八代尚宏の日雇派遣禁止反対論に反駁する

 引用(「」内の文)はすべて、八代尚宏「経済を見る眼」(『週刊東洋経済』2008年8月16・23合併号)より。逐次批判する(赤字の文)。

 「日雇い派遣には労働安全上の問題が多いというが、そうでない職場も多い。危険な業務についてのみ禁止ではなく、専門業務以外は原則禁止することは、現在従事している労働者の利益を損なうだけである。」
 →日雇派遣の問題は「労働安全上の問題」だけではない。何よりも中間搾取による低賃金と短期契約に伴う生活の不安定が問題なのである。故に「労働安全上の問題」のない職場はそのままでよいということにはならない。

 「日雇い派遣を不安定な働き方として禁止しても、正社員の仕事が増えるわけではない。代わりに日雇いへの職業紹介と給与処理代行業務との組み合わせになるだけであり、労働者に何の利益があるのだろうか。」
 →「日雇いへの職業紹介と給与処理代行業務との組み合わせ」を法的に規制すれば済むことである。現行制度のままで労働者に何の利益があるというのか。

 「規制強化論者は、普通の日雇いになれば派遣会社のマージン分だけ賃金が上がるという。しかし、逆に派遣先の企業はなぜ直接雇用して高いマージン分を節約しないのか。それは短期雇用では、自ら募集や面接・賃金支払いをするコストのほうが高いと考えているためで、派遣禁止で賃金が上がることは期待できない。」
 →派遣先が直接雇用しないようになったのは、労働者派遣法が改悪を重ねて派遣労働が原則自由になったからであり、そもそも法が派遣労働を厳しく規制していれば、「自ら募集や面接・賃金支払いをするコスト」をいやでもかけざるを得ない。また「賃金が上がることは期待できない」という言は、次の事実が否定している。
(前略) 日雇い派遣労働者だった男性は(32)は廃業発表のニュースを苦々しい思いで見た。
 4年前に就職しようと上京したが、「ついずるずると」日雇い派遣で暮らしてきた。今年1月、グッドウィルの事業停止を機に、派遣先の企業のアルバイトになった。日雇い派遣の時は日給7250円。雇用先は人材を確保したいからと、グッドウィルに払っていた派遣料金1万2千円を男性に支払うことにした。
 その結果、手取りは月18万円から30万円に。給与明細を見るたびに思う。「こんなにグッドウィルに取られていたのか。アホらしい」。(後略) (朝日新聞2008/07/11朝刊、太字引用は引用者による)
 「日雇派遣」が直接雇用のアルバイトになるだけで、これだけ賃金が違うのである。「日雇派遣」を禁止しても求人がなくなるわけではない。

 「むしろ短期間の直接雇用では、雇用主が頻繁に変わることの不利益のほうが大きい。現に6カ月未満の派遣契約者の内、4分の1が有給休暇を得ている。これは派遣先がたびたび変わっても、雇用主が同じであれば義務づけられるためで、雇用保険や社会保険にも入り易くなる。」
 →「4分の1が有給休暇を得ている」ということは「4分の3は有給休暇を得ていない」ということである。少数例をもって多数例を無視するのはどうか。「雇用保険や社会保険にも入り易くなる」とのたまうが、実際はこれら保険に加入していない派遣会社が山ほどある実態をどう説明するのか。

 「厚生労働省等の調査によっても、派遣労働者の大部分は、拘束性の強い正社員の働き方と比べて、職種や働き場所を選べ、残業も少ない派遣の働き方を積極的に求めている。また、派遣会社の社員が加入する人材サービスゼネラルユニオンの調査でも、現に日雇い派遣に従事している人たちの内、都合のつくときだけ働ける仕組みに満足している者が多数である。残りの人にとっても、選拓肢が狭まり得になるわけではない。」
 →『2008年版労働経済白書』本文図表基礎資料によれば、短期派遣労働者に「今後希望する雇用形態」を問うたところ、「現在のままでよい」と回答した割合は45.7%で半数に満たない。それもここでいう「短期派遣労働者」には、学生や主婦のような日雇派遣のみで生計を立てているわけではない人も含む。これでは「大部分」とはとうてい言えない。

 「派遣に関しては経営側が自由化を、組合側が規制を求める『労使対立』の問題と考えられているが、肝心の派遣労働者の組合は『派遣は諸悪の根源ではない』と禁止に反対している。派遣問題の核心は正社員と非正社員との間の『労労対立』にある。」
 →「派遣ユニオン」や「ガテン系連帯」や各派遣会社のユニオンの多くが日雇派遣禁止はもちろん、短期派遣や登録型派遣の禁止を主張している。御用労組の主張のみをもって「派遣労働者の組合は・・・禁止に反対している」という言はあまりにも独善的である。派遣問題の核心は、資本家が労働者を人間ではなく、まるで部品のように扱っていることの是非である。「労労対立」を仕組んでいるのは資本サイドにほかならない。

 八代氏の立論は「日雇派遣」禁止以外は現行制度を継続することを前提としている。逆に言えば、派遣労働規制にあたっては「日雇派遣」禁止だけでは全くもって不十分であり、あくまで直接雇用・無期雇用の原則を法的に担保し、なおかつ実効性を伴った厳しい規制強化が必要であることをかえって如実に示している。

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by mahounofuefuki | 2008-08-26 23:06


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