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都知事と台東区長は五十歩百歩

 東京都の石原慎太郎知事が3日の記者会見で、大阪の個室ビデオ放火事件に関連して、「ネットカフェ難民」や山谷の簡易宿泊所に言及したトンデモ発言が波紋を広げている。

 問題の石原発言は次のようなものだ(毎日新聞2008/10/07朝刊、太字強調は引用者による、以下同じ)。
「山谷のドヤに行ってご覧なさいよ。200円、300円で泊まれる宿はいっぱいあるんだよ。そこに行かずにだな、何だか知らんけれでもファッションみたいな形でね、1500円っていうお金を払ってね、そこへ泊まって『おれは大変だ、大変だ』って言うのはね」
 要するに、ネットカフェや個室ビデオなどに寝泊まりしているのは好きでやっていることで、本当に生活困難ならば「200円、300円」の簡易宿泊を利用しているはずだ、と言っているのである。これに対し、6日付で「自立生活サポートセンターもやい」が石原氏に公開質問状を送付した。

 石原都知事に公開質問状「200円の宿があるなら紹介してください」- レイバーネット
 http://www.labornetjp.org/news/2008/1223258651860staff01

 質問の主旨は①本当に200円、300円で泊まれる宿がたくさんあるのか具体的事実を提示せよ、②事実誤認ならば発言を公式に撤回せよ、③事実誤認を改めて総合的・包括的な生活困窮者支援策を打ち出せ、の3点である。質問状では、石原氏の思い込みとは裏腹に、実際には「都内では山谷地域でも一泊1000円以下の簡易旅館は皆無に近く、1500円以下の宿泊先を見つけるのですら、困難な状況」と指摘しているが、いかに石原氏が貧困問題に無頓着であるか、図らずも証明したと言えよう。

 一方、今日になって東京都台東区の区長と区議会議長が、石原氏に発言の訂正と謝罪を要求した。共同通信(2008/10/07 18:17)より。
 個室ビデオ店放火殺人事件に関連して東京都の石原慎太郎知事が「山谷は200円、300円で泊まれる宿がいっぱいある」と発言したことに対し、山谷地区がある台東区の吉住弘区長と木下悦希区議会議長が7日、記者会見し「重大な事実誤認がありイメージが損なわれた」として、知事に発言の訂正と謝罪を求める抗議文をそれぞれ出したことを明らかにした。

 台東区によると、同区と荒川区にまたがる山谷地区には現在、約160軒の簡易宿泊所がある。中には1泊1000円以下の宿泊所もあるが、おおむね2000円程度だという。

 抗議文では「(山谷地区は)地元や関係者の努力により、外国人観光客やビジネス客の利用も増えている。発言により当該地域のイメージが著しく損なわれ、誠に遺憾」などとしている。

 吉住区長は「今は200円、300円という時代ではない。都のトップがそういう認識というのは非常に残念だ」と述べた。(後略)
 今日のテレビ報道などでは、「もやい」の抗議と台東区の抗議を同じようなものとして扱っていたが、両者に共通するのは「山谷には200円、300円の宿泊所などない」という事実認識だけで、問題の捉え方は180度異なる。台東区長らの抗議内容には重大な問題がある。

 台東区の抗議は、要するに「観光客やビジネス客も山谷の簡易宿泊所を利用しているのに、石原発言のせいで貧困労働者ばかりが集まっているようなイメージが高まり迷惑している」ということである。「200円で泊まれるような宿はない」というのは「もやい」の抗議と同じだが、台東区の方は「そんな貧乏くさいものが存在するように思われるのは困る」というニュアンスがある。ここには山谷の「対外的」イメージを気にする姿勢しかなく、労働者の排除の方向性すら読みとれる。行政としての貧困対策の必要性を全く軽視しているという点で、石原氏と台東区長らは五十歩百歩なのである。

 中央がさっぱり貧困問題に本腰を上げないなかで、地方自治体にやれることは限られているとはいえ、自治体のトップがこんなお粗末な認識では全くどうにもならない。石原氏は今日になって記者団の「ぶらさがり」で、バツが悪そうに発言を訂正していたようだが、これは「記者会見の場での公式の撤回」とは言えまい。同時に街の「イメージ」を理由に労働者を厄介者扱いする台東区長らにも、批判の矛先は向けられるべきだろう。

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