「1票の格差」を是正し、「世襲議員」を減らすには比例代表制しかない

 私が「何はともあれ(政策転換がなくても)政権交代」という考え方に抵抗感を抱く要因の1つに、1990年代の政権交代が結果として小選挙区制の導入につながった苦い記憶がある。リクルート事件以降の「政治改革」議論の核心は政界の金権体質の綱紀粛正であり、そのためには企業・団体の政治献金を全面禁止することが必要だったのに、細川連立政権はこれを衆議院の選挙制度改革にすり替え、現行の小選挙区比例代表並立制を導入した。当時まだ10代の少年だった私は、小選挙区制の方が選挙にカネがかからず、安定した保革二大政党制の道が開けるのではないかと漠然と考えていたが、その考えが全く間違いであったことは今や誰の目にも明らかである。

 今日の視点から振り返れば、小選挙区制こそが自民党の政権復帰と延命を可能とし(自民党はこの間得票率では過半数に至っていないのに)、社会党の解体を促進し、公明党が自民党と一蓮托生の関係となることを手伝ったと言えよう。それだけにもはや誰とは言わないが、当時「世界標準」の二大政党制を目指すと称して小選挙区制を推進した人々が、今また「政権交代を!」と叫んでも私は心を動かされないのである。特に現在の民主党の中枢を占める人々―小沢一郎、菅直人、鳩山由紀夫各氏ら―は、いずれも細川政権で小選挙区制導入を推進した「前科」がある。社民党は後に当時の判断の誤りを認めたが、小沢氏らは今も小選挙区制にしがみついている。

 共同通信が今年3月現在の国政選挙における「1票の格差」の試算を公表した。それによれば衆院小選挙区の「格差」は最大で2.277倍で、昨年より0.063ポイント拡大したという。参院選挙区の「格差」は最大で4.868倍で、これも昨年より0.065ポイント拡大したという(共同通信 2008/07/31 17:35)。依然として2倍以上の「格差」があり、法の下の平等に反すると言わなければならない。「1票の格差」は中選挙区制時代からあったが、小選挙区制下でも問題が全く解決していないことは明らかである。

 公職選挙法は毎年のように頻繁に改正を繰り返しているが、結局のところ制度自体に欠陥がある以上、小手先の修正ではいつまでたっても公平な選挙は実現しない。先の「郵政選挙」のように与党が半数に満たない得票率で議席配分では絶対安定多数を獲得するような詐欺のまがいのことを繰り返してはならない。民意ができるだけ反映するような選挙制度は議会政治の成熟のための必要条件である。

 あるべき選挙制度をめぐっては、中選挙区制(1選挙区より複数人選出)の復活やドイツのような小選挙区比例代表併用制(比例代表による議席配分に選挙区当選者を割り振る)の導入や、面白いところでは最近TBをいただいた「平和への結集ブログ」による中選挙区比例代表併用制という提案もあるが、私は衆院に関しては全国をいくつかのブロックに分けた拘束式比例代表制がベターだと考えている。比例代表制の利点は何より死票が少なく、民意を比較的正確に反映することにあるが、やはり選挙制度においてはこれが何よりも重要だからである。

 比例代表制に対しては「人」を選べないという批判があるが、日本の現況を考慮すればむしろそれも利点であると思われる。それというのも現在の日本ではいわゆる「世襲議員」が大きな割合を占めているが、これは各選挙区の議員を頂点とする利権構造を継続・維持するために、「地元」が世襲を要求しているのが一因である。選挙区から議員を切り離し、議員を一地域の利害代表から「国民」すべての代表とするには、選挙区制を廃止するのが最も手っ取り早い。仮に政党が「世襲」候補を比例名簿に入れるとしても、「七光」だけで上位になることは難しいだろうから、落選リスクは上昇する。なお堺屋太一氏が最近指摘しているように、「世襲」は中選挙区制時代の1980年代から急増しており(堺屋太一「二代目の研究」『現代』2008年8月号)、中選挙区制の復活では「世襲」を防ぐことは難しい。

 比例代表制のもう1つの利点は、議員が選挙対策から解放され、議会の仕事に集中できることである。人ではなく政党を選ぶ制度だから、選挙運動の中心は現在の個人後援会から政党に移る。優秀でも選挙区制ではとても当選できないような地味な人でも議員にすることも可能になる。国会審議に出ないで地元の選挙工作ばかりやっているような議員は消えるだろう。

 無所属の立候補ができないという問題はあるが、それは政党の人数条件を設けず、候補1人でも政党を作れるようにすれば憲法上の問題はクリアできる。小党乱立になる可能性はあるが、民意の反映という原則が何よりも重要である以上、些細なことである(実際は資金力の関係でいくつかの勢力に収斂される)。過半数形成は選挙ごとに政党間で政策協定を結び連立すればよい。欧州では普遍的なことである。ポピュリズム的にタレントばかり集めた政党が出てくる危険性はあるが、その危険は現行制度でも同じだし、何度か選挙行えば自ずと政治能力のない政党は淘汰されるだろう。

 現状ではそもそも選挙制度改革を行える客観的情勢にはほど遠く、小選挙区制で「勝利」した多数党が自ら小選挙区制を廃棄することは難しいので、ここで書いたことは単なる「個人的希望」の域を出ないが、少なくとも比例代表枠の拡大は「1票の格差」の是正のためにも必要であることは強調したい。具体的方策は全く手詰まりだが、長期的視野に立てば検討を重ねることは決して無駄にはならないだろう。

【関連リンク】
公職選挙法 - 法令データ提供システム
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html
平和への結集ブログ 中選挙区比例代表併用制を提案する
http://kaze.fm/wordpress/?p=164
[PR]
by mahounofuefuki | 2008-07-31 22:34


<< 新自由主義「漸進」路線を明示し... 「道州制」はやっぱり危険 >>