最近の日朝関係について~「拉致問題」解決の糸口

 今月の当ブログの「検索ワード」第1位は「蟹工船ブーム」だが、第2位は実は「斎木昭隆」だったりする。「斎木昭隆を6カ国協議の代表に送る愚」を書いたのは1月で、当時私は斎木氏が極右勢力の過剰な期待を背負わされて日朝交渉で身動きが取れないだろうと心配していた。

 実際は日本外交の「疎外」は私の想像をはるかに超えていて、もはや誰が実務責任者であるか、さらには誰が政権を担当しているかといったレベルでどうこうできる段階はすでに終焉していたことは、最近のアメリカ政府の「日本はずし」と言える動きが示す通りである。現在の日本外交はアメリカ一辺倒であるため、アメリカに梯子をはずされると全くのお手上げである。

 朝鮮をめぐる情勢については昨秋「袋小路の『対話と圧力』」というエントリで基本的な主張を述べた(前提となる情勢分析は今も通用するのでぜひ参照を)。当時、すでにアメリカ政府は核開発問題に一定の目途が立てば「テロ支援国家」指定を解除する方針を決定していた。また「拉致問題」については日朝2カ国間の問題であるとして、「拉致被害者家族会」や「拉致被害者を救う会」に対して「切り捨て」も通告していた(「アメリカに切り捨てられた『拉致家族』」参照)。今になって「家族会」あたりから「拉致が置き去りになる」と反発の声が聞こえるが、すでにリアルな国際政治の世界ではとっくの昔に置き去りにされているのである。いかにアメリカ政府の高官が表向きは「拉致問題を忘れない」とか言っても所詮はリップサービスにすぎない。

 すでに当ブログでは、世界最大の核保有国であるアメリカは、自国主導の世界秩序を揺るがさなければ、限定的な核拡散を容認していると指摘した(「山崎拓のトンデモ発言」参照)。だからこそ日本政府は「拉致」を理由にした対話拒否路線に拘泥せず、核問題に積極的にコミットし、アメリカ任せにしてはならないとも述べたのだが、残念ながら福田政権下でも強硬一辺倒の方向を完全廃棄するには至らず、その間に米朝間で着々と「成果」の積み上げが行われた。これで本当に朝鮮の非核化が実現できるのならば、それはそれでいいのだが、現状では依然として不透明である。

 日本外交のこうした失策を招いた最大の原因は、「家族会」や「救う会」のような極右勢力の暴走である。ひたすら「圧力」を言い続け、現実的な外交交渉を妨害ばかりしてきた。こういっては何だが、本当に「家族」を取り戻したかったら、土下座するなり身代金を払うなり形振り構わない姿勢をとるのが「親心」というものだろうが、「家族会」はすっかりヤクザまがいの連中に取り込まれ、ナショナリズムの道具としていいように使われてきた。

 あえて言ってしまうが「救う会」の指導層は「拉致問題」の解決など望んでいない。左翼からの転向組が主導する彼らは「拉致」のおかげで陽のあたるところへ出られた。解決してしまえば飯の種がなくなる。「拉致議連」に集うタカ派(厳密には「ナイーブなタカ派」)議員たちも同様である。昨年無残に消え去ったかに見えた安倍晋三氏は、再び「拉致」で存在感をアピールしようと目論んでいる。無能な彼にはそれしかないからだ。山崎拓氏との論戦パフォーマンスもその一環である。今や「拉致」は対外強硬派に骨の髄までしゃぶられていると言っても過言ではない。

 世論における影響力はかつてほどなくなったが、それでも「家族会」に対するタブーは今もメディアでは継続している。はっきりと「拉致家族」に対して極右とは手を切れ、あんな連中と組んでいる限り国際的信用も得られず、問題は悪化するばかりだと言い聞かせる必要があるのだが、これは口で言うほど容易くはない。

 唯一の希望の糸口は「家族会」には入っていない、あるいは距離を取るようになった「拉致家族」の存在である。政府認定拉致被害者のうち、北海道出身のI氏の家族は問題発覚から一貫して用心深い行動を取り(被害者の身を案じてしばらくは名前も伏せていた)、「家族会」にもはじめから入らなかった。I氏の実姉は2002年当時、地方紙に手記を寄せているが、日本の植民地支配下の強制連行や強制労働にも言及し、「拉致」を日朝間の不幸な歴史の中に位置づける視座をもっていた。「家族会」が「経済制裁」を大合唱していた時も、I氏の実兄は強硬外交に疑問を呈する趣旨の発言をしていた。

 もう1人。かつて「家族会」事務局長としてメディアにも多く露出していたH氏は、この数年「圧力」路線への批判を強め(以前ある講演で、制裁を叫んでいるだけでは単なる「反政府組織」であると「家族会」「救う会」を批判していた)、ついには親朝路線で知られる論壇誌『世界』にまで登場した。2002~03年当時、「拉致家族」の最強硬派として鳴らした彼が、今や日本政府が「過去の清算」を長らく怠ったことが「拉致」問題の一因であると示唆するまでに変貌した。彼の変化は「拉致家族」も極右勢力と離れれば、冷静な思考を取り戻すことができるという生きた見本だろう。

 「拉致問題」解決の糸口は、「拉致家族」と極右勢力の分離にあるが、この2者の例は決してそれが不可能ではないことを示している。マスメディアは勇気をもって「救う会」に対する明確な批判を行うべきである。

 米朝関係がどう転ぶにせよ、日本政府に必要なのは国交正常化交渉を通して拉致問題の解決を図るという、日朝ピョンヤン宣言当時の方針に復旧することである。幸い日朝国交正常化を目指す超党派議連も発足した。事実上「何もしない」路線と化した一国強硬路線を廃棄して、「行動対行動」の原則に立った対話路線へと舵を切ることを切に願う。
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by mahounofuefuki | 2008-06-28 14:44


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