2008年 10月 03日 ( 1 )

昔の防衛官僚は新聞記者に機密を意図的にリークしていた

 読売新聞が2005年に中国の潜水艦事故について報道した件に関し、防衛機密を漏洩したとして、昨日防衛省情報本部の一等空佐が懲戒免職に処せられた。以下、共同通信(2008/10/02 22:22)より。
 南シナ海での中国潜水艦の事故をめぐる「防衛秘密」が防衛省から読売新聞記者に漏えいしたとされる事件で、同省は2日、自衛隊法(防衛秘密漏えい)違反容疑で書類送検された元情報本部課長の北住英樹1等空佐(50)=同本部総務部付=を、同日付で懲戒免職処分にしたと発表した。

 記者への情報提供を「漏えい」として、自衛官が懲戒免職となるのは初めて。書類送検を受けて捜査している東京地検が刑事処分を決める前に、同省が極めて厳しい処分に踏み切る異例の展開となった。背景には情報保全強化の流れがあり、取材を受ける公務員が萎縮(いしゅく)するなど「知る権利」「報道の自由」の制約につながる懸念がある。
(中略)
警務隊の調べなどでは、北住1佐は2005年5月30日、中国海軍の潜水艦が南シナ海で潜航中に起こした火災とみられる事故に絡み、防衛相が「特に秘匿が必要」として指定する防衛秘密に該当する潜水艦の動向に関する情報を記者に漏らした疑いが持たれている。(後略)

 この問題に対しては、自衛隊の警務隊が記事の取材源を特定するために捜査を行ったことの妥当性や、そもそも中国の潜水艦の動向が隠さなければならないほどの機密なのかという疑問や、外国の軍事関係者とかへの情報提供ならいざ知らず、新聞記者に対するリークで懲戒免職というのは過去にあまり例がないことや(外務省では有名な日米密約に絡む機密漏洩事件があったが)、アメリカ政府・軍からの圧力の疑いがあることなどなど、多くの疑念がある。

 実はこのニュースを聞いた時、個人的に真っ先に思い出したのは、ある日本近現代史料の研究会における次のやりとりだった。以下、その報告書中の速記録より(太字強調は引用者による)。
(前略) しかし、当時その記事を書いた社会部の記者も原子力なんてさっぱり分からんわけです。それで、伊藤先生はご存じだと思いますが、防衛庁関係で非常に敏腕な堂場肇という記者がおりました。再軍備関係のドキュメントをたくさん書いていますが、これもやっぱり波長が合ったんでしょうね、防衛庁の幹部の某氏から機密に属する資料をいくつも入手して、堂場文書という、これはいまどこに入っていますかね?(後略) (科学研究費成果報告書「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」より松崎昭一の発言、2004年7月9日)


(前略)
有馬 一つだけ。さっき、海原さんはやっぱり堂場氏に渡していたんだという話がありましたが、つまり相当量の文書史料を持っていると。防衛担当記者がそれだけ集められるという、常に海原さんから貰っていただけではないと思うんですけれども。

佐道 ではないと思います。

有馬 そこら辺は、何かわかるんですか。

伊藤 オーラルをやっているとわかりますけれども、新聞記者との関係でいろいろ話があって、机の上に置いといて「まあ、見て」ということはよくありますと。ある種、リークですね。それをコピーして持って行くかどうかはわかりませんけど、そ こまではっきり言っちゃったらまずいだろうから。

佐道 そうですね。とくに昭和 30 年代とか 40 年代は、だいぶオープンだったみたいです。出入り自由みたいな形で、しょっちゅう課長、局長のところに行ってみたいな。海原さんという人は、かなり腕力があった人というのは、逆にいうといろんな手段を使って自分のやりたいようにやっていた人ですから、おそらく使える政治家を使うし、新聞記者だって。

有馬 新聞記者も使う。

佐道 ええ。それには、「ちょっと、こんな文書があるんだよ」みたいなところでやったんじゃないかと思うんですよね。(後略) (同前より、有馬学、佐道明広、伊藤隆の発言、2004年3月15日)

 引用文中に出てくる堂場肇という人は、奇しくも今回問題になっている読売新聞の防衛担当記者だった人で、在職中数々のスクープを挙げたことで知られている。同じく引用文中の海原とは、防衛官僚の実力者だった海原治で、堂場は海原を含む防衛庁幹部からのリークで記事を書いていたという。特ダネの欲しい新聞記者と、新聞を利用して情報操作や内外の駆け引きの材料にしようとする防衛官僚とのギブアンドテイクが推定しうるが、彼らの現役時代にはもちろんこうした事情は一般には明かされず、リークした官僚も新聞記者も処罰されはしなかった。
*余談だが、この堂場肇が遺した機密文書の複写などを含む文書類は、その後大学の研究機関に移り、政治史研究に用いられている。先日、法務省が過去に流出し国会図書館が買い取った文書の閲覧禁止を要求したことの不当性は、この先例と比べても明らかである。

 つまり昔は防衛庁・自衛隊にあっても、他の省庁同様「消息筋によれば」という取材源を秘匿した形で、機密に属する情報が報じられていたのである。杓子定規に過剰なまでに秘密主義が採られ、高級官僚が情報を独占し、それ以外の人間が一切検証できない状態と比べた時、どちらが社会の在り方として「健全」であるか。安全保障や防衛機密の在り方については、いろいろ議論の分かれるところだろうが、正直なところ今回の「漏洩」が安全保障上、格別の危機をもたらしたとは思えず、むしろ一種の「見せしめ」ではないかという疑問が拭えない。

 どうにもキナ臭い世の中になってしまった・・・。

【関連リンク】
科学研究費成果報告書「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」(平成15・16年度) 5.松崎昭一*PDF
http://kins.jp/pdf/54matsuzaki.pdf
科学研究費成果報告書「近現代日本の政策史料収集と情報公開調査を踏まえた政策史研究の再構築」(平成15・16年度) 5.佐道明弘*PDF
http://kins.jp/pdf/64samichi.pdf
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by mahounofuefuki | 2008-10-03 23:04