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「小さな政府」を堅持する民主党と「植草一秀現象」

 アメリカの金融危機により新自由主義は失墜したと言われるが、一方で新自由主義の最も重要なファクターである「小さな政府」に対する信仰は依然として強力である。大型不況の足音が確実に大きくなり、実際中小企業の倒産や労働者の解雇が増えているように、弱いところからダメージがじわじわと広がる中で、むしろ「大きな政府」を復権させて「富の再分配」を強化することが必要なのに、相変わらず「無駄遣い」の一点張りで歳出削減策ばかりが持て囃される。それでいて増税と言えば再分配効果の無い消費税ばかり。もういい加減うんざりさせられる。

 今日もあるエコノミストのブログの主張にいたく怒りを覚えた。

 植草一秀の『知られざる真実』:フジテレビ「サキヨミ」の偏向報道
 http://uekusak.cocolog-nifty.com/blog/2008/11/post-1336.html
(前略) 民主党は、「天下り」機関に年間12.6兆円もの国費が投入されている事実を指摘したうえで、民主党が提示する政策プログラムを実現するための財源を段階的に確保する政策プログラムを発表している。

 10月2日の衆議院本会議代表質問で民主党の小沢一郎代表は民主党が提示する政策の財源確保について、明快な説明を示している。「天下り」を根絶し、特殊法人、特別会計、独立行政法人を廃止し、2009年度に8.4兆円、10年度と11年度はそれぞれ14兆円、12年度には総予算の1割の20.5兆円の新財源を生み出すことが示されているのだ。

 自民党は「天下り」利権を全面擁護している。特殊法人、特別会計、独立行政法人をそのまま温存して、特権官僚の天下り利権を全面擁護するのだから、新しい財源を見出すことができないのは当然だ。麻生首相の提案は、官僚利権を温存したままで一般国民に巨大な負担を押し付ける消費税増税に踏み切ろうとするものなのだ。この政策姿勢と民主党の政策を同一に論じることが欺瞞に満ちている。(後略)

 要するに植草一秀氏は、「天下り法人」の廃止による財源捻出を提示した民主党を絶賛しているのだが、前にも書いたように「天下り」を廃したかったら法令で禁止すればいいだけの話で、なぜ受け皿の法人まで道連れにするのか。特殊法人や独立行政法人には本来国が責任をもって行うべき業務がたくさんある。奨学金も公団住宅も国立病院も博物館・美術館も中小企業向け金融も独法である。ほかにも民間ではできない事業がいくつもある。これらはむしろ完全国営化するべきくらいで、廃止や民営化はそれこそ植草氏が批判する「弱肉強食」政策に加担するものだ。だいたい天下り役員以外の一般の職員の生活はどうなるのか、少しでも考えているのだろうか。

 特殊法人だった国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、農林漁業金融公庫が統合し、日本政策金融公庫なるものが先月発足したが、その最初の市民生活へのダメージは「教育ローン」貸出の所得上限切り下げであった。「無駄遣い」というプロパガンダに踊らされた結果、またひとつ庶民の生命線が弱体化させられたのである。特法・独法「改革」の構図は郵政民営化の時と何ら変わらない。

 植草氏の最大の欺瞞は、自民党と同様に消費税増税を不可避であると誘導していることである。「最大の論点は、消費税増税の前に『天下り』に代表される特権官僚の利権を排除するかどうかなのだ」と言うが、それは要するに「利権」さえ排除すれば消費税増税の障害は存在しないということである。これはまさしく「歳出削減か消費税増税か」の二者択一しかないように錯覚させ、「本当の聖域」である大企業・富裕層へ応分の税負担を課すという選択肢を排除しているのである。

 なぜだか私には全く不可解なのだが、「ネット世間」で「左翼」とか「リベラル」に位置づけられるブログには、このような「小さな政府」論者の植草氏をやたらと持ち上げる風潮があるようである。冤罪だか弾圧だかは知らないが、少なくとも私にはその政策論はとうてい受け入れられない。そしていみじくも植草氏がお墨付きを与えたように、民主党は依然として「小さな政府」路線を堅持しているのである。小泉政権の「構造改革」路線を批判しながら、民主党の政策を支持する矛盾にいい加減気付かなければならない。それがわからない者はもはや新自由主義者と同類である。

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by mahounofuefuki | 2008-11-03 21:36


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