大阪府の橋下徹知事の「暗殺予告」をネット上で書き込んだ容疑で東京の会社員が逮捕された件。
近代日本においては幕末の「桜田門外の変」(井伊直弼の暗殺)以来、政治指導者に対する暗殺が非常に多く、近年も長崎市長の伊藤一長氏が射殺された事件が記憶に新しいが、「成功した」暗殺というのは、総じて日本社会を危険な道に導こうとする輩によるものばかりである。いや正確には暗殺によって危険な道への抑制が失われたというべきか。 明治維新期の横井小楠、広沢真臣、大久保利通、森有礼らの暗殺犯はいずれも復古的・国粋的立場であって、「近代化推進派による暗殺」は皆無だった。原敬や山本宣治や浜口雄幸を暗殺したのも狂信的ナショナリストだった。戦後の暗殺・暗殺未遂事件もすべて「右翼」系統の仕業である。「左翼」系統のテロは一般に「階級」や「組織」を対象とするため、個人をねらった「暗殺」という手法は本来とられない。そもそも暗殺というもの自体が日本では極めて右翼的な現象なのである。 それ故に王道(?)に反した「左」による暗殺計画は「成功」したためしがない。「大逆事件」として知られる明治天皇暗殺計画はあまりにも稚拙な上に、何よりよく知られているように幸徳秋水ら被告のほとんどが冤罪であった。「虎ノ門事件」として知られる昭和天皇(事件当時は皇太子)狙撃未遂事件も「失敗」だった。戦後は極左過激派が警察関係者個人を狙った殺傷テロを起こしたことがあるが、政治家個人の殺害に「成功」したことがない。 容疑者は「府の財政再建案に反感を持っていた」(毎日新聞2008/06/22 20:10)と言っているようだが、それだけではどのような政治的立場なのかわからない。ただし、本当に暗殺を「成功」させたかったらネットに「予告」などしない。「橋下を暗殺できたらいいな」という妄想が肥大化したというところだろう。もし実際に暗殺を実行するための「具体的な準備」を行っていないのならば、単なるいたずらで起訴するに値しない。橋下氏は知事になる前にもネットで脅迫されたことがあったが、結局何もなかった。 今回のような事件で大衆の耳目を集めれば集めるほどポピュリストには有利に働く。橋下氏は「被害者」を演じることで、敵対する勢力を「悪役」に仕立て、無知な人々のルサンチマンを「悪役」に振り向けるのが得意な御仁である。暗殺対象ともなればますます彼の思うつぼだろう。それだけにこのような幼稚ないたずらは非常に残念である。
by mahounofuefuki
| 2008-06-22 22:45
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