恐れがある。
 今回の件で、光市事件懲戒請求扇動問題弁護団は、事務局長の兒玉浩生氏の文責でコメントを出しているが、彼らにとっても今回の件は寝耳に水であり、「当弁護団は,「懲戒請求は多数の力を示して行うものではない」「懲戒請求は署名活動や社会運動のために用いられるべきものではない」と考えております。したがって,多数の市民による懲戒請求がなされるということについて強調した報道がされていることには,若干,違和感を覚えます」とやはり困惑を隠していない。また「我々さえも巻き添えに偏った見方をされるとすれば,非常に残念なことだと思います」と同弁護団が橋下氏に対して行っている損害賠償訴訟への悪影響を心配している。
 一連の経過を考慮すれば、橋下氏への懲戒を請求する前に、同弁護団や光市事件被告弁護団に相談があってしかるべきだと思うが、そうではないらしい。こうなると今回の件は一部の市民による「勇み足」と言わざるをえないだろう。

 現実問題としては、これまで光市事件の弁護人に対する懲戒請求はすべて却下され、今後も懲戒が認められる可能性はほとんどない。それだけで「仕返し」などせずとも、橋下氏の「負け」は確定である。ところが、今回の件が加わったことで、光市事件の弁護人に対する懲戒請求がすべて却下されても、他方で橋下氏への懲戒も認められなければ、世間的には「痛み分け」という形になる(そしてその可能性が高い)。仮に橋下氏への懲戒が下されても、橋下氏は引き下がらず、あらゆる手段で不服を申し立てるだろうし、請求者を提訴することもあろう。問題が長引き、移ろいやすい世論が再度橋下氏への「同情」に向かうかもしれない。今回の請求者らはそこまで考えていないのか。
 また、大阪府知事選への影響も心配だ。自民・公明両党が橋下氏と公約の政策協議をしていると伝えられているが、各種報道などによれば両党内でも橋下氏への不信の声が少なくなく、いまだ推薦や支持に至っていない。橋下氏のメディアや自身のブログでの数々の暴言や挑発的な態度は、本来「規律」や「伝統」を重んじる保守主義とは相いれない。また、狂信的とさえ言えるタカ派体質に、特に公明党の支持母体である創価学会の人々は決して融和的ではない。公明党大阪府議団の光沢忍氏は、橋下氏への推薦は「まだ白紙の状態」と語っているという(朝日新聞 2007/12/18 22:06)。このまま何もなく推移すれば、橋下氏は十分な組織的支援を得られず、知名度だけに頼った徒手空拳の選挙戦を強いられる可能性もあった。
 しかし、今回の件で、大衆における「“左”を忌避するポピュリズム」(小熊英二氏の言葉)が起動すれば、橋下氏への同情票が掘り起こされる危険がある。もし「342人」がいわゆる「プロ市民」だった場合なおさらである。しかも、民主党の推薦候補の熊谷貞俊氏が大学教授、共産党の推薦候補の梅田章二氏が真っ当な弁護士であることを勘案すれば、「エリート」対「庶民」の構図が作られ、橋下氏が「いけすかないエリート」と闘う「庶民のヒーロー」となる恐れなしとは言えない。客観的には橋下氏もエリートなのだが、この場合は橋下氏の粗野な物言いが逆に「庶民性」を象徴することになる。
 私の見方はあまりにも悲観的かもしれないが、知事選の方はともかく、光市事件や扇動問題の訴訟には決してよい影響をもたらさないだろう。私の不安が杞憂にすぎないことを望む。

【関連リンク】
大阪弁護士会
日本弁護士連合会
光市事件懲戒請求扇動問題 弁護団広報ページ
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by mahounofuefuki | 2007-12-19 00:17

「社会保障に関する国民会議」に要注意

 福田康夫首相が社会保障に関する「国民会議」の設置を表明した。
 この構想はもともと民主党の小沢一郎代表との党首会談で与党側が提案したものだが、民主党が拒否していたいわくつきの代物である。
 朝日新聞(2007/12/18 16:11)より(太字は引用者による)。
 福田首相は18日、社会保障全般について議論する「国民会議」を新たに立ち上げる考えを表明した。会議は経済団体や労働組合の代表、学識経験者らで構成。年金など社会保障制度を支える財源としての消費税率引き上げに向け、給付と負担のあり方についての議論を喚起するとともに、参院第1党の民主党との話し合いの糸口を見いだす狙いもありそうだ。政府は、来年1月中に初会合を開く方向で調整している。

 首相は同日、仕事と生活の調和を図る働き方について議論する「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」で、「様々な立場の方々に幅広く参加いただき、社会保障のあるべき姿と、政府にどのような役割を期待し、負担を分かち合うのか、国民の方々が思い描くことができるような議論を行いたい」と語った。

 会議の趣旨について、首相は同日午前、首相官邸で記者団に「スウェーデンのような完備されたものがいいのか、中福祉・中負担がいいのか、議論してもらいたい」と述べた。消費税引き上げについては「とりあえず議論しない」とし、半年をめどに議論をとりまとめたいとの考えを示した。

 首相は「宙に浮いた年金記録」問題をめぐる自らの発言が「公約違反」と批判され、内閣支持率が急落。「国民の安心と安全」を掲げる政権だけに、年金をはじめ社会保障制度の信頼回復が最優先課題となっている。今回の国民会議の設置で、社会保障問題に積極的に取り組むという政府の姿勢をアピールする狙いがあるとみられる。

 町村官房長官は同日午前の記者会見で、扱うテーマについては「社会保障に関する雇用、年金、医療、介護、福祉、子育て、少子化対策、男女共同参画など、具体的な中身と政府の役割について議論していく」と述べ、個別テーマごとに専門調査会を設けることも検討する考えを示した。(後略)
 「国民会議」を謳い、労使の代表や有識者に加え、野党側の参加を求めているが、野党側は国会で議論すべきだとして改めて参加を拒否した(東京新聞 2007/12/18 夕刊)。小沢氏は記者会見で「国会がまさに国民会議であり、国会で各党が論戦すればいい」と一蹴したようだが(毎日新聞 2007/12/18 13:16)、その点はまったく正論である。国会という全政党が参加でき、有識者を参考人として招致できる場があるのにもかかわらず、政府内に「国民会議」なるものを設置するのは疑問である。

 当ブログがずっと指摘しているように、政府は何とかして消費税の増税を実現したがっている。そのために「社会保障制度を維持するための消費税増税」という詭弁を繰り返しているのだが、この「国民会議」はその「社会保障制度を維持するための消費税増税」という結論に「お墨付き」を与えるための権威となる可能性が高い。福田首相は「負担のことは取りあえず議論しない」(東京新聞、前掲)と「国民会議」での消費税増税議論を否定したが、「取りあえず」がいつまでなのか不明で、当てにならないことは言うまでもない。
 年金記録問題の再燃でみたび年金不安が高まり、福田内閣の支持率が急落し、野党も年金不安を煽るなかで、逆に「年金を守るためには消費税を引き上げるしかない」という考えが浸透しやすい状況にある。特に高齢者にはその傾向が強い。政府が真剣に社会保障に取り組んでいるフリをする格好の場ともなろう。

 「国民会議」の陣容はまだ不明だが、専門ごとの部会が作られるとなると、大がかりなものになるかもしれない。会議の人選、議題、機構などに注意する必要があるだろう。

【関連記事】
消費税増税問題に関するリンク
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by mahounofuefuki | 2007-12-18 17:43