新自由主義「漸進」路線を明示した福田改造内閣

 一橋大学大学院教授の渡辺治氏は「新自由主義構造改革と改憲のゆくえ」(『世界』2008年7月号)の中で、小泉政権退陣以後の新自由主義路線は2つの潮流に分岐したことを明らかにしている。第一は「急進改革路線」、第二は「新漸進路線」である。

 第一の「急進改革路線」とは、「改革の『痛み』に対する手当などは行わずに急進改革を続行し、改革実行により達成された成長とパイの増大で格差と貧困に対する不満を吸収しつつ、消費税をあげずに『プライマリーバランス』の回復をめざす」路線で、いわゆる「上げ潮」派と呼ばれる竹中平蔵氏や中川秀直氏らが目指したのがこれである。

 第二の「新漸進路線」とは、「急進改革をこれ以上続行して社会統合を破綻させることに対し、逆にある程度の構造改革に対する手当てが不可欠であると考え、消費税の値上げで対処すべしという路線」で、与謝野馨氏がこの路線の中心人物とされる。

 昨年の参院選以降「急進改革路線」は衰退しはじめ、福田政権下では「新漸進路線」が台頭したというのが渡辺氏の分析だが、今回の内閣改造の陣容を見ると、氏が指摘した傾向はますます強まり、ついに「上げ潮」派は政権内にほとんど居場所をなくして退場を余儀なくされたと言えよう。前内閣を引き継いだ改造前には大田弘子氏や渡邊喜美氏のような「急進色」の濃い閣僚が要職にいたが、今回の改造では目立つ「上げ潮」派の実力者が入閣していない。

 特に経済財政担当大臣にほかでもない与謝野氏が起用されたのが象徴的である。財務大臣に伊吹文明氏、経済産業大臣に二階俊博氏、国土交通大臣に谷垣禎一氏という陣容は一方で派閥領袖の均衡人事の意味合いがあるが、他方政策的には「新漸進路線」を代表する政治家が経済閣僚を占めたと言えよう。福田首相が重視する消費者行政担当に「郵政造反組」だった野田聖子氏が任用されたのも、脱「小泉」色を鮮明にしている。

 「急進改革路線」も「新漸進路線」も、大企業の国際競争力を何よりも優先し「小さな政府」を推進する新自由主義に変わりはないが、これまで「構造改革」の名の下でさんざん「官製貧困」を拡大してきた最大の主犯である「上げ潮」派が消えたのは朗報である。行き過ぎた「改革」路線を修正しようとする昨年来のムーブメントが定着しているのは、少なくとも馬鹿の一つ覚えの規制緩和一辺倒よりはましになっている。

 問題は行き場を失った「上げ潮」路線が民主党に流入する可能性があることである。もともと民主党は新自由主義路線に親和性があるのに加え、確固とした基本理念がなく「自民党の対抗軸」という自己規定以外に党の結集軸がないため、「新漸進路線」に完全に舵を切った福田政権との対抗上、「上げ潮」路線に飛びつく危険がある。「新漸進路線」は何よりも消費税増税を重視しており、単に消費税増税の是非だけが問題になった場合、「消費税引き上げ反対」の立場から民主党が事実上「急進改革路線」を採択しないとも限らない。

 当ブログではもう何度も指摘しているように、消費税増税の対抗軸は歳出削減ではなく、直接税増税による福祉国家への道であるべきなのだが、現況は全国紙すべてが消費税増税の世論誘導を進めるなど、なかなか直接税増税論は税制議論の俎上にも載っていない。今回の政局の転回を機に「上げ潮」派の息の根を止めるためにも、福田改造内閣が進めるであろう消費税増税路線には、所得再分配効果を強化した上での福祉国家路線を対置するよう主張していく必要がある。

 今回の内閣改造についてはもう1点。中山恭子氏が少子化問題・拉致問題担当の国務大臣に起用され、一見「拉致問題」重視の姿勢を示して、強硬外交路線をアピールしているように思えるが、むしろ常時首相官邸に勤務する首相補佐官から外すことで、首相周辺の外交政策決定過程から排除したというのが実態だろう。すでに「拉致家族会」や「救う会」の方が勝手に政府批判色を強めて離反した以上、単なるメッセンジャーだった彼女はもはや用済みになったというのは言い過ぎだろうか。
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by mahounofuefuki | 2008-08-01 20:56


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