福祉国家の「あり方」と「道筋」をめぐる問題

 サブプライム問題に端を発した金融危機により、世界的に新自由主義の凋落が決定的になっているが、問題は世界恐慌以来とも言われる大型不況のために、結局はまたしても貧困層ほどダメージを受けそうなことで、それを最小限に抑えるためには早急な富の再分配と社会保障の再構築が必要である。

 貧困を解決するために、以前から私は福祉国家路線への転換を求めてきたが、新自由主義が終焉を迎えつつある以上、今後の焦点は福祉国家の「あり方」と「道筋」をめぐる問題に移らねばなるまい。その場合、忘れてはならないのは、過去の欧州の福祉国家路線がなぜ破綻し市場原理主義に敗れたのかという点で、福祉国家そのものに内在する構造的弱点を克服しない限り、ポスト新自由主義時代に福祉国家を蘇らせることは難しく、同じ失敗を繰り返すことになりかねない。

 福祉国家の構造的弱点と破綻の経過については、西川潤氏の次の指摘が非常にわかりやすい。
(前略) 従来、福祉は国家が担当していた。つまり、国内の貧富の格差、破産、失業など不平等が増大し、社会不安や社会紛争が起こるのを避けるために、政府が公共政策を通じて福祉政策をとってきたのである。しかし、グローバリゼーション時代になって、政府のこの役割が破綻することになる。「福祉国家の破産」である。これには二重の要因がある。
 一つは1973年の石油ショックに始まる南北関係の修正である。
 福祉国家はもともと南北の国際分業体制の上に利益を獲得してきた先進国が、その利益に基づいて構築したのだが、石油ショックに始まる原燃料価格の修正、一次産品国の分配要求の高まりによって、南から北への余剰移転を用いて先進国の福祉をまかなうことが難しくなった。
 第二は、福祉国家の高齢化である。所得が高まり、人びとが長命化すると子どもをせっせとつくって子孫を維持する必要も少なくなる。高齢化と少子化はセットなのだが、少なくなる子どもが増大する高齢者を支えることはだんだん難しくなる。これに福祉国家を支える官僚機構が肥大して行政コストもかかる一方となってきた。
 こうして1980年代に「小さい政府」の必要性が叫ばれるようになり、福祉サービスも民営化されてきた。だが民家企業は営利目当てで運営しているので、福祉サービスはお金のある人でなければ受けられない事態になる。(後略) (西川潤『データブック貧困』岩波書店、2008年、p.43)

 第二の点の方は公民権の取得を前提とした移民の増加で人口減には対応できるし、高齢人口はピークを過ぎれば減っていくので何とかなる問題だが、第一の指摘は決定的な弱点を突いている。つまり、20世紀の西欧・北欧型福祉国家は国際的な南北格差の存在を前提とし、「南」から「北」への富の転移(「南」からすれば収奪と言うべきだろうが)があってはじめて成立したということである。現在も国際的な分業体制自体は継続し、むしろ強化されている面もあるが、かつての「南」側から新興工業国が次々と出現している中で、従来のままの構造の福祉国家がそのまま復活することは難しいし、するべきでない。この点をどうするのか。

 もう一つ。福祉国家へのプロセスの問題がある。以前も消費税のエントリで言及したことがあるはずだが、福祉国家の「高負担・高福祉」は理論上は国家のすべての構成員が負担に耐えられるだけの所得を有していることが必要となる。そのためにはまず徹底した所得再分配を通して平等状態を形成することが必要だが、一方で富を手放したくない既得の支配層にとっては、負担に耐えられない弱者を切り捨てて、国家内で「高負担・高福祉」層と「低負担・低福祉」層を分断した方が手っ取り早いことになる。

 かつて北欧諸国で福祉国家草創期に障害者や少数民族などマイノリティに断種を施し、人為的に「均質な国民」を形成しようとしたことがあるが、同様に現状の貧乏人を排除して「現時点で税を負担できる人々」だけで「福祉国家」を形成する可能性なきにしもあらずである。今後は単に福祉国家の可否ではなく、福祉国家への道筋を巡る階級間対立が顕在化し、雇用待遇差別問題のように、中間層と貧困層の対立が煽られて、結局富裕層が漁夫の利を得るような危険もありえよう。

 もはや福祉国家に転換すべきかどうかという議論の段階は終わり、今後はどうすれば福祉国家を実現し維持しうるのかという問題が重要となろう。私は「素人」の分をわきまえずに「対案」を出さないと無責任だと言うような恥知らずではないので、ここでは批判と問題提起にとどめ、後は専門家の議論を待ちたいところである。

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by mahounofuefuki | 2008-10-26 16:56


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