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労働者派遣法改正問題における民主党の「使えなさ」

 今日の貧困拡大の原因については、長期不況のせいだとか、労働者にそもそもやる気がないからだといった全く的外れの議論がいまだにあるが、1990年代の「リストラの嵐」こそ長期の構造不況に起因するものの、2000年前後から顕在化した「若者の貧困」に関しては断じてそんなことはない。
 本当の原因は相次ぐ労働法制の規制緩和、特に1999年の労働者派遣法改悪による派遣労働の原則「自由化」であり、これが不安定な非正規雇用を際限なく拡大させ、企業が容易に労働者を使い捨てできる状況を生んだ。貧困の原因が不況ならば、景気回復とともに問題は減少していなければならない。しかし、実際は大企業の景気回復と反比例するように、労働分配率は2003年以降急低下し、非正規労働者の割合は昨年33.5%に達した(総務省「労働力調査」)。
 つまり、政府と財界による人為的な労働力搾取・収奪強化が貧困を引き起こしたのであって、まさしく現在の貧困は「官製貧困」なのである。

 故に貧困解消のためには、まず何よりも貧困拡大の直接の引き金となった労働者派遣法の規制緩和を中止し、事実上常用雇用の代替手段となっている現行の派遣労働を、一部の専門業種に限定していた元来の状態に復旧することが必要である。
 政府は昨年の時点では、今期の通常国会でさらなる規制緩和を求める財界の要求に応えた労働者派遣法改悪案を成立させる予定だったが、昨年の参院選による与党大敗の結果、その目論見は打ち砕かれた。昨年はまたマスメディアを通して日本社会の貧困の実態がかなり報道され、「ワーキングプア」という言葉が流通するようになった。追い込まれた派遣労働者による労働運動が注目を集め、これらの声を政府も無視するわけにはいかなくなった。

 政府が労働者派遣法改正を1年先送りする一方、野党サイドは政府の機先を制して今国会に独自の労働者派遣法改正案を提出する算段だった。この問題を何とかしなければならないという問題意識は全野党(さらには与党の一部も)に共有されていたはずだった。少なくとも「日雇派遣」の禁止やマージン率の制限については一致していた。
 しかし、結局今国会では改正案は提出されなかった。その原因は民主党が現場の労働運動などの声を無視して、抜本的な改正案を用意せず、さらには他党との政策協議を行わずに単独で改正案を提出する構えさえ見せたことにある。昨日、4野党の国対委員長会談で民主党案の単独提出は見送られ(毎日新聞2008/06/04朝刊)、野党の政策協議の継続は確認されたが(しんぶん赤旗2008/06/04)、改めて民主党の貧困問題へのやる気の欠如が顕わになったと言えよう。

 民主党を除く共産・社民・国民新各党の改正案は微妙な異同はあるが、日雇派遣を原則禁止すること、マージン率を制限すること、登録型派遣を一部の専門業種に限定すること、常用代替機能を防止すること、派遣先の直接雇用義務を強化する(みなし規定など)こと、社会保障を拡充することなどの点でおおよその一致は得られていた。実はこれでも法律など端から守る気のない企業に実際に履行させられるか疑問が出ていたほどだが、派遣法を1999年以前に引き戻すという方向性は明らかだった。
 ところが、民主党案は登録型派遣の禁止も、対象業務の制限もなく、派遣労働の常用代替機能を継続するものだった。4月17日に国会内で行われた「さあつくろう派遣法改正案、各党の改正案を聞く院内集会」で、民主党のネクストキャビネットの厚生労働担当である山田正彦衆院議員は民主党内に「厳しすぎるとの声もある中、ここまでなんとかまとめた。賛否がある、なんとか調整を取って法案を出そうとしている」と述べていたが、要するに民主党にはそもそも派遣労働の全面見直しに抵抗する議員が少なからずいて、まともな改正案をまとめることができないのである。
 あえて忖度すれば、民主党は野党共闘による法案の完成度よりも、自民・公明両党との共同提出を模索しているのだろう。そのために玉虫色の改正案でお茶を濁しているのだ。確かに野党提案は黙っていれば衆院で否決され成立しない。しかし、はっきりと抜本的改正の姿勢を見せることで、政府の無策を際立たせ、現在進んでいる厚生労働省の立法作業にも影響を与えることができる。むしろ先に器を用意して政府・与党の方が歩み寄らざるをえない状況を作らねばならない。だいたい規制緩和と抱き合わせの小細工を施した改正を望む労働者などいないのだ。

 派遣業界が与野党の議員へのロビー活動を強化しているようなので、その影響もあろうが、より本質的な問題として民主党が依然として規制緩和・市場開放路線と決別していないことを指摘しなければならない。すでに昨年の最低賃金法改正や労働契約法での「裏切り」で、この党の「生活第一」が口先だけであることは露呈していたが、一連の労働者派遣法改正を巡る動揺はますます新自由主義路線との親和性を疑わせるに十分である。
 非正規雇用比率の高い「氷河期世代」における共産党支持率の急増や、じわじわと広がる「蟹工船」ブーム(「ブーム」と言うにはあまりに悲痛で、80年も前の「敗者」の文学に縋らざるを得ないのは不幸なことだと私は考えているが)の背景には、劣悪な労働環境を何とかして欲しいという人々の悲鳴がある。民主党が本当に貧困問題を解決する気があるのならば、こうした声を無視してはならない。次期総選挙を「政権選択選挙」といくらうそぶいても、非人間的な雇用待遇に苦しむ人々は民主党の欺瞞を見抜いて決して支持することはないだろう。この際、はっきりと労働者の側に立ち位置を移すこと、共産党や社民党に歩み寄ることが民主党には求められている。

 そう言いながらも私はこの党が手紙やメールやファックスを出したくらいでは変わることがないことを知っている。政治献金をくれるわけでもない貧しい労働者群より、潤沢な利権を望める資本サイドの方を選ぶことも知っている。与党の「敵失」でしか何もできないことも知っている。土壇場での腰の弱さはもはや周知の通り。
 民主党よ、ここまで言われて悔しいと思ったら、貧しき者の声を聞いて、自己変革を遂げてみろ!

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労働者派遣法改正問題リンク集
4・17院内集会での各党の労働者派遣法改正案 – mahounofuefukiのメモ
http://d.hatena.ne.jp/mahounofuefuki/20080604/1212531786
by mahounofuefuki | 2008-06-04 23:21


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