「1人の市民を減らして3人の奴隷を増やす」のではなく「3人とも市民にしろ」

 数日前の弊ブログで非正規公務員の「ワーキングプア」化~貧困対策としての正規公務員増員政策の必要性というエントリを挙げて、行政の人件費削減により臨時採用などの非正規公務員が増加している現状を批判し、正規公務員を増やせと主張したが、これに対し「はてなブックマーク」で、やはり以前弊ブログの清掃職員が年収1100万円で悪いか!でも取り上げた、奈良市の清掃職員の「高給」問題を前提に「これって、年収300万円で3人正規採用すればいいよなぁ?ブサヨは公務員の高給を擁護しているが、そのせいではじき出される人間はどうでもいいんだよなぁ?」という誹謗コメントがついていた。

 雇用待遇差別問題で非正規雇用を正規雇用に引き上げよと唱えると、必ず正規雇用の方の待遇を引き下げよとか、正規雇用の解雇を自由化しないと非正規雇用は正規雇用にはなれないといった批判が起きるが、これもそれらと同じ「引き下げ」論法である。全民間労働者の平均収入よりも低い年収300万円に引き下げろ、と平気で主張できるのは「格差」は問題にするが「貧困」を問題にしない典型例で、労働者全体の総取り分を勝手に固定しない限り成立しない議論である。

 奈良市の件は「年収1100万円」というといかにも「高給」だし、これが規定の労働条件の下で為されていたら私でも「高すぎる」と言うだろうが、以前も強調したように、この例は「給与が高い」のではなく「労働時間が異常に長い」のであって、時間外手当を除く給料500万円、賞与200万円余りというのは、問題の職員が定年の60歳であることを考慮すれば、安くはないが高いとは言えず妥当なところだろう(それでも時間給で区切られる「ワーキングプア」層から見れば夢のような話ではあるが、資本の論理に合わせて「あるべき給与水準」を引き下げる必要は全くない)。

 弊ブログは先のエントリで、「ワーキングプア」を優先的に正規公務員に採用しろと唱えているのだから、そもそも「はじき出される人間はどうでもいい」という非難は全くあたらないが、そういう非難が出てくるのは、要は人件費の総額を固定して考えているからで、私が税収を増やして人件費も増やせと言っているのを見落としているからである。民間の場合も、資本の取り分には手をつけずに、正規雇用の所得を減らして非正規雇用に回せという論法がまかり通っているが、これも労働分配率の引き上げを全く考慮していない。

 誹謗コメントに沿ってわかりやすく例示すれば、「1人の正規労働者を解雇して、その分で3人の非正規労働者を雇う」あるいは「1人の労働者の給与を3分の1に引き下げて、その分で労働者を3人に増やす」のではなく、あくまで「正規労働者として給与を引き下げずに3人雇え」ということである。それは現実的でないという批判が当然あろうが、現在の「貧困と格差」の本質は、要は「貴族」の取り分が増大した分、「市民」の中から「奴隷」に落とされる人々が大幅に増えた点にあり、「奴隷」という状態自体に問題がある以上、これは「貴族」の取り分を減らして「奴隷」を「市民」にしない限り解決することはない。1人の「市民」を減らして3人の「奴隷」が増えても意味はない。

 「引き下げ」論法は、残りの「市民」もすべて「奴隷」にしろということであり、「奴隷」状態が人間として許容できるかどうかは問わず、非「貴族」間の「平等」を夢見ているが、「市民」と「奴隷」の分断は「貴族」にとっての統治戦術でもあり、実際は「市民」が「奴隷」に引き下がっても「平等」は訪れず、「奴隷」ももっと引き下がり、今度は「新奴隷」と「旧奴隷」の差別が生じるだろう。そして「市民」の残りの取り分も「貴族」に吸収される。「引き下げ」競争は「貴族」の欲望が続く限り際限なく拡大する。「市民」にとっても「奴隷」にとっても「敵」は「貴族」=巨大資本・富裕層なのである(ただし「市民」による「奴隷」への差別・蔑視を免罪するつもりはない)。

 話がいささか抽象的になってしまったが、現実問題として、中小企業に限っては労働分配率の高止まりが続いており、これ以上正規雇用を増やすことは難しい。だからこそ余裕のある大企業に正規雇用化を義務付けると同時に、特に民間企業での正規採用が難しい年長の未熟練非正規労働者を公務員に優先採用しろ、福祉国家路線で行政の仕事を増やし公務員を増員しろ、というのが弊ブログのこれまでの主旨である。具体的に実現するための方法論は全くないので、いわば理想論にすぎないことは認めるが、少なくとも政策としての方向性くらい提示する権利はあるだろう。減税や歳出削減がその方向性に逆行するのは言うまでもない。私が「歳出削減でも消費税増税でもなく金持ち増税」を一貫して主張する所以である。
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by mahounofuefuki | 2008-10-04 23:32


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