2008年 02月 15日 ( 2 )

江原啓之を客員教授に迎える旭川大学学長の言い分

 当ブログの1月22日付のエントリで「スピリチュアルカウンセラー」江原啓之氏が旭川大学の教員に迎えられるという情報をお伝えしたが、この問題について2月15日発売の北海道向けの月刊経済誌『財界さっぽろ』3月号が詳細を報じている。
 結論から言えば、やはり江原氏は2008年度より旭川大学に新設される保健福祉学部の客員教授に迎えられる。講義科目は「生命倫理」や「コミュニティ福祉への招待」で、年2、3回程度教壇に立つという。講義回数こそ少ないものの、恐れていた通り、「スピリチュアルカウンセラー」の経験を生かした内容になりそうな気配が濃厚な科目名である。

 『財界さっぽろ』の記事によれば、大学側から声をかけたのではなく、昨年7月中旬に江原氏の方からアプローチがあったのがきっかけだったという。旭川大学に看護系学部が新設されるという情報をキャッチした江原氏が、「友人を介して」旭川大学の山内亮史学長に会見を申し入れたという。その「友人」が何者なのか気になるところだが、それはさておき山内学長の話を『財界さっぽろ』より引用しよう(太字強調は引用者による)。
 江原さんは、2つの理由で看護師や介護士からよく相談を受けてると話していました。一つは、看護師が忙しさに追われ、自分が思うような看護ができず燃え尽き症候になり、仕事辞めたいという相談です。もう一つが、余命いくばくもない患者さんに、どう声をかけて接すればいいかわからないというものです。
 江原さんの緩和ケアに対する熱い思いを聞いて、わたしが目指す学部像と共通する部分があると感じました。そこで『もし機会があれば一度講演をお願いしたい』と頼むと、江原さんが『旭川には友人が大変お世話になった。わたしでよければ何でも協力させていただきます』という答えが返ってきました。
 この「友人」かどうか明示されていないが、記事には江原氏が20年来懇意にしている歌手のイルカさん(「なごり雪」の人)の夫(昨年3月に死去)が晩年を旭川で療養していて、江原氏は何度も見舞いに訪れていたという話も紹介されている。
 再び山内学長の話に戻ろう。
 道北地方は過疎と高齢化が進み、自治体病院も経営的にもたなくなってきている。特に医師、看護師不足が深刻です。これからの医療は、病気を治すだけでなく、心の痛みをどのように緩和するかなどの精神的なケアが求められます。学校は単に知識や技術を教えるだけではダメなんです。『生命倫理』や『終末期看護論』なども取り入れ、地域社会に貢献できる人材を養成していきたい。(引用注:「道北地方」=北海道北部の地元での通称)
 そのご説はもっともだが、それがなぜ元神職でバリトン歌手の江原氏なのか? 江原氏と看護論にどんな関係が?
 大学で、テレビ番組『オーラの泉』のようなスピリチュアルカウンセリングをやるわけではないんです。亡くなった先祖を呼ぶこともありません。講義では、江原さんが考える『緩和ケア』や『スピリチュアルペイン(心の痛み)』、『人間の生と死』を語ってもらうだけです。その点はどうか誤解しないでほしい。わたしが江原さんの事務所を訪れてお願いしたわけではない。『客寄せパンダ』のように、有名タレントを大学の宣伝に使う考えはありません。江原さんが客員教授に就任した経緯を振り返ってもらえば、理解していただけると思います
 「スピリチュアルペイン」や「人間の生と死」はテレビでも語っているではないか。それがほかでもない「スピリチュアルカウンセリング」のなのでは? 「客員教授に就任した経緯」からわかるのは、江原氏がテレビを追われた時に備えて「確かな身分」を欲していて、そのために山内氏を丸めこんだことだけだ。
 ちなみに山内学長は大学で「スピリチュアルカウンセリング」をやることは否定しているが、「スピリチュアルカウンセリング」そのものは否定していないことに注目すべきだろう。それは教育社会学者としてどうなのか。

 ちなみにこの件が表面化してから、旭川大学には「普通の人も聞けるのか」「入場料はいくらですか」「カウンセリングしてほしい」などの問い合わせが殺到したという。学長は否定しているが、江原氏は確実に「客寄せパンダ」の役割を果たしているようだ。

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【関連リンク】
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by mahounofuefuki | 2008-02-15 23:24

「金持ち増税」論は少数意見ではない~山口二郎・宮本太郎共同論文を読む

 常連読者はまたかと思うだろうが、私は本来しつこいので、何度でも繰り返す。
 消費税の増税は低所得層の生活を完全破壊し、物価高騰と合わせて短期的にも中長期的にも国内市場を縮小させ、日本社会を破綻に導く「悪魔のカード」である。消費税を社会保障目的税にしようと、年金特定財源にしようと、社会の不平等拡大という事実は消えない。もちろんだからと言って「構造改革」派の言うような増税せずに歳出削減を徹底するという思想にも与することはできない。軍事費や特定の巨大企業への補助金を削減するなら大賛成だが、実際は社会保障費や医療費ばかりが削減された。総量としての「歳出削減」は完全に誤りである。
 必要なのは所得税の累進強化と分離課税の廃止、法人税・相続税の増税であり、「構造改革」によって一握りの資本が不当に労働者から搾取した富を取り返す措置が必要である。企業業績の悪化? 労働意欲の減退? 本当にそうなるか実際にやってみようじゃないか。やりもせずにそんな脅しは通用しない。だいたい少なくとも私は、我々低所得階級を踏み台にした経済成長より、貧しくとも平等な社会の方を選びたいのだ。

 こんな私見が決して少数意見でも非現実的意見でもないことを、今月発売の『世界』3月号に掲載された北海道大学大学院教授の山口二郎宮本太郎両氏の「日本人はどのような社会経済システムを望んでいるのか」と題する論文が明らかにしている。現在の社会経済情勢に対する認識や将来望む社会像を問うた世論調査の結果の紹介とその分析で、世論調査の方は皮肉にも山口氏の消費税増税容認論にとって不都合な(私には好都合な)結果が出ている。
 この世論調査は『世界』では明示されていないが、私の記憶が確かなら、北大が科研費を受けて長期的に行っているもので、過去にも何度か総合誌に紹介されていたはずだ。RDD法による調査で、標本数は全国で1500だという。

 調査結果の詳細は『世界』を参照されたいが、社会保障と税制の再構築にかかわるのは次の2点である。
 第1は「日本のあるべき社会像」の質問で、①アメリカのような競争と効率を重視した社会、②北欧のような福祉を重視した社会、③かつての日本のような終身雇用を重視した社会、の3択である。結果は①6.7%(自民党支持者では6.3%、民主党支持者では5.5%)、②58.4%(自50.3%、民61.3%)、③31.5%(自41.4%、民31.5%)だった。
 支持政党にかかわらず、アメリカ型競争社会への忌避感が強く、特に民主党支持層で「北欧型」福祉国家への待望が強いという結果から、山口・宮本両氏はこれを「北欧型福祉社会モデルへの期待」と評価しているが、それはやや誘導尋問の疑いが残る。③に「かつての日本のような」という「守旧」ないし「復古」というマイナスのイメージを想起させる枕詞を付けることで、市場原理主義に不満を持つ層を「北欧型」に誘導しているのではないか。実際は「1億総中流」(客観的にはまやかしであっても)の記憶をもつ人々にとっては、終身雇用を前提にした企業共同体型と「北欧型」の区別は不明瞭だと私は考えている。「北欧型」の「分配度の高さ」に注目しているのか、「高負担による高福祉」に注目しているのか、より詳細な分析が必要だろう。

 第2は「社会保障の財源」の質問で、①消費税率の引き上げはやむを得ない、②消費税ではなく、法人税や所得税など裕福な人や企業に負担させるべき、③行財政改革を進めるなど国民の負担を増やす以外の方法を採るべき、④そもそも今の社会保障で十分、の4択である。結果は①17.5%(自民党支持者26.5%、民主党支持者15.3%)、②35.4%(自35.4%、民37.6%)、③44.0%(自35.0%、民45.9%)、④2.0%(自2.3%、民1.2%)だった。
 自民党支持層の4人に1人が消費税増税に賛成してはいるが、むしろ自民党支持層も含めて企業・富裕層への増税を支持する人々が相当多いことに着目すべきだろう。歳出削減路線の支持層よりは少ないが、35%以上というのは無視しえない比率である。前述した私の見解が決して少数意見ではないという根拠はこれである。
 一方、民主党支持層の半数近くが歳出削減路線を支持しており、この結果は特に民主党政権による福祉国家路線を目指す山口氏には都合の悪い結果だろう。さすがに「増えてもよい負担とは、法人税や裕福な人が払う所得税であり、一般庶民が払う消費税ではないという解釈をするしかないであろう」(太字強調は引用者による、以下同じ)と消費税増税に未練たっぷりながら、それがまったく支持されていない現状を認める解説を付している。消費税増税論が「構造改革」路線の対立軸にならないことは明白である。

 山口・宮本論文の問題点はこの結果にもかかわらず、強引に新自由主義と社会民主主義の2大政党制が完成しつつあるという牽強付会な結論を提示していることにある。彼らは語る。
 我々は小泉時代の新自由主義政策に反対であるが、この時代の構造改革によって、二大勢力の対決という政策論議の空間ができたことで、日本の政党政治が進化したと考えている。
(中略)
90年代から始まった政治改革や政党再編の試行錯誤は、最終段階に入った。右側に新自由主義をとる保守政党、左側に福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党が対置するという世界標準の二大政党制の姿がようやく現れつつある。
 前述の世論調査からどうしてそんな結論になるのか。むしろ民主党支持層が一方で福祉国家を待望しながら、他方で増税には抵抗感を示し、さらなる行財政改革(歳出削減)を求めるという矛盾した姿は、とうてい民主党が「福祉国家路線をとる社会民主主義・リベラル政党」になりえていないことを証明している(ついでに言えば自民党も「新自由主義をとる保守政党」になりきれていないのは現在の道路特定財源問題を見ればわかる通りだ)。
 現に両氏も論文の別の箇所で「行政不信に満ちた福祉国家志向」という言葉でこの現象を説明している。つまり依然として現在の民主党支持層が新自由主義に心動かされる可能性が十分にあり、目の前の既得権益の解体というエサが示されればそれに飛びつく恐れが濃厚なのである。

*ついでに言えば、この結果からは二大政党制の下では意見が3つ以上に分かれた場合、必ずどれかが政策論議から漏れてしまうことも示唆している。仮に中選挙区制のままだったら、自民党は新自由主義路線と利益誘導型路線に分裂していただろう。小選挙区制を導入したことが自民党長期政権の打倒を難しくしたのは間違いなく(現に細川連立政権は中選挙区制だから誕生できた)、その点でも特に二大政党制を推進した山口氏の罪は大きい。

 いずれにせよこんな状況を打開するには、福祉国家派が消費税増税論を完全放棄することであり、歳出・歳入の両面で不公平を抜本的に是正する財政方針を明確に示すことである。消費税増税も歳出削減も「庶民への負担増」である。故にはっきりと「金持ち増税」を打ち出すべきであり、それが自民党支持層をも含め相当な支持基盤があることを今回の調査は実証したのではないか。現在「金持ち増税」を明確に主張しているのは共産党だけだが、民主党に必要なのは少なくとも財政問題において共産党に近づくことなのではないか。
 山口・宮本両氏、特に民主党の政権獲得に命を賭けている山口氏は当然このことを考慮しなければならない。

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by mahounofuefuki | 2008-02-15 21:43